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 相葉の様子がおかしい。
 最近忙しくてなかなか会うことができなかった二宮は、久しぶりに会った相葉がいつもと違うと感じていた。いつもみたいに笑っているし、体調が悪いわけでもないようだ。だが、なんとも言えない違和感があった。その違和感は仕事が終わって久々に相葉の家へとやって来て確信に変わっていた。
「久しぶりだね~、にのが来るの!」
 怒っているわけでもない、拗ねているのとも違う。ただ、ニコニコと楽しそうに笑っているのだ。
「ちょっと、待てって。お茶用意してくるね」
 鞄を置いて部屋を出て行こうとする。その姿を見みながら二宮は少し思案した後、切り出した。
「待って、相葉さん・・・何か言いたいことがあるんじゃないの?」
 相葉の笑顔が固まった。
「なんで?」
「そういう顔してる」
「ないよ、なんにも」
 目を逸らし俯く相葉だが、二宮は続ける。
「嘘。あんたのことなんてお見通しだよ。何ふてくされてんだよ。」
 そんなのちっとも可愛くないよ、となおも続ける二宮に、相葉の肩が震えだした。そして我慢しきれず、ついに声を荒げた。
「何だよ、いっつも自分ばっかり余裕な顔して!!何でも知ってますみたいなさ!!そういうとこ、すっげえムカつくっ」
 俺がホントは何考えてるかなんて、知らないくせに!相葉は二宮を睨み付けた。
「何考えてんだよ?言ってみろよ」
 相葉は黙ったまま、二宮から目を逸らした。
「言えないのかよ?やっぱり何にも考えてないんじゃねえか。だったら、もったいぶった言い方するんじゃねえよ」
「・・・・・・・・いい」
 しばらく黙っていた相葉が口を開いた。
「聞こえねえよ」
「にのなんて・・・ニノなんて不幸になれば良いんだっ!」
「にのなんか・・・ドラマでNG連発して、怒られて、役降ろされちゃえば良いんだっ!それで、歌も踊りもミスって、映画もぜーんぶコケちゃえばいいっ!」
「それでもって、ぜーんぶダメダメになって、誰からも見向きもされなくなっちゃえばいいっ!!」
「・・・何もかもなくしちゃえばいい・・・それで・・残るものが・・・おれだけになっちゃえばいいんだ・・・」
 おれだけになればいい・・・んだ。
 俯いたまま弱々しく繰り返す相葉に近づき、二宮はそっと抱きしめた。
「にの・・・こんな嫌なやつでごめんね」
 二宮の肩に顔をうずめてつぶやいた。
「にのの活躍を素直に喜べなくて、ごめんね」
 二宮の肩が涙に濡れた。
「誰よりも喜んでくれてるの、知ってるよ」
 そして、誰よりも寂しがってるのもね。
 相葉の背中に腕を回し、そっと撫でる。
「つらい思いさせてごめん・・・・・でも、愛してる。いつだってあんただけだよ」
「・・・・うん・・おれも・・あいしてる」
 見つめ合い、どちらともなく唇を重ねる。
「・・・ん・・・はっん・・・・はぁ」
 それは次第に深いものとなり、二人を甘く激しい世界へと誘っていく。


 隣ですやすやと寝ている相葉の髪をすきながら、二宮は思う。こいつの本音を聞きだすのは大変だ、と。相葉は本来、感情表現がストレートだ。
しかし、それは「喜」「怒」「楽」のみである。彼は「哀」を表に出そうとしない。
 彼は哀しいとき笑うのだ。それはそれは綺麗に。誰もが騙されるその笑顔が二宮をイラつかせた。恋人にさえ、本心を隠そうとすることが許せなかった。
 言ってくれたらいいのだ。ただ一言「淋しい」と。「抱きしめてほしい」と。しかし、相葉は決してそれを口にはしなかった。
 だから、彼に本音を言わせるために二宮はわざと悪態をつく。怒りが頂点に達すると、どうやら感情がコントロールできなくなるらしい彼を挑発し、怒りと一緒に本音を爆発させるのだ。
 そうして本音を爆発させた後、彼は謝り続ける。こんな醜い心をした自分を恥じて。
 だが、相葉は知らない。彼の独占欲がどんなに二宮を喜ばせるか。二宮だけに向けられる相葉の暗い部分に触れたとき、二宮の心は震える。俺だけの相葉なのだと。
 俺だけを見てればいい。俺以外見えなくなればいい。相葉の愛している全てのものが、この世からなくなってしまえばいい。
 俺も大概ヤラレてるなと、苦笑いを浮かべる。本当に醜いのはきっと自分の方だ。
「ほんと、俺が何考えてるかなんて知らないくせに」
 呟いた二宮は、相葉の髪に口付けた。
「ん・・・にぃ・・の?」
「起きたの?」
 髪、額、瞼と唇を落としながら話しかける。
「ん・・にの、くすぐったいよ」
 身を捩りながらも、嬉しそうにクスクスと笑う相葉に二宮はホッとする。どうやら、落ち着いたみたいだ。
「ねえ、にの」
「ん?」
「俺、にののことすきでいていい?」
 俺を見上げて、たずねてくる。
「こんな俺でも、にのはすきでいてくれる?」
 黒目がちの眼を不安そうに揺らめかせ、二宮を見つめる。
「愛してますよ。あんたがいなきゃ息もできない。俺の方こそ、相葉さんを手放せないんだ。」
 二宮は相葉を強く抱きしめる。自分の想いが、一つも漏らさず伝わるように。
「ありがと、にの。だいすき」
 そう言って相葉は、美しい笑顔を見せた。感情を抑えているときとは違う、心からの笑顔を。それを見て二宮は満足気に微笑み、幸せいっぱいの笑顔に口付けた。
 誰よりも、綺麗で純粋なあなた。あなたになら、独占されてもかまわないよ。

おわり
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「ねえ、にの。ドラマの撮影、たのしい?」
 熱く求め合った後のけだるさを残しながら、相葉が語りかける。
「んー?まあ、いろいろと刺激になることも多いですし、楽しいですよ?」
「そっかあ・・・・ねえ、おれ見に行っちゃだめ?」
「撮影をですか?」
「うん。あのね、明日も撮影でしょ?おれね、明日ロケなのね。その場所がにのたちの撮影場所に近いのね。だから」
 二宮の胸に擦り寄り、甘えながら話す。普段から滑らかに話せるほうではないが、甘えてくるときの相葉は、話し方がいつもよりたどたどしくなる。それが、二宮にはたまらなく愛おしく、思わず笑みがこぼれる。
「んふふ、そうですねえ」
 相葉の髪を撫で、時々キスを落としながら答える。
「ね?いいでしょ?ヨコにも会いたいし」
 二宮の片眉がピクリと上がる。それに気づかず、相葉は「ヨコ元気かなあ」などと呟いている。
「やっぱり駄目です」
 二宮がぴしゃりと言う。
「えーっ。なんでえ?邪魔しないからあ。だめ?」
「・・・相葉さんが来ることが嫌なんじゃないよ。ただね・・・・・」
 そう言って、二宮は相葉に何か耳打ちをした。
 数日後、今日は5人での番組収録日。
 別の仕事で遅れている二宮以外は集まっており、収録が始まるまでの時間を思い思いに過ごしていた。結局相葉は二宮のドラマ撮影には行かなかった。別にケンカした訳でもなく、その原因は・・・・二宮のあの時の発言にあるのだが。
 収録時間までもう少しというところで、楽屋のドアがノックされ、ある人物が姿を見せた。
「ういっす!!」
 楽屋に入ってきたのは横山だった。ドラマの撮影まで時間がある横山は、近くで嵐が収録をしていると聞き、顔を出しに来たらしい。
「おう、ヨコじゃん。久しぶり」
 メンバーがそれぞれ話しかけるのに答える横山。普段、大阪での仕事が多い横山とはなかなか会えないため、話も弾むようだ。そんな中、いつもなら真っ先に駆け寄り騒ぎ出す相葉だが、何故かソファーの陰に隠れてみんなの様子を伺っている。
「かっぺー、久しぶりやなあ!!」
 そんな相葉に気づき、横山が近づこうとしたとき。
「いやっ!!こないで!」
 相葉が大声で叫び、ソファーの陰から素早く移動し、櫻井の後ろに逃げ込んだ。
「あ、相葉ちゃん?どうした?」
 自分の後ろでおびえるように隠れる相葉に櫻井が訊ねる。
「だって・・・」
 櫻井を見る相葉は涙目だ。
「かっぺ~・・・久しぶりやのに、それはないやろ・・・」
 相葉の態度に横山は情けない声をあげる。ジュニアの頃から横山は相葉がお気に入りで、事あるごとにちょっかいを出し、何かとからんでいた。相葉のリアクションや、表情が可愛くて可愛くて仕方がなかったのだ。それは現在でも変わることなく、続いていた。その相葉に拒否されたという事が横山には、かなりショックだった。
「一体どうしたの?相葉ちゃん。ヨコだよ?久しぶりでしょ?この間まで会いたいって言ってたじゃん」
 相葉の顔を覗き込み、大野が優しく問いかける。
「だって・・・にのが・・・」
「ニノがどうしたの?」
「ヨコにさわると、病気がうつるって・・・・言ってたもん・・」
「「「「はあ!?」」」」
「なんやねん!病気って!!俺、病気になんてかかっとらんわっ!」
 ショックからなんとか立ち直った横山がつっこむ。喚く横山を横目で見て、大野が問う。
「ニノが言ったの?」
「・・・うん」
「どんな病気って言ってた?」
「なんかね、挨拶するときに、『こんにちワンツー』ってしか言えなくなっちゃうんだって・・・」
 こわいでしょ?と本当に恐ろしそうに言う相葉に横山が絶句した。相葉はいたって真剣だ。本気でそう思っているのだ。
「んなわけあるかっ!!そんなん嘘に決まってるやろ!信じんなや!!」
 叫ぶ横山に、顔をしかめた相葉。
「何言ってんの?にのが嘘つくわけないでしょ?」
「なっ!」
 相葉の言葉に横山は再び絶句する。横山が怒るのも当然だが、これはどうにもならないなと他の3人は思う。あの二宮がそう言ったのだ。ならば相葉にはそれが真実なのである。それが相葉と二宮なのだ。2人の間の絶対的な信頼関係。
「あいつはどう考えても嘘つきやろ?自分でも言うてたやん。7割は嘘やって」
「にのは、おれには嘘つかねえもん。おれにはいつも3割の方だもん」
 櫻井の陰から顔を出し、反論する相葉。 かたくなな相葉に焦れて、横山は3人に助けを求めた。
「お前らからもなんとか言うてくれや。そんな病気あるわけないって。なあ、松本?」
 横山が松本の肩に触れた。
「・・・・松潤?」
 不安そうに相葉が松本を見る。

「・・・・こんにちワンツー・・・」

 松本が呟いた。途端、相葉がパニックになる。
「ほらあっ!!松潤にうつっちゃったじゃん!!松潤、だいじょうぶ!?どうしよう!翔ぢゃぁん、きゃぷてん、まちゅじゅんがぁ・・・・」
 相葉が泣きながら櫻井、大野に抱きついた。
「大丈夫、大丈夫だよ相葉ちゃん。松潤は大丈夫だから、落ち着いて?」
 2人は相葉の頭を撫でながらなだめる。横山が松本に近づき、小声で文句を言う。
「お前、何してくれてんねん!そんなキャラちゃうやろっ!!ニノの味方すんのか?」
「悪いけど、俺は相葉ちゃんの味方」
 何で俺があんなこと言わなきゃならないのか、松本は苦々しく思う。しかし、相葉が二宮を信じているなら、その想いを曲げてはならない。彼を傷つけてはならない。メンバーの想いは一緒なのだ。
「お前らなあ・・・」
「おはよーござい・・「に゛の゛ぉ~!!」」
 遅れていた二宮が楽屋に入ってきた瞬間、相葉は涙を流しながら抱きついた。
「おわっ、相葉さん?どうしたの?」
「うえっ・・・まちゅじゅんが・・病気になっちゃったぁ・・・」
「潤君が?あ、ヨコちゃん、何しに来たの?」
 松本を見た二宮は、隣に居る横山に気づき声をかける。
「何しにやないやろっ!!お前、かっぺに何吹き込んでんねん!」
 二宮は少し考えた後、悪びれた様子もなく平然と答えた。
「ああ・・・まあ、あれですよ。虫除け?」
「誰が虫やねん!」
「相葉さんに近づく輩はみんな虫です」
 相葉を抱きしめ、背中をさすりながら答える。二宮にとって、昔から相葉の気を惹こうとしていた横山は要注意人物の一人だ。ジュニア時代の横山の猛アタックはジュニアの誰もが周知していた。相葉は全く気づいてはいなかったが。危機感のない相葉を、二宮はいつも守ってきた。
「うえっ・・・にのぉ、まちゅ・・松潤なおるの・・・?」
「大丈夫だよ、相葉さん。あの病気ね、うつった人は一晩寝れば治るから」
「ほんと?よかったあ。松潤、良かったね!」
 松本に笑顔を向ける。
「ああ、心配してくれてありがとね、相葉ちゃん」
 と言って松本は相葉の頭を撫でる。ホントに触ってうつる病気なら、今の時点で相葉にも、相葉を抱きしめている二宮にもうつるはずだろうと横山は思った。それに気づいた櫻井が気の毒そうに言う。
「残念だけど、あきらめなヨコ。ほとぼりが冷めるまでは何言っても無駄だよ」
 しかし、顔は笑っていた。
「顔、笑ってんで・・・」
「ああ、すまん」
「もうええわ。アホらしい。行くわ」
 がっくりと肩を落として楽屋を出ようとする横山を、相葉が呼び止めた。
「ごめんね、ヨコ。病気なおったら、いっぱい遊ぼうね?」
 だから、がんばってね!と、微笑んだ。
「かっぺ~」
 その言葉と、相葉の可愛さに感激して、横山は相葉に近づこうとする。
「いやっ!」
 再び拒否されて、肩を落とし楽屋から去っていく横山。楽屋のドアが閉まる瞬間、横山は手を振りながら舌を出している二宮を見た。
「くそぉ、ニノのやつ!いつか仕返ししてやるっ!」
「ねえ、にの?ヨコの病気はいつ治るのかなあ?」
「さあ?東京に出てきてから発病したみたいだから、大阪に帰れば治るんじゃないですか?」
「そっかあ、せっかくいっぱい遊べると思ったのになあ」
 残念そうに相葉は言う。
「そんなにヨコと遊びたい?ヨコの分も、俺が一緒にいてあげるんじゃ駄目ですか?」
「だって・・・にの、ドラマ主役だし・・・忙しいでしょ?ヨコの方が空き時間多いだろうし・・・」
 にのは疲れてるだろうから、わがまま言えないもん・・・と、淋しそうな顔をした。
「相葉さん・・・」
 それにね・・・と相葉は少し顔を赤らめた。
「ヨコだったらさ・・・知ってるでしょ?ドラマ中のにののこと・・・」
 会いたいなんて我侭は言えないけど、いつだって二宮のことを知っておきたいのだと相葉は言う。
「あーっ、もう!なんて可愛い子なのかねえ、この子は!」
 叫びながら相葉をぎゅっと抱きしめる。
「にのぉ、くるしいよ~」
 笑いながら相葉からも抱きついた。
 哀れなのは横山。
 結局、二宮のガードのせいで、東京に滞在中に相葉と会うことは叶わなかった。それどころか、相葉の誤解が解けたのはそれから3ヵ月後だったとか。

