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M3「morning light」/2*1

 夜明け前が一番暗いのだと、教えてくれたのは貴方だった。

 まだ、高校生になって間もない頃だったと思う。勉強と仕事と、とにかく時間に追われていて、それを疎ましく思っている人間がいる事も知っていて、でもどんな風に思われようとも自分は自分のままでいようと頑なに思っていたあの頃。
 放課後のレッスンで倒れた。熱がある事には気付いていたけれど、どうにかなるだろうと思って参加していた。明日の生放送の為のレッスンで、今日出なければ出演出来ない事を知っていたからだ。救護室のベッドで横になって、悔しい気持ちを押し殺した。またあいつらは笑っているだろう。自分を厭う人間が多いのは、仕方のない事だと思っていた。何もかもを捨ててこの仕事だけに専念している人間から見れば、自分は迷惑な存在だろう。
 けれど、何もかもを捨てなければ、何も得られないのかと自分は納得出来なかった。だから、櫻井は全てを得る事を望む。この仕事は一生ものではないだろう。アイドルと言う存在には、賞味期限があった。期限が切れたその時、何もかもを失うなんてリスクを抱える事は、出来ない。
 今無理をしてでも、自分の選択は未来に繋がると信じていた。けれど、身体が追いつかない。高校に上がって、勉強もしっかりやらなければ難しいものとなった。片手間で出来るようなものではない。
 大学へ進学を決めていたし、それを考えると事務所で活動するのは後三年もないだろう。自分の力を何一つ出し惜しみせず、生きて行きたかった。
 ベッドに横たわっている場合ではないのに、起き上がる事が出来ない。明日の番組出演は、諦めなければならないだろう。溜息を零して、櫻井は寝返りを打った。
 その時、何の前触れもなくカーテンが開く。驚いて顔を上げると、普段は余りレッスンに参加しない人の姿があった。大野智だ。
 茶色の長い髪の下に隠された瞳は、ぼんやりとしているのに、彼の一挙手一投足に何故か惹かれた。事務所に入った最初の時から、彼は尊敬する存在だ。素行が良いとは言えないし、大人に対して従順でもなかった。かと言って、粋がっている訳でもなく、反抗心が強い訳でもない。不思議な人だった。
 芸能人って言うのは、こう言う存在の事を言うのかも知れない。得体の知れない雰囲気が、本音を覗かせない表情が、周囲の人間を惹き込んだ。
『平気か?』
『あ、はい』
『ああ、起きなくて良いぞ。まだ、顔赤い』
『すいません』
『何で謝んだ』
『あ、すいませ、』
『お前、変な奴だなあ。熱、明日までに下げられるか?』
『え?』
 大野は躊躇なく桜井の額に手を伸ばすと、体温を確認する。「うーん」と唸りながらも、納得したようにうんうんと頷いた。
『桜井なら、気合いで治すだろ?』
『俺の名前……』
『知ってるって。最初ん時、自分で言ったじゃねえか』
『でも、』
 大野は、人の名前を覚えない事で有名だった。まさか覚えているとは思わなかったし、そもそも視界にも入っていないと思った。それがこうして、救護室まで来てくれている。どうしてだろう。
『明日、出ろ』
『……え』
『おいらのポジション、お前がやれ』
『ちょ、待って下さい!』
 大野は、明日のレッスン時間を告げるようなあっさりとした口調で言った。けれど、勿論桜井がそれに納得出来る訳がない。今日、途中からレッスンには参加していないし、その上大野のポジションは最前列だった。今の自分に与えられる場所ではない。
『何? 覚えてない?』
『覚えますけど!』
『あは。何で怒ってんの、お前』
『だって、大野君のポジションって』
『一番前だ。目立つぞ』
『何で……』
『お前が、頑張ってっから』
『他にも、頑張ってる奴は沢山います』
『そうだな。でも、目の下に隈作ってまで出てる奴、お前だけだよ』
『これは……自分で忙しくしてるだけですから。自業自得です』
『お前、気強そうなのに、案外謙虚だな』
 大野は楽しそうに笑うと、起き上がろうとする桜井の肩を押さえ込んで、ゆっくりと言った。
『チャンス、欲しいだろ』
『はい』
『じゃあ、ラッキーだと思え。先輩が後輩にしてやれる最後のチャンスだ』
『最後って……辞めるんですか?』
『んや、違う。でも、東京離れんだ』
 噂では聞いた事があった。関西に専用劇場を作って、そこで事務所の人間だけの公演を行う事。実力のある人間が、何人も引き抜かれる事。噂は、本当だったのだ。
『行っちゃうんですか?』
『知ってんのか』
『噂だけは』
『そっか。まあ、そんな訳だしさ、東京でテレビ映っても得になる事何もねえんだ。だから、お前が出ろ』
『いつ、行くんですか?』
『さあ?』
