小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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ギラギラと光る太陽が、容赦なく身体を照りつけて、滝のように溢れ出る汗が身体を伝っていく。
その感覚に顔をしかめ、二宮は忌々しそうに空を睨んだ。
今日は終業式で、明日から夏休みだ。
しかし、しょっぱなからこんな暑いんじゃ先行きが不安でしょうがない。
「あ、にの!わりぃ、遅れた」
「遅ぇよ、お前。暑くて死ぬかと思った」
そう言って、目の前の自分より背が高く無駄にスタイルの良い少年を睨み付ける。
「うひゃひゃっ。大げさだな、にのは。こんくらいじゃ死なねぇだろ」
そんな二宮を大きく笑い飛ばした少年も、滝のように汗をかいていた。
「俺は相葉さんと違ってデリケートに出来てんの」
「デリケートねぇ・・・。それにしてもあちー・・・気持ちわりぃし、ベトベトする・・・」
二宮の言葉を軽く流しながらもやはり暑いようで、制服の胸元を大きく開けパタパタと前後に振って涼を求める。
相葉の胸元を流れる汗と、暑さで火照った頬、潤んだ瞳が二宮を妙な気分にさせる。
「あー、早く帰ろうっ。帰ってシャワー浴びて、うみ!!海行こうぜっ」
急にテンション上げて叫んだ相葉に、二宮は鬱陶しそうな顔をした。
「やだよ、面倒くさい。帰ったら家で、まったりゲームしたい」
「なに、じじくせーこと言ってんだよ!夏だぞ?せっかくの夏休みなんだから、遊ぶだろー?普通」
「普通じゃなくていいよ。俺、暑いの苦手なの」
「もう、にのは暑いのも寒いのも苦手じゃん。良いから!今日は海!!明日はゲームでも良いからさ!」
「・・・分かったよ。とにかく帰ろうぜ・・・・暑くて死にそう」
「もう、お前そればっか!!ま、いいや。行こう!!」
2人で自転車置き場へと向かう。
「・・・で、何でお前は俺の後ろにいるわけ?」
何故か二宮の自転車の後ろに座っている相葉に顔を顰める。
「えへ」
「えへ・・・じゃねぇだろっ!お前自分のチャリはどうしたんだよ!?」
「朝、壊れてたからさ今日は徒歩通したの。ほら、早く出発!!」
「代われよ、お前の方が重いんだからさっ!」
「嫌だよ、にのの自転車低いもん」
おれには合わない。
カチン。
「お前なぁ・・・振り落とす!!」
「うわぁっ!ちょ、に、にの!危ねぇっ。うひゃひゃっ!!」
勢いよく漕ぎ出して左右に蛇行する二宮の運転に、最初は焦っていた相葉だが、すぐに楽しみ始めた。
振り落とされないように、二宮の腰にしっかりと腕を回し、しがみついている。
「ちょっと、相葉さん暑いんだけど。あんまくっつくなよ」
この暑さに加えて、自転車を全力で漕いだ二宮の体からは汗が吹き出て流れていく。
「いいじゃん、落ちそうなんだよ。にの、すっげぇ汗だね。汗くさい」
「うるさいよっ。あんただって変わんないでしょ?」
「そりゃそうだ。うひゃひゃっ」
そう言って更に二宮に密着する相葉。
相葉とくっついているところから、彼の体温と汗が二宮に伝わる。
後ろにいる彼を見ると、濡れた髪から首筋へと汗が流れ、太陽に照らされてキラキラしている。
二宮は夏の暑さではない、別の熱さが体内を駆け巡るのを感じた。
「ねえ、相葉さん・・・」
「んー、なにぃ?」
「もうさ、あっついしさー、汗臭いしさー、どうにもなんないからさ・・・・」
「うん?」
「やらしてくんない?」
「はぁ!?」
相葉の大声と共に二宮の後頭部に痛みが走った。
「いてっ!何だよ殴るなよ、痛いな」
「にのがへんな事言うからだろ!?なんだよ、やらせろって。おれ、女じゃねぇし。そういうことは女に言えよ」
「女なんて、興味ねぇもん」
誰が女とやりたたいって言ったよ。
俺はあんたとやりたいんだよ。
もう、ずっとずっと昔から。
二宮は再びペダルを全力で漕ぎ始めた。
「わっ!」
急な加速に後ろへ倒れそうになり、相葉は慌てて二宮にしがみつく。
「ちょ、にの!」
「俺は、あんたとやりたいのーっ!!」
「ばっ、声でかいって!!」
二宮にしがみつきながら、相葉が二宮の体を揺さぶった。
自転車がバランスを崩しそうになる。
「おい、あいばっ!ちょっとやめろよ、コケるっ!!」
後ろで暴れる相葉のおかげで何度も転びそうになりながら、2人を乗せた自転車はフラフラと進んでいく。
「うひゃひゃっ、にの!頑張れ!!転ぶな!」
先ほどのやり取りなどすっかり忘れてはしゃぐ相葉。
ホント、人の気も知らないで気楽に笑っちゃって。
憎たらしいヤツだよ、大好きだけど。
しばらくは、今日の熱と感触で我慢しますか。
お前が俺を欲しいと思うまでは。
ずっと我慢してきたんだから、まだまだ我慢できるさ。
青春って甘酸っぱいね。
二宮は照りつける太陽を睨みあげ、自転車を漕ぐ足に力を込めた。
終わり
その感覚に顔をしかめ、二宮は忌々しそうに空を睨んだ。
今日は終業式で、明日から夏休みだ。
しかし、しょっぱなからこんな暑いんじゃ先行きが不安でしょうがない。
「あ、にの!わりぃ、遅れた」
「遅ぇよ、お前。暑くて死ぬかと思った」
そう言って、目の前の自分より背が高く無駄にスタイルの良い少年を睨み付ける。
「うひゃひゃっ。大げさだな、にのは。こんくらいじゃ死なねぇだろ」
そんな二宮を大きく笑い飛ばした少年も、滝のように汗をかいていた。
「俺は相葉さんと違ってデリケートに出来てんの」
「デリケートねぇ・・・。それにしてもあちー・・・気持ちわりぃし、ベトベトする・・・」
二宮の言葉を軽く流しながらもやはり暑いようで、制服の胸元を大きく開けパタパタと前後に振って涼を求める。
相葉の胸元を流れる汗と、暑さで火照った頬、潤んだ瞳が二宮を妙な気分にさせる。
「あー、早く帰ろうっ。帰ってシャワー浴びて、うみ!!海行こうぜっ」
急にテンション上げて叫んだ相葉に、二宮は鬱陶しそうな顔をした。
「やだよ、面倒くさい。帰ったら家で、まったりゲームしたい」
「なに、じじくせーこと言ってんだよ!夏だぞ?せっかくの夏休みなんだから、遊ぶだろー?普通」
「普通じゃなくていいよ。俺、暑いの苦手なの」
「もう、にのは暑いのも寒いのも苦手じゃん。良いから!今日は海!!明日はゲームでも良いからさ!」
「・・・分かったよ。とにかく帰ろうぜ・・・・暑くて死にそう」
「もう、お前そればっか!!ま、いいや。行こう!!」
2人で自転車置き場へと向かう。
「・・・で、何でお前は俺の後ろにいるわけ?」
何故か二宮の自転車の後ろに座っている相葉に顔を顰める。
「えへ」
「えへ・・・じゃねぇだろっ!お前自分のチャリはどうしたんだよ!?」
「朝、壊れてたからさ今日は徒歩通したの。ほら、早く出発!!」
「代われよ、お前の方が重いんだからさっ!」
「嫌だよ、にのの自転車低いもん」
おれには合わない。
カチン。
「お前なぁ・・・振り落とす!!」
「うわぁっ!ちょ、に、にの!危ねぇっ。うひゃひゃっ!!」
勢いよく漕ぎ出して左右に蛇行する二宮の運転に、最初は焦っていた相葉だが、すぐに楽しみ始めた。
振り落とされないように、二宮の腰にしっかりと腕を回し、しがみついている。
「ちょっと、相葉さん暑いんだけど。あんまくっつくなよ」
この暑さに加えて、自転車を全力で漕いだ二宮の体からは汗が吹き出て流れていく。
「いいじゃん、落ちそうなんだよ。にの、すっげぇ汗だね。汗くさい」
「うるさいよっ。あんただって変わんないでしょ?」
「そりゃそうだ。うひゃひゃっ」
そう言って更に二宮に密着する相葉。
相葉とくっついているところから、彼の体温と汗が二宮に伝わる。
後ろにいる彼を見ると、濡れた髪から首筋へと汗が流れ、太陽に照らされてキラキラしている。
二宮は夏の暑さではない、別の熱さが体内を駆け巡るのを感じた。
「ねえ、相葉さん・・・」
「んー、なにぃ?」
「もうさ、あっついしさー、汗臭いしさー、どうにもなんないからさ・・・・」
「うん?」
「やらしてくんない?」
「はぁ!?」
相葉の大声と共に二宮の後頭部に痛みが走った。
「いてっ!何だよ殴るなよ、痛いな」
「にのがへんな事言うからだろ!?なんだよ、やらせろって。おれ、女じゃねぇし。そういうことは女に言えよ」
「女なんて、興味ねぇもん」
誰が女とやりたたいって言ったよ。
俺はあんたとやりたいんだよ。
もう、ずっとずっと昔から。
二宮は再びペダルを全力で漕ぎ始めた。
「わっ!」
急な加速に後ろへ倒れそうになり、相葉は慌てて二宮にしがみつく。
「ちょ、にの!」
「俺は、あんたとやりたいのーっ!!」
「ばっ、声でかいって!!」
二宮にしがみつきながら、相葉が二宮の体を揺さぶった。
自転車がバランスを崩しそうになる。
「おい、あいばっ!ちょっとやめろよ、コケるっ!!」
後ろで暴れる相葉のおかげで何度も転びそうになりながら、2人を乗せた自転車はフラフラと進んでいく。
「うひゃひゃっ、にの!頑張れ!!転ぶな!」
先ほどのやり取りなどすっかり忘れてはしゃぐ相葉。
ホント、人の気も知らないで気楽に笑っちゃって。
憎たらしいヤツだよ、大好きだけど。
しばらくは、今日の熱と感触で我慢しますか。
お前が俺を欲しいと思うまでは。
ずっと我慢してきたんだから、まだまだ我慢できるさ。
青春って甘酸っぱいね。
二宮は照りつける太陽を睨みあげ、自転車を漕ぐ足に力を込めた。
終わり
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コンサートも無事終わり、控え室の椅子に座って喉を潤す。
今日も大いに盛り上がったし良い出来だったと、ひとり満足感に浸っていた二宮の耳に聞き慣れた奇声が聞える。
「ひゃぁっ!!なにこれっ!?うひゃひゃっ!!」
「まぁた、あいつは・・・・」
その声のする方向に視線を向け、苦笑する。
コンサートの後は二宮だってテンションが上がっているのだから、彼に至っては当然の事だろう。
テンションを一気に上げることが出来るのが彼の特技だから。
それにしても・・・
「うるさいなぁ、相葉さん」
「うひゃひゃっ!いたい!いたい・・・うひゃぁ!!」
一体何してんだよ?
まぁ、シャワーに入ったのは見ていたし、シャワーとか風呂とかでテンション上げるのもいつもの事だけど。
痛いって・・・何だ?
疑問に思いながらも、自分も汗を流そうと隣のシャワールームに入る。
汗でベタベタと張り付く上着を脱ぎ捨て、ズボンも脱いで下着一枚になったとき。
バンッ!!
急に扉が開いたかと思えば、入ってきたのは・・・
「あ、あいばさんっ!?」
「にの!!にの!!シャワー!!うひゃひゃっ!」
「な、何!?どうしたの?あんた、落ち着いて話なさいよっ」
「うひゃひゃっ、シャワー!シャワー!!」
ダメだ・・・・テンションMAXで聞いちゃいない。
しかもあんた、全裸なんですけど・・・・。
「にのっ!早く、シャワー!!」
一体シャワーが何なのか、全くもって理解できない二宮に痺れを切らした相葉が、シャワーのコックに手をかけた。
「ばっ!ちょ、待てっ!!」
止めようとした時にはすでに遅し。
勢いよくシャワーが飛び出した。
「うわぁっ!ちょっ、痛い、痛いっ!!」
「うひゃひゃっ・・・にの、おもしれぇ!!ひゃはっ」
四方八方についているシャワーのヘッドから、これでもかというほどお湯が二宮の全身に当たる。
「痛いっ!!ちょっと、あいばっ!!止めろってっ!!」
二宮の悲痛な叫びに、ようやく相葉がシャワーを止めた。
「うひゃひゃ、痛いだろ?おれもびっくりしたもん。でも、にの超おもしれぇ」
そう言って笑う相葉を、恨めしそうに睨み付けた。
「勢いよく出しすぎなんだよ。だから痛いんだろ!」
二宮は履いたままびしょ濡れになっているパンツのウエストを引っ張った。
「もう、あんた・・・これ、どうしてくれんの?」
「ごめん、ごめん。替えのパンツあるでしょ?」
「・・・最後の1枚だったんだよ。あー・・・俺、今から東京戻ってドラマの撮影なのに・・・」
自分のパンツを見て、ため息を吐く二宮。
それにしてもシャワーの前で、全裸男とパンツ1枚の男が立ち尽くしてるって、何て光景だよ。
「ごめんねぇ。ついテンション上がっちゃって・・・あ、そうだ!俺ので良ければあるけど?」
相葉の言葉に二宮が顔を上げる。
「あんたのパンツ貸してくれんの?」
「嫌じゃなければ・・・」
「・・・・・」
「あ、やっぱ嫌?じゃぁ・・翔ちゃんの借りてこようか?」
翔ちゃんならいっぱい持ってるでしょ。
「絶対嫌!!!」
「えー・・・じゃあ、コンビニ行って来ようか?」
おれ、買ってくるよ。
出て行こうとする相葉を二宮が引き止めた。
「いいですよ、そこまでしなくて・・・あんたの借ります」
「え?嫌じゃなかったの?」
「誰が嫌って言ったんですか?ちょっと考えてただけですよ」
あんたのパンツ履いてドラマ撮影かぁ・・・悪くない。
いや、むしろ・・・良い。
二宮が何を考えているのか、露と知らない相葉は自分の鞄からパンツを取り出して二宮に差し出す。
「はい、これ」
「・・・・」
黙ったまま差し出されたパンツをじっと見つめる二宮。
「にの?あ、大丈夫だよ新品だから!!」
二宮が履くのを迷っていると勘違いした相葉が、心配しないでと念を押す。
「・・・・何だ、残念」
「へ?」
「いつも履いてるヤツでも良かったのに・・・・むしろ、その方が萌える・・・」
一瞬二宮の言ってる意味が分からず呆けていた相葉が、それを理解し真っ赤になる。
「なっ!!ばかな事言ってんじゃねぇよっ!はやく入れ!ばかにのっ!!」
二宮にパンツを押し付けると、乱暴にシャワールームへ押し込む。
「ちょ、押すなよ。何?照れてんの?今更だろ?」
「うるさいっ、もう入れってば!!」
「分かったよ・・・・よっと!!」
素直にシャワールームに入ったと思ったら、相葉の腕を掴み一緒にシャワールームに引っ張り込む。
「うわっ!ちょっと、にの!?」
「あんたも、早くシャワーして服着なさいよ。また風邪引くでしょ!」
「お、おれは隣に行くから・・・うひゃ!」
出て行こうとする相葉に、二宮はおもいっきりシャワーを掛けた。
「ちょ、にのっ、やめて」
「良いから!おとなしくしてなさい!!ほら、目ぇ瞑って!」
相葉の顔めがけてシャワーを向ける。
「わっぷ、ん・・・・ぷはっ!!にのっ、わかったから・・・やめてっ」
「分かればよろしい。はい、身体洗うよ?」
「はぁい・・・ねぇ、にの・・・シャワーだけだよね・・・?」
「んふふ・・・、何か期待してるの?」
「ち、違うよ!」
「まぁ・・・そうしたいのは山々だけど、ツアーも続くし、舞台稽古もあるからね。我慢しますよ、今は」
そう言って二宮は相葉の身体を洗い始める。
「うひゃっ、くすぐったいよぉ。おれも洗う!!」
相葉も負けじと二宮の身体に触れた。
「ばっ!あんた、どこ触ってんだよっ!!襲うぞ、馬鹿!」
「きゃぁ!にの、こわい。うひゃひゃっ」
結局2人でシャワーを浴びた。
先に上がった二宮は服を着て、ドライヤーで髪を乾かしていた。
「ふぃー、楽しかったねぇ」
「あんたねぇ、シャワーは楽しむもんじゃないんだよ。汗を流して身体を癒すもんだろ、普通」
「そうだけど、汗が流せて癒されて、それで楽しかったらもっと良いでしょ?」
よく分からない理屈だが、まぁ深く突っ込むのはよしておいた。
ここで突っ込むとムキになって反論してくるから。
裸なのも忘れて。
二宮が何も言わずに髪を乾かしていると、相葉が大声を出した。
「あーっ!!」
「何よ?あんた、うるさい」
「だっ、に、ぱ・・・・」
「はぁ?何だよ、だにぱって?」
「に、にの!お、お・・・おれのぱんつ!!」
「パンツ?さっきあんたが貸してくれたじゃん。遠慮なく履いてるよ?」
「ちがう!そうじゃなくて・・・おれの・・・ぱんつぅ」
「何泣きそうになってんの。そこにあるじゃない」
「だって・・・これ新品だよぉ。ってことはさぁ、にのが履いたのって・・・おれの・・・」
置いてあったパンツは、先ほど二宮に渡したはずの新品のパンツ。
ということは、二宮がすでに履いてしまったのは・・・。
「にのの履いたの・・・おれの使い古しのぱんつだよぉ・・・」
「え?そうですか?気付かなかったなぁ。」
慌てる様子もなく、しれっと答える二宮。
「うう・・・恥ずかしい・・・」
「何言ってんの、別にさっきまで履いてたパンツじゃあるまいし。こっちだって洗濯してあるんでしょ?」
二宮は自分のはいたパンツを指さす。
「そうだけどぉ・・・」
「何の問題もないじゃない。そんなことどうでも良いから、早く服を着なさいって。せっかく汗流してさっぱりしたのに、今度は湯冷めしちゃうでしょうが」
「う、うん・・・」
泣きそうな顔で、相葉は服を着始める。
のそのそと服を着ている相葉の横で、口元を吊り上げる二宮の姿。
つまりは確信犯。
本当は脱いだヤツでもいいんだけど。
そんなことしたら相葉さん、卒倒しちゃうからね。
しばらくお預け覚悟してるんだから、これくらい良いでしょ?
「さて、はりきって撮影してくるかな!!じゃあね、相葉さん、お先に!」
項垂れて服を着ていた相葉に、掠めるようなキスをした。
おわり
今日も大いに盛り上がったし良い出来だったと、ひとり満足感に浸っていた二宮の耳に聞き慣れた奇声が聞える。
「ひゃぁっ!!なにこれっ!?うひゃひゃっ!!」
「まぁた、あいつは・・・・」
その声のする方向に視線を向け、苦笑する。
コンサートの後は二宮だってテンションが上がっているのだから、彼に至っては当然の事だろう。
テンションを一気に上げることが出来るのが彼の特技だから。
それにしても・・・
「うるさいなぁ、相葉さん」
「うひゃひゃっ!いたい!いたい・・・うひゃぁ!!」
一体何してんだよ?
まぁ、シャワーに入ったのは見ていたし、シャワーとか風呂とかでテンション上げるのもいつもの事だけど。
痛いって・・・何だ?
疑問に思いながらも、自分も汗を流そうと隣のシャワールームに入る。
汗でベタベタと張り付く上着を脱ぎ捨て、ズボンも脱いで下着一枚になったとき。
バンッ!!
急に扉が開いたかと思えば、入ってきたのは・・・
「あ、あいばさんっ!?」
「にの!!にの!!シャワー!!うひゃひゃっ!」
「な、何!?どうしたの?あんた、落ち着いて話なさいよっ」
「うひゃひゃっ、シャワー!シャワー!!」
ダメだ・・・・テンションMAXで聞いちゃいない。
しかもあんた、全裸なんですけど・・・・。
「にのっ!早く、シャワー!!」
一体シャワーが何なのか、全くもって理解できない二宮に痺れを切らした相葉が、シャワーのコックに手をかけた。
「ばっ!ちょ、待てっ!!」
止めようとした時にはすでに遅し。
勢いよくシャワーが飛び出した。
「うわぁっ!ちょっ、痛い、痛いっ!!」
「うひゃひゃっ・・・にの、おもしれぇ!!ひゃはっ」
四方八方についているシャワーのヘッドから、これでもかというほどお湯が二宮の全身に当たる。
「痛いっ!!ちょっと、あいばっ!!止めろってっ!!」
二宮の悲痛な叫びに、ようやく相葉がシャワーを止めた。
「うひゃひゃ、痛いだろ?おれもびっくりしたもん。でも、にの超おもしれぇ」
そう言って笑う相葉を、恨めしそうに睨み付けた。
「勢いよく出しすぎなんだよ。だから痛いんだろ!」
二宮は履いたままびしょ濡れになっているパンツのウエストを引っ張った。
「もう、あんた・・・これ、どうしてくれんの?」
「ごめん、ごめん。替えのパンツあるでしょ?」
「・・・最後の1枚だったんだよ。あー・・・俺、今から東京戻ってドラマの撮影なのに・・・」
自分のパンツを見て、ため息を吐く二宮。
それにしてもシャワーの前で、全裸男とパンツ1枚の男が立ち尽くしてるって、何て光景だよ。
「ごめんねぇ。ついテンション上がっちゃって・・・あ、そうだ!俺ので良ければあるけど?」
相葉の言葉に二宮が顔を上げる。
「あんたのパンツ貸してくれんの?」
「嫌じゃなければ・・・」
「・・・・・」
「あ、やっぱ嫌?じゃぁ・・翔ちゃんの借りてこようか?」
翔ちゃんならいっぱい持ってるでしょ。
「絶対嫌!!!」
「えー・・・じゃあ、コンビニ行って来ようか?」
おれ、買ってくるよ。
出て行こうとする相葉を二宮が引き止めた。
「いいですよ、そこまでしなくて・・・あんたの借ります」
「え?嫌じゃなかったの?」
「誰が嫌って言ったんですか?ちょっと考えてただけですよ」
あんたのパンツ履いてドラマ撮影かぁ・・・悪くない。
いや、むしろ・・・良い。
二宮が何を考えているのか、露と知らない相葉は自分の鞄からパンツを取り出して二宮に差し出す。
「はい、これ」
「・・・・」
黙ったまま差し出されたパンツをじっと見つめる二宮。
「にの?あ、大丈夫だよ新品だから!!」
二宮が履くのを迷っていると勘違いした相葉が、心配しないでと念を押す。
「・・・・何だ、残念」
「へ?」
「いつも履いてるヤツでも良かったのに・・・・むしろ、その方が萌える・・・」
一瞬二宮の言ってる意味が分からず呆けていた相葉が、それを理解し真っ赤になる。
「なっ!!ばかな事言ってんじゃねぇよっ!はやく入れ!ばかにのっ!!」
二宮にパンツを押し付けると、乱暴にシャワールームへ押し込む。
「ちょ、押すなよ。何?照れてんの?今更だろ?」
「うるさいっ、もう入れってば!!」
「分かったよ・・・・よっと!!」
素直にシャワールームに入ったと思ったら、相葉の腕を掴み一緒にシャワールームに引っ張り込む。
「うわっ!ちょっと、にの!?」
「あんたも、早くシャワーして服着なさいよ。また風邪引くでしょ!」
「お、おれは隣に行くから・・・うひゃ!」
出て行こうとする相葉に、二宮はおもいっきりシャワーを掛けた。
「ちょ、にのっ、やめて」
「良いから!おとなしくしてなさい!!ほら、目ぇ瞑って!」
相葉の顔めがけてシャワーを向ける。
「わっぷ、ん・・・・ぷはっ!!にのっ、わかったから・・・やめてっ」
「分かればよろしい。はい、身体洗うよ?」
「はぁい・・・ねぇ、にの・・・シャワーだけだよね・・・?」
「んふふ・・・、何か期待してるの?」
「ち、違うよ!」
「まぁ・・・そうしたいのは山々だけど、ツアーも続くし、舞台稽古もあるからね。我慢しますよ、今は」
そう言って二宮は相葉の身体を洗い始める。
「うひゃっ、くすぐったいよぉ。おれも洗う!!」
相葉も負けじと二宮の身体に触れた。
「ばっ!あんた、どこ触ってんだよっ!!襲うぞ、馬鹿!」
「きゃぁ!にの、こわい。うひゃひゃっ」
結局2人でシャワーを浴びた。
先に上がった二宮は服を着て、ドライヤーで髪を乾かしていた。
「ふぃー、楽しかったねぇ」
「あんたねぇ、シャワーは楽しむもんじゃないんだよ。汗を流して身体を癒すもんだろ、普通」
「そうだけど、汗が流せて癒されて、それで楽しかったらもっと良いでしょ?」
よく分からない理屈だが、まぁ深く突っ込むのはよしておいた。
ここで突っ込むとムキになって反論してくるから。
裸なのも忘れて。
二宮が何も言わずに髪を乾かしていると、相葉が大声を出した。
「あーっ!!」
「何よ?あんた、うるさい」
「だっ、に、ぱ・・・・」
「はぁ?何だよ、だにぱって?」
「に、にの!お、お・・・おれのぱんつ!!」
「パンツ?さっきあんたが貸してくれたじゃん。遠慮なく履いてるよ?」
「ちがう!そうじゃなくて・・・おれの・・・ぱんつぅ」
「何泣きそうになってんの。そこにあるじゃない」
「だって・・・これ新品だよぉ。ってことはさぁ、にのが履いたのって・・・おれの・・・」
置いてあったパンツは、先ほど二宮に渡したはずの新品のパンツ。
ということは、二宮がすでに履いてしまったのは・・・。
「にのの履いたの・・・おれの使い古しのぱんつだよぉ・・・」
「え?そうですか?気付かなかったなぁ。」
慌てる様子もなく、しれっと答える二宮。
「うう・・・恥ずかしい・・・」
「何言ってんの、別にさっきまで履いてたパンツじゃあるまいし。こっちだって洗濯してあるんでしょ?」
二宮は自分のはいたパンツを指さす。
「そうだけどぉ・・・」
「何の問題もないじゃない。そんなことどうでも良いから、早く服を着なさいって。せっかく汗流してさっぱりしたのに、今度は湯冷めしちゃうでしょうが」
「う、うん・・・」
泣きそうな顔で、相葉は服を着始める。
のそのそと服を着ている相葉の横で、口元を吊り上げる二宮の姿。
つまりは確信犯。
本当は脱いだヤツでもいいんだけど。
そんなことしたら相葉さん、卒倒しちゃうからね。
しばらくお預け覚悟してるんだから、これくらい良いでしょ?