おわり
 相葉は目の前の光景にため息を吐く。目の前には自分と同じ高校の制服を着た生徒が頭を下げている。ネクタイの色からして1年のようだった。
「相葉先輩!一目見たときから好きでした!!ぼ、僕と付き合ってください!!」
 ウチは男子校だ。うんざりといった顔でその生徒を見下ろす。相手の男子生徒は相葉より少しだけ背が高く、体格も良い。顔はごく一般的な、どこにでもいそうな高校生だった。
「あのね・・・おれ、男だよ?」
「知ってます!」
「ああ・・・そう・・・」
 言っても無駄か。今までにも、何度かこんな告白を受けている相葉はこの言葉で諦める奴なんていないことは分かっていた。そもそも、それで諦めるなら、告白なんてしないだろう。しかし、言わずにはいられなかった。たとえ、無駄だと分かっていても。
 相葉はなるべく相手が傷つかない断り方を考えようとするが、上手い言葉が見つからない。
「相葉先輩のこと、いつも見てました!!昨日の帰りにゲーセンで中学生相手に本気で格ゲーしてたのも今日学校に来るまでに4回転びそうになってたのも知ってます!!」
 そのアピール、すっげえ怖いんですけど・・・・。
「あのさ・・・気持ちは嬉しいんだけど・・俺、君の事知らないしさ・・・だから・・・ごめんね」
「僕は知ってます!!」
「だからさ・・・」
 あー、もう殴っちゃおうかな?
「先輩・・・」
 相葉が、そう考えて黙っているのを肯定と取ったのか、相手は近づき、相葉の手を握ってきた。
 もう決定!殴っちゃお!!
 相葉が反対の手で握りこぶしを作った瞬間。
「はいはーい、そこまで」
 相葉と男子生徒の間に割って入る人物がいた。
「翔ちゃん!大野君!」
 間に入ってきたのは櫻井と大野だった。
「ごめんね、君。相葉は好きな奴いるんだよ。あきらめて?」
「そうそう、相葉ちゃんあいつにゾッコンだよなあ?」
 大野と櫻井がにっこりと、しかし威圧的な笑顔で言う。2人の笑顔に少し怯みながらも、男子生徒は相葉に詰め寄ってきた。
「本当ですか!?僕の知ってる人ですか?僕の知る範囲ではそんな人いないはずです!!」
 本日何度目かの気持ち悪い発言に相葉は頭痛を覚えながらも、とりあえずこの場をしのごうと大野と櫻井の発言に合わせた。
「うん、実は俺好きな人いるんだ。だから・・・ごめんなさい」
「でも・・・」
 なおも食い下がろうとする相手に櫻井がキレた。
「あー、もう!!お前!無理なもんは無理なんだよっ!分かったか!?分かったら行け!!」
 櫻井の怒鳴り声に、さすがに何も言えなくなった相手は、相葉を名残惜しそうに見て一礼すると去っていった。
「はあ。疲れたぁ」
 相葉が大きくため息をつき、大野にもたれかかる。
「大丈夫?」
 相葉の頭を撫でながら大野が問う。
「今日のはきつかったよぅ」
 いつもは一言、「ごめんなさい」でたいていの人は諦めてくれるのだが。相葉が大野に泣きついた。
「お前、何でもっとはっきり断んねえの?」
 半分呆れたような櫻井。
「断ったよ!だけど、すっげえしつこかったんだもん」
「まあまあ、翔君。相葉ちゃんは優しいから相手を傷つけたくないんだよね?」
 大野が相葉のフォローに回る。櫻井が相葉を咎め、大野がフォローするのが毎度のパターンだ。
「でも殴ろうとしてただろ?最終的に」
「うっ、だって・・・俺、ばかだから言葉浮かんで来ねえし、あいつは気持ち悪いことばっか言うし・・・」
 図星をつかれて、相葉は詰まりながらも言い訳をする。
「確かに気持ち悪かったなあ。ちょっとストーカーちっくだったしな」
 櫻井も先ほどまでの相手の言動を思い出し、顔をしかめた。
「あの様子だと、諦めてないかもね、あいつ」
 大野が深刻そうに言った。
「えー!俺どうしよう?やだよもう」
 何で自分がこんな目に合わなければならないのかと、相葉は情けなくなる。恋愛は自由だ。同性同士が愛し合うのも別に悪いわけじゃないし、そんな偏見も自分にはない。だけど・・・・。
「もうさ、この際ホントに好きな人作っちゃえば?」
 大野が提案した。そんな簡単に作れるなら苦労しないと相葉は思う。相葉は高校2年になるこの歳まで恋愛をした事がなかった。というよりも、恋愛が分からなかったのだ。自分の周りでは、付き合ってるだとか、別れただとか、浮気しただとか、エッチしただとか・・・・みんな、泣いたり笑ったりしてる。そんな話が毎日のように聞かれるが、それがどんな気持ちなのか相葉には全く想像もできなかった。
 好きな人はいた。しかし、その人とみんなが言うような事をしたいとは思わなかった。それを言うと、結局は好きじゃないんだよと咎められた。
 好きってなに?わかんない。一緒にいて楽しいだけじゃだめなの?黙ってしまった相葉に櫻井は何か察したのか、頭をポンっと叩いた。
「まあ、とりあえずは良しとしよーぜ。相葉ちゃん、しばらくはあんまり1人にならない方が良いかもな」
「うん・・・翔ちゃん、大野君、ありがとね」
 相葉は力なく笑った。 相葉が教室へと戻った後、大野と櫻井は同時にため息をついた。相葉は、自分のことに無頓着で分かっていない。どれだけ自分に魅力があるのか。この二人とて、その魅力に魅せられているのだが。
「俺たちも戻ろうか」
 純粋で美しく、無垢な存在。そのうち現れるのだろうか。相葉の心を激しく揺さぶるような存在が。それまでは、相葉を守っていかなければと思わずにはいられない2人だった。

******

「やっばい、遅れるっ!」
 二宮は駅の改札を抜け、猛スピードで階段を駆け上がった。上りきったところで、無情にもドアが閉まり電車は発車していく。
「あーっ!!」
 叫んだところで止まるわけもなく、二宮は虚しく電車を見送った。
「くそぉ・・・これに乗んなきゃ意味ないのに・・・」
 名残惜しそうに電車の走り去った方向を見つめ、一人呟く。学校が始まるまでにはまだかなり時間がある。次の電車でも余裕で間に合うのだが、二宮はいつも1本早い電車に乗っていた。
 それにはもちろん意味がある。
「今日は会えないなあ・・・」

*******

 1ヶ月前のこと
 二宮は担任に用事を言い渡され、いつもより早く学校へ向うべく駅に来ていた。面倒くさいと思いながらも、一応優等生で通していることもあり、断れなかった二宮は渋々電車に乗った。比較的空いている電車の1両目に乗って座席に座る。 すると、途端に携帯が大きな音でなり始めた。
 アラームだ。いつもの時間にセットしてあったものが解除してなかった。空いている電車内にそれは響き渡っていた。慌てて止めようと鞄を漁る。
「あっ」
 ようやく携帯を探り当て、取り出そうとした瞬間、手から携帯が滑り落ちた。それは大きな音を流したまま、床を滑っていく。急いで拾おうと、携帯を追いかけているとそれが誰かの足に当たって止まった。その人が携帯を拾い上げ、二宮に差し出す。
「はい!」
「あ、すいませ・・・」
 受け取ろうと、拾ってくれた相手を見上げた二宮の言葉が途切れた。
「どうしたの?」
 携帯を差し出したのに受け取らない二宮に相手は首を傾げる。携帯はその間も鳴り続けていた。
「あの・・・だいじょうぶ?」
 何度目かの声かけに、ようやく反応する事ができた。
「あ、あぁ。はい、大丈夫です」
「そう?はい、これ。いい曲だね」
「え?」
 携帯を手渡しながらその人が言った。
「聞いたことないけど、きれいな曲。なんか胸がぎゅうってなる」
 おれ、すきだな。
「・・・どうも」
「どういたしましてぇ」
 にっこりと微笑んでその人は行ってしまった。
「あ・・・」
 何なんだこれは・・・。何で呼び止めようとしてんだよ、俺。その人は次の駅で降りていった。 あの制服は、駅から少し行ったところの男子校の生徒だ。ネクタイの色からして、俺より1つ上の2年だろう。頭を殴られたような衝撃。
 綺麗な人だった。男だったけど、あんな綺麗人見たことない。本当にふわりと音がしそうな微笑みと、少し舌足らずな話し方。それに似合った甘めの声に、綺麗な指。朝日に照らされて、透き通りそうに白い肌と黄金に輝く髪。我ながら短時間でよく観察したものだ。
 天使ってあんな感じなのかな?なんて柄にもなく思ってしまう。すでにアラームの止まった携帯を見つめた。
『いい曲だね。なんか胸がぎゅうってなる。おれ、すきだな』
「好き・・・か」
 初めてだな、そう言ってくれた人。あのアラームの音楽は、二宮が作ったものだった。いい出来だったので、自分の携帯に入れたのだ。それを褒めてくれた天使のように綺麗な人。
「また、会えるかな・・・」
 彼が去っていった方向を見つめて二宮は呟いた。

*******

「あーあ。ついてねえ」
 次の電車に乗り込み、二宮はため息を吐く。昔のことを思い出すなんて、俺はじじいかと自分にツッコミを入れた。
「お、ニノじゃん」
 呼ばれて声の方を振り返ると、同じ学校に通う松本が立っていた。
「珍しいねこの時間の電車にいるなんて。携帯の君はどうしたんだよ?」
 嫌味っぽい笑顔を浮かべて、からかい口調で言う松本を睨む。『携帯の君』とは、話を聞いた松本が付けた彼の呼び名だ。
「もう、飽きたのか?」
「ちげーよ!乗り遅れたんだよ!」
「ふーん。まあ、どっちでもいいけどさ。お前も毎日よくやるね、会えるかどうかもわかんねえんだろ?」
「うーん、いつもあの電車に乗ってるわけじゃないみたいで・・・」
 そうなのだ、あの電車に乗っても、彼に会える日と会えない日がある。それもランダムで、決まってないのだ。でも他に会える方法もないから、俺はあの電車に賭けるしかないんだ。
「声かけりゃ良いじゃん」
 じれったいな、と松本は顔をしかめた。
「・・・それも考えたよ。でも、俺のこと覚えてなかったらショックじゃん・・・。潤君と違って純真なんですよ、俺は」
 いい曲と言ってくれたことを忘れられていたらと思うと、なかなか勇気が出ないのだ。
「純真ねえ。そうだ、俺の中学からの友達が携帯の君と同じ高校に行ってるし、何なら聞いてみようか?」
 携帯の君と同じ2年だし、知ってるかもよ?口の端を持ち上げて、相変わらずからかうような口調の松本。
「・・・結構です。潤君の友達なんて、得体が知れない」
 このドS番長の友達だ、絶対からかわれるに違いないと、楽しんでる松本を睨む。
「そう、残念。でも、ニノもさ、もの好きだよね。共学通ってんのに。お前結構モテんじゃん」
 もったいないと松本は言う。顔も頭も運動神経もそこら辺の奴よりずば抜けている二宮は、学校でもかなりの注目を浴びている。ただ、性格は一筋縄でいかない。松本でさえ、時々もてあます事がある。普通の女の子が扱える奴ではないのも確かだ。
「余計なお世話です。それに潤君にはかないませんよ」
 二宮は言外に松本の方がモテるくせに、似たようなものじゃないと嫌味を込めた。
「はいはい、すいませんね」
 全く悪びれた様子もなく言う松本を横目で見て、二宮はもう一度ため息を吐いた。
 二宮は今まで恋愛や女性には興味がなかった。女性に興味がなかったというより、人間自体に興味がなかったのだ。それよりも他に沢山やりたい事があったし、正直面倒くさかった。そんな二宮が初めて興味を惹かれた人物。
 簡単には忘れられない。携帯を取り出して見つめた。
「あ、そういえばさ、さっき言ってた中学からの友達なんだけど」
 ほら、携帯の君と同じ学校の。電車を降りて、学校まで歩いてる途中で松本が言った。
「なんかさ、同じ学校の奴に付きまとわれてんだって。そんで、最近一人でいられないらしくってさ」
 物騒な話だよなと、松本は顔をしかめた。
「ふーん。大変だね男子校って」
「・・・・」
 松本が何か言いたそうに二宮を見る。
「何?」
「ん、いや」
 お前のやってることも、あんま変わんねえんじゃねえのかと思ったが、口にはしなかった。

******

「んーん~♪あ~あ~♪♪なんか違う・・・あれぇ、どんなだっけ?」

「・・・・なあ、あいつ何してんの?」
 ここ1ヶ月くらい、ずっとじゃねえ?最近の相葉はいつも歌っている。いや、歌かどうかも定かではないが。
「さあ・・・。のどでも痛いのかな?」
 相葉を見て、大野はいつもよりも更に眉を下げた。
「あー、いい曲だったんだけどなぁ。忘れちゃった」
 この間、電車で会った高校生の男の子の携帯から流れていた曲。もう一度聴きたいと思う。なんだかすごく心に響いた。あの後、櫻井と大野に聞いてみたが、二人とも知らないと言った。他の人にも聞いたし、CDショップの店員にも聞いた。でも誰も知らなくて・・・。時間が経つうちに自分の中でも記憶が曖昧になってしまった。
 今ではメロディーも思い出せなくなって・・・残っているのは、あの曲を聴いたときの胸がぎゅっと締め付けられた思いといい曲と言ったときの、彼の驚いたような、照れたような顔。子犬みたいに可愛い顔してた。
 もう一度会いたいな。
「そう言えば、相葉ちゃん。今日大丈夫なの?俺も、翔君も一緒に帰れないけど」
 物思いに耽っていた相葉に大野が心配そうに声をかけた。
「え?ああ、うん。」
「ホント、大丈夫か?何なら俺、用事他の奴に頼むけど?」
「なに言ってんの、翔ちゃん!大事な用事でしょ?生徒会の役員会議なんだから!会長いなくてどうすんの!」
「そうだけどさっ、心配じゃん。お前1人で帰したら。なあ、智君」
「うん。相葉ちゃん大丈夫なの?俺も予定ずらせれば良いんだけど・・・」
「大野君まで!コンクールの作品の締め切り今週なんでしょ?おれに付き合ってくれてる場合じゃないよ。おれは大丈夫だから、2人とも心配しないで。ね?」
 あれから、あの告白してきた後輩は時々相葉の近辺に現れ、言い寄ってくる。これがまた、かなりの気持ち悪さで、相葉も他の二人もうんざりしていた。『体育で転んでましたね』とか、『昨日の帰りに食べてた、たい焼き僕も好きなんです』とか。きっぱり言い切れない相葉に呆れながらも、彼らはいつも助け舟を出してくれていた。そんな2人に感謝しつつも、あまり迷惑ばかりかけられないと相葉は思っていた。ただでさえ、ぼんやりしている相葉は彼らの世話になりっぱなしなのだ。そもそも帰る方向が違う2人をこれ以上付き合わせることにも気が引けていた。
 奴も毎日付いてきてるわけじゃないし、2人が一緒じゃない朝だって電車の時間を変えたりバス通学したりとランダムに登校方法変えていて、今まで何とかなっている。自分さえしっかりしていれば大丈夫だろう。
「ホントに!!大丈夫だから。」
 未だ心配そうな2人を残し、相葉は学校を後にした。
「右よし、左よし、うしろ・・・よし!」
 校門前でキョロキョロと周りを指差し確認し、相葉は歩き出した。クラスメイトや、先輩、後輩に声をかけられる度に面白いほどに動揺しながら。
「あー!なんでおれがこんなにビクビクしなきゃなんねえの」
 ほんとイヤになっちゃうと、眉根を寄せる。こんな時はパーッと気分を晴らしたいものだ。かといって、一人ではやれることも限られる。
「ちょっとだけ、寄り道しちゃおっかな」
 元来遊ぶことが大好きな相葉だが、ここ最近ほとんど寄り道をせずに帰ることを強いられていたためストレスも溜まっている。周りを見ても、特に問題はなさそうだし。今日は心配性の櫻井もいない。新しいピアス欲しいんだよね。
「よし、寄り道決定!」
 そうと決まれば、どこへ行こうか。相葉の足取りが軽くなった。

******

「なんで俺が一緒に行かなきゃなんないの?」
 面倒くさい。先ほどから松本の後ろで、ブツブツと文句を言っている二宮。授業が終わり、帰り支度をしていた二宮を松本が引き止めた。
「いっつもすぐに帰ってんだから、たまには付き合えよ」
 少しは外に目を向けることも必要だろ?お前、ほっといたらずっと家から出ないし。
「余計なお世話です」
 文句を言いながらも付いてくる二宮に松本は苦笑した。
「で、どこに行くんですか?」
「ああ。ちょっと気になってるものがあってね。二駅向こうのアクセサリーショップに行きたいんだけど」
「二駅向こう・・・。しょうがないから付き合います」
 二駅向こうという言葉に二宮の反応が変わった。その駅には携帯の君の通う学校があるからだ。心なしか、二宮の足取りが軽くなったように感じ、松本は気づかれないように笑った。
 二宮に初めて会ったとき、松本はなんて近寄り難い奴なんだと思った。顔も良く、勉強もできる二宮に最初のうちは仲良くなりたいと皆が寄っていったが話しかける度に素っ気ない態度で返してくる二宮に、次第にほとんどの人間が距離を置くようになっていた。それでも平然としている二宮に、感情が欠落してしまっているんじゃないかと思ったくらいだ。
 松本はクールに見えて、中身は熱いところがあるため、そんな二宮が信じられなかった。しかし、松本が体調を崩してテスト前に何日か休んだとき彼だけが松本のためにノートを写し、重要どころを全てチェックしてくれていた。これがまた、結構当たっていて、そのテストは最高の出来となったのだ。それ以外にも、松本のやらなければいけないことは、全て彼が変わりにやってくれていた。かといって、それを恩着せがましく言ってくることもなく、彼はいたって平然としていた。礼を言った松本に「何のことです?」と、とぼけるだけだった。ノートの写しだって、机の中に何のメモもなく入っていただけで、誰が入れたのかもわからず、松本はみんなに聞きまくったのだ。
 この一件以来、二宮を見る目が180度変わった。それから彼は一番の親友となった。けっして、感情が欠落しているわけではなく、表に出てこないだけで。みんなに素っ気無かったのは、ただ人と関わることに関心がなかったのだろう。そんな二宮の心を、一目で変えてしまった人物に少なからず松本も興味を持っていた。
「ねぇ、潤君!」
「何?」
「ここでしょう、あなたが行きたかった店」
「あ、そうそう。ここさ、前に連れと来たときに結構良いもんあってさ。ニノも何か買ってみたら?」
「いらないですよ、アクセサリーなんて興味ないです」
 顔をしかめる二宮に松本は肩を竦めた。
「そ。俺あっち見てくるから、ニノはどうする?」
「ここら辺見てます」
「んじゃ、あとで」
 そう言うと、松本は店内の奥へ入っていった。

*****

「あ、これかっこいい」
 でも、こっちも可愛くて良いかも。久しぶりに来たアクセサリーショップに相葉のテンションは上がっていた。アクセサリーたちがキラキラと相葉を迎えてくれる。その輝きに負けないくらいに目を輝かせて、並ぶ商品を見つめる。
「これも良いけど、予算的に無理かなぁ・・・」
「僕は、先輩にはこれが似合うと思いますよ」
 独り言に返ってきた返事に、相葉は驚き、振り返る。
「なっ!」
 そこには例のストーカーまがいの後輩。
「なんでいるの!?」
「ずっと一緒にいましたよ?」
「いつから!?」
「学校を出たところから」
 だって、あんなに確認したはずだ・・・。右も左も後ろも、いなかったじゃん!お前はマジシャンかなんかなのか?
 しかし、寄り道のことばかり考えていた相葉は途中からあまり周りに注意を払えていなかった。そんな相葉が気づかないのも当然で。やっぱり、寄り道なんかするんじゃなかったと後悔してもすでに遅かった。
「それより!僕は断然こっちのが似合うと思います!」
 指差したものは相葉の趣味とはかけ離れていて。
「そうだ!僕にプレゼントさせてください!!」
「いや!!そんな。いいよ、悪いし・・・」
 相葉は慌てて拒否をする。
「ホントいらないから。もらう理由もないし・・・」
 とにかくいらないとしか言えなかった。
「遠慮しないで下さい。僕がプレゼントしたいんです!!」
 ああ、気持ち悪い。なんですか、その気持ち悪い台詞は・・・・。
「も、ホント勘弁してよ・・・・」
 泣きそうになっている相葉にも構わず、相手はすっかり自分の世界だ。
「先輩、そういわずに。あ、こっちも似合いそうですよ!」
 相手の手が相葉に伸び、腕を掴まれる。
「ちょっと、離してよっ!!」
 大きくなる声に、周りの客が二人を気にし始めた。そんなことに構っていられる余裕は相葉にはなかった。あー、もう!翔ちゃん!大野君!誰でも良いから助けてよぉ!!