 片眉を上げて、大野はおどけた表情を見せた。自分の事なのに、まるで頓着がないようだ。自分の生活する場所から離れて、新しい生活を始めると言うのに、どこにも気負いが見られなかった。
『明日、出れるな』
『はい!』
『じゃあ、これビデオ。家で練習しろ』
『あ、ありがとうございます』
『じゃあ、お大事になー』
『あ、大野君!』
『んー?』
『連絡先、教えて下さい!』
『……何だお前、面倒な後輩だなあ』
 言葉とは裏腹に、大野はベッド脇に置いてあった櫻井のバッグからペンケースを取り出すと、桜井の掌にさらさらと電話番号を書く。
『電話、しても良いって事ですか?』
『出ないかもしんねえけどな』
『じゃあ、出るまで掛けます』
『お前、やっぱ変な奴。じゃあな』
 大野はもう振り返らず、カーテンを閉め部屋を出て行った。桜井は掌に記された番号が消えない内にと、慌てて携帯に番号を登録する。これで、繋がれた。良く分からない安堵感に包まれて、もう一度桜井は眠りに落ちる。
 翌日、大野のポジションと言う責任感も手伝って、振りを間違える事なく踊る事が出来た。勿論、後列のやっかみは聞こえている。けれど、少しも気にならなかった。
 後で聞いたところによると、大野は振付師と喧嘩までして、桜井にこのポジションを与えたと言う事だった。いなくなる人間と、これから伸びて行く人間のどちらが大事なのかと、あの厳しく怖い振付師に向かって言い放ったと言う。
 大野の真意は、分からなかった。唯、自分と言う存在を知っていてくれた事、彼の計らいによって更に自分には迷いがなくなった事、それだけは確かだ。努力しようと思った。彼が専用劇場で頑張っている間に、彼の望むように成長しようと。
 明確な目標が出来ると、人は更に強くなる。桜井は、ますます自分の手にある全ての事に全力で取り組むようになった。



『大野君?』
『……お前、彼女いねえのかよ』
『いますけど?』
『じゃあ何で、こんなに電話掛けてくんだっての』
『大野君に話したい事あるからです』
『彼女でも友達でも、俺より話聞いてくれる奴なんて、桜井なら幾らでもいるだろ』
『大野君じゃなきゃ、駄目なんです。どうですか? そっちの生活』
『自由で最高だけど、客入んなくて最低だな』
『楽しい? 辛い? 帰りたい? どれですか?』
『……分かんね』
『いつ、帰って来るんですか』
『あのなあ、毎回それ聞くけど、わざわざ劇場作って、三ヶ月やそこらで帰れる訳ねえだろ』
『はあ。……大野君に会いに行こうかなあ』
『だから、何で俺に拘んだっての』
『大野君が好きだから?』
『……疑問形だし。大体お前、忙しいだろ』
『忙しいですけど、時間は作るもんなんですよ』
『京都来ても、収穫ねえぞ』
『大野君に会いたい』
『お前な……』
 大野が京都に行ってから、桜井は忘れられてなるものかと、週に一度位の頻度で電話するようになった。出ない時は、三日続けて掛け続ける事もある。沢山いる後輩の一人から、どうにか抜け出したかった。今、彼にとっての自分はどれ位の位置にいるだろう。東京から電話を掛けて来る迷惑な後輩と言う認識でも構わなかった。
 大野に存在を忘れられなければ、それで良い。救護室での会話が、面と向かって話した最後だった。こんな急に京都へ行ってしまうとは思わなかった。
 翌日の本番が上手く言った事を、ちゃんと伝えたかったのに。その後の仕事も、上手く行くようになった。雑誌での扱いも大きくなったし、番組でコーナーも持てるようになった。
 全部、大野がくれたチャンスがきっかけだったと桜井は思っている。恩人のようなその人に、会いたかった。今は、電話でしか彼の存在を知る事が出来ない。
 大野の立つ舞台の客入りが悪い事は、桜井の耳にも届いていた。最初の頃はまだ良かったものの、平日になると客数が一桁になる事もあるようだ。もう既に、何人か辞めたとも聞いていた。もし、大野が辞めるような事を思っていたら、どうしよう。そう思って、桜井は毎週電話を掛ける。
『大野君に会いたいよ』
『そーゆーのは、彼女に言ってやれ』
『彼女には、すぐ会えるし。大野君、辞めたりしないですよね?』
『そうだな。まだ辞めようとまでは思ってねえよ』
『ホントですか?』
『それも毎回聞くなあ。辞めねえよ、まだ。今辞めたら、プー太郎になっちまうし』
『そう言う理由で?』
『おう。プー太郎はマズいだろ?』
『まずいとかそう言う問題じゃないと思うんですけど。やっぱり俺、大野君に会いに行きます!』
『……だから、どうしてそうなんだっての。平日は学校で、放課後も休みも目一杯仕事詰め込んでんだろ? 翔君、凄ぇ人気だって皆言ってっぞ』
『そりゃ、そこそこ人気はありますけどね』
『自分で言うし』
『でも、大野君の事見に行きます。ええと……ああ、そうだ。再来週、木曜日、行ける。ここで、行きます』
