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小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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「翔ちゃん!翔ちゃん!明日さ、一緒のオフでしょ?予定ある?ないならさぁ、あそぼーよ!」
 本日のお仕事終了という時に相葉ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってきた。ああ、今日も可愛いね。
「いいね!予定も特に入れてないし。あ・・・でも、いいの?」
「なにが?」
「その・・・ニノは?」
 そう、相葉ちゃんと遊ぶには最大の難関である彼の恋人。彼の相葉センサーはすごいのだ。相葉ちゃんが昨日誰といたとか、何をしていたかとか、何を食べたかまで把握している。
 恐ろしい情報網と、執着心。その彼が、やすやすと承知してくれるのか・・・・。
「なんで?ニノは関係ないでしょ?おれが翔ちゃんと遊びたいんだから」
 ああ、何て嬉しい事言ってくれるのこの子は!!可愛いなぁ、もう。思わず頬が緩む。
「予定ないならさ、いいよね?」
 期待に満ちた彼の目を見て、断れるやつはいないと思う。
「もちろん!!オッケーだよ。久しぶりじゃね?相葉ちゃんと遊ぶの」
「そーだよ!翔ちゃん、ぜんっぜん誘ってくんねぇんだもん!」
 頬を膨らませて文句を言う相葉ちゃん。いや、俺だって相葉ちゃんと遊びたいよ。だけどさ・・・ほら・・・・ねぇ。あんたの保護者が怖ぇんだもん。
「まぁまぁ。その分、明日いっぱい遊ぼうな?」
 頭を撫でて言ってやる。
「うん!!へへっ。やったぁ!!」
 飛び跳ねて喜ぶ相葉ちゃん。そっかぁ、俺と遊ぶのがそんなに嬉しいかぁ・・・。こんだけ喜ばれると、男冥利につきるってモンで・・・。
「へぇ。翔ちゃん、相葉さんと遊ぶんですか・・・。相葉さんとねぇ。んふふ・・・」
 突然の背後からの恐ろしい声に背筋が凍る。
「に、二宮さん・・・あ、あのですね、遊ぶと言ってもですね・・・」
「あー、にの!聞いて!!明日ね、翔ちゃんと遊ぶ約束したの!ね、翔ちゃん?」
「え?あ・・うん」
 相葉ちゃんそんな嬉しそうに・・・・ああ、怖い。ニノが直視できない・・・。
「ふーん。相葉さん、遊ぶのはいいですけどあんまりはしゃぎ過ぎないようにね?」
 あれ?ニノがダメって言わないなんて・・・・おかしくない?いつもなら即効でダメって言ってくるし、威嚇してくるのに。ニノは俺を一瞥しただけで、特にダメとは言わなかった。
「だぁいじょうぶだよっ!!相手は翔ちゃんだよ?そんなにはしゃがないよ」
 あ、今何気にひどい事言いましたね雅紀さん・・・。
「まぁ、そうですけど。でも、気をつけて?あ、あと何されるか分からないし、気は抜かないこと!いいね?」
 何もそんなに念をおさなくても・・・。第一、 あなたが怖くて何も出来ませんから。
「はぁい!くふふ、翔ちゃん楽しみだね!!」
「あ?ああ・・・」
 俺は嬉しそうな相葉ちゃんに曖昧にしか返事できなかった。良いと言いながらも、目が笑ってませんけど、二宮さん!!帰り際には、普段聞いたことないような低い声でしっかりとニノからの警告。
「手ぇ、出すなよ?」
 だから出来ませんってば!!相葉ちゃんは大好きだし、あわよくばって思わないわけじゃないけど。まだ生きていたいからね、俺も。
 それでも、久しぶりに相葉ちゃんと遊べる事がすっげぇ楽しみだった。

 そして、次の日。
 俺は相葉ちゃんと遊ぶべく、彼の家へと向っていた。久しぶりの2人きり。何かがあるわけじゃないけど、やっぱり胸躍る。顔も自然に綻ぶってもんだ。たとえここに来るまでの間に、『死ね』メールが100件以上来ようとも。
 今日は絶対2人で楽しく遊ぶんだ!!強い決意で相葉ちゃんの家の前に立ち、インターホンを押した。
「あ、翔ちゃん。いらっしゃーい」
 パタパタと廊下を走り、玄関に迎えに来てくれた相葉ちゃんに頬が緩む。何か新婚さんみたいじゃね?可愛いなぁ、ホント。何でニノなんかと付き合ってんのかなぁ。こんな可愛くて素直な良い子が、何であんな黒い男と・・・・。
 そう思った瞬間に携帯が鳴った。相手はもちろん、100件以上の『死ね』メールを送ってきた男。

メール発信者 二宮和也
件名 無題
『変なこと考えてんじゃねぇよ、このヘタレ!まぁ何を思ったところで、相葉さんは俺のモンです』

 ・・・怖ぇよ!!何で俺が考えてることまで分かるんだよ!!
「翔ちゃん、どうしたの?」
「ん、いや。何でもないよ」
「そ?じゃ、部屋行こうよ!」
 そうだ、せっかく2人なんだから、こんな事でめげてちゃダメだよな。気を取り直して相葉ちゃんの後に続き、部屋へと入る。久しぶりに来た相葉ちゃんの部屋は、意外と綺麗に片付いていて。
「おれ、飲み物持って来るね。座ってて!」
 そう言って相葉ちゃんが部屋を出て行く。部屋をぐるっと見回した。DVDとかCDとかちゃんと並んでるし、漫画もしっかり本棚に収まっていた。整然としていて、綺麗な部屋なのだが・・・なんだろうこの違和感は。入った時から感じる・・・妙な感じ。・・・・何がと言われると困るんだけど、何か落ち着かない。まぁ、俺の気のせいかな?
 しかし、それよりも何よりも・・・・。ああ、相葉ちゃんの匂いがする・・・。浸っていると、また携帯が鳴った。

発信者 二宮和也
件名 無題
『変態』

 ・・・・だから、何で考えてる事が分かんだよっ!!しかも、お前仕事中じゃねぇのかよ。よし、こうなったら電源を・・・・・。

発信者 二宮和也
件名 無題
『携帯生かしとけよ。電源切ったら殺すよ』

 ・・・・・。
「翔ちゃん!」
「へ?」
 いつの間にか、戻ってきていた相葉ちゃんが顔をしかめて俺を見ていた。
「もう!さっきからボーっとして。どうしたの?」
 疲れてる?と首を傾げて心配そうに聞いてくる相葉ちゃん。あ、それカワイ・・・・いや、やめておこう。また携帯が鳴りそうだ。
「久しぶりに来たけど、何か部屋の雰囲気変わったね」
 飲み物を用意してくれる相葉ちゃんの前に座り、もう一度部屋を見回した。
「うん?ああ。なんかね、にのが前に来た時に部屋を何とかしたいって話したのね。そしたら模様替えしようって言ってくれて。にのがオフに1日かけてやってくれたの」
 すごいでしょ!?自分のことのように自慢げに言う相葉ちゃんは、本当に嬉しそうで、可愛らしくて。ニノが羨ましいと、本気で思う。
「おれね、その日仕事で途中までしか一緒に出来なくて。帰ってきたらこんな感じになってたの!」
「へぇ・・・」
 確かに棚の上やテレビの周りには、いかにもニノが選んだんだろうなというフィギュアが何体か置かれている。あのニノがねぇ。こんな面倒くさい事するなんて、やっぱ相葉ちゃんのこと好きなんだなぁ。何気なく手を伸ばしたフィギュアに違和感を覚えた。
 何か・・・・。
 ・・・・・・。
「雅紀さん・・・・」
「んー?」
「この部屋に居てさ・・・何か・・・変な事ない?」
「なに、変なことって?」
「何かさ・・・誰かに見られてるような感じがするとか・・・」
「えー、なにそれぇ?」
「・・・いや、相葉ちゃんが何ともないなら良いんだけどさ・・・」
 きっと、言わないほうが良いだろう。でも・・・・でもでも!!怖いんですけどっ!!だって、このフィギュア異様に重いし、模様に隠れてるけど、得体の知れない穴が開いてる!!しかも、その穴からキラッと光るものが・・・・これ、レンズだよなぁ・・・・。
 手に取ったフィギュアを置いて、他の物も確認してみる。うわー・・・・こっちもだ。どうりでアイツ、相葉ちゃんの行動を把握できてるわけだ。模様替えを買って出たのもこのためだろう。
 今日だって、これがあるから俺と遊ぶの許したんだな・・・。ここまでするなんて・・・恐ろしいヤツだ。
 犯罪ですけど、これ!!
 ニノの不適な笑いが頭に浮かんだ。
「あ!ちょっと翔ちゃん!これはね、この向きに置かなきゃいけないの!」
 そう言って、フィギュアの位置を直す相葉ちゃん。
「雅紀さん・・・聞いて良い?」
「なに?」
「どうして、その向きに置かなきゃいけないの?」
「よくわかんないけど、にのがそう言ったから」
 何の疑いもなく従ってるんですか、雅紀さん・・・。あんたすげぇよ、いろんな意味で。
「ね!それより、今日どうする?せっかくだし、どっか行くでしょ?」
 この状況に打ちのめされてる俺には全く気付かない相葉ちゃん。嬉しそうにこの後のことを考えてる。
「・・・ねぇ、雅紀さん」
「なぁに?」
「雅紀さんはさ・・・ニノの事、好きなんだよね?」
「どうしたの急に?当たり前でしょ?」
「どんな事があっても、それは変わんねぇよな?」
「うん。もちろん!」
「どんなニノも許せる?」
「翔ちゃん、さっきからなに?」
 相葉ちゃんの眉間にしわが寄る。
「いや、ほら・・・ニノって結構、独占欲強そうじゃん?相葉ちゃんはどう思ってんのかなって・・・・辛い時とかないのかなってさ・・・?」
「んー・・・。どんなにのも、にのはにのだし大好きだよ?時々怖い時もあるけど、それはたぶんおれが悪いから。だから、つらい事なんてないし、きっとどんなにのも許せるよ。」
 少し考えた後、相葉ちゃんは俺をまっすぐ見つめてこう言った。純粋にすごいと思った。相葉ちゃんはホントに良い子だなぁ。
「そっか・・・・じゃ、いいや」
 相葉ちゃんがそう思ってるなら、もはや何も言うまい。まぁ、言えないっていう方が正しいけど。
 どうせヘタレですから。
「もう!ホントに、さっきからなんなの?変な翔ちゃん!」
「ごめん、ごめん。とにかくさ、出かけね?ここ、俺には無理だわ」
 ここでくつろぐ事は、俺にはちょっと出来そうにない。それに、せっかくだから気兼ねなく遊びたいじゃん?
「無理ってなに?」
「なんでもない。ほら、行こうぜ!」
 俺が立ち上がって促すと、ちょっと納得行かない感じだったけど、遊びたい気持ちが勝ったのか相葉ちゃんも立ち上がった。
 それから街へと繰り出した俺たちは、思いっきり遊びまくって解散した。その後は、ニノからのメールもなく、誰にも邪魔されずに盛り上がった。どさくさにまぎれて手握ったり、抱きついたりもしちゃったし。
「ちょっと、翔ちゃん苦しいよぉ」
 とか言う相葉ちゃんはホント可愛かったなぁ・・・・。

 次の日、楽屋で1人、昨日の事を思い出していると、またしても背後からの恐ろしい声。
「誰が抱きついて良いって言ったよ、このド変態」
「に、ニノ!!な、何でご存知なんでしょうか・・・・?」
「んふふ・・・俺の情報網をなめんなよ?」
「二宮さん・・・相葉ちゃんの部屋、あれは犯罪ではないでしょうか?」
「何のことでしょう?」
 とぼけやがった。
「いえ・・・何でも・・・・」
「んふふ、良い心がけですね」
 ああ、その笑み・・・・悪魔だ、悪魔がいる!
「で、何故にご存知なんですか?昨日の事・・・」
 相葉ちゃんが話したのか?
「・・・相葉さんは言いませんよ、そんな事。っていうか、相葉さんは覚えてすらいないでしょうね」
 今、何気に俺の心の中を読みましたよね!?最早、人間の域を超えていますよ二宮さん・・・。
「では、なぜ?」
 ご存知なんでしょう?
「・・・さぁね?」
 ニノは口の端を吊り上げて、手に持っているものを掲げてみせた。手元には携帯電話。そこには相葉ちゃんとおそろいのストラップ。相葉ちゃんの部屋にもあった、ニノお気に入りのキャラクターのものだ。
 まさか・・・。
「結構、感度良いんですよね、これ。かなりの遠くまでイケますよ」
 携帯を振って笑うニノ。うわー・・・・盗聴ですか・・・。俺、すげぇヤツとグループ組んじゃった・・・。
「独占欲強くて悪かったですね」
 ああ、やっぱり・・・部屋にもあるんですね・・・。良かった、変な事しなくて。笑顔で俺に近づいてきたニノは、耳元でひと言。
「バラすなよ?」
 怖いよぉ、怖すぎるんですけど二宮さん!!俺1人で抱えきれる問題じゃねぇ・・・。
 大野君、松潤、早く来てくれぇ!!
 と言っても、2人ともあんまり聞いてくんねぇんだよ、あいつらの事は。ろくな事がないって・・・まぁその通りなんだけど!!
 はぁ・・・。俺は2人が幸せならそれで良いということにして、無理やり自分を納得させた。これから、相葉ちゃんと2人の時は気をつけよう・・・。相葉ちゃんの幸せそうな顔と、ニノの悪魔のような笑みが交互に浮かんでは消えていく。皆さん、俺はこのままやって行けるでしょうか・・・?

おわり?


「時に、二宮さん」
「・・・何ですか?」
「あのお部屋にはどれほどのモノが仕掛けられているんでしょう?」
「・・・さぁね?」
「あのお部屋で・・・いたす事もおありなんでしょう?もしかして・・・お撮りになられてるんでしょうか?」
「んふふ・・・どうでしょう?」
 不敵な笑みに、絶対やってるなと確信した櫻井。

*****

「あっん・・・ん、にっのぉ・・・・あぁ・・・」
 後ろから相葉を攻め立てる。
「んっ・・・あっいばさん・・・ちょっと、身体起こそうか・・・?」
「えっ・・・あっあ!」
 身体を起こして背面座位。
「んふふ・・・角度変わって感じちゃったね・・・?」
「はぁ・・・ん・・・ばっかぁ・・・あっん」
「・・・ほら・・・あいばさん、フィギュアが見てるよ・・・」
「え・・・?あぁっ!あっあ・・・んっ・・にのぉ・・あ、ちょ・・・あぁ」
 相葉がフィギュアを見た瞬間、大きく突き上げる。
「・・・あっいば・・・そのまま・・・イって・・・」
「あっぁ・・・もう・・・だめっ・・ん、ん・・ああっ!」
 相葉が絶頂をむかえた。横に眠る相葉の頭を撫でながら、二宮は微笑む。フィギュアに目を向けた。
「ごめんね相葉さん。俺ってば、こんなにもイカれちゃってんだ、あんたに。許してね?」
 幸せそうに眠る相葉の額にキスをし、一緒に眠る。どんな俺も許してくれる・・・そう言ったあんたに甘えて。

おわり
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「まちぼうけ」





おれの恋人は有名人。


ハリウッド映画にも出てる大スター。


一方のおれは、ただの料理人。


小さい頃から一緒に育ってきた俺たちだけど、いつからかおれたちの間には大きな越えられない壁が出来てしまったような気がする。


それでも、おれには彼が必要だったし、彼もおれを必要だと言ってくれた。


彼が煌びやかで、夢のような世界にいるとき、おれは厨房の片隅でひとり皿を洗っている。


彼が多くのファンに囲まれて笑顔を見せているとき、おれは沢山のジャガイモの山に囲まれていた。


こんなにも世界が違う。


そのことは考えないようにしていても、おれのこころにいつも引っかかっていた。


閉店まで働いて、身体はヘトヘト。


今すぐにでも眠れそうだ。


着ていた服を脱ぎ捨て、下着だけでベッドにダイブした。


あー、おふろ・・・・明日でいいや。

もう少しで眠りにつけるというところで、強制的に眠りを妨げられた。

携帯がけたたましく音を立てていた。


誰だよ、もう!


「もしもし」


『あ、相葉さん?』


その声に眠気はぶっ飛ぶ。


「えっ、にの?どうしたの?」


『うん、今からそっち、行っていい?』


「えっ!?今から?来れるの?」


『もうすぐ仕事終わりそうなんだ。また明日から映画の撮影で外国だから、どうしても会いたい』


遠出の前に相葉さんを補給しないとね?


「・・・・うん、おれも会いたいよ」


『んふふ、あっ、はい、すぐ行きます。相葉さん、あとちょっとで終わるから、1時間後くらいにそっちに行くよ、じゃあね』


「うん、待ってる」


電話を切って、考える。


にの、おなか空いてるかな?


何か用意したほうがいいかな?


冷蔵庫に何があったっけ?


こんな格好じゃ会えないよな。


ありのままで良いなんて、にのは言うけど。


やっぱり気になるのです。


いつも輝いているあなた。


おれはそれに見合う奴なんだろうか。


せめて見た目だけでも、彼が可愛いと言ってくれるように。


ちゃんとお風呂に入って洋服に着替えて、唯一の特技の料理の下ごしらえをした。


彼が食べたいと言ったら、すぐに用意できるように。


でも・・・・


「遅いな、にの」


1時間後くらいだって言ったじゃん。


おれに会いたいって・・・言ったじゃん。


明日からまた外国だって・・・・もう明日になっちゃったよ・・・。


全く鳴る気配もない携帯。


「来れないんだったら、最初から電話してくんなよ、ばーか・・・」


期待させないでよ。


ばかみたいじゃん、おれ。


みたいじゃなくて、そうなのか。


でも、おれにはこれしかないんだ。


おれに出来ること。


彼を信じて、ただ待つだけ。


はやくこい。


「ばーか・・・」


その言葉は、彼になのか、自分になのか。


もう、自分でもわからなかった。


「・・・ばか・・」




おわり



「自分が自分に戻る時」




仕事が終わると同時に、ホテルを後にした二宮は急ぎ足で自分のために用意されたハイヤーに乗り込んだ。


運転手に行き先を告げると、窓の外に目を向けイライラと爪を噛む。


もっと早めに切り上げるつもりだったのに、思ったよりてこずってしまった。


今日はホテルで、自分が主演したドラマの打ち上げがあった。


とりあえず顔だけ出して、挨拶回りして、適当なところで「明日から海外なんで」と理由をつけて出てくるつもりだった。


なのに、あのクソ女優!


ベタベタとくっついてきたかと思えば、そのまま隣に居座りやがって。


おかげで、いらぬ誤解を受けて雑誌記者たちの餌食だ。


誤解させたままでも良かったが、それで傷つく人がいると思えば、それも出来ない。


女優を軽くあしらって、記者たちの誤解を解いて、ようやく出てきたのだ。


窓の外から腕時計に目を移した。


彼に連絡してから、もう随分と経つ。


その間、携帯を見ることもままならず、彼に「遅れる」と連絡も出来なかった。


携帯には彼からの数回の着信とメール。


『にの。まだ仕事?終わったら連絡してね』


『にの。今日ホントに来れるの?大丈夫?』


『にの。忙しいんだね。もう遅いし、おれなら平気だから無理しないでね。』


チッ。


思わず舌打ちする。


「すいません、急いでもらえますか?」


運転手に一言告げて、再び外に目を向け、愛しい名前を呟いた。


「まさき・・・」



アパートの部屋の前でベルを鳴らしても反応がない。


「寝てるか・・・」


鞄から鍵を取り出すと、部屋へと入る。


二人で借りた部屋。


今では自分がここに帰ってくることはほとんどない。


でも、一番安心し落ち着ける場所。


何よりも自分の大切な人が居る場所。


けっして広くはないが、俺の全てはここにある。


言ってしまえば、ここ以外の俺は、俺であって本当の俺ではないのだ。


ここに居るとき、彼と居るときだけが、俺が俺でいられる唯一のとき。


寝室で寝てるだろうと思っていたら・・・。


愛しの人はダイニングテーブルに突っ伏して寝ていた。


「ったく。こんなトコで寝たら、風邪ひくだろうが。」


口ではそういいながらも、自分を待ってくれていた事が安易に分かるその寝方に、愛おしさがこみ上げる。


疲れているだろうに、どうやら食事の用意もしてくれたようだ。


自然と笑みがこぼれた。


先ほどまでの作ったものではなく、心からの笑みだ。


「んふふ、まぁさき。こんなトコで寝ると風邪ひくよ?」


相葉の髪を撫でると、くすぐったそうに身を捩じらせ、目を覚ました。


「ん・・・にの?来てくれたの?」


相葉は、眠たい目をこすりながらも、二宮の姿を確認すると、嬉しそうにはにかんだ。


「ただいま。遅くなってごめん。でも会えて良かった」


そう言って相葉のホッペにキスをした。


はにかんだ笑顔は一瞬驚いた顔になり、そして破顔した。

しかし、すぐに顔を曇らせる。


「今日は・・・どれくらい居られるの?」


この言葉を言わせてしまう自分が、本当に憎いと二宮はいつも思う。


相葉とゆっくり会うのは1ヶ月ぶりだった。


その間何度か食事に行ったりはしたが、いつも時間に追われていた。


相葉はそんな二宮に泣き言も言わず、いつも「頑張ってね!」と笑うのだ。


その顔を見るのが二宮は一番つらかった。


無理してるのがバレバレだから。


しかし、それには気付かない振りで微笑む。


「んふふ。実はね、出発を明日にしてもらっちゃった」


相葉の目の前でVサインをしてみせた。


「ホント!?朝まで一緒にいられるの?明日って事は、昨日の時点での明日が今日だから、今日の時点からの明日って事だよね?」


くりくりの目に期待を込めて二宮を見つめる。


「そういうこと。ずっと我慢してたんだもん、少し位の我侭は聞いてもらわないとね」


言いながら相葉の頭を撫でると、極上の笑みが返ってきた。


「うれしいっ!!あ!ねぇ、にの。お腹すいてない?おれね、ありものなんだけど、用意したから!ちょっと待ってて!!」


慌てて立ち上がろうとする相葉の腕を掴み、自分の方に引き寄せる。


「うわっ!に、にの?」


「相変わらず忙しい人ですね。せっかく会えたんだから、まずは熱い抱擁でしょ?」


そう言って相葉を抱きしめる。



「に・・・の」


「それに!今は誰もいないんだから、『にの』じゃないでしょ?」


「あ・・・、か・・ず?」


「んふふ、正解!ごめんね、寂しかった?」


「・・・・うん。あっ、ううん!だいじょうぶ!!おれもね、けっこう忙しくって、それでね・・・」


「嘘だ。寂しかった、会いたかったって顔に書いてあるもん。隠したってむーだ!」


「えっ、うそ!書いてないでしょ?」


二宮から身体を離し、一生懸命顔をこすっている姿に思わず吹き出した。


「ふははっ。もう、やっぱり雅紀は雅紀だね。」


「なに、それぇ」


ぷくっと頬を膨らませる。


「褒め言葉!大好きだなぁって事だよ」


「もう!あ、それでご飯どうする?食べてきた?」


「ちょっとだけ。きっと雅紀が用意してくれてると思ったから、あんまり食べてこなかった。だって、雅紀の料理が一番美味いもん」


「うへへ。すぐ支度するね!!あ、その間にお風呂入る?」


「雅紀と一緒に入るからいい」


「もう!!和のばか。向こうで待ってて!!」


顔を真っ赤にして叫ぶ相葉に爆笑すると、鍋つかみが飛んできた。


これからの甘い時間の後に訪れる苦い別れは考えず、今は2人の時を過ごそう。


愛しい愛しい君。


君のために今の僕があるなんて、君は全く知らないだろう?





おわり


「出会い」




おれと和が出会ったのは、おれが8才、和が7才の時だった。


おれが預けられる事になった施設に、和はいた。


おれにも、和にも両親がいない。


正確に言うと、おれにはいた。


おれが8才の時、両親は事故で呆気なくいなくなってしまったが。


両親以外に身寄りのなかったおれの行く先は施設以外にはなかったのだ。


そして、そこで和と出会った。


和は両親の顔を知らない。


生まれた時に、施設の玄関に置き去りにされていたと聞いた。


それを話す本人はいたって淡々としていて、まるで他人の事を話しているようだった。


和は大人びた子供で、しっかりしていて何でも出来る子だったけど、そんな和に、おれはすごく違和感があった。



和は甘える事を知らない子供だったんだ。


いつも周りの状況を見て、今自分が何をするべきかを考えていて
周りの子供が先生やボランティアの人たちに甘えている時も、それを冷ややかに見ていたのを覚えてる。


おれはというと、人見知りが激しくて施設に預けられた頃は誰とも話すことが出来なかった。


いつも部屋の片隅で、みんなが遊んでいるのを見ていた。


だから余計に彼の異質な感じが分かったし、気になったのかもしれない。




和とは歳が近い事もあって、2人部屋で一緒だったんだけど、ずっと話すことができずにいた。


最初に話したのは施設に来て1ヶ月くらい経った頃だ。


おれはまだ誰とも馴染めずに毎晩泣いていた。


誰にも見られないようにベランダに出て、両親に想いを馳せて。


「うぇ・・・・・ひっ・・・く」


ある時、いつものように泣いていると、後ろで物音がした。


驚いて振り返ると、そこには和がいて。


「開けっ放しだと寒いでしょ。ちゃんと閉めて外出て下さい」


「あ・・・ごめんなさ・・・・」



慌てて涙を拭って窓へと近づいたおれを、和がじっと見ていた。


「・・・・・なに?」


「・・・・毎日そんなに泣いて、よく涙涸れないなぁと思って。あ、あと外に出る時はもう少し着込んだ方が良いよ。
いっつもそんな格好で外出て、そのうち風邪ひきますよ」


「え・・・?」


はじめて気付いた。


和はずっと見てたんだ、おれが泣いてるところを。


「あ、ねぇ。おれね、あいばまさきって言うの」



「・・・知ってますよ。同じ部屋でしょ?」


「あ、そっか・・・・。えっとね、あのね・・・」



何か言いたいことがあったわけじゃない。


でも、何か言わなければと思っていた。


「あの・・・・おやすみなさい」


結局言えたのはそれだけ。


「・・・おやすみなさい」


和はそう言うと部屋へ戻ってしまった。


遅れて部屋に戻ると、和はもう寝ていた。


和を意識して、なかなか眠りにつけなかったのを覚えている。



そしてその翌日、おれは見事に風邪を引いたのだ。


その日は年に一度の施設の人たちみんなで旅行に出かける日だった。


おれはどうしても体調が悪いと言い出せなくて。


みんな楽しみにしてるのに、その雰囲気を壊せないし、第一言い出す勇気もなかった。


バスだし、寝てれば何とかなるだろうと思っていたんだ。


本当は立っているのも辛かったのだけれど。


いざ出発という時。


「すいません、僕体調がすぐれないんで留守番してても良いですか?」


和だった。


心配して、残るという先生たちに和はひと言


「先生が1人でも残っちゃうとそちらが大変でしょ?相葉君に残ってもらいます。
さっき頼んだんです。同じ部屋だし、看病してもらうように。ね、相葉君?」


「え・・・・?」


状況が飲み込めていないおれは答えることが出来なかった。


先生たちは和の体調と、幼いおれ達だけを残すことを渋っていたが、和が上手く説得をして(丸め込んだのが正しいのかな?)
なんとか納得し、出かけていった。


今思うと、子供だけを残していくなんてありえない事だ。


それが通ってしまうほど、和は大人のような子供だった。


玄関先でみんなを見送ったあと、おれはその場に座り込んでしまった。


かなりのところまで熱が上がっていて。


「無理するからだよ。大丈夫?」


和が話しかけてきた。


「か、和也君こそ・・・・だいじょうぶなのぉ?体調悪いんでしょ?寝てたほうが良いよぉ・・・」



ボーっとする頭で、和の心配をするおれを呆れたように見た。


「・・・・寝たほうが良いのはあなたのほうだと思うよ?ほら、立てる?」


部屋に行こうと、手を引っ張られた。


「え?だって、体調悪いって・・・?」


「・・・・あなたが言い出せそうになかったから・・・・」


「もしかして、おれのために・・・?」


嘘ついて、残れるようにしてくれたの?