*****

 松本が店内の奥へと消えていくのを見送った二宮は小さく息を吐く。アクセサリーなんぞに興味はない。ただ、少しでも彼に近いところに行きたいという想いで、松本に付いてきてしまった。会える確証もないのにだ。ばかばかしいことをしているなと、自虐的な笑みを漏らした。ショーケースに並ぶアクセサリーをなんとなく見つめる。キレイだし、デザインの良いものもたくさんある。しかし、興味のない二宮にはどれも同じに見える。
「もう、帰ろ」
 松本はどこに居るのだろうか。一言告げてから帰ろうと、松本を探すために店内を奥へと進んだ。各コーナーを見ながら松本を探す。ピアスのコーナーには居ないよな、潤君ピアスしてないし。そう思い、通り過ぎようとした時・・・・・。

「ちょっと、離してよっ!!」
 ピアスの置いてあるコーナーから大きな声が聞えた。ハスキーではあるが、ちょっと高めの声、怒っているような、泣き出す寸前のような声だ。カップルが喧嘩でもしてるのか。どうでもいいことだが、公衆の面前で恥ずかしい奴らだな。眉根を寄せて、迷惑そうにそちらを見た二宮は目を見開いた。
 そこに居たのは、まさしく二宮の想い人だったのだ。少しでも近いところにと思っていたのに、まさか本当に会えるなんて。二宮は柄にもなく感激していたのだが・・・・。
 どうも様子がおかしい。同じ学校の生徒だろうか、彼は腕を掴まれている。相手は嬉しそうな顔をしているが、彼はすごく迷惑そう・・・というか、怯えているような表情だ。それどころではなさそうな・・・腰も引けている。先ほどの大声といい、これは危機的状況なのだろうか?
「もう、ホントに離してぇ・・・」
 状況を見極めようと、しばらく二人のやり取りを見つめていた二宮だったが泣きそうになっている彼を見て思わず身体が動いた。
「何やってんですか?」
 二宮の声に二人の動きが止まる。驚いたようにこちらを見た彼と、初めて会ったとき以来、目が合った。それだけで二宮は、鼓動が早まるのを感じた。

*****

 本気で泣きそうになっていたとき、誰かが助け舟を出してくれた。天の助けとその声の方を見ると、そこにはいつか電車で会ったあの男の子。
「離してあげてください。嫌がってるようにしか見えないんですけど?」
 無表情で冷たい言い方は、興味のない人間を遠ざける二宮の常套手段だ。その効果か、相葉を掴んでいる腕の力が少し緩んだ。二宮の冷たい言い方に少し戸惑ったが、彼が自分を助けてくれるんだと直感で感じた相葉は隙を見て掴まれていた腕を振り払い二宮の元へと駆け寄ると、後ろに身を隠した。後ろから見る二宮の背中は、自分より背が低く小さいはずなのに、何故だかとても広く感じる。遠慮がちに彼の制服の端を掴んだ。
 何故だろう。相葉は鼓動が少しだけ跳ねたのを感じた。
 自分の後ろに隠れ、制服の裾を握り締めている相葉に一度目をやると、表情を一瞬緩ませた二宮だったが、すぐに元の表情に戻すと、向いにいる相手を見据えた。相手も二宮を見ている。
「君は・・・・?相葉先輩の知り合いですか?」
 相手が怪訝そうに聞いてくる。
「・・・・そうですけど、何か?」
 なんとなくだが状況を把握していた二宮は、肯定したほうが良いだろうと判断した。相葉さんっていうのか。彼の名前を知って、こんな時ながらも二宮は嬉しくなった。表情はあくまで崩さずに。そんなことには気付かない相手は、二宮を嘗めるように見る。
「・・・今まで先輩の周りでは見かけたことがないけど、どういう知り合いなのかと思って」
 相手の発言に、二宮の後ろで隠れていた相葉が、小さく息を呑んだ。二宮にすがる手がわずかに震えている。それを確認した二宮の顔が険しくなった。同時に言葉がきつくなる。
「そんなこと、あなたに関係ないでしょう。この人をこんなに怖がらせて、どういうつもりなんですか?」
 二宮は相葉を隠すように立つ。
「僕は別に怖がらせてなんか・・・」
「ないって言うんですか?どう見ても怖がっているように見えるんですけど?これ以上何かするつもりなら、しかるべき対応を取らせていただきますが?」
 睨み付けてくる二宮の鋭い目つきに相手が怯んだ。それを見た二宮はすかさず畳み掛ける。
「今日は俺がこの人と帰ります。文句はないですよね?行きましょう、相葉さん」
 二宮は相葉の手を取り、歩き出す。
「えっ?あ・・・う、うん」
 それについて、相葉も歩き出した。何度か後ろを気にして振り返る相葉とは違い、二宮は相葉の手を引いたまま振り返ることなく歩き続ける。
「あ、あの・・・・」
 店から出て、しばらく歩いたところで相葉が声をかけた。
「はい?」
 話しかけられて、二宮は立ち止まり、相葉を見た。
「あの・・・もう、大丈夫みたいです。それで・・・手・・・・」
 言われて二宮は相葉の手を握ったままなことに気付き慌てて離した。
「す、すいません!」
 自分のとった行動に、二宮自身が誰よりも驚いていた。彼の泣きそうな顔を見たら、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。頭より先に身体が動くとはこのことか。しかも、考えてみれば相当強引に彼を連れ出してしまった。彼は先ほどのあいつの時ように、自分のことを怖がり、怯えてはいないだろうか。窺うように相葉を見る。
「いえっ!こちらこそ助けてもらってありがとうございました」
 本当に助かりましたと、深々とお辞儀をし、笑顔で二宮にお礼を言う相葉に怯えた表情はない。そのことに安心すると共に、相葉の笑顔に二宮はまたしても見とれてしまった。本当に綺麗に笑う人だと二宮は思う。相葉の手を握っていた方の手が、熱くジンジンと疼いた。
「あ、そうだ!君さ、あのときの携帯電話の子だよね?」
「え?」
「ほら、前に電車で会ったよね?覚えてないかなぁ、俺のこと。だいぶ前だもんね」
 ごめんね、変なこと言ってと、謝る相葉。しかし二宮が忘れているわけはなく、むしろ二宮のほうが彼を忘れられなかったのだ。自分のことを彼が覚えていてくれた事に驚き、感激し、言葉が出ないだけで。
「もしかして・・・気持ち悪いやつとか思った?どうしよう、これじゃあいつと一緒だぁ」
 自分があの後輩に言われていたのと同じ様なことを言ってしまったことに相葉は動揺していた。自分の知らない相手が自分を知っている。それがどんなに怖いことか、この1ヶ月でこれでもかというほど思い知らされていたのに。
「あの・・・」
「ホントごめんなさい!あの、特に意味があるわけじゃなくてね・・・その、なんていうか・・・。ああ、もうわかんなくなってきた!!おれ、帰るね!」
 相葉は変な誤解をしてしまっているようで、今にもダッシュしそうな相葉に二宮は慌てて声をかけた。
「まっ、待って!大丈夫です。俺も相葉さんのこと、覚えてますよ。あの時はありがとうございました」
「ほ、ほんと?気持ち悪いと思ってない?」
 不安そうに眉を下げて二宮を見る。
「ええ、思ってません」
 二宮は相葉が安心できるよう、極力優しい笑顔で答える。
「よかったぁ。」
 それを見て安心した相葉は破顔した。表情がコロコロと変わる人だ。人に媚びるような節はなく、感情が素直に伝わってくるその表情は、二宮を確実に魅了していた。
「あ、ねぇ。そういえば何でおれの名前、知ってたの?」
 首をかしげて聞いてくる相葉はとても愛らしく、思わず笑みがこぼれる。
「ああ。さっき、あいつが呼んでましたから。相葉先輩って」
「そっか!!それでかぁ。そうだ、君の名前は?」
 聞いてなかったよね!!
「おれはね、相葉雅紀でっす。高校2年生です!!」
 元気いっぱいに答えてくれる相葉。
「あいば・・・まさきさん。俺は、二宮和也って言います。高校1年です。」
「二宮君かぁ。よろしくね!!」
 その屈託のない笑顔に二宮は、確実に囚われている自分を感じていた。

*****

「たいしたもの奢れないけどさ、何でも頼んでよ!」
 相葉がどうしてもお礼をしたいと、二宮を連れてきたカフェ。もちろん二宮に断る理由などない。奢ってもらう気はないのだが、一緒にいられる事が嬉しかった。
「ここのね、シフォンケーキがおいしーの!!あ、甘いもの、だめ?」
 マックとかのが良かったかなぁと、不安気に聞いてくる。その表情がまた、二宮の心をくすぐる。
「いいえ、大丈夫です。せっかくだから相葉さんのお薦めをいただきます」
「えへへ!じゃあねぇ・・・・これにしよ!!すいませーん」
 嬉しそうに笑う相葉に二宮の頬も緩む。ずっと会いたいと、話してみたいと思っていた。しかし、その半面で会うこと、話すことをためらう自分もいて。話してみたら、案外どうって事ないやつだったりして、なんていう思いもあったのだ。
 実際の彼は、見た目に違わぬ可愛い人だった。それが すごく嬉しくて、同時にこの人の事をもっと知りたいと思った。
「今日は本当にありがとうございました!!」
 注文を終えると、相葉は改めて頭を深々と下げてお礼をする。そんな相葉に恐縮してしまう。
「いえ!俺は何も・・・・頭上げて下さい」
 二宮の言葉に、相葉はぴょこっと頭を上げて微笑む。
「おれね、ホントに泣きそうだったの。その時に二宮君が現れて、なんか正義の味方みたいだね」
 はにかんだように笑う相葉は可愛らしくて。二宮の鼓動は早くなる。
「そんな事ないですよ。・・・・・前からなんですか?」
「え?」
「あの・・・さっきみたいなの・・・」
 話をする時に人の目をじっと見つめるのは相葉の癖なのだろうか。その綺麗な瞳に吸い込まれそうで、直視できない。
「ああ、あれ・・・。1ヶ月くらい前からかな?もう、ホントにきつかったよ。だいたいはさ、ごめんなさいで済むんだけど、あの人しつこくて。何度も断ってるんだけど、ずっとあんな感じでさ」
 顔を曇らせて話す相葉。会話の中に気になる言葉があった。「だいたいはごめんなさいで済む」って事は・・・。
「アイツだけじゃないって事ですか?その・・・ああいうのは」
「ああいうのって?」
「えっと・・・告白とか・・・?」
「ん?ああ。告白はね・・・ちょこちょこ。おれ、男なんだけどなぁ」
 何でだろうね?と首を傾げて二宮を見る相葉。その仕草が、誤解を招いているのではないかと、少し話しただけの二宮でも分かった。彼の大きな黒目がちの目は、普段から水分が多いらしく潤んでいる。その目で相手をじっと見つめるのだから、相手だってその気になるだろう。現に二宮だって、意識してしまうと目が合わせられない。
「あ、ねぇ。二宮君はさ、よくあのお店に来るの?」
「え?」
「あのアクセショップ。おれはね結構行くんだけど、二宮君はわざわざ電車降りなきゃいけないでしょ?」
「ああ、友達に連れられて・・・・・あ・・・」
 ここに来て、ようやく松本の存在を思い出し、しまったと二宮が固まった。
「二宮君?」
「あ、いえ・・・」
 まさか友達を置いて来たとは言えない・・・・。怒りに震える松本の姿が頭を過ぎった。そんなことには気付かない相葉は話を続ける。
「おれの友達もさぁ、二宮君と同じ学校に通ってるんだけどね、あの店がお気に入りで、よく途中下車してるからさ。あ、もしかして知ってるかなぁ。二宮君と同じ学年なんだよ?」
「俺とですか?」
「うん!あのね・・・・」
 相葉が話している途中で二宮の携帯が鳴った。出ている名前は「松本潤」出るのを躊躇した。相葉と居ることもあったが、一番の理由は怖いから。松本はあの顔立ちだけあって、怒ると非常に迫力がある。そんな事に動じる自分でもないのだが、出来ることなら穏便にすませたいというのが本音だ。
「出ないの?」
 おれなら気にしなくて良いから出なよと相葉に言われ、出ないわけにもいかず、渋々通話ボタンを押した。

*****

 助けてくれた二宮を、お礼がしたいとカフェへと誘った。何故そんな事をしたのか、相葉自身分からなかった。ただ、もう少しこの人と一緒にいたい、話したいと思ったのだ。
 落ち着いた様子で自分のとりとめのない話を聞いてくれる姿は、とても年下とは思えない。普段から櫻井に「落ち着け」と言われている事が、こんな時に身に沁みる。
 注文を終えて改めてお礼をすると、二宮はとんでもないですと恐縮した。その姿が何だか歳相応に見えて、相葉は微笑んだ。
 二宮は本当に正義の味方のように颯爽と現われ、自分を助けてくれて。
自分より背も低く、体格だって小さいはずの二宮が、あの時は凄く大きくてたくましく見えた。それを思い出すと、何故か心臓が忙しなく動く。なんだろうこれは?
「・・・・前からなんですか?」
 不可解な感覚に戸惑っていた相葉に、二宮が声をかけた。
「え?」
 二宮の質問の意図がつかめずに、相葉は二宮をじっと見つめる。
「あの・・・さっきみたいなの・・・」
 二宮が言いにくそうに目を逸らす。
「ああ、あれ・・・」
 あんまり言いたい事ではないけれど、助けてくれた二宮に説明しないのも失礼かと思い、拙い言葉で事情を話した。
「アイツだけじゃないって事ですか?その・・・ああいうのは」
「ああいうのって?」
「えっと・・・告白とか・・・?」
「ん?ああ。告白はね・・・ちょこちょこ。おれ、男なんだけどなぁ」
 何でだろうね?と首を傾げて相葉は二宮を見る。その話を聞いた二宮は、とても神妙な顔をしている。目が合うと、ふいっと逸らされた。やはりおかしいと思っているのだろう。男から好かれる男なんて。
「あ、ねぇ。二宮君はさ、よくあのお店に来るの?」
「え?」
 自分でも急な話題変換だと思ったが、なんとなくいたたまれなかった。あのまま二宮の困惑した顔を見ているのが。何故だかは分からないけれど。
 急に話題を変えられて、二宮もきょとんとしている。
「あのアクセショップ。おれはね結構行くんだけど、二宮君はわざわざ電車降りなきゃいけないでしょ?」
「ああ、友達に連れられて・・・・・あ・・・」
 そこまで言うと、二宮の動きが止まった。
「二宮君?」
「あ、いえ・・・」
 そう言って笑う二宮を不思議に思いながら、相葉は話を続ける。
「おれの友達もさぁ、二宮君と同じ学校に通ってるんだけどね、あの店がお気に入りで、よく途中下車してるからさ。あ、もしかして知ってるかなぁ。二宮君と同じ学年なんだよ?」
 相葉はひとつ年下の、でも自分よりも随分大人で頼りがいのある自慢の友達を思い浮かべた。
「俺とですか?」
「うん!あのね・・・・」
 話を進めようとした時、二宮の携帯がなった。そのメロディに聞き覚えがあった。初めて二宮に会ったときに時に聴いた曲。思い出したくても思い出せなかった、切なくて胸を締め付ける旋律。
 ああ、ずっと聞きたいと思っていた。
 二宮を見る。そこには携帯を見つめたまま動かない二宮。そういえば電話が鳴っているのだった。二宮が自分に遠慮して出ないのだと勘違いした相葉は二宮に出るよう進める。二宮は戸惑いながら携帯を耳に当てた。
 切ない旋律はそこで途切れた。もう少し聞きたかったな。
 二宮の電話が終わったら聞いてみよう。何の曲なのか。二宮の電話が終わるのを待ち、窓の外を眺めた。