 手帳を捲りながら、櫻井は決めた。学校を休んで日帰りで行けば、舞台を見て、大野に会って最終で帰って来られるだろう。
『お前、本気か?』
『本気です』
『俺、お前の事良く分かんねえや』
『分かんなくて良いです。忘れられなければ』
『こんな後輩、忘れらんねえだろ』
『良かった。じゃあ、再来週行きますから!』
 桜井は強引に約束を取り付けると、電話を切った。大野に会うのは、三ヶ月ぶりだ。もっと会っていない気もするし、電話をしているからもっと身近に感じる気もした。大野に会いたい。単純で明確な欲求だった。自分の恩人。大切な先輩。それ以外に、大野を形容する言葉は見つからないけれど。
 彼の背中を見て、踊って来た。手本になるような先輩ではないかも知れないけれど、自分にとってはどんな先輩より大切な存在だ。
 翌週は電話をしなかった。大野が少しでも自分の事を気に掛けてくれはしないかと言う小細工だ。そんなつまらないものに引っ掛かってくれるとは思えなかったけれど、二週間我慢した分、会ったらより嬉しいんじゃないかと思った。



 京都に作られた劇場は、思ったより狭くて、思った以上に客が入っていなかった。桜井はキャップを目深に被って、誰にもばれないように席に着く。こんなに空席ばかりでは、精神的にきついだろうなと思った。
 楽屋へ行くのは気が引けたから、劇場を出ると頃合を見計らって、大野へ電話する。滞在時間は短かった。少しでも早く、顔を見て直接話したい。
『もしもし? 大野君?』
『お前、何で先週電話しなかったんだよ』
『え、』
『おいら、気になって気になって、ずっと携帯持ってたんだぞ』
『ホントですか?』
『ホントだよ。嫌な習慣付けさせやがって。翔君から電話来るの当たり前になっちまったじゃねえか』
『それは、嬉しいな。うん、嬉しいです』
『そんなに嬉しそうな顔して言ってんなよ』
『……え。あ、』
 目の前に、大野が立っていた。確かにここは劇場から近いけれど、こんな風に探してもらえる程目立つ場所にもいない。どうして見つけられたのか、やっぱり大野は不思議な人だった。
『大野君』
『客席にお前いるから、ビビったぞ』
『見えたの?』
『こっちはもう、客数数えんの癖になってんだよ。ホントに来やがって』
『行くって、言ったじゃないですか』
『馬鹿だな、お前。今日、学校だろ』
『出席日数は計算してるから、大丈夫です』
『そう言うのが、お前の嫌味なところだよな』
『嫌味ですか?』
『だって、わざとそうやって振る舞ってんだろ? わざわざ嫌われる方を選んでるようにしか見えねえよ』
『そんなつもりもないんですけどね』
『嘘つけ。嫌われても良いから、自分のやりたい事は貫こうとしてる。おいらは、翔君のそう言うとこが良いなって思ってる』
 ふわりと笑った大野は、三ヶ月前に見た時よりも儚げに見える。それは多分、この環境が変えてしまったものなのだろう。けれど、彼の優しさは変わっていない。一見するとぶっきらぼうに見える振る舞いや口調も、慣れてしまえばどうって事はなかった。
 携帯を仕舞うと、大野へ手を伸ばす。彼は反射的にびくりと肩を竦めたけれど、構わずにその柔らかな頬に触れた。後輩が先輩にする行為ではない。分かっていても、彼の体温を確かめずにはいられなかった。
『翔君……』
『会えて、良かったです』
 静かに、その喜びを伝えた。大野は、自分の光だ。彼の光があるから、自分は迷わずに生きて行けた。いつだって、彼の背中を追っている。遠く離れた今も、その行方を追い掛けた。
『嬉しい。来て、良かった』
『馬鹿だな、お前は』
 照れたように言った大野は、俯くと頬を僅かに赤く染めた。この事務所に所属すべき可愛らしさだと、桜井は冷静に思う。可愛くて儚げで、そして綺麗だった。三ヶ月前よりずっと、大野は綺麗になっている。それが、何故なのか桜井は分かる気がしたから、何も言わなかった。プライベートにまで踏み込める程の関係ではない。
 彼が誰とどんな風に付き合っていても、自分には話を聞く資格も、止める権利も持ち合わせてはいなかった。
『来い。飯位、奢ってやる』
『良いんですか?』
『ここまで来た馬鹿は、お前だけだ。おいらがいつも行ってる店だから、安いとこだぞ』
『何でも良いです』
 そう答えれば、大野は溜息を一つ零した。自分の気持ちは、余り伝わっていないのかも知れない。どうしたら、この思いの全部が伝わるかな、と考えた。接点の少ない自分達だ。そう簡単には、思いは届かないだろう。憧れの先輩です、と言ったところで今はファンにまで理解してもらうのも難しい。
 どうして、京都に行く事を決めたんですか? 本当に聞きたい事は、多分まだ言葉に出来ないだろうと思った。



 それから、二年もの歳月が経った。東京ではすっかり、大野達の存在は忘れ去られ、櫻井も大学進学の為自分の進路を決めなければならないところに立っていた。