「さて、はりきって撮影してくるかな!!じゃあね、相葉さん、お先に!」
項垂れて服を着ていた相葉に、掠めるようなキスをした。
おわり
「相葉さん・・・・ごめん。俺たち、別れよう・・・」
「にの・・・どうして?おれ、なんかした?」
「いいえ。相葉さんは何も悪くない・・・ごめん。俺が駄目なんだ」
二宮は辛そうに目を伏せた。
「いやだよ・・・別れたくないよ。おれ、わがまま言わないから、嫌がることはしないから・・・だからお願い、そばにいさせてよぉ・・・」
二宮の手を握り締めて、必死に訴える相葉。
その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
「・・・ごめん。俺たちはこうなる運命なんだよ、相葉さん。幸せになって」
相葉が握る手に自分の手を重ね、微笑むと相葉の手から力が抜けた。
相葉の手から二宮の温もりがするりと抜ける。
二宮が相葉に背を向けた。
「いやぁ・・・!お願い、にのぉ・・・お願いだから、おれから、にの取らないでよぉ・・・」
二宮の背中に、悲痛な声が届く。
二宮は一度固く目を閉じ、振り切るように歩き出した。
その場に立ち尽くす相葉。
「にのぉ・・・」
再び2人の道が重なる事は決してない・・・・・「あのさぁ、お前らいい加減にしてくんない?」
その一部始終を見ていた松本は不機嫌そうに顔をしかめた。
「高々、2時間くらい離れるだけで今生の別れみたいに言いやがって。リーダーも何やってんだよ!変なナレーションつけてんじゃねぇよ。何が『再び2人の道が重なる事はない』だよっ!
そう、今までのナレーションはリーダーのものだった。
「何だよぉ、俺はニノに言われたとおり読んだだけだぞ?」
「だから、そんなことに参加すんなって言ってんだよ!!お前らも馬鹿な事してねぇでさっさと乗れ!乗り遅れんだろうが!!」
ついに松本がキレた。
これから次のコンサート地である仙台へ新幹線で移動するのだが、その新幹線での座席が離れたのが事の発端だった。
座席を決めて、今から乗り込もうというところでの寸劇だ。
「馬鹿なことって何ですか!?俺たちにとったら、本当に辛い別れなんです!潤君には分からないでしょうね!
なんせ、相葉さんの隣に座る立場ですから?」
二宮が松本に咬みついた。
結局はソコなのだ。
「あのなぁ・・・お前を相葉ちゃんの隣にすると、所構わずバカップル振りを発揮するからだろ?俺はただ、静かに穏やかに移動したいんだよ!!」
「ほぉ・・・穏やかにねぇ・・・。じゃあ、あなたはあの人をあのままにしておけるんですか?」
「うっう・・・にのぉ、いやだよぉ」
いまだに立ち直れず泣き出しそうな相葉を櫻井が一生懸命慰めていた。
「相葉ちゃん、そんな落ち込むなよ。2時間なんてあっという間だよ?向こう着いたら、ニノとまたより戻せるからさ・・・な?」
「翔ちゃぁん・・・・」
「何で・・・・あんなになってんだよ?」
本当に数時間離れるだけだ。
何日もあえない事だってあるのに。
「どうやら、演じてるうちにホントに別れると思っちゃったみたいだぞ。感情移入ってヤツだな」
大野が困ったように言う。
「どうしてくれるんですか?」
二宮が松本に詰め寄る。
「どうするも・・・お前らがそんなことしなきゃ良かっただけじゃねぇか!!」
「なぁ、まつもっさん。もうさ、隣同士にしてやれよ。収まりつかねぇよ。それにこのままじゃ、コンサート本番で不細工相葉の出来上がりだぜ?」
相葉の頭を撫でながら、櫻井が言う。
「ぶ、ぶさいく言うなぁ・・・」
「ああ、ごめんごめん」
「ちょっと、翔ちゃん。相葉さんから離れてくれます?ほら、相葉さんおいで?」
「にぃのぉ・・・・」
とてとてと二宮に近づき抱きつく。
肩口に顔を埋めて、すり寄せる。
「大丈夫ですよ、俺たちは絶対別れませんから。相葉さんが嫌って言っても離しません」
「ほんとぉ?」
「もちろん。俺、あんたが大好きなんだから」
「ふふっ、おれもぉ。にのすき!」
再びきつく抱き合う。
言っておくが、駅という公衆の面前だ。
「もうさ、隣同士にしてやれよ。その方が後々面倒がないぜ?」
櫻井の言葉に松本は渋々了承する。
結局は相葉の涙に弱いのだ。
「・・・・分かったよ。その代わり、少しでも変なことがあれば、即離すかんな?」
二宮を睨み、忠告した。
「はいはい。相葉さん、俺たち一緒にいられるって!」
「うん!良かったね、にの!松潤ありがと!大好き!!」
「ああ・・・」
そんなこんなで、現在お隣同士のバカップル。
二宮としては、いちゃいちゃしたいのだが、後ろから痛いほどのオーラを感じるので、ここはおとなしくしておこうと思う。
それでも、2人一緒なら幸せなのだ。
愛しい人の真剣な表情を最後に、二宮は瞼を閉じた。
おわり
「にの・・・どうして?おれ、なんかした?」
「いいえ。相葉さんは何も悪くない・・・ごめん。俺が駄目なんだ」
二宮は辛そうに目を伏せた。
「いやだよ・・・別れたくないよ。おれ、わがまま言わないから、嫌がることはしないから・・・だからお願い、そばにいさせてよぉ・・・」
二宮の手を握り締めて、必死に訴える相葉。
その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
「・・・ごめん。俺たちはこうなる運命なんだよ、相葉さん。幸せになって」
相葉が握る手に自分の手を重ね、微笑むと相葉の手から力が抜けた。
相葉の手から二宮の温もりがするりと抜ける。
二宮が相葉に背を向けた。
「いやぁ・・・!お願い、にのぉ・・・お願いだから、おれから、にの取らないでよぉ・・・」
二宮の背中に、悲痛な声が届く。
二宮は一度固く目を閉じ、振り切るように歩き出した。
その場に立ち尽くす相葉。
「にのぉ・・・」
再び2人の道が重なる事は決してない・・・・・「あのさぁ、お前らいい加減にしてくんない?」
その一部始終を見ていた松本は不機嫌そうに顔をしかめた。
「高々、2時間くらい離れるだけで今生の別れみたいに言いやがって。リーダーも何やってんだよ!変なナレーションつけてんじゃねぇよ。何が『再び2人の道が重なる事はない』だよっ!
そう、今までのナレーションはリーダーのものだった。
「何だよぉ、俺はニノに言われたとおり読んだだけだぞ?」
「だから、そんなことに参加すんなって言ってんだよ!!お前らも馬鹿な事してねぇでさっさと乗れ!乗り遅れんだろうが!!」
ついに松本がキレた。
これから次のコンサート地である仙台へ新幹線で移動するのだが、その新幹線での座席が離れたのが事の発端だった。
座席を決めて、今から乗り込もうというところでの寸劇だ。
「馬鹿なことって何ですか!?俺たちにとったら、本当に辛い別れなんです!潤君には分からないでしょうね!
なんせ、相葉さんの隣に座る立場ですから?」
二宮が松本に咬みついた。
結局はソコなのだ。
「あのなぁ・・・お前を相葉ちゃんの隣にすると、所構わずバカップル振りを発揮するからだろ?俺はただ、静かに穏やかに移動したいんだよ!!」
「ほぉ・・・穏やかにねぇ・・・。じゃあ、あなたはあの人をあのままにしておけるんですか?」
「うっう・・・にのぉ、いやだよぉ」
いまだに立ち直れず泣き出しそうな相葉を櫻井が一生懸命慰めていた。
「相葉ちゃん、そんな落ち込むなよ。2時間なんてあっという間だよ?向こう着いたら、ニノとまたより戻せるからさ・・・な?」
「翔ちゃぁん・・・・」
「何で・・・・あんなになってんだよ?」
本当に数時間離れるだけだ。
何日もあえない事だってあるのに。
「どうやら、演じてるうちにホントに別れると思っちゃったみたいだぞ。感情移入ってヤツだな」
大野が困ったように言う。
「どうしてくれるんですか?」
二宮が松本に詰め寄る。
「どうするも・・・お前らがそんなことしなきゃ良かっただけじゃねぇか!!」
「なぁ、まつもっさん。もうさ、隣同士にしてやれよ。収まりつかねぇよ。それにこのままじゃ、コンサート本番で不細工相葉の出来上がりだぜ?」
相葉の頭を撫でながら、櫻井が言う。
「ぶ、ぶさいく言うなぁ・・・」
「ああ、ごめんごめん」
「ちょっと、翔ちゃん。相葉さんから離れてくれます?ほら、相葉さんおいで?」
「にぃのぉ・・・・」
とてとてと二宮に近づき抱きつく。
肩口に顔を埋めて、すり寄せる。
「大丈夫ですよ、俺たちは絶対別れませんから。相葉さんが嫌って言っても離しません」
「ほんとぉ?」
「もちろん。俺、あんたが大好きなんだから」
「ふふっ、おれもぉ。にのすき!」
再びきつく抱き合う。
言っておくが、駅という公衆の面前だ。
「もうさ、隣同士にしてやれよ。その方が後々面倒がないぜ?」
櫻井の言葉に松本は渋々了承する。
結局は相葉の涙に弱いのだ。
「・・・・分かったよ。その代わり、少しでも変なことがあれば、即離すかんな?」
二宮を睨み、忠告した。
「はいはい。相葉さん、俺たち一緒にいられるって!」
「うん!良かったね、にの!松潤ありがと!大好き!!」
「ああ・・・」
そんなこんなで、現在お隣同士のバカップル。
二宮としては、いちゃいちゃしたいのだが、後ろから痛いほどのオーラを感じるので、ここはおとなしくしておこうと思う。
それでも、2人一緒なら幸せなのだ。
愛しい人の真剣な表情を最後に、二宮は瞼を閉じた。
おわり
ワタクシ二宮和也、ただいま猛烈に落ち込んでおります。
その原因はと言うと・・・。
「うひゃひゃっ!だけどもだっけど♪そんなの関係ねぇ、はいっ!おっぱっぴぃ!」
隣で小島よしおを真似してる男のことだったりするわけです。
もちろん、誰だかお分かりですよね?
「ねぇ、にの!見て見て!!おっぱっぴぃ!!」
「・・・・はいはい」
はしゃぐ彼に適当な返事を返す。
この呆れるほどに能天気な男、相葉雅紀。
この人のことで奈落の底まで落ちているんです。
事の発端は皆さんもご覧になったであろう実験スペシャル。
俺と相葉さんのロケ、ミラーマンにある。
面白かったでしょ?
あれはね、今回の実験の中でも一番だと思うんですよ。
何であんな扱いなのか、納得できないんですけど。
まぁ、ゴールデン向きではないとは思います。
って、そうじゃなくて。
あの実験のせいで俺は今、落ち込んでいるわけですよ。
俺はね、相葉さんのことを世界で・・・いや、この世もあの世も全て含めて一番想っているって自信があるんです。
彼を想う気持ちは誰にも負けないし、負けるつもりもない。
ずーっと彼のことを見てきたし、それはこれからも変わらない。
俺にはね、自負があったんです。
自分が彼を見失うはずがない。
何処に居たって、何をしてたって・・・俺は彼を見つけられるって。
なのに・・・・。
俺は彼を見失った。
一瞬ではあったけれど。
森の中で彼が何処にいるのか分からなかった。
俺は必死になって探した。
それこそ、テレビだって事も忘れるくらい。
出川さんへの返しも疎かになっていたけど、気にすることも出来なかった。
目が悪いせいだと、自分をごまかしたりして。
透明人間になりたいと言っていた彼にはきっと、嬉しいことでしょうけど。
俺にとってはとてつもないショックだった。
というわけで。
表面上はいつもと変わらないニノちゃんを演じてはいますが、内心ずっしりと落ちているんですよ。
「もう、にぃの!!」
適当な返事に痺れを切らしたのか、ハニーちゃんが背中に張り付いた。
「何ですか?甘えん坊さんですね。ちょっと、重たいよ・・・」
そう言って肩から覗く小さなお顔を小突いた。
ワタクシとしては、いつも通りにしていたつもり・・・だったんですが。
「ねぇ・・・にの、なんか変。元気ないね?」
思わず、肩から覗く顔を見つめる。
「そう、ですか?」
そんなことないけどと、目を逸らした。
「・・・そう?なんか、いつもと違うんだけどなぁ。ほら、顔がねしゅわしゅわしてんの」
「しゅわしゅわ?何それ、意味分からないんだけど・・・」
「んー・・・なんていうのかなぁ。顔がね、ふにゃぁってなっててね、元気じゃない感じがするの」
「・・・・覇気がない・・・って言いたいの?」
「そう、それ!!はきがないの!!」
自分の言いたいことが言えて、すっきりしたのか、ぎゅうっと抱きついてワタクシの身体を前後に揺する。
「ちょ、苦しいよ!もう・・・」
文句を言ってみても、彼は微笑むばかり。
「ねぇ、どうかしたの?おれ相談にのるよ?」
「・・・・・」
この人は普段鈍いくせに、どうしてこういう時は気付くんでしょうね。
ホント、敵わない。
「俺ね、鏡ロケん時、あんたを見つけられなかったの。絶対に自信があったのに・・・・あんたを見失った」
「にの?」
「そん時ね、見つけられないショックもあったけど・・・あんたがいないって事に、一瞬にして視界が途絶えたんだ」
ナニモミエナイ。
ナニモキコエナイ。
世界はこんなにも暗くて静かなところなんだ。
あんたがいないと。
所詮俺の世界なんて、こんなもの。
絶対言うつもり、なかったのに。
前に回る相葉の手をぎゅっと掴んだ。
その手がするっと、俺の手から抜けていく。
「あいばさん・・・?」
「にの!見て!!」
「はい?」
突然立ち上がったかと思うと、相葉さんが取った行動は・・・。
「はいっ!そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ!!」
小島よしおかよ・・・・。
人がシリアス気取ってんのに、落ち込んでんのに、この人は・・・。
思わずため息が漏れた。
「ちょっと、にの!見てんの!?」
「はいはい、見てますよ」
「もう!呆れてるでしょ?そうじゃなくてね、おれが言いたいのは、にのがおれを見失っても、そんなの関係ないって言ってんの!!」
ちょっと、関係ないって、ひどくないですか?それ。
「だって!にのがおれを探してる時、おれにはにのが見えてるんだから!!」
「・・・え?」
「だぁかぁら!にのが見失っても、おれはにのが見えてたの!だから、にのの世界が暗くなることなんてないし、不安になることもないの。分かる?」
「あいばさん・・・」
「おれだって、にのが・・・にのがおれを見てくれないなんて、いや。だから、透明人間になったとき、にのが探してんの見て・・・最初は嬉しかったけど、だんだん不安になって・・・。
おれ、ここだよ!にの、早く見つけて!って思ってた。あんな気持ちになるなら、透明人間なんてならなくていい・・・」
相葉さんが、正面から抱きついてきた。
俺はそれをしっかりと受け止め、力いっぱい抱きしめる。
「にのぉ・・・にのが見つけられない時は、俺が見つけるから・・・だから・・・」
「うん・・・。あんたが見失った時は、俺が必ず見つけるよ」
「絶対ね?おれだって、にのがいなきゃ・・・・んっ・・・」
いい終わらないうちに、相葉さんの言葉ごと飲み込んだ。
俺達は、やっぱり似たもの同士だね。
あんたの言葉、俺もそう思ってるよ。
今後、俺があんたを見失うことなんて絶対ないと思うけど。
その時には、あんたが俺を見つけてよ。
きっとそん時には、俺は暗い世界に怯えきってるだろうから。
今日みたいに見つけて、抱きしめてね。
『おれだって、にのがいなきゃ・・・生きてても死んでるのと一緒だから』
おわり
その原因はと言うと・・・。
「うひゃひゃっ!だけどもだっけど♪そんなの関係ねぇ、はいっ!おっぱっぴぃ!」
隣で小島よしおを真似してる男のことだったりするわけです。
もちろん、誰だかお分かりですよね?
「ねぇ、にの!見て見て!!おっぱっぴぃ!!」
「・・・・はいはい」
はしゃぐ彼に適当な返事を返す。
この呆れるほどに能天気な男、相葉雅紀。
この人のことで奈落の底まで落ちているんです。
事の発端は皆さんもご覧になったであろう実験スペシャル。
俺と相葉さんのロケ、ミラーマンにある。
面白かったでしょ?
あれはね、今回の実験の中でも一番だと思うんですよ。
何であんな扱いなのか、納得できないんですけど。
まぁ、ゴールデン向きではないとは思います。
って、そうじゃなくて。
あの実験のせいで俺は今、落ち込んでいるわけですよ。
俺はね、相葉さんのことを世界で・・・いや、この世もあの世も全て含めて一番想っているって自信があるんです。
彼を想う気持ちは誰にも負けないし、負けるつもりもない。
ずーっと彼のことを見てきたし、それはこれからも変わらない。
俺にはね、自負があったんです。
自分が彼を見失うはずがない。
何処に居たって、何をしてたって・・・俺は彼を見つけられるって。
なのに・・・・。
俺は彼を見失った。
一瞬ではあったけれど。
森の中で彼が何処にいるのか分からなかった。
俺は必死になって探した。
それこそ、テレビだって事も忘れるくらい。
出川さんへの返しも疎かになっていたけど、気にすることも出来なかった。
目が悪いせいだと、自分をごまかしたりして。
透明人間になりたいと言っていた彼にはきっと、嬉しいことでしょうけど。
俺にとってはとてつもないショックだった。
というわけで。
表面上はいつもと変わらないニノちゃんを演じてはいますが、内心ずっしりと落ちているんですよ。
「もう、にぃの!!」
適当な返事に痺れを切らしたのか、ハニーちゃんが背中に張り付いた。
「何ですか?甘えん坊さんですね。ちょっと、重たいよ・・・」
そう言って肩から覗く小さなお顔を小突いた。
ワタクシとしては、いつも通りにしていたつもり・・・だったんですが。
「ねぇ・・・にの、なんか変。元気ないね?」
思わず、肩から覗く顔を見つめる。
「そう、ですか?」
そんなことないけどと、目を逸らした。
「・・・そう?なんか、いつもと違うんだけどなぁ。ほら、顔がねしゅわしゅわしてんの」
「しゅわしゅわ?何それ、意味分からないんだけど・・・」
「んー・・・なんていうのかなぁ。顔がね、ふにゃぁってなっててね、元気じゃない感じがするの」
「・・・・覇気がない・・・って言いたいの?」
「そう、それ!!はきがないの!!」
自分の言いたいことが言えて、すっきりしたのか、ぎゅうっと抱きついてワタクシの身体を前後に揺する。
「ちょ、苦しいよ!もう・・・」
文句を言ってみても、彼は微笑むばかり。
「ねぇ、どうかしたの?おれ相談にのるよ?」
「・・・・・」
この人は普段鈍いくせに、どうしてこういう時は気付くんでしょうね。
ホント、敵わない。
「俺ね、鏡ロケん時、あんたを見つけられなかったの。絶対に自信があったのに・・・・あんたを見失った」
「にの?」
「そん時ね、見つけられないショックもあったけど・・・あんたがいないって事に、一瞬にして視界が途絶えたんだ」
ナニモミエナイ。
ナニモキコエナイ。
世界はこんなにも暗くて静かなところなんだ。
あんたがいないと。
所詮俺の世界なんて、こんなもの。
絶対言うつもり、なかったのに。
前に回る相葉の手をぎゅっと掴んだ。
その手がするっと、俺の手から抜けていく。
「あいばさん・・・?」
「にの!見て!!」
「はい?」
突然立ち上がったかと思うと、相葉さんが取った行動は・・・。
「はいっ!そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ!!」
小島よしおかよ・・・・。
人がシリアス気取ってんのに、落ち込んでんのに、この人は・・・。
思わずため息が漏れた。
「ちょっと、にの!見てんの!?」
「はいはい、見てますよ」
「もう!呆れてるでしょ?そうじゃなくてね、おれが言いたいのは、にのがおれを見失っても、そんなの関係ないって言ってんの!!」
ちょっと、関係ないって、ひどくないですか?それ。
「だって!にのがおれを探してる時、おれにはにのが見えてるんだから!!」
「・・・え?」
「だぁかぁら!にのが見失っても、おれはにのが見えてたの!だから、にのの世界が暗くなることなんてないし、不安になることもないの。分かる?」
「あいばさん・・・」
「おれだって、にのが・・・にのがおれを見てくれないなんて、いや。だから、透明人間になったとき、にのが探してんの見て・・・最初は嬉しかったけど、だんだん不安になって・・・。
おれ、ここだよ!にの、早く見つけて!って思ってた。あんな気持ちになるなら、透明人間なんてならなくていい・・・」
相葉さんが、正面から抱きついてきた。
俺はそれをしっかりと受け止め、力いっぱい抱きしめる。
「にのぉ・・・にのが見つけられない時は、俺が見つけるから・・・だから・・・」
「うん・・・。あんたが見失った時は、俺が必ず見つけるよ」
「絶対ね?おれだって、にのがいなきゃ・・・・んっ・・・」
いい終わらないうちに、相葉さんの言葉ごと飲み込んだ。
俺達は、やっぱり似たもの同士だね。
あんたの言葉、俺もそう思ってるよ。
今後、俺があんたを見失うことなんて絶対ないと思うけど。
その時には、あんたが俺を見つけてよ。
きっとそん時には、俺は暗い世界に怯えきってるだろうから。
今日みたいに見つけて、抱きしめてね。
『おれだって、にのがいなきゃ・・・生きてても死んでるのと一緒だから』
おわり
自分は意外と寛大な方だ。
滅多に怒ることはない。
アイドルなんてやってると、誹謗や中傷はしょっちゅうで。
そんなことに慣れたくはないけど、いちいち真に受けてたら身が持たない。
だから、別に知らない人に何を言われようと、掲示板とやらに変な書き込みをされようとどうって事ない。
まぁ、言ってるだけで実際は気にもなるし、傷つくんだけど。
でも、そんな事はどうでもよくって。
「・・・ねぇ、相葉さん、相葉さん!」
「・・・ナンデスカ?」
「何で片言!?」
「・・・・・」
自分で言うのもなんだけど、寛大な方。
でも、今日ばかりはちょっと無理。
と、いうわけで。
相葉雅紀、怒ってます!!