*****

「・・・はい」
『お前さぁ・・・今どこにいんだよっ。すっげー探してんだけど』
 二宮が通話ボタンを押すと同時に聞えた不機嫌そうな声。
「・・・はい」
『・・・・まさか、黙って帰ったんじゃねぇよな?』
「帰ってはいないんですが・・・・そこの店にはいませんね・・・」
『・・・・どこにいる?』
 更に低くなる声。
「えっと・・・ですね・・・」
『・・・なぁ、お前誰かと一緒にいるのか?』
 松本のことだ、おそらくそばに人がいる気配も感じ取ったのだろう。二宮は相葉に眼をやった。相葉は頬杖を付いて窓の外を眺めている。その姿さえ絵になっているなぁと、電話をしながら思っていたら松本に怒られた。
『お前、聞いてねぇだろ!まぁいいや。今駅に向ってんだけど、どこにいんだよ?』
「えっと、駅の近くの・・・」

「あっ!!」
 店の名前を探すため辺りを見回そうとした時、窓の外を見ていた相葉が突然叫んだ。何事かと相葉に目をやると、椅子から立ち上がって外を見ている。二宮もつられて外に目をやり、そこに居た人物に思わず声が出た。
「「松潤(潤くん)!!」」
「「え?」」
 二宮と相葉は顔を見合わせた。
「二宮君、松潤のこと知ってたんだ?」
 相葉は大きな目をぱちぱちさせた。
「ええ、まぁ。同じクラスなんです。相葉さんこそ・・・どうして潤君を?」
「さっき話してたでしょ?二宮君と同じ学校に友達がいるって。それが松潤」
 窓の外を指差して答えた。
『おいっ!もしもし、ニノ?何か叫び声聞えたけど、どうしたんだよ?』
 呆気にとられている二宮は松本と電話が繋がっていることをすっかり忘れていた。
「えっ?あ・・・、えっとですね・・・」
 偶然すぎる偶然に二宮は言葉が出ない。
「ね、もしかしてそれ松潤?」
 二宮の携帯を指さし、相葉が訊ねる。
「ええ・・・」
「貸してもらっていい?」
 二宮から携帯を受け取ると、相葉が話し始めた。
「もしもし、松潤?」
『あ?あれ?その声は相葉ちゃん!?』
「うん!ね、松潤。左見て!ひだり!!」
『は?左って・・・・あっ!!』
 相葉に言われて左を見た松本の視界に入ってきたのは手を振っている中学からの親友と、探していた親友。
『あれ?相葉ちゃん!?ニノ!?何で・・・』
 2人が一緒にいるのかと、松本は首を傾げる。
「くふふっ、何ででしょう?ね、松潤もおいでよ!あ・・・、二宮君良いよね?」
「え、ええ・・・」
「良いって!!早く!」
『ああ・・・・』
 そう返事をして電話を切って窓の向こうの2人に目をやる。
 いつからあの2人は知り合いなのか。二宮からも相葉からも聞いたことがない。
 楽しそうな相葉の向かいで、面を食らったような顔で頷く二宮にも驚きだ。あんな表情、見たことない。
 そこから考え付く結論は唯一つ。自分の考えに確信を持ちつつ、松本は2人の元へと向かった。

*****

「あっ!まつじゅーん、こっちこっち!」
 店内に入ると、相葉が立ち上がって大きく手を振った。
「大声出すなよ、聞えてるよ」
 周りの目を気にしながら、2人のいるテーブルへと進み相葉を睨み付ける。相葉はそれにも全く動じず、ニコニコと松本を迎えた。
「へへっ。松潤、二宮君と同じクラスなんだって?すごい偶然!!びっくりしちゃった。あ、じゃあお店にいたのも松潤となんだね!」
 1人で納得しながら松本の制服の袖を引っ張り、自分の隣へと誘導する。相葉の隣に座りながら、正面の二宮へと視線を移すと、驚いたような、何を言っていいのか分からない顔で松本と相葉を見比べていた。
 その顔は、どこか怒っているようにも見える。松本と目が合うと、ふいっと目を逸らした。ホント、こんな二宮は初めてだ。
「・・・で、お前らは何で知り合いなわけ?俺、聞いてないんだけど。それに、ニノ。お前さ、勝手に帰んじゃねぇよ。」
「帰ったわけじゃないんですけど・・・」
「あっ!あのね松潤、おれのせいなの。あのお店でね、二宮君はおれを助けてくれたの」
 だから怒らないでと、相葉は懇願するような眼差しを松本へ向けた。
「別に怒らねぇよ。で、助けたってどういうことだよ?」
「あ、うん・・・。ほら、前に話したでしょ?付きまとわれてるって。今日ね、あのアクセショップに行った時にも、その子に付きまとわれてて、泣きそうだったの!そしたらね、そこに二宮君が来て、助けてくれたの。ホント、正義の味方みたいだった!!」
 カッコ良かったんだよと、興奮気味に話す相葉は嬉しそうで、頬を少し赤らめている。それにしても・・・・。
「正義の味方って・・・・」
 なんとも相葉らしい表現に呆れて二宮を見る。二宮は少し気恥ずかしそうに相葉を見て微笑んでいた。おいおい・・・。今日は二宮の知らない表情を良く見るなと、松本は眉毛を上げた。こうなると、俺の考えも間違いないなと、店に入る前に確信していたことを二宮に確認する。
「なぁ、ニノ。相葉ちゃんがお前の言ってた、例の携帯の君だろ?」
「ん?なに、けいたいの・・・・なんとかって?」
「ちょ、潤君!!やめて下さいよ、相葉さんの前で!」
 首を傾げる相葉を横目に、慌てて二宮が松本を制する。それを見て松本は笑った。
「何だよ、違うのかよ?」
「ち、違わないですけど・・・。相変わらず意地が悪いですね、潤君は・・・」
 明らかに面白がっているような松本を睨み付けた。
「ふん、悪かったね・・・。こちらが意地の悪い俺の『得体の知れない友達』の相葉雅紀君です」
 意地悪と言われたお返しと言わんばかりに、相葉の肩を抱いて皮肉たっぷりに答えを返す。二宮は唇を引き結んで、恨めしそうに松本を見る。そんな2人を不思議そうに見ていた相葉が、松本の制服をクイクイっと引っ張り口をはさんだ。
「ねぇ、さっきから話が見えないんだけど、なに?携帯がなんとかとか、得体が知れないとか・・・・」
「な、何でもないんです!相葉さんは気にしないで下さい」
「そう・・・?松潤と二宮君は仲が良いんだね?松潤はさ、顔は濃いしすぐキレるでしょ?だから誤解されやすいんだけど、ほんとは優しいんだ。良かった二宮君みたいな分かってくれそうな友達がいて!」
「お前は、俺の保護者かよ・・・。お前に心配される筋合いはねぇよ」
「あ、ほらまた!!そんなこと言って本当は超寂しがりなんだよぉ、松潤って!中学ん時なんか、背もちっちゃくてホント可愛くてね・・・」
「お前、何言ってんだよ、今それは関係ねぇだろ!」
 相葉が自分の昔話を始めたのを慌てて止めようと、頭を小突いた。
「いでっ!もう、ぶつなよ。痛いじゃんか、松潤のばか」
 小突かれた頭を押さえて松本を睨む相葉。
「仲・・・良いんですね」
 そんな2人の様子を見ていた二宮がぼそっと呟いた。松本は相変わらず面白そうに笑っている。
「羨ましいか?」
「・・・・べつに」
 二宮の反応が楽しくて仕方がないと言わんばかりに笑ってみせる。そんな松本を相葉は不思議そうに見ていた。
「もう、松潤は何笑ってんの?わけ分かんない・・・」
「ははっ、悪ぃ。そうか、相葉ちゃんね・・・」
 言われてみれば、二宮の話してくれた「携帯の君」の条件に当てはまるな。しかし・・・。二宮を見やり、口元を吊り上げる。
「何ですか?」
「そうなると、話は別だな・・・・」
「・・・どういうことです?」
「相手が相葉ちゃんなら・・・素直に応援できねぇなぁってこと」
「潤君?」
 松本の意味ありげな言い方に二宮は顔を顰めた。
「まぁ、それは置いといて。相葉ちゃん、まだあいつに付きまとわれてんだ?」
「うぇ?う、んっ・・・・ありがと」
 シフォンケーキを頬張りながら答える相葉の口元に付いているクリームを拭ってやる。変な後輩に付きまとわれていると聞かされたのは結構前のことだ。松本も何度か一緒の時に見たことがある。その時は松本の殺人的な睨みに、寄っては来なかったが。あとで学校で散々言われたらしい。『あいつはあなたに相応しくない』とか『どうしてあんなのとつるむのか』とか。そのあまりの気持ち悪さに、能天気な相葉もかなり滅入っていた。
「相変わらずあの2人にナイトさせてんだ」
「ナイトって!そんなんじゃないけど・・・・」
「ナイトって何ですか?」
 しばらく黙って2人の話を聞いていた二宮が口を挟んだ。
「ああ。こいつさ、さっきも絡まれてたんだろ?」
「はい」
「そいつがさ、かなりしつこいらしくて。こいつもきっぱり言ってやればいいのに、曖昧にするからさ。ずっと付き纏われんだよな。んで、あいつから守るためにナイトが付いてんの」
「ナイト・・・ですか?」
「そ、そんなんじゃないもんっ。二宮君、誤解しないでね?もう、松潤!変なこと言わないでよ。二宮君、びっくりしてるじゃん!」
「何だよ、ホントのことだろ?」
「違うよ。2人は友達だもんっ!翔ちゃんも大野君も友達だもん!!」
「だって、2人とも帰る方向違うじゃん。それなのにわざわざ駅まで送ってもらってんだろ?」
「おれはいいって言ってるもん。でもあの2人がさ・・・危ないからって」
「相変わらず過保護だなぁ2人とも」
「でも、朝は一人で行ってるでしょ?バスに変えたり、電車の時間変えたりして!」
「あっ!!」
「えっ?な、なに?」
「どうしたんだよ?」
「あ・・・いえ、何でも・・・」
 話を聞いていた二宮が突然大きな声を出したため、2人の会話が止まる。気まずそうに話の続きを促し、二宮は冷めた紅茶に口をつけた。
「・・・・で?これからどうすんだよ?いい加減何とかしろよ。2人にも迷惑だろ?」
「分かってるよ・・・・。2人には・・・好きな人でも作れって言われた。」
「えっ!?す、好きな人ですか?」
 またしても二宮が大きな声を出す。少し驚きながらも相葉が頷いた。
「う、うん・・・。好きな人がいるからって諦めてもらえって」
「でも、それ失敗したんだろ?」
「うん・・・おれの知り合いじゃだめみたい。全部見透かされてる・・・っていうか、知り尽くされてるって言うか・・・翔ちゃんも、大野君も松潤もだめ。みんな違うって見破られちゃって・・・」
「ふーん・・・あいつの知らない奴ねぇ・・・・あ!」
 何かに気づいた松本が二宮を見遣り、ニヤッと笑った。
「相葉ちゃん、良いのがいるじゃん・・・・なぁ、ニノ?」
「え?な、何ですか?」
「松潤?どういうこと?良いのって・・・?」
「だから!あいつが知らない奴で、一緒にいる所も見られてて、おまけに決定的なインパクトも与えてる!」
「え?え?だれ?」
「潤君・・・・?」
 何か察したように、顔を顰めて松本を呼ぶ二宮に、もう一度笑ってみせると松本は相葉に名案を提示した。
「ニノに頼めば良いんじゃねぇ?」
「え?二宮君に?」
「そうだよ。今日アイツにも会ってんだし、相葉ちゃんとも知り合ったばっかりだから、調べられてねぇだろ?しかも、帰る方向も一緒!!朝も帰りも時間さえ合わせりゃ問題ないじゃん」
 どうよ?ナイスアイディアだろ!そう言って笑う松本。相葉はイマイチ話が理解できていないようで、大きな目をパチパチさせている。二宮は複雑そうな顔をして、松本を見ていた。
「な!相葉ちゃん、そうしろよ。ニノなら俺も安心して任せられるし。ニノも良いだろ?」
「ま、まつじゅんっ!そんなのだめだよ!二宮君に悪いし、迷惑だよっ!」
「何で?」
「なんでって・・・し、知り合ったばっかりだし、そんなこと頼めな「・・・・良いですよ」
「ほらぁ!二宮君も良いって・・・・え?」
 返事に驚き、二宮を見る。
「俺は・・・別に構いませんよ?」
「ほら、相葉ちゃん。ニノ良いって」
「え、え・・・でも、悪いよ。そんな・・・・おれ、迷惑かけれないよ・・・」
 ただでさえ、今日こんなに迷惑をかけたのに。
「大丈夫。ニノは迷惑なんて思っちゃいないよ。な、ニノ?」
「はい。どっちにしろ通り道ですから、定期も使えますし全然問題ないですよ。俺は潤君と違って暇ですから、相葉さんに合わせられますし。
それに・・・もっと相葉さんのこと知りたいですし、仲良くなりたい」
「にのみやくん・・・・」
 にっこり笑う二宮に相葉は顔を赤らめた。
「二宮君・・・・」
「ニノ!!」
「え?」
「ニノって呼んでください。皆そう呼びます」
「にの・・・?」
「はい」
「にの・・・・おれ・・・、おれの好きな人になってくれますか?」
「・・・ええ、喜んで」
「あ・・・お、お願いします・・・」
 何故かお見合いのように緊張して頭を下げる2人を、松本は呆れながらも微笑ましく見つめていた。
「なに、これ?」
「何って、お土産」
 フランスとドイツに行ってきたでしょ?そんなこと知ってるよ。たった今「寂しかったよー、会いたかったよー」って、カンドーの再会ってやつをやったんだから。
「じゃなくて、何でこれがおみやげなの?」
 手に持っているものを目の前に掲げ、相葉は首を傾げた。
「んふふ、可愛いでしょ?選ぶのにすっごい迷ったの。だって、どれも相葉さんに似合うものばかりなんだもの」
 二宮は恍惚とした表情で言う。にのこわい・・・っていうか、選ぶのを迷う前に、これを買うこと自体を迷ってほしかったよ・・・。相葉は手元にあるそれを見て、ため息を吐いた。
「ねえ、松潤はなにもらったの?」
仕事が一緒だった松潤に聞いてみた。
「ニノのお土産?俺はアルコール。ワインとビールね」
やっぱり普通だ。あのお土産を渡した後、二宮はすぐに別の仕事に行ってしまい、結局理由を聞けなかった。
「何?相葉ちゃん。ニノのお土産が気になんの?」
「へ?あ、うん。まあね・・・」
 さっき翔ちゃんとキャプテンにも聞いてみた。翔ちゃんは日本では手に入らない、なんとかっていうアーティストのCDとDVD。(名前わすれた)キャプテンは自分で作れる彫刻のミニチュアキットだって。みんなそれなりなものなのに・・・なんで、おれはアレなの?ウケねらい?それとも・・・
「相葉ちゃんは?ニノに何もらったの?」
 考え込んでいた相葉を不審に思ったのか、松本が訊ねる。
「うん・・・じつはね・・・」
 これ、と松本の前に差し出したもの・・・・
「これって・・・」
 松本も一瞬、言葉を失ったようだ。
「これって・・・レッグガーター・・・だよな?」
「・・・そうみたい」
 キャプテンはヘアバンドって言ってたけど・・・。でもちがう。これは、レッグガーターだ。いわゆる、女性の下着。
「これがニノのお土産?」
「うん・・・」
 白いレース編みの真ん中に水色のサテン地のリボンが通してありリボンの結び目には白のシフォン地で立体的なフラワーが飾られている。それは、見た目にもとても上質なものと分かる。
「松潤、どう思う?」
 これって、ウケねらいなのかなあ?でも、あの時のにのからは、そんな空気は感じなかった。
「・・・なあ、相葉ちゃん。ニノがこれ贈った意味、知りたい?」
「松潤、わかるの?」
「まあね」
 不適に笑う松本。
「あのさ、これはね・・・」