 この二年、櫻井はほとんど毎週大野への電話を欠かさなかった。会えたのは、二年前の一度きりで東京に仕事に来た時もすれ違いで会えなかったけれど。やっと、大野が帰って来る。
 事務所を辞めるのは、大野ともう一度同じステージに立ってからでも良いかと思っていた。さすがに、大学生活と芸能活動を一緒に行う事は、難しい。今まで何も言わなかった父親でさえ、そろそろ考えろと言って来た程だった。
 ジュニアの自分達が目指すべきゴールは、CDデビューしかない。櫻井はそこを目指していなかったし、ジュニアの間にやりたい事は沢山経験出来た。心残りがあるとすれば、大野と一緒に先輩のツアーに帯同して回りたかったと言う事位だ。
 彼が京都から引き上げて帰って来たその夜。櫻井は迷わず、大野の元へ行った。顔が見たくて、番組収録を終えると、大野の住所を聞き出して彼の家の前までタクシーで付けた。
『大野君!』
 大野は、家の外で待っていた。二年ぶりのその姿に見とれそうになって、櫻井は慌てて首を振った。見ていたい存在じゃない。違う。俺はこの人に、近付きたい。目を見て話して、触れたかった。
『お帰りなさい!』
『うん。ただいま』
 照れ臭そうに鼻を掻いた大野は、いつも通りだった。いつも通り、櫻井の憧れた姿のまま、立っている。近付いて、両手を伸ばして、その頬に掌を当てた。
 そして、気付く。大野が小さくなっている事に。正確に言えば、自分の身長が伸びたのだ。大野と視線を合わせると、目の高さが同じで嬉しくなった。二年と言う月日は、やはり短いものではないのだ。
『……んだよ。そんなに見ても、変わってねえぞ』
『変わってなくて嬉しいなって、思ってたんです。もう、誰かに会いました?』
『ああ。事務所行ったから、そこにいた奴らとは』
『そっか、残念』
『何が?』
『京都から帰って来た大野君に、一番に会いたかったなあって』
『また変なとこに拘るな、お前は』
『でも、家まで押し掛けたのは、俺が始めてでしょ?』
『翔君みたいな馬鹿は、他にいねえかんな』
『そうですか? 馬鹿で良かったな、俺』
『褒めてねえっての。ほら、上がってけ』
『……良いんですか』
『ここまで来た癖に、良く言うよ。その鞄、学校のもん入ってんな? 泊まってけ。明日は、母ちゃんが駅まで送ってくれっから』
『ホントに? 良いの?』
『駄目だったら、電話の段階で断ってる。ほら、来いって』
 大野が手を引くから、櫻井はそれに倣った。家に入ると、彼の家族が歓迎してくれて、櫻井は吃驚した。温かい家庭だった。大野を育むには、こんな環境が必要なのかと納得する。
 家族に混ざって夕食を食べ、一緒にテレビを見て、順番に風呂を使わせてもらった。そして、日付が変わる前に大野の部屋へと入る。既に、布団も敷いてあった。
『翔君、ベッド使え』
『え、悪いから良いです。布団で充分』
『お客さんにはベッド使ってもらうのが礼儀だって、母ちゃん言ってた』
『俺、お客さんじゃないし。大野君に一番に会いたくて押し掛けて来た、迷惑な後輩です』
『迷惑じゃねえよ』
 大野は布団に腰を下ろすと、櫻井を見上げて優しく言った。外からの明かりしかない暗い部屋の中で、彼の瞳がきらりと光る。
『大野君?』
『帰って来たら、ちゃんと言おうと思ってた。おいらの事、忘れないでいてくれて、あんがとな』
『忘れないです』
『俺が、辞めてもか?』
『辞めるつもりですか?』
『分かんねえ。でも、潮時かなあって思ってる』
『そんな……』
『まだ、事務所にも言ってねえし、翔君が悲しそうな顔する話でもねえよ。でも、最初に言いたかった』
『俺が、最初?』
『おう』
『だって、仲の良い人、沢山いるじゃないですか』
『仲良いからって、何でも話すってもんでもないだろ』
『……大野君。俺、』
『ん?』
 大野の目の前に腰を下ろして、彼の手を取った。どうして、この人に触れるのは怖くないんだろう。会える時間は少なかった。これから先も多分、一緒にいられる時間は多くない。
 それなのに、触れている。大野の体温を感じると、安心した。この感情を何と呼ぶのか、櫻井は知らない。
『俺も、もうすぐ辞めると思います』
『……そうか』
『理由、聞いてくれないんですか?』
『翔君は頭良いから、色んな事考えてんだろ? 俺が聞く事なんて、何もねえよ』
『酷いなあ。俺も、大野君に言ったのが初めてなのに』
『しょうく、』
 大野の背を抱き寄せて、肩口に額を押し当てた。彼の身体は拒まない。その理由は、考えない事にしていた。二年前に会った時に感じた違和感は、今もここにある。同性を知っている身体。抱き締められる事に抵抗を覚えないその身体が、愛しくて疎ましい。
(嗚呼、何だ……)
