小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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貴方に死なれたら、僕は生きていけない。
最近真剣に、そんな事を考えるようになりました。
マチダくんの大いなる憂い
毎年進化を続けている舞台は、大先輩が入った事によって更に進化している。自分のポジションは満足の行くもので、勿論屋良に嫉妬をすべくもなかった。
人にはそれぞれ与えられた役割がある。
だから、町田は自分に出来る精一杯以上を出すまでだった。座長は毎回、本当に倒れてしまうんじゃないかと思う程限界を超えて頑張っている。
彼と共に過ごせば過ごすだけ、町田も成長する事が出来た。ひたむきに努力をする、その背中に惹かれたのかも知れない。
最初は憧れだけだった。
細く壊れそうな身体で、人一倍タフな事をやってのける。相当の努力を重ねている癖に、それを言葉に出す事はなかった。
男は寡黙な方が良い、なんて言うけれど。
確かに納得出来るものだった。
町田は、出来る限り傍にいたいと願っている。唯純粋に好きだからと言うのもあるし、大切に守りたいとも思っていた。守られたがる様な人じゃないから絶対に言わないけれど。
稽古の時期が来る度に、町田はウキウキとした気分を抑えておく事が出来ない。今回も打ち合わせの段階から、共演者や後輩に「気持ち悪い」と言われていた。
しかし、その町田の笑顔は一転、曇る事となる。
オーナーが変わった事による細かい台本の変更は、日々行われていた。植草はさすがのアイデアで、舞台をより良い方向へ導いてくれる。
町田は感心しながらも、自分に出来る事自分が任された事を確実に把握していた。打ち合わせの緊張感すら好きだと思う。
座長の真剣な横顔は綺麗だった。それが少しやつれていると、余計に色気が増す。……ちょっと変態だな、とは勿論自覚していた。
そんな、楽しくも厳しい打ち合わせの中で一つの新しい案が出る。今回のオーナーは、プレイヤーを兼任してはいなかった。となると、一幕の見せ場であるジャパネスクで刀を渡す人間がいない。
重要な場面の一つだった。主要キャストに話が回ってくるのは分かっていたけれど。
「俺、絶対無理です!!」
悲痛な叫びは、光一の提案の後に響いた。
「何で? 此処はマチダがええやん」
「ヨネにやらせましょうよー」
「ヨネは、俺の命預かって貰ってんの。そんな奴に、刀渡せるかい。なあ」
「そうですねー。俺は、フッキングだけで手一杯です」
「ヨーネー」
「何だよ、町田。大事なシーンなんだからさあ。良い事じゃん」
「俺に……俺に……光一君の命を奪う物を渡せって言うの!?」
「……いや、だから俺やなくて、死ぬんはコウイチやから。な?」
光一の声すら、最早耳に入っていなかった。よよよ、と崩れ落ちると机に突っ伏して泣き始める。
カンパニーの面々は、呆れるばかりだった。隣に座っていた米花は勿論、二つ離れた席にいる屋良も眉を顰める。
光一を大好きな事は、周知の事実だった。憧れとも恋心ともつかない町田の言動は、可愛いものにすら見えるけれど。
「ま、町田……?」
一人、困った顔をするのは光一だ。まさか、この打ち合わせの場面で泣かれるとは思っていなかった。
仕事には厳しい人間だけれど、突発的事態には未だに弱い。こう言う時に、剛がいてくれたらなあなんて思う事もしばしばだった。
残念ながら此処にはいないので、自分が頑張るしかない。言葉で何かを伝えるのは、本当に苦手だった。
「町田、なあ、此処はどう考えてもお前がやるべきやって。あかん?」
「……あかん、なんて聞かないで下さい。俺……俺ぇ」
「光一君。こいつのこれは、唯の我儘なんでスルーして良いっすよ。確かに、此処で真剣持ってけるポジションにいるのは町田だけだし」
「やろ? 俺もそう思うねん。でも、スルーする訳にもなあ」
座長をサポートする事を常に頭の隅に留めているMAにとって、座長を困らせない事は鉄則だった。米花は、平気だと制したけれど変なところで気を遣う座長殿は、わざわざ席を立って町田の傍に行く。
「あかん?」
「……マチダ、絶対自害します」
「阿呆かい。コウイチは1年間はちゃんと植物人間なんやから」
「ちゃんと植物人間って何ですか。うわー! ヤだ! 光一君を殺すなんて耐えられない」
「や、だから、なあ? あかん。……米花~助けてー」
「放っとけば良いんですよ。どうせ、絶対やるんだから」
手を伸ばそうかどうか迷っている光一に、米花は大丈夫ですと笑ってみせる。大分慣れたとは言っても、未だに触れる事に躊躇する人だった。
それはもう多分、触れるのが嫌と言う感情ではない。変なところで臆病な光一は、触れても良いのかどうかを唯迷っていた。
「光一、戻っておいで」
植草に呼ばれて、光一は素直に自分の席へと戻る。今回が初参加とは言っても、元々親交の深い人だった。町田とのやり取りを見ていた植草は、素直に苦笑を浮かべている。
「お前は、ホントに座長向きだよなあ」