「もう、相葉さんってば!!何に怒ってんのよ?」
あなたにですけど、何か?
「相葉さんって・・・・もう、おいこらっ!相葉!!」
大きな声を出したにのを思いっきり睨んだら、少し身を引いた。
ふん、いつもお前の言う通りになんかなんねぇんだからな。
「ねぇ、相葉さーん。こっち向いてよー」
今度は泣き落としにかかった。
ぜってぇ、落ちねぇよ!!
「・・・・分かった。じゃあ、ヒント!ヒント頂戴!!ね?」
「自分で考えろ、ばか」
「あんた・・・・いつからそんなキャラになったよ?」
「うるさい、ばか宮。分かんねぇなら帰れ。帰って、キャプテンのトコでも行けよ」
ほんっと、むかつくんだよ。
「・・・・ああ、そういうこと」
おれのひと言で、どうやら怒ってる原因が分かったらしい。
ニヤって笑う顔がカッコいいなんて、ほんとどうかしてる。
「もう、可愛いねぇ・・・あんたって」
「可愛くねぇよ。こんなオトコマエつかまえて可愛い言うな・・・」
「だってぇ、ジェラシーでしょ?」
ほんと、うざいったら。
「おれよりキャプテンがいいなら、そう言えよ・・・」
「心外だなぁ。そんな事思ってないですよ」
「・・・・うそだね。食べちゃいたいくらい好きなんだろ?」
今だって考えてるのはキャプテンのことなくせに。
「やっぱり・・・それで怒ってたんだ。ホント、可愛い子だこと」
「だから、可愛いって言うな!」
おれだってね、怒るわけですよ。
自分の恋人が他のオトコに惹かれているなんて、いい気がしないでしょ?普通。
そっぽを向いたおれに、にのがくっついてくる。
「相葉さーん」
「・・・・」
「ねぇってば、俺は別にあんたの事よりキャプテンを好きになったわけじゃないよ?」
「・・・でもすきでしょ?」
じゃなきゃ、あんなにひっつかないだろうが。
おれだって2人の、いつものいちゃいちゃくらい何てことないよ。
でも、誕生日にあれはないんじゃない?
女みたいって言われるかもしれないけど、誕生日ってやっぱり特別じゃない?
その日にメールで「もう、食べちゃいたいv」って、ハートマークまでつけて?
どんだけだよ!!
ああ、うざい!!
怒って当然でしょ?
むくれるおれに、にのはあっけらかんと言う。
「だって、俺キャプテンのことは好きですけど、キャプテンとはせっくす出来ないもん」
「・・・なにそれ」
「だぁから!あんたとはせっくす出来るけど、キャプテンとは出来ないって。あんなこと、あんたとしかしたいと思わないもん」
他のヤツとなんて、考えただけでも気持ち悪い。
「なんか・・・あんまり嬉しくない」
「何でよ?最高の口説き文句でしょ?あんた、最高に気持ちいいもん」
「・・・・」
「それに!あんただって人のこと言えないでしょうが。いつも翔ちゃんに頼るくせに」
「翔ちゃんは、そんなんじゃない」
「でも、好きでしょ?」
「・・・・すき」
「ふん・・・、じゃあ翔ちゃんとせっくす出来るのかよ?」
翔ちゃんとせっくす・・・・。
「むり!!」
「だろ?同じことだよ」
「・・・」
黙ったおれのおでこにチュッとした。
それだけで機嫌が良くなる自分が憎い。
だから、ちょっと憎まれ口。
「せっくすが基準かよ・・・最低だな」
「・・・最低だけど、最高でしょ?」
そう言って、んふふって笑うにのは、やっぱり最高にオトコマエ。
「さ!機嫌が直ったところで、相葉さん。せっくすしましょ♪」
ほんと、最低。
でも、結局それに乗っかっちゃう自分も同じ穴のムジナ。
「・・・満足させてくれんだろうな?」
「んふふ、もちろん。ココロもカラダも満たしてあげる・・・」
こんなにのに付き合えるおれって、やっぱり寛大なオトコだと思う。
おわり
滅多に怒ることはない。
アイドルなんてやってると、誹謗や中傷はしょっちゅうで。
そんなことに慣れたくはないけど、いちいち真に受けてたら身が持たない。
だから、別に知らない人に何を言われようと、掲示板とやらに変な書き込みをされようとどうって事ない。
まぁ、言ってるだけで実際は気にもなるし、傷つくんだけど。
でも、そんな事はどうでもよくって。
「・・・ねぇ、相葉さん、相葉さん!」
「・・・ナンデスカ?」
「何で片言!?」
「・・・・・」
自分で言うのもなんだけど、寛大な方。
でも、今日ばかりはちょっと無理。
と、いうわけで。
相葉雅紀、怒ってます!!
「もう、相葉さんってば!!何に怒ってんのよ?」
あなたにですけど、何か?
「相葉さんって・・・・もう、おいこらっ!相葉!!」
大きな声を出したにのを思いっきり睨んだら、少し身を引いた。
ふん、いつもお前の言う通りになんかなんねぇんだからな。
「ねぇ、相葉さーん。こっち向いてよー」
今度は泣き落としにかかった。
ぜってぇ、落ちねぇよ!!
「・・・・分かった。じゃあ、ヒント!ヒント頂戴!!ね?」
「自分で考えろ、ばか」
「あんた・・・・いつからそんなキャラになったよ?」
「うるさい、ばか宮。分かんねぇなら帰れ。帰って、キャプテンのトコでも行けよ」
ほんっと、むかつくんだよ。
「・・・・ああ、そういうこと」
おれのひと言で、どうやら怒ってる原因が分かったらしい。
ニヤって笑う顔がカッコいいなんて、ほんとどうかしてる。
「もう、可愛いねぇ・・・あんたって」
「可愛くねぇよ。こんなオトコマエつかまえて可愛い言うな・・・」
「だってぇ、ジェラシーでしょ?」
ほんと、うざいったら。
「おれよりキャプテンがいいなら、そう言えよ・・・」
「心外だなぁ。そんな事思ってないですよ」
「・・・・うそだね。食べちゃいたいくらい好きなんだろ?」
今だって考えてるのはキャプテンのことなくせに。
「やっぱり・・・それで怒ってたんだ。ホント、可愛い子だこと」
「だから、可愛いって言うな!」
おれだってね、怒るわけですよ。
自分の恋人が他のオトコに惹かれているなんて、いい気がしないでしょ?普通。
そっぽを向いたおれに、にのがくっついてくる。
「相葉さーん」
「・・・・」
「ねぇってば、俺は別にあんたの事よりキャプテンを好きになったわけじゃないよ?」
「・・・でもすきでしょ?」
じゃなきゃ、あんなにひっつかないだろうが。
おれだって2人の、いつものいちゃいちゃくらい何てことないよ。
でも、誕生日にあれはないんじゃない?
女みたいって言われるかもしれないけど、誕生日ってやっぱり特別じゃない?
その日にメールで「もう、食べちゃいたいv」って、ハートマークまでつけて?
どんだけだよ!!
ああ、うざい!!
怒って当然でしょ?
むくれるおれに、にのはあっけらかんと言う。
「だって、俺キャプテンのことは好きですけど、キャプテンとはせっくす出来ないもん」
「・・・なにそれ」
「だぁから!あんたとはせっくす出来るけど、キャプテンとは出来ないって。あんなこと、あんたとしかしたいと思わないもん」
他のヤツとなんて、考えただけでも気持ち悪い。
「なんか・・・あんまり嬉しくない」
「何でよ?最高の口説き文句でしょ?あんた、最高に気持ちいいもん」
「・・・・」
「それに!あんただって人のこと言えないでしょうが。いつも翔ちゃんに頼るくせに」
「翔ちゃんは、そんなんじゃない」
「でも、好きでしょ?」
「・・・・すき」
「ふん・・・、じゃあ翔ちゃんとせっくす出来るのかよ?」
翔ちゃんとせっくす・・・・。
「むり!!」
「だろ?同じことだよ」
「・・・」
黙ったおれのおでこにチュッとした。
それだけで機嫌が良くなる自分が憎い。
だから、ちょっと憎まれ口。
「せっくすが基準かよ・・・最低だな」
「・・・最低だけど、最高でしょ?」
そう言って、んふふって笑うにのは、やっぱり最高にオトコマエ。
「さ!機嫌が直ったところで、相葉さん。せっくすしましょ♪」
ほんと、最低。
でも、結局それに乗っかっちゃう自分も同じ穴のムジナ。
「・・・満足させてくれんだろうな?」
「んふふ、もちろん。ココロもカラダも満たしてあげる・・・」
こんなにのに付き合えるおれって、やっぱり寛大なオトコだと思う。
おわり
宿題くんの収録日
本日はオグさんの持ち込み企画らしい。
家事王決定戦って・・・一体何をやるんでしょうねぇ。
と、言うわけでワタクシ二宮和也。
本日も頑張って収録に臨もうじゃありませんか!!
なんてったって、今日はゲストがいないから牽制もしやすいってもんですよ。
狙われやすいからね、ウチの可愛い子ちゃんは!
しかも、本人に全く自覚がないから、毎回厄介ですよ。
メンバーはともかく、ゲストはね、むやみに威嚇できないでしょ?
だから気の使い方が半端ないわけよ。
そう思うと、今日の収録はラッキーです。
「にのぉ。衣装決めるから来てって!行こうよぉ」
「はぁい」
ワタクシのハニーちゃんが呼んでますんで、行くとしましょう!!
「って・・・、今日はジャージ?衣装決める必要ないじゃん」
5人お揃いのジャージに思わず出た言葉。
でも。
「ふふっ、相葉さんお揃いだねー」
「ん?うん!お揃いー」
ああ、可愛いvv
「あのぉ、みんなお揃いですけど・・・」
「あ!?」
「いえ・・・何でも」
うるさいニュースキャスターをひと睨み。
ビビッてやんの。
ああ、面白い。
「ねぇ、にの!エプロン!!」
ハニーちゃんが叫んだ。
「エプロン?」
「うん。エプロンのね、色が違うの。好きな色選んでいいんだって!どれにする?」
そこには5色の色違いのエプロン。
ああ、家事王だからね。
ん?好きな色?
目の前のエプロンは5色。
赤、青、黄色、ピンクに・・・・・。
「ああっ!!」
「な、何だよ?急に大声出すなよ。びっくりすんだろ?」
俺の大声に潤君が顔をしかめた。
濃い顔が余計に濃くなるからやめてよ。
って!!そんなことが言いたいんじゃない!!
「じゅ、潤君!」
「な、何?」
「俺、それが良い!!譲って下さい!!」
潤君が手にしたエプロンを指差す。
「は?ああ、別にいいけど・・・何?この色が好きなわけ?」
「え?いや・・・その、今日のラッキーカラーなんですよ」
「はぁ?」
「今日、たまたま占いでね、そう言われたんで」
「ふーん・・・」
俺の勢いにちょっと引き気味な潤君だったけど、そんなの関係ねぇ。
おっと、流行語にも敏感なにのちゃん、ナイス!!
と、言うわけで見事にゲット!
緑のエ・プ・ロ・ンvv
んふふ・・・今日のラッキーカラーなんて嘘っぱち。
まぁ、「今日の」ってトコが嘘なんです。
緑はいつだって、ワタクシのラッキーカラーですからvv
理由?
そんなの分かりきってるじゃないですかぁ。
俺のハニーちゃんの色だからvv
ね!ハニーちゃ・・・「おれ、青!!青にするぅ!」
ええっ!?
そりゃないでしょ・・・・。
そこは黄色でしょ?
「あ、じゃあ俺黄色っ」
って、お前かヘタレニュースキャスター!!!
睨んだら、怖がって後ずさりして後ろの潤君にぶつかった。
そんで潤君に怒られてやんの。
ざまぁみろ!!
ええ、分かってますとも。
相葉さんに何の意図もないし、俺のこんなこだわりに気付くことだってない。
そんなところも好きなんだから。
だけど何でしょう、このせつなさ。
まるで片想い。
もちろん両想いですよ?
これは妄想じゃないですよ!!
「にぃの!後ろ縛って?」
ああ・・・あんたが言うと何でも卑猥に聞えます・・・。
「にの?」
「ああ・・・はい出来た」
「ありがと!!」
そんな笑顔が・・・好きなんです。
悔しいからちょっときつめに縛ったら、腰のラインがクッキリで、あら素敵vv
とりあえず、このやるせない気持ちを収録にぶつけましょうか!!
二宮和也、家事王狙いまっす!!!!
終わり
本日はオグさんの持ち込み企画らしい。
家事王決定戦って・・・一体何をやるんでしょうねぇ。
と、言うわけでワタクシ二宮和也。
本日も頑張って収録に臨もうじゃありませんか!!
なんてったって、今日はゲストがいないから牽制もしやすいってもんですよ。
狙われやすいからね、ウチの可愛い子ちゃんは!
しかも、本人に全く自覚がないから、毎回厄介ですよ。
メンバーはともかく、ゲストはね、むやみに威嚇できないでしょ?
だから気の使い方が半端ないわけよ。
そう思うと、今日の収録はラッキーです。
「にのぉ。衣装決めるから来てって!行こうよぉ」
「はぁい」
ワタクシのハニーちゃんが呼んでますんで、行くとしましょう!!
「って・・・、今日はジャージ?衣装決める必要ないじゃん」
5人お揃いのジャージに思わず出た言葉。
でも。
「ふふっ、相葉さんお揃いだねー」
「ん?うん!お揃いー」
ああ、可愛いvv
「あのぉ、みんなお揃いですけど・・・」
「あ!?」
「いえ・・・何でも」
うるさいニュースキャスターをひと睨み。
ビビッてやんの。
ああ、面白い。
「ねぇ、にの!エプロン!!」
ハニーちゃんが叫んだ。
「エプロン?」
「うん。エプロンのね、色が違うの。好きな色選んでいいんだって!どれにする?」
そこには5色の色違いのエプロン。
ああ、家事王だからね。
ん?好きな色?
目の前のエプロンは5色。
赤、青、黄色、ピンクに・・・・・。
「ああっ!!」
「な、何だよ?急に大声出すなよ。びっくりすんだろ?」
俺の大声に潤君が顔をしかめた。
濃い顔が余計に濃くなるからやめてよ。
って!!そんなことが言いたいんじゃない!!
「じゅ、潤君!」
「な、何?」
「俺、それが良い!!譲って下さい!!」
潤君が手にしたエプロンを指差す。
「は?ああ、別にいいけど・・・何?この色が好きなわけ?」
「え?いや・・・その、今日のラッキーカラーなんですよ」
「はぁ?」
「今日、たまたま占いでね、そう言われたんで」
「ふーん・・・」
俺の勢いにちょっと引き気味な潤君だったけど、そんなの関係ねぇ。
おっと、流行語にも敏感なにのちゃん、ナイス!!
と、言うわけで見事にゲット!
緑のエ・プ・ロ・ンvv
んふふ・・・今日のラッキーカラーなんて嘘っぱち。
まぁ、「今日の」ってトコが嘘なんです。
緑はいつだって、ワタクシのラッキーカラーですからvv
理由?
そんなの分かりきってるじゃないですかぁ。
俺のハニーちゃんの色だからvv
ね!ハニーちゃ・・・「おれ、青!!青にするぅ!」
ええっ!?
そりゃないでしょ・・・・。
そこは黄色でしょ?
「あ、じゃあ俺黄色っ」
って、お前かヘタレニュースキャスター!!!
睨んだら、怖がって後ずさりして後ろの潤君にぶつかった。
そんで潤君に怒られてやんの。
ざまぁみろ!!
ええ、分かってますとも。
相葉さんに何の意図もないし、俺のこんなこだわりに気付くことだってない。
そんなところも好きなんだから。
だけど何でしょう、このせつなさ。
まるで片想い。
もちろん両想いですよ?
これは妄想じゃないですよ!!
「にぃの!後ろ縛って?」
ああ・・・あんたが言うと何でも卑猥に聞えます・・・。
「にの?」
「ああ・・・はい出来た」
「ありがと!!」
そんな笑顔が・・・好きなんです。
悔しいからちょっときつめに縛ったら、腰のラインがクッキリで、あら素敵vv
とりあえず、このやるせない気持ちを収録にぶつけましょうか!!
二宮和也、家事王狙いまっす!!!!
終わり
いつも思ってる訳じゃない。
でも、時々思うことがある。
にのはずるい。
大好きなにの。
カッコよくて、可愛くて、頭が良くて、面白くて。
運動神経も抜群で、お芝居も上手い。
ダメなときはちゃんと叱ってくれる。
頑張ったときは誰よりも褒めてくれる。
おれのことを一番理解してくれて、一番分かろうとしてくれる。
この世で一番好きなひと。
でもね、時々思うの。
にのってずるい。
ほら、今だって!!
なんなのその笑顔!
嬉しそうにしちゃってさっ!
*****
今日は年末の特番のスタジオ収録。
たくさんのスポーツ選手が集まって、おれのテンションも最高潮。
楽しくて仕方がなかった。
隣のチームのにのも楽しそう。
にのも、野球大好きだから、テンションも超高いみたい。
本当に楽しかったんだよ?
でもさ、納得行かないことがある。
にのがスペインにロナウジーニョに会いに行ったロケのこと。
にの、出発前に何て言った?
『相葉さん、俺がいない間はいつもより気をつけて。誰の誘いも乗っちゃダメ。帰ってきたらたっぷり相手してあげるから・・・・・。
仕事じゃなきゃ絶対ぇ行かねぇのにな。あんた残して行くなんて心配すぎて、また寝れねぇよ』
って、言ったよね?
おれ、ちゃんと言いつけ守ったよ?
よく分かんないけど、いつもより誘われることも多かったけど、淋しいし、行きたかったけど、我慢したよ!!
確かに帰ってきてから、にのにたっぷり甘やかしてもらったし、すっごく幸せだったし、嬉しかった。
でも、納得行かない!!
『ロニー!愛してる!!』
何だよ!?
SHEILAが一緒なんて聞いてない!!
手繋いじゃったりして!
ロナウジーニョとも抱き合っちゃってさ!
おれ、一生懸命我慢したのに・・・・。
分かってるよ、仕事だもん。
あんなスーパースターに会えることなんて滅多にないし、にのはちゃんと仕事したんだ。
でも、でもでもでも!!
おれのこのやり場のない怒りは、何処に持っていけばいいの!?
にののばか。
おれが、同じことすれば途端にご機嫌ナナメになるくせに。
なんか、納得いかなーい!!
―収録後
「相葉さーん、帰ろっ」
「・・・・おれ、今から野球チームの人と飲みに行く約束したから、にの先に帰って」
「は?何言ってんの、そんなのだめに決まってるでしょ?帰るよ」
「・・・いや」
「あ?何拗ねてんだよ?」
「・・・・にのはずるい」
「は?」
意味が分からないって顔して首を傾げるにの。
眉間にしわが寄って、ちょっと怖い。
「にの、ずるいよ。俺にはあれはダメ、これはダメって言うくせに・・・・」
自分ばっかり・・・・おれが嫉妬しないとでも思ってんの?
「・・・ふふっ、相葉さんったらかぁわいいっ!ヤキモチやいてんだぁ」
「う、うるさいっ!!おれだって・・・・」
「うん?」
「おれだって、思ってるんだよ!」
にのはおれのもの。
他の誰にも笑いかけて欲しくない。
誰の誘いにも乗らないで。
そんなこと言えないけど。
いつだって思ってるんだから!
それを言えるにのが羨ましい。
それを言えないおれを分かってるにのはずるい。
「相葉さん、良いんだよ言って。あんたは俺に・・・それを言える権利があるんだ。あんただけが言って良いんだよ」
「にの・・・」
「んふふ、それに・・・あんたの言葉が俺を縛るなんて、考えただけで感じちゃう」
「ばっ!な、何言ってんだよ、ばか!!」
「あははっ!照れてんのー。かぁわぁいい!」
「うるさい、ばか」
「ふふっ、相葉さん帰ろ?俺はあんたに行って欲しくない」
もう、ほんとにずるいひと。
そう言われたら行けないこと、分かってるくせに。
「行かないよ!にのと帰るっ!!」
「んふふ、良かった」
「その代わり、帰ったらずっといちゃいちゃして!!」
「もちろん」
いやだって言っても離さないよ。
耳元で言われて足元から崩れそうになる。
そんなおれを見て、にのが笑った。
やっぱりずるい。
おれだけがこんなになるなんて。
悔しかったから、思いっきり首根っこ掴んで唇に噛み付いてやった。
おわり
でも、時々思うことがある。
にのはずるい。
大好きなにの。
カッコよくて、可愛くて、頭が良くて、面白くて。
運動神経も抜群で、お芝居も上手い。
ダメなときはちゃんと叱ってくれる。
頑張ったときは誰よりも褒めてくれる。
おれのことを一番理解してくれて、一番分かろうとしてくれる。
この世で一番好きなひと。
でもね、時々思うの。
にのってずるい。
ほら、今だって!!
なんなのその笑顔!
嬉しそうにしちゃってさっ!
*****
今日は年末の特番のスタジオ収録。
たくさんのスポーツ選手が集まって、おれのテンションも最高潮。
楽しくて仕方がなかった。
隣のチームのにのも楽しそう。
にのも、野球大好きだから、テンションも超高いみたい。
本当に楽しかったんだよ?
でもさ、納得行かないことがある。
にのがスペインにロナウジーニョに会いに行ったロケのこと。
にの、出発前に何て言った?