「・・・・寝てて。薬探してくる」


おれの質問には答えずに、おれを布団に寝かし、和は出て行った。


これがおれと和が始めて2人きりで過ごした最初の時間。



和が俳優を目指すようになるよりも、おれが料理人を目指すようになるよりも、前のはなし。




おわり


2人の記念日




今日は、施設の月に1度の誕生日会の日。


その月に生まれた子供たちを一斉にお祝いするのだ。


食堂中を飾り付けして、大きな垂れ幕に「お誕生日おめでとう」の文字。


誰もがウキウキした表情で作業を楽しんでいる。


お祭りごとの大好きな雅紀も、当然張り切っていた。


その中で和也は1人冷静に作業をしていたけれど。



「くふふ、楽しいね。おれも早く誕生日になんないかなぁ?」



和也の隣で終始ご機嫌に折り紙の輪を繋げていた雅紀が、その輪を眺めながら楽しそうに言う。


雅紀が施設に来て半年が経ち、周りとも随分と打ち解けていた。


和也とは、雅紀が熱を出し、2人で留守番をする事になったあの日以来、日に日に仲良くなり、今ではいつでも一緒にいるほどだった。


和也は、雅紀と一緒にいるようになって、周りの人間が驚くほど、子供っぽい一面を見せるようになっていた。


おやつを取り合って追いかけっこをしたり(いつも一方的に雅紀が取るのだが)、2人でゲームをして盛り上がりすぎて、先生たちに怒られたり。


ここまでの著しい変化は、やはり雅紀の影響だろう。


他の人間には相変わらずだが。


折り紙の輪を掲げて嬉しそうにしている雅紀に和也は微笑んだ。


自分の誕生日の事でも考えているのだろう。


「・・・・いつなんですか?誕生日」



そういえば、出会って半年近く経つのに、和也は雅紀の誕生日を聞いたことがなかった。


今まで、人の誕生日なんて興味もなかったし、どうでも良かったから、聞くなんて事自体が頭の中になかったのだ。


でも、雅紀の誕生日は知りたいと思う。


何故なんだろうか?


自分でも分からないけれど。


自分の事が分からないなんて、今までなかったのに。


雅紀と出会ってからの自分は、自分じゃないみたいで、戸惑ってばかりだ。


その戸惑いを気付かれないよう、目線を手元のティッシュで作った花に向けた。



「んーとね、12月24日!クリスマスイヴなの!!だからね、すぐにみんなに忘れられちゃうんだよぉ・・・」



そう言って頬を膨らませた雅紀に和也は苦笑した。



「じゃあ・・・これからは俺がしっかり覚えて、毎年祝ってあげる」



「ほんと!?くふふっ、うれしい!ありがとぉ」



嬉しそうに笑う雅紀に、和也も何故だか嬉しくなった。


この頃かもしれない。


この笑顔を絶対に守りたいと思うようになったのは。


「あ!じゃあ、和の誕生日はおれが祝うからね!和の誕生日はいつ?」



無邪気に聞いてくる雅紀に、和也は困った顔をした。



「・・・・ありません」



「え?」



「俺、生まれてすぐにココの門の前に置き去りにされてるから、正確な生まれた日は分からないんです。だから、誕生日はないんです。」


和也は数えで歳を重ねてきたのだ。



「あ・・・ごめん」



まずい事を聞いたと、雅紀の表情が曇る。



「別に。気にしてないから。」



実際、先生たちも気を使ってくれて、誕生日会自体を止めようなんて案まで出たけど、和也は一向に気にしてなかった。


自分が誕生した事を祝ってくれる人なんていなかったし、欲しいとも思わなかった。



「そうだ!ねぇ。誕生日つくろう!!」



「は?」



あまりの唐突な発言に、和也の動きが止まった。



「だからね、和の誕生日つくろ?」



「作るって・・・・そんなこと・・・」



考えた事もなかった。


誕生日なんて生まれたときに与えられるもので、作るものなんて思ってなかったから。


「だって、おれの誕生日は毎年和が祝ってくれるんでしょ?おれだってお返ししたい。和の誕生日、祝いたい」



まっすぐに雅紀に見つめられて、和也は困惑する。


嫌なわけじゃない。


むしろ嬉しすぎて、どう表現してよいのか分からなかっただけで。



「・・・作っていいのかな?」



「いいに決まってるよぉ!だって、特別な日だよ?和が生まれたことに感謝する日なの!だから、おれたちで作って、お祝いするの!」



「俺が生まれたことに感謝・・・?」



「そう!おれね・・・お父さんとお母さんが死んじゃって、悲しくて悲しくて毎晩泣いてたでしょ?でもね、今は和がいてくれて寂しくないの。
和がいなかったら、おれは今でもずっと泣いてるかもしれない。だから、もしかしたら神様が、2人の代わりに和をおれにくれたんじゃないかって、思うんだ。
和は嫌かもしれないけど、おれはそう思ってるの」



「・・まさき」



「だから、感謝したいの!和がこの世に・・・生まれてきてくれたこと。感謝して、一緒に祝いたい。その記念日だもん、作っていいの!!」



そう言って、雅紀は和也の手を握り締めた。


手に持っていた、和也のティッシュの花も、雅紀の輪っかもぐしゃぐしゃだったけれど。



「じゃあ・・・作って下さい。雅紀が俺の誕生日を。そして、これからもずっと祝って下さい」



「うんっ!!ずっとね。約束だからね?」


満面の笑みで雅紀が小指を差し出した。


和也がそれに自分の小指を絡め、揺らす。



「そうと決まれば、いつにしよう?」



雅紀はキラキラした目で考え始めた。



「んふふ。いつでもいいよ。雅紀が決めて?」



「うーん・・・・。あっ!じゃあさ、今日にしよう?」



「今日?またえらく唐突だね・・・」



「だって!和がおれの誕生日を祝ってくれるって約束してくれたのが今日。おれが和の誕生日を祝いたいって思ったのも今日。
・・・・和が誕生日を作りたいって思ったのも今日。特別な日だもん。今日がいい!!」



「特別な日・・・」



「そう!2人で決めた特別な日。それが和の誕生日!!」



「・・・まさき・・・ありがとう」


和也は、得体の知れない何かが胸にこみ上げてくるのを感じていた。



「ちょっ!かずっ!?どうしたの?どっか痛いの?気分悪いの?」


雅紀が突然慌てだした。



「え?」



「だって・・・泣いてる・・・・先生呼んでこようか?」



そう言って、立ち上がろうとする雅紀の腕を掴んだ。



「いいよ、大丈夫・・・大丈夫だからここに居てよ」



「かず?」



「だって・・・誕生日祝ってくれるんでしょ?」



「・・・うん」



「だったら、ここに居てよ・・・」



これが和也の初めての涙だった。


自分が捨てられたと知った時も、他のみんなが施設を去っていくときも、寂しいなんて思った事もなかったし、泣いた事もない。


悲しくも寂しくもなかったし、嬉しいとも幸せとも思った事はない。


それが和也だった。


なのに・・・・。


雅紀のひと言がこんなにも嬉しい。


雅紀が自分から離れようとする事がこんなにも寂しい。


そう思うと涙が溢れた。


久々に両親に会って、泣きじゃくっていたあの子達はこんな気持ちだったのだろうか?


ただひたすらに、思った。


自分のそばにいて欲しいと。


和也の中で、雅紀の存在がどんどん大きくなっていく。


どうしようもないくらいに膨れ上がる得体の知れないものの正体。


和也はそれに気付き始めていた。



雅紀が涙を流す和也の隣で再び微笑んだ。



「かず・・・お誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」



雅紀の手が和也の涙を拭った。



「まさき・・・」



和也はその手を取り、頬に当てた。


子供同士の戯言と言われるかもしれない。


でも、そんなことは関係ない。


2人の中では確実に大事な記念日なのだ。


君が生まれた事に感謝する日。



6月17日。



この日が和也の誕生日になった。





おわり
おれには好きな人がいる。


その人は、俺と同じグループで一緒に仕事してる人。


いつも嵐のこと、仕事の事を一番に考えている人。


だから、おれの事なんて全然眼中にない感じ。


好きになったきっかけ?


わすれちゃった。


とにかく、気付いた時には大好きだったの!!


誰かって?


えっとね・・・・。


「相葉ちゃん、何やってんの?」


「まっ、松潤!!なんでもないよっ!」


「そ?さっきから呼んでんのに、来ないからさ・・・」


「ごめんっ、考え事してた・・・」


「へぇ。めずらしい事もあるもんだね?」


「もうっ!俺だって考え事くらいするんだよっ」


「あはは、ごめん。撮影始まるから支度しな?」


「はぁい・・・」


後ろ姿を見つめてため息を吐く。


今のがね、俺の好きな人・・・松本潤。


今だって、松潤のこと考えてたら急に話しかけてくるから心臓止まるかと思った。



告白?


むりむり!!


だって、おれ男だよ?しかも仕事仲間・・・。


絶対むりだもん・・・。


いつもなら、思い立ったら即実行がおれの持ち味?なんだけど・・・・。


断られたら、おれ立ち直れないし、その後普通に接する事も出来なくなっちゃうよ・・・。


だから、今みたいに冗談言い合えて、楽しく仕事して、信頼できる仲間でいいんだ・・・なんて。


でもね?


俺の気持ち、知って欲しいって言うのも、もちろんあるんだ。


今まで誰にも言ってない気持ち。


でも、直接言う勇気は全くなくて・・・。


だから、ちょっとだけ出した勇気で、おれは手紙を書いた。



当たり前の話だけど、松潤はすっごい人気者でしょ?


だから、ファンレターもいっぱいもらってる。


勇気のない俺は、その中に自分の気持ちを紛れ込ませた。


きっとおれとは気付かないだろうけど、でも目は通してくれる。


ファンの子の1人としてしか、認識されないかもしれないけど、その気持ちは彼に一応届くでしょ?


全然意味ないじゃんって思ったでしょ?


おれだって思うもん。


だけどね、それでもちょっとだけ心が落ち着いたんだ。


自己満足ってやつだけど。


おれって、こんなに乙女チックだったんだなって、思うよ。


少しでもおれの気持ちが彼に届きますように・・・。



*****


手紙を出してから何日か後、楽屋でにのとゲームしてたら、他の仕事で遅れてた松潤が
突然おれのところまで来ると目の前に立ちはだかった。


「松潤?・・・どうしたの?」


なんか不機嫌そう・・・。


「ちょっと、潤君!!画面見えないんですけど!」


にのが顔をしかめた。



そんなにのに、目を向けることなく松潤は無言でおれを見ていた。


「・・・あの・・・・うわっ」


突然腕を掴まれて立たされると、そのまま楽屋の外へと引っ張り出される。


「ちょっ!相葉さんっ!?潤君!?」


にのが慌てた声を出してるけど、松潤はやっぱり見向きもしなかった。


なに、なに、なに!?


おれ、なんかした?


人目につかないところまで来ると、壁に追い込まれ、ようやく離された。


掴まれた腕が痛い・・・。


松潤は何も言わない。


「松潤?どうし・・・」


「お前さ・・・ふざけてんの?」


「え?」


松潤の顔、すっごい怖い・・・怒ってる・・・でも、なんで?


なんの事だか分からないおれは、ただ松潤を見つめる事しかできなかった。


「・・・何か言えよ」


普段よりも低い声。


「あの・・・おれ、なんかしたのかな?」


「・・・・からかってんの?ふざけんなっ!!」


松潤が壁を思いっきり叩いた。


こわいっ!!


おれは思わず目をつぶった。


「なぁ?何で?」


落ち着いた松潤の声に目を開けたら、思ったよりも顔が近くて、おれの心臓は爆発しそうに高鳴った。


でも、松潤の顔が悲しそうで・・・・。


「まつじゅん・・・・?」


「何であんな事すんの?嫌がらせ?俺の事、そんなに嫌いなわけ?」


「えっ!」


何言ってんの!?


おれは松潤のことが好きなのに、どうして嫌いなんて・・・・。



「そんならさぁ、口で言ってくんない?なにもあんなやり方しなくてもいいじゃん・・・」


下を向いてしまった松潤。


こんな時、自分の頭の悪さを本当に憎いと思う。


おれは一体何をして、こんなにも彼を傷つけたのだろうか・・・。



「まつじゅん・・・ごめんね?よく分かんないけど・・・おれ松潤を傷つけたんだね?
ごめんね。でも、松潤のこと・・・・嫌いじゃないよ・・・」



だって、大好きなんだ。



「・・・じゃあさ、コレ・・・何?」


そう言って松潤がおれの前に差し出したのは・・・・おれの出した手紙!!


「なっ、なんで!?」


おれは咄嗟に手紙を奪い取った。


ブルーの封筒に、宛名は「松本 潤様」。


恐る恐る松潤を見ると、すっごい悲しそうな顔・・・。



「それ・・・相葉ちゃんの字だよな?」



「え・・・?」



なんで分かったの?



「俺宛で良いんだよな?」



「う、うん・・・」



「それのどこがふざけてないんだよ?ふざけてないとしたら、やっぱ嫌がらせ?」



「ちがうよ・・・」



どうしよう・・・・もうこうなったら、本当の気持ち言っちゃおうかな?


「あのね・・・」



「もう・・・いいわ」



「え?松潤?」



「ちょっとさ・・・しばらく相葉ちゃんとは話したくない」


そう言っておれから離れて歩き出そうとする。


おれは焦って松潤の腕にしがみついた。


「ちょっと待って!違うの。ホントに松潤のことが嫌いなわけじゃないの!っていうか、好きなの!!」



「え?」



松潤の動きが止まった。



「え?」



おれの動きも止まった。


ああっ!!お、おれ今なに言った?どさくさに紛れて、言っちゃったよね!?


「あ、あのね、違うの!違わないけど、違くて・・・・ああ!」


もう逃げ出したい!!


その場に座り込んで顔を隠した。


だって、恥ずかしい・・・もうおれダメだぁ。


「相葉ちゃん・・・本気なの?」


頭の上から松潤の驚いたような声。


もうどうにでもなれ!!


「ほんき!!」



「じゃあ・・・あの手紙も?」



「おれが書いて、出しました!!」



「・・・・」



松潤が黙っちゃった。


沈黙が怖い・・・・拒絶されたら、ホントに立ち直れない・・・。



「・・・相葉ちゃん、顔上げて?」



「・・・・いや」



「どうして?」



「恥ずかしいんだよっ!」



そして怖いんだよ、あなたの反応が!!



どうしても顔が上げられないおれの耳に松潤のため息が聞えた。



こわい、こわいよ・・・。



「・・・俺も相葉ちゃんの事好きだよ?だから顔、上げて?」



「わかってるよっ!どうせおれの事なんてすきだって・・・!え?す、すき!?」


今、好きって言った!?



うそ!?


びっくりして顔を上げると、またまたすごい近くに松潤の顔。



「聞いてた?俺も好きって言ったんだよ?」



「・・・うそ」



「嘘じゃねぇよ」



「だって・・・だって、だって!そんなのありえないもん!」



「現にあり得てんじゃん」



「だって・・・・おれ男だし」



「俺だって男だよ?」



「そうだけど・・・松潤モテるし、他に好きな人がいてもおかしくないし・・・」




「俺・・・、相葉ちゃんはニノの事が好きなんだと思ってた。」


「にの?にのは好きだけど、松潤とはちがうよ・・・」


「うん。でも、そう思ってたから、手紙見つけた時はびっくりして・・・。
もしかして俺の気持ちがバレて、嫌がらせされてんのかと思ってさ。そしたら、もう腹立って・・・」


「そ、そんな事しないよ!おれは・・・松潤が大好きで、でもそんな事言って嫌われたくないし・・・
でも、自分の気持ちがあふれ出しちゃいそうで。だから、ほんの少しでも、おれだって分からなくても良いから、気持ちを伝えたくて・・・」


ああ、だめだ。


涙が出そう。


松潤がおれの頬を撫でた。


その優しい仕草に耐え切れず、涙が流れた。


「その涙は、うれし涙だよな?」


「うん・・・。うん・・・・うぇ」


もうだめだぁ、止まんないよぉ・・・。


「うれし涙なら大歓迎だけど、そろそろ泣き止まないと顔が腫れるよ?」


「うっ・・・だってぇ・・・」


「しょうがねぇなぁ・・・」


そう言って、おれの頬に口付けて涙を拭ってくれた。


最後に唇にちゅっとしてくれたのが、本当にうれしくて。



「夢みたい・・・」


「現実だよ」


「うん・・・松潤だいすき」


「俺も・・・相葉ちゃんが好きだよ」


「えへへ・・・うれしい!!」



そう言って笑うと、松潤がぎゅってしてくれた。



幸せだなぁ・・・。



昨日までのおれがうそみたい。


好きな人のひと言でこんなにも世界が変わるんだ。


でもさ・・・松潤ってば、よくおれの手紙分かったと思わない?


気になったから本人に聞いてみた。


そしたらね・・・・。


「相葉ちゃんの字が分からないわけないじゃん」だって!!


もう、おれってば愛されちゃってるみたい!!


え?手紙になんて書いたかって?


ないしょ!!


ごめんね?でも、おれと松潤のひみつ。


くふふ・・・松潤だいすき!!


これからもずっと一緒にいてね?





おわり
1 あなたの名前を教えてください
相:相葉雅紀でっす!
二:二宮和也です


2 年齢は?
相:24歳です!
二:23・・・もうすぐ24になります。
相:くふふ、同い年!!


3 性別は?
相:どっから見てもおとこ!
二:男です


4 貴方の性格は?
相:んー、よく明るいとか、朗らかって言われるけど。
二:どうですかね?自分じゃ分かりません。


5 相手の性格は?
相:かっこいい!!
二:んふふ、それ性格じゃないでしょ?
相:あ、そっか。えーっとね、やさしくて、でも意地悪で、でもやっぱりやさしい!!
二:彼はね・・・可愛いかな?
相:あーっ!それも性格と違わない?
二:そう?でも本当のあんたの性格なんて、俺が知ってればいいでしょ?


6 二人の出会いはいつ?どこで?
相:いつだっけ?おれが13くらいの時だから・・・11年くらい前かなぁ?稽古場だよね?
二:稽古場ですね。相葉さんの入所が96年の8月15日でしょ?初日に会ってるよ。
相:よく覚えてんね?
二:んふふ・・・。


7 相手の第一印象は?
相:なんか、1人だけやる気なさそうな感じだったね。ちっちゃい子が拗ねてるって思った。
二:・・・。相葉さんは・・・ジャニーズって女の子入れたっけ?って思いました。すぐに男だって分かったけど。
その後も隅っこでオドオドしてて、小動物が怯えてるみたいでした。それが妙に可愛くて、しばらく見てた。
相:なんだよ、それぇ。


8 相手のどんなところが好き?
相:かっこ良くて、可愛くて、おれの事すきって言ってくれるとこ!!
二:俺の事を疑うことなく信じてくれてるところかな?


9 相手のどんなところが嫌い?
相:たまにね、冷たい・・・。あと、人前でくっつくと怒る。
二: ・・・いろんな意味で自覚が足りない。
相:じかく?
二: ・・・・こういうところね。


10 貴方と相手の相性はいいと思う?
相:良い!!よね?
二:抜群でしょう。


11 相手のことを何て呼んでる?
相:にの!!あとは、かずとか。
二:相葉さん、相葉ちゃん、相葉。
相:むー。名字ばっか・・・。
二:それ以外で呼んだら、耐えられなくなっちゃうでしょ?あんたが。


12 相手に何て呼ばれたい?
相:んー・・・今のまんまで良いかなぁ。耐えられなくなっちゃうから(笑)
二:俺も、今のままで十分です。


13 相手を動物に例えたら何?
相:普段はね、可愛くって犬っぽいけど、時々肉食獣みたいな目をするの!!おれ、よく本物見てるけど、ホントそんな感じ。見つめられると動けなくなんの。
二:相葉さんは相葉さん以外にはなり得ないんだけど、あえて言うならやっぱり、小動物かな・・・つぶらな瞳がね、ハリネズミとか。



14 相手にプレゼントをあげるとしたら何をあげる?
相:なんだろう?にのが欲しいもの!!
二:俺の惜しみない愛情を。


15 プレゼントをもらうとしたら何がほしい?
相:にのの惜しみない愛情を(笑)
二:相葉雅紀の全て。
相:もうあげてるじゃん。
二:まだまだ、足りません。


16 相手に対して不満はある?それはどんなこと?
相:ないよ、にのだもん。
二:んふふ・・・。さっきも言ったけど、もう少し自覚を持って欲しいかな。いろんな意味で。


17 貴方の癖って何?
相:なんだろう・・・・すぐボーっとするとこ?
二:イライラすると爪を噛む。


18 相手の癖って何?
相:んー・・・口の端っこだけをね、上げて笑うの。あれかっこいい!!
二:考え事する時とかに無意識に唇を撫でる。


19 相手のすること(癖など)でされて嫌なことは?
相:よくキャプテンとくっついてる。あんまりひどいとへこむよ、あれ。
二:俺以外の人間と笑ってること。引き剥がしたくなるね。


20 貴方のすること(癖など)で相手が怒ることは何?
相:たまーにね、他の人と話してると怒られる。でも、なんでか分かんない。
二:無自覚フェロモン出して、相手を翻弄してるから・・・こう・・・イラッとね・・・。俺がすることで相葉さんが怒ることはないね。信頼されてますから。


21 二人はどこまでの関係?
相:くふふ・・・そりゃあね!行くとこまでねぇ。
二: ・・・そういう関係です。


22 二人の初デートはどこ?
相:確か、映画館!!
二:ドラえもんです。


23 その時の二人の雰囲気は?
相:もうね、おれ大号泣。顔ぐしゃぐしゃでね、すごかったの。侮れないよね、ドラえもん。
二:俺がいじめたみたいだから泣きやめよって、ずっと慰めてた。
相:甘い雰囲気とは程遠かったね。


24 その時どこまで進んだ?
相:うへへ・・・ホッペにちゅーしてくれた!!
二:あんまり泣き止まないからね。したら、すぐ泣き止んだね。
相:だって、びっくりしたの!嬉しかったけど。


25 よく行くデートスポットは?
相:お互いの家かなぁ。だって、ひきこもり!!
二:たまには、あんたにも付き合ってるでしょ?


26 相手の誕生日。どう演出する?
相:とにかく、にののして欲しい事をいっぱいしてあげる!
二:何でも?
相:なんでも!!
二:んふふ。俺はね、思いっきり甘やかすかな。この子、甘えただから。俺にはね。


27 告白はどちらから?
相:おれから!!超緊張したよ。
二:結果的にはね、そうなんだけど・・・まぁ、俺が言わせたっていう方が正しいかな?


28 相手のことを、どれくらい好き?
相:どれくらい・・・・宇宙一!!
二:この世の全てを捨てても惜しくないくらいには。


29 では、愛してる?
相:もちろん愛してるよぅvv
二:俺も、愛してます。


30 言われると弱い相手の一言は?
相:えっとね・・・「あんたは俺のもんでしょ?」って言われると、だめ。
二:じっと俺の顔見て「にのすき」って言われると、どうにかなりそうになります。


31 相手に浮気の疑惑が! どうする?
相:怖いけど、思い切って聞くかなぁ?
二:ありえないでしょ?こいつが俺以外となんて。もちろん逆もありえないし。


32 浮気を許せる?
相:許せない!!けど・・・にのだもん。別れたくないし、許しちゃうかも。だって、きっと俺が悪い。
二:だから、ありえないから。考える必要もありません。


33 相手がデートに1時間遅れた! どうする?
相:家まで行くよ。だって、絶対寝てるもん。
二:んー・・・その日は俺の言いなりですかね。


34 相手の身体の一部で一番好きなのはどこ?
相:ほっぺた!!やわらかくって、気持ちいいの。ふにふにするのがだいすき!
二:やっぱり・・・唇ですかね。すっごく厭らしくって気持ち良いから。
相:なんだよぉ・・・それぇ。


35 相手の色っぽい仕種ってどんなの?
相:さっきも言ったけど、口のね、端っこだけを上げて笑うの!あれはやばい。くらっときちゃう。
二:話してる時に、唇を舐めること。誘ってんの?って思う。


36 二人でいてドキっとするのはどんな時?
相:真顔で「相葉」って呼ばれるとき。心臓が飛び出そうになる。
二:涙目で見つめてくる時。いてもたってもいられなくなる。


37 相手に嘘をつける? 嘘はうまい?
相:つけない。ついてもすぐにばれるから。
二:嘘はうまいと思いますよ?でも、相葉さんが傷つくような嘘はつきません。


38何をしている時が一番幸せ?
相:朝起きた時に、にのが隣で寝てる時。寝顔見てるともう・・・うわぁってなる。
二:あんた・・・そんな事してんの?俺はね、ベッドで相葉さんの髪の毛触ってる時。俺のもんだなって思うから。
相:にのだって、なにしてんだよぉ・・・。


39 ケンカをしたことがある?
相:ケンカ・・・あるかなぁ?言い争いみたいなのはあるけど。
二:本気でする喧嘩はないんじゃない?


40 どんなケンカをするの?
相:おれは一方的に喚き散らしてるね。
二:それを聞いてます。違うと思ったら、反論を所々に入れるけど。


41 どうやって仲直りするの?
相:喚いて、気が済んだら終わりみたいな感じかな?
二:彼の言い分を一通り聞いて「あんたの言うとおりだね」って。そうすると、たいてい「言い過ぎてごめんなさい」って返ってきて終わり。


42 生まれ変わっても恋人になりたい?
相:絶対ね!!
二:なりたいじゃなくて、なるでしょう。


43 「愛されているなぁ」と感じるのはどんな時?
相:んーっとね、困った顔で「しょうがないね相葉さんは・・・おいで」って言って、頭撫でてくれる時!ふにゃぁってなる!
二:「にのぉ~」って甘えた声で寄ってくる時。


44 「もしかして愛されてないんじゃ・・・」と感じるのはどんな時?
相:仕事の時にね、おれがくっつくと怒るのに、自分はキャプテンにくっついてんの!それってどうなのって思う。
二:他のヤツに笑顔向けて話した後、同じ顔して俺のところに来た時。全身の血が沸騰するような感じがする。


45 貴方の愛の表現方法はどんなの?
相:名前をいっぱい呼ぶ!!そんで、ぎゅうって抱きつくの。
二:駄目な時はダメって言うけど、相葉さんが甘えたい時には、とにかく甘やかす。


46 もし死ぬなら相手より先がいい? 後がいい?
相:えーっ!考えたくないけど・・・先かなぁ?だって、にののいない世界に生きられないもん、おれ。
二:彼を残して逝くなんて、心配すぎて死んでも死に切れない。だから、彼の全てを見届けた後に逝きます。


47 二人の間に隠し事はある?
相:ない!!
二:んふふ・・・バレてまずい事はありません。


48 貴方のコンプレックスは何?
相:人によく、色気がないって言われる。
二:人の言う事なんか気にしなくていいです。色気は俺だけに見せなさい。
相:はぁい!
二:俺はね・・・純粋な心かな?できるもんなら欲しいですね。


49 二人の仲は周りの人に公認? 極秘?
相:周りの人・・・メンバーは知ってるよね?
二:むしろ、もうちょっと隠せって言われてます。


50 二人の愛は永遠だと思う?
相:永遠!!
二:未来永劫変わりません。


51 貴方は受け? 攻め?
相:うけ?せめ?
二:んふふ、エッチする時どっちって聞かれてんだよ。受ける方か、そうでないのか。
相:そっか。俺は受けるほう!!
二:そういうことです。


52 どうしてそう決まったの?
相:どうしてって・・・自然に?気が付いたらにのが上にいた。
二:この人に攻められるなんて、まっぴらですから。


53 その状態に満足してる?
相:うん、してる。だって、下から見たにのかっこいいもん。あ、どっから見てもかっこいいけど!
二:もちろん満足してますよ。最高ですから、この人。


54 初エッチはどこで?
相:ホテル!!海辺のねトコでね・・・くふふ。
二:まぁ、最初くらいはね。奮発しましたよ。


55 その時の感想を・・・・
相:痛くて、辛かったけど・・・・すっごい嬉しかった。だって、にのが俺のものになってくれたんだもん。
二:今までの人生の中で一番緊張したし、とにかく嬉しかったですね。この人、必死で俺を受け入れようとしてくれてたから。
相:えへへ・・・。


56 その時、相手はどんな様子でした?
相:すっごい優しくて、男らしかった!!
二:涙流して痛みに耐えてて、それがまた艶っぽかった。


57 初夜の朝、最初の言葉は?
相:すっごいね、とろけそうな声で「おはよう」って言ってね、ちゅうしてくれた。
二:相葉さんが起きるだいぶ前に目が覚めて。ずっと髪の毛撫でながら寝顔見てた。可愛いなぁって。そしたら目覚ましたから、おはようってね。
相:ええ!ずっと見てたの?恥ずかしい・・・。


58 エッチは週に何回くらいする?
相:どう?3回くらいかなぁ?
二:まぁ・・・そのくらいですかね?