 相葉は鏡の前に立ち、映る自分を見つめていた。
「うー・・・どうしよう・・・」
 手元には二宮からのお土産。仕事が終わり、相葉は待ち合わせをしていた二宮と共にホテルに来ていた。二宮はすでにシャワーを浴びて、部屋でゲームをしている。つまりは相葉待ちだ。その相葉は、シャワーを浴びたものの、悩んでいた。
 二宮からのお土産の意味。それを知った今、やっぱり付けるべきだと思う・・・・思うんだが。
「恥ずかしんだよぉ!」
 でも・・・・。もう一度、鏡の中の自分を見つめる。
 ・・・・よしっ!!
 相葉は一度顔をパンッと叩いて気合を入れた。
「相葉さん、遅かったね」
 待ちくたびれちゃったよ。言いながらバスローブ姿の相葉の手をとり、ベッドへと誘う。
「んふふ、相葉さんのぬくもり、久しぶりっ」
 相葉の首に顔をすり寄せる。
「ん、にの。くすぐったい」
「相葉さんのにおいがする」
 見つめ合い、どちらともなく唇を合わせる。それを深いものへと変化させながら、二宮は手を下へと滑らせた。バスローブの袷から手を差し入れ、相葉の太腿に触れて、撫で上げる。そこで、二宮の手が急に止まった。
「あいば・・さん?」
 驚いたように相葉の顔を見た後、二宮は勢いよく、バスロープを捲り上げた。
「ちょ、ちょっと、にのっ!!」
 いきなりの行為に相葉が大声を上げた。相葉の左の太腿には、二宮からのお土産があった。恥ずかしそうに足を閉じ、顔を真っ赤にして二宮を見上げる。
「にのの好みに・・なってる?」
「あいばさん・・・」
「あ、松潤にね聞いたの・・・フランス人は・・し、下着を贈るのが恋人の証だって・・」
 フランスでは自分の好みで下着を選ぶのではなく、相手が好むものを身につけるんだと。そして恋人は自分の好みの下着をプレゼントするのだ。言ってしまえば、俺好みに染まってくれ、ということだろうか。
「にぃの?」
 何も答えない二宮に、相葉は不安そうな顔をした。やっぱり似合わなかったかな?止めればよかった・・・・にのはウケねらいだったんだ。おれってば、すっごい勘違いしちゃっったのかな・・・。
「ごめっ・・・やっぱり外すね」
 相葉は泣きそうになりながら起き上がり、レッグガーターに手をかけた。その手を二宮が制する。
「なんで?」
「え?」
「なんで外しちゃうの?」
「だって・・・」
 そう言ったっきり、俯く相葉。
「すっごい似合ってる。俺ってセンス抜群じゃない?」
「にの・・・?」
 その言葉に相葉が顔を上げる。そこにはとびっきりの笑顔の二宮。
「ありがとうございます。付けてくれて」
 嬉しいよと相葉を抱きしめる。
「ホント?変じゃない?」
「うん・・・まさに俺好み。すっごい可愛い!」
 もともと相葉さんは俺好みなんだから、当たり前だけど。二宮の言葉に安心した相葉は、ふにゃりと笑った。そんな相葉を愛おしそうに眺め、レッグガーターのあたりを撫でながら、顔中にキスを落とす。
「ん・・ねえ、にの」
「んー?」
「おみやげ、ありがと。だいすき」
 二宮の唇を盗み、耳元で囁く。
「もっと、おれを・・・にの好みにしてください・・・」
「あいばさん・・・いいよ・・・今以上に俺色にしてあげる・・・」
 二宮は相葉の手を引き、一緒にベッドへと身を沈める。


「ねえ、相葉さん・・・」
「・・・なにぃ?」
 いつもより激しかった行為の余韻に浸っている相葉の頭を撫でながら二宮が言う。
「これね、さっき相葉さんが言ってたとおりの意味もあるんだけど、もうひとつこれには意味があるんだ」
 先ほどの行為中に二宮が外したレッグガーターを、相葉の目の前でヒラヒラと振ってみせる。
「もうひとつの意味?」
 相葉が不思議そうに二宮を見た。
「うん。これはね、花嫁さんがウエディングドレスの下に付けるの」
「え?」
 驚いたように目を見開く相葉。
「サムシング ブルーって言ってね、結婚するときに何か青いものを身に付けるとその花嫁は幸せになれるんだって」
 そして、身に付けるものとして、レッグガーターがあるんだよ。
「これ、付けちゃったんだから、もう相葉さんは俺の花嫁だね」
 愛しそうにレッグガーターに口付けた。
「にの・・・」
「んふふ、何泣いちゃってんの?感動しちゃった?」
 相葉の眼からは涙が溢れていた。
「泣いてねえよ・・・ばか・・・でも、だいすき」
 ありがとうと、相葉が二宮に抱きつく。それを受け止め、慈しむように見つめながら二宮は相葉の頭にキスを贈る。
「これからもずっと一緒にいようね。愛してるよ」
 俺の愛しい愛しい花嫁さん。

おわり?

~おまけ~

「相葉さん」
 幸せに浸りきっているおれに、にのがお願いがあると言ってきた。今なら何でも聞いちゃいそう、おれ。
「なに?」
「実はね・・・もうひとつ、お土産があってね・・・」
 えー!もうこれだけでも十分なのに、おれ幸せすぎて死んじゃいそうだよ。
「これ・・・なんだけど」
 そう言ってにのが取り出したものを見て、おれは言葉を失った。
「・・・・・・やだ」
「えーっ!!いいじゃん!ここまで来たらさ、これも着てよ!!」
 絶対、似合うから!と力説するにの。にのの手にあったのは、白いレース地のベビードール。すっげえスケスケだ。もう、さっきまであんなにカッコよかったのに・・・・今はただのエロ犬だ・・・まあ、それもにのらしいけど。
「ねえ、お願い!」
「いーやっ!!」
 断固拒否したおれだけど、にのに勝てるわけはなく、結局着るはめになった。それは・・・恥ずかしいから、もうおしまいっ!!

おわり
 パリでお仕事中の二宮の元に1通のメールが届いた。その内容に二宮の表情が凍りつく。
 時は2月14日。

******

「おはようございまーす・・・」
「・・・・・・」
 番組収録のため、楽屋へやって来た櫻井は、空気の重さに中へ入るのをためらった。この押しつぶされそうな重い空気を作っているのは二宮だ。ただ黙々とゲームをしているのだが、放っているオーラがとてつもなく恐ろしい。
「なあ、なんかあった?あいつ、超怖いんだけど」
 すでに来ていた松本と大野のところへ行き、小声で話しかける。
「さあ、来たときにはもうあんな感じだったよ」
「マジ?昨日帰国してきたんだよな、確か。海外で何かあったのか?」
「俺らに聞かないでよ。気になるんなら翔君聞いてみたら?」
「俺が聞くのかよー。怖ぇじゃん。松本さん聞いてくれよ。」
「何で俺が。気になってるのは翔君でしょ?それに、どうせ相葉ちゃんがらみでしょ?」
 聞くだけ無駄だよと、2人は再び各々の時間を過ごし始めた。
「ちょ、まつもっさーん」
「・・・翔君うるさい。黙っててもらえませんか?」
 鬱陶しい。二宮は櫻井を睨み付けた。
「俺だけ?つーか、何でそんなご機嫌悪いわけ?」
「・・・・べつに。翔君には全くもって関係ありませんから、気にしないで下さい」
 随分含みのある言い方だ。ということは・・・俺が関係しているということか。自分は何をしたのかと必死に考える櫻井。そこへ元気良く相葉がやって来た。
「おっはよー。いやー遅刻寸前!!ちょー焦った!!」
 独特の笑い声が楽屋中に響いている。この空気が気にならないのか、気づかないのか・・・。櫻井は二宮の反応を盗み見た。ゲームに視線を落としたまま相葉を見ようともしない。相葉も関係しているのか・・・。
「相葉ちゃんっ!」
「んあ?翔ちゃん、おはよー。なにぃ?」
「お前さあ、ニノに何かした?っていうか、俺が相葉ちゃんに何かした?」
「は?なに?翔ちゃんなに言ってんの?」
 意味わかんない、と首を傾げる。
「だからさ、ニノがすっげえ不機嫌なんだよ。んで、それがどうも俺と相葉ちゃんのせいらしいって話」
「にのが?なんで不機嫌なの?なんでそれにおれと翔ちゃんが関係してんの?」
「それが分かんねえから聞いてんだよ。」
「ふーん・・・」
 それだけ言うと、相葉は二宮に近づき後ろから抱きついた。
「にのぉ。おかえりぃ」
 元気だった?ねぇ、元気だった?おれはねぇ、ちょー元気!!でもね・・・にのがいなかったから、さびしかったよー。
「・・・・・」
 二宮を取り巻く空気が少し和らいだ。が、依然言葉を発しない二宮。相葉は気にした様子もなく抱きついたまま身体を左右に揺さぶった。
「くふふ、にのだ、にのがいるぅ」
「ちょ、相葉さんっ。危ないから止めなさいって」
 文句を言いながらも、表情が緩んできている。
「ねぇ、にの。なんで機嫌悪いの?」
 相葉が単刀直入に切り出した。
「・・・・・」
 黙り込む二宮。
「おれ、なんかした?」
「・・・・・」
 無言の二宮に相葉の顔が歪んだ。
「なんだよぉ、にののばかぁ。久しぶりに会ったのに、無視とかしやがってぇ」
 にのはおれに会いたくなかったんだ。もうおれのことどうでもいいんだ。
「何でそこまで考えが飛躍すんの?あんたは」
 相葉の思考がマイナスの方向に傾いてきたことに、焦った二宮は口を開いた。
「だってぇ・・・」
「分かったよ。俺が悪かったですね。会いたかったよ、相葉さん」
 ようやく相葉と視線を合わせた二宮は正面から相葉を抱きしめた。
「えへへ・・・おれもぉ」
 会いたかったと、猫がするように相葉は二宮に顔をすり付ける。二宮に穏やかな表情が戻った。
「・・・あのさ、取り込み中悪いんだけど、落ちついたところで聞いて良い?ニノ」
 タイミングを見計らい、櫻井が二人の世界に割り込んだ。途端に不機嫌な顔になる二宮だが、気にせず続けた。
「不機嫌の理由は何だったの?」
「おれも気になる!なんで?」
 相葉に詰め寄られ、また泣かれても困ると二宮は渋々話し始める。
「・・・・・チョコ」
「「へ?」」
 二宮は2人と眼を合わせずに呟いた。
「ちょこ?」
 不思議そうに首を傾げる相葉。
「翔君にあげたでしょ?」
 ああ、不機嫌の理由は俺のメールか・・・・。櫻井には思い当たる事があったのだ。二宮がパリへ行っている間に、バレンタインという一大イベントがあった。当日、櫻井は相葉からチョコをもらっていた。それに浮かれた櫻井は、他の用事でメールを寄こした二宮に返信したのだ。もらったチョコの写真を付けて。どうやら、それが原因らしい。
「なんで、翔君にあげるの?あんたは俺のでしょ?」
 しかも俺、もらってないんですけど。二宮は恨めしげに相葉を見る。
「ちょこ・・・あー、あれ!あれはね、もらったの。青木さんに」
「「は?」」
 相葉の発言に二宮だけじゃなく、櫻井も間抜けな声をあげた。
「ちょうど、動物園の収録でね、レギュラーのみんながくれたんだよ」
 青木さんに、ベッキーに、山瀬さんも。でもね、食べきれなくってさ。んで、その後に翔ちゃんに会ったからあげたの。おすそわけー。にっこりと無邪気に言う相葉に唖然とした二宮だが、突然笑い出した。
「んはは!そう、そういうことか。そうだよね、相葉さんが俺以外なんてありえないもんね」
 ましてや翔君ごときになんてね、ありえない、ありえない。途端、上機嫌な二宮とがっくり項垂れた櫻井。正反対の2人の反応に相葉はついていけずに、きょとんとしている。
「にの?翔ちゃん?」
「んふふ、何でもないよ。そうだ、相葉さん今日終わったらウチくる?」
「いいの!?」
「もちろん!会えなかった時間を埋めましょうね!」
 二宮が厭らしく笑った。
「うん!!・・・ねぇ、にの。ちょこ、欲しい?」
 おれ、用意してない。相葉は嬉しそうに返事した後、少し表情を曇らせた。
「んー、別に。今日はもっと甘いもの、貰いますから」
「もっとあまいもの?」
 相葉を抱き寄せ囁く。
「チョコより甘い相葉さんを・・・ね?」
「もう、にのったら」
 はずかしいよぉ。・・・でも、うれしい!
「お返しは俺で良い?」
 おでこをくっつけ、見つめ合う。
「もちろん!もったいないくらい!!」
 あまいあまい、2人の間にはチョコレートは不要。
「あ、でもくれるんなら貰いますからね、チョコ」
「へ?」
(((結局、欲しいんじゃん)))
 他メンバーは心の中でつっこまずにはいられなかった。そして、二宮のいないところで、相葉に絶対チョコをあげるべきだと忠告するメンバーだった。

おわり
 俺の中には常に相葉さんがいる。それはどんな時でも変わりはなくて、相葉さんの存在はいつでも俺の根底にあるのだ。
 例えば一緒にいるとき。お互いに違うことをしながらも、気づけば視界の端に必ず入るようにしている。
 例えば仕事のとき。いつでも彼のフォローにまわれるよう、彼の言動は逃さない。別々の仕事でも、彼の出るものは欠かさずチェックしている。
 例えば一人のとき。ゲームをしてても、買い物に行っても、ふとした瞬間に彼を思い出している。
 いつも考えてるわけじゃない。でも、いつも想ってる。
 俺の想いが空から降る雨粒ならば、この地はすでに大海原の中だろう。俺の気持ちが燃え盛る炎なら、太陽系なんてとっくに燃えつきている。結局はいつでもどこでも相葉さんのことばかりということだ。それくらい俺の中に相葉雅紀はいつも在るのだ。
 居るのではなく、在る。そう表現するのが正しいだろう。俺にとって唯一無二の存在。汚すことを憚れる程に純粋で綺麗なひと。それが俺にとっての相葉雅紀なのだ。
「にぃの。何やってんの?ひとりでボーっとしてる」
「んー?ちょっとね、色々と考えていたんです」
 俺の顔を覗き込むその可愛い姿に、邪な感情が動き出すのも確かで。人間なんて、所詮矛盾の中で生きてるもんなのだと、誰に言うでもなく、言い訳してみたり。
「ねぇ、にのってば。またどっかいってる!」
 話を聞いていないと頬を膨らませて怒る。
「ああ、すいません」
「さっきからどうしたの?」
 首をかしげて聞いてくる彼に、またしてもいけない感情がこみ上げてくる。今すぐ彼の首筋を舐め上げて、そのふくよかな唇にかじりつきたい。唇が真っ赤に腫れるほどに吸いついて、あなたの中に入りたい。
 あなたの温かさに包まれながら綺麗な顔が歪むほどに揺さぶって。その黒く潤いのある瞳から溢れ出る、最もキレイな体液を舐め取りたい。あなたの声も吐息も、全てを俺の中に取り込んで、俺の熱をあなたの中に吐き出したい。
 そう思う俺はおかしいのでしょうか?
「なんでもないですよ。最近忙しかったから、疲れてるのかな?」
 そんな感情を全て押し殺して、俺は笑うのです。
「だいじょうぶ?倒れそうなの?」
 騙されてくれるあなたにホッとしながら。純粋に心配してくれるあなたに、謝りながら。こんな醜い俺の感情をあなたに気づかれるのが怖い。
 でも、きっともう抑えきれないところまで来ているのです。いつか、この気持ちがあなたに届く日が来るのでしょうか?
 あなたが俺を受け入れてくれる日が。