『相葉さん、俺がいない間はいつもより気をつけて。誰の誘いも乗っちゃダメ。帰ってきたらたっぷり相手してあげるから・・・・・。
仕事じゃなきゃ絶対ぇ行かねぇのにな。あんた残して行くなんて心配すぎて、また寝れねぇよ』
って、言ったよね?
おれ、ちゃんと言いつけ守ったよ?
よく分かんないけど、いつもより誘われることも多かったけど、淋しいし、行きたかったけど、我慢したよ!!
確かに帰ってきてから、にのにたっぷり甘やかしてもらったし、すっごく幸せだったし、嬉しかった。
でも、納得行かない!!
『ロニー!愛してる!!』
何だよ!?
SHEILAが一緒なんて聞いてない!!
手繋いじゃったりして!
ロナウジーニョとも抱き合っちゃってさ!
おれ、一生懸命我慢したのに・・・・。
分かってるよ、仕事だもん。
あんなスーパースターに会えることなんて滅多にないし、にのはちゃんと仕事したんだ。
でも、でもでもでも!!
おれのこのやり場のない怒りは、何処に持っていけばいいの!?
にののばか。
おれが、同じことすれば途端にご機嫌ナナメになるくせに。
なんか、納得いかなーい!!
―収録後
「相葉さーん、帰ろっ」
「・・・・おれ、今から野球チームの人と飲みに行く約束したから、にの先に帰って」
「は?何言ってんの、そんなのだめに決まってるでしょ?帰るよ」
「・・・いや」
「あ?何拗ねてんだよ?」
「・・・・にのはずるい」
「は?」
意味が分からないって顔して首を傾げるにの。
眉間にしわが寄って、ちょっと怖い。
「にの、ずるいよ。俺にはあれはダメ、これはダメって言うくせに・・・・」
自分ばっかり・・・・おれが嫉妬しないとでも思ってんの?
「・・・ふふっ、相葉さんったらかぁわいいっ!ヤキモチやいてんだぁ」
「う、うるさいっ!!おれだって・・・・」
「うん?」
「おれだって、思ってるんだよ!」
にのはおれのもの。
他の誰にも笑いかけて欲しくない。
誰の誘いにも乗らないで。
そんなこと言えないけど。
いつだって思ってるんだから!
それを言えるにのが羨ましい。
それを言えないおれを分かってるにのはずるい。
「相葉さん、良いんだよ言って。あんたは俺に・・・それを言える権利があるんだ。あんただけが言って良いんだよ」
「にの・・・」
「んふふ、それに・・・あんたの言葉が俺を縛るなんて、考えただけで感じちゃう」
「ばっ!な、何言ってんだよ、ばか!!」
「あははっ!照れてんのー。かぁわぁいい!」
「うるさい、ばか」
「ふふっ、相葉さん帰ろ?俺はあんたに行って欲しくない」
もう、ほんとにずるいひと。
そう言われたら行けないこと、分かってるくせに。
「行かないよ!にのと帰るっ!!」
「んふふ、良かった」
「その代わり、帰ったらずっといちゃいちゃして!!」
「もちろん」
いやだって言っても離さないよ。
耳元で言われて足元から崩れそうになる。
そんなおれを見て、にのが笑った。
やっぱりずるい。
おれだけがこんなになるなんて。
悔しかったから、思いっきり首根っこ掴んで唇に噛み付いてやった。
おわり
今日は相葉さんとゴルフです。
オグさんと一緒なんですが、まぁそれは置いといて。
ああっ、俺のハニーちゃんのスタイルの良いこと!!
ゴルフウェアーに身を包んだハニーちゃんは、それはもうエロイです!!
サーモンピンクのポロシャツの開いた胸元が何とも色っぽいこと!
細身のパンツがとっても可愛いお尻を強調していて堪りません。
ニノちゃん、最終ホールまで我慢できるかしら?
「にぃの!早く行くよ?」
「はい!」
ああ・・・ワタクシも早くイキたいです。
あなたのナカで。
妄想しているうちにゴルフは進み。
ゴルフ中のハニーちゃんはこれまた、マキシマムエロすです!!
だって、あなた!!
ショット打つたびにシャツの裾からお腹がチラリ。
グリーンで芝生の目を読もうとして、しゃがむ度に胸はチラッと、お尻がプリッと・・・・。
ああ・・・・ゴルフ万歳!
「ちょっと、にの!!」
「え?あ、はい。何ですか?」
「次、にのの番でしょ?早くしないとオグさんに怒られるよ?」
「ああ、すいません。つい見惚れちゃって」
「見惚れる?」
「ええ。相変わらずエロい身体してんなぁってね」
俺、我慢できなくなりそうよ、と囁けばたちまちリンゴちゃん。
ホント、可愛い子。
「なっ!なに言ってんの!?ゴルフ中だぞ、ばか!!」
「ゴルフ中でも、仕事中でも俺はいつでもあんたを「そういう目」で見てんの」
「そういう目で見んな!」
「無理。第一、打つ度に腹をチラつかせるあんたが悪い」
「俺のせいかよ!」
もういいよ、馬鹿とそっぽ向いちゃいました。
拗ねる姿も可愛いけどね・・・・って!!
「ちょ、相葉さんっ!何してんのっ!?」
おもむろにハニーちゃんがポロシャツをパンツにインした。
「なにって、腹見えないようにしてんの!!」
「や、止めなさい!!俺が悪かった。もう言わないからさ、えなりかずきは止めて!!」
「うるさい!ばかにの!!とっとと打ちやがれ!」
「あいばさーん・・・」
ハニーちゃん!
どんなあんたも大好きだけど、たとえパンツにインでも愛してるけど、せっかくの目の保養がぁ・・・。
その後のハニーちゃんは、俺の事を完全無視でゴルフに夢中ですよ・・・。
ゴルフになると真剣なんだから。
真剣な顔も可愛くって、堪んないけど。
まぁ、なにが言いたいかっていうと。
ハニーちゃんは最高ってことです。
おわり
オグさんと一緒なんですが、まぁそれは置いといて。
ああっ、俺のハニーちゃんのスタイルの良いこと!!
ゴルフウェアーに身を包んだハニーちゃんは、それはもうエロイです!!
サーモンピンクのポロシャツの開いた胸元が何とも色っぽいこと!
細身のパンツがとっても可愛いお尻を強調していて堪りません。
ニノちゃん、最終ホールまで我慢できるかしら?
「にぃの!早く行くよ?」
「はい!」
ああ・・・ワタクシも早くイキたいです。
あなたのナカで。
妄想しているうちにゴルフは進み。
ゴルフ中のハニーちゃんはこれまた、マキシマムエロすです!!
だって、あなた!!
ショット打つたびにシャツの裾からお腹がチラリ。
グリーンで芝生の目を読もうとして、しゃがむ度に胸はチラッと、お尻がプリッと・・・・。
ああ・・・・ゴルフ万歳!
「ちょっと、にの!!」
「え?あ、はい。何ですか?」
「次、にのの番でしょ?早くしないとオグさんに怒られるよ?」
「ああ、すいません。つい見惚れちゃって」
「見惚れる?」
「ええ。相変わらずエロい身体してんなぁってね」
俺、我慢できなくなりそうよ、と囁けばたちまちリンゴちゃん。
ホント、可愛い子。
「なっ!なに言ってんの!?ゴルフ中だぞ、ばか!!」
「ゴルフ中でも、仕事中でも俺はいつでもあんたを「そういう目」で見てんの」
「そういう目で見んな!」
「無理。第一、打つ度に腹をチラつかせるあんたが悪い」
「俺のせいかよ!」
もういいよ、馬鹿とそっぽ向いちゃいました。
拗ねる姿も可愛いけどね・・・・って!!
「ちょ、相葉さんっ!何してんのっ!?」
おもむろにハニーちゃんがポロシャツをパンツにインした。
「なにって、腹見えないようにしてんの!!」
「や、止めなさい!!俺が悪かった。もう言わないからさ、えなりかずきは止めて!!」
「うるさい!ばかにの!!とっとと打ちやがれ!」
「あいばさーん・・・」
ハニーちゃん!
どんなあんたも大好きだけど、たとえパンツにインでも愛してるけど、せっかくの目の保養がぁ・・・。
その後のハニーちゃんは、俺の事を完全無視でゴルフに夢中ですよ・・・。
ゴルフになると真剣なんだから。
真剣な顔も可愛くって、堪んないけど。
まぁ、なにが言いたいかっていうと。
ハニーちゃんは最高ってことです。
おわり
正月が明けてから光一の様子が可笑しい。周囲が心配になってしまう位には、激しく不審だった。自らライフワークと言う程の舞台の稽古中は平気らしい。いつも通り、カンパニーを引っ張る座長として毅然とした態度を持っていた。
けれど、舞台を離れれば一転して駄目になる。着替えている途中でぼんやり動きを止めてしまってマネージャーの手を煩わせたし(マネージャー曰く「この年齢で着替えを手伝う事になるとは思わなかった」との事)、稽古の帰り道に車を待たずふらふら外に出てしまい町田を焦らせたし、最近では減っていたのに平らな道でこけると言う器用な癖も再発してしまった。
そんな話を聞いて、剛は一人で笑いを噛み殺す。おどおどと視線の定まらない光一なんて久しぶりだった。出会った頃の不安定な子供を思い出す。自分がいてやらなければ、笑う事も泣く事も出来なかった。人生の半分以上を共に過ごして、今ではもう家族以上の存在になっている。魂の半分、運命の共有者、どう表現すれば自分と光一の関係を上手に示せるのかは未だに分からなかった。
そんな大切な相方の存在を、遠くから眺める。一緒の仕事は一年を通して僅かだった。年末年始の時期を逃せば、後は新曲のプロモーション期間位のものだ。けれど、離れているから分からない訳ではなかった。今でも多分、マネージャーやあの舞台のカンパニーの人間より彼の事を理解している。何を考え何を夢見て生きているのか。きっと、彼自身よりもはっきい見えていた。
だから剛には簡単なのだ。元旦を越えた後の不審の理由。明白過ぎて笑いたくなるけれど、原因が自分にある以上迂闊な事は出来なかった。
まさか、こんな所まで来て光一が変わってしまうなんてさすがに予想外ではある。まあ、それも楽しいかと剛は楽観的に笑った。世の中の全てを悲哀の眼差しで見詰めてしまうのに、何故か隣にいる存在だけは優しく肯定する事が出来る。幸福な人間ではなかった。それでも、自分の傍にいると嬉しそうに笑うから。煌めく瞳を信じてやりたかった。一緒にいる時は幸福だったら嬉しい、と。
隣の楽屋にいる光一へ思いを馳せながら、準備をする。いつもは部屋の間にある仕切りを取り払って貰うのに、何故か個室の状態になっていた。分かりやす過ぎて可哀相になるわ。全面的に避けられていると言うのに、剛に苦痛はない。避けられて嬉しいなんてMっぽいけど。
衣装に着替えて鏡の前で軽く髪も整えると、マネージャーに断りを入れてから光一の楽屋へ向かった。あっちの部屋に行くと言う断りではなく、人払いをしてくれと言う要求なのだけど。一瞬眉を顰めたものの、光一の現状を持て余しているマネージャーは素直に頷く。いつからか自分達の関係者は、二人でいる事を嫌がるようになった。原因がどちらにあるのかは分からない。けれど、多分本人よりも周囲の方が気付いているのだろう。二人の空気の変質を恐れて離されてしまった。
自覚のある剛はまだ良い。全く自覚せず唯真っ直ぐ相方へ愛情を傾ける光一の変化を周囲は恐れた。いつか、気付いてしまう前に。ソロ活動がそんな事の為に始められたなんて知ったら、彼は嫌がるだろう。勿論理由は光一の感情だけではないけれど、一緒の仕事を減らす事務所を見ているとあながち間違っていないのだと思った。
隣の楽屋の扉の前に立って、剛は自嘲気味に口角を上げる。マネージャーは、自分を止めるべきだった。光一の動揺はきっと舞台が始まれば消えてしまう。後僅かの我慢やったのにな。自分には自覚がある。現状を把握して動く事へのリスクを彼は考えた方が良かった。今更、止まるつもりもないけれど。
自分を見詰められずに視線を彷徨わせる光一が可愛かった。口付けた柔らかな感触はもう記憶から消えていて、少し驚く。記憶力は良い方なのだけれど、さすがに感覚を鮮明に残すのは難しいらしかった。会議の時なんかは辛辣な言葉を吐く癖に、拒絶する事も思い付かない身体。ずっと自分の物だったのではないかと勘違いしてしまいそうだった。
……否、実際自分の物なのだと思う。「相方」の定義を「唯一の存在」とするなら、ずっと昔から光一は自分の物だったし自分も光一の物だった。離れたり近付き過ぎたり、二人きりが故に苦しんだ過去もあるけれど、今は落ち着いた距離で立っている。
崩してしまっても良いのだろうか。自身に問い掛けて、けれど誰にも触れさせたくないと言う欲望が勝っていた。彼の髪の一本まで自分の物なのだと主張したい。
ふう、と息を吐くときっちり閉じられた扉をノックした。お前の心みたいやな。隙がなくて、そう簡単には開かれない。此処を躊躇なく開けられるのが自分一人であって欲しいと切に願った。抱え切れない愛情を向ける存在は、いつだってたった一人。
「光一ー入るでー」
返事がないのを良い事に、躊躇わず扉を開けた。こちらが構えれば、敏感に空気を感じ取って怯えるだろうから。野生の動物に近付くのと同じ手順で、相方へ近付いて行く。相変わらず広いスペースの隅に蹲る姿は、いたいけな何かに思えた。ふわふわした、甘い色の何か。
定番の黒いバスローブを羽織って、髪は濡れたままだった。稽古場から此処に来たと言っていたから、シャワーでも浴びたのだろう。同じ収録への準備なのに、衣装を着た自分と未だ焦点の定まらない光一。コンタクトもせずに、唯ぼんやりと自分の手許を見詰めていた。
重症、やな。マネージャーの言葉を借りる訳ではないが、まさかこんな年齢になって相方の恋煩いを見る事になるとは思わなかった。感情的な面で幼い部分も多い人だから、分からなくもなかったけれど。つい手を伸ばしたくなるのは。愛情以外の何者でもないだろう。彼の近くにいる人間全てが今の状態を持て余していても、自分には唯嬉しいばかりだった。
元旦の夜。どうして誰も気付かないんでしょうね。それとも気付きたくないのかな。はっきりと認識してしまえば事実になる事を、皆知っていた。十代の頃に引き離した感情。光一自身は今も気付いていない。
「光一。起きとるか?」
「……っ!」
「変な顔やなあ」
剛の存在に気付くと、面白い程慌てふためいて逃げようとした。背後には壁しかないのに。仕方のない人だと笑って、躊躇なく彼の目の前にしゃがみ込む。目線を合わせれば、声にならない声を上げて目を瞑った。こんなに何も出来ない光一は久しぶりに見る。もう少し遊びたくなって、そっと手を伸ばした。濡れたままの髪に指先を滑り込ませると、怯えた仕草で肩を竦める。
「髪、濡れたまんまやと体調崩すで」
「う、うん。……後でやる。だいじょぶ」
「光ちゃん、乾かしたろか」
懐かしい呼び方で甘く囁けば、瞬時に耳までを赤く染めた。可愛いなあ。手放す事は出来ないのだと、改めて思う。普段は呆れる程男前なのに。今は見る影もなく、自分の事だけで頭が一杯になっていた。
「い、良い!平気!出来るから!」
「光ちゃん、今日は何で部屋仕切ってんの?」
「……え、えーと。あ、だって入り時間違うし、剛寝てて後から俺入って煩くしたらあかんやろ」
「いっつも入りは別やろ」
「えー、えっと。あ!俺今日風邪気味やねん!だから移したあかん思うて」
「具合悪いのに、シャワー浴びたんか?」
切り抜ける事も出来そうにない言い訳を並べる光一に笑んで、髪を梳いていた手を額へ滑らせる。体温を計る振り。熱がない事なんて分かっていたけれど。更に赤くなるのが可愛くて、意地悪は止められそうもなかった。
「つ!つよ!」
「んー?熱はなさそうやなあ」
「っ平気、やから!なあ、剛も忙しいし、ええよ。自分で、出来るっ」
「こぉいち」
俯いて小さな声のまま叫ぶ彼が捨てられた仔猫みたいに見えて、そっと抱き締めた。他意はない、と言ったら嘘になるけれど深い意味はない。可哀相な生き物は守ってやりたくなるだけだった。ぎゅうと腕の力を強めれば、思い出したように暴れ出す。
「こら、光ちゃん。落ち着き」
「うーっ、つよ!離して!や、や」
「何が?」
「いや」
「光ちゃん、そんなんじゃやめへんよ」
「離し、て」
「お前なあ、良い大人なんやから抱き締められた位で騒がない」
「やって、剛が!」
「俺が?」
「……つよしの、におい、するんやもん」
これはさすがに不意打ちだった。何て可愛い事を言う子だろう。今まで付き合ったどんな女よりも可愛かった。駄目だ。いつもと変わらない様に見えて、実は剛自身も落ち着かない気持ちを持て余しているのだ。
どうしようなあ。彼の一生を得る為に、今の距離を選んだ。痛みのない、「相方」と言う関係。人間関係に臆病な人だから、一般的に定義のある関係にはなりたくなかった。他と比較をして、平均値であろうとする。友人でも恋人でも家族でも、代用の効くものになりたくはなかった。「相方」に代わりはない。働き続ける限り、生涯この位置は自分のものだった。例え解散しても、新しい人間を見付けられる程器用な人ではない。
一緒にいる為に選んだ関係を壊そうとしているのは、何故か。理由は余りにも簡単だった。もっと、愛してやりたい。キス一つでこんな風になってしまう相方を、相方以上の存在にしてしまいたい。
「光ちゃん」
「……なんや」
「髪、乾かしたるから、キスしてええ?」
「うん……っえぇ!」
脳内の接続も鈍くなっている光一は普段にない大袈裟なリアクションで顔を上げた。吃驚した瞳には、今にも零れ落ちそうな程水分が溜まっている。何でこんな、子供みたいなんやろ。舞台に立っている時は、誰をも寄せ付けない孤高の印象を与える人だった。凛とした背中に、後輩は彼と生きる事を夢見るのだ。
そんな強い人が、今自分の腕の中で何も出来ずに泣き出しそうになっていた。湧き上がる優越感を抑えようとは思わない。何者にも屈しない光一が、自分の事にだけ感情を揺らした。苦しませたり傷付ける事の方が多い関係だったけれど、彼の感情を左右出来る事が嬉しくて堪らない。
「キス、分からん?」
「な、なに……言って」
「ちゅーやがな。光ちゃんは相変わらず初心やなあ」
「う、うぶって……」
「光一、喋れてへん」
余り赤く染まる事のない頬が熟れた様になっているのが堪らず、動揺したままの光一に口付けた。フライングだけど、まあ良いでしょう。どうせ最初から最後まで、この人に拒絶なんてないのだ。触れただけで離せば、もうどうしたら良いのか分からないようで静止画像みたいに固まっていた。
「こーいち」
「……」
「光ちゃん」
「……っ」
「分かる?今、つよちゃんとキスしたんやで」
「あ!……っつ!うぇ、え!キ……っ」
「はいはい、落ち着こうな。ほら」
今度は目尻に口付ける。とうとう零れた雫を掬えば、本格的に顔を歪めて涙を溢れさせた。泣いている光一に遭遇出来る機会なんてそうそうない。同じ部屋で眠っていた幼い頃、嗚咽を堪えて泣く彼を抱き締めた事があるだけだった。あの夜から、大分遠い所まで来てしまったのだ。年月の長さに、二人分の道程を重ね合わせた。傍にいながら手を伸ばせなかった時期もある。見ない振りを出来る大人になったのに、手を出したい強欲な自分がいた。
「光ちゃん」
もう一度、乾燥した唇を潤す様にキスをする。自分の心を決める為だった。手放さずにいられるように、永遠を共に生きられるように。
「好き」
「……え」
「愛してる」
「……つ、つぉし?」
「ん?俺な、ずっとずっと光一の事が好きやった。相方として、やないよ?一人の人間として、って意味や」
「つぉし」
「お前、赤んぼみたいやなあ」
自分のシャツの裾を握る不器用な手や、真っ直ぐに見上げる瞳、舌足らずな言葉に彼の幼児性を見る。大人の部分と子供の部分をアンバランスに抱える人だった。成長する暇もない位、十代を駆け抜けてしまっている。今更そのひずみを治そうとしても無理な話だった。
赤い頬を両手で包んで、愛しい気持ちのままに見詰める。甘やかしたい衝動ばかりが胸に迫った。愛を囁ける様な人間ちゃうんやけどな。他人に対して臆病過ぎる彼が素直に理解出来るよう、言葉を重ねる。
「光一」
「……駄目。あかん。離して」
「どうして」
「や、って……俺、可笑しない?」
「何が?」
「心臓、痛い。あかん、俺お前とキスしたらあかん」
困惑し切った表情で視線を泳がせる。どうしたら、自覚してくれるのか。自分の気持ち一つ分からない光一。誰よりも強い様に見えて、すぐに崩れそうな弱さを持つ人。
伏せられた睫毛が怯えた気配で、ふるりと震えた。それを見詰めて、気付く。恋に落ちると言う事の意味に。分からなくても良いのかも知れない。光一の心は自分が分かっていた。自覚がなくても、自身の感情の揺れに怯えても。傍にいれば、良いのだと。
一人で納得して、身体を離した。これ以上触れていたら抑えが効かなくなるし、何より光一の心臓が壊れてしまう。最後にこめかみへ口付けを落として、未だ視点の定まらない瞳を覗き込んだ。
「風邪引く前に、ドライヤーしたろな」
「つよ、え……」
「ええよ。今はまだ分からんでも。いつでも話してやるから」
「でも、心臓痛いのは嫌や」
「んー、したらおまじないな。目ぇ瞑ってみ」
素直に瞼を下ろす彼にまた不安を覚えながら、赤く染まった耳朶に触れた。びくりと竦む身体に、本気で押し倒してやろうかと思う。いつまで我慢出来るんかな。
「つ!つぉ!」
「はは。言えてへんやん。ほら、立って。鏡の前行こか」
有無を言わさず腕を引いて、歩く事もままならない彼の髪に触れた。しっとりとした感触。少しだけ乾いてしまったそれを痛めない様に温風を当てた。自分の腕の中にいれば怖くないのだと言う事に、いつか気付けば良い。
今もまだ幼い光一の恋。「恋人」の関係になるまでは時間が掛かりそうで、スタッフの悲痛な顔を思い浮かべながら剛は一人笑った。まだまだ、猶予期間はありそうだ。唯一無二の「相方」の髪を乾かしながら、幸福な未来をそっと思い浮かべた。
けれど、舞台を離れれば一転して駄目になる。着替えている途中でぼんやり動きを止めてしまってマネージャーの手を煩わせたし(マネージャー曰く「この年齢で着替えを手伝う事になるとは思わなかった」との事)、稽古の帰り道に車を待たずふらふら外に出てしまい町田を焦らせたし、最近では減っていたのに平らな道でこけると言う器用な癖も再発してしまった。
そんな話を聞いて、剛は一人で笑いを噛み殺す。おどおどと視線の定まらない光一なんて久しぶりだった。出会った頃の不安定な子供を思い出す。自分がいてやらなければ、笑う事も泣く事も出来なかった。人生の半分以上を共に過ごして、今ではもう家族以上の存在になっている。魂の半分、運命の共有者、どう表現すれば自分と光一の関係を上手に示せるのかは未だに分からなかった。
そんな大切な相方の存在を、遠くから眺める。一緒の仕事は一年を通して僅かだった。年末年始の時期を逃せば、後は新曲のプロモーション期間位のものだ。けれど、離れているから分からない訳ではなかった。今でも多分、マネージャーやあの舞台のカンパニーの人間より彼の事を理解している。何を考え何を夢見て生きているのか。きっと、彼自身よりもはっきい見えていた。