 櫻井は、初めて自分の感情に気付いた。自分の光。どうして、分からなかったのだろう。櫻井の胸の中に、温かな光が差し込んで来る。
(俺は、この人が、好きだ)
 はっきりと、自分の思いを知る。会えない時間も、近付けない距離も超えて、唯この人を愛していた。欲しがっていた。女の子を好きになるのとは、違う感覚だ。尊敬と親愛と、嫉妬と羨望と。沢山の感情が入り混じっている。
『翔君?』
『好きです』
『……お前、』
『これ、多分、好きって事なんだと思います。良く分かんないけど』
『分かんねえで、そんな事言うなよ』
『分かんないけど、間違ってないです。大野君が好きです。貴方が、誰を好きでも、俺は貴方が好きだ』
『お前、彼女……』
『いますよ?』
『訳、分かんねえ』
『この気持ちは、恋とかそんな簡単なもんじゃなくて、もっと大事な、生きてく上で重要な、そう言う愛情なんだと思います』
『あんまり難しい事言うな』
『だから、簡単に言えば好きだって事です』
『お前は、賢いのに、馬鹿な後輩だな』
 抱き締められた大野は、溜息を零して、櫻井の背中に手を回す。頼りない身体が二つ、夜の闇の中を彷徨おうとしていた。
『大野君、好き。大好き』
 闇の中に射し込む光のようだった。大野を愛すると言うのは。
 永遠を知る事と同じだと思った。
『好きだよ、大野君』



 それから、二人の関係に進展があったかと言えば、何もなかった。恋や愛なんて言っている場合ではなくなったからだ。二人共に、辞めようとしていた頃、いきなりデビューが決まった。拒絶して、辞退を申し出て、けれどもう、子供の力では止められない程、その話は走り出してしまった。
 ハワイでの会見も、その後の怒涛の忙しさも、二人の記憶には余り残っていない。唯、傀儡のように分刻みのスケジュールをこなすだけだった。五人共に顔見知りではあったけれど、東京での仕事が少なかった大野にしてみれば、下の三人は知らないも同然だ。
 五人でいる事の居心地の悪さも、忙しさの中で気詰まりになって行った。櫻井には大野がいたし、弟同然の松本もいる。二宮と相葉は、最初からセット売りのようなものだったし、松本との仕事も多かった。
 櫻井が心配なのは、大野だけだ。自分の、辞めたいと言う気持ちよりも、一人になりがちな大野が心配で、そちらに気を向けるばかりだった。大野は、元々群れる事を好まない。スタッフに気を使われるのも嫌いだったし、そもそも決められたように動く事が苦手なタイプだった。
 デビューして、雁字搦めに縛り付けられて、その呼吸さえ支配されてしまうのではないかと思う程の環境の中、大野は苦しそうだった。櫻井はその度、大野に寄り添って、何も言わず傍にいた。
 まさか、自分達の人生がこんなところで重なるとは思いもしない。大野は手の届かない先輩で、いつか離れて行ってしまうものだと思っていたから。
『大野君、大丈夫?』
 デビューして三ヶ月。もう、敬語を使っている暇もなかった。大野の傍には自分が必要だと、櫻井は心得ている。そして、引き返せない事も覚悟した。このまま大学に通う事がどれだけ辛いかは、想像に難くないけれど、自分のやりたい事は何があっても貫き通したい。そして、その中で大野を守りたかった。ダンスと歌は折り紙付きでも、東京での知名度は高くない。自分達四人は、冷静に見ても人気があると言って良いだろう。その人気だけではやっていけないからと、大野を入れた事務所の判断も分かる。そして、やる気の見えない大野を繋ぎ止めておく為に、デビューさせる事が必要だと言うのも、櫻井には充分理解出来た。
 大野に寄り添って、大野の一番の理解者であると周囲にアピールして、嵐と言うグループで日々を過ごして行く。憧れの存在が、ここにあった。苦しそうに、辛そうに、足掻きながら、もがきながら、その姿を一番近くで見ている。手を取って、一人ではないと言い聞かせた。闇に溺れそうになる大野の手を、離さず握り締める。
 そうして、いつかの大野の言葉を思い出した。
 櫻井は、移動中の車の中も大野の隣に座る。全員が、疲労困憊だった。徐々に力の抜き方も覚えて来たけれど、元々体力のない相葉は、一週間に一度は必ず熱を出す。隣にいる二宮は手馴れたもので、大した動揺も見せず、フォローに回った。あんな風になれたら良いなと思う。二宮と相葉は、今まで積み重ねて来た時間の密度が違った。今はまだ、あんな風にはなれないけれど。
 いつか、大野の一番の理解者になりたいと思った。一緒にデビューした事に意味があるのだとしたら、それはきっと大野と運命を共にする為だ。
 いつの日か、電話で話した事。今の生活は辛くないかと、向こうに行って一年が経った頃だろうか、それ位に聞いた事がある。否、いつも聞いていたのだけれど、その時だけはぽつりと答えをくれた。
 辛いけど、辛くない。
 なあ、知ってっか?