59 理想は週に何回?
相:今のままでも十分だけど・・・・。えっちは別で、毎日いちゃいちゃしたい!
二:多からず、少なからずで。適度が一番ですから。でも、相葉さんが望むならお応えできる用意はいくらでもあります(笑)


60 どんなエッチなの?
相:どんな・・・・?ふつう?っていうか、普通がわかんない。
二:俺たちなりの愛情こもったやつって事で良いんじゃない?
相:そっか!愛情たっぷりのえっちです!!


61 自分が一番感じるのはどこ?
相:んー・・・首のね・・・あごと首のライン辺りかな?
二:相葉だけが知ってればいい事なんで。


62 相手が一番感じているのはどこ?
相:えー、どこだろう・・・?いっつも夢中で分かんない。
二:どこもかしこもですけど・・・まぁ、俺だけが知ってればいい事ですから。


63 エッチの時の相手を一言で言うと?
相:かっこいい!!あ、でも時々すっごい意地悪!
二:綺麗で妖艶。適度に淫乱。


64 エッチははっきり言って好き? 嫌い?
相:すきっ!!
二:あんた・・・そんなはっきりと・・・。
相:にのは嫌いなの?
二:好きですよ。だって、あんたが相手だもん。
相:えへへ・・・。


65 普段どんなシチュエーションでエッチするの?
相:あんまりこだわらないけど、にのが時々ごねるよね?
二:あんただって、嫌いじゃないくせに。
相:まぁね・・・。


66 やってみたいシチュエーションは?(場所、時間、コスチューム等)
相:特にないけど・・・なんかある?
二:んふふ、それなりに。言ったらやってくれる?
相:・・・考えさせて。


67 シャワーはエッチの前? 後?
相:その時によるかな?でも、後のほうが多いよね?
二:そうだね。でもあんた、そのまま寝ちゃう時もあるでしょ?
相:そういう時はにのがね・・・色々やってくれますっvv


68 エッチの時の二人の約束ってある?
相:コレはね!あります。
二:最後はね・・・・。
相:必ず相手の顔を見て!!


69 相手以外とエッチしたことはある?
相: ・・・ないよ。にのが最初で最後。
二:んふふ。そうであって欲しいですね。俺も相葉さんだけって事で。
相:何か引っかかる言い方じゃない?
二:そんなことないですよ?
相:むー・・・。


70 「心が得られないなら身体だけでも」という考えについて。賛成? 反対?
相:・・・良くないよね?少なくともおれは無理。心も身体も愛したいし、愛して欲しい。
二:気持ちが分からないではないですけど・・・虚しいだけですよね。やっぱり。


71 相手が悪者に強姦されてしまいました! どうする?
相:えーっ!想像できないけど・・・見つけたなら助けるよ。
二:考えたくもない・・・誰だよこんな質問考えたヤツ。まぁ、答えるなら・・・次の日にはそいつはこの世にいないでしょうね。


72 エッチの前と後、より恥ずかしいのはどっち?
相:前かなぁ。途中からワケわかんなくなっちゃうし、後はね、ふにゃふにゃしてごろごろするから。
二:んふふ、何だよふにゃふにゃゴロゴロって。俺はどっちも平気かな。


73 親友が「今夜だけ、寂しいから・・・」とエッチを求めてきました。どうする?
相:無理!おれにはにのがいるもん!それに、その後のこと考えたらその人のためになんないでしょ?
二:ないですね。他の人に頼んでって感じです。


74 自分はエッチが巧いと思う?
相:自分じゃわかんないよ。にのに聞いて!
二:まぁ、少なくとも相葉さんを厭きさせないくらいには。


75 相手はエッチが巧い?
相:にのだから。ねぇ?
二:相葉さんですから。この人最高だもん。


76 エッチ中に相手に言ってほしい言葉は?
相:名前呼んで、すきって言ってほしい。
二:素直に感じてくれれば。


77 エッチ中に相手が見せる顔で好きな顔はどんなの?
相:言うのぉ・・・おれの中にね、にのが入ってきて・・・・全部収まった時の顔。ちょっと苦しそうに眉毛を寄せるの。もう、どうしていいか分かんなくなるくらい、かっこいい・・・。
二:目に涙いっぱい溜めて、もっとって訴えてくる時の顔。たまんない。


78 恋人以外ともエッチしてもいいと思う?
相:絶対だめぇ・・・。
二:ちょっと、何泣きそうになってんの?しないよそんなこと。俺、あんた以外に興味ないから。


79 SMとかに興味はある?
相:興味はなくはないけど・・・痛いのはいや。
二:相葉さん次第だね。でも精神ドMですから、この人。


80 突然相手が身体を求めてこなくなったらどうする?
相:不安になっちゃうから、聞く。
二:まず理由を聞きますね。納得できればそれで。身体だけが目当てじゃないですから。


81 強姦をどう思いますか?
相:絶対だめ!!
二:犯罪ですからね。


82 エッチでツライのは何?
相:辛い事なんてなんにもないよ。だって、身体が辛いのだって、にのからだと思えば幸せだもん。
二:あんたはホントに・・・俺は相葉さんが辛そうだと辛い。


83 今までエッチした場所で一番スリリングだったのはどこ?
相:やっぱり楽屋かなぁ・・・いつ誰が入ってくるか分かんなくて、ホントどきどきした。
二:でも、すっごい感じてたよね?
相:もう!そんなことないもん!
二:んふふ。


84 受けの側からエッチに誘ったことはある?
相:そりゃぁね、男ですから。そういう時もありますよ!
二:この人ね、目で訴えてくんの。


85 その時の攻めの反応は?
二:男らしくね、いただきました。
相:いただかれました(笑)


86 攻めが強姦したことはある?
二:ないね。あくまで合意の上です。
相:気分がのらないことはあるけど。


87 その時の受けの反応は?
相:最初はね、いやって言うんだけど・・・途中から・・・ほら・・・ね、相手にのだし・・・。
二:結局、合意の上になるんです。


88 「エッチの相手にするなら・・・」という理想像はある?
相:考えた事ないなぁ。だって、にのだから。
二:俺もありません。相葉だからね。


89 相手は理想にかなってる?
相:もちろん!!
二:理想そのものです。


90 エッチに小道具を使う?
相:使ったことないよね?
二:・・・・まぁ。
相:なに?今の間。
二:いえ、別に・・・。


91 貴方の「はじめて」は何歳の時?
相:おれが16のとき。
二:俺が15だったね。


92 それは今の相手?
相:にのです!
二:はい、そうです。


93 どこにキスされるのが一番好き?
相:んとね・・・おでこにね、ちゅってされるの。すごく安心する。
二:唇。だってこの人の唇、気持ち良いもん。


94 どこにキスするのが一番好き?
相:くちびる!!恋人ですから。
二:唇。気持ち良いから。


95 エッチ中に相手が一番喜ぶことは何?
相:積極的に動く。してほしいことをちゃんと言う。
二:顔見て「すきだよ」って言いながら突く。


96 エッチの時、何を考えてる?
相:にののこと。かっこいいなぁとか、今の顔色っぽいとか。でも、途中からはわけが分からなくなって、なんにも考えられなくなる。
二:如何に相葉さんを悦ばせられるか。


97 一晩に何回くらいやる?
相:2・3回くらい?
二:平均そのくらいかな。俺はもう少しいけるけど相手あっての事ですから。


98 エッチの時、服は自分で脱ぐ? 脱がせてもらう?
相:ある程度までは自分で脱ぐけど・・・やっぱり恥ずかしいよね。
二:この人、自分で全部脱ぎそうでしょ?でもね・・・意外と2人だと恥ずかしがり屋さんなのよ。
相:うー・・・にのが見てると思うとだめなの!


99 貴方にとってエッチとは?
相:大好きな人との愛情かくにん!
二:愛情を伝える手段の一つ。どうしようもないくらい湧き上がってくる愛を表すカタチ。


100 相手に一言どうぞ
相:にの、だいすき!!ずーっと一緒にいてね?
二:んふふ。愛してますよ。俺の方こそ、絶対に離しませんから。覚悟して下さいね。
初めて相葉に出会ったとき、天使が舞い降りたと思った。


黒目がちの大きな目と、さらさらの髪の毛。
笑った顔はこの世のものとは思えないくらいに綺麗で。
背中に羽根が見えたような気さえした。
その時の頭を殴られたような衝撃を今でも忘れる事ができない。



最初の頃、人見知りの激しい彼は誰とも話すことなく、稽古場の隅っこにいた。
1人、じっと前を見つめていた彼は本当に綺麗で神聖なもののように思えて。


誰もが彼を気にしていたし、話したいと思っていたが、そのあまりにも近寄りがたい風貌に、皆話しかけることすらできずにいた。


俺は、とにかく大勢の中の1人にはなりたくなくて、決死の覚悟で話しかけた。
最初は戸惑っているようだった彼も、レッスンが終わる頃にはすっかり俺に懐いてくれて。


話してみると、驚くほどに素直で純粋な人だった。
本当に何の穢れも知らない天使のようで。
俺の心は有無を言わさず彼へと向かっていったのだ。


気がついた時には後戻りできないくらいに彼に惚れていた。


実際の相葉は人懐こく、時が経つにつれ周りに慣れてくると、誰にでも笑顔を見せるようになった。
そんな相葉にたくさんの人が魅了されて、相葉の周りは常に人が集まるようになっていったのは言うまでもない。


その頃からだ。
俺の心にどす黒い感情が生まれたのは。


俺が最初に見つけたのに。


どうして他の人にも笑いかけるの?


俺だけ見てよ。


相葉が自分のものになった時は本当に嬉しくて、この世の幸せ全てを手に入れたと思った。


しかし、それによって気付かされた、自分の恐ろしい嫉妬心。
とにかく彼が他の人間と話すだけでも許せないほどに。


自分の醜さを思い知らされ、驚愕した。


純真な相葉と、歪んだ自分。


何とか上手くやって来られたのは、彼が自分を好きだと言ってくれるから。


しかし、いつも心には不安があった。
こんな醜い自分に、いつか彼の想いが離れてしまわないかと。



その時、自分はどうなってしまうのかと・・・。



*****


「あ~、つまんない。松潤、おれつまんない。なんか楽しいことない?」


「何?唐突に。どうしたの?」


突然の相葉の発言に、今まで見ていた台本から目を離し、松本は発言者を見た。
発言者は頬を膨らませて松本を見ている。

それが24の男の顔かと、突っ込みたくなるのを我慢して松本は相葉の言葉を待った。


「うー、だってつまんないんだもん!暇なの!」


暇と聞いて松本は納得が行った。


「何だよ。ニノに相手してもらえないのが寂しいのかよ?」


どうやらニノがドラマの撮影に入った事で、なかなか相手にしてもらえないのが、原因のようだ。
意地悪そうに言う松本に、相葉の眉間が寄った。


「うるさい。ばか潤。とにかく暇なんだよ!ってことで、俺に付き合いなさい」


「は?何で俺が。他のヤツ誘えよ」


俺は命が惜しいんだよと、断る松本の意図が掴めない相葉は更に顔をしかめる。


「むー。もういいもん、ばか本潤!!」


そう捨て台詞を残して松本から離れていった相葉に松本は文句を言う。


「人の名前で遊ぶな!」


べぇ!!


振り返った相葉がしたのは、久しく見ていないあっかんべー。
本当にあれがハタチ超えた男のすることかと、松本は去っていった相葉を見ながらため息を吐いた。


出会った頃から、良い意味でも悪い意味でも変わらない相葉。
その要因の大部分は二宮だろうと、松本は思う。

常に相葉に寄り添い、いつも相葉を穢すものから守っていた。
だからこそ、あんなに純粋で綺麗なままでいられるのだろう。

それが、良い事なのか悪い事なのかは・・・分からないが。


二宮は過保護すぎるし、相葉は無垢すぎる。


それが変な方向に向かなければ良いと、常々松本は思っていた。



*****


「おはようございまーす」


連日のドラマ撮影で寝不足気味の二宮は、低いテンションで現場へとやって来た。

今日は嵐のレギュラー番組の収録だが、とにかく眠い。
隙あらば寝たい、そんな気分だ。

今回のドラマは櫻井と一緒のため、それなりに気も楽だし、子供たちも可愛いし、楽しい現場だ。

しかし、連日のドラマ撮影に加えてコンサートの打ち合わせやリハーサルまで始まるこの時期、やはり体力的にきつく、さすがの二宮もぐったりしていた。


「あ、にの。おはよぉ」


相葉の挨拶にも覇気なく答える。


「おはようございます・・・」


「あのね、昨日ね・・・・」


「ごめん、相葉さん。ちょっと寝ていい?」


「あ、うん・・・」


相葉が何か言いたそうなのは分かったが、眠気には勝てず、二宮はソファーに横になると寝息を立て始めた。


*****


最近、二宮とゆっくり話す時間がない。
ドラマの撮影が始まってからは特にだ。

寂しいけれど、仕方がない。
忙しい二宮に我儘は言えないから。

でも・・・・


「さびしいなぁ・・・・」


ソファーに寝転んだ二宮を見て、相葉はため息を吐く。




結局二宮は収録のギリギリまで寝ていて、話す事もできなかった。

収録の合間にと思ったのだが・・・・。


「あ、にの・・・・」


「おい、ニノ。ドラマの事なんだけどさ・・・」


櫻井に呼び止められ、なにやらドラマの話を始める2人。
間に入ることなど出来ずに、次の収録が始まってしまった。






本番中終了後、今日もこの後ドラマの撮影だろうと半ば諦めていた相葉に、二宮から声がかかった。


「相葉さん、今日元気なかったじゃない?何かあった?」


「・・・・にの。ううん、なんにもないよ」


むしろ何にもないから、元気がないんだと、心の中で呟いた。


「嘘。分かるんだから、嘘ついても無駄だよ。今日さ、この後予定ないんだ。一緒に飯食いに行こう?じっくり話し聞いたげる」


「え?ほんとっ!?一緒に行けるの?」


途端に元気になる自分が少しばかり現金な気はしたが、二宮と一緒にいられるなら、それでもいいやと思う。


「んふふ。久しぶりだもんね?どこ行く?」


「えっとね!どこがいいかなぁ・・・」


相葉が嬉しそうに考えていると、櫻井が慌しく楽屋へとやって来た。


「おい、ニノ。急遽撮影入ったってさ。マネージャーが車で待ってっから、早く行こうぜ!」


「えー・・・、マジで?せっかく休みだと思ったのに・・・。相葉さん・・・ごめん。
行けなくなちゃった・・・・」


「あ、うん・・・。しょうがないよ、仕事だもん。頑張ってね!」


「・・・・終わったら、連絡するよ。ごめん。じゃあね。」


「うん・・・行ってらっしゃい・・・」


申し訳なさそうに去っていく二宮に笑顔で手を振った。


「あーあ・・・・。」


声に出すつもりはなかったが、無意識に出てしまったらしい。

それに反応したのは松本。


「相葉ちゃん、声に出てる。ニノが聞いたら飛んで戻ってくるんじゃね?」


「・・・・松潤。にのは戻ってこないよ。前向いた瞬間から、気持ちはドラマに向かってるから・・・」


寂しそうに笑う相葉に驚いた。
こんな風に笑うヤツだっただろうか。
いつだって天真爛漫に笑うところしか見ていなかった松本は、どう返して良いのか戸惑ったのだが。


「あー!落ち込んだってしょうがない!パーッと行っちゃおうかな?」


テンションを自ら上げようとしたらしい相葉が突然大声を出した。

その姿に松本は苦笑する。


「・・・しょうがねぇなぁ。今日は俺が付き合ってやろう!」


「え?いいよぉ・・・むりしなくて。おれなら平気だし」


「・・・この間断ったの気にしてんの?変なトコで律儀だよね?相葉ちゃんって」


「松潤に言われたくないよ・・・・。分かった!!そう言うなら、今日はとことん付き合ってもらうからね!!」


「覚悟しましょう。ほら、そうと決まれば早く着替えろよ。」


「おっけい♪」


*****


松本は、以前相葉が二宮と一緒に来たという居酒屋にいた。

目の前で、ぐびぐびと酒を煽っている男に呆れながらも、こうなるだろうと予測はしていたため、特に慌てた様子も見せずに、相手の話に耳を傾ける。


「だぁからぁ・・・おれはね・・・寂しいわけですよぉ。分かるぅ?」


「まぁ・・・なんとなく」


事務所に入ってからずっと一緒だった2人がここ最近、映画だドラマだと2人でいられる時間が減っている事は確かだろう。

そこに来て、二宮と櫻井が共演だ。

俄然、二宮は相葉と2人でいる時間より櫻井といる時間のが多くなっている。
仕事熱心な櫻井は、5人で収録の時でも二宮にドラマの話をしていた。

そうなると相葉は中に入れず、遠慮してしまうようだ。

今日もそのパターンだった。

そういうところは、いつものように空気を読まなきゃいいのにと思うのだが。


「おー、分かりますかぁ?ってことはぁ・・・まちゅじゅんもぉ・・・にのがすきなのぉ?だめだよぉ・・・にのは・・・おれのだもんねぇ・・・・あげなぁい!」


「いらねぇよ・・・・」


相葉の話は、とにかくにの、にの、にのだ。
それだけ「にの」を連呼して、よく飽きないもんだと変なところで感心してしまう。


「あー!まちゅじゅんはぁ・・・、にののみりょくが分からないんだぁ・・・。だめだなぁ・・・」


分からないし、分かりたくもないと思ったが、それは口にしない。
酔っ払いには従うのが一番だ。


「とにかくぅ・・・おれは寂しいの!でもぉ、寂しいなんて言ったら、にのが心配しちゃうでしょお?だから、我慢してるんですよぉ・・・」


再びグラスの中身を煽る。


「にのはぁ、ああ見えて心配性の、寂しがりだからぁ・・・俺が元気にしてないとぉ・・・ドラマ頑張れないのですぅ・・・」


ひと言話す度に酒を煽っている相葉に、いい加減まずいと思った松本が声をかけた。


「相葉ちゃん・・・そろそろ止めないと、ぶっ倒れるよ」


しかし、酔っ払いは聞く耳持たずだ。


「でもねぇ・・・ちょっと限界かなぁ・・・。翔ちゃんはいいなぁ・・・いっつもにのといっしょでぇ・・・・」


そこまで言ったところで、相葉がテーブルに突っ伏した。


「おいおい、マジかよ・・・勘弁してくれ・・・」


松本は手元のグラスをカラカラと振って、中身を飲み干した。


*****


「はぁ・・・マジ重かった・・・」


酔いつぶれた相葉をタクシーへ乗せ、大きく息を吐いた。
隣で眠る男を恨めしい目で見ても、何の反応もない。
付き合うといったのは自分だし、こうなるだろう事も予想していたので、文句は言えない。
やれやれと再びため息を吐こうかと思った時。


「うー、うー」


隣の男が唸り始めた。
顔色が悪く、青ざめている。


「うー・・・・・気持ち悪い・・・・うっ」


「ちょっ!待て!お前吐くなよ?」


「うえっ・・・・もう・・だめ・・・」


「ま、待て!す、すいませんっ。降ります!」


タクシーを降りたは良いが、このままでは大惨事になりかねないと思った松本が、とにかく相葉を休ませようと入ったところはホテルだった。


部屋に入ると相葉をベッドに寝かせる。
苦しそうに唸っている相葉のシャツのボタンを外し、ベルトを緩めた。
やましい事をしているわけではないが、松本は何となく相葉を直視できない。


「うー、あついっ!!」


「ちょっ!相葉ちゃっ・・・何してんの!?」


大声で叫んだ相葉は、突然上着のボタンを全部外し、ズボンを脱ぎだした。

制止する間もなく相葉は、上にシャツを引っかけ、下は下着のみという姿になってしまった。
長い足を惜しげもなく投げ出して、眠りに入ろうという体勢の相葉。

気分も良くなったのか、顔色も元に戻っている。
シーツの白さが、相葉の姿を妖艶に映し出す。


「・・・んふっ・・・にぃのぉ・・・・」


幸せそうに呟く。


「おいおい・・・」


寝言もニノかよ、と心の中でつっこんだ。


それにしても目のやり場に困る。
そんな無防備でいいのかと、松本は呆れた。
少なからず相葉に好意を抱いている身としては、かなり刺激が強い。

かといって、後先考えず事を起こすつもりはないが。


二宮が心配する気持ちが少しだけ分かった。



「さて・・・俺はどうしましょうかね」


このまま相葉を置いて帰るのはあまりにも無責任だろうか。
ここは目が覚めるのを待って、一緒に出る方が良いかと考えていると、相葉の携帯が鳴った。


着信を見ると、二宮の名前。
そういえば終わったら、電話すると言っていた。

少し戸惑ったが、今の状態から抜け出すには1番手っ取り早いだろうと相葉の携帯を手に取る。


「もしもし・・・ニノ?」


『・・・・・潤君?』


「ああ」


『・・・・なんで潤君が相葉さんの携帯に?』


明らかな不快感を表した二宮の声に苦笑する。


「一緒に飲んでたんだけどさ・・・相葉ちゃん潰れちゃって。今寝てる」


『・・・そうなんですか』


「ニノ仕事は?」


『終わって、今から帰るところです』


「・・・じゃあさ、相葉ちゃん引取りに来てくんない?」


『・・・・そうですね。今どこですか?店?』


「いや、ホテルなんだけど・・・・」


『・・・・・・どういうことですか?』


明らかに二宮の声のトーンが変わった。


「おいおい、誤解すんなよ?タクシーで送る途中に相葉ちゃん気分悪くなってさ、休ませるために入っただけだから」


『・・・・・・』


「おい、ニノ。聞いてる?」


『・・・・・どこのホテルですか?すぐ行きます』


ホテルの場所を教えると、二宮はすぐさま電話を切った。


「・・・やっぱり過保護だな・・・」


その素早すぎる対応にまたしても苦笑する松本だった。



*****


電話を切った二宮は挨拶もそこそこに現場を飛び出した。
急いでタクシーを捕まえると、乗り込む。


確かに今日の相葉は元気がなかった。


理由なんて分かってる。
自惚れでなく、自分のせいだろう。
最近仕事が忙しく2人でいる時間がなかった。

一緒の仕事でも、櫻井とドラマの打ち合わせをするほうが多い。
相葉は仕事が絡むと絶対に我侭を言わないから、かなりの我慢をしていたはずだ。


だからこそ、今日は一緒にいようと思ったのだが、急な撮影が入ってしまった。


一瞬期待させただけに、彼の落胆振りは明らかだった。


大方、見かねた松本が相葉を誘って、今の事態に繋がったのだろう。
携帯に松本が出たとき、嫌な予感はしたのだが。


居場所を聞いた瞬間、全身の血が沸騰した。


松本に限って、そんなことはないだろうと思うが、頭で分かっていても焦燥感が拭いきれない。


窓の外を見つめ、二宮は爪を噛んだ。


*****


二宮が電話を切ってから数十分、相葉はまだ起きる気配を見せない。
幸せそうに眠っている。

松本はバックに入っていた雑誌に目を通していた。

二宮のいた場所からするとそろそろかと松本が思っていると、ちょうどドアがノックされた。


「はい」


ドアを開けると、立っていたのは明らかに苛立ちを表情に表した二宮。


「どうも・・・」


声にも焦りが感じられた。


「相葉さんは?」


「まだ寝てる」


「そうですか・・・」


ベッドに寝ている相葉を確認してから、部屋へと入ってきた二宮はソファーに置かれているものを見て固まった。

ベッドへと駆け寄ると相葉に掛けてあった布団をはがす。

相葉の姿を確認した二宮は、松本を睨み付けた。


「・・・どういうこと・・・です?」


聞いた事もない二宮の声に松本もたじろぐ。


「俺じゃねぇよ・・・・。暑いっつって、相葉ちゃんが勝手に脱いだんだよ・・・」


「・・・・・」


相葉を見つめたまま何も言わない二宮。


「お、おい、ニノ?」


「・・・・今日は迷惑掛けてすいませんでした。後は俺がいるんで、潤君は帰って下さい」


二宮がわずかに微笑んだようだが、それは恐ろしく冷淡にも見えて。
松本は言いがたい不安に駆られた。


「ニノ?」


「・・・大丈夫ですよ。起きたら、ちゃんと家まで送りますから」


次に見た二宮はいつもと変わらない表情だった。



*****


松本が出ていって2人になると、二宮は相葉の眠るベッドに近づき、もう一度布団をはがす。
惜しげもなくさらした肌がシーツに映えて、その寝顔は昔から変わらずに美しい。

酒に酔っているせいで、いつもより赤みがさした肢体は、あの時を連想させるほどに艶を帯びている。


この姿を見た奴がいる。

自分以外に。


自分の中で、どす黒い感情が渦巻いているのを感じた。
一瞬、松本に抱いた殺意に近い感情。

かろうじて抑えたが。



誰が見せていいと言った?


その身体を。


その姿を。


その表情を。


お前は誰のものだ?


俺のものだろう?