だから剛には簡単なのだ。元旦を越えた後の不審の理由。明白過ぎて笑いたくなるけれど、原因が自分にある以上迂闊な事は出来なかった。
まさか、こんな所まで来て光一が変わってしまうなんてさすがに予想外ではある。まあ、それも楽しいかと剛は楽観的に笑った。世の中の全てを悲哀の眼差しで見詰めてしまうのに、何故か隣にいる存在だけは優しく肯定する事が出来る。幸福な人間ではなかった。それでも、自分の傍にいると嬉しそうに笑うから。煌めく瞳を信じてやりたかった。一緒にいる時は幸福だったら嬉しい、と。
隣の楽屋にいる光一へ思いを馳せながら、準備をする。いつもは部屋の間にある仕切りを取り払って貰うのに、何故か個室の状態になっていた。分かりやす過ぎて可哀相になるわ。全面的に避けられていると言うのに、剛に苦痛はない。避けられて嬉しいなんてMっぽいけど。
衣装に着替えて鏡の前で軽く髪も整えると、マネージャーに断りを入れてから光一の楽屋へ向かった。あっちの部屋に行くと言う断りではなく、人払いをしてくれと言う要求なのだけど。一瞬眉を顰めたものの、光一の現状を持て余しているマネージャーは素直に頷く。いつからか自分達の関係者は、二人でいる事を嫌がるようになった。原因がどちらにあるのかは分からない。けれど、多分本人よりも周囲の方が気付いているのだろう。二人の空気の変質を恐れて離されてしまった。
自覚のある剛はまだ良い。全く自覚せず唯真っ直ぐ相方へ愛情を傾ける光一の変化を周囲は恐れた。いつか、気付いてしまう前に。ソロ活動がそんな事の為に始められたなんて知ったら、彼は嫌がるだろう。勿論理由は光一の感情だけではないけれど、一緒の仕事を減らす事務所を見ているとあながち間違っていないのだと思った。
隣の楽屋の扉の前に立って、剛は自嘲気味に口角を上げる。マネージャーは、自分を止めるべきだった。光一の動揺はきっと舞台が始まれば消えてしまう。後僅かの我慢やったのにな。自分には自覚がある。現状を把握して動く事へのリスクを彼は考えた方が良かった。今更、止まるつもりもないけれど。
自分を見詰められずに視線を彷徨わせる光一が可愛かった。口付けた柔らかな感触はもう記憶から消えていて、少し驚く。記憶力は良い方なのだけれど、さすがに感覚を鮮明に残すのは難しいらしかった。会議の時なんかは辛辣な言葉を吐く癖に、拒絶する事も思い付かない身体。ずっと自分の物だったのではないかと勘違いしてしまいそうだった。
……否、実際自分の物なのだと思う。「相方」の定義を「唯一の存在」とするなら、ずっと昔から光一は自分の物だったし自分も光一の物だった。離れたり近付き過ぎたり、二人きりが故に苦しんだ過去もあるけれど、今は落ち着いた距離で立っている。
崩してしまっても良いのだろうか。自身に問い掛けて、けれど誰にも触れさせたくないと言う欲望が勝っていた。彼の髪の一本まで自分の物なのだと主張したい。
ふう、と息を吐くときっちり閉じられた扉をノックした。お前の心みたいやな。隙がなくて、そう簡単には開かれない。此処を躊躇なく開けられるのが自分一人であって欲しいと切に願った。抱え切れない愛情を向ける存在は、いつだってたった一人。
「光一ー入るでー」
返事がないのを良い事に、躊躇わず扉を開けた。こちらが構えれば、敏感に空気を感じ取って怯えるだろうから。野生の動物に近付くのと同じ手順で、相方へ近付いて行く。相変わらず広いスペースの隅に蹲る姿は、いたいけな何かに思えた。ふわふわした、甘い色の何か。
定番の黒いバスローブを羽織って、髪は濡れたままだった。稽古場から此処に来たと言っていたから、シャワーでも浴びたのだろう。同じ収録への準備なのに、衣装を着た自分と未だ焦点の定まらない光一。コンタクトもせずに、唯ぼんやりと自分の手許を見詰めていた。
重症、やな。マネージャーの言葉を借りる訳ではないが、まさかこんな年齢になって相方の恋煩いを見る事になるとは思わなかった。感情的な面で幼い部分も多い人だから、分からなくもなかったけれど。つい手を伸ばしたくなるのは。愛情以外の何者でもないだろう。彼の近くにいる人間全てが今の状態を持て余していても、自分には唯嬉しいばかりだった。
元旦の夜。どうして誰も気付かないんでしょうね。それとも気付きたくないのかな。はっきりと認識してしまえば事実になる事を、皆知っていた。十代の頃に引き離した感情。光一自身は今も気付いていない。
「光一。起きとるか?」
「……っ!」
「変な顔やなあ」
剛の存在に気付くと、面白い程慌てふためいて逃げようとした。背後には壁しかないのに。仕方のない人だと笑って、躊躇なく彼の目の前にしゃがみ込む。目線を合わせれば、声にならない声を上げて目を瞑った。こんなに何も出来ない光一は久しぶりに見る。もう少し遊びたくなって、そっと手を伸ばした。濡れたままの髪に指先を滑り込ませると、怯えた仕草で肩を竦める。
「髪、濡れたまんまやと体調崩すで」
「う、うん。……後でやる。だいじょぶ」
「光ちゃん、乾かしたろか」
懐かしい呼び方で甘く囁けば、瞬時に耳までを赤く染めた。可愛いなあ。手放す事は出来ないのだと、改めて思う。普段は呆れる程男前なのに。今は見る影もなく、自分の事だけで頭が一杯になっていた。
「い、良い!平気!出来るから!」
「光ちゃん、今日は何で部屋仕切ってんの?」
「……え、えーと。あ、だって入り時間違うし、剛寝てて後から俺入って煩くしたらあかんやろ」
「いっつも入りは別やろ」
「えー、えっと。あ!俺今日風邪気味やねん!だから移したあかん思うて」
「具合悪いのに、シャワー浴びたんか?」
切り抜ける事も出来そうにない言い訳を並べる光一に笑んで、髪を梳いていた手を額へ滑らせる。体温を計る振り。熱がない事なんて分かっていたけれど。更に赤くなるのが可愛くて、意地悪は止められそうもなかった。
「つ!つよ!」
「んー?熱はなさそうやなあ」
「っ平気、やから!なあ、剛も忙しいし、ええよ。自分で、出来るっ」
「こぉいち」
俯いて小さな声のまま叫ぶ彼が捨てられた仔猫みたいに見えて、そっと抱き締めた。他意はない、と言ったら嘘になるけれど深い意味はない。可哀相な生き物は守ってやりたくなるだけだった。ぎゅうと腕の力を強めれば、思い出したように暴れ出す。
「こら、光ちゃん。落ち着き」
「うーっ、つよ!離して!や、や」
「何が?」
「いや」
「光ちゃん、そんなんじゃやめへんよ」
「離し、て」
「お前なあ、良い大人なんやから抱き締められた位で騒がない」
「やって、剛が!」
「俺が?」
「……つよしの、におい、するんやもん」
これはさすがに不意打ちだった。何て可愛い事を言う子だろう。今まで付き合ったどんな女よりも可愛かった。駄目だ。いつもと変わらない様に見えて、実は剛自身も落ち着かない気持ちを持て余しているのだ。
どうしようなあ。彼の一生を得る為に、今の距離を選んだ。痛みのない、「相方」と言う関係。人間関係に臆病な人だから、一般的に定義のある関係にはなりたくなかった。他と比較をして、平均値であろうとする。友人でも恋人でも家族でも、代用の効くものになりたくはなかった。「相方」に代わりはない。働き続ける限り、生涯この位置は自分のものだった。例え解散しても、新しい人間を見付けられる程器用な人ではない。
一緒にいる為に選んだ関係を壊そうとしているのは、何故か。理由は余りにも簡単だった。もっと、愛してやりたい。キス一つでこんな風になってしまう相方を、相方以上の存在にしてしまいたい。
「光ちゃん」
「……なんや」
「髪、乾かしたるから、キスしてええ?」
「うん……っえぇ!」
脳内の接続も鈍くなっている光一は普段にない大袈裟なリアクションで顔を上げた。吃驚した瞳には、今にも零れ落ちそうな程水分が溜まっている。何でこんな、子供みたいなんやろ。舞台に立っている時は、誰をも寄せ付けない孤高の印象を与える人だった。凛とした背中に、後輩は彼と生きる事を夢見るのだ。
そんな強い人が、今自分の腕の中で何も出来ずに泣き出しそうになっていた。湧き上がる優越感を抑えようとは思わない。何者にも屈しない光一が、自分の事にだけ感情を揺らした。苦しませたり傷付ける事の方が多い関係だったけれど、彼の感情を左右出来る事が嬉しくて堪らない。
「キス、分からん?」
「な、なに……言って」
「ちゅーやがな。光ちゃんは相変わらず初心やなあ」
「う、うぶって……」
「光一、喋れてへん」
余り赤く染まる事のない頬が熟れた様になっているのが堪らず、動揺したままの光一に口付けた。フライングだけど、まあ良いでしょう。どうせ最初から最後まで、この人に拒絶なんてないのだ。触れただけで離せば、もうどうしたら良いのか分からないようで静止画像みたいに固まっていた。
「こーいち」
「……」
「光ちゃん」
「……っ」
「分かる?今、つよちゃんとキスしたんやで」
「あ!……っつ!うぇ、え!キ……っ」
「はいはい、落ち着こうな。ほら」
今度は目尻に口付ける。とうとう零れた雫を掬えば、本格的に顔を歪めて涙を溢れさせた。泣いている光一に遭遇出来る機会なんてそうそうない。同じ部屋で眠っていた幼い頃、嗚咽を堪えて泣く彼を抱き締めた事があるだけだった。あの夜から、大分遠い所まで来てしまったのだ。年月の長さに、二人分の道程を重ね合わせた。傍にいながら手を伸ばせなかった時期もある。見ない振りを出来る大人になったのに、手を出したい強欲な自分がいた。
「光ちゃん」
もう一度、乾燥した唇を潤す様にキスをする。自分の心を決める為だった。手放さずにいられるように、永遠を共に生きられるように。
「好き」
「……え」
「愛してる」
「……つ、つぉし?」
「ん?俺な、ずっとずっと光一の事が好きやった。相方として、やないよ?一人の人間として、って意味や」
「つぉし」
「お前、赤んぼみたいやなあ」
自分のシャツの裾を握る不器用な手や、真っ直ぐに見上げる瞳、舌足らずな言葉に彼の幼児性を見る。大人の部分と子供の部分をアンバランスに抱える人だった。成長する暇もない位、十代を駆け抜けてしまっている。今更そのひずみを治そうとしても無理な話だった。
赤い頬を両手で包んで、愛しい気持ちのままに見詰める。甘やかしたい衝動ばかりが胸に迫った。愛を囁ける様な人間ちゃうんやけどな。他人に対して臆病過ぎる彼が素直に理解出来るよう、言葉を重ねる。
「光一」
「……駄目。あかん。離して」
「どうして」
「や、って……俺、可笑しない?」
「何が?」
「心臓、痛い。あかん、俺お前とキスしたらあかん」
困惑し切った表情で視線を泳がせる。どうしたら、自覚してくれるのか。自分の気持ち一つ分からない光一。誰よりも強い様に見えて、すぐに崩れそうな弱さを持つ人。
伏せられた睫毛が怯えた気配で、ふるりと震えた。それを見詰めて、気付く。恋に落ちると言う事の意味に。分からなくても良いのかも知れない。光一の心は自分が分かっていた。自覚がなくても、自身の感情の揺れに怯えても。傍にいれば、良いのだと。
一人で納得して、身体を離した。これ以上触れていたら抑えが効かなくなるし、何より光一の心臓が壊れてしまう。最後にこめかみへ口付けを落として、未だ視点の定まらない瞳を覗き込んだ。
「風邪引く前に、ドライヤーしたろな」
「つよ、え……」
「ええよ。今はまだ分からんでも。いつでも話してやるから」
「でも、心臓痛いのは嫌や」
「んー、したらおまじないな。目ぇ瞑ってみ」
素直に瞼を下ろす彼にまた不安を覚えながら、赤く染まった耳朶に触れた。びくりと竦む身体に、本気で押し倒してやろうかと思う。いつまで我慢出来るんかな。
「つ!つぉ!」
「はは。言えてへんやん。ほら、立って。鏡の前行こか」
有無を言わさず腕を引いて、歩く事もままならない彼の髪に触れた。しっとりとした感触。少しだけ乾いてしまったそれを痛めない様に温風を当てた。自分の腕の中にいれば怖くないのだと言う事に、いつか気付けば良い。
今もまだ幼い光一の恋。「恋人」の関係になるまでは時間が掛かりそうで、スタッフの悲痛な顔を思い浮かべながら剛は一人笑った。まだまだ、猶予期間はありそうだ。唯一無二の「相方」の髪を乾かしながら、幸福な未来をそっと思い浮かべた。
過去も今も未来も。
ずっと、ずっと。
「相葉さん。今日はすぐ帰れるんでしょ」
コンサートが終わって、楽屋で着替える。
俺が帰り支度を終えた頃、ようやく戻って来た相葉さん。
事務所の先輩後輩が一気に集まるこういう場では、この人は色んなところからお呼びが掛かる。
それは、まぁ俺も似たようなもんだけど、適度にかわすことが出来るのと出来ないのと、俺は前者で相葉さんは後者。
「うーんと、いつものうどん屋さん行くでしょ、そしたら飲みに行こうかって…」
不器用に衣装を脱ぎながら、舌足らずでハスキーな声が告げる。
予想していた答えだ。
どうせ某二人組のあの人やら、某関西グループのあいつやら…その辺りからの誘いでしょうね。
「で、何て答えたんですか」
自分でも若干口調がキツクなったのが分かる。
その証拠に関係無いはずのキャプテンと翔くんが寒気でもするように背筋を震えさせながら、こちらに視線を向けないようにして楽屋を出て行く。
ちなみに潤くんは、まだ戻って来ていない。
行き先は考えるまでも無い。
今頃は山P相手に彼の取り合いをしていることでしょう。
「んー、断っては…ない」
なるべくこっちを見ないようにしながら着替え終えた相葉さんは、髪の毛を整えながら微妙な言い回しをする。
誘われるの大好き、飲むのも大好き、で甘やかされるのも大好き。
そんなこの人が、自覚は無いかもしれないけど、自分が好かれてて、限りなく甘やかしてくれる相手からの誘いを断るはずも無い。
俺はばれないように溜息を吐きながら、鏡に向かう後姿にそっと近付いた。
俺よりも身長の高い相葉さんを後ろから抱き締める。
「貴方って人は、どうして…」
抱き締めたら、びくり、と震えた姿はまるで小動物みたいだった。
耳元で囁いたら、鏡の中の相葉さんが大きな眸をぎゅっと閉じた。
「だっ…て、久し振りだったし…」
ぴったりとくっつけた身体、相葉さんの鼓動がどんどん速くなっていくのが分かる。
可愛い反応。
やっぱり行かせるわけにはいかない。
「相葉さん…」
意図的に声を作って、薄い耳朶を甘噛みした。
弱いの、知ってるからね。
それから、細い、細い首筋に口付けを一つ、落とした。
「に、の…」
消え入りそうな声で、拒絶の色を含んだ口調で俺の名前を呼んだ。
薄い胸を服の上から弄る。
流石にまずいと思ったのか、相葉さんが弱弱しく俺の手を掴んだ。
それを無視して、見付けた引っ掛かりを引っ掻くようにしたら、ひゅっと息を吸い込んだ。
「ゃ…め、にの…ぁ…」
口唇から漏れる掠れ声。
細い身体が小刻みに震える。
敏感な耳を濡らして、華奢な首筋に幾つもキスを落とした。
「も…ぉ、ゃだ…にの…」
がくがくと震える身体を支えきれなくなって、床にへたり込んでしまった相葉さんが涙がたくさん溜まって、潤潤した大きな黒い目で上目遣いに俺を睨む。
もちろん、全く怖くなんてない。
「おまえ…ずるい、よ」
ここは楽屋だし、外に人だってたくさん行き来してるし、何よりいつ潤くんが帰って来るか分からないし。
そんな場所で最後までする気なんて無い。
相葉さんだって俺がそんな気が無いのは分かってる。
ただ、行かせたく無かっただけなんです。
それだって、きっと相葉さんにはばれてしまっている。
「初めて逢った時から、今、この瞬間も」
俺はしゃがんで、相葉さんの大きな眸を覗き込んだ。
そこには、割りと情けない顔をした自分がしっかりと映っていた。
「貴方は、俺だけのものなんです」
正面から強く抱き締めて、想いを込めて囁いた。
誰が愛したって、誰が欲しがったって。
この目の前にいる、愛しい人は俺のものなんです。
俺が手に入れた、唯一無二の。
「分かってるよ、にの」
相葉さんが、俺の背中に腕を回して抱き締め返してくれて。
優しい声で言った。
「今年もよろしく。ずっと、一緒にいられるといいね」
子供みたいな俺の独占欲。
欲しいのはこの人だけ。
子供みたいな俺の願い。
叶えられるのはこの人だけ。
+++++
告白をした夜から、光一の元気がないのには気付いている。元々小食だったのが更に酷くなっていたし、仕事から帰って来るとぐったりした様子でそのまま眠ってしまう事も少なくなかった。危ないとは知っている。彼は弱さを晒したがらない人だから、こんな風に自分の前で辛い部分を見せている段階で殆ど限界を超えていた。
分かってはいても、原因を作ったのが自分である以上、掛けるべき言葉は見付けられない。どうすれば良かったのか。やはり何も言わず「親子」を続けて行くべきだったのか。分からない。だって言わなければ「親子」の関係すら崩れてしまっただろう。堂本剛と言う人間の根底には、光一の存在がある事を知って欲しかった。
けれど、毎日少しずつ内側から壊れて行く養父を、子供として守りたい気持ちも本当だ。自分達はずっと二人きりだったから。どちらかが倒れたらどちらかが守らなければならない。親であろうが子供であろうが、その関係性の背負い方に差異はなかった。共に生きるとは、そう言う事なのだ。
いつものように光一を起こしてから、剛は学校へ向かった。最近ますます口数の少ない彼が何を考えているのかは分からない。唯自分はこれ以上悪くならないよう、形だけの日常を作って行くだけだ。どうにかしてあげたいとは思うけれど、光一にとっての最良と自分にとっての最良は、全く違うものだから。
午後の授業の為に菜園から移動している時だった。制服のポケットに入れていた携帯が着信を告げて震える。メールではなく電話だった。滅多に鳴らない筈のそれに不安を感じて慌てて取り出す。表示されているのは、長瀬の名前だった。
「剛君?」
「ごめん、電話や」
隣を歩く岡田に一言断りを入れて、そのまま通話ボタンを押す。途端に流れ込んで来た一人の男の大声に、剛は僅かに眉を顰めた。
「もしもし」
「もしもし、つよちゃん?授業中じゃない?大丈夫、今?」
「うん」
「あいつには言うなって口止めされてるんだけど、やっぱ心配だし」
「……何?」
「光一が倒れた」
「えっ!」
自分の声に、岡田はそっと視線を向けた。静謐の中にある瞳が幾らか気分を落ち着かせてくれる。
「俺、たまたま夜勤明けだったから一緒に病院行ったの」
「……診断結果は?」
「過労と軽度の栄養失調。今、薬貰いに行ってる。受験生のつよちゃんに頼んで良い事じゃないとは思ったんだけど。光一心配だし。早退とか、して貰えないかな」
「勿論そのつもりや。て言うか、長ちゃんごめんな。仕事終わりやったら疲れとるやろ」
「俺は全然平気。じゃあ、タクシーで家まで連れて行くから」
「うん。お願いします」
電話越しだけど僅かに頭を下げた。通話を終えて頭を切り替える。いつかこうなるだろう事は分かっていた。想定して然るべき事態だ。長瀬がいてくれて良かったと、心から思った。
「剛君……」
「光一が、倒れた」
「そっか。帰るんやろ」
「うん」
「なら、そのまま行き。後は僕がどうにかしたるわ」
「岡田」
「ほら、急いで。光一君より先に帰らな」
岡田の言葉にはいつも無駄がない。必要外の事は殆ど言わないのに、どうして優しく感じるんだろうと思って、多分彼の表情がいつも穏やかだからだと気付いた。光一と同じ種類の優しさを持っている。だから、岡田にも惹かれたのだと自分の分かりやすさに苦笑した。
「ありがと、岡田」
「うん。光一君大事にしてやって」
彫刻のような顔が繊細に動いて笑顔を作る。手を振ってその場を後にすると、一度教室に戻って鞄を持ち学校を出る。急げばきっと光一より先に家に着ける筈だった。
心臓がぎしりと音を立てて歪む。痛んだ分だけ肌を真紅が伝えば分かりやすかったのに。苦しんでもどれだけ辛くても、光一には見えない。お前を思う気持ちを目の前に差し出せれば良かったな。そうしたら、もっと簡単に伝わる気がした。心臓に直接触れて、その指先が赤く染まったら良い。
叶う事のない妄想は、剛の中で留まる事を知らず膨張を続けた。彼を愛おしむ心。失ったら自分が自分でなくなってしまうだろう。生きる事すら出来ないと真剣に考えて、本当にもうこの恋は引き返す事が出来ない場所まで来ているのだと自嘲した。
光一に辛い思いをさせたい訳じゃない。けれど、遠く離れて親として愛する事を決める程の潔さは持ち合わせていなかった。彼を慈しむのは、いつでも自分でありたいのに。
アパートに剛が到着するのと、タクシーが停まるのはほぼ同時だった。長瀬に抱き上げられて車を降りる光一を見付けて走り寄る。色を失った頬、更に細くなった肩。長瀬の腕の中で光一は余りにも不健康だった。意識がないのか、眠っているのか。目を閉じたまま微動だにしなかった。
「光一!」
「……静かにしてやって。薬が効いて来て、タクシーん中で寝ちゃったから」
大きな長瀬は、華奢な身体を軽々と抱えている。自分には出来ない事だった。一瞬、眉を顰めてしまったのを長瀬に気付かれる。鞄を持ってと言われ、そのまま視線を外した。
「つよちゃん」
「……ん。はよ入ろ。光一の身体冷えてまう」
「こっち向け」
普段は優し過ぎる程に大らかで穏やかな人間だけれど、自分の中にある正義を曲げないからいざと言う時は驚く程頑固だ。アパートの階段の手前で、仕方なく振り返った。現実を知るのは辛い。
「つよちゃん。これが今の光一との差だよ。どんなにこいつを守りたくたって、まだつよちゃんは子供だ。子供である事が悪いなんて言わない。でも、この差をちゃんと考えろ。つよちゃんから見た光一との距離なんかじゃない。光一から見たつよちゃんの距離だ。こいつを愛してるんなら、逃げるな。現実をちゃんと見ろよ。困らせて苦しませて、こいつを泣かせるな」
「長ちゃん……」
光一の白い肌が悲しい。愛する気持ち一つではどうにもならない現実を思い知らされた。光一との差異ばかり気にしていた自分は、彼自身の痛みに鈍感ではなかったか。自分の恋を言い訳にして、苦しむ彼の内面を蔑ろにしていたのではなかったか。
長瀬の容赦ない言葉に頭を殴られたような気分だった。光一の場所から見える自分達と、剛から見た自分達とでは決定的な違いがある。親が子を愛する事。他人の子供を奪ってしまった負い目。手放さない為の責任と、親であるが事の自負。全てを自分の為だけに背負ってくれている人だった。気持ち一つで動く事の出来ないしがらみがあった。
「つよちゃんも光一も偉いな」
「何処も偉くなんか……」