 願いはひとつ。
 ただ、あなたの全てを。俺だけの「相葉雅紀」を。

おわり
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2008/01/29(Tue) 12:44:30
アルバイト始めます
「おれ、バイトしようかなぁ」
 学校からの帰り道、突然相葉が言い出した。
「どうしたの?急に」
 たいして興味なさげに二宮が答える。
「だってぇ、お金ないんだもん」
「そりゃ、あんたが悪いんでしょ?計画的に使わないから」
 隣で「一応考えてるもん」とホッペを膨らませている自分より背の高い相葉を横目で見上げ、ため息を吐く。
「それに、あんたにバイトなんて出来んの?高校生にもなって、一人で歯医者にも行けないくせに」
「おっ、大っきい声で言うなぁ!!」
 周りを気にして慌てて二宮の口を手でふさぐ。
「何すんの。ホントのことでしょ?」
「そうだけどさぁ・・・」
 恨めしそうに二宮に視線を送った。 先日、歯が痛いと喚いていた相葉に歯医者を勧めたところ、「怖いからやだ」と拒否された。何度か勧めたが、その度に「痛いのきらい」とか「明日には治るかも」とかとにかく行きたくないの一点張りだ。
 しかし、そうこうしていても虫歯が勝手に治ってくれるわけもなく、とうとう頬がはれるほどになってしまい結局は行かなくてはどうにもならなくなって。切羽詰った相葉が言った言葉は、「にの、一緒にきて」だった。一人じゃ心細いから、と。それに「しょうがないですね」と、付いていった二宮も二宮だが。
 待合室で待つと言った二宮に、相葉は診察室の中まで一緒にと懇願した。横にいてと言われ、さすがの二宮も呆れ果てた。呼びに来た歯科助手さんや待っている患者さんに、クスクスと笑われる中
相葉はまるで今生の別れのような悲壮感を漂わせ、診察室に消えていった。もちろん残された二宮は待合室の注目の的となり、非常に恥ずかしい思いをした。それでも、相葉の治療が終わるまで、二宮は一緒に歯医者へ通い続けたのだ。
 にのが一緒じゃなきゃ行かないと駄々をこねる相葉に勝てずに。本当は、診察室へと向う間際の「ちゃんと待っててよ?」という不安そうな顔が自分の「待ってるよ」の一言で安心して笑顔に変わる瞬間や治療後に少し目を赤くして自分の元に駆け寄ってくる姿があまりにも可愛らしく、それが見たいが故ではあったが。
 そんな、甘えん坊な相葉がバイトすると言い出したことに、少なからず二宮は驚いていた。
「バイトは歯医者と違うんだから、俺はついていけないよ?大丈夫なの?」
 そういうと、急に不安げに、眉を寄せ二宮を見る。
「うう・・・じゃあ、にのお金貸してくれる?」
「嫌だよ。何で俺が」
「いっぱい貯めてるくせにぃ、にののけち!!」
 隣を歩く二宮を肘で突く。
「ケチってなんだよ。俺はお前と違って、無駄に使わないだけです」
「俺だって無駄に使ったわけじゃねえよっ」
 ただちょっと、欲しいもん買っただけだよ。
「どうせ、衝動買いでしょ?」
「うっ・・・そうじゃないもん・・・」
「嘘つくの止めなさいよ、バレバレなんだから」
「う、もういいじゃんかぁ。とにかくバイトしようと思ったの!!」
 このまま言い合っても勝てないのは分かっている相葉は、強引に話を元に戻した。それも、いつもの事と二宮も特に気にしないで続きを促す。
「ふーん。で、何するつもり?」
「うん。この間ね、街で声かけられたの、バイトしないかって!」
「・・・街で?」
 二宮が顔をしかめた。
「うん!それがね、すっごい簡単に出来そうなバイトでね、ずっと考えてたんだぁ」
 しかも、バイト料が良いの!!
「・・・一体何のバイトなんですか?」
「なんかね、よくわかんないんだけど、写真を撮るんだって」
「写真?エロいのじゃないでしょうね?」
「違うの!なんか、棒アイスとか食べながらカメラ見るだけで良いんだって。あ、あと今はやりの乗馬ロボに乗ってるトコとか!1枚で5000円くれるって!」
 すごくない!?目を輝かせている相葉に、二宮はため息を吐く。本当に何も疑問に思わないのだろうか、こいつは。
「・・・相葉さん」
「んー?」
「バイトは止めなさい」
「えー!なんで!!」
 バイトは駄目だと言われ、その場で地団駄を踏む。お前はいくつだと、つっこみたいのを我慢して、二宮は相葉をなだめる。
「お金に困ってるなら、俺が貸すから。だから絶対そのバイトはやっちゃ駄目」
「にの、さっき貸さないって言ったじゃん」
 急に気の変わった二宮を不思議そうに見る。
「気が変わったんです。とにかく、そのバイトは駄目だから。その話してきた奴の連絡先は?聞いたの?」
「名刺もらった。やる気になったら連絡くれって」
 はい、これ。二宮は差し出された名刺を受け取ると、おもむろに破り捨てる。
「あーっ、ちょっと!!」
「何?何か文句があんの?」
「ないけどぉ・・・」
「なら良いじゃん。そうだ、あんたまさか自分の連絡先、教えたんじゃないでしょうね!?」
「教えてないよ!だって、にのの知らない人には教えちゃだめなんでしょ?」
 にのがそう言ったんじゃん。首を傾げる相葉に口の端を持ち上げた。しつけは万全だ・・・と思っていたのだが、落とし穴はあるものだ。 
「ん、よく出来ました。これからは、街で知らない人に声かけられても無視しなさい。」
「ええ~」
「ええ~じゃない。返事は?」
「はぁい・・・」
 二宮に睨まれ、渋々返事をする。二宮は「いい子」と相葉の頭を撫でた。その行為が嬉しいのか、相葉は自分から二宮の手に頭を擦り付けるような仕草をみせる。二宮は満足気な笑みを浮かべた。
「ね、ホントににのが貸してくれんの?」
 二宮の制服の袖口を引っ張り、キラキラと目を輝かせる相葉。
「ええ、まあ。俺が良しと判断した場合にね?」
「えー!!今すぐじゃないの?」
 相葉が駄々をこね始める。
「今、何に使うのよ?」
「んー、アイス食いたい!!」
「アイスって・・・お前さぁ・・・」
 そんなことに使うから、虫歯にもなるし、お金もすぐになくなるんじゃないかと二宮は呆れた。でも・・・・。二宮は何かを思いついたのか、笑顔で相葉を見る。
「にの?」
「・・・良いよ。アイス買ってやる」
「ホント!?いえーい!」
 両手を挙げて喜びを表す相葉。
「そのかわり、それに見合う働きはしてもらいますよ?」
「はたらき?」
「事と次第によっちゃあ、奢ってあげても良いってこと」
「マジ!?おれがんばる!」
 何すればいい?ホントに疑うことを知らないんだから。まあ、俺にとっては好都合だけど。
「んふふ。まずはアイス買いに行きましょうか」
「うん!!」
 後日、二宮の携帯のデータフォルダは、棒アイスを食べている相葉を色々なアングルから撮影した写真でいっぱいになっていた。
「相葉さん、今度はもっと別のもの・・・咥えてみましょうか」

おわり
 にのは俺のヒーローだ。
 いつも俺を助けてくれる。今の世界に入った頃、なかなかなじめなかった俺をいつもあったかく包んでくれた。俺よりも小さい身体で、小さい手で。
 にのがいたから俺はここまで来れたんだ。にのがいたから安心できた。
 ひとりだけ踊りが上手くできなくて怒られても。病気で仕事ができなくて焦っていたときも。いつだってにのがいたから頑張れた。
 俺がつらいときは、いつもそばに来て「大丈夫だよ」って言ってくれる。俺が嬉しいときには「良かったね」って一緒に喜んでくれる。誰も気づかないような小さな変化も、にのは絶対気づくんだ。
 そうして、俺の一番欲しい言葉をくれる。それだけで気持ちが浮上してくるような言葉をくれるんだ。
 ねぇ、にの。こんな気持ち、なんて言うの?
 俺は頭が良くないから、言葉を知らないから、上手く自分の気持ちを表現できないけど。こういうの、「すき」っていうのかな?でも、そんなんじゃ足りないくらい。
 だって、にのは俺の一部だもの。にのがいなけりゃ今の俺はきっといない。にのがいなきゃ前も向けない。進む方向すらワカラナイ。
 こんな俺に誰がしたの?にの?俺?
 たぶん両方だね。自覚はある。
 にのに甘えてる自分。厳しいことも言うけど、頑張った後には思いっきり甘やかしてくれるにの。にのに会うと、いつも不思議な感覚が俺を襲う。なんていうか、心がふわふわしてる。にのを見てると、心があったかくて、心地よくて、でも時にぎゅっと痛いくらいに締め付けられる。でも、にのの笑顔でその心はいつもふわふわ。
 ふわふわ、ふわふわ。
 まるで雲の上を歩いてるみたい。にのも俺と同じ気持ちだと良いのに。
 楽屋のドアを開けると、にのがいた。でも、今日のにのは何だかボーっとしてる。いつもは誰かとじゃれているのに。
「にぃの。何やってんの?ひとりでボーっとしてる」
「んー?ちょっとね、色々と考えていたんです」
 なにかあったのかな?俺じゃ相談に乗れないかな?
 あ、またなんか考えてるみたい。俺が話しかけてるのも上の空。
「ねぇ、にのってば。またどっかいってる!」
 ちょっと、淋しくって怒ったみたいに言っちゃった。
「ああ、すいません」
 みんなのいるところでこんなに考え込むにのは珍しい。
「さっきからどうしたの?」
 気になったから聞いてみた。
「なんでもないですよ。最近忙しかったから、疲れてるのかな?」
 なんて言って、にのは困ったように笑った。その顔すき。いつも「しょうがないですね、相葉さんは」って笑う顔に似てるから。
 でも・・・。
「だいじょうぶ?倒れそうなの?」
 心配する俺に、にのは大丈夫だよって頭を撫でて、リーダーのところに行ってしまった。そんなにのの背中をおれは見つめるしかなくて。何だか泣きそうになる。
 にのは俺のヒーローだ。
 だから、俺には弱いところを見せてくれない。でも、俺はにのの全てが見たいんだ。弱いところも、かっこ悪いところも。どんなにのだって、きっと大好きだから。
 ねぇ、にの。いつかこの想いをあなたに伝えても良いですか?そのとき、あなたは困ったように笑って受け入れてくれるかな?
 ねぇ、神さま。俺はもう、にのなしじゃ一歩だって歩けないんだ。
 だから、どうか。にのを俺にください。
 俺だけのヒーロー。二宮和也を。

おわり
「にの!見て見て。ちょーキレイ」
 お湯の中に勢いよく入って、窓まで駆け寄る相葉に二宮は苦笑した。
「んふふ、あんたちょっとはしゃぎすぎ。テンション上げすぎてぶっ倒れないでよ?」
「だぁいじょうぶだって!」
 二人はロケで、ある温泉町に来ていた。昼間のうちに今日のロケを終え、食事を済ますと後は自由時間だ。食事から宴会へと突入していくスタッフたちを尻目に二人で抜け出した。
「くふふ。ホントきれい」
 ホテルの最上階にある一面ガラス張りの展望風呂からは、この地の夜景が一望できる。相葉はこの夜景がいたく気に入ったようだった。ホテルは大きな湖に面していて、暗い水面に湖の向こうの町の灯りが映りゆらゆら揺れて何とも幻想的だ。相葉はそんな夜景を、うつ伏せに身体を投げ出し、湯船の淵に肘をついて眺めていた。
 その体勢はすなわち・・・
「・・・・・ちょっと、あんたお尻が浮いてんですけど」
「んぁ?だって浮いちゃうんだもん。いいじゃん誰もいないし」
 貸切でしょ?
「ねぇ、泳いでいい?」
「どうぞ、ご自由に」
「にのも泳ごうよぉ」
「俺はいいよ。見てるから。相葉さんの可愛いお尻がプカプカ浮いてんの」
「・・・・・やっぱいい」
「何でよ。泳いでいいって言ってんのに」
「だって、にのの目妖しい」
 自分の身体を縮め、隠すようにお湯の中へ沈める。
「失礼な。俺はただ、見てるって言っただけじゃん」
 何なら、背泳ぎでも良いよ。
「ぜったいやらない!」
 そう言って、二宮から離れた窓へ移動した。
「んふふ。残念」
 そう言って、二宮は窓の外に目をやった。本当にキレイな景色にため息が漏れる。キラキラと水面に映る灯りが自分を別世界へと誘っているようで、不思議な感覚に陥る。二宮は、この日常とはかけ離れた静寂の中に相葉と二人で居られる幸せを噛み締めていた。
「ねぇ、にの!」
 二宮とは反対側に移動していた相葉が突然、怒ったように二宮を呼んだ。
「何ですか?」
「淋しいからこっちきて!」
「あんたが離れてったんでしょうが」
 突然のワガママに突っ込みながらも笑みがこぼれる。
「いいから、きて!」
 両手を前に出しておねだりをはじめた。本当に可愛い人だ。
「相葉さんがおいで」
 にっこり笑って両手を広げ、迎えるポーズ。
「うー・・・」
 しばらく迷っているように唸っていたが、そろそろと二宮の元へと寄って来ると胸に飛び込んだ。二宮に抱きつくと、頭を胸に擦り付ける。
「んふふ、どうして急に淋しくなっちゃったの?」
 頭を愛おしそうに撫でながら問う。
「・・・なんでもない・・・・」
 二宮の胸で小さく答える相葉。二宮は相葉を自分から離すと、顔を覗き込み見つめる。
「ちゃんと答えなさい」
「う・・・だってにのが・・・」
「俺が?」
 上目遣いで二宮を伺うように見て、しどろもどろに相葉が答える。
「にのが、外ばっかり見てるんだもん・・・」
「・・・はい?」
「だからぁ!おれのこと見てるって言ったのに、外の景色ばっかり見てた!!」
 頬を膨らませ、二宮を睨む。予想もしなかった理由に二宮は目を見開いた。つまりは、夜景に嫉妬したということか。
「そんなことで怒ってたんですか?本当に可愛い人ですね!!」
 もう一度相葉を抱きしめ直す。何でこんなに愛しいのか分からない。しいて言うならば、それが相葉雅紀だからだろうか。
「そんなことじゃないもん!!大事なことだもん!」
「んふふ、そうですね。とっても大事なことだね。俺が相葉さん意外に目を奪われちゃったんだもんね?」
「うー・・・にののばか・・・」
 二宮の背中に腕を回し、再び胸に顔を埋める。
「はいはい、ごめんね?もうよそ見はしないよ」
 あんただけ見てるから。だからあんたも、俺だけを見て。
 相葉の顔を上向かせ、唇に優しくキスを落とした。二人の姿を、眼下に広がる湖と暖かな町の灯りが優しく見守っていた。

おわり
「ねぇ、にのぉ」
 二人そろってオフの日、なんとなくダラダラと過ごしていた。付かず離れずの距離を保ち、二宮はゲーム、相葉は漫画を読んでいたが、相葉が間延びした声で話しかけた。
「何ですか?」
 ゲーム画面に目を向けたまま、こちらも気のない返事をする。
「あのね、よくさぁ、『一生のお願い』って言うでしょ?」
 二宮の気のない返事も気にすることなく、相葉はこれまた得意の唐突な話を始めた。
「あれって、何回まで聞いてもらえるのかなぁ?」
「はい?」
 あまりの急な話にゲームの手を止め、相葉を見た。相葉も漫画を閉じて、二宮に顔を向けた。
「だからぁ、一生のお願いって何回まで聞いてもらえるのかって話」
 眉間にしわを寄せて考え込む相葉に、二宮はゲームの電源を切り、向かい合った。こういうときはしっかりと話を聞いてやるようにしている。二宮の態度に、相葉は嬉しそうに二宮に近寄ってくる。
「どうしたのよ、急に」
 近づいてきた相葉をひざの上に向かい合わせに座らせる。
「うんとね、漫画読んでたら『一生のお願い』って出てきたの。それでね、思ったんだ」
「何回聞いてもらえるかって?」
「うん!!」
「誰にお願いすんだよ?」
「神様!!」
 元気いっぱいに応えてくれる相葉だが、質問の内容が現実離れしている。呆れる二宮だが、他ならぬ相葉の疑問だ、とりあえず答えておくけれど。
「まぁ、『一生のお願い』って言うくらいですから、命を懸けるくらいの想いが必要でしょうし・・・やっぱり一度だけじゃない?」
「ええ!そうなの?そっかぁ、一度だけかぁ」
 二宮の答えに相葉は不満の声を上げ、残念そうに頭を垂れた。
「何?そんなにショックなの?」
 あまりの落ち込みように、二宮は悪いことを言ったかと後悔する。
「ん。おれね、もうね『一生のお願い』しちゃったの。だからもう聞いてもらえないってことだよね?」
「・・・・そういうことに、なりますかね」
 そもそも本当に聞いてくれるのかというところからして、二宮には疑問なのだが。それは言わないでおく。それに一生のお願いなんて、そこらへんの女なら何度だってしているだろうに。こういうところが、彼は本当に純真だと思う。
 しかし、それよりも二宮が気になるのは、相葉がもうしてしまったという『一生のお願い』の内容だ。本気で落ち込んでる彼には申し訳ないが。相葉はというと、そっかぁ、ダメかぁと繰り返してブツブツ言っている。
「・・・ねぇ、相葉さんがした『一生のお願い』って何ですか?」
 それまで頭を垂れて落ち込んでいた相葉の動きが止まり、上目遣いに二宮を見た。
「えへへ・・・。うんとね、にののこと好きだって気づいたときにね、お願いしたの」
「俺のこと?」
「うん!『一生のお願いです。どうか、にのに想いが通じますように。』って」
 恥ずかしそうに、顔を赤らめる。彼の可愛らしいお願いと、表情に二宮は眩暈を覚える。そんな二宮には気付かず、相葉は顔を曇らせて続けた。
「でもね、おれって欲張りだから。願いが叶ったら、もっとお願いしたくなっちゃうの」
「次はどんな願い?」
「『どうか、にのとずっと一緒に生きていけますように』って。お願いしたらダメかなぁ?」
「あいばさん・・・・」
 どうしてこの人は、自分の喜ぶことばかり言ってくれるんだろう。もう、愛しすぎてどうにかなりそうだ。
「あ、そうだ!にのがお願いしてよ!まだ、使ってないでしょ?『一生のお願い』」
 彼はまだ『一生のお願い』にこだわっている。そんな彼が、可愛くて愛しくて。膝に乗っている相葉にチュッと軽くキスをした。
「相葉さん、そんな不確かなものに頼らないで、もっと確実に叶えてくれるものにお願いしなさい」
「神様よりも確実に叶えてくれるものがあるの?」
 きょとんとした顔で聞いてくる。
「もちろん!ありますよ」
 言ってやると、キラキラと目を輝かせる。
「なに、なに?おれもお願いしたい!」
「じゃあ・・・お願いごと、言ってごらん?」
「へ?ここで?どっかで聞いてんの?」
 キョロキョロと周りを見渡している。
「ここ!」
 相葉の顔を両手で挟んで自分のほうを向かせる。
「ふぇ?」
「神様じゃなくて、二宮和也様!!」
「俺に直接お願いしてよ。お前の願い、神様よりも確実に叶えてやれる自信があるよ?」
「にの・・・」
「ほら、言ってごらん。あんたの願いは何?」
「お願いです・・・どうか、二宮和也とずっと一緒に生きていけますように・・・」
 二宮の手を自分の手で包み込んで頬を摺り寄せる。
「その願い、必ず叶えてあげますよ」
 優しく答えると、極上の笑みが返ってくる。そして、愛しい愛しいあなたに誓いのキスを。その願いが叶ったとあなたが知るのは、まだまだ先になるけどね。