俺だけの・・・・。


次から次へと湧き上がってくる、言いようもない感情を最早止める気はなかった。
それが全て、幸せそうに眠る相葉へと向かっていることも。


分かってる。


彼は寂しかったのだ。


何かがあったわけじゃない。


原因は俺。


分かってる。


けれど、気持ちが追いつかない。



感情が暴走する。



「相葉・・・・起きろよ・・・」


頬を軽く叩き、意識を呼び起こそうとする。


「う・・・・ん・・・」


眉根を寄せて身じろぎをする相葉に、普段なら可愛いと思うのだろうが、今の二宮には全てが許せなかった。


「・・・起きろよっ!」


声を荒げ、少しばかり乱暴に身体を揺すると、ようやく相葉が目を覚ます。
しかしその直後、相葉の口から出た言葉に二宮の感情は爆発した。


「う・・・ん、なにぃ・・・まつじゅん?」


「・・・お前・・・。声聞いて誰だかも分かんねぇのかよ!!俺は松本潤か!?よく見ろよっ!!」


腕を掴まれ、無理やり身体を起こされる。
あまりの大声と強い衝撃に、一瞬にして目を覚ました相葉の目の前にいたのは、先ほどまで自分に付き合ってくれていた松本ではなく、二宮だった。


「にの!?あれ?なんで?」


状況の把握できていない相葉は目を見開いて固まった。


「にの、ドラマ終わったの?松潤は?」


周りを見渡し、松本の姿を探す相葉を二宮はベッドへ押し倒す。


「わっ!にの!?」


押さえつけられている肩が痛い。


「にの、ちょっ・・・痛いよ。どうしたの?」



何故、二宮がここにいるのか。
松本の姿がないと言うことは、彼が呼んだのだろう。

しかし、二宮は明らかに怒っている。


「お前さあ!潤君潤君って、他に言うことないのかよ!!自分が今どんな格好してるか分かってんの!?」


「え?」


二宮にそう言われて、自分の姿を確認した。


「えっ?なんで?」


慌ててシャツの前を合わせる。


「・・・・誰が見せていいって言ったよ?」


「に・・・の?」


「誰が言ったんっだよ!?言ってみろよ!」


「あの・・・」


「何?誘ってんの?俺と別れたいの?潤君が好きになったんだ?最近良く一緒にいるもんなぁ?」


まくし立てる二宮についていけない。


「にの、なに言って・・・・」


「ああ、それとも何?欲求不満なわけ?俺が相手してなかったから、誰でもいいから相手して欲しかったんだ?」


「ちが・・・、そんなんじゃないよ」


「分かったよ。じゃあ・・・満たしてやるよ!」


「えっ?ちょっ・・・・にの!なに!?!やだ!」


上に覆いかぶさってきた二宮の瞳に自分は映っていなくて。
それが相葉の恐怖心を煽る。


「うるせーな、黙れよっ!」


「っ!!」


相葉の頬に衝撃が走った。
二宮に叩かれたんだという事に気付いた時には、下着は脱がされ、シャツだけになっていた。


「な、な・・・に?」


叩かれた事に呆然とする相葉をよそに、二宮は相葉をうつぶせにすると、シャツを肩から抜いて、手首のところでまとめて縛る。


「に、にのっ!?ちょっ、まって!ねぇ・・・あっ」


やめてと懇願する相葉の言葉も聞かず、二宮は相葉自身に手を伸ばす。


「あっ・・・んん・・・にぃのっ・・・はっ・・・」


酔っているせいもあって、熱くなった身体はすぐに反応し始める。
しかし、二宮の動きがいやに無機質で、相葉は戸惑いと不安を隠せない。


今まで、こんな事はなかった。
ただ、自分を強制的に高められているような感じ。
そこに二宮が見つけられない。


「にっの・・・あ・・・おねが・・・いっ・・・まってぇ・・・んっ・・・」


それでも、二宮に感じるように作られたカラダはどんどんと昂ぶっていく。


そして。


「あぁっ・・・・だめ・・・ん・・・あっ・・・・あぁ!!」


相葉は二宮の手に自身の欲望を吐き出した。



相葉の出したモノを自分の指に塗り、二宮は相葉の奥へと乱暴に押し込んだ。


「いっ・・・!に、の・・・いたっ!あっ・・・・やっ」


余韻に浸るまもなく、後ろに感じた痛みに思わず身体が逃げる。
その無意識の行為が、二宮をイラつかせた。


「逃げんなよっ」


後ろ手で縛られている手を押さえつけられて、上半身がベッドに沈む。
自然に二宮の前に、お尻を突き出すような格好になる。


「んふふ・・・良い眺め。そんなにして欲しいいんだ・・・・やらしいね」


「なっ!ちがっ・・・・・あぁっ・・んっ!」


凌辱的な言葉に相葉の顔が歪む。
それにも二宮の手は止まらず、乱暴に相葉の中をかき回す。


感情とは反対に相葉の体はすでに感じきっていた。


「あっあ・・・ん・・・いや・・・いっ・・・やめてぇ・・・んん・・」


やめてと懇願するしか出来ない。
今、自分を辱めているのは誰なのか。

二宮の顔が見えない。
いつもなら、顔が見えなくても、その行為から二宮の存在が感じ取れた。
行為の端々に二宮の愛情があった。

今、それが見えない。

今感じるのは、とてつもない怒りとせつなさ。


相葉の中で不安が膨らむ。

自分は何故彼をこんなにも追い込んでしまったんだろうか。
とっくに酔いなんて醒めていた。
なのに頭が回らない。
こんな時ながら、自分の頭の悪さを恨んだ。


二宮の感情が不安定になるとき、それは自分が関係している。


自分がそうであるように。

相葉には確信があった。
ただ、頭の良くない自分には、その原因がいつも分からない。
だからこそ、ひたすらに彼を受け入れるのだ。
それで彼の心が落ち着くならと。
二宮の指が相葉の中から引き抜かれる。


それと同時に指とは比べ物にならないほどの、熱いものが相葉のそこに押し当てられる。
躊躇なく入り込んできたそれは、かなりの質量で、あまり慣らされていない相葉は、唸り声を上げる。

それでも、二宮が楽なようにと息を吐き、力を抜く事は忘れない。


「んっ!はぁ・・・・ん・・・」


その献身的な姿すら、今の二宮をイラつかせる原因となるのだが。

まだ馴染んでいない相葉の中を、二宮は乱暴に動き回る。


「あっああ・・・にっのぉ・・・ちょ・・・あっ、あ・・・」


後ろからの突き上げに、相葉の口からは喘ぎ声を上げることしか出来なかった。


自分の中で更に大きさを増した二宮を感じ、相葉は焦る。


「んっ・・・ねぇ、にっのぉ・・・まっ・・・・まって・・・っん」


二宮はこのまま終わらせるつもりなのか。
明らかに二宮の動きはそこに近づいている。


一度も自分を見てくれないまま・・・。


いつだって、行為の最後はお互いの存在を確かめ合っていた。


なのに・・・。


自分はそこまで嫌われてしまったのだろうか。


二宮の顔が浮かばない。


自分を攻めているのは二宮のはずなのに。



こんなの知らない。



二宮の存在が感じられない。



こわい。



こわい。



「んっ・・・はっ・・・・あいっば・・・・」

二宮が切羽詰った声を出す。


「あっ!いや・・・・いやっ・・・ああっ」


二宮が自分の中で果てるのを感じ、相葉は涙を流した。


二宮が相葉の中から出て行った後も、相葉は顔をシーツに埋めたまま動かない。
縛られた手はすでに解かれていたが、それでも相葉は動かなかった。
その肩は小刻みに震えている。


「・・・・何で・・・泣くんだよ・・・。泣くほど嫌だったのかよ。だったら・・・・だったら叫べばいいだろ!嫌だって、抵抗すればいい!!何でしないんだよっ!」


横でそれを見つめていた二宮が切なく叫ぶ。


相葉は、二宮に無理やり行為を進められる中、一度も抵抗しなかった。
口では「待って、やめて」と言いながらも、二宮の全てを受け入れていた。


「何でだよ・・・こんなひどい事されて・・・・」


伏せたままの相葉に触れると、その背中がびくっと跳ねた。


それはまるで触られる事を拒んだようにも見えて。


二宮の顔が歪んだ。


相葉が自分以外を好きになるなんて、ないと分かっているのに、彼の事になると自分の感情がコントロールできなくなる。


どうしようもない独占欲と、支配欲。
一時的な感情だけで、彼を押さえつけた。


そして今、二宮にあるのは焦燥感と罪悪感。
自分勝手な感情で、彼を傷つけた。


彼は自分を最低だと思っただろうか?


「・・・ごめん。」


それだけ言うと、二宮は立ち上がった。


これ以上、ここに居てもお互いに傷つくだけのように思えたから。


「・・・・・の?」


部屋を出て行こうとする二宮の耳にかすかに相葉の声が聞えた。


「え?」


「どこ・・・いくの?」


相葉がのそりと、起き上がる。
二宮には背を向けたままだ。


「どこって・・・、こんなことされて、俺の顔なんて見たくないでしょ?」


だから、出て行こうと思って。


「かお・・・見たくないのは・・・にののほうでしょぉ・・・・」


「・・・は?」


「にの・・・・にのは、おれが嫌いになったんでしょぉ・・・・だからっ・・・出て行くんだっ・・・」


「ちょっと、何言って・・・」


「だって!!にの・・・おれのこと・・・見てくれなかった・・・い、いちども目を合わせてくれなかった!!」


「相葉さん・・・?」


「おれを・・・・すてるの?」


「・・・何言って・・・・」


再び相葉に近づき、肩に触れようとすると、その肩を大きく震わせ逃げる。


「あいばさ・・・・」


「・・・・・」


「こっち見て」


「・・・・いや」


「どうして?」


「・・・・・」


「・・・俺が嫌い?」


聞くと大きく頭を振る相葉。


「・・・・だから、嫌いなのはにのの方でしょ?」


「・・・・どうしてそう思うの?」


「・・・・だって、最後・・・・俺のかお見てくれなかった・・・・にののかお、見せてくれなかった・・・・」


シーツを握り締め、答える相葉は涙をこらえているようだった。


2人が愛し合うとき、相葉はいつも最後を迎えるときに、二宮の顔を見たがった。
二宮に愛されていると感じる事が出来るから。
二宮が自分で感じ、イってくれる事が嬉しかった。

それを分かっていた二宮は、常に相葉の希望通りにしてきた。
そうすると、とても幸せそうに微笑んでくれるから。
二宮もまた、そんな相葉の表情に自分への愛情を感じていた。

今まで、ただの一度だって、その彼の望みを忘れた事はなかったのに。
頭に血が上りすぎて,今日その行為をしなかった。


相葉はその事に、ひどく傷ついているのだ。
二宮が怒っていることにではなく、無理矢理に体を開かされた事にでもなく。


自分の顔を見てくれなかったことに。


二宮の胸に罪悪感と共に、切ないほどの愛情がこみ上げる。


「・・・・・の?」


部屋を出て行こうとする二宮の耳にかすかに相葉の声が聞えた。


「え?」


「どこ・・・いくの?」


相葉がのそりと、起き上がる。
二宮には背を向けたままだ。


「どこって・・・、こんなことされて、俺の顔なんて見たくないでしょ?」


だから、出て行こうと思って。


「かお・・・見たくないのは・・・にののほうでしょぉ・・・・」


「・・・は?」


「にの・・・・にのは、おれが嫌いになったんでしょぉ・・・・だからっ・・・出て行くんだっ・・・」


「ちょっと、何言って・・・」


「だって!!にの・・・おれのこと・・・見てくれなかった・・・い、いちども目を合わせてくれなかった!!」


「相葉さん・・・?」


「おれを・・・・すてるの?」


「・・・何言って・・・・」


再び相葉に近づき、肩に触れようとすると、その肩を大きく震わせ逃げる。


「あいばさ・・・・」


「・・・・・」


「こっち見て」


「・・・・いや」


「どうして?」


「・・・・・」


「・・・俺が嫌い?」


聞くと大きく頭を振る相葉。


「・・・・だから、嫌いなのはにのの方でしょ?」


「・・・・どうしてそう思うの?」


「・・・・だって、最後・・・・俺のかお見てくれなかった・・・・にののかお、見せてくれなかった・・・・」


シーツを握り締め、答える相葉は涙をこらえているようだった。


2人が愛し合うとき、相葉はいつも最後を迎えるときに、二宮の顔を見たがった。
二宮に愛されていると感じる事が出来るから。
二宮が自分で感じ、イってくれる事が嬉しかった。

それを分かっていた二宮は、常に相葉の希望通りにしてきた。
そうすると、とても幸せそうに微笑んでくれるから。
二宮もまた、そんな相葉の表情に自分への愛情を感じていた。

今まで、ただの一度だって、その彼の望みを忘れた事はなかったのに。
頭に血が上りすぎて,今日その行為をしなかった。


相葉はその事に、ひどく傷ついているのだ。
二宮が怒っていることにではなく、無理矢理に体を開かされた事にでもなく。


自分の顔を見てくれなかったことに。


二宮の胸に罪悪感と共に、切ないほどの愛情がこみ上げる。


自分の嫉妬という浅はかな感情など、彼の前では全く意味はなかった。

相葉は、嫉妬に狂ってひどい事をした二宮にではなく、二宮を怒らせ、嫌われてしまったと、自分を責めているのだから。

いつだって相葉は二宮を責めない。

二宮が怒るのは自分が悪いからと、他の人間に話しているのを二宮は何度も聞いたことがあった。

こんな理不尽な目に合っても、なお彼は二宮を責めはしないのだ。

二宮は、自分の中のどす黒い感情が薄れていくのを感じた。
相葉の前では、どんなに醜い感情も浄化されていく。
そうやって、何度も二宮は守られてきた。

彼はやはり天使なのだろうか?

二宮の全てを許し、包み込む絶対的な愛。

相葉という大きな海原の中でゆらゆらと浮かんでいるような感覚。

自分の馬鹿さ加減を思い知らされる。
こんなに大切で愛おしいのに。


二宮に背を向けたままの相葉を後ろから抱きしめた。


「っ!いやっ。離して・・・・」


二宮からの決定的な言葉を恐れてか、相葉が初めて抵抗した。


「嫌だ。離さない」


「・・・どうしてぇ・・・・おれ、いやだよぉ・・・・。にのぉ、きらいにならないで・・・おれをすてないでよぉ・・・」


二宮の腕にしがみつき懇願する。


「あいば・・・」


「・・・・うぇ・・・・おれ、わがまま言わない・・・寂しくっても我慢する・・・・だから・・・・にののこと・・・好きでいさせてよぉ・・・おれから・・・・にのとらないでぇ」


二宮の腕に涙が落ちて沁みた。


「・・・・ごめん」


相葉の体がびくっと跳ねて、硬直した。


「・・・誤解しないで。今のごめんは、俺があんたにした行為と、あんたを傷つけたことに対してだから。
俺はあんたを嫌いになんかならないし、捨てることなんて絶対しないよ。俺には、あんたが全てなんだ」


抱きしめる腕に力を込めた。


「・・・・・にのぉ」


「寂しい思いさせてごめん。分かってたのに、俺の勝手な嫉妬で傷つけた。俺の方こそお願いしたいよ。
どうか俺を捨てないで。あんたに捨てられたら、生きていけない」


「・・・・・」


「相葉さん・・・・ごめん。あんたを好きになって・・・こんな俺に惚れさせて、ごめん。でも、あんたを愛してるんだ」


何度も考えた事がある。
自分といて、相葉は本当に幸せなのだろうかと。
相葉の奔放さを許してあげられない自分。
いつか本当に縛り付けてしまうかもしれない。


それでも、手放すなんて出来ないんだ。


「愛してるんだ・・・・あんただけを。ごめん・・・」


相葉の肩に顔を埋め、切なく呟く。


「・・・にの、離して」


「・・・嫌だ」


「・・・お願い」


回した腕を解こうとする相葉。


「・・・俺を・・・捨てるの?」


今度は二宮が問う。


「・・・違うよ。にののかお、見たいの」


この格好じゃ、顔が見えないでしょ?と二宮の腕に頬をすり寄せた。


二宮の腕が緩むと、相葉はするりと身を翻した。


「・・・にのだ。えへへ・・・」


「・・・あいばさん」


相葉は二宮の顔を自分の両手で包みこんで、確かめるように何度も撫でる。
愛おしそうに目を細めて。


「にの・・・・。おれはね、にののことが大好きなの。あいしてる。にのが、外に出るなって言うなら、出ない。
誰にも会うなって言うなら、会わない。それくらいのこと、全然平気なの」


にのがそばにいてくれるなら。


「今、ここで誓ったっていいんだ。おれはにののものだよ?にのの好きにしてもいい。」


二宮が望むなら、相葉は自ら喜んで籠に囚われるだろう。
自ら鎖に繋がれたっていい。

二宮の望みは相葉の望みなのだ。


「にのが・・・おれの全てだよ。にのがいないと生きていけないのは、俺も一緒。おれたち・・・似たもの同士だね」


そう言って微笑んだ相葉を、力の限りに抱きしめた。


「相葉さん・・・」



どうして、こんなに愛おしいのか。
どうしてこんなにも自分を捕らえて離さないのか。


自分のために、自らの綺麗な羽さえ喜んで折ってしまおうというのか。

それでもなお、自分のためにそばにいてくれると。

こんなにも愛されている事を改めて感じて、二宮の心は震えた。


「あいばさん・・・」


見つめ合い、お互いに唇を寄せる。
2人の存在を確かめ合うように深くなる口付け。


「・・・ね、ねぇ・・・にの?」


戸惑いがちに相葉が声をかけた。


「何?」


「・・・あ、あのね?あの・・・・・」


何か言いたそうな相葉を不思議に思って体を離すと、相葉は顔を赤くして足をモジモジさせている。


「相葉さん・・・あんた・・・」


相葉の中心の変化に気付いた二宮。


「だ、だって!さっき・・・・おれ・・・・」


そういえば、先ほどの一方的な行為で相葉はイクことが出来なかった。
そのくすぶった熱が、今ので再び燃え上がってしまったようだ。


「・・・していい?」


「え?」


「続き・・・・。相葉さんを・・・愛していい?」


その資格が俺にはあるかな?


「にの・・・。うん、して?おれを・・・・愛して・・・」


二宮に向かい、手を差し出した。
その手を取ると、自分の手を絡ませて2人ベッドへと沈む。



「あっ・・・・はっん・・・ねぇ・・・にのぉ・・・」


「何ですか?」


先ほどから後ろに執拗なまでの愛撫を繰り返す二宮に、相葉が痺れを切らす。


「んっ・・・もう・・・おね・・がい・・だからぁ・・・あっ」


「・・・まだです・・・。さっき無理させちゃったから、大事にしたいの」


そう言って再び相葉の蕾へと舌を這わす。
舌をすぼめて蕾を開き、優しく愛撫していく。
しばらくすると、舌と一緒に二宮の指が入ってくる。


「あっん・・・でもぉ・・・んっ!もう・・・だめぇ・・・」


「もう少し・・・・ね?」


先ほどの行為で、少なからず相葉の中は傷ついているだろうから。
今度は快感だけを味わって欲しい。
二宮の指は確実に相葉の感じるところを攻める。


「んっ・・・・あぁん・・・にのぉ・・・もう・・・いっちゃ・・・よぉ・・・」


早く二宮を感じたい。
二宮で満たされて、二宮でイきたい。
その想いが相葉の体を煽り、自然に腰を揺らして二宮を誘う。


「んふふ・・・、我慢できない?」


「うっん・・・・できないぃ・・・。はやく・・きてぇ・・・」


欲情に濡れた瞳で見つめ合い、再び口付け。
そのまま、相葉のソコに自身をあてがった。


「俺も我慢できない・・・いくよ?」


そういうと同時に二宮の質量を持ったソレが入り込んでくる。


「ああっ!!」


先ほどとは比べ物にならない快感が相葉を襲った。
その衝撃だけで達してしまいそうなほどの快感に、眩暈がする。

今確実に、自分を愛してくれているのは二宮だ。
一つ一つの行為に二宮の愛情を感じる。


「ああ・・・・」


なんて幸せ。

二宮の顔を見つめ微笑むと、二宮から極上のキス。
それを合図に二宮が動き始める。


「んっ・・・はっん・・・・あ、あ・・・にのぉ・・・」


その動きはもどかしいほどゆっくりで、相葉を焦らす。


「はっ・・・あいばさん・・・なに?」


分かっててとぼけている二宮を、相葉は恨めしそうに見上げる。
そこには、二宮のちょっと意地悪そうな顔。
いつもの二宮だ。


「に・・のぉ・・・」


両手を伸ばし、二宮の顔に触れた。
どうしようもないくらいに溢れてくる愛情。
自然に涙がこぼれた。


「あいば・・・何で泣いてんの?」


「あっ・・・ん・・・うれしいの。おれ・・・にののこと・・・すきで、うれしいの・・・」


「・・・俺も、嬉しいよ。あんたが・・・俺を好きでいてくれて・・・」


「うん・・・。にの、もっとにのを感じたい・・・。
おねがい・・・激しくたってかまわないから・・・にのも・・・おれを感じて?」


「うん・・・・動くよ?」


二宮が激しく動き始めた。


「ああっ!あっ・・・あんっ・・・んっ・・・はっん・・・・」


相葉も二宮の動きに合わせ、腰を揺らした。
お互いに感じ合う行為は、2人を絶頂へと誘う。


「あぁっん・・・・ん、ん・・・・んあっ・・・にっのぉ・・・もう・・・おれぇ・・・あっ」


「んっ・・・はっ・・・もう・・・イきそう・・・?」


どんどん早くなる二宮の動きに、相葉はただ縦に首を振った。


「あっ、あ・・・にの・・・にのぉ・・・・」


「はっ・・・あいばっ・・・俺の顔・・・見て、一緒にイこう・・・」


見つめ合い、二宮は相葉の最奥を突く。


「あぁんっ・・・うん・・・にのの・・・かお・・・あっあ・・・だめぇ・・・いっちゃ・・・ああっ!」


相葉の熱が放たれたのと同時に、中に熱いモノを感じた。


嬉しくて、相葉が微笑む。


それは、まさしく天使の微笑みのようで。



「あいばさん・・・大丈夫?」


「・・・うん、へいき。あっ、にの!」


二宮が相葉の中から出ようとするのを、相葉が止めた。


「相葉さん?」


「もうちょっと・・・もうちょっとこのままでいて?」


もう少し二宮を感じていたい。


「・・・俺は構わないけど」


「なら、良いよね?」


二宮の首に腕を回し、自分の方へ引き寄せた。


「んっ・・・。ねぇ、にの・・・・。にのが不安に思うことはなんにもないよ。だって、たとえ他の人の言うことが正しくったって、にのが間違ってたって、おれにはにのが真実だもの」


二宮の言うことが、相葉にとっての真実。
それ以外は何もいらない。


「にの、あいしてる。ずっと、ずっとあいしてる」


「俺も・・・愛してるよ。あんたの愛があれば、俺はどんな事だって耐えられる。ただ・・・あんたがいなくなること以外は」


2人きつく抱き合った。


どんな事があっても揺るがない想いを確信して、強く強く抱き合う。


そして訪れた幸せは、2人が乗り越えてきた愛の証。



*****


「にぃの♪」


「何ですか?相葉さんっVv」


「今日も、ドラマ頑張ってね!終わったら、連絡して?おれ待ってる!」


「もちろん、連絡しますよぉ。休憩時間にだって掛けちゃいます!」


「それはだめぇ・・・嬉しいけど、仕事は仕事でしょ?」


「んふふ。分かってますよ。俺を誰だと思ってんの?二宮和也様よ?全て1発OKで、帰ってくるよ」


「くふふ。にの、かっこいい!!」


「相葉さんは可愛いっ」


「・・・・何だよ、あれは・・・」


そんなとてつもなくバカップルな会話を繰り広げている2人を、台本片手にうんざりとした眼差しで見ているのは松本。


あの夜。

二宮の瞳に垣間見えたのは、確かに狂気。
松本は不安に駆られていた。
何か起こらなければいいと。

なのに・・・。

次に会った2人は、今までにも増して、バカップル振りを発揮していた。

二宮は相変わらず過保護だし、相葉は相変わらず、にの、にの、にのだ。

だが、確かに2人の間に何か今までとは違う雰囲気があるのを感じる。
バカップルは変わらないのだが、今まではその中にどこか危うさの様なものがあった。

今はその危うさが消え、とても安らかな、穏やかな空気が漂っている。
それが何故なのかは分からないが、あの夜、何かがあって、2人はそれを乗り越えたのだろう。
そんな気がする。


「もう、相葉さんってば可愛いんだから」


「もう、可愛いって言うなぁ。照れるぅ・・・」


「おーい、ニノ」


そこへやって来たのは櫻井。


「何ですか?」


「ドラマの事なんだけどさ・・・・」


「あー、それ急ぎ?じゃなければ、後で現場行ってからにして下さい」


「え?でも、せっかくだし。今打ち合わせとけば手っ取り早くね?」


「・・・・もう、翔ちゃんは本当にばかですね。相葉さんと違って、救いようのないばか。まぁ、救いたくもないけど」


「ちょ、何だよそれ?」


「何でもありません。俺は仕事を家庭に持ち込まない主義なんです。だから、その話は後にして下さい。ねぇ、相葉さん?」


「ねぇ!」


「は?」


わけも分からずに立ち尽くす櫻井。


一部始終を見ていた松本は、ここだって仕事場じゃねぇかと心の中で突っ込む。


心配して損した。


まぁ、平和で嵐らしくて良いけどね。
嵐が家庭と言うのはなんとなく分かる気がするから。




松本は台本で口元を隠し、ひっそりと微笑んだ。







「じゃあ、相葉さん行ってくるね!」


5人での仕事が終わり、二宮と櫻井はドラマの撮影へ向かう。


「うん、行ってらっしゃい!」


手がちぎれそうなくらいに振って見送る相葉と、笑顔で答える二宮。


もう寂しくはないし、不安はない。



嫉妬も寂しさも不安も、全部乗り越えて訪れた幸せ。




天使はいつだって我が元に。






おわり
嵐inぷっすま





 嵐5人で先輩の番組にお邪魔しました。

《キングオブチキンは誰だ!!ビビリ王決定戦》

 
《ビビリ王決定戦》とは、計測器を装着してさまざまなシチュエーション・ドッキリを体験

その際に出た汗の量や脈拍数を計測し数値が一定の基準値を超えたところで、

ビビッたと判定、1ビビリとなり、最終的にビビリ数の多い人がビビリ王となる。というもの。


  始める前に、誰がキングオブチキンだと思いますか?

「翔君じゃない?」

「翔君だよ」

「翔君でしょう」

「翔ちゃんで決まり!」

「んだよ!やってみなくちゃわかんねえだろっ!!」


というわけでスタート!



~松潤の場合~



開始直後から緊張してるのか、数値は高め。でも、顔はクールにきめてます。

「くふふ、松潤高めだね~」

「んふふ、でもなかなかビビリませんねぇ」

松潤、数値は常に高めだが、ドッキリには冷静に対処。なかなかビビリません。

と、目の前にパンチラお姉さん登場!松潤一気に数値アップ!!

「ぎゃははっ!まつもっさん、照れてるよ」

「純なやつだ」



~櫻井の場合~

案の定ビビリっぱなしの櫻井君。叫びまくってます。

「うわぁっ!!ビビったぁ・・・・」

「なんだよっ、止めろよっ」

テレビに映して良い顔でしょうか?ポイントをぐんぐん稼いでます。

「うひゃひゃひゃっ、翔ちゃんかっこわりぃ」

「見てらんない」

「さすがヘタレですね」

「なんか、かわいそうだな」



~キャプテンの場合~

数値は低め、ビビッたと言いながらも意外に冷静です。

「さとし君、結構冷静だね」

「翔君がビビりすぎなんだよ」

なんて会話のうちに最後のドッキリ部屋へ。

扉を開けると、そこには沢山の食べ物が・・・。

「うおー、すげぇ!」

キャプテンのテンションと一緒に数値は一気に上昇。

「これうまい。これもうまい」

高級料理から得体の知れないものまで、食べてはうまいを連発しています。

「コレってどっきりか?」

「つーか、数値上がってっけど、ビビってるわけじゃなくね?」

「でも、キャプテン超楽しそう!」

「いい加減帰ってきてくださいよ。まだ俺と相葉さんが残ってんですから」


~相葉の場合~

「よしっ!行ってきまぁす!!」

開始直後からテンションはMAXに。

と同時に数値は目盛りを振り切ったまま戻ってきません。

「うひゃひゃっ、すげぇビビった!!ひゃはっ!」

本人はとっても楽しそうですが、数値は一向に戻ってくる気配がありません。

「あーあ、コレじゃ測定できないね」

「んふふ、テンション上がりきっちゃってますね」

「ある意味すげえよ」

「相葉ちゃんらしいね。あ、コレうまい」

「「「持ってきたのかよっ!!」」」



~二宮の場合~

さすがというべきか、二宮さん。まったくもって動揺していません。

後ろからの大声も、不意に来る電流も、お姉さんのパンチラや、水着も余裕を持って受け流しております。

「すげえ、すげえ、にのかっこいい!!」

「最強だな。こいつがビビるモンなんてあんのかよ」

「なさそうだね」

と、ある所で二宮さんの足がとまります。それと同時に数値が急上昇。

「すっげえ上がった!!何見て上がったんだ?」

二宮の数値を上げたものとは!?

二宮の視線にあったものは、なんと相葉の写真。

楽屋での寝顔から、シャワー後までさまざまな写真が並んでます。

「おいおい、何でそこなんだよ・・・」

「まあ、ニノらしいけどね」

「えっ、なんで!?何で俺の写真でビビってんの?にのは俺が恐いのかよ~」

「んふふっ」

しばらく写真に見入っていた二宮が急に笑い出しました。

「んははっ。誰だよこの写真撮ったやつ」

笑顔ではありますが、目の奥が笑ってません。

「「「怖ぇよ、ニノ」」」

二宮さん、怒りで数値が上昇中。これ以上はテレビではお伝えできません。




皆さんお疲れ様でした。結果発表!!