 夜明け前が、一番暗いんだよ?
 あの時は、良く意味が分からなかった。夜の深さの話と、大野の生活の辛さがどうリンクするのか、櫻井には理解出来なかったけれど。今なら、分かる。
 暗闇の中、たった一つの光。夜明けを待つ、花のように。
 一番深い闇に堕ちた時に、気付くのだ。朝を迎えるその一瞬前が一番暗い事に。真の闇に堕ちて、初めて明けの光を感じる事が出来る。あの時の大野は、暗闇の中にいた。でも、希望を捨てなかった。
 そして今もまた、苦しい闇の中にいる。大野は、覚えているだろうか。あの時の言葉を。
『大野君、寝てる?』
『起きてる……』
 そっと声を掛けると、大野は繋いでいた手を握り返して来た。他人の体温が必要な人だ。誰でも良いのだろうけれど、刷り込みのように、自分の体温を覚えさせたかった。
『もう、着くか?』
『ううん。もう少し』
『翔君も、寝ろ』
『俺はタフだから、大丈夫』
『そう言う自意識過剰なところがお前の駄目なとこだな』
『良いんだよ。出来るし』
『嫌味な奴』
『ねえ、大野君。覚えてる?』
 車は、次の収録現場へと五人を運ぶ。後戻りの出来ない道。これから、先輩達のようにこの五人で歩いて行くのだろう。自分だけではなかった。大野も二宮も辞めたがっているなんて、前代未聞なグループだ。松本にはやる気があったし、相葉は何も考えていないように見えた。ばらばらな方向を向いた自分達が、これからどうなるのかは分からない。けれど、大野の傍を離れてはいけないと思った。これは、神様がくれたチャンスだ。交わる事のない運命を、触れる事さえ叶わない遠い距離を、神様は重ねてくれた。一緒にいても良いのだと、言っている。
『何を?』
『夜は、夜明け前が一番暗いんだって』
『……ああ、言った』
『今もきっと、夜明け前なんだよ』
『暗過ぎんな、今は』
 疲れたように、大野は笑った。櫻井は、繋いだ手にもう片方の手を重ねると、大野にだけ向ける優しい表情と声で彼を労わった。
『暗いけど、俺もここにいるよ。一人じゃない』
『……一人じゃ、ねえのか』
『大野君を一人にはしないよ』
『そっか』
『怖い?』
『怖くねえ。でも、何でここにいんだろうな、俺』
『それは、望まれてるからだよ。大野君が良いんだ』
『俺、人気ねえぞ』
『そんな事ない。その内、間違いなく大野君の凄さは、皆に知れ渡る。大野君は、凄い人なんだから』
『翔君は、俺を買い被り過ぎだ』
『違うよ。これは、事実。俺はもう、逃げない事決めた。だから、大野君も一緒に、ここで、戦おう?』
 どんな長い道だって、歩き続けてみせる。辿り着いた先に見える景色が、どんなものかは分からないけれど。大野がいれば、自分は大丈夫だった。もう、辞めようなんて思わない。神様が落としたチャンスを逃す訳にはいかなかった。大野と言う光を、自分は失えない。彼の傍で、生きて行きたかった。
『翔君は、強いな』
『強がってたいの』
『お前がいると、安心する』
 そう言って目を閉じるから、櫻井はごく自然な仕草で、大野の唇に自分のそれを触れさせた。柔らかな感触。大野は吃驚したように、目を真ん丸に見開く。その様さえ、可愛かった。
 大野を可愛いと思うようになったのは、いつからだろう。手の届かない先輩だった。彼を自分のものにする事は出来ないと思っていた。けれど今、櫻井は大野に触れて、再びの愛情を確認する。
『……お前、変な奴』
『大野君にだけは、言われたくないよ』
 彼が拒絶を見せなかったから、櫻井はもう一度口付ける。メンバーのいる車の中で、何度も何度も唇を合わせた。どうにかなってしまいそうだ。このまま、大野を抱いてしまいたい程。疲労のせいで、溜まっているのだろう。それもあるけれど、やっぱりこの人が欲しいんだと思った。
『大野君、』
『ん?』
『いつか、暗闇から抜け出せたら、俺と一緒に、未来を見てくれる?』
『未来を?』
『そう。俺達の生きる先。そんな簡単には見つけられないだろうけど、いつか、その日が来たら俺と一緒に生きて』
『それは、告ってんの? グループを成功させようって言ってんの?』
『どっちも。俺、欲張りなんだ』
『知ってる』