おわり
「相葉さん、相葉さん」
「なぁに?」
「ちょっとお願いがあるんですけど」
「俺にできることなら、良いよ?」
「本読み、付き合ってくれません?」
「ほんよみ?いいけど・・・・どうしたの?めずらしいねっていうか、初めてじゃない?にのがそんなこと言うの」
「ええ・・・。今回はちょっと気合が入ってて。最終回の本なんですけど」
 と言って、相葉に台本を渡す。『拝啓、父上様』の最終回の台本だ。
「そうなんだぁ。よしよし!付き合ってやろうじゃないか!!」
 何故か腕まくりをする相葉。二宮からこんな頼みごとをされるなんて、相葉は嬉しくて仕方がなかった。二宮が自分を頼ってくれるなんて。浮かれた相葉は、二宮が一瞬見せた不適な笑みに気付くことはなかった。
「んで、おれは誰やればいいの?」
 台本片手に首をかしげる。そんな相葉を二宮は、口の端をさらに上げた。
「えっとですね・・・ここです」
 台本を覗き込み、相葉に読んで欲しいところを指差す。
「ここ?なんか、そんなに大変そうなシーンじゃなくない?それに・・・おれがこれ、言うの?」
 相葉が少し嫌そうな顔をした。
「そんなことないですよ!とっても重要なんです!俺はここが物語の一番大事なところだと思ってるんです。きっと脚本書いた先生だってそうだよ!」
「そ、そう・・・」
 二宮のあまりの勢いある力説振りに頷くことしかできない相葉。
「じゃあ、始めましょうか?」
 やけに上機嫌で、気合の入った二宮に少し気後れしていた相葉だが、引き受けたからには頑張ろうと、気を取り直して台本を見つめた。
「おっけぃ!いつでもどうぞ」
「んふふ。じゃあ、お願いします。あ、本読みだけど、気持ち入れたいから、相葉さんもちゃんと感情込めてやってよ?」
「わかってるって。」
 そして、二宮がどうしてもやりたかった本読みが始まった。その場面とは・・・・。
『お兄ちゃんっ!』
 一平とエリのシーンだった。二宮が執拗にやりたがった理由・・・・。ただ単に相葉に『お兄ちゃん』と言わせたかったのだ。そんなこととは知らず、二宮のため一生懸命感情を込める相葉。
 二宮はというと・・・・。とてつもなく口元を緩ませている。相葉に気付かれないよう本で隠しているが・・・。
「あ。すいません、相葉さん。今のトコ、もう一回いいですか?」
「へ?うん。じゃ、もう一回・・・・って、なんか近くない?」
 この2人って、そんな関係じゃないよね?ソファーに座っていた2人だが、その距離は今にも触れてしまいそうなほどに近い。二宮の手は相葉の腰に回っていた。その距離に相葉は戸惑う。
「そんなことないですよ。ほら、続けて?」
「う、うん・・・『時夫君がね、どうしても知りたいって』」
「何をですか?」
『私の胸のサイズ』 
「教えたんですか!?」
『教えた。ついでに少しなら触っても良いよって』
「言ったんですか!?」
 二宮は少しムッとしている。自分から頼んでおきながら、その台詞が憎らしくて仕方がない。ヨコめ。今度会ったら下剤でも飲ませてやる。全く関係のない恨みを持たれた哀れな横山。そんな事には気付かずに、頑張る相葉。そして・・・・。
『ねぇ、お兄ちゃん。私たち、ずっと良いお友達でいようね?』
 そう言って、二宮を見つめ笑顔を見せる相葉(台本に書いてある)
「・・・・・」
 次は二宮の台詞のはずなのに、言葉が続いてこない。
「にの?」
 不思議に思って二宮の顔を覗き込もうとすると・・・。
「うわっ!!」
 急に抱きしめられた。
「ちょっ!にの!!そんなのここに書いてないよぉ」
 片手に持っていた台本を振って訴える。
「あーもう!無理!!」
 そう言いながら、二宮は相葉の肩に顔を擦り付ける仕草をする。
「なにが?」
 事態が飲み込めず、いまだにきょとんとしている相葉。自分は何かヘマをしたのかと考えをめぐらすが、思い浮かばない。もちろん、相葉に何の落ち度もない。落ち度があるとすれば、二宮に惚れられたということだろう。
「だって、あんた。可愛いお顔して『お兄ちゃん』とか言うんだもん。俺、もう限界。我慢できなくなっちゃった」
 自分勝手な理由を、相葉のせいにしてそのまま相葉をソファーに押し倒す。
「え、え?ちょっと・・・・」
 急な展開について来られないで居る相葉を尻目に服を脱がせにかかる。
「もう、お兄ちゃんは何でも言うこと聞きますよ。あ、でもいい友達にはなれませんけど」
 だって、お兄ちゃんの息子さんは、あんたとは友達になれないって言ってますもん。
「友達相手にこんな状態にはならないでしょ?」
 そう言って相葉の手を、自分のソコヘと導く。
「なっ!!なんでっ!?」
 熱い二宮に驚き手を引こうとするが、二宮は許さなかった。首筋を舐め上げ、片方の手は相葉の中心へと這わす。
「あっ、ちょ・・・ん・・・・やぁ・・」
 素直な反応を見せる相葉に二宮の機嫌は最高潮に達する。
「んふふ・・・かぁわいいっ!」
 一気にズボンも下着も下ろし、直接相葉を刺激する。
「あぁっ・・・だめぇ・・・にのっ。そんな・・・したらぁ」
 快楽に弱く、流されやすいことに加えて、相葉の弱いところなど知り尽くしている二宮に触れられている相葉には、すでに抵抗する術などなかった。
「にのじゃなくて、『お兄ちゃん』って・・・呼んでごらん?」
 完全に楽しんでいる二宮は更に相葉を翻弄する。
「あ・・・はっん・・おっ・・にぃちゃ・・・?あっあ・・」
「イく?イッちゃうの?」
 何度も頷く相葉だが、それを見て二宮は手を止めた。
「はっ・・・ん・・どうしてぇ・・・」
 生理的な涙を瞳に湛え、二宮を懇願するように見つめる。
「んふふ。だぁって、1人でキモチいいなんて、ずるい。ねぇ、一緒にキモチよくなろうよ。ね?」
 二宮は相葉が自分のお願いに弱いことを知っていた。そして、当然ながら断れない相葉。断る理由もないし、何よりこの状態がつらい。
「うん・・・おねがいっ!はやく・・・してぇ・・」
「まだ、だめぇ。ほら、俺の準備がまだでしょ?」
 そう言って相葉の目前に情熱的に熱くなったソレを差し出した。相葉は戸惑うことなくソレを自らの口内へと誘導する。
「はむ・・・ちゅ・・・くちゅ・・・んぱっ」
 2人の吐息と、厭らしい音だけが響く室内。
「んっ・・・はぁ・・上手いね、あんた。最高」
 相葉の頭を撫でながら、うっとりと二宮が言った。そうしたのは、もちろん俺だけど。褒められて嬉しいのか、相葉は顔を前後に動かしながら目元を赤くする。
「はっ・・ん、もういいよ。ほら、後ろ向いてお尻あげて?」
 言われたとおりの格好になり、振り返って二宮を見つめる相葉はひどく扇情的で、二宮は煽られっぱなしだ。何か・・・悔しい。二宮は相葉の綺麗な双丘に噛み付いた。
「あっ!!に、にの!?ああっ・・ん・・・やぁ・・」
 それすらも快感なのか、相葉が嬌声を上げる。そのまま相葉の蕾に口付け、舌で解していく。
「あっ、あっん・・・ふぁっ・・・にぃ・・・のぉ・・んっ!」
 入れていた舌を抜き、代わりに指を挿入する。
「にのじゃないでしょ?『お兄ちゃん』」
 そう言って、指を激しく動かした。
「いっ・・・あぁん。お・・・にぃちゃぁんっ・・・」
 ソファーに顔を擦り付けて快感に耐える相葉。
「んふふ、いいね・・・『お兄ちゃん』って・・・。なんか、イケナイことしてる気分・・」
 二宮は楽しそうに相葉の耳元で囁いた。
「も・・う、おねが・・・い・・・んっ!」
 早く決定的な刺激が欲しくて二宮を求める。
「・・・そうですね。俺ももう限界。早くあんたに入りたい・・・」
 相葉の中から指を引き抜いた。
「あっ、ま、まって・・・」
 二宮の台詞と、次に来るであろう衝撃に相葉が焦ったような声を出した。
「大丈夫。分かってるよ、あんたの言いたいことは」
 察した二宮は相葉を仰向けにして、くっつきそうなほどに顔を近づけた。
「俺の顔見てイきたいんでしょ?」
「・・・うん」
 二宮を見つめ、顔を赤らめて頷く。
「ホントに可愛いんだから・・・」
 相葉の足を左右に大きく開くと、蕾に自身を宛がい、唇にチュッとキスをした。
「ふふっ、今日初キッス!・・・いくよ?」
 そう笑って、相葉の中へと入っていく。
「んっ・・・・はぁ・・・」
 異物の進入に眉を寄せて耐える。二宮がなるべく楽なように、息を吐き全身の力を抜く。そんな相葉の献身的な姿が、愛おしくもあるが、二宮のサディスティックな部分を刺激するのだ。むちゃくちゃに揺さぶりたい衝動を、奥歯を噛み締めてやり過ごすと、ゆっくりと動き出した。
「んっ、んっ・・・あっ」
 動きに合わせて、相葉も腰を揺らす。
「・・・んっ、どう?キモチいい?」
「・・・あっん・・・きもち・・いいっ・・・に・・・おにいちゃ・・の・・おっきぃ・・んっ」
「んははっ!それ最高・・・。俺も今ので、ヤバくなってきちゃった・・・」
 律儀に『お兄ちゃん』を守る相葉に愛しさがこみ上げ、二宮は動きを激しくした。肌のぶつかる音が、その激しさを物語る。
「あっ!あぁっん、そんな・・・はげしっ・・・だめぇっ・・・いっちゃ・・よぉ」
 縋るものを求め、相葉は二宮の首に腕を回した。
「んっ、は・・・あいば・・・さんっ!ほらっ、それじゃ俺の顔見えないよっ?」
 相葉の首に跡を残し、腕を解く。
「うっん・・・あっ・・・にぃのぉ・・・顔・・・みたい」
 動きを止めて、涙を流す相葉の顔にキスを落として微笑んだ。
「しっかり俺を見て?一緒にイこうね?」
「・・・うん。にの、だいすき」
 相葉も微笑む。
「俺も、愛してる・・・」
 もう一度、今度は舌を絡ませ、お互いの息をも奪い尽くすような深く激しいキスを交わした。そして、再び動き始める。
「あふっ・・・んんっ・・・・あ、あ、あっ・・・」
 相葉の声は止まらない。二宮にも余裕はなかった。相葉の細い太腿に手を添え、激しく突き上げる。良い所を集中的に攻め、高みへと誘っていく。
「んっ、んっ・・・あぁっ!ふか・・いよぉ・・・あっ、いく、いく・・・にのぉ・・・んああっ!」
「んっ、あいっば・・・っ!」
 二宮と見つめ合ったまま、相葉は絶頂を向えて二宮と自分の身体を汚した。同時に二宮も、相葉の中で果てた。相葉の息が落ち着くまで、顔中に啄ばむようなキスを贈り、相葉は嬉しそうにそれを受ける。しばらくして相葉から出ると、二宮はそのまま相葉の上に倒れこむ。
「んっ・・・はぁ。にの、気持ちよかった?」
 二宮の背中に腕を回し、抱きしめて相葉が問う。
「当たり前でしょ?あんた、最高だもん」
「うへへ・・・うれしい」
 二宮をぎゅっと抱きしめた。それにしても、何でこうなったんだっけ?相葉は首をかしげた。しかし、考えはまとまらず。・・・・まぁ、結果的に気持ち良かったんだからいっか!!実に相葉らしく、強引にまとめた。
「そうだ!にのぉ、おれ上手にほんよみできた?」
「うん。これで良い演技ができそうです。ありがとう」
 チュッと触れるだけのキスをしてやると、嬉しそうに目を細めた。
「くふふ、良かった。にののお役に立てて」
 さすが相葉というべきか、さすが二宮というべきか、二宮の策略に相葉が気付くことはなかった。相葉に気付かれないように二宮は笑う。やっぱり、あんた最高だわ。
 ごめんね、相葉さん。こんな奴に惚れさせて。手放してやれなくて。こんな俺だけど、本気であんたに惚れてんだ。だから、先に謝っておくよ。
 ごめんね。あんたは、一生俺のもの。