嵐一番のビビリ王は・・・櫻井 翔くんでした。

「なんだよ、そのままかよ」

「やっぱりね」

「なんかつまんない」

「まあ、いいんじゃない?そのまますぎて逆におもし
ろいよ」

「なんだよっ、つまんないとか言うなよっ!お前らがおかしいんだよっ」

「それより相葉さん。いつの間にあんな写真撮られたの?だめじゃん、油断しちゃ。」

「ほえ?俺?だってみんなも撮られてんじゃん」

そう、写真は全員のものがあったのです。

当然二宮のものも。スタッフとしては、いつ撮られたか分からない自分の写真で驚いてもらおうという魂胆だったのですが。

「他のはどうでもいいんです。こんなあらわな姿をみんなに見せていいと思ってんの?」

と、写真を相葉の目の前に並べる。

(((持ってきたのかよっ・・・)))

他の3人は心の中でそうツッこまずにはいられなかった。






本日のそれぞれの結果

松潤・・・結構純情なことが判明

櫻井・・・何のサプライズもなくただのヘタレ

大野・・・食べ物サイコー

相葉・・・ある意味最強

二宮・・・やっぱり最強




終わり




太陽




俺は太陽が嫌いだった。


太陽は全てを照らし出すから。


嘘と虚勢で塗り固めてきた自分をさらけ出されてしまいそうだから。




でも、本当は焦がれていたのかもしれない。


時には熱く、焼けてしまいそうに熱く俺を照らし、


時には気まぐれに隠れて、どんなに願ってもその輝かしい姿を見せるのを拒む。


そして何より、全てのものを照らし、生命を育む暖かな存在。


そんな存在に焦がれていたんだ。


そして、俺は太陽と出会った。


それは俺を明るく照らし、その光に俺の嘘も虚勢もさらけ出された。


どうしていいのか分からなかった俺は随分うろたえた。


同時に泣きたくなるほど嬉しかったんだ。


その存在に照らされた俺は、とても暖かな光に抱きしめられたような気がした。


そして、それと同時に穏やかな気持ちを知り、その時初めて体温を持ったんだ。


嫌いだったけど、焦がれてやまない存在に俺は出会った。


その存在は俺にとってかけがえのないものとなった。


「にぃの」


「はい?」


「すっげーむずかしい顔してる。どうしたの?」


俺の眉間を指でつつき、撫でてしわを伸ばそうとする人。


「何でもありませんよ。相葉さん」


その指を掴んで唇を寄せる。


「なんだよー。なんか隠してるぅ」


頬をぷくっと膨らませる姿があまりに可愛らしく、愛おしくて思わず笑みがこぼれる。


「んふふ。まあ、あなたに言いたいことはありますよ」


「なに?」


「地球って、太陽がなかったら今みたいに人間が住めるような星じゃないんだよ」


「にの?」


何言ってるの?と首を傾げる相葉。


「つまり、地球は太陽がなくちゃ生きていけないってこと。それで、俺はその地球なんだ」


「それが俺に言いたいこと?」


今度は相葉が眉間にしわを寄せて考え込む。


「言いたいのはね、俺の気持ち。笑わないでくださいよ?」


「うん・・・」


期待に満ちた、でもどこか不安そうな表情で見つめる相葉。


こんな事自分が言う日が来るなんて、思ってもみなかった。


陳腐でくさくて、以前の俺なら絶対使わないだろう。


でも、今の俺の気持ちを一番表す言葉。


「相葉さん・・・」


―君は僕の太陽だ




終わり







魔法の言葉






「うー・・・にの・・・にの、にぃの」


何やらブツブツと呟く子羊が1匹。


「にの。にの・・・にのにのにのにのにのにのにのっ」


呟きは、ついに大声になって。


「はい、何ですか?」


「ほえ?あ、にの。なんでいるの?」


「何でって・・・あんた今、呼んでたでしょうが」



「呼んでないよ。なに言ってんの?」


「あんたこそ何言ってんの?」


今、にのにのって連呼してたじゃない。


「ああ、あれ。あれはにのを呼んだんじゃないの」


「俺を呼んだんじゃないなら、何なのよ」


「うーん、まあ・・・魔法・・・みたいな?」


「はあ?」


前からおかしかったけど、ついにここまで来たか・・・。


「あ、にの。今失礼な事考えたでしょ?」


おれ、わかるんだからね!


頬を膨らませる。


「いえ・・・まあ・・ね」


変なところで勘がいいんだから困る。


「で、何が魔法なのよ?」


「え?あ、そうそう。あのね!」


話の転換で、あっさり気を逸らすことに成功。


ホントかわいいね、あんた。


一生懸命話してるの見てると、押し倒したくなる。




「おれね、今日ちょっと仕事で失敗しちゃってね、落ち込んでんの」


あらら、それは大変。



「んで、元気になりたいの。だから」



うーん・・・。


「・・・相葉さん、いまいち分からないんですけど」


あんたの言ってることが。


「だーかーらぁ!元気になる魔法のことばなのっ!!」


「・・・・何が?」


「にのが!!」


にのって言うだけで、不思議と元気になれるの。


だから、『にの』は魔法の言葉なの。


「わかった?」


俺を見つめ、小首を傾げる子羊。



「・・・・」


なんてことでしょう。


言葉になりません。


不覚にもワタクシ、涙が出そうです。


あまりにも、あんたが可愛らしいことを言うもんだから、我慢ができそうにありません。


あんたの言葉で俺も元気になっちゃいました。


違うところが。


「にの?」


どうしたの?


俺の目の前で手を振っている子羊を、今から仕留めようと思います。


責任はとっていただかないとね。


ハンター二宮行きます!!



「ねぇ、相葉さん・・・」



そんな言葉よりもっと効く魔法・・・教えてあげるよ。




おわり




夢のあとさき



『にの、にの、ごめんね。おれ、もうにのとは付き合えないの』


・・・どうして?


『おれね、他にもっと・・・にのよりも、もっと大事な人ができたの』


嘘だ


『嘘じゃないよ』


それは・・・誰?


『にのも、よく知ってる人。にのよりもおれを大事にしてくれる。いつも一緒にいて、愛してくれるの』


相葉さん・・・何で、そんな幸せそうな顔してるの?


俺以外の人にそんな顔見せてるの?


俺よりあんたを幸せにできる奴なんているわけないでしょ?


俺よりあんたを愛せる奴なんて・・・いるわけない。


『なに言ってるの、にの。にのよりも愛してくれる人を見つけたんだ。
おれが寂しくて死んじゃいそうなときに、ずっとそばにいてくれたんだよ。
にの、いてくれなかったじゃん。
おれ・・・寂しいって、そばにいてって何度もお願いしたでしょ?
でも、にの、忙しいばっかりでそばにいてくれなかった・・・・』


あいばさん・・・


『ごめんね、にの。もうにのには会わないよ。ごめんね』


待って!!


『もう行くね、あの人が迎えにきてくれてるから・・・』


あの人?


『うん、ほらあそこ』


『雅紀、おいで』


あれは・・・?


『じゃあね、にの。ばいばい』


あいばさんっ!!


『ごめんね、待たせて。行こう、しょうちゃ・・・・』


「うわあぁっ!!」


すさまじい叫び声とともに、二宮は勢いよく飛び起きた。


呼吸は荒く、身体中びっしょりと汗をかいていた。


「ゆ・・・め?」


なんて夢だ、冗談じゃない。


震えが止まらない身体を抱きしめる。


今のが夢だと確信したくて、携帯を手に取った。


数回のコールで繋がる。


『もしもしぃ、にのぉ?どうしたの?』


「ちょっとね・・・、相葉さん、寝てた?」


『んーん、起きてたよ。にのはドラマの撮影?』


「うん・・・ロケ現場近くのホテル。相葉さんは、家?変わりない?」


『うん、家だよ。にの、どうしたの?何かへん』


調子わるいの?


「いや、絶好調ですよ」


『そう?ならいいけど、なんか声、元気ない』


さすが相葉、動物のカンか。


「本当に何でもないよ。ただ、あんたの声を聞きたくなっただけ」


『そうなの?』


「ええ」


本当のことなんて言えない。


あんたを奪われる夢を見たなんて。


それで、不安になったなんて。


誰にも渡さない、渡したくない。


俺と相葉の間を引き裂く奴なんて許さない!


そんなことあってたまるか!!



「ねぇ、相葉さん。俺、あんたのこと好きだよ」



『にの?』


俺の急な言葉に戸惑っている相葉。


「急に伝えたくなったんだ。あんたを好きな気持ちは誰にも負けないって。あんたの両親にも、ファンにも、櫻井翔にもね」


『・・・なんで翔君?』



「んふふ。なんとなくですよ」


『そうなの?でも、うれしい。ありがと。にの、最近忙しそうで、俺のことなんて見えてないと思ってた』


「相葉さん・・・」


ドキリとした。


この何ヶ月か、もちろん相葉と会うこともあったが、彼をちゃんと見ていたかと問われたら、自信がない。


あの夢は警告か・・・。


彼をしっかり繋ぎ止めておかないと、いつかその日が来るって事の。


「相葉さん・・・・会いたい。会いに行っても良いですか?」


どうにもならないくらい会いたくなった。


『うん・・・おれも会いたい』


「すぐ行きます」


電話を切ると急いで支度し、ホテルを出た。


明日の撮影は午後からだ。


時間は十分とは言えないが。


相葉さん。
こんなの陳腐かもしれないけど。


会って、抱きしめて、キスして、お互いがドロドロになるまで抱き合って、愛を確かめさせて。


俺の相葉だと、自惚れさせて。


いつだって、どんなときだって、俺にはあんただけなんだ。


あの悪夢が正夢になることのないよう、あなたを抱きしめに行く。




終わり



心理テスト




「おい、ニノ。ちょっとさ、付き合ってくんない?」


「え?無理ですよ。潤君のことは嫌いじゃないけど、俺には相葉さんって言う可愛い可愛いハニーちゃんが居るんで」


「誰が、その付き合えだって言ったんだよ、気持ち悪いこと言うな!」


「もう、潤君はノリが悪いな」


つまんないと、唇を尖らせた。


お前がやっても可愛くねえよ。


相葉ちゃんなら可愛いだろうけど。


「んで、何に付き合えばいいの?」


そう考えたのがニノには伝わったらしい。


ちょっと不機嫌そうに言葉を返してきた。


まあ、そんなことに動じる俺ではないけどね。


「そうそう、ちょっとした心理テスト」


「心理テスト?これまた突然ですね」


「いいじゃん。お前と相葉ちゃんの絆ってヤツを試すテストだよ」


「ふーん。ま、そんなことしなくても、俺と相葉さんの絆は最強ですよ。やるだけ無駄と思いますけど?」


勝ち誇ったような笑みが憎たらしい。


その顔を崩してやりたいという悪戯心が疼いたって、バチは当たんねぇだろ?


「じゃ、やってみようぜ。今からする質問に相葉ちゃんならどうか、思い浮かべて答えてよ」


「何でもどうぞ」


そうして始まった心理テスト。


いくつかの質問に、二宮は相葉を思い浮かべながら答えていく。



「質問はこれで終わり」


「一体これで何が分かるんですか?」


怪訝そうに聞いてくるニノに、思わず口の端が上がる。


「これで、相葉ちゃんの浮気度が分かったよ」


「浮気度?そんなのないでしょう。相手は俺だよ?」


バカ言ってんじゃないよ。


自信ありげなニノに、ますます笑いがこみ上げてくる。


「へー・・・、面白い結果が出たね」


挑戦的な視線をニノに向けた。


「なによ・・・面白い結果って?」


ニノの眉間にしわが寄る。



「相葉ちゃんの浮気度・・・・50%!」


「はぁ!!そんなにあるわけないでしょう!?」


何かの間違いですよ、そんなのと 認めようとしないニノ。


心理テストなんて興味なさそうだったくせに、ムキになって。


おもしれぇ。


「まぁまぁ。理由聞く?」


「・・・・。まぁ、全然当たってないでしょうけど、聞くだけ聞きましょう・・・」


無理しちゃって。


ほっぺた、引きつってんですけど、二宮さん?


「彼(彼女)に、基本的に他の子と遊ぼうという気はないようです・・・・」


「・・・ほら!そうでしょ?」


あからさまにホッとした様子のニノ。


「焦んなよ。まだ続きがあんだから!えーと・・・基本的には遊ぶ気はないようですが、ついうっかりで浮気に発展する可能性あり・・・
酔った勢いで、迫られてなどで関係を持つ場合があるかも・・・・だって?」


「・・・・・」


ニノの表情を窺う。


何も言わないニノ。


「ニノ?どうした?」


「・・・いえ、べつに・・・」


「もしかして、結構気にしちゃった?」


思い当たる節ありって感じ?


「そ、そんなわけないじゃないですか!!第一、そんなテストなんて全っ然信用してないし、相葉さんは俺にぞっこんですから、浮気なんてするわけないでしょう?何言ってんだか、潤君はホントにさ」



超早口になってるよ、ニノ。


お前さ、動揺すると早口になんだよな?



「確かに相葉ちゃん、押しに弱そうだもんな。酔ったときなんて目ウルウルさせてさ、見つめてくるし、ピタってくっついてくるし・・・・アレはヤバイよな、ぜってー誘ってるとしか思えないし・・・・」


それに追い討ちをかける俺も俺だけど。



思ったよりもダメージ大みたいだな。


握り締めた拳が震えてるぜ、ニノ。


一応フォロー入れとくか。


俺って優しいな。


「あ、まだ続きあった。今はあなたに夢中です。他の子なんて目に入らないでしょう。2人が上手くいっている限りは浮気の心配はゼロだってさ」


それを聞いたニノは急に態度を変える。


「そうでしょう。相葉さんに限って、そんなことはないですよ!他のヤツに目が行くなんてありえない。俺を誰だと思ってんですか」


1人で頷き、ありえないを繰り返す。


何か面白くねぇな。


ダメ押ししとくか。


「でも、あなたが忙しくてなかなか会えない日が続いたり、すれ違いが重なったりすると、確率がグンとアップするから気をつけてだって。そういえば相葉ちゃん、最近忙しくてニノと2人で会えないって寂しがってたな。翔君とよく遊びに行くみたいだけ・・・・・」



「あいばさーんっ!!」


俺が言い終わらないうちにニノは相葉ちゃんの元へと飛んで行った。


急に抱きつかれて、何が何だか分からない様子の相葉ちゃんは、あたふたしてる。


やっぱ、可愛いね。




いつも当然のように相葉ちゃんの隣にいるニノ。


こいつは俺のもんって余裕な顔してさ、相葉ちゃんを独占してる。



たまには形振り構わず相手に縋るのも悪くないだろう?



なんてね。






おわり




被害者



松本はうんざりした顔で隣に居る男を見つめていた。


今日は雑誌の取材でスタジオに来ているのだが、今は休憩時間。


取材の内容を確認している松本の横で、ずーっと携帯を見つめてニタニタとだらしない顔をしている男が1人。


二宮和也、同じグループのれっきとしたアイドルだ。


だが・・・今のこの顔は、誰にも見せられたモンじゃない。


思いっきり顔が崩れてる。


「んふふ・・・・」


おまけに怖い笑い方をする。


「おい、にの。お前怖ぇよ。さっきから、アイドルの顔じゃねぇ」


「んふふ、いいでしょ今はまだ。本番ではちゃんとやりますから」


そう言って、また携帯に目を落とす。



「んふふ・・・かぁわいい!」


まぁ、何を見てるかは見当がつく。


どうせ相葉ちゃんの写真かなんか見てんだろう?


「あっ!!」


「何だよ急に!びっくりすんだろ!」



いきなり叫んだニノに文句を言うが、ニノは俺なんてお構いなしに、顔をしかめて食い入るように携帯を見ている。


「もう、そんな格好で寝たら風邪ひくって、いっつも言ってんのに!まぁたこいつは!!」



「なぁ・・・さっきから何見てんの?相葉ちゃんの写真じゃねぇの?」


俺の言葉にニノは顔を上げ、ニヤリと笑った。


ああ、気味悪ぃ。


「・・・相葉さんに間違いないですけど、写真じゃありません」


「・・・じゃ、何?」


「見たいんですか?」


「いや・・・別に見たくはないけど・・・・」


正直まずい事を聞いたなと思った。


ニノの考えてる事は、相葉ちゃんに関してはろくでもないことが多いから。


「しょうがないなぁ。今日は気分が良いから特別に見せましょう!あ、今回だけですよ?」


「聞いてねぇだろ、人の話!!」


「んもう!そんな事言って、本当は見たいくせにぃ。素直じゃないんだから、潤君は。この俺が見て良いなんて、滅多に言いませんよ?」


ああ、アイドルじゃなかったら殴れるのに、こいつを。


「んふふ・・・超かわいいですよ?あ、でも、だからって好きになっても無駄ですからね?」


ならねぇよ・・・つーか、相葉ちゃんの事はそれなりに好きだけど、お前と張り合うなんざ、まっぴらごめんだ。


「あ!潤君!ほら、見て。」


目の前に出された携帯を見て、思わず固まった。


「・・・ニノ、何コレ?」


そこにはベッドに、タンクトップにショートパンツという、いでたちで眠っている相葉ちゃんの姿があった。


・・・これ相葉ちゃんの部屋だよな?


「何って、相葉さん」


「分かるよ、そんなの!じゃなくて・・・これ写真じゃねえよな?」


「はい。写真じゃないですね」


「動画・・・?」


「まぁ・・・。ライブですけど」


・ ・・・ライブ!?


ライブってことは・・・・相葉ちゃんの部屋にカメラあんのか?


何やってんだ、この男は!!


もう一度携帯に目をやると、画面の中の相葉ちゃんが寝返りをうった。


あ・・・大きく開かれた足が・・・・。


と思った瞬間、目の前の携帯を取り上げられ、ニノが睨みつけてきた。


「何見てんですか!?潤君は!!いやらしい・・・」


「はぁ!?お前が見せたんだろうがっ!!」


いい加減頭にきてブチぎれてみても、相手はニノだ。


やだやだと携帯の画面を撫でていて全く聞いちゃいない。


相葉病にかかってるニノに、道徳的なことを言っても無駄だろう。


呆れた視線をニノに送った。


「あ、起きた。目ぇこすって、かわぁいい!」


・・・・誰かこいつを何とかしてくれ。






おわり



被害者2



今日は久しぶりのオフ。
1日中寝て過ごそうと、大野は前日から心に決めていた。
それこそが自分のもっとも至福を感じる時なのだ。

なのに。

それなのに!!

何で自分は今ここに居るんだろう?
家ではなく、こんなところを歩いているのか・・・。


「ちょっと!!キャプテン、何自分の世界に入ってんですか?」


物思いに耽っていると、自分の幸福を見事にぶち壊した張本人が大野の身体を揺らした。


「おわっ!何すんだよぉ。」


「あんたがどっか行っちゃってるからでしょ?全く、人がせっかく誘ってあげたのにさ」


そう言って、大野を睨み付けるのは二宮。


「誘って欲しいなんて言ってないのに・・・」


「ああ?何か言った?」


「何も・・・」


惰眠をむさぼっていた大野が、突然の訪問者にそれを邪魔されたのは数時間前。


「せっかくの休みなんだから、出かけません?」


その笑顔は大野に選択権を与えなかった。



「ここだ!キャプテン入るよ?」


そして、何故か大野は今、二宮と渋谷のカフェに来ていた。
有無を言わせない圧力で大野を連れ出した二宮だが・・・。
大野を誘った本人は、誘ってあげたと言いながら、カフェについてからずっと携帯に見入っている。


「・・・なぁ、ニノ。さっきから何してんの?」


「・・・・・」


「なぁって!」


「・・・・」


話しかけても返事すらない。


「・・・・帰っていい?」


「ダメ」


聞いてんじゃん。


「一体何なんだよ?人を連れ出しといて。説明くらいしてくれよ」


普段から下がり気味の眉を更に下げて二宮を見遣る。
二宮は携帯から目を離すと、視線を大野へ向けた。


「1人だと怪しまれるでしょ?2人ならごまかしも利くじゃない」


「はぁ?何か答えになってねぇよ。意味が分からん。第一、今日は皆オフだろ?相葉ちゃんだって休みじゃねぇの?」


言外に自分じゃなくて、相葉を誘えと言うことを含めた。
途端に二宮の顔が不機嫌なものへと変わる。


「そんなこと、言われなくても最初にしてんだよ!それが出来なかったからしょうがなしにあんたを誘ったんでしょうが!」



どうやら相葉には先約があったらしい。
大野や相葉は最初からオフだったが、二宮は当初仕事のはずだった。
それが急遽キャンセルになり、出来たオフのため約束が出来なかったようだ。
二宮のイラつきからして、相葉の相手は要注意人物か・・・。
にしても、ひどい言われようだと、二宮に文句を言おうとしたら、二宮の携帯が鳴った。
物凄い勢いで携帯に飛びついた二宮に、大野は驚く。


「・・ニ、ニノ!?」


「・・・・来た!」


「な、何が?メール?」


「しっ!黙って!」


急に真剣な顔になったかと思うと、鋭い目線を入り口へ向けた。
何事かと、大野もそちらへ視線を向ける。


「あれ?相葉ちゃん!?」


そこにやってきたのは相葉だった。
自分たちに気付いていない相葉は、誰かを探すような仕草の後、席に座った。


「ニノ、どういうこと?」


先ほど、二宮は相葉と約束していないと言った。
なのに、ここに相葉がいる。
わけが分からず、大野は二宮に説明を求めた。


「んふふ・・・。コレですよ」


そう言って得意気に携帯を大野に見せた。


「コレって・・・」


「GPSですよ。待ち合わせの場所は分かってたんで先回りしたんですけど、何があるか分かりませんからね」


相葉ちゃんとニノが携帯一緒に替えたのは知ってたけど・・・・まさか、それって・・・。


「んふふ。もちろんGPS機能付きにするためですよ」


「ちょっ!人の心を読むなよ!」


「もう!あんたうっさいよ。ばれちゃうでしょうが。静かにして!」


お前の行動がおいらに大声出させてるんだけど!!
これは心の中で呟いて、二宮を睨み付けた。
そんな大野には目もくれず、二宮は何やら携帯を操作し始めた。

すると、二宮の携帯から何やらノイズが聞え始めた。
しばらくすると、今度はノイズの中に、微かな声が聞えてきた。

『・・・ヨコ、まだ来てなかったかぁ、良かった♪』

相葉ちゃんの声だ・・・、約束の相手ってヨコだったのかぁ・・・・って!何で相葉ちゃんの声!?

いや、まさか・・・・考えたくないんだけど・・・・。

「ん!感度良好!」

携帯を握り締め、二宮が笑顔で言う。

ニノ・・・・怖ぇ・・・。

大野が引きまくっているところに、二宮の携帯が再び音をたてた。

今度はメールのようだが・・・。

「・・・・ふん」

画面を確認した二宮の顔が険しくなる。

「相葉さんを待たせるなんざ、何様のつもりですかねぇ・・・」

「何のメール・・・なの?」

「ヨコちゃんからの相葉さんあてのメールですよ。遅れるってね」


「何で、ニノの所に相葉ちゃんあてのメールが・・・?」


恐る恐る大野が聞くと、二宮がしれっと答える。


「相葉さんあてのメールは全てこちらに、先に転送されるようにしてあるんで」


「え・・・。じゃあ、相葉ちゃんにメールが届くのは・・・・?」


「俺がチェックしてから転送しなおします」


変なメールは全部消去するんですよ。

・・・・・。


「でも、コレは好都合ですね」


「へ?お、おいっ、ニノ!?」


そういったかと思うと、二宮が相葉の方へと歩き出した。


「相葉さん」


呼ばれた声に振り返った相葉は大きく目を見開いた。


「にの!!キャプテンも!どうしてここに居るの?」


「休みで、街をぶらついてたら偶然会ったんですよ。ね?キャプテン!」


合わせろよと、二宮が威嚇してくる。


「え?あ、うん・・・」


「で、お茶しようかってここに入ったら、相葉さんまで来てるからびっくりだよ」


よく言うなぁと、大野は感心する。


「えー!すごいね!!そんな偶然あるんだね!運命だよ、運命!!」


目をキラキラと輝かせて言う相葉。

運命なんかじゃないよ、相葉ちゃん。
全ては仕組まれているんだよ・・・。


「んふふ。運命の出会いついでに、さっきヨコちゃんから連絡あって、急に仕事入っちゃったらしいよ。」


「えー!おれの所には連絡ないよ!」


ぷーっと、頬を膨らませる。


「慌てて電話したみたいで、間違えて俺のところにかかってきちゃったみたい。伝えといてって言われたから、電話しようと思ってたらさ、相葉さんがいるんだもん」


びっくりしちゃったと、笑顔で言う二宮に、大野は恐ろしいほどの相葉への執着心を見た。


「そっかぁ・・・ヨコ、慌てんぼうだもんね。しょうがないなぁ」


そういう問題じゃないんだよっ、相葉ちゃん!!
冷静に考えてよっ!どうしたら、相葉と二宮で、押し間違うの!?


「キャプテン・・・うるさい」


「っ!!」


おいら喋ってないのに・・・ニノ怖ぇよぉ。


「そうだ!相葉さん、コレで予定なくなったんですよね?俺と一緒に遊びません?」


「ふぇ?良いのぉ?」


「もちろん!大歓迎です」


「キャプテンもぉ?」


「へ?う、うん・・・」


「あ、キャプテンはこの後用事があるんですって。ねぇ?」


「え?用事って・・・・」


「ねぇ・・・・?」


すごい威圧感に思わず頷いた。


「う、うん」


「そっかぁ。じゃあ、にのと遊ぶ!!」


「んふふ。じゃ、行きましょう!!」



「うん!キャプテン、またね?」


「お、おう・・・」


1人取り残された大野。


「何なんだよっ!!」


責める相手などおらず、地団駄を踏む。

そこに、二宮からのメール。


『今日はどうも。どうもついでに、後処理よろしく!』


後処理って・・・・。


「はぁっ!遅れたぁっ。かっぺぇ、どこだぁ!!」


こいつか・・・・。

大野は大きくため息を吐いた。
何でおいらはあんなヤツと同じグループなんでしょうか・・・・。


誰か、助けて!!





おわり
二宮は呆れた表情で目の前の光景を見ていた。


「んふっ・・・・んにゃ・・・・」


そこにはいまだ夢の中の相葉の姿。

いつもの事とはいえ、こいつはいつになったら学習してくれるのだろう。


「幸せそうな顔しちゃって・・・、おいっ相葉、いい加減起きなさいよ、遅刻するよ!」

「んあ?あー・・・にのぉ、おはよぉ」

「はい、おはよう。って、あんた高校生にもなって人に起こしてもらってんじゃないよ」

「だってぇ、起きれないんだもん・・・」


そう言って、唇を尖らせる。


「だもんじゃないでしょ。早く起きて顔洗ってきなさい!先行くよ?」


「はぁい」


勢いよく起き上がると顔を洗いに部屋を出て行った。


「まったく、アレで年上なんだから、世の中おかしいよ・・・」



二宮は大きなため息を漏らした。


*****


「ねぇ、にの。今日ね、翔ちゃんの家にお呼ばれしてんの。だから一緒に帰れないんだぁ」


2人並んで歩く学校へ向う道すがら、相葉が言った。
それを聞いて一瞬眉を寄せた二宮だが、すぐに表情を戻すと何でもないように答える。 


「・・・そう、分かりました」

「あれ?にの来ないの?」


相葉は二宮の返答に不思議そうに二宮を見た。
いつもは絶対「俺も行きます」って言うのに。


「・・・ええ。俺今日バイトあるんで」

「えっ?にの、バイトしてるの?」

「・・・ええ」

「・・・いつから?」

「1ヶ月くらい前から」

「聞いてない・・・」

「言ってないもん」

「なんで言ってくんないの?」



突然、相葉が不機嫌になった。



「・・・何でいちいちあんたに報告すんのよ。面倒くさい」


相葉の顔も見ず、二宮は答える。


「だってぇ!おれがバイトするって言った時、やめろって言った!!」


二宮の前に立ち、頬を膨らませて睨み付ける。


「あんたのは、危機感なさすぎだったでしょうが。それに、無駄遣いしてお金ないからバイトなんて、そんな浅はかな目的じゃないんで」


相葉の睨みなど全く気にせず、淡々と答える。


「じゃあ・・・なんの目的なのさ?」

「・・・・別に・・・あんたに関係ないでしょ?」

「むー。にののばか」

「あんたに言われたくないよ」

「なんだよ!俺のが年上なんだぞ。年上をうまやえっ!!」

「うま・・・、それを言うなら‘うやまえ’だろ?そんなことも言えない奴は敬えねぇよ」


呆れ顔で二宮が突っ込んだ。


「うーっ!!ばかばか。にののばか!もういいもん。にのなんて知らなもん!」


反論できなくなった相葉は大声で叫ぶと駆け出した。


「ばーかっ!」



べぇっ!!