「偉いよ。お互いの事大事にしてるの、すっげー分かる。光一は倒れちゃう位までお前の事で悩んでる。お前だって、光一の為にずっと自分の気持ち言わなかったじゃん。一緒に生きて行く為の努力、だろ」
偉い、ともう一度言われて言葉に詰まった。何も言えないまま部屋に入る。偉くなんかなかった。唯の子供の我儘だ。光一の愛情に甘えていた。彼が離れる事はないのだと言う傲慢な確信があった。守る事も出来ない癖に。布団を敷くと、その上に光一を横たえた。長瀬の手は、簡単に彼を守る。
「じゃあ、俺帰るな」
「え、でも……」
「つよちゃんがいるんだから、俺に出来る事はもうないよ」
ぽん、と気安く頭を撫でられた。友人のようで兄のような、もしかしたら光一よりも父親らしい存在かも知れない。長瀬の周りにはいつでも光があった。明るい場所へ導くそれに嫉妬して、けれど彼が光一の友人で良かったと心から思う。
何かあったら夜中でも構わないから連絡しろよ、と言いながら部屋を出て行った。二人きりの場所には沈黙だけが残る。眠る光一の表情は穏やかだった。倒れる前に手を伸ばせば良かったと、後悔しても遅い。血の気のない顔は、世界の全てを拒絶しているようにさえ見えた。後悔はしないと決めている。けれど、その決意すら鈍りそうな程光一は弱っていた。誰でもない、自分の為だけに。
+++++
光一が目を覚まさないまま、夜を越えてしまった。どうする事も出来ず傍らにいた剛は、一睡も出来ずに太陽が昇るのを見詰める。朝の白い光の中、眩まないよう細心の注意を払った。世の中の雑音に惑わされず、自分の心の声を聞く。世間体も見栄も、「普通で」ある事も全て。光一への愛情に比べたら些細な事でしかなかった。自分が欲しい物はたった一つ。就職を決意した時にもう、覚悟してしまった。光一が何を不安に思うと、逃げるつもり等ない。浅い呼吸で眠る彼を見詰めながら、自分は生涯この人だけを愛するのだろうと確信の中思った。
起きたら嫌がるかも知れないと考えながら、光一の会社へ欠勤の連絡を入れようと立ち上がる。幸い今日は金曜日だし、週末をゆっくり過ごせば体力も回復するだろう。自分も休んで後で買い出しに行こうと決めた。光一が好きな物を作ってやりたい。どうせ食べられないのだけど、少しでも口に入れられるように。
携帯を手にしてメモリーを開くより先に着信音が響く。画面には昨日と同じ長瀬の文字。豪快なようでいて繊細に人を気遣える事を知っていた。心配してくれているのだろう。
「もしもし、長ちゃん?」
「おう、おはよう剛。どう?大丈夫?」
「うん、昨日から寝たまんまで全然起きないんです。会社休ませよう思って」
「そうだな、それが良いよ。あ、会社にはじゃあ俺が連絡しておく」
「え、いや、ええよ。俺自分で出来るし」
「大丈夫大丈夫。あのね、こう言う時は甘えなさい。俺が出来るのなんてこんなもんなんだからさ」
「……ありがと」
「いえいえ。一応心配してるからさ光一目ぇ覚めたら俺にも連絡ちょうだい」
「ん、分かった」
じゃあね、と明るい声で回線は途切れる。後ろからは子供の声が聞こえていた。きっと賑やかな家庭なのだろう。自分達のひっそりとした部屋とは全然違う空気。彼が大黒柱なのだから当たり前だった。幸福は当たり前の感覚で彼らの中にある。ほんの少し羨ましいと思って、自分もいつか光一に幸福を見せられたら良いと思った。今は唯静かに眠る。世界の全てを拒絶する様に。
振り返って見詰めた先の光景が余りに綺麗で息を呑む。光の粒子さえ見えるほどの白い陽光の中、彫刻の様に整った養父が身じろぎもせず横たわっていた。光が茶色い髪の先で踊っている。朝の神聖さを切り取った不思議な景色だった。
ぼんやりと白い光一を眺めながら、暫く動きを止める。昔はもっと彼の色々な表情を見ていた筈だ。いつの間に、一緒にいる時間が減ってしまったのか。誰よりも近くにいたかった。朝から夜まで傍にいたいと願った事もある。
大切で愛しくて仕方のない人だったのに。光一を見詰める時間すら失っていたなんて。彼が目覚めるまで、もう少し此処にいよう。買い物も後にいして、唯日が昇るに任せてしまいたかった。きらきらと光る毛先に指先を絡ませて、誰にもばれない様に大人びた笑みを零す。光一が嫌がる、子供らしさのない表情だった。
+++++
午後を過ぎた頃、城島から連絡が入った。どうやら光一が倒れた事を知っているらしい。「栄養のつくもん食べさせたるからウチにいらっしゃい」と柔らかな声が告げた。断る理由もなかったし、結局買い物には行けていないから目覚めた光一が寝惚けている内に連れ出したのだ。
園長室に入った辺りでやっと瞳が焦点を取り戻した。少し焦ったみたいな表情をして、それからゆっくり剛の方を向く。迷子の子供の仕草だった。
「つ、よし?」
「うん。光一、覚えてる?」
「え、やって俺、あれ……」
全く状況を把握していない彼に苦笑して、きちんと説明してやる。まだ思考回路が完全ではないだろうから、なるべく易しい言葉で。
「具合悪くて、長ちゃんに連れられて病院行ったんや。んで、帰り道のタクシーで寝てもうて、今やっと目が覚めたんよ」
「俺、会社!」
「会社は長ちゃんが連絡してくれた」
「お前は?」
「病欠」
「……俺ん事なんかで休むなや」
「お前の事やからやろ」
真剣な声音で告げれば、苦しむ顔で眉を寄せた。子供が親を大事にする愛情だとは、もう取って貰えないらしい。進歩なのか、悲しむべき事なのか。判別出来なかった。光一を苦しめたくはない。
すぐに城島が入って来て、部屋の空気が一変した。明らかに安堵した表情を見せる彼の横顔を気付かれない様見詰める。顔色が良いとは言えない。脳味噌が働いていないのはいつもの事としても、回復するのには時間が掛かりそうだった。そんなに悩む事を渡したつもりなんてないのに。
光一の身体の中を自分で一杯にしたいと何度も思って、その度に不可能な事だと己を笑った。二人だけで生きて来たけれど、世界はもっと複雑な要素が絡み合って構築されている。
けれど、今の彼の状態は正に望んでいたものではなかったか。恋じゃなくても、光一は自分の一挙手一投足で感情を揺らしている。それは、子供の将来を案ずる親の愛情の域を出ていないのかも知れないけれど。
「
告白をした夜から、光一の元気がないのには気付いている。元々小食だったのが更に酷くなっていたし、仕事から帰って来るとぐったりした様子でそのまま眠ってしまう事も少なくなかった。危ないとは知っている。彼は弱さを晒したがらない人だから、こんな風に自分の前で辛い部分を見せている段階で殆ど限界を超えていた。
分かってはいても、原因を作ったのが自分である以上、掛けるべき言葉は見付けられない。どうすれば良かったのか。やはり何も言わず「親子」を続けて行くべきだったのか。分からない。だって言わなければ「親子」の関係すら崩れてしまっただろう。堂本剛と言う人間の根底には、光一の存在がある事を知って欲しかった。
けれど、毎日少しずつ内側から壊れて行く養父を、子供として守りたい気持ちも本当だ。自分達はずっと二人きりだったから。どちらかが倒れたらどちらかが守らなければならない。親であろうが子供であろうが、その関係性の背負い方に差異はなかった。共に生きるとは、そう言う事なのだ。
いつものように光一を起こしてから、剛は学校へ向かった。最近ますます口数の少ない彼が何を考えているのかは分からない。唯自分はこれ以上悪くならないよう、形だけの日常を作って行くだけだ。どうにかしてあげたいとは思うけれど、光一にとっての最良と自分にとっての最良は、全く違うものだから。
午後の授業の為に菜園から移動している時だった。制服のポケットに入れていた携帯が着信を告げて震える。メールではなく電話だった。滅多に鳴らない筈のそれに不安を感じて慌てて取り出す。表示されているのは、長瀬の名前だった。
「剛君?」
「ごめん、電話や」
隣を歩く岡田に一言断りを入れて、そのまま通話ボタンを押す。途端に流れ込んで来た一人の男の大声に、剛は僅かに眉を顰めた。
「もしもし」
「もしもし、つよちゃん?授業中じゃない?大丈夫、今?」
「うん」
「あいつには言うなって口止めされてるんだけど、やっぱ心配だし」
「……何?」
「光一が倒れた」
「えっ!」
自分の声に、岡田はそっと視線を向けた。静謐の中にある瞳が幾らか気分を落ち着かせてくれる。
「俺、たまたま夜勤明けだったから一緒に病院行ったの」
「……診断結果は?」
「過労と軽度の栄養失調。今、薬貰いに行ってる。受験生のつよちゃんに頼んで良い事じゃないとは思ったんだけど。光一心配だし。早退とか、して貰えないかな」
「勿論そのつもりや。て言うか、長ちゃんごめんな。仕事終わりやったら疲れとるやろ」
「俺は全然平気。じゃあ、タクシーで家まで連れて行くから」
「うん。お願いします」
電話越しだけど僅かに頭を下げた。通話を終えて頭を切り替える。いつかこうなるだろう事は分かっていた。想定して然るべき事態だ。長瀬がいてくれて良かったと、心から思った。
「剛君……」
「光一が、倒れた」
「そっか。帰るんやろ」
「うん」
「なら、そのまま行き。後は僕がどうにかしたるわ」
「岡田」
「ほら、急いで。光一君より先に帰らな」
岡田の言葉にはいつも無駄がない。必要外の事は殆ど言わないのに、どうして優しく感じるんだろうと思って、多分彼の表情がいつも穏やかだからだと気付いた。光一と同じ種類の優しさを持っている。だから、岡田にも惹かれたのだと自分の分かりやすさに苦笑した。
「ありがと、岡田」
「うん。光一君大事にしてやって」
彫刻のような顔が繊細に動いて笑顔を作る。手を振ってその場を後にすると、一度教室に戻って鞄を持ち学校を出る。急げばきっと光一より先に家に着ける筈だった。
心臓がぎしりと音を立てて歪む。痛んだ分だけ肌を真紅が伝えば分かりやすかったのに。苦しんでもどれだけ辛くても、光一には見えない。お前を思う気持ちを目の前に差し出せれば良かったな。そうしたら、もっと簡単に伝わる気がした。心臓に直接触れて、その指先が赤く染まったら良い。
叶う事のない妄想は、剛の中で留まる事を知らず膨張を続けた。彼を愛おしむ心。失ったら自分が自分でなくなってしまうだろう。生きる事すら出来ないと真剣に考えて、本当にもうこの恋は引き返す事が出来ない場所まで来ているのだと自嘲した。
光一に辛い思いをさせたい訳じゃない。けれど、遠く離れて親として愛する事を決める程の潔さは持ち合わせていなかった。彼を慈しむのは、いつでも自分でありたいのに。
アパートに剛が到着するのと、タクシーが停まるのはほぼ同時だった。長瀬に抱き上げられて車を降りる光一を見付けて走り寄る。色を失った頬、更に細くなった肩。長瀬の腕の中で光一は余りにも不健康だった。意識がないのか、眠っているのか。目を閉じたまま微動だにしなかった。
「光一!」
「……静かにしてやって。薬が効いて来て、タクシーん中で寝ちゃったから」
大きな長瀬は、華奢な身体を軽々と抱えている。自分には出来ない事だった。一瞬、眉を顰めてしまったのを長瀬に気付かれる。鞄を持ってと言われ、そのまま視線を外した。
「つよちゃん」
「……ん。はよ入ろ。光一の身体冷えてまう」
「こっち向け」
普段は優し過ぎる程に大らかで穏やかな人間だけれど、自分の中にある正義を曲げないからいざと言う時は驚く程頑固だ。アパートの階段の手前で、仕方なく振り返った。現実を知るのは辛い。
「つよちゃん。これが今の光一との差だよ。どんなにこいつを守りたくたって、まだつよちゃんは子供だ。子供である事が悪いなんて言わない。でも、この差をちゃんと考えろ。つよちゃんから見た光一との距離なんかじゃない。光一から見たつよちゃんの距離だ。こいつを愛してるんなら、逃げるな。現実をちゃんと見ろよ。困らせて苦しませて、こいつを泣かせるな」
「長ちゃん……」
光一の白い肌が悲しい。愛する気持ち一つではどうにもならない現実を思い知らされた。光一との差異ばかり気にしていた自分は、彼自身の痛みに鈍感ではなかったか。自分の恋を言い訳にして、苦しむ彼の内面を蔑ろにしていたのではなかったか。
長瀬の容赦ない言葉に頭を殴られたような気分だった。光一の場所から見える自分達と、剛から見た自分達とでは決定的な違いがある。親が子を愛する事。他人の子供を奪ってしまった負い目。手放さない為の責任と、親であるが事の自負。全てを自分の為だけに背負ってくれている人だった。気持ち一つで動く事の出来ないしがらみがあった。
「つよちゃんも光一も偉いな」
「何処も偉くなんか……」
「偉いよ。お互いの事大事にしてるの、すっげー分かる。光一は倒れちゃう位までお前の事で悩んでる。お前だって、光一の為にずっと自分の気持ち言わなかったじゃん。一緒に生きて行く為の努力、だろ」
偉い、ともう一度言われて言葉に詰まった。何も言えないまま部屋に入る。偉くなんかなかった。唯の子供の我儘だ。光一の愛情に甘えていた。彼が離れる事はないのだと言う傲慢な確信があった。守る事も出来ない癖に。布団を敷くと、その上に光一を横たえた。長瀬の手は、簡単に彼を守る。
「じゃあ、俺帰るな」
「え、でも……」
「つよちゃんがいるんだから、俺に出来る事はもうないよ」
ぽん、と気安く頭を撫でられた。友人のようで兄のような、もしかしたら光一よりも父親らしい存在かも知れない。長瀬の周りにはいつでも光があった。明るい場所へ導くそれに嫉妬して、けれど彼が光一の友人で良かったと心から思う。
何かあったら夜中でも構わないから連絡しろよ、と言いながら部屋を出て行った。二人きりの場所には沈黙だけが残る。眠る光一の表情は穏やかだった。倒れる前に手を伸ばせば良かったと、後悔しても遅い。血の気のない顔は、世界の全てを拒絶しているようにさえ見えた。後悔はしないと決めている。けれど、その決意すら鈍りそうな程光一は弱っていた。誰でもない、自分の為だけに。
+++++
光一が目を覚まさないまま、夜を越えてしまった。どうする事も出来ず傍らにいた剛は、一睡も出来ずに太陽が昇るのを見詰める。朝の白い光の中、眩まないよう細心の注意を払った。世の中の雑音に惑わされず、自分の心の声を聞く。世間体も見栄も、「普通で」ある事も全て。光一への愛情に比べたら些細な事でしかなかった。自分が欲しい物はたった一つ。就職を決意した時にもう、覚悟してしまった。光一が何を不安に思うと、逃げるつもり等ない。浅い呼吸で眠る彼を見詰めながら、自分は生涯この人だけを愛するのだろうと確信の中思った。
起きたら嫌がるかも知れないと考えながら、光一の会社へ欠勤の連絡を入れようと立ち上がる。幸い今日は金曜日だし、週末をゆっくり過ごせば体力も回復するだろう。自分も休んで後で買い出しに行こうと決めた。光一が好きな物を作ってやりたい。どうせ食べられないのだけど、少しでも口に入れられるように。
携帯を手にしてメモリーを開くより先に着信音が響く。画面には昨日と同じ長瀬の文字。豪快なようでいて繊細に人を気遣える事を知っていた。心配してくれているのだろう。
「もしもし、長ちゃん?」
「おう、おはよう剛。どう?大丈夫?」
「うん、昨日から寝たまんまで全然起きないんです。会社休ませよう思って」
「そうだな、それが良いよ。あ、会社にはじゃあ俺が連絡しておく」
「え、いや、ええよ。俺自分で出来るし」
「大丈夫大丈夫。あのね、こう言う時は甘えなさい。俺が出来るのなんてこんなもんなんだからさ」
「……ありがと」
「いえいえ。一応心配してるからさ光一目ぇ覚めたら俺にも連絡ちょうだい」
「ん、分かった」
じゃあね、と明るい声で回線は途切れる。後ろからは子供の声が聞こえていた。きっと賑やかな家庭なのだろう。自分達のひっそりとした部屋とは全然違う空気。彼が大黒柱なのだから当たり前だった。幸福は当たり前の感覚で彼らの中にある。ほんの少し羨ましいと思って、自分もいつか光一に幸福を見せられたら良いと思った。今は唯静かに眠る。世界の全てを拒絶する様に。
振り返って見詰めた先の光景が余りに綺麗で息を呑む。光の粒子さえ見えるほどの白い陽光の中、彫刻の様に整った養父が身じろぎもせず横たわっていた。光が茶色い髪の先で踊っている。朝の神聖さを切り取った不思議な景色だった。
ぼんやりと白い光一を眺めながら、暫く動きを止める。昔はもっと彼の色々な表情を見ていた筈だ。いつの間に、一緒にいる時間が減ってしまったのか。誰よりも近くにいたかった。朝から夜まで傍にいたいと願った事もある。
大切で愛しくて仕方のない人だったのに。光一を見詰める時間すら失っていたなんて。彼が目覚めるまで、もう少し此処にいよう。買い物も後にいして、唯日が昇るに任せてしまいたかった。きらきらと光る毛先に指先を絡ませて、誰にもばれない様に大人びた笑みを零す。光一が嫌がる、子供らしさのない表情だった。
+++++
午後を過ぎた頃、城島から連絡が入った。どうやら光一が倒れた事を知っているらしい。「栄養のつくもん食べさせたるからウチにいらっしゃい」と柔らかな声が告げた。断る理由もなかったし、結局買い物には行けていないから目覚めた光一が寝惚けている内に連れ出したのだ。
園長室に入った辺りでやっと瞳が焦点を取り戻した。少し焦ったみたいな表情をして、それからゆっくり剛の方を向く。迷子の子供の仕草だった。
「つ、よし?」
「うん。光一、覚えてる?」
「え、やって俺、あれ……」
全く状況を把握していない彼に苦笑して、きちんと説明してやる。まだ思考回路が完全ではないだろうから、なるべく易しい言葉で。
「具合悪くて、長ちゃんに連れられて病院行ったんや。んで、帰り道のタクシーで寝てもうて、今やっと目が覚めたんよ」
「俺、会社!」
「会社は長ちゃんが連絡してくれた」
「お前は?」
「病欠」
「……俺ん事なんかで休むなや」
「お前の事やからやろ」
真剣な声音で告げれば、苦しむ顔で眉を寄せた。子供が親を大事にする愛情だとは、もう取って貰えないらしい。進歩なのか、悲しむべき事なのか。判別出来なかった。光一を苦しめたくはない。
すぐに城島が入って来て、部屋の空気が一変した。明らかに安堵した表情を見せる彼の横顔を気付かれない様見詰める。顔色が良いとは言えない。脳味噌が働いていないのはいつもの事としても、回復するのには時間が掛かりそうだった。そんなに悩む事を渡したつもりなんてないのに。
光一の身体の中を自分で一杯にしたいと何度も思って、その度に不可能な事だと己を笑った。二人だけで生きて来たけれど、世界はもっと複雑な要素が絡み合って構築されている。
けれど、今の彼の状態は正に望んでいたものではなかったか。恋じゃなくても、光一は自分の一挙手一投足で感情を揺らしている。それは、子供の将来を案ずる親の愛情の域を出ていないのかも知れないけれど。
「
+++++
三年前にも似たような事があった。一緒に暮らし始めて五年、剛が高校受験を控えた冬の事だ。二人で肩を寄せ合って生きていたからと言って、全ての生活が上手く行っていた訳ではなかった。離れそうになる手を何度も繋ぎ直して生きている。
あの時も同じように、光一は剛の高校進学を希望していた。私立でも公立でも資金面で問題がないよう、ずっと積立を続けている。自分の力不足で、剛の未来を狭めたくはなかった。なのに、彼が望んだのは夜間学校への進学だった。
剛の葛藤が分からなかった訳ではない。全くの他人である自分に頼って生きるのは、気が引けたのだろう。中学校までは義務教育だけど、これからは違った。生き方の選択が出来るのだ。社会生活への第一歩と言っても過言ではなかった。
と言っても、今の時代は高校へ行くのが当然の選択で、光一自身もその感覚のまま大学まで進学している。まさか、こんなところで躓くなんて思っていなかった。剛の幼い時から変わらない強い瞳に、真摯な決意を見付けてぞっとする。どうしてそんなに潔く決断出来るのか。当たり前と思って進学を薦めた自分と、悩みに悩んで自分の人生を選んだ剛とでは、厳然たる差があった。彼の結論を覆す説得力がない。
あの時焦っていたのは、光一だった。自分の思うようにならない事実を変えようとする様は、まるで幼い駄々っ子だ。みっともないと今なら言えるけれど、剛の瞳に気圧されて唯ひたすら必死だった。その為に、彼を傷付けてしまう位には。
今でも、何が決定的な理由だったのかは分からない。幾つも投げた言葉の内のどれが剛の心臓を抉ってしまったのか。優しい少年は、今も黙秘権を行使したままだった。明確な理由は分からないけれど、新月の夜剛は家を出たのだった。
まだあの頃は、一緒に布団を並べて眠っていたように思う。どうしても思い留まって欲しくて、剛の作った夕食を食べながら不用意に言葉を重ねてしまった。借り物の、頭ごなしの説教ばかり。あの敏感な子供が、偽物の言葉で納得する筈なかったのに。不器用でも足りなくても、ちゃんと自分の言葉で話せば良かったのだと今は分かる。
剛はずっと、しっかりした息子だった。連れ出したあの時から、自分の事は自分で出来たし甘えたがりではあるけれど、一人で夜を過ごさせても我儘は言わない。この頃の光一は、システム開発と言う今とは違う部署に所属していた。営業が取って来る納期はいつもぎりぎりで、残業は日常茶飯事の部署だ。休日出勤をしなければ間に合わない事もままあり、剛と一緒に過ごせる時間はずっと少なかった。
それでも生活の為には仕方ない、と何処かで言い訳している自分がいる。もっと早くに引き返せば良かった。自分一人の生活ではなく、剛と二人の生活なのに、いつの間にか大事なものを見失っていたのかも知れない。
遅い夕食を気まずい雰囲気で終えた後、いつも通り布団を敷いた。二人きりだと言う事を思い出させる至近距離。電気を消した室内には、互いの押し殺した呼吸音だけが広がっていた。すぐ傍にある体温。何度も抱き締めて朝を迎えて来たのに、気付けば剛は自分で人生を選ぶまでになっていた。随分遠くまで歩いて来てしまったのだと思う。
「……光ちゃんは、いつになったら分かってくれるんかな」
「俺は、分かってなんかやらん」
「もう、子供やないで?」
「剛は、一生俺の子供や。阿呆な事言うな」
迷いのない言葉に、剛の胸の内はすっかり混乱してしまった。「一生」と「俺の子供」。泣きたい位の喜びと死にそうな絶望が血流に乗って、全身へ充満した。一生傍にいられる。子供と言う距離から抜け出す事は永遠に叶わない。気付いてしまった恋は、自覚したその瞬間から剛の身を苛んでいた。何故自分は他の同級生と同じように女の子を好きにならなかったのだろう。若い故の熱情が、剛を甘く苦しめる。