おわり
 ある日の嵐の楽屋。
「相葉ちゃん。おいら相葉ちゃんの事が好きだ!」
 突然の愛の告白に、一瞬空気が止まる。
「どうしたの?キャプテン。急に」
 小首を傾げて、相葉が問う。
「どうしても伝えたくなったんだ。もう愛が溢れちゃって、どうにもならないんだ!」
「きゃぷてん・・・おれ・・・うれしいっ!おれもキャプテン大好きーっ!」
 そして2人強く抱き合った。
 ハッピーエンド・・・「んなわけないでしょう!!」
 激しい突っ込みとともに、バリッと音がしそうなほどの勢いで2人を引き剥がしたのは二宮。
「なに人のもんに手ぇ出してんですか、このクソキャプテン!」
 チッ!!
 出たな、二宮。大野は大きく舌打ちをした。
「きゃぷてーん・・・」
 引き剥がされた、相葉は二宮の向こうから大野に向って手を伸ばしていた。それを見て、二宮はため息を吐く。
「あんたもバカですか?あんたは俺のもんでしょ?キャプテンのことは諦めなさい」
「えーっ!でもおれ、キャプテンすきだし・・・」
「じゃあ、俺と別れんの?」
「絶対いや!!にのいないと、おれ死んじゃうっ!!」
「俺の事好きでしょう?愛してるんでしょ?」
「すき、すき。大好き!!愛してるよぅ!」
 そう言って二宮に抱きつく。満足そうな笑みを浮かべる二宮。
「じゃあ、諦めなさい。そっちも、二度と手ぇ出すなよ?」
 物凄い顔で大野を睨み付けた。うっ、こわい、でも大野智も負けません。
「相葉ちゃーん。おいらだって、相葉ちゃんいないと死んじゃうぞー。嵐が4人になっちゃうぞー。」
 相葉を脅しにかかる。
「いやーっ!嵐は5人で嵐なのー!キャプテンいなくちゃダメなの!」
 相葉は泣きそうになりながら叫ぶ。
「じゃあ、おいらと結婚してくれぇ!」
「けっこん!?ダメだよぅ、おれ、にのと結婚すんだもん」
「なんだよー、おいらのこと捨てるのかよ?」
 死んじゃうぞーと、相葉にダメ押しをする。
「うー・・・すてないもん。でも、おれはにのと結婚するんだし・・・でも、キャプテンも大好きだし、でも日本は、いっぷたさいじゃないから2人とは結婚できないし・・・うー、うー・・・」
 本気で悩んでいる相葉。その前に、日本で同性の結婚は出来ないということには気付いていない。
「うー・・・そうだ!!キャプテンはおれの2号さん!!」
「2号さん・・・おいら2号か。カッコいい!!」
「キャプテン2号!!かっこいい!!うひゃひゃっ」
「お、おい相葉っ!なに勝手に愛人作ってんだよっ!許さないよ、そんなの!」
 盛り上がっている2人に二宮が怒鳴り散らす。
「だって、にののこと愛してるけど、キャプテン、おれがいないと死んじゃうんだもんっ!嵐が4人になっちゃうんだよっ?そんなのやだもん。だからぁ、今日からにのは、おれのだんなさん!キャプテンはおれの2号さん!!」
「・・・ねぇ、翔君。あいつら黙らしてくんない?」
「やだよ・・・ぜってぇ巻き込まれる。それだけはごめんだ・・・」
 3人を少しはなれて見守っていた2人。見守っていたというより、バカバカしくて口を出したくないだけだったのだが。そんな2人を尻目に3人は更に盛り上がる。
「じゃあ、今日からよろしくね。相葉ちゃん」
 満面の笑みで、手を差し出す大野。
「うん!よろしくねぇ、2号さん」
 その手を取って、上下に振る。
「くふふっ。たのしいねぇ」
 楽しそうな相葉。
「おう、うれしいね!」
 嬉しそうな大野。
「嬉しくねぇよっ。くっつくなって言ってんだろうが!!相葉っ!クソキャプテン!!」
 納得が行かず、喚きながら2人を離そうとする二宮。
「・・・お前らさぁ、いい加減にしてくんない?」
 あまりのくだらなさに、松本がついに口を出した。
「お、何だよ松潤。お前も相葉ちゃんと結婚したいのか?」
「んなわけねぇだろ!!」
 大野の発言に松本がキレる。
「えー。おれ、松潤好きなのにぃ」
 相葉が媚びるような目で松本を見つめた。
「う・・・、俺だって相葉ちゃんは好きだよ・・・でもさ・・・」 
 結局は松本も相葉が可愛くて仕方ないのだ。二宮や大野ほど、病んではいないつもりだが、甘やかしている自覚はあった。
「ホント?じゃあ、松潤も2号さんだ!!」
「嫌だよ」
 顔を歪めて相葉を睨む松本。
「2号はおいらだよ、相葉ちゃん!」
「あ、そっか。じゃあ・・3号さん?」
「格が落ちてんじゃん・・・」
 それはそれで不満そうな松本。
「もう、わがままだなぁ。そうだ!!そくてん!!」
「は?側転?」
 相葉の言葉の意味がわからず、大野と松本は首をかしげた。
「あれぇ、違ったっけ?そくてい?」
「あんた・・・、それを言うなら側室でしょ?」
 さすが二宮、即座に相葉の言いたいことを理解し、つっこむ。
「そう!そくしつ!!」
「だから、同じ事だろーが!!しかも、さっき自分で一夫多妻じゃないって言ってたじゃん」
 側室は一夫多妻の時代のもだろ?と、説明までする松本。結局、相葉たちのペースに知らずと巻き込まれている松本だった。
「みんなー、そろそろ仕事だよ・・・」
 4人に増えた喧騒に、櫻井が遠慮がちに声をかける。
「あ、翔くん。そうだ!ねぇ相葉ちゃん、翔くんは?」
 大野が相葉に聞いた。
「翔ちゃんも大好き!!」
 相葉は笑顔で答える。
「うっ、俺は妾も愛人も側室も嫌だぞ?」
 その笑顔にやられそうになりながらも、先に釘をさした。
「えーっ・・・じゃあ、翔ちゃんは・・・あしがるっ!!」
「はっ!?ちょっと待てよ!何で急に身分、ガタ落ちしてんだよっ!」
「んははっ、足軽いいねぇ!ぴったりじゃん」
 豪快に笑い飛ばす二宮。
「よっ、足軽!」
 変な合いの手を入れる大野。
「お前らなぁ・・・・」
「はいはーい、時間切れ。支度するよ。足軽も早くして」
 口の端を吊り上げて、言う松本。
「まつもっさんまで、ひでぇ・・・」
 哀れ櫻井。結局この騒動は、その後、二宮の「愛人を作ったら別れるよ」の一言で相葉が泣き出し、取り消しをみんなに言い渡して、なしになった。二宮はおおいに満足し、大野は舌打ちし、松本は呆れ、櫻井は安堵した。
 しかし、しばらくの間、櫻井だけは足軽と呼ばれることになった。
 つまりは、姫は旦那のものというおはなし。

おわり
 レギュラー番組の収録後、俺の苛立ちは最高潮に達していた。カメラが回っているうちは何とか抑えることが出来た。本当なら、あの場ですぐに喚き散らしてやりたかったのだが。
 誰のモンに手ぇ出してんだと。俺のモンに触るなと。
 しかし、そこは演技派戦士。ハリウッドにも進出した男、二宮和也。
 グッとこらえて、笑顔の演技。されど心の中はまさに嵐。
 おっと、怒りのあまり思わずヘタレラッパーのごとく韻を踏んでしまいました。おかげで顔の筋肉がつりそうですよ。うまくやっていたつもりなんですが、収録の途中で隣のキャプテンがひと言。
「にの、目が笑ってない」
 案外鋭いね、あんた。その言葉に笑顔を崩さず、言ってやりましたよ。
「うるせぇよ、バカ」
 もちろん他の人には聞えないように。キャプテンは片眉を上げただけで、それ以上は何も言わなかった。おそらく、他の2人も気付いていただろう。
 張本人は全く気付いてないだろうけど。まぁ、そこが相葉雅紀が相葉雅紀たる所以なのだからしょうがない。しょうがないと頭では分かってるんだけど、心が納得しない。
 俺の心の中でどす黒い感情が渦巻いている。
 彼の眼が俺以外を見るなんて許せない。そんな眼ならいらないでしょう? 
 俺以外の声を聞くなんて許せない。そんな耳なら必要ないでしょう?
 俺以外の人間に触るなんて許せない。そんな手ならあってもしょうがないでしょう?
 これが俺の本音ですから。所詮俺なんて、相葉さんが絡むと非常に心が狭くなる男ですよ。さぁて、このイラつきどう解消いたしましょう?

*****

「おい、相葉ちゃん!お前大丈夫かよ?」
 収録後、楽屋に戻るとすぐに櫻井が相葉に駆け寄った。
「なにがぁ?」
 首をかしげて何のこと?と櫻井を見る相葉。
「何がって・・・・分かっってねぇの?」
「だから!なにが分かってないの?」
 答えが見えない質問に相葉は、顔をしかめた。櫻井はそんな相葉に本気で驚いていた。
「大変だとは思ってたけど、ニノもホント苦労するね・・・」
 そんな櫻井に相葉の顔が更に険しくなる。
「もう!翔ちゃん、意味わかんない!!なにがどうで、にのがなんなの!?」
 翔ちゃんは頭が良すぎて、まわりくどい!!頬を膨らませて櫻井を睨んだ。
「ちょ、落ち着けって相葉ちゃん。だからさ・・・・その、今日の収録だよ!しずちゃんとのさ・・・・」
「しずちゃんとの?それって、告白のこと?」
「そう。あそこはさ、いくらバラエティとはいえ、その・・・仮にも恋人の前でまずいんじゃねぇ?」
「なんでまずいの?」
「なんでって・・・。ほら、やっぱ恋人が自分の目の前で迫られてるのなんて、見たくないじゃん普通」
「だって、あれ冗談でしょ?なのにまずいの?」
 またしても首を傾げる相葉。
「いや・・・冗談なのか?まぁ、冗談だったとしてもさ、お前ちょっと肯定してたじゃん?あん時のニノ、尋常じゃないくらい怖かったぜ?」
「翔ちゃんって、ばかだねぇ」
「なっ!お前に言われたくないんですけど」
「だって、にのはそんな事で怒んないよ。そんな小さいヤツじゃありませ-ん」
 笑って答える相葉に櫻井は呆れた。
「お前は、ホントに幸せものだなぁ・・・・」
 恋は盲目とはよく言ったもんだ。あんな黒いオーラが見えないなんて。
「どうも!!」
「ほめたんじゃねぇよっ!」
「そうなの?うひゃひゃひゃっ」
 そんな2人の会話を楽屋の外で聞いていた人間がいたことには、櫻井も相葉も気付いてはいなかった。

*****

 あの後、次の仕事がある3人と別れ、相葉は二宮の運転する車に乗り込んだ。この収録以外に予定のなかった2人は、一緒に過ごそうと約束していたのだ。
「今日も楽しかったねぇ」
「・・・・・そうですね」
 心底楽しそうに話す相葉に二宮のイライラは更に加速していく。それに気付かず相葉は話を続ける。
「でね、翔ちゃんってば、変なこと言うんだよ。あの人、ホントに頭いいのかなぁ?ねぇ、そう思わない?」
「あの人、基礎は得意だけど、応用力がないんですよ」
「そっかぁ!応用力ね!!うひゃひゃっ、確かにないかもー」
「でもね、相葉さん。翔君の言うこと、間違ってないかもよ?」
「へ?にの?」
 信頼されすぎてるってのも、結構辛いわけよ。
「相葉さんが思うほど俺は出来た人間じゃないんですよ・・・」
 そう言ったきり、二宮は黙り込んでしまった。そんな二宮に、違和感を覚えた相葉だが、自分のない頭では彼が何を考えているかなんて、思いもつかない事も自覚していた。自分はまた何か、彼を怒らせてしまったのだろうか・・・。二宮の横顔を盗み見ることしか出来なかった。
 何ともいえない沈黙が続く中、二宮の運転する車は、ホテルの駐車場へ入っていく。
「あれ?ねぇ、にの。ご飯は?どっかで食べるって言ってなかったっけ?」
 それは、いつもの2人のお決まりのコースではあったが、収録前に約束したときは、どこかでご飯を食べていこうと言っていたのだ。
「予定変更。嫌?」
「嫌じゃないけど・・・」
「じゃ、いいよね?」
 そのままホテルの駐車場へと進んだ。部屋に入るなり、二宮は相葉を抱きしめ、ベッドへと倒れこんだ。
「うわっ!に、にの?どうしたの?」
「俺はそんな出来た人間じゃないって、言ったでしょう?」
 組み敷いた相葉の顔に手を添える。いまだ何が起こっているのか分かっていない顔の相葉に、二宮は顔を歪めた。
「俺はさ・・・いつだって、あんたに関わる全てが俺だけであったらって思ってるんだ。あんたの世界が俺で埋め尽くされてしまえばいい・・・」
「にの・・・」
「分かってるんだ、そんなことは無理だって。だけど・・・この眼が、俺以外を見ることが我慢できない」
 相葉の瞼を指でなぞる。そのままその手を相葉の耳、唇へと滑らせた。
「この耳が俺以外の声を聞くことが、この口が俺以外の名前を呼ぶことが、この手が俺以外に触れることが・・・・我慢できない」
 相葉の手に自分の手を絡め、キスを落とした。
「他の事だったら、全く気にならないんだ。でも、あんたのことになるとダメ。俺以外のあんたに関わる何もかもが許せない。」
 絡めた手を自分の頬に当て、愛おしそうに頬ずりをする。今だって本当は、すぐにでも白い肌を露にして、その首筋に噛み付きたいと思っている。綺麗で、純粋なその顔を俺の欲望で汚して、俺のものだと感じたい。無茶苦茶にしてやりたいと。
「ね、俺なんて全然出来たヤツじゃないでしょ?」
 こんなにも心が狭くて汚い。自由に美しく飛ぶあなたを、温かく見守ることなんて出来ないんだ。自嘲気味に笑った。それまで黙って二宮の話を聞いていた相葉が、穏やかに口を開いた。
「にの・・・。ううん、そんなことない。おれ、嬉しいよ。にのがそう思ってくれてること。だって、にのがそう思ってるときは、にのの世界は俺でいっぱいなんでしょ?」
 二宮が頬に当てていた手を自分の方へ引き寄せると、二宮がしたようにキスを落とし、じっと見つめる。
「おれだって、いつも不安だよ。にのの周りには綺麗な女優さんがいっぱいいて、俺なんか全然敵わない。でも、にのがそう思ってくれてるって分かって、おれだけじゃないんだって分かって、こんなにもうれしい!」
 そう言って相葉は笑った。
「相葉さん・・・」
「ねぇ、にの。もっと言って。もっとにのの世界を俺でいっぱいにしてよ。にのがしたいようにしてくれていいから・・・」
 そう言って手を伸ばし、二宮の頬に触れた。
「あいばさん・・・だめだ。今日は手加減できない。きっと、あんたにひどい事をするよ・・・」
 抑えていた感情が、相葉のひと言で爆発しそうだ。
「いいの。おれがそうされたいんだ。何をされたって、それがにのならきっと嬉しい」
 その微笑みは二宮の理性を飛ばすには充分だった。
「もう・・・知らないよ?相葉さん」
「・・・うん。にの、あいしてる。おれにはにのだけ」

*****

「うっ・・・・ん、んっ。にっ・・・のぉ、あっ・・・」
 二宮の激しい突き上げに、相葉はただ喘ぐことしか出来ない。何かに縋りたくても、今の相葉には不可能だった。何故なら、相葉の腕は後ろ手に縛られているから。
「俺以外に触れないよう縛ってしまおうか・・・・?」
 そう言って二宮に縛られた。
「んん・・・はっん・・んあ、あ・・・もう・・・あっ」
 後ろから攻められているその衝撃を、シーツに顔を埋めて受け止める。相葉の瞳からは、止め処なく涙が溢れてくるが、それが流れることはなかった。相葉の目はタオルで隠されていたから。
「俺以外を見つめるそんな目は、見えなくたって良いでしょ?」
 そう言って、二宮に目隠しをされた。何も見ることが出来ず、縋ることも許されない状況は、相葉にとって恐怖だった。しかし、自分にそれを強いたのが二宮だと思えば何も怖くはない。肌のぶつかる音と水音の中に、二宮の声が、吐息が聞えることが嬉しくてたまらない。
「はっ・・・・ん、あいばっ・・・んっ」
 この衝撃を与えているのは二宮なのだ。
 にの。にの。にの。いま、にのの心は俺だけを見てる?にのの世界にいるのは、おれだけ?
 だったら嬉しい。ああ、にのの顔が見たいな。にのに思いっきり抱きつきたいな。
 そう思っていたら、急に身体を反転させられた。
「あっん・・・・・に、にの?」
 窮屈だった手が開放され、視界が明るくなった。そこに見えたのは大好きなにの。
「あいばさん・・・一緒にイこうか?」
 ああ、こういうのを“いしんでんしん”っていうのかな?
「うん。にの・・・・だいすき!」
 二宮は微笑んで、相葉にキスを送った。
「・・・いくよ?」
 見つめ合い、2人動きを合わせて目指す絶頂は、幸福への道標。

*****

「ごめんね、相葉さん。きつかったでしょ?」
 涙の痕と、手首に付いた赤い痕に優しく口付けた。
「ううん、だいじょうぶ。言ったでしょ?相手がにのなら、どんな事だって嬉しいって」
 泣き腫らした真っ赤な眼を細めて、幸せそうに微笑む相葉。
「おれね、本気でそう思うの。そりゃ、目隠しも、手縛られたのも怖かったし、ちょっと痛かったけど、いつだってにのの目は優しかったから。
おれのだいすきなにのだったから。そんなにのが、おれにすることなら、怖いことなんてないって思うの」
「相葉さん・・・」
 あんな一方的な抱き方を嬉しいだなんて、あなた。
「でもね、さっきこうも思ったの。おれね、にのが要らないって言うなら、この眼だって耳だって腕だって全部なくたっていいって思うけど、それでにのが俺だけを見てくれるんなら、悪くないなって。でも、この眼があるからにのと見つめ合えるし、耳があるからおれを呼ぶにのの声が聞けるし、この腕があるからにのを抱きしめ返せるんだなって。にのと愛し合えるんだなって。そしたらね、にのの顔が見たくなって、声が聞きたくなって、抱きしめたくなってどうしようもなくなっちゃったの。もうこれはね、おれの希望とか、にのの為とかそんなことじゃなくて、もう衝動なの。ずっと奥の方から湧き出てくる衝動」
「衝動・・・?」
「うん、衝動。だからやっぱり、おれは眼も耳も腕も全部ないと困るなって思うの。だめかなぁ?」
 相葉は二宮の胸に顔を埋め、二宮を見上げる。実は俺なんかよりずっといろんな事を考えている相葉。俺のこんなにも黒い感情を、それよりもはるかに綺麗なそれで包んでくれる。
 俺の考えなんて、彼の前では戯言にしかならなくて。だからこそ、俺は正気でいられるんだ。こんな俺を彼が好きだと言ってくれるから。
「ダメ・・・じゃない。俺もやっぱり相葉さんの全てが好きだから」
「くふふ、ありがと。にの、だいすき!!」
「ホント、あんたにゃ敵わないよ。あ、でもちょっとは気をつけてもらわないと!今日みたいなことがある度に、俺はこんな事したくなっちゃうんで・・・」
 嫉妬深いのよ、二宮君は。そう言って、再び相葉の赤くなった手首に口付ける。
「ひゃっ・・・・、はぁい!!」
 一瞬驚いた相葉だったが、すぐに笑顔になり元気に返事をした。
「ホントに分かってるのかなぁ。不安・・・」
 胸に顔をすり寄せる相葉の頭を撫でながら、二宮は呟いた。
 これからも、自分の醜さと彼の偉大さを思い知らされることは何度だってあるんだろう。だけど結局は彼の全てが好きだから。
 離さないし、離れられない。
 俺の望みではなく、彼のためでもなく。
 それは、愛という名の衝動。

おわり
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