「あんたは、子供ですか・・・」



走り去った相葉を見送りながら、二宮は頭をかいた。



*****


「翔ちゃーん。ここ、わかんない」


学校が終わり、相葉は櫻井の家に来ていた。
何事にも真面目な櫻井に促され、今はお勉強の時間。


「んー、どれ?」

「これ」

「ああ、これはさ・・・」

「翔ちゃーん、つまんない」

「お前ねぇ、自分から聞いといて・・・まぁ、今日は止めるか?」

「うん。勉強おしまーい!」

「お前ずっと上の空だったよな?何かあった?」

「んーん・・・、何にもないよ」

「そっか?お、もうこんな時間か。メシ食ってくだろ?」

「うん!あ、ねぇ翔ちゃん。今日、泊まっても良い?」

「え?俺は構わないけど・・・明日休みだし。けど・・・いいの?」


櫻井は、窺うような視線を相葉に向ける。


「いいの?って、なにが?」

「いや・・・だからさ、ニノとか・・・知ってんのかなって」

「にのは関係ないの!」


途端に不機嫌になった相葉に櫻井はたじろいだ。


「そ、そう・・・。なら良いけど、家に連絡しとけよ?」

「はぁい!」


夕食を食べた後、お風呂に入り、櫻井の部屋で過ごす。
櫻井がお風呂へ行っているうちに家に電話を入れた。
電話を切った後、携帯のメモリからある名前を表示する。



二宮 和也



発信履歴を見ても、メール送信履歴を見ても、ほとんどが彼の名前で埋め尽くされていた。
家だって隣だし、ずっと一緒に育ってきたし、知らないことなんてないと思っていたのに。
二人が成長するにつれて、色々と知らないことが増えていった。


どうしても超えられない年齢の壁。


相葉が中学生になった頃から、特にその壁が高く、厚くなっていた。
いつの間にか、呼び名も「雅紀」から「相葉さん」に変わった。
それでも相葉は必死に二宮の近くに居ようとしたのだ。
毎日のように彼の部屋へ行き、その日あったことを全て話し、二宮からも聞いた。
迷惑そうにしながらもいつも二宮は話してくれたし、聞いてくれた。


それなのに。
バイトのことは教えてはくれなかったのだ。
今までこんなことなかったのに。
ショックだった。
バイトをしていたこと以上にショックだったのは、二宮のあの言葉。




『何でいちいちあんたに報告するのよ、面倒くさい』

『・・・別に・・・あんたに関係ないでしょ?』




「・・・にののばか・・・」


開いていた携帯を閉じた。



「相葉ちゃん、どうした?」


風呂から上がった櫻井が髪の毛を拭きながら相葉を覗き込んだ。


「ん?何でもないよ!翔ちゃん、服ありがとぉ」


風呂から出て、また制服を着るわけにもいかず、相葉は櫻井の服を借りていた。


「ああ。やっぱ相葉ちゃん細ぇな。ぶかぶかじゃん。」

「身長は俺のがあるのにね!翔ちゃんがたくましすぎんでしょ?筋肉ばかだもん」

「・・・お前ね・・・、追い出すぞ?」


頬を引きつらせて、答える櫻井に相葉が爆笑する。


「うひゃひゃっ、うそうそ。」

「ったく・・・。そろそろ寝るか?」

「うん!ね、ね、翔ちゃん。一緒に寝よ?」

「えっ!?な、何言ってんだよっ!一緒にって・・・」


突然の提案に、櫻井が目を見開いて慌てる。


「だめ?」

「だ、だめっていうか・・・その・・・ねぇ?」


櫻井は何と言っていいのか言葉につまる。
小首を傾げて自分を見つめる相葉はとても可愛らしく、思わずお願いを聞きたくなるが。
もし、相葉の言うとおりにしたら自分の命は確実にないだろうと、ある人物の顔を思い浮かべる。



相葉とは高校に入ってからの付き合いだ。
最初の印象は、綺麗な顔した美少年。
物憂げな眼差しに思わず見惚れた(本人としてはただボーっとしていただけらしい)


話してみたら、ただのお馬鹿さんだったのだが、それがまた可愛くて、構いたくて仕方なくなっていた。


それが何だか恋に似ていると、気付いた時はかなり焦ったが。


彼にどうやらそれらしい相手がいると知ってショックだったが、二宮と会って、すぐに納得した。
相葉の二宮を見る目、二宮の相葉を見る目、ともに絶大なる信頼を置いているのが分かったから。
自分に入り込む余地はないと実感してからは、2人の良き友達として付き合ってきた。

ただ、相葉に初めて二宮を紹介されたときから、二宮が見せる櫻井への警戒心はとてつもない。

きっと、二宮は櫻井の気持ちに気付いていたのだろう。
常に相葉の気付かないところで、牽制されてきた。

今までも、何度か泊まりに来た事はあったが、いつも二宮と一緒だった。
その二宮が相葉を1人で泊まらせるなんて。
普通に考えても、絶対にあり得ない。


今日の相葉は、朝から終始心ここにあらずだった。
急に泊まりたいと言ってきたところや、先ほどの相葉の態度からして、喧嘩でもしたのだろう。


「ねぇ、翔ちゃん!聞いてる?」

「あ?ああ・・・悪ぃ。お前さぁ、いつも誰かと寝たりしてんの?」

「・・・いつもじゃないけど、眠れないときは・・・にのがそうしてくれる・・・」



二宮の名前が出ると、途端に沈んだ顔をする相葉。



「・・・ニノと・・・喧嘩でもした?」


相葉の頭を撫でながら問う。


「・・・・喧嘩になんかならないよ。にのはおれのことなんて、どうでもいいんだから・・・」


俯き加減で相葉が呟いた。


「相葉ちゃん・・・。どうでもいいなんて、ニノは絶対思ってないと思うけど。」


そんな事、絶対にあり得ない。


「どうでもいいんだよ・・・・。だって、おれに内緒ごとするんだもん・・・」

「内緒事・・・?」


俯いたままの相葉の顔を覗き込むと、口を一文字にして泣くのを耐えているようだった。


「もう、いいじゃん。ね!寝よ?」


話を終わらせたいのか、相葉はベッドへと移動して、櫻井を呼ぶ。
ベッド誘われて、相葉にその気はないと分かっていても、櫻井の心臓は跳ね上がる。
どうしたもんかと考えあぐねていたところで、櫻井の携帯が鳴った。



「んー・・・残念。相葉ちゃん、お迎えだよ?」



そう言って相葉の前に携帯を差し出す。
ディスプレイには二宮の名前。
それを見た相葉が眉根を寄せて櫻井を睨む。



「翔ちゃん・・・連絡したの?」

「ああ・・・。ちょっと相葉ちゃんの様子がおかしかったからね」

「・・・翔ちゃんのばか」

「はいはい、ごめんねバカで」



でもね、俺も命が惜しいんですよ。



相葉の手を取り、玄関へ向かう。




ドアを開けると、不機嫌そうな二宮の姿があった。


「・・・あんた、俺に断りもなく何やってんの?」



あまり聞いた事のない二宮の低い声に櫻井は驚いた。



「・・・・なんだよぉ。おれは悪くないもん・・・。悪いのはにのでしょぉ・・・。おれに内緒ごとしてぇ・・・」


一気に泣きそうになる相葉に、二宮は大きなため息を吐いた。
そのため息に相葉の肩がびくっと跳ねる。


「に、ニノ、何があったかしらねぇけどさ・・・・」

「知らないなら黙ってて下さい」

「は、はい・・・」



間に入ろうとした櫻井を一蹴し、相葉を見据える。


今朝のやり取りから、相葉が拗ねているのは分かっていた。
櫻井からの連絡を受け、すぐに迎えに来たのだが。


玄関が開いて二宮の眼に映った相葉は、櫻井の服に身を包んでいた。
二宮の苛立ちが増す。


「・・・・お前さ・・・まず着替えろ」

「ふぇ?」

「いいから!その翔君に借りた服、全部脱いで着替えろ!!」


急に大声を出した二宮に相葉と櫻井は固まった。


「・・・早くしないと、ここで脱がすよ?」

「じ、自分できがえる・・・」


そう言って櫻井の部屋へと戻っていった。


「ニノさぁ・・・、相葉ちゃんヘコんでたぜ?お前が自分の事なんてどうでもいいと思ってるって。だから内緒事するんだってさ」

「・・・・はぁ・・・・。ホント、馬鹿なんだから・・・」


二宮が呆れたように頭をかいた。


「何隠してんの?」

「別に・・・たいした事じゃありません・・・」


二宮がそこまで言ったところで、相葉が着替えて戻ってきた。



「・・・帰るよ」

「・・・やだ」

「相葉!」

「やだ!」

「・・・分かった。もういいよ」



二宮は身を翻し、歩き出そうとする。


「え?ちょっ、にの?やだぁ・・・・まってぇ・・・・」

「・・・・あんたさぁ。・・・どっちなんだよ!?あんたが帰らないなら、俺1人帰るっつってんの!」



「やだぁ・・・」



ついに泣き始めた相葉に、大きくため息を吐いて二宮が近寄る。


「うぇ・・・うー・・にのぉ・・・怒ってる?おれのこと、嫌いになった?」

「・・・怒ってないし、嫌いにもなってないよ?」

「ほんとぉ?」



目にいっぱい涙を溜めて、窺うように二宮を見上げる。


「ええ。俺、あんたの事大好きだもん」



二宮が相葉の頭を撫でると、嬉しそうにその手に頭を擦り付けた。
その仕草に微笑んで手を差し出す。


「相葉さん・・・雅紀。一緒に帰ろう?」

「うぇっ・・・ん。にのと帰るぅ・・・」


そう言って相葉が二宮の手を握る。


「ということですんで連れて帰ります。今日のところは、お礼を言います。まぁ、次はないですけど」


二宮が櫻井に頭を下げた。
それを見て相葉も頭を下げる。


「翔・・・ちゃん、お世話にっ・・・なりました」

「はい、どうも」


そんな2人に櫻井は苦笑して、手を振った。




*****


2人が帰ってきたのは二宮の部屋。
相葉はまだ半泣き状態だ。


「・・・いい加減泣き止みなさいよ」


顔、腫れるよ?


「うぇ・・・くっ、だってぇ・・・。にのに嫌われたと・・・うっ・・おも・・たんだもぉん・・・うっ・・・」

「嫌いになんかなってないって、言ったでしょ?」


あんたが思ってるより、相当あんたにイカレてんだよ。


「うっん。でも、じゃあ・・・・どうして教えてくれなかったのぉ?バイトのこと・・・。おれ、ほんとに悲しかったんだからぁ・・・」

「・・・・あんたに言ったら、自分もやるって言うでしょ?」

「うっ・・・・」

言葉につまった相葉、どうやら図星のようだ。

「だから言わなかったの。前にも言ったけど、いくら俺だってバイト中にあんたの面倒まで見れないからね」

「なんだよ・・・それぇ・・・うぇっ」

「もう・・泣くなって。変な意味じゃないよ。ただ、心配だからいつでも俺のそばに居て欲しいってこと!それに、一緒にバイトなんかしたら俺だって、仕事どころじゃないだろ?」



あんたが心配で。



そう言って、相葉の頭を撫でた。


「にぃのぉ・・・・」


更に大粒の涙を流す相葉。


「もう・・・だから泣き止めって。明日不細工だったら、口きかないよ?」

「やだ!!」


一生懸命に涙を堪えようとする相葉が何とも愛おしくて、二宮は微笑んだ。
頭に置いた手を頬へとずらし、涙を拭ってやる。
そんな二宮をじっと見つめる相葉。


「・・・何?」

「ううん・・・にの、やさしい・・・」

「俺はいつだって優しいでしょ?」

「うん・・・。でも今日は冷たかったもん・・・」


朝の二宮の態度を言っているのだろうと、すぐに分かった。


「あれは・・・あんたが翔君の家に行くなんていうから」

「何で?いつも行くじゃない?」

「だから!今日は俺がいけないから、ちょっと心配だったんだよっ!」

いくら理性のあるヤツで自分と相葉の事を知っていても、翔君だって男なんだからさ。

「えへへ・・・」


「何笑ってんの?」

「にのに嫌われたんじゃなくて良かった」


ようやく相葉に笑顔が戻る。


「だから、そう言ってんじゃん」


呆れたように言う二宮。



「うふふ。あ、でもさ・・・なんでバイト始めたの?にのお金持ちなのに。確か、お金がないからバイトなんて理由じゃないって言ってたよね?」

「・・・あんた、頭悪いくせに変なところで記憶力が良いんですね・・・」

「なっ、にのひどいっ!」


再び顔が崩れそうな相葉に、二宮は少しばかり焦る。


「まっ、頼むから泣くなよ?」


俺、あんたの泣き顔苦手なんだ。


「教えてくれなきゃ泣く!!」

「変に賢くなりやがって・・・」


二宮は顔をしかめる。


「ねぇ!どうして?」


もう少し黙っていようと思っていたのに。


「・・・夏休みに、どっか行きたいって言ってたでしょ?」

「へ?」

「だから!夏休み2人でどっか行きたいねって、あんた前に言ってたじゃん!」

「ああ・・・言ったかな・・・え?それで?」


驚いて二宮を見ると、顔を少し赤らめてそっぽを向いた。


「どうせ行くなら、泊りが良いなって・・・・思ったんだよ」

「にぃのぉ・・・・」



思いがけない二宮の言葉にせっかく戻った顔がくしゃりと崩れた。



「あーあ、泣くなって言ったじゃん」

「だってぇ、嬉しいんだもん・・・」


ガバッと抱きついてきた相葉を受け止めると、ポンポンと背中を叩く。


「おれ、自分が情けなくって・・・いっつもにのは、おれよりも先にいて・・・・年下なのに頼ってばっかで、迷惑かけて情けない・・・」

「・・・あのね、そんなの今更なの。いつも迷惑かけられて嫌ならとっくに離れてるよ。それでも、俺があんたのそばにいたいから、いるんでしょ?分かる?」


それにさ、しっかりしたあんたなんて気持ち悪くて嫌だよ。



「・・・・分かった!」

「そ。なら、もう泣き止めよ?」

「俺もバイトする!!

「・・・はぁ!?」

「だって、にののバイトの目的が俺との旅行って分かった以上は、おれだって資金稼がなきゃ!」


相葉は拳を高く突き上げた。


全然俺の言ってる事、分かってねぇじゃんと、顔を覆う二宮。


「あのさぁ・・・ま、いいや。それはそれで好都合かも。どうせ、そのつもりだったし・・・」


二宮は相葉に気付かれないよう、ニヤリと笑う。


「ん?何か言った?」

「いいえ。ねぇ相葉さん、お金はねもう充分溜まったから、今日でバイト終わりにしたんだ」

「えー、そうなの?おれも頑張ろうと思ったのにぃ・・・」

「んふふ、でもあんたには働いて貰おうかな?」


「へ?」


「商売の基本は需要と供給。あんたは自分の旅行代金を稼ぎたい、俺はそれに見合うお金を持っている。俺のためにバイトしてみる?」



さぁ、どうする?



「じゅようときょうきゅう・・・よく分かんないけど、にののために働いたら良いの?」

「そうだね・・・俺を満足させてくれたら、それでいいよ」


「分かった!おれ頑張る。にのを満足させるよ!!何すればいい?」


「んふふ・・・、何してくれんの?」

「にのがして欲しいことなら、なんでも!!」

「何でもねぇ・・・。じゃあ、キスして?」

「ええっ!おれから・・・するの?」



相葉の顔が一気に赤くなった。



「はい、もちろん」

「うう・・・」

「出来ないの?」

「やるよぉ・・・目瞑って?」


相葉に言われて、目を瞑る。


二宮に近づくと、相葉はそっと触れるだけのキスをした。
その唇が震えているのを自分の唇で感じ取った二宮は思わず笑う。



「おわりっ!なんだよぅ、笑うなぁ!」

「んはは。だって、あんた。可愛いんだもん」


キスなんて、何度だってしてるのに。


「だって、おれからなんて・・・はじめてだもん!」

「うん、そうだね。ねぇ相葉さん・・・初めてついでに、もう少し踏み込んでみようか?」

「え?」

「これだけじゃ、満足できないってことだよ」



相葉の腕を引き自分に近づけると、相葉の後頭部に手を回して一気に引き寄せキスをした。



「んっ!んはっ・・・あんん」


先ほどの触れるようなキスではなく、相手の唇を喰らいつくすように激しいキス。


二宮の舌が相葉の口腔内を犯す。


充分に味わうと、最後に下唇に吸い付いて二宮の唇が離れていった。


「ふあっ・・・・ん」


うつろな瞳で、無意識に離れた唇を追おうとする相葉に苦笑する。


「気持ち・・・良かったでしょ?」

「食べられちゃうのかと思った・・・」

「んははっ、そうだね。それも間違いじゃないね」

「もう・・・、笑うなぁ!だって、変だったの!!なんか・・・苦しいのに、気持ちくて・・・でも、嫌じゃない。苦しくてやめてって思うのに・・・・」

「止められると、もっとって?」

「う、うん・・・・にの・・・なんなの?」

「知りたい?」

「にのは・・・わかるの?」



おれのこの気持ちが。



「そうだね・・・・それが俺の求めてるものかな?」



二宮と相葉は、小さい頃から一緒にいて、お互いに好意を持っていることも承知していた。
しかし、2人の間にキス以上の関係はない。


キスだって小さい頃からの習慣で、触れるだけのものしかしたことがなかった。

いまだ、子供のように純粋な相葉。
彼の心が自分に追いついてくるまでは待とうと思っていた。

しかし、日に日に綺麗で魅力的に成長していく相葉に焦りを感じていたのも確かで。
姿かたちの成長とはうらはらに、中身が成長しきれていない相葉は、色々と危ない目にも会いそうになってきた。


先日のアルバイトの件だってそうだ。


何の疑いもなく信じていた。
そんな割のいいバイトが、そうそうあるわけないのに。

このまま彼の成長をのんびりと待っていたら、他のやつに掻っ攫われるかもしれない。
先日の出来事から、二宮の中に焦りが生じた。


そこに、夏休みの話が出てきて。
二宮はチャンスだと思った。
2人の関係を変えるチャンスだと。


「にのの、求めてるもの・・・・」


相葉は少し不安そうに二宮を見上げ、そして決意を固めた表情をした。


「にの・・・教えて?おれ、どうすればいい?」

「・・・いいの?」

「・・・うん。にのの求めてるものが知りたい。にのに満足してもらいたい・・・」

「あのね、あいば・・・・雅紀。まず聞くけど、さっきのキス、嫌じゃなかったって言ったよね?」

「うん」

「アレさ・・・俺じゃなかったら、どう?例えば、翔君とか・・・」



「翔ちゃんと?・・・・だめ、考えられない」



少し考えた後、大きく首を振る。



「どうして?」

「え?どうしてって・・・だって、にのとしかできないよ」

「どうして俺とは出来るの?」

「にのとは・・・・にのはおれの好きな人だもん。キスは好きな人とするものでしょ?」



初めてキスしたときに、にのがそう言ったじゃない。



「うん・・・そうだね、安心した。じゃあ、その先も・・・俺となら出来る?」

「よく・・・分かんないけど、にのとならなんだって大丈夫だと思う」



相葉は不安そうに、でもしっかりと二宮を見て答える。


「上出来。雅紀、おいで?」


相葉の手を引いて自分の腕の中に導くと、再び口付けた。

それは先ほどよりももっと激しく深いもので、息さえも飲み込まれそうで、相葉は二宮のシャツをぎゅっと握り締めた。



「んはっ・・・ん、あっ・・・」


キスに夢中な相葉のシャツの裾から手を滑り込ませ、胸の突起を擦り上げると、相葉の身体がビクンと跳ねる。


「んあっ・・・ん、にのぉ」


戸惑いと不安の入り混じった瞳から大粒の涙が零れた。


「大丈夫。あんたはただ、感じてくれれば良い・・・俺を感じてくれれば・・・」


ゆっくりと相葉を押し倒すと、シャツを脱がし胸の突起に唇を落とす。
舌先で転がしたり押しつぶしたり、初めての相葉の感触を確かめるように優しく愛撫する。


「あふっ・・・ん・・ん・・・あぁっ!」


身体のラインに沿って手を下ろしていき、反応を始めている相葉自身に触れた。
そのまま布越しにやんわりと擦ると、面白いほどに相葉の身体が跳ね上がる。


「う、あっん・・・んっ、あぁ」


相葉の反応を見ながらズボンを下ろすと、直接相葉自身を握りこみ、上下に動かす。


「ああっん・・・んっ、にの、にの・・・こわいっ・・・・・」


初めて味わうその強烈な刺激に恐怖を感じ、二宮の名前を呼び続ける相葉。
瞳からは止め処なく涙が溢れる。


そんな相葉に、二宮は優しく声をかける。


「・・・まさき、大丈夫だよ。俺も雅紀と同じだから・・・」


そう言って、自らの欲望を相葉の大腿に押し付けた。


「あ・・・・に、にの?」



二宮の熱いものを感じて、相葉の瞳が揺れた。



「好きだからキスするのと同じ・・・好きだから、触れたい。触れて確かめたいんだ。雅紀が俺と同じ気持ちだって・・・。それが俺の求めてるものだよ」



相葉の頬を撫で、切なげに目を細めた。


「触れて・・・いい?」


無理矢理奪いたいわけじゃない、気持ちがないと意味がないんだ。


「う・・ん、さわって?おれのきもち・・・確かめて?」



不安だけど、大丈夫。



にのがいてくれるんだから。


「ありがとう・・・」


額にキスを贈り、再び相葉を握りこむ。
不安にさせないよう顔中にキスを落としながら、それでも先ほどよりも激しく動く二宮の手は、確実に相葉を追い込んでいく。


「んっ!あ、あっ・・・に、にのっ、なんか・・・あ、だめっ・・・」


「・・・いいよ、出して?」


相葉の絶頂が近いと知り、更に動きを早め射精を促す。




「あ、あ・・・だっ・・・でちゃ・・・ああっ!」




相葉の一際高い声と共に、二宮の手の中に白濁の液体が流れてくる。




「はぁん・・・・」




肩で息をして、くったりと動けない相葉の代わりに二宮は後始末を済まし、相葉の衣服を整えた。

いまだぼんやりと天井を見ている相葉の顔を覗き込み、にっこりと笑った。



「どうだった?気持ち良かったでしょ?」


「え・・・うん」


顔を真っ赤にして目を逸らす。


「良かった。今日はもうゆっくり寝なさい」


「え?に、にのは?しないの?」

「今日は・・・止めとく。あんたの身体も心配だしね。身体辛いでしょ?徐々に慣らしていかないと。」



初めての強い刺激に頭も身体もついてこられないようで、相葉はまだ動く事もままならないようだった。



「でもっ・・・おれだって、確かめたいよ、にのの気持ち」


「んふふ、それは今度の旅行の時までとっとくよ。それまでに、まだまだあんたにはやってもらいたい事がたくさんあるからね」 


「まだ、他にもやる事があるの?」


再び不安そうに二宮を見る。


「ええ、まだまだ。俺を満足させてくれるんでしょ?これじゃまだ、バイト料は出せないよ」


満足なんて、一生しないけど。
あんたのバイトが終わる事は、俺が生きてる限りないってことだよ。


これは、バイトじゃなくて永久就職するしかないかもね。



ベッドに横たわる相葉に、優しく触れるだけのキスをした。





おわり
俺は小さい頃から冷めたところがあった。


皆と一緒に鬼ごっこしたり、かくれんぼしたりはしていたけれど、けっして皆のようにムキになったりはしなかった。

それが気に食わないと嫌がらせされたりもしたけど、それすらも特に何とも思わなかった。


今思えば、本当に扱いづらいガキだったと自分でも思う。




今の事務所に入ったのだって、自らの意志じゃなかった。
従姉妹が送った履歴書が通っただけの話。
オーディションに行くのを拒む俺に母親が5千円くれたから行っただけの事。


やる気もなく踊っていたのに、何故か合格。
レッスンも来いと言われたから行った。
特にやる気はなかったけど、振りを覚えるのは早かった。
そのせいか、真ん中で踊らされる事もあったけど、別に何とも思わなかった。

それが他のジュニアに反感を買っているのも知っていたけど、どうでも良かった。


今思うと、本当になんて嫌なヤツだと自分でも思う。




その頃の俺は冷めていて、ゲームをしている時だけが自分の唯一自分らしい時間だった。


俺がジュニアに入った頃は、ちょうど周りの奴らも俺もお年頃で、話といえば女の事やエッチな事ばかり。
男が寄れば、いつだってそんなもんだろう。

誰が好きだの、告っただの、ヤっただの、ヤリたいだの。

そんな話になんとなく混ざっていた時に聞かれた事があった。


好きな人はいないのか、誰かにときめいた事はないのかと。



ときめく?女に?

ないね。

昨日始めたゲームの展開にはときめいたけど。


そう言ったら、呆れられ、そして言われた。



「それは本当の恋を知らないからだよ」



余計なお世話だ。
じゃあ、お前は知ってるのかよ?
俺とそんなに歳は変わらないだろう?
たかが女とヤったくらいで恋愛マスター気取ってんじゃねぇよ。


でも、そう言って笑ったヤツは悔しいくらいにキラキラしていた。


いくら踊りでセンターを取っても、活躍を褒められても、俺はそいつのキラキラには勝てなかった。



それが恋ってヤツなんだろうか?



恋って、何だよ・・・?




家に帰って辞書を引いた。


「恋=特定の人物に強く惹かれること。切ないまでに深く想いを寄せること」


よく分からない。



その頃の俺は、恋って何なんだろうって、よく考えていた。


冷めていたけど、きっとあいつらのキラキラが羨ましかったんだ。





そんな時だった。



彼が俺の前に現われたのは。



踊る事にも、レッスンにも飽き飽きしていた俺は、事務所を辞めたいといつ言おうかということばかり考えていた。
その日も、今日こそは辞めると言おうと決意してレッスン場に来ていた。


いつもはレッスンが始まるまでゲームをしているのだけれど、その日は鞄に入れてくるのを忘れていたため、なんとなくぼんやりと過ごしていた。
レッスン場のドアが開いたのも偶然見ていただけだ。


遠慮がちに入ってきた1人の少年の姿に俺は目を見張った。



なんて綺麗な子なんだろう。



すらっとした細身の身体にさらさらな髪の毛、小さい顔に大きくて黒い瞳、ぷっくりとした唇。




衝撃的な出会いだった。




どうやら初めてのレッスンらしく、知り合いもいないようで、1人隅っこに座って、周りを窺っている。
その様子が何とも可愛らしくて、俺は話してみたい衝動に駆られた。


自ら行動を起こしたのは、ゲームをする事以外では初めてだったかもしれない。



「ね、ねえ・・・、君初めて?」



柄にもなく緊張した。
声も裏返り、どもったりして。


「え?う、うん・・・」



彼が振り返り目が合った瞬間、俺の体温は一気に上昇した。
体中の血が沸きあがり、湯気が出るんじゃないかというくらいに熱かった。


「あの・・・おれ、あいばまさきって言います・・・」



そう言ってぺこりと頭を下げた。



その声は少し高めで、ハスキーで、耳ではなく俺の脳に直接響いた。



「俺は・・・に、二宮和也って言うんだけど・・・」



俺の声は震えていただろう。



「にのみやくん・・・よろしくね」
「よろしく・・・」



差し出した手に自分の手を重ねた瞬間、電流が駆け抜けた。


身体がしびれた。
心臓が暴れだす。



その日の俺はどうやってレッスンを終えたのか、全く覚えていない。



気がついたら終わっていた。



「あの・・・二宮君・・・」
「な、何?」
「一緒に帰らない?」
「え?う、うん・・・」



一緒に歩いた帰り道。



偶然にも帰る方向が一緒だった俺たちは、沈黙の中ひたすら歩く。



何を話せばいい?
分からない。
でも、何か話したい。


気ばかりが焦っていた。



「あのさ、二宮君はもう長いの?事務所に入って」
「え?ううん、まだちょっとだけ・・・」


「そっかぁ、おれね初めてだったからすごく不安だったんだけど、二宮君が話しかけてくれたから嬉しかったの。だから・・・これからもよろしくね?」


俺の前に立ち、両手をぎゅっと握って俺を見つめる彼に、再び心臓が踊りだす。



「う、うん。こちらこそ、よろしく」



電車に乗ってたわいない話をして、俺のほうが先に降りて、彼を見送った。



今日で辞めようと思っていたのに。
これで辞められないな。
自然と顔が綻ぶ。

あんなに辞めたかったはずだ。
踊りもレッスンも嫌だったのに。
今はもう辞める気すらない。

いつも見ているはずの街並みが、今日は何だか違う。
何だかキラキラ、ピカピカ光って見えた。

身体はいまだに熱い。
熱でも出たのか。
そんな事はないはず。
身体は熱いのに、足取りはとっても軽いから。
今にもスキップしたくなるくらいに。

こんな街中でスキップしてたら、それこそ危ないヤツだな。
そう思って、1人笑った。



ふと、今日初めて会った彼を思い出した。

彼のはにかんだ笑顔と、甘い声。
それを思うと、体が熱い。
顔が綻ぶ。
街中がきらめく。


また、会いたいと思う。

何だろう、この感覚。
もう一度彼に会えば、分かるだろうか?