「そんなに早く大人にならんでええよ」
目を閉じて聞く光一の声は、いつも通り優しかった。愛する人を苦しめている。愛してはいけない人に恋を抱く自分は、彼の望む普通の子にはなれなかった。父親も母親も兄弟もいる同級生と同じように成長出来ないのが、環境のせいだとは思いたくない。
「こういち……」
普段は口にしない呼び名で小さく彼を呼ぶ。「父さん」と言わない事に苦痛を感じないでいてくれるのが、せめてもの救いだった。この人を父と呼ぶ事は、一生出来そうにない。
「ん?何……剛?」
名前を呼んだきりの自分に焦れて光一が動くのを、気配だけで感じた。目は閉じたまま。彼の舌足らずな発音が愛しい。可愛いなんて言ったら怒られるだろうか。
「剛。寝たん?」
思い掛けず近い場所で声が聞こえて、反射的に目を開けてしまう。
「っ光ちゃん!」
「……ああ、吃驚したあ。寝てなかったんやね」
自分の切迫した声とは対照的に、光一はのんびり笑った。元々近い距離にいる二人だ。僅かの差を縮めるなんて、容易い事だった。頭では分かっていても勝手に走り始めた心臓は止められない。無防備な光一は、すぐ手に入る位置にいるのだと思い知らされた。
反応のない自分を不審がって身体を起こした事もこちらを伺っていた事も分かる。けれど、自分の頭を跨ぐように手を着いて、髪が触れ合う程の至近距離にいるとは思わなかった。光一の黒目がちな瞳は、薄い闇の中にあっても綺麗だ。頬をくすぐる柔らかい猫っ毛も、微かに見える額の傷跡も、筋張った腕の内側の白い肌も全て。剛の目には魅惑的に映る。
まともに視線を合わせてまずい、と思った。正直な身体に打ちのめされる。下半身に集まる熱は、明確に彼への劣情を示していた。絶望的な欲だ。自分が抱いている恋だと思っていたものが、呆気無く浅ましい欲望に飲み込まれた。
「剛?」
「っ何でもあらへん!もう寝るわ!お休みっ」
無理矢理顔を背けて、きつく目を瞑る。己の劣情を恥じた。これは、光一を傷付ける感情だった。同じ部屋で生きて行くのに、こんな感情を抱いて良い筈がない。
光一が好きや。どうしようもない程に。本能から生まれた欲は、醜い分はっきりと分かりやすく剛に愛を示す。自分の中にある全ての愛すると言う感情は光一に向いているのだと思い込める程だった。
小さく溜息を零すと、諦めたように布団に包まる気配がある。離れた距離に安堵して、同時に泣きたくなった。一緒にいられない。このままでは遠くない未来に父親である彼を壊してしまう。確信だった。大切に慈しみ育ててくれたこの年月を全て粉々に砕いてしまう。怖かった。唯、彼を誰よりも愛したいだけなのに。
剛に優しい眠りは訪れなかった。行く先はない。それでも、今の気持ちのまま此処にはいられないと思った。真夜中、光一の眠りを確かめる為首筋に触れる。小さく呻いた彼にごめんなと囁いた。いつも使っているバッグ一つを抱えて、二人きりの部屋を出る。蒼い空に浮かぶ月の頼りない明かりに照らされて、剛は歩き出した。
「つ、よし……」
白い光が射し込む部屋で取り残された声は、何処にも届く事なく光の粒子と混ざり合って溶けて行った。置き手紙があるのでも、荷物が全てなくなっているのでもない。けれど、律儀に畳まれた布団や温められるのを待つだけの朝食に、剛の不在を悟った。
この場所を飛び出したのだ。どうしよう。何処にも剛の気配がない。優しさの残されていない部屋で呆然とした。「家出」と言う言葉さえ思いつかない。
何から始めれば良いのかすら分からず、とりあえずいつものように顔を洗った。冷たい水も、思考を働かせる助けにはならない。悩む事すら出来ず、困った時の一一〇番通報をした。警察ではなく、城島へのホットラインだ。
「おはよう、光ちゃん。どうかしたんかー」
「っ茂君、どうしよ!……俺」
「おいおいおいおい。落ち着き落ち着き。剛がどうかしたんか」
「茂君……」
城島の声を聞いた途端、置き去りにした感情が追い付いて来てパニックを起こす。要領を得ない自分の話を丁寧に聞き取って(と言っても「光ちゃんが焦る理由なんて一つやから簡単やったで」と笑われたのは、勿論後日談だ)、穏やかな声のまま必要な事を指示してくれた。
「それは、男の子が通る『家出』っちゅう成長過程やね。焦ったらあかんでー。あの子にも反抗期が来たんやな、って成長を思ったらええのよ」
「……うん」
「よしよし、ええ子や。これから探しに行くんやろ」
「うん」
即答した。自分が探さないで、誰があの子を追い掛けると言うのだ。
「したら、まずは会社に休みの連絡を入れなさい」
「……あ」
「やっぱり忘れてるやろ。普段仕事馬鹿の振りしとる癖に、唯の親馬鹿やないの」
気の抜けた声で笑われて、緊張が解ける。親馬鹿で構わなかった。一生剛を守ると決めたのだ。誰よりも愛して、愛し抜いてやるのだと誓った。
城島の指示通り会社に病欠の連絡を入れ、動き出す前に心当たりのある所へ連絡をしてみる。案の定学校には行っていないようで、何食わぬ顔でこちらも病欠を伝えた。それから、休み時間を狙って岡田の携帯に掛けてみたが、今日は会っていないと言われる。クラスが違うのだから、当たり前と言えば当たり前だった。落胆し掛けた自分を、察しの良い岡田は気遣ってくれる。
「後で、剛君のクラスに様子見に行って来ますよ。学校は僕が気を付けておきます。光一君は、他の場所を探して下さい」
高校生に嗜められるのはどうなんだろうと思ったけれど、今の自分がどうしようもない程不安定な事は知っていたから、素直に頼む事にした。自分の身体は一つで、そんなに手広く探せる訳ではない。行為は甘んじて受け入れるべきだ。
午後は、自宅から離れていない場所で剛の行きそうな所を探した。公園、ゲームセンター、ファーストフード店、図書館、レコードショップ。何処にも目当ての姿はなくて泣きそうになる。いつでも傍にいた少年。自分の中の喪失感が大き過ぎて、怖くなった。慣れないこの土地で、文字通り二人きり生きて来たのだ。考えていたよりずっと、彼に救われていた事に気付いた。こんな風に離れているのは初めてだから、持て余した感情をどうすれば良いのか分からない。
剛。何処にも行かないで。此処にいて。こんなにも切迫した感情を初めて知った。胸が痛い。誰もいない夕暮れの路地裏で蹲った。普段の強がりすら保てない。このまま、声を上げて泣き出してしまいそうだと思った。心臓の辺りを両手で押さえて、その衝動を押さえ込む。
一日中歩き続けて、何処にも剛の気配を見付けられなかった。城島に連絡を入れると、もう帰りなさいと諭される。剛が帰って来た時、光ちゃんは笑顔で迎えて、それからたっぷり叱らんとあかんのやから、元気残しとかんとあかんで。明るい声に慰められて、素直に家へと向かった。もし剛が近くまで戻って来たのに窓に明かりがなかったら、もっと遠くに行ってしまうかも知れない。
俯いたまま階段を上って行くと、自分の部屋の前に人影があった。
「剛っ!」
反射的に叫んで、残りの階段を駆け上がる。それが違う人だと気付くのに時間は掛からなかった。大きな背中、着古しているのに汚い印象を与えないジーンズ、振り返った顔は翳りのある剛のそれよりずっと明るい。太陽のような男だった。
「なが、せ……?」
「あー光一いたー!今日休んだって言うから心配になっちゃってさー、慌てて仕事終わらせて来てみたら誰もいないし。病院行ったのかとも思ったんだけど、せっかく来たからもう少し待とうと思ってさ。……でも、病院行って来た感じじゃないね?顔色悪いけど、さっき、剛って言った?」
動物的勘で生きている友人は、確信を持った事実を違える事はない。長瀬の大きな顔のパーツは、彼の感情を豊かに表現した。心配している顔。何の打算もない優しさに、光一の張り詰めた糸が切れた。
「剛がっ……帰って来ないんや!今朝起きたら布団綺麗で、一人でっ。俺が、あいつの希望素直に聞いてやれば良かったんかっ?夜学なんて、行って欲しくない!何でいらん苦労背負わせなかんの!あの子は、俺の子供やっ。俺が大人にするって決めた!何で、一人で先進もうとするん?俺のせいか?俺が頼りないからあかんの?どうして……っ」
光一の細い身体を、その叫びごと長瀬は胸に受け止めた。これ以上、不安を与えないようきつく抱き締める。元々口数の少ない友人だから、光一と剛の関係を深く知っている訳ではなかった。今日までの道程は、多分誰にも分からない。けれど、長瀬にとってそんな事はどうでも良かった。今此処にある光一の愛情が全てだ。泣かない彼の精一杯の激昂。
「そうか、剛が家出かー。あいつも大人になったもんだなあ」
「俺は、一度も家出なんてした事あらへん。そんなんせんでも大人になれるわ」
「うーん、光一はホントに真面目だからなあ。家出は男のロマンよ」
「分からん!」
友人のこんな怒った声は初めて聞いた。騒ぐ事を何処かに忘れて来たような物静かな男だったから、長瀬の目には新鮮なものに映る。小さく笑ったら、しっかりばれてしまった。
「光一が会社休むのなんて初めてじゃん?だからよっぽど具合悪いんだって思って。でも、それ以上の事が起きてたんだなあ。今日一日、良く頑張ったね」
「どんな頑張ったって、見付からんかったら意味あらへん……」
「明日俺休みだからさ。一緒に探すの手伝うよ」
困ったように眉を顰めて断るだろう事が分かっていたから、先回りをして明日の時間を決めてしまう。こんな風に参っている友人を一人にする事はとても出来なかった。
「じゃあ、明日ね!俺の事忘れて先に出たら駄目だよー。じゃあねー」
するりと身体を離して、一方的な約束を告げる。本当は一緒に夜を過ごしてあげたいけれど、自分は其処まで踏み込めなかった。近所の野良猫より扱い難いと、長瀬は一人笑う。せめて、一人の夜が絶望に包まれませんようにと、祈る事しか出来なかった。
剛が見付かったのは、長瀬に手伝って貰った翌日の、彼がいなくなってから三日目の事だ。城島から連絡が入った。息を詰めて、携帯から零れる言葉を一つも落とさないように。
「今な、ウチにおるから。光ちゃんは、今何処?……そうか。なら、ゆっくり来なさい。もう、剛は逃げへんよ」
「……はい。ありがとうございました」
声が震えた。自分は今、怒れば良いのだろうか。喜べば良いのだろうか。頭が真っ白で、何の感情も思い浮かばない。携帯を握り締めたまま動けないでいると、着信を告げる振動が伝わった。城島が何か言い忘れたのだろうと思い表示を見ると、画面には岡田と出ている。
「……もしもし」
「あ、光一君ですか?今、連絡が来て」
「剛から?」
「はい」
「そうか。俺も今、茂君から連絡あったとこ」
「あ、そうだったんですか。じゃあ……」
「うん、ありがとな。気ぃ遣ってくれて」
「いえ、別に僕は」
「ううん。ありがとう」
重ねて礼を言う。空虚に優しい響きだった。あの聡い少年には気付かれたかも知れないと思いながら、繕う言葉を持たずに通話を終える。
会ったら何を言おう。この三日間をどう表現したら良いのだろう。分からなかった。あの夜の響きが、鼓膜に蘇る。光一、と呼ばれたのは初めてだった。予兆はあったのだ。いつもと違う事が。なのに、気付く事が出来なかった。甘い響きの後の焦ったような声音。きちんと覚えている。剛の言葉の一つ一つを。
城島に迎えられ、しっかり怒ってやるんやよと優しく言われた。曖昧に頷くと、今は使われていない子供部屋へ入る。二人きりにしたるから、ゆっくり話してみたらええよ。日本茶と軽食を載せたお盆を渡しながら、下にいるから何かあったら呼ぶんやで、と言い置いて城島は去って行った。
小さな四畳半の部屋へ足を踏み入れると、窓際に立っている小さな後ろ姿が目に入る。三日ぶりの剛の背中だった。今までだって修学旅行や合宿で三日以上顔を見ない事もあったのに。午後の陽射しを浴びた横顔は、酷く大人びて見える。この三日間が、彼に変化を与えたのだろうか。
「光ちゃん……」
振り返って向き合った瞳には、罪悪の色があるものの落ち着いていた。既に城島から何か言われているのだろう。自分の方がきっと、どうにもならない表情をしているのだと思う。まず叱って、この三日間何処にいたのかを問い質して、それからきちんと話し合わなければならなかった。
唇を噛む。胸の中にある感情が、何なのか分からなかった。剛の切迫した響きの声も、今目の前にある瞳の色も、自分の知っているものではない。怖かった。そう、怖いと認めるのが怖かったのだ。
「光ちゃん、ごめんなさい」
何も言わずに立ち竦む養父が戸惑ったように瞳を揺らすのを見て、剛の口からは素直に謝罪の言葉が零れた。きつく噛み締めた唇は柔らかな色が失われている。光一は何も言わなかった。剛は困った顔で一歩踏み出す。父親であるこの人の事は、自分が一番良く知っていた。言葉の足りない人。きっと、叱る言葉を組み立てているに違いない。
入口までは数歩の距離だった。光一の手にあるお盆を取り上げて、部屋の隅にある文机の上へ置く。剛のその動きにつられるようにして、光一は部屋に入った。傾き始めた太陽の橙が、日焼けした畳に鈍く反射する。
光一は、剛の顔を見るばかりで黙ったままだった。茶色い髪の隙間から覗く瞳の中には、様々な色が映り込んでいる。怒りと哀しみ、焦燥と安堵、子供の臆病と大人の理不尽。剛は更に言葉を重ねようとした。この三日間の養父の事は、既に城島から聞いている。彼が仕事を休むなんて信じられなかった。それを聞いて初めて罪悪感が芽生えたのだ。どんな事があっても、二人生きて行く為だと働き続ける人だった。今目の前にいる彼は、自分より大きい筈なのに、酷く小さく見える。
一緒に生きて行けないと思った。でも、帰って来て良かったと今、心から思う。未だこの身体に消えない劣情を抱えていたとしても。
「光ちゃん、本当にごめんなさい。俺、勝手な事した」
此処に辿り着くまで本当に逃げようと思ったし、死んでしまおうかと安易に考えた瞬間もある。離れても欲望は消えなかった。三日間、光一が好きなのだと言う実感しか持てずに歩き続けたのだ。何処に逃げても、この恋は追い掛けて来る。それならば、ちゃんと向き合ってしまおうと思った。若気の至り、と言う言葉が現実になる可能性は低かったけれど。
俯いてしまった光一の肩が震えている。どんな言葉で叱られても良かった。なのに、彼は慎重に選ぼうとする。俺達は本当の親子じゃないから。距離を迷うのは、いつも彼だった。
「ごめんな。俺ん事殴ってもええよ」
力で解決する訳じゃないけれど、今の自分に出来る償いはこれ位だ。三日間光一は何を考えていた?恋は消えない。でも、親子として生きて行く。だから、ちゃんと知りたかった。逃げないで、この熱を飼い馴らしてみせる。光一のいない世界で生きる事なんて出来なかった。
じっと動き出すのを待つ。目の前に立つ彼の目線の位置がほとんど変わらない事に気付いた。これからもっと大きくなる予定だけど、いつの間にか見上げるばかりだった人と肩を並べるまでになっている。息を潜めて、沈黙に耐えた。光一が動き出すのを、その心情を晒してくれるのを。
「……っせっかく、無事に帰って来たのに。何で……俺が怪我させなきゃあかんの」
零れた声は掠れていた。髪に隠されて表情が見えない。橙色の夕日が、畳の上に二人分の影を作っていた。
「剛の阿呆!……っ」
その後は言葉にならない。反射的に震える薄い身体を抱き締めていた。
「ごめんっごめん!光一、ごめん!」
何度も繰り返す。光一は泣いていた。彼の涙を見るのは初めてで、どうしたら良いのか分からない。いつものように気丈に叱られるのだと思っていた。不安も弱音も全部隠して、父親の顔をするのだろうと。
それでも構わなかった。一緒に居続けて、彼の見せたがらない内側にも気付けるようになっていたから。怒りの裏側に息衝く弱さを見抜く自信がある。自分が思う愛情とは違っても、光一の中にある執着が垣間見られれば良かった。
なのに。今腕の中で子供のように泣きじゃくるこの人は誰だ。俺は泣かへんから、と笑う強気な人だった。こんな光一は、知らない。
「ごめんな、光一」
「剛……」
「うん、ごめん。ごめん、光一」
名前を呼んで、しっかりと抱き締めた。俺は、世界で一番大切な人を傷付けたのだ。どんな言い訳も出来ない。こんなにも大事にされていたのに。心臓の奥で、恋情がざわめいている。浅ましいこの感情も自分のものだけど、今は光一を抱き締めている両腕の優しさを信じたかった。俺にはまだ、親子の親愛がある。これから先も此処にある優しさと生きて行こう。
光一の目が真っ赤に染まり、持って来た日本茶も冷めた頃、城島が様子を見に来てくれた。二人を見て笑った表情が優しい。もう、彼は笑うだけで何も言わなかった。お茶を入れ直すと冷えたタオルを用意してくれる。三人でお茶を飲んで、日が沈んでから二人で家路に着いた。
彼の子供として生きる。それは、一生の決意ではなかった。自分が大人になるまで、対等な場所に立てるまでの僅かな時間の話だ。それまでは、彼の望む子供でいようと決めた。並べて敷いた布団の中で、普通科の公立高校に行くと言った。まだ腫れの引かない瞳で嬉しそうに笑ってくれた。光一を悲しませずに生きて行こう。眠りに落ちる寸前、胸に秘めた決意は多分一生のものだった。
彼が会社に転属願いを出したのは、自分が進路変更の希望を出したすぐ後の事だ。大事にされている事を実感して、深く考えないようにしようと決める。どうせ、好きな事には変わりないのだ。傍にいられるのなら、それだけで良かった。
光一は泣くのを見たのは、後にも先にもこの一度きりだ。
+++++
剛の考えている事が分からない。血の繋がった親子であっても全てを理解出来る訳ではないのだから、仕方なかった。一人で帰って来て夕食の支度をする気にもならず、スーツを着たまま剛の帰りを待つ。暗くなった部屋で、先刻の事を何度も何度も考えた。
就職を希望するなんて。三年前のあの時、きちんと話し合った筈だ。自分の保護下にある間は子供でいる事。他の子供にない負担を背負わせているのは、自分が若過ぎるせいかも知れなかった。剛の目には、父と呼べる程信頼出来る人間として映っていないのだろう。どうしてもっと年が離れていなかったのか。親子の年齢差があれば楽だった。十二歳差と言うのは、どう足掻いても親子の距離ではない。
覆す事の出来ない事だから、他で補おうと頑張って来たつもりだった。父親としての落ち度を最小限に留めたいと願う。剛がいつか本当の親だと思ってくれたら、自分は幸せだった。
何の負担も背負わせたくない。大学に行って欲しかった。まだ十八歳なのだから、自分の元にいて良いのに。焦って大人にならないで。一人で飛び立たないで。それが果たして父親として正しい感情なのか、光一は分かっていなかった。
「……ただいま」
静かに扉が開く。人工の光が射し込んで、何度か目を瞬かせた。
「光一、こんな暗いまんまで……目ぇ悪くなるで」
そう言えば、あの時から剛は「光一」と呼ぶようになったのだ。少し寂しかったのを今でも覚えていた。本当に、家出が彼を一歩大人に近付けた。
「スーツ、皺んなるで。明日は違うのにした方がええかなあ」
どうやって切り出そうと不安になりながら剛は帰って来たのに、真っ暗な部屋で動かずにいる光一を見たら、頭より身体が先に動く。部屋の明かりを点けて、カーテンを閉めた。光一を立たせるとスーツを脱がせる。夕飯の支度をしようと動き掛けて、それよりも話が先だと思い直した。光一は、待っている。何も言わないけれど、間違いなかった。
「ずっと、考えてたんや。最初に光一に言うべきやったんは分かってたけど、反対されるの分かってたから。言えんかった。ごめん」
光一の顔を見るのが怖くて、並んで座る。お気に入りのソファは、小さな部屋に少し不釣り合いだけど二人を程良く近付けてくれた。優先順位を間違えないように、ゆっくりと話す。
「俺、別に大学行くん嫌やないよ。でも、目的が見付からんのや。何となくで、光一が積み立ててくれたもん使いたくない」
「……何となくでもええやん。皆、最初から決まってる訳ちゃう。四年間過ごして、やっと進みたい道が見えるんちゃうの?」
「俺は、進みたい先、決まってるで」
迷いのない剛は怖かった。繊細で傷付きやすい心を守ってやろうと思うのに、ずっと強い精神を有している。もしかしたらもう、この子は大人になってしまったのかも知れない。自分の手を必要としない遠くへ行きたいのだろうか。
「何処に、行きたいん?」
「光一と同じ場所」
「……俺と?」
意味が分からない。自分達はずっと同じ場所で生きて来た。今更望まなくとも、同じ所にいるのに。
剛の言いたいのは、もっと抽象的な意味なのだ。視線を合わせない横顔を見詰めた。誰よりも近くで見守って来た少年は、気が付けば随分と男らしくなっている。これもまた血が繋がっていない事を示しているだけなのだが、細い印象ばかり与える自分の容姿とは全然違った。余り女の子の話はしないけれど、もてるのではないだろうか。意志の強い瞳は、自分でもどきりとする瞬間があった。決意を秘めた横顔は、逞しささえ覗かせる。
自分と同じ場所。剛になくて、自分にあるものは少なかった。年齢の差と社会経験と父親と言う立場。後は一緒だと思う。二人の間に優劣の差はなかった。ふと、精悍な表情に遠い距離を思う。彼は、自分に言っていない事がある筈だ。直感だった。
「もしかして、父親になるんか?」
「……は?」
「いや、やって。俺と同じ場所言われてもよお分からんやん。社会に早く出たいなんて、結婚したいとかそぉ言うんやないの?」
剛にこれ見よがしの溜息を零される。我ながら頭が悪いとは思った。でも、他に何も思い付かない。自分の子供なのに分かってやれないこの苛立ちは、親にしか分からない。きちんと視線を合わせれば、諦めに近い笑い方をされる。どうにもならない現実を受け入れる為の、大人の処世術だった。そんなの、身に着けて欲しくない。どうして、子供は大人になってしまうの。
「何で俺が、結婚したいなんて言うねん。彼女もおらんのに」
「……あ、そうなんや。剛、全然そおゆうん話してくれんから、俺とはしたくない話題なんや思うてた」
「まあ、改めてする話でもないから、言わんかったけど。光一の方が、彼女の話とか嫌がりそうやったで」
あからさまにほっとした顔をしないで欲しいと、剛は思った。絶望しかないのに、可能性を見出してしまいそうになる。何度も塗り潰した未来を、また描きそうになった。
「俺は、やって彼女ずっとおらんし」
「不思議やったんやけど、何で?多分やけど、光一東京来てから一人もおらんやろ」
「……よぉ知っとんなあ」