「え? 全然、そんな事ないですよ」
「んな事言うなって。なあ、屋良?」
「はい。申し訳ないですけど、ウチの座長は世界一っすからね」
「……褒めても何も出て来ぉへんよ」
「いりません。光一君が此処にいるのに、他に必要なもんなんかありませんよ」
屋良は、躊躇なく言い放った。昔はこんな子じゃなかったのに……と、思わず米花は泣きたくなる。
愛するのも愛されるのもカンパニーにとっては良い事だけれど、段々方向性がずれている様な気がした。
このカンパニーで最後に残った良心である米花は、毎回の事に頭を痛める。座長第一主義は自分も大賛成だ。でも。何事にも限度と言うものがあった。
「町田、少しは落ち着いたか」
「……無理です」
「やる? やらない?」
「……やるに、決まってます」
「よし、じゃあ決まりな」
植草の言葉に、町田は地を這うような低音で答えた。それでも、はっきりとした声だ。さっさと次へ行こうと言わんばかりの快活な返答に、光一も苦笑した。
「ホンマに大丈夫か? マチダに自害させる予定はないからな」
「はい……この重要な任務、町田に遂行させて下さい」
「任務って程、大それた話やないんやけどなあ。まあ、良いか。じゃ、次な」
光一も何だかんだと切り替えが早い。分刻みで仕事をして来たからなのかとも思うが、今回は多分植草が上手く誘導していた。
上からも下からも愛されるのは、やっぱり本人にそれだけの魅力があるからだ。損得なしに皆、光一を大事にしたいと思っていた。
それは、出演者もスタッフも変わらない。
プロの顔を取り戻した光一を見詰めながら、米花は隣にティッシュの箱を差し出した。
おしまい
■information■
昨年末からブログへ移行しました。ご連絡はこちらまで。
「SUERTE」 http://buenasuerte2451.blog.shinobi.jp/
mail:happy_21@mac.com
■Guide of book■
<新刊>【共犯者<下>】
頁数:60P/A5
価格:¥600-
内容:5人は、光一を救い出し復讐の為に動き出した。それぞれの思惑と計画。言葉を持たない光一が選んだ未来とは――?
お待たせしました。完結です。
<既刊>
【共犯者<上>】
頁数:44P/A5
価格:¥400-
内容:近畿さんと嵐さんで大正ロマンパラレルです。
関東震災後の東京、悪質な高利貸しを経営している剛と彼に囲われている喋る事の出来ない光一。そして、剛への復讐を誓う5人。
復讐への計画は、松本が光一に出会い恋をすることによってゆっくりとその歯車を狂わせて行く――。
【世界の果てに、君の声】
頁数:60P/A5
価格:¥600-
内容:SHOCKパラレルです。キャスティングは、2008年のもの。
オオクラの劇場で舞台を続けるコウイチの前に、見知らぬ男が現れた。彼は自らを堂本と名乗り、とんでもない事を言い出した。
「コウイチの為に劇場を建てたから、其処で踊って欲しい」と――。
強引過ぎる申し出に、カンパニーのメンバーは憤慨したが、コウイチは何故か不思議な感覚を抱いていた。
【blanco SUERTE 01】
頁数:100P/A5
価格:¥1,000-
内容:2003~2005年に掛けて、合同誌で発表したお話の総集編です。ごめんなさい。書き下ろしはありません。
全7話収録。「時のない部屋」のみ、准光要素あり。他は全て剛光。
Buena suerte !
09/03/15
■Greeting■
こんにちは。もしくは初めまして。椿本爽です。
SHOCKの時期ですね。相変わらず光一さんは生き急ぎすぎていて不安になります……。この間見た時、すでに頬がげっそりしていてちょっと気の毒になりました。
でも、冬になると疲れてるのにキラキラするので大好きなんですけどねー(鬼)。あ、単独主演回数の更新おめでとーございます!本気でライフワークになって来てるなあ。
それをお祝いして、SHOCK話と思ったんですが……。もはや、剛光ですらないと言うこの感じ(笑)。MAが大好きでごめんなさい。でも、まちこは絶対葛藤しただろうなあと思うので。
もう一つのごめんなさいは新刊ですね。無事完結した事に関しては自分で自分を誉めたいところではありますが。やっぱり、こんだけ嵐さんを出張らせてしまうのはいかがなものかと……。<下>までお付き合い頂けている方はどれ位いらっしゃるのかなー。本当に読んで下さってありがとう、と言いたいです。
んでもって、失敗したなと思ったのは、メインで動く光一さん。喋れないのは非常にしんどかったです。話が転がらない転がらない。もう2度と喋れない光一さんは書きたくないです(笑)。でも、本当に仕上がって良かったなー。色々と後悔はありますが、完成しない後悔よりは良いだろうと言う事で。
では、そろそろ失礼します。今年もこんな感じでのんびりですが、お付き合い頂ければ幸。
2009/03/15 椿本 爽
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