それからの俺は、今までにないくらい熱心にレッスンへ通った。


俺の変貌振りに周りはかなり驚いていたけれど、そんな事も気にならない。
ただ、楽しかった。
相葉と居ることが、楽しくて仕方なかった。
彼といると、相変わらず身体が熱いし、彼に触れられるとそこから身体がしびれる。



彼が笑うと世界はキラキラと輝き、踊りだしたくなる。
同時に胸が締め付けられる。







それが恋だと気付いたのは、もう少し後の事。



気付いてからは早かったよ。
全力で相葉を落としにかかった。
まぁ、出会ったときからの運命ってヤツだったんじゃないかな?
こうなる事は。




「にぃのっ!!」



「・・・はい?」



「はい?じゃない!!さっきから話しかけてんのに、ボーっとしちゃって!!具合悪い?」
「いいえ、ちょっと思い出してたの」
「なにを?」

「あんたとの運命の出会いを・・・ね?」
「運命って・・・あ、今日・・・8月15日ね!!」



「お前、忘れてただろ?」
「ちっ、違うよ!忘れてたんじゃないよ、思い出せなかっただけで・・・」
「それを忘れてたって言うんだよ。はい、お仕置き決定!」


「えーっ!ちょっと、待って!何でもするからさ、お仕置きは待って」
「だめぇ。記念日忘れた罰として・・・・一生を俺に捧げなさい」



「ふぇ?に、にの?」
「返事は!?」
「は、はいっ!!って・・・ええ!!」



「んふふ、相葉さん・・・愛してる」
「んっ・・・」



真っ赤な顔で慌てふためく彼にそっとキスをする。





恋って何だって、色々考えたりもしたけど、あんたに出会ってそんな事全部ぶっ飛んだよ。
理屈で考えたってしょうがない。
身体が、心が、俺の全てがあんたを欲した。



そういう事。



愛しい俺の恋人。
あんたに出会って俺は、知ったんだよ。




本当の恋ってヤツを。





おわり
「あーいばさんっ!」
「なぁに、にの?」



首を傾げる相葉に、二宮はデレッと顔を崩した。
相変わらず可愛いなぁ。


出会った頃から変わらない純粋さは、少なからず自分の努力の賜物だと自負している。
こんなに手塩に掛けて、可愛く可愛く育ててきたのに・・・・。
まぁ、それは置いといて。




「あのさ、明日のオフどうします?」
「明日のオフ?んーとね、どうしようかな?」
「明日は、とりあえずのんびりしたいからさ、相葉さんの部屋はどう?」
「へ?なにが?」
「だから、明日のオフの過ごし方!」
「あれ?おれ、にのと約束してたっけ?」
「したじゃん!一緒にいようって!!忘れるなんてひどいよ相葉さん・・・・俺楽しみにしてたのに・・・」




二宮が眉毛を下げて、目を潤ませると、相葉は途端に慌てだした。



「ご、ごめんね?おれ、忘れちゃって・・・でも、ちゃんと一緒にいるよ!明日はにのがしたいことしよう?ね?」



二宮の目が光る。
さすが「俺の」相葉さん、疑うって事を知らない子なんです。



「うん!とりあえずさ、相葉さんの家でのんびりしてー、それから・・・「誰がいつ、そんな約束したんだろうなぁ? 」



二宮の計画を阻止しようとする男の登場。




「あ、松潤。おつかれぇ」



チッ。



「舌打ちしてんじゃねぇよ。人がいない時に手ぇ出そうとしやがって。ホント、とんだ策士だな」
「うるさいですよ、潤くん!目離した隙に人のものに手ぇ出したのはあなたの方でしょ!俺の相葉さん、穢しやがって・・・」
「穢したって・・・誰が、いつお前のもんになったんだよ!「俺の相葉さん」とか言ってんなよ。相葉ちゃんが付き合ってるのは俺だろ?」




勝ち誇ったように言う松本を二宮は忌々しそうに見遣る。


そう、二宮が手塩に掛けて守ってきた可愛い可愛い存在は、この男によって穢された。


少なくとも二宮はそう思っている。


そのまま言い合い続ける2人をきょとんと見つめる相葉。



「・・・仲良しだね、2人とも。じゃれ合っちゃって可愛いなぁ」



「「仲良くねぇよ(ありません)!」」


「うひゃひゃっ。息もぴったりだね!」
「もう、あなたは・・・・愛情掛けて育ててきたのに・・・・こんな顔の濃い男に引っかかるなんて・・・」
「濃くて悪かったな!!」

「ひっかかる?おれ、引っかかったの?」
「そうですよぉ。あの顔が迫ってきて怖くて断れなかったんでしょ?ああ、俺がその場にいてあげたら、こんな事にはならなかったのに」



そう言って大げさに顔を覆って見せる。



「にの?よく分かんないけど、元気出して?」


二宮の頭を撫でて、慰める相葉。


「あいばさーん」


どこからそんな声が出るのかと言うほどに、甘ったるい声で相葉に抱きつく二宮。


「くふふ、よしよーし」


嬉しそうにそれを受け止めている相葉。


「相葉さんが明日、一緒にいてくれたら元気出ると思うんだけどなぁ・・・・ダメ?」


わざと目を潤ませておねだりする二宮を、相葉が無下にできるわけなどなく。


「それでにのが元気になるなら、良いよぉ」
「ホント!?じゃあ、決まり!」



そう言って二宮は松本に目線を送った。
その顔は先ほどの松本同様、勝ち誇っているように見えて。



「やってらんねぇ・・・」



それを呆れた様子でしばし見つめ、松本はその場を離れた。



*****




「俺さ・・・・相葉ちゃんの事・・・好きなんだ」
「おれも、松潤好きだよ?」
「いや、そうじゃなくてさ。その・・・LOVEってことでさ・・・」
「・・・うん、おれも・・・らぶだよ?」
「じゃあ・・・俺と付き合ってくれんの?」
「・・・・うん」



相葉が自分を受け入れてくれた事は奇跡に近いと、松本は思う。
彼に、こんな感情を抱くようになったのはいつ頃だったか。


ほとんど変わらない時期に事務所に入り、同じように仕事をこなしてきた。
相葉は昔から危なっかしくて、目の離せないヤツだった。
現場でも年下で、当時彼よりかなり背の低かった俺がフォローに回る事も多かった。


同じグループとしてデビューしてからもそれは変わらなくて。


でも、それが迷惑なんて思った事はなくて、むしろ頼られる事が嬉しかった。
彼が笑って「松潤ありがとう」と言ってくれる事が何より嬉しかった。
思えば、その頃から始まっていたんだと思う。



そして、俺と同じように・・・いや、それ以上に相葉を溺愛し、守ってきたのはニノ。
いつも相葉の近くにいて、彼を助けてきたのは俺ではなく確かに二宮だ。
相葉も二宮に絶大な信頼を寄せていた。



それは今も、昔も代わりのない事実。


だからこそ、自分の気持ちに相葉が応えてくれたことが信じられなかった。
もしかして二宮の言うように、ただ単に断れなかっただけなのかもしれない。


彼は優しいから。
嵐というグループを壊したくないだけなのではないか。
そんなことばかり考えてしまう。



俺らしくない。



鏡に映る自分を見て、松本は自嘲気味に笑った。



「あーいばさん?」
「へ?ああ、なぁに?」
「それはこっちの台詞!ボーっとしちゃって、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ねぇ、明日何しようか?」
「・・・ホントに良いの?」
「なにが?」
「何がって・・・・」


今、あんたの視線の先は潤君だったじゃない。
その意味を込めて、二宮は自分の視線を松本へと向けた。


「・・・ねぇ、にの。おれってさ・・・・ん、やっぱいいや、なんでもない」


そう言って相葉はメイク室へと消えていった。



「・・・・・」



その姿を見送った二宮が、鏡の前にいる松本に近寄る。


「潤君・・・・」
「あ?」
「俺さ、本当に相葉さんの事、大事なの」
「何だよ、改まって」


そんな事知ってるよ。



「・・・・ホント、潤君ってばか。」



松本の言葉に二宮は呆れたのか、それだけ言うとさっさと大野のところへ行ってしまった。



「・・・何だよ、一体」



松本はわけも分からず顔をしかめた。







―収録後―



「松潤」
「ん、何?」
「あのね、明日なんだけど・・・・」
「ああ・・・ニノと遊ぶんだろ?」
「え?あ・・・うん。でもね・・・?」
「まぁ、あんまりはしゃぎ過ぎんなよ?じゃあな。お疲れ」



相葉の頭をポンポンと優しく叩くと、松本は楽屋を出て行った。




「・・・・なんだよ、ばか・・・」




相葉の言葉は松本には届かなかった。




******



数日後。



相葉はまだ誰も来ていない楽屋で1人、物思いに耽っていた。


結局この間のオフは二宮と過ごした。
楽しかったし、充実したオフだった。
なのに・・・相葉の心には雲がかかっているようだった。



どんな人が好き?
そう聞かれて、頭に浮かぶ人は1人だけ。



ぶっきらぼうで、怖いってイメージがある彼。
だけど、知ってる。
クールぶってるけど、子供っぽいところもあって、熱いハートを持っている。
本当は誰よりも優しくて、誰よりも人の事を考えているひと。



でも、優しさは時に残酷で。
心臓をえぐられる様な感覚さえ覚える。



無意識に心臓の辺りを押さえた。



「相葉さん?」



物思いに耽っている相葉に声をかけたのは二宮。
相葉の座っているソファーの隣に腰掛けた。



「んー?」
「最近よく考え込んでるね。潤君のこと?」
「にのはさぁ、松潤のこと、どう思う?」
「好きですよ?」
「・・・あげないよ?松潤はおれのだもん」
「いらないよ・・・あいにく潤君にそんな感情は持ってませんから。あんたと違って」
「・・・・松潤はどうなのかなぁ?本当におれのこと・・・・」



そこまで言って相葉は口を噤む。
それ以上口にしたら、現実になりそうで。



「あんたってさ、本当にいつも余計な事はうるさいくらいなのに、本気の時ほど何も言わないよね。まぁ、そんなところもあんたらしいけど」



相葉に寄り添い、肩を抱いた。



「にのといると、安心する・・・」


そう言って二宮の肩にもたれかかる。


「んふふ、今からでも遅くないですよ?俺にする?」
「ばーか、んな簡単なことじゃないでしょ?」
「まぁ、そうですけど・・・案外簡単なんじゃないですか?」
「え?」
「あんたがしたいようにするだけ。だって、あんたは何一つ、迷っちゃいないでしょ?」




顔を上げて二宮を見た。
穏やかに笑っている二宮。
いつも頼ってしまう自分を、暖かく、時には厳しく諭してくれる。
頑張る勇気をくれる。



「にの・・・うん。そうだね。にのの言うとおりだ」



おれは何一つ迷ってない。
松潤への想いも、これからどうしたいかも。



「にの、ありがと。だいすき」
「んふふ。俺も大好きだから、何かあったらいつでもおいで?」



いつだって受け入れオッケイだからね!



そう言って笑ってくれる二宮にぎゅっと抱きついた。



「・・・・何やってんの?」



「あ、松潤。おはよ!あのね・・・今日、この後空いてる?」
「・・・ああ」
「じゃあさ、飯行こうよ!!最近行ってないし、ね!!」
「・・・・・」
「松潤?予定あった?」
「・・・いや?いいよ」
「じゃあ、後でね!!」




「・・・・・」




「愛しき人の背中を見つめ、何を思うか若人よ・・・・ってね」



「・・・お前、ふざけてんの?」
「別に、ふざけてなんかいませんよ。恋に悩める若人へエールをね、送ってるわけですよ」



嘯く二宮を松本は睨み付ける。



「・・・・」
「潤君さ・・・俺がこの間言ったこと覚えてる?」
「あ?」
「俺、言ったでしょ?本当に相葉さんが大事なんだって。俺ね、相葉さん泣かせるヤツ・・・大っ嫌いなの。たとえそれが、俺の友達でも、メンバーでも、恋人でもね・・・」



「・・・何が言いたい?」



松本の低い声にも、全く動じず不適に笑う二宮。



「自信がないなら・・・とっとと退けって言ってんだよ。『現』恋人さん?」

「ふざけんなっ!」



二宮の挑発に、松本が切れて二宮に詰め寄った。



「ふざけてるのは、そっちでしょう?いい加減気付きなさいよ。」
「何にだよ」
「・・・ホント呆れる。今度また、同じ事を俺に言わせるようなら・・・その時は容赦しないから・・・」



そう言い残して、二宮は松本から離れた。




「何なんだよ・・・」




*****


「でね!そしたら、そこでね、翔ちゃんがね・・・・松潤?聞いてる?」


「あ?ああ、悪い・・・何だって?」
「ううん、なんでもない・・・」


仕事も終わって、相葉と2人、久しぶりに食事にやって来た。


しかし、二宮との先ほどのやり取りが頭から離れず、どうしても考えてしまう。
自分は一体何に気付いていないというのか。


思いつめたような表情の松本を相葉が見つめる。


「どうしたの?つまんない?」
「いや、そんな事ないよ」
「・・・そう?疲れてるのかな?そろそろ帰る?」
「ああ。相葉ちゃん・・・ウチ来る?飲みなおそうか?」
「うん!!松潤のウチ久しぶりだぁ!くふふっ」







「ビールでいい?」
「うん!!相変わらず綺麗だね、松潤の部屋。にのとは大違い!くふふ」



そのひと言に松本の動きが止まる。
そして、ビールの缶をテーブルに叩きつけた。



物凄い音に相葉は肩を震わせ、目を見開いた。




「ま、まつじゅん!?」
「なぁ、お前さ・・・どうして俺と付き合おうと思ったの?」
「え?」



多少酔いも回っていた。



「本当に俺の事・・・好きで付き合ってんの?」
「な、なに言ってんの?当たり前でしょ?」



松本の信じがたい言葉に、相葉の顔が歪む。
それでも一度堰を切ってしまった言葉は止まらない。



「お前見てるとさ、俺じゃなくてニノのことが好きなんじゃないかって思えてしょうがねぇんだよ」
「そんなこと・・・・」
「いつだってニノ、ニノ、ニノ!この間のオフだって、今日だって・・・・俺聞いたんだよ、今日楽屋でニノに大好きって言ってたじゃねぇか!」
「それは・・・・」
「もう・・・お前の事分かんねぇよ。何なんだよ、一体さぁ!」




ダンッ!!





テーブルに手を叩きつけたのは相葉。



「・・・・・だろ?」


「あ?聞こえねぇよ」
「おれのこと・・・好きじゃないのは松潤の方だろ!?」
「は!?」
「いつだって、逃げるのは松潤じゃん!この間のオフだって、おれ言おうとしたんだよ?松潤といたいって。なのに・・・なんだよ!『にのと遊ぶんだろ?はしゃぎすぎんなよ』って!」
「あいばちゃ・・・」
「そんなこと言われたら、何にも言えないじゃん!それに今日だってそう!勝手におれとにのの話の1部だけ聞いて、何にも分かっちゃないくせに!!」



相葉の眼から涙が落ちた。



「おれはいつだってしっかり立ってるよ・・・いつだって松潤をまっすぐ見てる。なのに・・・
おれを見てないのは松潤のほうでしょお・・・」



おれが見つめても眼を逸らす。
縋ろうとする手をすり抜ける。



逃げているのはあなたのほう。




そのくせ、おれを捕らえて離してくれない。
本当にずるいひと。



嫌いになんてなれない。
だって、大好きなんだ。



ボロボロとこぼれる涙を止めようとギュッと眼を瞑る。



不意に身体を暖かいものに包まれた。
それが松本の体温だと知って、涙は止まるどころか次々と溢れてきた。



「相葉ちゃん・・・ごめん」
「ふぇ・・・くっ、まつじゅ・・・が、すきぃ・・・すきだよぉ」
「うん・・・うん。俺も相葉ちゃんの事好きだ」



ようやく判った気がする。
二宮の言った事が。


本当に気付いてないのは俺の方だったって事。
疑心暗鬼になりすぎて、自分の気持ち、相葉の気持ちを置き去りにしていた。
相葉は最初から俺に応えてくれていたのに。
信じてやれなかった。


それに相葉は深く傷ついていたのだろう。
それにも気付いてやれなかった。
二宮が怒るのも当然だ。



周りなんて気にする必要ない。
何でそんな簡単な事を忘れていたのか。


肝心なのは俺の気持ちだろ?




「俺、相葉ちゃんの事本当に好きだよ。それは誰にも負けないし、負けるつもりもない。これからだって、手放すつもりはねぇよ」



抱きしめる腕に力を込めた。



「うん・・・うん」
「お前が好き」
「おれもぉ」



相葉の腕が背中に回る。



もう一度強く抱き合って。
見つめ合って。
笑い合って。



キスをした。



キスして、抱き合って、またキスして。




恥ずかしいくらいに愛を囁いて。



最後に相葉が勘弁してって泣きついた。



*****



「あーいばさんっ」
「にの、なぁに?」
「今日なんですけど、予定あります?」
「えー・・・ないけど」
「じゃあさ、俺と・・・「あいにく!お前と出かける余裕はねぇみたいだぜ?」」


「あ、松潤。おはよぉ」
「ん。おはよ」



チッ



「今、舌打ちしただろ?」
「ふん、何だか急に恋人ヅラしちゃって、いけ好かない」
「残念だな、恋人ヅラじゃなくて、恋人なんだよ!」
「へー、ついこの間とは随分違う態度だこと?」
「まぁな。お前にゃ感謝してるよ」



なんだかんだ言って、二宮に背中を押されたのは事実だ。



「・・・勘違いしないで下さい。俺は相葉さんの味方なんです。決してあなたの味方じゃない」
「そうだな」
「今度同じ事したら・・・」
「容赦しないんだろ?肝に銘じるよ」
「・・・可愛くないですね」
「お前相手に可愛くしてもな」
「・・・・ま、良いでしょう。猶予を差し上げます。次はないですからね」
「サンキュ」



そんなやり取りを見ていた相葉がひと言。



「くふふ、相変わらず仲良しだねぇ2人」


「だから仲良くねぇ(ない)って!!」
「ほらぁ、息ぴったり!」



二宮が松本を見て不適に笑い、相葉の耳元で言った。



「相葉さん、相葉さん。小耳にはさんだんですけどね、顔の濃い人はえっちもしつこいんだって。潤君なんて止めた方が良いよ。絶対しつこいもん」




「えー・・・確かに、当たってるかも・・・」



そう言って顔を赤らめた。



「あ、あいばさん!?」



「あ、でもね?しつこいって言うんじゃなくて・・・なんて言うのかな・・・情熱的?」



上目遣いで恥ずかしそうに言う相葉の姿に、二宮は膝から崩れ落ちた。




「お、俺の相葉さんが・・・穢された。あんな男に・・・・邪魔してやる・・・・絶対邪魔してやる」




ブツブツとうわ言のように繰り返す。





「にの?松潤、にのどうしたのかな?」
「・・・さぁ?腹でも痛いんじゃねぇ?」
「えー・・・大丈夫かな?」


心配そうに二宮を見ている相葉に、ちょっとだけ腹が立って。



「相葉ちゃん・・・」
「へ?」





振り向きざまにキスしてやった。




おわり
どれくらいの奇跡が重なって、僕らは出会ったんだろう。



この地球上の60億人の中のたったの5人。
幾重もの奇跡がおれたちを巡り合わせてくれた。


時々考える事がある。
皆に出会わなかったら、おれはどんな人生だったんだろう。
それなりに幸せで、それなりに楽しくて、たぶん・・・それなりの人生を送っていたのかな?


でもそれはきっと、「それなり」以上になることはなかったんだろうな。


1人欠けても、それは同じ。


俺たちは5人だからこそ、最高の「奇跡」なんだ。


もしかしたら、おれたちは遥か昔、5人で1つだったのかもしれない。
それが何かのきっかけで5つに分かれてしまって。
この時代にそれを取り戻すかのように、5人が引き合わされた。
そんな気さえする。


時を越えて、再び1つになれたおれたちは今、最強に最高で、最高に感動的だ。


まさに奇跡の集団って感じでしょ?


おれは、いつだって「嵐」のことを想ってるし、考えてる。
それは誰にも負けないよ?


メンバーにだって、ファンの子にだって!
きっとおれが1番嵐のこと好きだもん。
これは絶対ね!!


おれね、いつも心の中でメンバーに「ありがとう」って言ってるの。
それは、何かしてもらったとか、お世話になってるからじゃなくて。
彼らの存在そのものに「ありがとう」って。



おれは、彼らの存在があればどんな困難だって乗り越えられるよ。
たとえ、1人で立ち向かわなくちゃならないことでも、近くに彼らがいなくても。
彼らがおれと同じこの世界に存在してるってことだけで、頑張れる。


それくらいに大切で、必要な人たち。
だから、いつも「おれと共にいてくれてありがとう」って言ってるの。


本人たちには照れくさくて言えないでしょ?こんなこと。


みんなには内緒のはなし。



「・・・さん?・・・・相葉さん!!」



「うわっ!にの、なに?急に大声出さないでよ、びっくりするでしょ!」
「何言ってんですか、さっきから呼んでるのに返事しないのはあんたでしょ!」
「考えごとしてたの!!」
「どうせまた、くっだらないこと考えてたんでしょうが!」



そう言って、にのがおれの頭を小突く。



「いでっ!ぶったなぁ・・・・翔ちゃぁん、にのがぶったぁ・・・」


おれは翔ちゃんに助けを求める。


「おお、大丈夫か?どこが痛い?ここか?よしよし。相葉ちゃんぶつなんて、ひどい男だな、ニノちゃんは」


翔ちゃんがおれを慰めて、にのをなじる。


「はんっ!翔チャンに言われたくないですね。早く相葉さんから離れなさいよ。じゃないと、五体満足でここから出られませんよ?」



「ひぇっ!」



にのが翔ちゃんを脅して、翔ちゃんが怯える。



「翔君はカッコ悪ぃなぁ・・・」
「ホント、ヘタレだな」



キャプテンと松潤が翔ちゃんをいじる。




いつもの楽屋、いつもの風景。



「ちょっ!!相葉さん!?」
「・・・え?」


にのが突然慌てだした。
おれのホッペに手を添える。



ああ・・・おれ、泣いてんだ。



「どうした?相葉ちゃん?」
「うん・・・」



松潤が聞く。



「うん、じゃ分かんねぇよ?どうした?どっか痛いのか?気分が悪い?」
「・・・ううん」



翔ちゃんが心配してる。




「相葉ちゃん、少し休む?水飲むか?」
「・・・うん」



キャプテンが気遣う。




みんなの声を聞く度に涙が溢れて、おれのホッペを流れていく。





「相葉さん・・・・大丈夫だよ。分かってるから。悲しいわけじゃないんだね?」
「・・・にの」




にのが微笑む。



うん。
にのの言うとおり。



悲しいわけじゃない。



幸せなんだ。



今、この時を彼らと過ごしていることが。



幸せでたまらないんだ。



「にの・・・、おれね・・・・」
「言わなくても良いよ、分かってるって。やっぱり、くだらないこと考えてた!」
「・・・くだらなくねぇもん・・・」
「んふふっ、そうかもね」



にのはにっこりと笑って頭を撫でてくれる。
他の皆も心配そうにおれを見てた。



「相葉ちゃん、大丈夫なのか ?」
「大丈夫だよ。ありがと、キャプテン!」



いつもほんわかした雰囲気で、おれを包んでくれる。
おれが辛い時、何にも言わないけど、ただそばにいてくれるの知ってる。
それが本当に安らぐの。
ありがとう。



「あんま、無理すんなよ?言いたいことあるならちゃんと言え」
「うん・・・ありがと、松潤」


厳しいことも言うけど、いつもそれに見合う行動でおれを引っ張ってくれる。
本当は優しくて、いつでも人のことを考えているの知ってる。
それが本当に励みになるの。
ありがとう。



「ホント、大丈夫か?フォローなら、いくらでもすっからさ。ほどほどでやれよ?」
「うん・・・ありがとね、翔ちゃん」



いつだっておれを盛り上げてくれるひと。
一緒にばかやって、一緒にテンションあげて、盛り上がって、怒られて。
いつも笑い合って、最高に楽しいひと。
でも、影ですっごい努力してるの知ってる。
それがまた、おれに元気をくれるの。
ありがとう。




「んふふ、泣いちゃったね。目が真っ赤。冷やそうね、ウサギさん?」
「ん・・・・ありがとう。にの・・・大好き」



にの。
おれの最愛のひと。
にのと出会ったところから、おれの「奇跡」が始まった。

でも、にのを好きになったのは奇跡じゃないよ?



運命だから。



何でも器用にこなす姿は本当にカッコよくて、おれも頑張ろうって思う。
人の気持ちを読み取るのが上手で、おれが落ち込んでる時、本当に欲しい言葉をくれる。


いつもおれに勇気をくれる。


口は悪いけど、本当は優しくて真っ直ぐなんだって知ってる。
大好きで、大好きでたまらないひと。
おれを好きになってくれてありがとう。





みんな大好き!!






「ほら、相葉さん行くよ?」



にのが言う



他のみんなも笑ってる。
きっとおれも笑ってる。



みんなと同じ顔で。




「うん!行こう!!」




元気よく答えて、おれはみんなの元へと歩き出した。







いくつもの奇跡が重なって、今こうしていること。
おれたちが集ったこの奇跡のような日に。





ありがとう。







おわり
「ふあ~・・・眠い・・・」


大きなあくびをしながら相葉は学校への道を歩く。


何でこんなに眠いのか。
休みの日はすっごくすっきりと目が覚めるのに、学校行くとなるとダメだ。
別に嫌いなわけじゃないのになぁと、あくびで涙がたまった瞳を擦る。


「ふあ~・・・あ!」


前方に俺より眠そうな男を発見!!
フラフラと歩いていて、今にも側溝にはまりそうだ。

そんな彼に苦笑しながら近づく。



「大野君!おはよぉ」
「・・・おう、相葉ちゃん」
「大野君、寝ながら歩かないでよ、危なっかしい。そのうち溝に落ちるよ?昨日、寝てないの?」
「・・・んあ?寝たよ。たっぷり10時間。でも眠い・・・」
「寝すぎで眠いんじゃないの?」
「そうかも・・・」


この、のんびりした男は大野智。
相葉のクラスメイトで親友。
人見知りの激しい相葉が、高校に入学して唯一最初から心を許せた人物だ。
このふんわりとした雰囲気と、彼の周りに流れる空気が相葉を安心させたのだろう。
以後、2年生になる現在まで、学校でのほとんどの時間一緒にいる。

その、のんびりとした見た目とは裏腹に、運動神経が抜群で、よく色々な部に助っ人を頼まれている。

実際、試合に出ている大野は別人のように機敏でカッコいい。
男子生徒のみならず、女子生徒の注目の的にもなっている。
そのため、学校ではかなりの有名人だ。


今までにも、数々の部が彼を正式部員にしたいと誘ってきている。
本人は全くその気がないので、断ってしまうのだが。

助っ人を頼むのもひと苦労らしい。
彼をやる気にするのは大変なのだ。
それでよく運動部の連中が相葉に泣きついてくる。

大野は相葉が頼めばたいてい助っ人を引き受けてくれるから。
それを知っている連中は大野ではなく、最初から相葉にお願いに来るくらいだ。


だが大野とて、ただボーっとしているわけではない。



「そうだ、大野君。今日もいつもの時間に行けばいいの?美術室」
「ん?ああ、そうだね」
「俺苦手なんだよぉ、じっとしてんの・・・」
「だから、動いてもいいって言ってんじゃん。相葉ちゃんが勝手に止まってんだもん」


苦笑いして相葉を見る。


「だって!モデルっつったら、普通ポーズ決めて立ってんじゃん!そういうイメージじゃん!」


そう、実は大野は美術部の部長なのだ。
大野の描く絵は本当に綺麗で、感動的だ。
本来、大野は風景画が専門だという。
それが何故だか突然、相葉をモデルにしたいと言い出した。
大野と相葉が親しくなったのも、大野が相葉をモデルにしたいと声をかけたのがきっかけだった。

初めは断っていた相葉だったが、大野の絵を見た瞬間に快諾した。
それほどに人を惹きつける。


「まぁ、相葉ちゃんらしいけど。別に何してくれててもいいよ。勝手に描くから」
「ふーん・・・そういうもん?」
「そういうもん・・・・にしても、眠いなぁ・・・」
「もう、さっきからそれしか言ってないじゃん」
「そうだったか?」
「そうだよ」
「すまん」
「まぁ、いいけどさ。ねぇ、今日の1限って何だっけ?」
「知らね」
「もう!大野君はいつもそうなんだから!」
「何だよぉ、相葉ちゃんだって人の事言えねぇじゃん」




そんな2人に不機嫌そうな声がかかる。


「朝から何をぎゃぁぎゃぁ言ってんだよ、うるせぇな」

「あ、松潤だ。おはよぉ」


声をかけてきたのは、もう1人のクラスメイトで友人の松本潤。
綺麗な顔立ちと、優雅な身のこなし、クールな態度が女子生徒にはたまらないらしく、人気は絶大だ。
何やら雑誌モデルの仕事をしているらしく、ただの高校の制服であるブレザーが、彼が着ると一瞬にして高級ジャケットに早替わりするから不思議だ。
こちらも学校で1・2位を争う有名人。



しかし寝起きの悪い彼は、朝はいつも機嫌が良くない。
それを知っている人は朝の彼には話しかけないくらいだ。
以前、それを知らずにうるさく付きまとっていた女子生徒の胸ぐらを掴み、地を這うような低い声で「失せろ」と言ったのは有名な話。


だが、この2人は別だった。


「相変わらず濃い顔だね、松潤は。ね、大野君」
「おう、朝はまた格別濃いな」
「・・・お前らな・・・」

「ひゃあ、大野君。松潤が怒るよ。怖いよ。うひゃひゃ!」
「松潤、怒ったら駄目だぞ。怒ると更に顔が濃くなるからな」
「あ、大野君今いいこと言った!」
「おう!今日イチの名言だな!」
「名言でもねぇし、いいことじゃねぇ!お前ら俺で遊びやがって・・・後から分かってんだろうなぁ?」


「うひゃひゃっ!松潤怖いよー。でも、おもしれぇ!」

更にヒートアップして笑う2人に松本は顔をしかめつつ、ため息を吐く。
それでもこの2人にキレたりはしない。
それだけ信頼できる間柄なのだ。


いつも通りの3人の、いつも通りの風景がそこにはあった。



*****


「ふあ~・・・」


授業中のあくびをごまかすように、相葉は窓の外へ顔を向ける。


「おれも大野君のこと言えないな・・・あ・・・」


グラウンドに翔ちゃん発見!!