「そりゃ、いたら気付くもん。光一もてるやろ?会社に女の人もおるんちゃうの?」
「おる、けど。欲しいって思った事ない」
「何で?」
「そんなの……剛と一緒にいたかったし。東京来て気付いたんやけど、俺女の人苦手なんや」
光一の言葉に含みはない。確かに、剛の朧げな記憶でも関東と関西では女性の雰囲気が全然違った。でも、それが一人でいる理由にはならない。
「光一は、結婚する気ないん?」
「ない」
「俺がいなくなっても?」
「……やっぱり、家出る気なんや」
自分は何と愚かなのだろう。先刻から、自分で自分の首を絞めている。不可能だと思っていた未来を夢見てしまいそうだった。そんな未来は永遠に来ない。悲しく眉を顰めた人に笑い掛けた。
「何で、俺が出て行く話になるねん。俺は、光一と対等になりたいんや」
「対等?」
「そう。一緒に生きて行く為に。もう、守られるだけの子供は嫌や」
優先順位は、一緒に生きる事。恋なんて必要なかった。全ての情を、親子のものに置き換える。光一の望む子供ではいられないけれど、不用意に恋情を漏らしたくはなかった。
「一緒にいるなら、大学行ったってええんやないの。四年後やって、別に構わんやん」
「俺は、四年も待てへん。早く大人になりたい」
「……剛。俺、よお分からん。何でそんな焦って……」
城島の言う通りだった。光一は混乱している。恋に触れず説得するつもりだった。光一が自分を望んでくれる限り、息子でいるつもりだ。それなのに。
「此処にいてくれる言う事は、俺の子供でいる言う事や。剛が出て行きたい思うんなら、いつ出てってもええ。でも、焦らんかてええやん」
「俺は、光一の子供でいるのが嫌なんや」
「剛……」
しまった、と思った。これでは、自分の願いは伝わらない。簡単に傷付いた顔を見せると動きを止めた。一緒にいたい。子供のままでいたくない。理由は凄くシンプルなのに、言葉にする事は叶わなかった。
「そうやって、最初から素直に言ってくれたら良かったんや。お前の子供は嫌や、もう解放してくれって。それだけで良かったのに……」
丸い指先で目許を覆う。弱々しい響きに何と返せば良いのか分からなかった。ああ、茂君。俺、全然覚悟なんて出来てなかったです。これから辛くなると言う言葉の意味を軽んじていた。口を閉ざせば閉ざした分だけ、光一は離れてしまう。引き留める術が選べなかった。
「光一、違うんや。分かってくれ」
「分からん」
「……俺は、光一が好きや。大切なんや」
入れは、何処に進めば良い?手の届く距離にいる人。今すぐ抱き締めてやりたかった。目許を隠されているから、光一の事がきちんと分からない。俺の為に傷付かないで。
「俺の方が、ずっと好きやわ。そんな口先だけの言葉なんか、いらん」
手を伸ばして良いのだろうか。体内で飼い馴らした筈の激情が暴れている。一生秘めていると決意した。この距離のまま傍にいるのだと。やっぱり、はぐらかしながら喋るなんて出来んもんやなあ。黙すれば黙する程、光一が傷付いて行く。
動く事で更に傷付けると分かっていても、立ち止まっていられなかった。偽らず、生きる。その為に、一生傍にいられなくなったとしても、だ。アドバイス、何の意味もなかったな。そっと右手を伸ばす。躊躇する気持ちが自分の中から消えて怖くなった。光一を手放したくはないけれど、無闇に傷付けたくもない。
「光一」
「っお前が、大人になりたいんなら、一人になりたいんなら、応援する」
「光一。違うんや。大人になるのと一人になるのは、違う。一緒の事やない」
頬に触れれば、冷たい感触に驚いた。血の気を失った肌はさらりと滑って、何も教えてくれない。白い頬の上で蛍光灯の光が無機質に反射した。光一は視線を上げ、真っ直ぐに見詰めて来る。自分と向き合う事ばかりを優先して来た養父のその瞳は、ずっと変わらなかった。
この世界で「絶対」の確信を持って信じられる、唯一の人だ。
「俺はきっと、何処まで行っても剛の父親にはなれないんやね」
「違う、光一。一緒に東京に来てからずっと、光一が一番大切や。他の何もいらない位」
「……剛」
「お前が嫌がるから言わんでおこうと思った。色々考えるんは目に見えてたし、それで後悔するだろう事も分かってる。光一に余計な負担掛けたくなかった。でも、俺これ以上何て言ったら良いのか分からん。光一を納得させる理由が思い付かんのや」
深呼吸をして、僅かに潤んだ光一の瞳を見詰め返す。いつも俯きがちに話す彼が、自分から逃げない為に取った手段だった。言葉には表れない感情を読む為に、必ず合わされる黒目がちの瞳はいつでも綺麗だ。怯まない瞳の底に、戸惑いや恐怖が潜んでいる事も知っていた。全部理解しているのに、こんな事をする自分は卑怯だ。
随分と長い時間見詰めて来た養父へ近付いて行った。黒曜石の瞳は、尚怯まずに煌めいている。唇が自分の名前を象る前に、優しく塞いだ。唇を重ねただけの、幼い仕草。近過ぎて焦点の合わなくなった視界の中でも、光一が瞼を降ろしていない事は分かった。
乾いた感触を確かめて、ゆっくりと離れる。思考回路の停止した光一を可愛いと思った。状況を把握するだけで精一杯の幼い表情だ。触れていた掌も離せば、二人を繋ぐものはなくなった。
「分かった?親としてとか、家族としてなんかやない。俺は、堂本光一が好きや。やから俺、お前と同じになりたい。早く対等になりたいんや」
「……剛」
涙一つ零さない感情表現の乏しい光一が、唇を噛んで感情を押さえ込んでいた。多分、彼の中では色々な衝動がせめぎ合っている。原因は自分なのだから、落ち着かせてやりたかった。いつも冷静に見える彼の脆さを知っている。光一が揺れていた。子供だと思って暮らしていた自分に告白されたのだから当たり前だ。でも、渡してしまった言葉を後悔してはならなかった。例え、光一を苦しめても。
「光一、ごめんな。本当の事なんて言ったらあかんのやろうけど。お願いやから、傍におらせて。一緒にいたい」
「……どうして」
「どうして、やろなあ。気付いたらお前しかおらんかった。光一以上に愛せる人なんて見付からんかった」
言葉を発する度、光一の顔が歪む。可哀相で仕方なかった。けれど、離れない為に言葉を重ねる。
「光一が好きや。光一だけをずっと。愛してる」
痛みを抱えて尚、彼は泣かない。堪える事ばかりを覚えてしまった不器用な大人が、何処かいたいけな存在に思えた。とっくに父親として光一を見ていない事に改めて気付いて、剛はひっそり笑う。今更、何処にも引き返せなかった。
空気を変える為に立ち上がると、夕飯の支度に取り掛かる。プライベートのない小さなこの部屋では、一人で悩む事も出来ないから。なるべく視線を合わせなくても済むように、少しの距離を取った。
冷蔵庫を覗き込みながら、光一と同じように痛む心臓を押さえる。告げて良い感情ではなかった。一生親このまま生きて行くべきだった事は分かっている。受け入れられる筈のない恋。
それでも。光一が一番大切にしているのは、奢りでも何でもなく自分だった。感情の種類が違うだけなのだと、甘く夢を見る事位は許して欲しい。
+++++
光一の額には、今も消えない傷痕が残っていた。うっすらと見えるそれを目にする度、剛は泣きたくなる。陶磁器みたいな綺麗な彼の肌に刻まれた線は、剛の本当の父親が付けたものだった。これ位の傷で済んだのだからと光一は思っているけれど、優しい子供が「ごめんなさい」と何度も言って泣きじゃくるのが嫌で、隠す為にずっと前髪を降ろす事にしている。童顔に見えれば、信頼度が落ちるのは分かっていた。でも、そんな薄っぺらな事より剛の方が大事だったから構わない。顔を合わせる度に泣かれるのはさすがに辛かった。
剛の父親に会いに行ったのは、東京で小学校の入学手続きを終えてすぐの事だ。気の早い桜が舞い始める歩道を二人で歩いた。母親に立ち会って貰い、同意書に署名させる為の帰郷だ。剛としっかり手を繋いで入った部屋では、もう既に彼の父親は酒を呑んでいた。同じ事を繰り返すだけの日々。子供の不在も気に留めない生活は変わっていない。剛が怒りを抑えるように繋いだ手の力を強めるのが苦しかった。
結局、話し合いは行われず、暴れ出した父親を止める為の傷を一つ作っただけ。最後まで剛への言葉はなかった。それ以来二度と父親と会う事はないまま。剛と二人きりの人生を深く決意したのは、多分この時だった。
母親とは毎月連絡する事を約束し、長期休暇の度に帰って来なさいと言われる。剛の成長を目で確認したいから、と笑った母は、もう自分の決意を変えようとはしなかった。剛を連れてすぐの時は、電話口で何度も怒鳴られたのに。頑固なんは私譲りやね、と優しく笑った母親もまた、見守る決意をしたのかも知れない。ずっと最後まで、実の親子で暮らす事を望んではいたけれど。
余り鳴る事のない自宅の電話の呼び出し音が響いたのは、剛が中学二年生の時だった。まだシステム開発部にいた光一を待って、遅い夕食を摂っている時の事だ。嫌な予感がした。電話を取る前から剛は悲しそうな瞳をしている。
「はい、堂本です」
「もしもし、光ちゃん?」
母親からだった。いつにない緊迫した声に息を飲む。静かに告げられたのは、剛の父親が亡くなったと言う事だった。今すぐ戻ってらっしゃいと言われ、食べ掛けの夕食をそのままに家を出る。新幹線の中で剛にゆっくり説明をすれば、「やっと要ったんか」と何の感情も宿さない声で呟いた。今も鮮明に残る暴力の記憶は、そう簡単に彼を悲しませてはくれない。安堵の色すら見せて、隣に座る自分の方が苦しくなった。剛と父親を引き離したのは自分だ。永遠に和解する機会を奪ってしまった。罪は重い。背負うべき罪状は分かっていた。一生を賭けて償って行くべき事も。
葬式を出す親戚もいなかったらしく、遺体安置所には光一の母親だけが待っていた。結局、彼女が納骨までの全ての手続きを行ってくれたのだ。剛のお父さんやから、と笑んだ表情には強さばかりが見えた。逃げずに向き合う事を良しとする潔さが好きだと思う。
遺体を前にしても、剛は涙一つ零さなかった。無表情のまま、じっと父親の顔を見詰めている。まるで、網膜に焼き付けるかのように。母親は悲しそうに、その様子を見ていた。
「なあ、光ちゃん」
「うん」
「分かってると思うけど、言わせてな」
視線を剛から外さないまま、独り言のように言われる。自分は続くであろう言葉を分かっていた。けれど誰かが言葉にしなければならない事なのだと母親は気付いている。
「あの子の人生を滅茶苦茶にしたとは言わん。光ちゃんのおかげで、救われた事も沢山あると思う。あんたがあの子に一生懸命なのは分かっとるつもり。でもな」
「うん」
「剛の価値観や生き方を変えてしまった事、それだけは絶対に忘れんといて」
「ん、うん。ごめん」
「謝る暇あったら、あの子の事沢山抱き締めてやんなさい」
悲しい時も嬉しい時も、傍に居続ける事。それが罪を償う事なのだとしたら、優しくて甘いばかりの罪だった。剛の事だけを生涯の家族とするなんて、難しい事ではない。彼の小さな手を取ったその時から、自分は運命を選択してしまった。いつか、自分の元から旅立つその日が来ても。
養子縁組の手続きをしたのはそれから二年後の、剛が高一になってからの事だった。絵空事の覚悟が自分の身体に完全に染み込むまでに二年の月日が必要だったのだ。まだ、親子になって二年。本当の家族にはどう足掻いてもなれないけれど、剛の父親らしく生きる事ばかりを考えていた。まさか、こんなところで思い知る事になるなんて。
「愛している」と言われた瞬間、目の前が真っ暗になった。お前は父親になれない。そう言われているみたいで。
+++++
三者面談の日から一週間が経った。剛は呆れる位いつも通りで、逆に取り付く島がない。あの夜のキスなんて夢だったんじゃないかと思ってしまう程だった。悩むのにもいい加減疲れた頃、久しぶりに長瀬から飯でも行かないかと誘われる。珍しいと思ったけれど、多分自分の変化に気付いたのだろう。彼には動物的嗅覚が備わっていた。近くの居酒屋に入ってメニューを全部任せると、自分はアルコールだけを待つ。
「光一。ちゃんと食べなきゃ駄目だよ。お前、顔色悪過ぎ」
「大丈夫。食べとるから」
「何でそんな小食なのかなー、光一は」
長瀬に世話を焼かれるのは楽しかった。自分が何も出来ない子供に戻ってしまう感覚は、絶対に居心地の良いものなんかじゃない筈なのに。彼の雰囲気の成せる技だろう。
「で?」
「……え?」
「三面。どうだったの」
「……大学なんか行かん。就職するんやって言われた」
「立派だなあ」
「何処が!」
悲しそうに顔を歪めた光一に長瀬は笑った。取り皿にサラダを載せてやりながら思う。モラリストの友人は、剛を「普通の子」にさせようと必死だった。普通の家庭で普通の愛情を受けて育った普通の大学生になって欲しいのだろう。
規格外の自分には、彼の願いを上手く理解してやる事は出来なかった。大体、光一の愛し方はとっくに「普通の愛情」を超えている。自分も子供を溺愛しているとは思うけれど、その情の深さは全く性質の異なるものだった。
「今の子なんて、何となく大学行って何となく就職するんだよ。其処に自分の意志なんてない。でも、剛は自分で選ぼうとしてるんだから凄いじゃん」
「あんな子供の内から選ばんでええ」
「光一」
苦笑して、長瀬は思わずその小さな頭を撫でてしまった。娘にするのと同じ仕草だ。
「剛はもう、小っちゃい子供なんかじゃねえよ」
甘やかして、行く先を導いて、光一の手の中で守られるような事、あの強い瞳を持つ子供は望んでいない。無邪気とは程遠い、大人びた笑顔を思い出した。
「子供やもん。ずっとずっと、剛は俺の子供や……」
「……光一?」
「俺だけが、あいつの父親なんや」
「お前……剛に何言われた?」
光一を纏う空気が変質して、長瀬は慌てた。冷静に繕えないなんて珍しい。今日誘って良かったと心底思った。光一が本音を話せる友人は、きっと自分だけだから。
「愛してる、って……」
「それは、親子としてじゃなくって意味だな」
小さく頷いた光一の方が、余程子供じみていた。剛にばかり目を向けて生きて来たせいか、それとも彼が本質的に持っているものなのか。分からないけれど。
「でも、何も変わらん。いつも通りなにゃ。だから、どうしたら良いんか分からん。進路の事も、剛の気持ちも……」
「光一がそうやって軌道修正しようって考えている内は、多分変わんないよ」
剛の気持ちは光一を前にして、こんなにもはっきりと伝わって来る。愛しいと訴える彼の瞳は、確かに親子以上の愛情を含んでいた。それが果たして本当に悪い事なのかどうか、長瀬には判別がつかない。だって、この二人はずっと、互いへの愛情によって生かされて来た。
「俺は、どうするんがええんやろ」
「んー、そう言う難しい事は、城島先生に教えて貰った方が良いと思うけど。俺が言えるのは、初心忘るべからず、って事かな。俺は今でも覚えてるよ。剛に会わせてくれた日の事」
「長瀬……」
「覚えてる?光一が俺に紹介してくれたのって、三年も経ってからなんだぜ。俺、お前の事親友だって思ってたのに、一番大切なもの教えてくれないんだもん。結構傷付いたなあ」
「……ごめん」
「まあ、時効だけどね。ちょっと悔しかったな、あん時は。光一に秘密があるのは分かってたよ。お前いっつも真っ直ぐ帰るから、大事な彼女でもいるんだと思ってた。でも違った。もっと大事なもんだったね」
出会った頃の光一は何処か頼りなくて、自分の庇護欲を駆り立たせる存在だった。それは今も変わらないけれど、あの時からずっと、彼の瞳には揺るぎない信念が見え隠れしている。
剛を紹介されて、その色の意味に気付いた。光一が大切に守る唯一の宝物。中学生になった剛は、勿論守られるだけの弱い生き物ではなかった。故郷を離れて血の繋がっていない二人が一緒に生きて行くのは、大変だろう。それでも、光一は自ら選択した。あの子供と、東京で生き抜く事を。
「俺はね、光一。二人の事全部知ってる訳じゃないから、あんまりおこがましい事なんて言えないんだけどさ。光一は、剛を息子以上に大事にしてると思うよ。それがどんな愛情かは、別にしてさ。光一の一番は、ずっと剛じゃん。違う?」
「違わない。でも……」
「光一。二十二の男が十のガキ連れて全部面倒見て、二人だけで生活して来たんだろ。それって凄い事じゃん。お前、誰も頼んなかった。誰が何と言おうと、剛の父親は光一だよ。もっと、自分の事誉めてやれって。お前みたいな父親だったから、剛は人を愛する事やめずに済んだんだろ。あいつの本当の父親の話聞いてたら、剛が愛情を失わなかったのは奇跡に見える。その奇跡を起こしたのは、光一なんだよ」
両親に愛されなかった子供に最初に愛情を与えたのは光一だ。決して言葉数が多い訳じゃない。触れ合う事も得意じゃなかった。だからこそ、幼い心に彼の愛情は染み込んだのだろう。
光一は、悲しげに瞼を伏せた。自分を愛させる為に愛した訳じゃないのだと言いたいのかも知れない。無償の愛情は、子供の成長を願うだけだった。
手を伸ばして、彼の白い頬に触れる。びくりと揺れる肩。こんなに愛情を傾けても、その身体は全力で拒絶を示した。少しだけ痛む心には見ない振りをする。触れる事で癒える心の痛みもあった。遠慮もせずに撫でてやれば、身体の強張りを解いて嬉しそうに笑う。ほらね。人の体温は魔法なんだよ。
「……俺な」
「うん」
「困ってんの」
素直になった光一の唇から、繕わない言葉が零れた。揃った睫毛が頬に落とす影が綺麗で思わず見蕩れてしまう。彼は、笑った顔よりもこんな風に愁いを帯びた表情の方が似合っていた。可哀相だな、と思うけれど、今更幸福だけの満たされた光一なんて想像が出来ない。
「どう言う事?話してくんなきゃ分かんないよ」
「……剛には言わんといてな」
「うん。勿論」
「俺、嫌じゃなかってん。剛に好きって言われて、少しも嫌な気持ちにならんかったん」
「……光一」
「自分で怖くなった。そりゃ、あかんってすぐ思ったよ。聞いたら駄目やって。でも、全然嫌やないの」
舌足らずに言葉を重ねる光一は、分かっていないのだろうか。世間体や体裁を取り払った後に残る自分の気持ちを。困惑した表情で話す彼は、きっと気付いていない。伸ばした指先で髪を梳くと、頑張り屋の親友を甘やかした。光一を生かしているのは、間違いなく剛だ。
「嫌じゃなくて当たり前だろ。愛される事を嫌がるような酷い人間じゃないよ、光一は。剛に愛される事の、何が怖いんだよ」
「っだって、意味が違うやんか!あいつの愛してるは、普通の愛情やない」
「光一はさ、頭良いし物事を整理して考えるのが一番簡単なんだろうけどさ。意味って何?愛情に違いなんて絶対ないんだよ。剛が一番大切にしている心を拒絶して、お前はどうしたいの」
「普通、に、生きて欲しい」
「剛はとっくに普通より良い男だって」
「長瀬……」
「さっきの」
「え?」
「初心忘るべからず。あれね、子供が産まれてすぐお前と城島先生んとこ行った事あったじゃん。覚えてるかな」
「……ああ、うん。何となく」
「その時に教えて貰ったんだ。子供が成長するって事は、親も一緒に成長して行く事だって。でもいつか生活している内に悩んだり息詰まる時がある。そんな時に思い出しなさい、って言われたんだ。子供が産まれた時の喜びとか、初めて顔見た時一生守ってやるって誓った事とか。最初には皆愛しかないから、辛くなったら自分の中に眠る愛情を思い出してやんなさいって」
剛に最初に執着したのは光一だ。傷だらけの小さな子供を力の足りない手で守ろうとした。自分の愛情を全て渡して、人を愛する気持ちを失わないで欲しいと願った。確かに、剛は愛を失わずに生きている。
「何であの時剛を一緒に連れ出したのか、その意味をもう一度考えてみなよ」
「最初……」
「うん。俺には、つよちゃんが間違った道を歩いているようには見えねえよ」
長瀬は頼もしく笑って、光一の髪をかき混ぜた。今、自分が親友に抱いているように。不器用な彼が精一杯の愛情を他人の子供に注いでいるように。剛が光一へ向けた愛情も揺るぎなく力強い。きらきらと光る真っ直ぐな愛が間違ったものだなんて、長瀬は絶対に思いたくなかった。
+++++
むしむしとした梅雨が明けたばかりの頃だったと思う。剛の記憶に残るのは肌の感触ばかりで、正確にいつ頃の事なのか思い出す事は出来なかった。多分、中学生だったのではないだろうか。
同級生に告白をされて、初めての彼女が出来た。友人よりも先に作れた優越感が強くて、別にその子は好きでも何でもない存在だったのだ。好奇心と、剛の心にいつも引っ掛かりを生む「普通」である事。一緒に暮らす年上の人をもう特別の意味で愛していたけれど、その彼が「普通」である事を望むのだから仕方ない。
「普通」に女の子を好きになって、「普通」の交際であるように女の子を抱いた。特別な感情は生まれなかった。身体が持ち合わせた欲求に自身を委ねるのは簡単だったけれど、光一を愛しているのだと実感させられただけだった。そして、欲の吐き出し方を覚えた身体は、彼を目の前にして呆気なく熱を持つ。一緒に暮らしているのだから当たり前だけど、光一は無防備過ぎて、いつ欲望のまま押し倒してしまうのか自分で怖かった。
二人の生活を続ける為に、剛が決めた儀式。一人きりの習慣だった。眠る光一に口付ける事。治まらない欲を逃がす為の卑怯な行為だとは分かっていた。けれど、歯止めが利かなくなるよりはマシだ。もし目が覚めても躱す自信はあった。光一は自分が子供らしく甘えて来る事に弱かったから。
女の子を抱く度に光一に口付ける。彼に自分と同じような欲求はないのだろうかと下世話な想像もした。一緒に眠るこの部屋に一人の場所はない。いつも穏やかな光一が理性を失う瞬間。何度考えてもイメージ出来なかった。彼は自分の感情が乱されるのを極端に嫌がる。恋と言うよりも、女性そのものを遠ざけているように見えた。
自分のせいなのかな、と思うと少しだけ寂しくて、でもそれ以上に嬉しい。光一を独り占めしている感覚は、間違いなく「普通」から逸脱しているけれど構わなかった。誰にも告げなければ、この恋は存在しないのと同義だ。彼はきっと、自分が「好きだ」なんて言ったら離れて行ってしまう。二人でいられるのならそれだけで十分だと言える程、大人にはなれなかった。欲望を身体の奥で飼い馴らしながら、暮らして行く。光一に恋人でも出来ない限りは、自分を抑え込めるだろうと思った。「恋人」になれなくても、今の「親子」と言う関係は唯一のものだ。
触れてしまいたい欲求と闘いながら今日まで生きて来た。もう、限界なのかも知れない。飼い殺した筈の熱は、すぐにでも光一の前で溢れ出してしまいそうだった。