 大野は笑って、自分から櫻井へ口付けた。その仕草が甘かったから、自分達の関係は間違っていないのだと櫻井は確信する。
 どれだけ深い闇が自分達を覆っても、一緒にいれば大丈夫だった。いつか、朝は来る。星の光に導かれて、長い夜を越えて。
 その時にきっと、自分達の運命は一つになるのだろう。



 あれから、十年以上の月日が流れた。グループは長い低迷の時期を経て、波に乗っている。初心は忘れてはならないと思っているけれど、あの頃からは想像もつかない仕事を沢山経験した。
 自分がキャスター業を出来るとは思っていなかったし、大野が古典を開くとも思っていなかった。五人それぞれの認知度も上がって、ありがたい事に国民的アイドルなんて呼ばれたりする。本質は、何も変わっていなかった。変わったのは、時代だ。自分達は、上手く今の時代に合っただけだと思っていた。
 それでも、忙しい事は嬉しい。デビュー当時の、訳の分からない忙しさではなかった。今はきちんと、自分の出来る範囲ではあっても、全体を把握する事が出来ている。全体とは、勿論自分の仕事だけではなかった。メンバーの仕事も把握するのが、櫻井の意向だ。趣味とも言えるかも知れない。
 今日は、大野の上がり時間が早い。自分は夜の取材まで、少し時間があった。久しぶりに大野を誘って夕飯に出掛けようと決めたのは、その日の午後だ。仕事終わりの大野を迎えに行けば、嫌そうに眉を顰めた。大野は自分にだけ、こう言う態度を見せる。嫌がってる振り。嬉しくない振り。
 それが、櫻井を喜ばせている事に、どうして気付かないのか。可愛い人だな、と思う。
「お疲れ様、智君」
「何で、お前ここにいんだよ」
「夜まで空きがあるんだ」
「おいらは、空いてねえ」
「嘘。船長にも今日は釣り出ないって確認したし、奈良さんは今海外でしょ? めぼしい友達にも今日は連絡すんなって釘刺したし」
「お前は、やる事があくどい……」
「酷いな。智君との時間を楽しみたいだけだよ」
「大体何で、船長の連絡先知ってんだよ。奈良さんの予定とか、お前知らなくて良いだろ」
「まあ、把握出来る限りはね、把握しておきたい訳ですよ。大野智の事は」
「……お前のそれは、病気だな」
「恋の病って言ってよ」
「馬鹿」
 大野は文句を言いながらも、助手席に乗り込んだ。お互いの仕事量を考えると、こうして無理をしなければ二人の時間は作れない。
 十年以上の時を経てもまだ、自分達の関係は変わっていなかった。大野が変化を恐れたと言うのもあるし、まだ未来の見える場所に立てていないような気もしたからだ。
 けれど、二人で出来る事は、もう全部試してしまった。キスが気持ち良い事も、身体の相性が良い事も分かっている。
 それでもまだ、恋人にはなっていなかった。長い長い片思いだ。しかも、二人で同じ気持ちを抱えていた。二宮に言わせれば、くっ付いてない方が迷惑だとの事だったけれど、もう一歩を踏み込む理由が見出せない。このままで良いと、お互いが思っていた。
 車を静かに発進させる。大野は、櫻井に連れ回される事を嫌がらなかった。お気に入りのレストランも、昔馴染みの料亭も、ひと気のない夜景の見える場所も、どこでも付いて来る。どれが楽しいのか、いまいち把握出来ていなかったけれど、どこへ連れて行っても大野は櫻井に向けて笑い掛ける。それだけで、充分だった。
「今日は、この間松潤に教えてもらったイタリアン行こう」
「パスタ?」
「そうそう。パスタもピザもリゾットも、何でもあるよ。予約してあるから、安心して」
「仕事の入り時間は?」
「あー……先にそれ訊く?」
「そりゃ、訊くだろ普通」
「二十一時」
「あ、案外普通だな。ゆっくり飯食えんじゃねえか」
 大野はほっとしたように笑うと、シートに背中を預けた。地下駐車場を出て、スピードに気を付けながら予約時間に間に合うように車を飛ばす。信号で止まった時、サイドブレーキを上げると、櫻井は大野へ手を伸ばした。
「お前、運転中……」
「我慢出来ない」
 唇が合わさる一センチ手前でそう言うと、深い口付けを与えた。大野の唇が、しっとりと濡れている。舌を絡めて、口蓋を舐めて、最後に下唇を甘噛みすると、唇を離す。
 信号が青に変わり、櫻井は平気な顔で運転を再開した。
「……誰かに見られたら、どうすんだよ」
「何の為のスモークだと思ってんの」
「これの為だったら、唯の馬鹿だからな。女優さんとデートする時の為とか言えよ」
「だって、ホントにあんたの為だもん。智君とイチャイチャしたい時に、すぐ連れ込めて良いでしょ?」
「良くねえっての」
「もう、そろそろ、かなあ」
「……何が?」
「未来を一緒に見据えませんか、ってお誘い」
「お前は、いちいち記憶力良過ぎんだよ」
「それは、智君も覚えてるって事でしょ? まだ早い?」
「早いも遅いもねえよ。俺は、翔君を縛り付けたりしない」
「縛ってよ。どこにも行けないように。他の何も、見えない位」
「嫌だ」
「そろそろ腹決めても良い頃だと思うけどね。俺ら、三十越えたんだよ? 二十歳そこそこの子供じゃねえし。自分の未来位、自分で選んでも良いと思わない?」
「翔君が選ぶのは、あん時と違う未来だ」
「どうして?」
「お前なら、選び放題だろ? 何も、俺じゃなくたって良い。俺は、お前を幸せに出来ない」
「今、こんなに幸せなのに?」
「今だけだ。俺達に、未来はない」
「未来なんてね、智君。自分の手で作って行くものなんだよ」
 大野はこの長い年月の中で、頑なになったなと思う。自由に生きるのが似合う人なのに、何故か自分との関係だけは自由に遊ぼうとしなかった。それだけ、彼に大切に思われていると言う事だ。櫻井にとっては、嬉しい事でしかないのだけれど、大野はそれに気付いていないらしい。
 彼の中で自分の存在が大きくなればなる程、大野は櫻井を拒絶した。何て愛しいのだろう。そうまでして、櫻井の幸せを願う大野がいじらしかった。彼の幸せは自分が守ると、宣言したくなっても仕方ないと思う。
「まあ、長期戦は覚悟してるから、良いけどね」
「お前なんか、さっさと結婚しちまえ」
「そしたら、あんたにスピーチ頼むけど? 泣かないで出来る?」
「……意地悪なんだよ、お前は」
「嵐は親族席に座らせるし、子供が出来たら、毎日写メ送るよ。そんな風になっても良い訳?」
「……」
「嫌でしょ? 嫌って、言って」
「……」
「智君、」
「嫌だ。そんな翔君、見たくねえ」
「良く出来ました。良いんだよ、俺は待ってる。あんたの気持ちが追い付くまで、ずっと」
「四十になってもか?」
「まだ、十年も待たせる気?」
 櫻井は大袈裟に驚いてみせる。まだぶつぶつと文句を言う大野を尻目に、レストランの駐車場へ車を入れた。予約時間より、大分早く着いてしまった。後、二十分はある。その時間を無駄にするつもりは、更々なかった。
「俺をこんなに待たせるのは、智君だけだよ。ホントにあんたは、凄い人だね」
「それ、嫌味だろ。……うわ!」
 前触れなく、大野のシートを倒した。シートベルトを外して、大野の上に乗り上げる。狭い車内で動きを封じるのなんて、櫻井には造作もない事だ。
「しょ、しょーくん」
「愛してるよ、智君」
 櫻井は甘く囁くと、大野の唇を塞いだ。両手を使って、彼の身体のラインを辿る。擽ったそうに身を捩る姿が可愛かった。この人の全てを手に入れても、多分まだ足りない。心と身体と未来と永遠と、そして彼自身の放つ光と。
 何もかもを欲して、未だ答えのない関係に焦れる。けれど、この焦燥さえ、快楽のスパイスにしかならなかった。大野の身体を開くのは、簡単だ。それだけの長い時間を過ごして来た。早く諦めれば良いのに。あの、擦り切れて忘れてしまいそうな昔から、ずっとずっと櫻井は大野を愛していた。これから先も多分、一生好きだろう。
「しょ、くん……っ、」
 諦めの悪い大野を抱きながら、櫻井は永遠のその先を夢見た。
 愛してる。
 その思いだけで駆け抜けて来たこの年月を振り返る。長い長い日々だった。そして、共に生きる未来を現実のものとする為に、櫻井は智慧を巡らせる。
「智、」
 夜が明けるまで、後少し。




【掌編038「morning light」/2*1】
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