「くふふ・・・運動オンチの癖に張り切っちゃって」


グラウンドでは、相葉の友人である櫻井 翔が体育の授業中。
彼もこの学校の有名人の1人。



頭脳明晰、眉目秀麗。
彼のためにあるような言葉。

その吸い込まれそうに大きな瞳と、柔らかい物腰に腰砕ける女生徒は数知れず。
真面目で、何事にも一生懸命で、時には馬鹿にもなって盛り上がれる彼は、男子生徒からも大人気だった。


それが、彼を生徒会長という地位まで押し上げたのだろう。
相葉の自慢の友達だ。


ちょっと、運動オンチのヘタレだけどね。
これは内緒にしておこう。


おれの友達は、みんな自慢できる人たち。
彼らみたいに凄く特殊な、選ばれた人たちがどうして自分なんかと一緒にいてくれるのか。
相葉はそれが不思議だった。
本人たちに聞くと、みんな驚いた顔をして、「何言ってんの、人のこと言えないじゃん」って言うんだ。


意味分かんない。


ふと櫻井が校舎の方を見上げて、相葉と目が合う。
にっこり笑って相葉に大きく手を振る櫻井に苦笑しながらも手を振り返す。


「翔ちゃん、授業に集中しろよ・・・・」


もちろん相葉も人のことは言えないのだが。
相葉は再びあくびをかみ殺した。



*****


「っしゃ!昼だ!大野くん、松潤、学食行こうぜ!!」


チャイムと同時に立ち上がり、大野の席まで来ると授業中ずっと寝ていた大野を揺り起こす。



「んあ?授業は・・・?」
「もう、終わったよ!!ずっと寝てんだもん。早くいこうぜ!松潤も!!」
「・・・ああ」


大野、松本と並んで学食へと向かう。
昼時は廊下も生徒でごった返していて、騒がしい。
その中でも相葉たち3人は目立つ存在のようだ。
学校の有名人2人と歩いているのだから当然で、すれ違う生徒が皆、相葉たちを振り返る。
それもいつもの事と、3人とも気にはしていなかった。


そんな中、生徒たちでごった返している廊下の向こうから1人の女子生徒が相葉たちの前まで歩み寄ってきた。

3人を見渡した女子生徒は相葉の前で立ち止まると、何も言わずに相葉を上から下まで品定めをするかのように見た後、睨み付ける。


その大きな目はメイクにより、更に大きく強調されていた。
小柄ながらも、スタイルの良いのが分かる制服の着こなし。
俗に言う美人の部類に入るだろう。

どこかで見たことあるような・・・。
そんなことをぼんやりと考えていると、彼女が口を開いた。


「・・・あんたが、相葉 雅紀?」
「へ?あ・・・はい。そうですけどっ・・・」



パンッ!



相葉の返答を聞かないうちに廊下内に乾いた音が響いた。
一瞬で、騒がしかった廊下が静まり返った。
相葉の頬に痛みが走る。





「「相葉ちゃんっ!!」」


隣にいた大野と松本が大声を上げる。
その声でようやく自分が彼女に殴られたんだと知る。


「あ、あんた!何してんだよっ!!」


相葉と女子生徒の間に入り、松本が声を荒げた。
大野も相葉を庇うように前へ出る。


「おおのくん・・・いいよ、大丈夫だから・・・松潤も・・・ね?」
「あいばちゃん・・・」


大野と松本を制し、相葉は彼女へ向き直る。


ああ・・・この子、この間まで、よく翔ちゃんと一緒にいた子だ。
生徒会の役員の1人。


ウチのクラスの男子もよく話題にしてたっけ。
可愛くて、スタイルも良くて、付き合いたい女子生徒の5本の指に入るとか。
そういえば、翔ちゃんと付き合ってるとか何とか噂になってたっけ。

翔ちゃんは違うって言ってたけど。


でも、結構前の話だよなぁ・・・。


黙っている相葉に痺れを切らした彼女が再び口を開いた。


「何で・・・何であんたなの!?」
「あの・・・おれ、なんかしました?」
「何よ、とぼけるの?」
「とぼけるもなにも・・・」


本当に心当たりがない。


相葉のその態度が更に彼女をイラつかせたようで。


「ふざけるのも、いい加減にしてよ!どうして?何でいつもあんたなのよ!?」


今にも泣きそうな彼女が再び手をふり上げる。


また叩かれる!


そう思ってぎゅっと目を瞑った相葉だったが、乾いた音はしたのに先ほどのような衝撃はない。

そっと眼を開けると、自分の前にいた大野の頬が赤くなっていた。


「お、大野君!?だ、大丈夫?」
「結構、効いたなぁ・・・相葉ちゃん、痛かったでしょ?」
「おれの事より・・・大野君は?」


そんなやり取りを見ていたその女子生徒は、大野と相葉の間に入り、更に相葉へと詰め寄ろうとした。

それを止めたのは松本。


「あんたいい加減にしなよ。何があったか知んねぇけど、ちょっとひどいんじゃない?」


松本に腕を掴まれ、迫力ある顔で言われて女子生徒は少し怯んだようだが、相葉を睨み付けるのは止めなかった。


「何でよ・・・、大野君も、松本君も何でこの人を庇うの!?櫻井君も・・・・二宮君だって!!どうしていつもこの人なのよ!」


そう叫んで走り去った彼女は泣いていた。




*****



「相葉ちゃん・・・大丈夫?」
「え?う、うん」


呆然と立ち尽くしていた相葉だったが、大野と松本の声で我に返る。


「あ、大野くん、大丈夫?ごめんね?よく分かんないけど・・・おれのせいで・・・」
「おいらは平気だよ。それより、相葉ちゃんこそ大丈夫?可愛い顔が赤くなっちゃって・・・」

痛かったねと、相葉の頬を撫でる。


「ううん、大丈夫。松潤もありがとぉ」
「ああ・・・にしても、何だよあいつ・・・」


相葉の頭に手を置いて微笑んだ後、顔をしかめる。

 
「あの子さ・・・さっきの女の子、泣いてたね。おれがなんかしたのかなぁ?」


ぶたれた頬に手を当てながら相葉が呟いた。


「お前さぁ、どこまでお人よしだよ?いきなり来て、こっちのわけが分からないまま殴られてんだ。怒るとこだろ?」
「そうだけど・・・」


相葉は先ほどの彼女が最後に言っていた言葉を思い出す。


「ねぇ・・・大野君、松潤・・・にのみやって、だれ?」


「あ?ああ、そういえば言ってたな。二宮・・・って、あいつか?」
「知ってるの?」

「・・・思い当たるヤツは1人・・・1つ下のヤツで翔君と生徒会の役員やってる・・・」
「ああ、ニノのことか?」

「大野君、知ってるの!?その・・・にのみやって子」
「おお。時々授業サボりに美術室に来るぞ?なかなか面白いヤツだな」


「・・・おれ、その子・・・二宮君?のこと知らないんだけど、さっきの彼女が言ってたよね?確か・・・大野君も、松本君も櫻井君も、二宮君もって・・・」


あれって、どういう意味なのかな?


相葉の質問に大野と松本が顔を見合わせた。
二宮はともかく、自分たちや櫻井には彼女の言うことに心当たりがあった。


「あー!!分かんねぇ!もういいや。学食行こ!!」


しばらく考え込んでいた相葉だったが、本来考える事が苦手な彼は、答えが出ないと、それ自体を投げ出した。


考えたって仕方ない。
生徒会の子って言ってたし、後で翔ちゃんに聞いてみよ!!


そう決めて、学食へと向かった。



*****


先ほどから、櫻井は自分を睨み付けるようにしている人物を目の前にして困り果てていた。


「あのー・・・雅紀さん?」
「・・・・」


授業の終わりと同時に生徒会室に乗り込んできた相葉は、ひと言「どういうこと!?」と言ったっきり今の状態だ。
櫻井には何が何だか分からなかった。


そんな相葉の様子を見て、櫻井はあることに気付く。


「お、おい相葉!これ・・・どうした?」


相葉の頬が赤く腫れているのにようやく気付いた櫻井が聞く。



「・・・叩かれた」
「だ、誰に!?」
「・・・翔ちゃんと付き合ってた子・・・」


「はぁ!?」


「って・・・噂になってた子」

「何で!?ってか、付き合ってねぇし!」
「うん・・・。でも、その子が言ってたの。どうしていつもあんたなのって・・・」
「いつも?」
「大野君も、松潤も翔ちゃんも・・・・どうしていつもこの人なの!って・・・」

「・・・・・」


「おれ、意味が分かんなくてさ・・・知らないうちに誰かを傷つけてたのかなって」
「いや・・・それはないだろ・・・」
「じゃあ、なんであの子はあんなに怒ってたの?おれのせいでしょ?」
「いや、その・・・むしろ俺たちのせいかな・・・」
「え?」
「あ、その・・・なんでもない・・・悪かったな、痛かっただろ?」


櫻井は言葉を濁し、ごまかすように相葉の頬を撫でた。


「・・・もう、いいよ。別に気にしてないから。それに翔ちゃんのせいとも限らないでしょ?」
「ああ・・・」


櫻井は曖昧に返事を返す。


「あ、そうだ。ねぇ、翔ちゃん。二宮君ってどんな子?」
「え・・・ニノ?どうして?」
「彼女がね、二宮君もって・・・言ってたから。だけど、おれ知らないんだよね、その子」
「ニノも・・・って、ええっ?」
「な、なに?」


急に大きな声を出した櫻井に相葉はたじろいだ。


「え?あ・・・何でもねぇよ」
「変なの・・・。まぁ、いいや。あ!おれ大野君トコ行かなきゃ!お邪魔しましたぁ。翔ちゃん、またね?」
「おう・・・」


出て行った後ろ姿を見送り、櫻井はため息を吐く。



今更あの女が相葉に突っかかるなんて思ってもみなかった・・・。
二宮の名前が出たってことは・・・アイツ、今度は二宮狙いか。


相葉を殴ったという、その女。
以前、櫻井にかなりのご執心だったようで、本人もうんざりしていた。
同じ生徒会というのもあって、それなりに接していたのがまずかったのか、勘違いされて。
いつでもどこでも、べったりだった。
それでも波風立てないようにと当たり障りなくかわしていた。
挙句、勝手に付き合ってると噂を流されて。


「諦めさせんの・・・大変だったんだよなぁ」


好きなヤツがいると彼女に告げたとき、相手が誰かを知るまで納得してくれなかった。
もちろん言ってないけど。
ただ、好きな相手は同性だと言った。
プライドの高い女だから、男に負けたなんて絶対口に出来ないだろうと踏んでの事。
案の定、彼女はひと言も洩らさなかった。


だから安心していたのに。
どこから、相葉の事がバレたのか・・・。

大野、松本、櫻井に共通する事。
3人とも相葉に想いを寄せているということ。

おそらく、彼女はそれを知ったんだろう。
だからこそ、相葉に矛先が向いたんだ。


それにしても・・・・。


「大野君と松潤はともかく・・・ニノまでライバルかよ・・・」



二宮は確かに頭が切れるし、生徒会でも櫻井の補佐となる人物ではある。
ただ、いつも飄々としていて、掴みどころがない。
なんに対しても冷静で、人当たりはいいが何処か一線を引いている感じが否めない。
常にポーカーフェイスで、見たことのある表情といえば、不敵に笑う顔だけ。


そんな彼が相葉を好きだなんて・・・。



櫻井は1つ下の、不敵に笑う彼の笑顔を思い出していた。



*****



放課後の美術室は、教室全体が夕暮れ色に染まり、何ともいえない独特の空気を作っている。


相葉は椅子に座って、大野が来るのを待っていた。
先ほど、大野は美術部の顧問に呼ばれて出て行ったのだ。
特にすることもなくボーっと待っている相葉に、朝からの眠気が再び襲い掛かる。


「ふぁ~・・・おおのくん・・・まだ、かなぁ・・・」


待ちくたびれた相葉はついに机に突っ伏すと、目を閉じた。




夕暮れの美術室。
静寂な時の中で・・・。



相葉は不思議な感覚に陥っていた。



なんだろう・・・・。
気持ちいいなぁ。


ああ・・・、だれかが頭、撫でてくれてんだ・・・。


温かい手。


だれ?


大野君?
違う気がする。


松潤でも、翔ちゃんでもない・・・。
誰ともちがう・・・手。


だれだろう?


でも、すごく安心できる手。
温かくて、優しい。
ずっとこうしていて欲しいような・・・。



その手は顔へと降ろされ、叩かれた頬を何度も撫でる。
それすらも気持ちよくて、痛みなんて飛んでった。

誰かが近づいてくる気配の後に・・・・頬と唇に柔らかい感触。
ふわふわして、気持ちいいなぁ・・・。


自然に頬が弛む。
何だか・・・このままずっと・・・。



夕日が落ちて、日がなくなると少し肌寒くなってくるこの季節。
相葉は冷たい風にぶるっと身を震わせた。


意識が浮上する。


「ん・・・・」


机から顔を上げると、辺りは薄暗くなっていた。


「ゆ・・・め?」


にしては、やけにリアルな感覚。
頭と、頬、唇には先ほどの温かさが残っているようで、相葉はそっと唇を撫でた。
しばらくボーっとしていた相葉だが、はたと気付く。


「・・・あれぇ?おおのくん・・・」


いまだ眠そうな目を擦り、辺りを見回す。


「大野先輩なら、帰りましたよ」


急に降りかかった声に驚きながらそちらに振り返ると、美術室の一番後ろの椅子に座って携帯ゲームをしている少年が1人。


「あの・・・」


ゲームの画面から目を離すことなく答える少年。


「大野先輩なら一度来て、先生の用事で一緒に美術館に行かなきゃいけないとかで、出て行きました」
「そ、そうですか・・・起こしてくれれば良いのに・・・大野君」


「起こしてましたよ?でも、あなたが起きなかったんです」
「え?あ・・・そっか・・・って、君は?」


先ほどから、疑問に思っていたことを口にする。
美術部員・・・にはいなかった気がするし、同じ学年でもないようだ・・・大野先輩って言ってたし。


「俺ですか?俺は校内の見回りです。今日は俺が当番なんで。でも、あなたが起きてくれないから、俺も帰れなくて」
「ああっ、そっか!ごめんなさい」


相葉は言われて慌てて謝った。
この学校では生徒会の役員と、風紀委員たちが交代で校舎内の見回りを行っている。
全員が帰ったことを報告し、彼らは帰ることが出来るのだ。
よく櫻井が愚痴っていたから。
隠れて残っている生徒(主にカップルらしい)がいて困ると。
早く帰りたいのにと、顔をしかめているのを思い出す。


「おれのせいで・・・えっと・・・?」
「・・・二宮です」
「ああ。二宮君も帰れ・・・にのみや?」


名前を聞いて、動きが止まる。
相葉は二宮を凝視した。


「二宮君・・・生徒会の?」
「ええ、そうです」


室内が暗く、二宮との距離も離れているため、いまいち二宮の顔が確認できない。
携帯ゲームの音だけが室内に響いている。


「あの・・・二宮君」
「はい?」
「俺は・・・2年の相葉雅紀って言うんだけど・・・」
「・・・知ってます。有名ですから」
「ゆ、有名!?おれが?」
「はい」


相葉は目を見開いた。
自分が有名人のわけない。
至って普通の高校生なのに。


「ああ、おれの友達がみんな有名人だからだね。いつも一緒にいるから目立ってるのかな?二宮君は翔ちゃんと同じ生徒会だもんね」


そうに違いないと、相葉は自らを納得させた。


「・・・・そうですね。あの、さっき何か言いかけませんでした?」
「あ・・・そうだ!あのさ・・・今日なんだけど」


昼間の出来事に彼が関係しているなら、何か知っているかもしれない。


「・・・ここ、閉めなきゃいけないんで、話しあるんなら生徒会室に移動しますか?」


あそこなら、遅くまでいても大丈夫ですから。


「あ、うん」


二宮について生徒会室へと移動する。



生徒会室は大きなソファーに冷蔵庫、シャワールームまで完備されていて、居心地の良い空間だ。
生徒の自主性を重んじるこの学校では、校内の全てを生徒会が仕切っている。
生徒会役員たちは泊まりで執務を行なうこともあるという。
そのための施設も兼ねているため、こんなにも立派なのだ。

相葉も櫻井が当番の時にはよくお邪魔していたのだが、二宮には一度も会ったことがなかった。

生徒会室に入ると電気をつけ、ソファーに座るよう促される。


「コーヒーでいいですか?」
「うん・・・あ・・・」


その時初めて二宮の顔をしっかりと見ることができた。
端整な顔立ちに相葉は思わず見蕩れてしまっていた。


「相葉先輩?」
「あ、うん・・・ごめん。なんだっけ?」
「あなたの方が話があるんじゃないんですか?」
「あ・・・そうだった!」
「ふふ、面白い人ですね」


やけに落ち着いた物腰と話し方が印象的だったが、そう言って笑った顔はとても幼くて可愛らしい。


相葉は何故か頬に熱を感じたが、それをごまかすように話し始めた。


「あ、あの!あのね、今日なんだけど・・・おれね、女の子に叩かれたの」
「・・・・」
「でね、その子がね、二宮君の名前言ってて・・・・二宮君、なにか知ってるかな・・・って」

話しながら二宮の表情をうかがう。


「ええ、まぁ・・・というか、あなたが叩かれたのは確実に俺のせいだと思います。申し訳ありません」


二宮が頭を下げるのを見て相葉は慌てる。


「いや、そんなの分かんないよ?おれが悪いのかもしれないし!ただ、あの子の話の中に君の名前が出てきたから、なにか知ってるかなって、思っただけで・・・」


頭、上げて?


「いえ。確実に俺のせいです。俺があの女にあなたの事を言ったんですから」
「おれのことって・・・なに?」


しばらく黙りこんでいた二宮は一度目を伏せると、相葉を見据えた。


「あなたが好きです」



「・・・・・は?」


あまりに突然すぎて間抜けな声を出してしまった。


「い、今なんて?」

「あなたの事が好きだって言ったんです」
「す、すきって・・・」
「もちろん、言葉通りです」


開いた口がふさがらない、とはこのことか・・・。
相葉は言葉が出なかった。
二宮はそんな相葉を気にも留めずに話しを続ける。


「あの女がしつこいから、俺には好きな人がいるって言ったんです。そしたら、誰だって聞いてくるんで・・・・あなたの名前を出しました」


なんだって!?


「え・・・?え?じゃあおれが殴られたのって・・・」
「とばっちり・・・ですね」



「なんだよ、それぇ・・・」


我ながら情けない声が出た。
おれ、なんも悪くないじゃん!


「あなたに矛先が向くことくらい、想定できたはずなのに・・・ちょっと、自分でも軽すぎる言動だったと反省してます。本当にすいませんでした」


再び二宮が頭を深々と下げる。


「に、のみやくん・・・あ、あのね、おれ別に怒ってるわけじゃないよ?ただ・・・理由を知りたかったっていうか・・・」


そんな二宮を相葉は必死でフォローする。
相葉がお人よしと言われる所以だ。


二宮はソファーから立ち上がり、相葉の傍らまで寄ると、身を屈めた。
2人の顔が近づく。


「な、なに?」

「綺麗な顔がこんなになって・・・痛かったでしょう?」


そう言って、相葉の頬を撫で上げた。


あ・・・この感触・・・・。
さっき夢の中で感じたものと一緒だ。
気持ちよくて、とても安心する・・・・。

あれって、二宮君だったんだ・・・。


「ゆめ・・・じゃなかったんだ」
「夢?ああ・・・起きてたんですか?」
「え?」


二宮は相葉の言葉に微笑むと、そっと顔を寄せていく。
その流れるような動きをただじっと見つめていた相葉。
気付いた時には、唇に柔らかくて暖かな感触。


しばらくして、それが二宮の唇だと気付いた相葉は慌てて二宮を突き放した。


「なっ・・・なにっ!?」


唇を手で覆い隠し、顔を真っ赤にした相葉が叫ぶ。

キ、キスされた・・・。
キスされちゃったよ、おれ・・・。


「なんでぇ・・・」
泣きそうな声で相葉が二宮をなじった。


「さっきも言ったでしょう?あなたが好きだからですよ」


だからキスしたんです。


「好きって・・・どうして?」
「好きになるのに理由が要りますか?」
「だって・・・」


なぜ二宮が自分を好きだというのか、全く分からない。
相葉が俯いて黙り込んでいると、二宮が話し始めた。




「あなたを初めて見たのは、大野先輩の絵でした」
「・・・・大野君の?」

「授業をね・・・時々サボってたんです。美術室って校舎の端だし、授業がない限り先生が来る事もないですし」


生徒会に入ったのも、特権で授業を抜けられるから。
サボってもバレないでしょ?と、悪戯っぽく笑った。


「美術室に入った時、先輩の描いた貴方と出会ったんです。綺麗な絵だなぁって、時間も忘れて見入ってた・・・」


当時を思い出してか、微笑みながら話す二宮。


「それからは、その絵見たさに美術室に通いつめるほどでした。それで大野先輩と仲良くなったんです。ただ、先輩の描いた他の絵を見たとき・・・気付いたんです。
俺は、先輩の絵・・・・もちろん絵も好きですけど、そうじゃなくて、描かれている人物に惹かれていたんだって」
「二宮君・・・」


「それを確信したのはあなた本人を目の前で見たときでした。本当に綺麗で、躍動的で。俺の全てがあなたに持っていかれた」


相葉の手を取り、自分の手で包み込む。
相葉は一瞬手をビクッとさせるが、抵抗せずに二宮に委ねた。
二宮の目に偽りを感じなかったから。


「いつも、どうやってあなたに近づこうかって考えてました。あなたと話したい。あなたに触れたいって・・・」



二宮の手に力が入る。


「あなたは有名人だから・・・。それにいつも、がっちりガードされてましたしね」
「あのさ、おれは有名人なんかじゃないよ?有名なのはおれの友達!!松潤に、翔ちゃんに、大野君ね!!」


「・・・本当に気付いてないんですね。先輩の言うとおりだ。まぁ、それならそれで、好都合ですけど」


「なんか言った?」



「いいえ、別に。今日こうしてあなたと話して、知り合えた。俺の気持ちも伝えたし、もうなんの遠慮も要らない」


相葉の手を引き、顔を寄せる。


「うわっ!に、にのみや・・・くん?」


今にも顔がくっつきそうな距離に、思わず顔が赤くなる。


「これからは猛アタックかけますから、覚悟して下さいね」


上目遣いに相葉を見て、不敵に笑う。
その顔に相葉の心臓が破裂しそうに跳ね上がった。




*****



そんな出来事があってから、数日。


相葉を殴ったあの女生徒は、どうやら生徒会を止めたらしい。
いろんな噂が飛び交っていたけど、本当の理由は誰も知らない。

時々廊下や教室で見かけるのだが、相葉の姿を見ると怯えたように去っていくのだ。

櫻井と一緒にいた時に、彼女を見て、彼がひと言「ご愁傷様」と呟いていたので、理由を聞いたが、「俺の口からはとても・・・」と、首を横に振ったきり、話してくれなかった。


二宮も、その話題に関しては無言で微笑むだけで。
ただ、最初に二宮と知り合うきっかけとなったあの出来事があった日、彼は別れ際にひと言呟いたのだ。

「見過ごすわけには行きませんね」と。

その直後らしい。
彼女が生徒会を止めたのは。


二宮が関係しているのかとも思ったが、まぁ、そんなにたいした問題でもないかと相葉も気にしてはいなかった。




そして二宮はというと、毎日のように相葉の前に現われるようになった。
別に付きまとっているわけではなく、ただ廊下ですれ違うとか、生徒会室や美術室で会うという感じだが、確実に以前よりは視界に入ることが多くなった。


「知らないなら知ればいい」


告白されて、二宮のことを知らないと言った相葉に、二宮はしれっと言い放った。
それからというもの、2人で話す機会が増えたのだ。



相葉は本来、人見知りするタイプだが、二宮には違った。
何故かは分からなかったが、おそらくあの手だろう。


自分に触れた手が、優しくて温かかった。
話していても、いつも自分を包んでくれているような雰囲気がとても心地良くて。
一緒にいたいと思う。



実際、二宮は物知りで、頭の回転も良く、話していてとても楽しい。
自分の知らない世界、空間が相葉の前に広がる。

その二宮との刺激的な時間は、相葉を夢中にさせた。

この数日の間に一緒に出かけたり、お互いの家に遊びに行ったりと、2人は確実に親しくなっていた。



しかし、いまだに慣れないことが1つ。




夕暮れの生徒会室に二宮と相葉の2人。


二宮が見回り当番のため、相葉は遊びに来ていた。
と言っても、目的は二宮の持っているゲームを生徒会室の大きなテレビでやるためだが。


二宮とゲームをしている最中のこと。


「相葉さん・・・俺とえっちしませんか?」



これだ・・・。


「しないって、言ってんじゃん!」


「どうしてよ?」


コントローラーを置いて相葉に向き直る。
あれから、二宮は宣言どおりに相葉にアタックをかけていた。
と、言っても普段は本当にただの友達といった感じだ。
馬鹿なことを言っては大笑いしたり、ふざけ合ったりしているだけで、特に変わったこともない。
しかし、ふとした瞬間に先ほどのような事を言ってくる。
何でもないことのようにさらっと。


二宮曰く。

「時々、言わないとなかった事にするでしょ?」だそうだ。


二宮と親しくなって、楽しいことや刺激のあることもたくさんあるが、これだけはどうしていいのか分からなかった。


「どうしてって・・・そういうことはさ・・・、好きな人同士ですることでしょ?」


口ごもる相葉に二宮は突っ込みを入れる。



「好きな人って・・・俺は言ったじゃないですか。貴方の事が好きだって」
「そ、そうだけど・・・」


「俺の事嫌いですか?」
「そ、そんなこと言ってない・・・」
「じゃあ、好きですか?」
「・・・・」


「・・・好きか嫌いかで言ったら?」
「・・・すき」


「じゃあ、いいじゃない」


二宮が相葉の手を取って、甲に口付けた。


「え?ちょ、ちょっと待ってよ!なんか違わない?それ」


手を引っ込めようにもがっちりと掴まれる。


「好き同士、何の問題もないでしょ?」


顔を更に近づけていく。


「で、でもさ!ほら、やっぱりさ、順序とか・・・あるじゃん」


しどろもどろになりつつ、何とか乗り切ろうとする相葉をお見通しの二宮は更に相葉を追い詰める。


「順序って何よ?」
「あの・・・だからね、その・・・・やっぱりさ、最初に告白があって・・・」
「告ったじゃないですか」

「うっ・・・。そ、それから返事して・・・」
「さっき、相葉さんも好きって言いましたよね?」

「・・・・それから!で、デートとかしてさ・・・」
「デートなんて何回もしてるじゃないですか。昨日も一緒に出かけたし」


追い詰められて、声がだんだんと弱々しくなっていく。



「う・・・・それで・・・き、キスとかして・・・・」



ちゅっ。



「それから?」


人の隙をついてキスしやがった。


「・・・・・」
「おしまい?じゃあ、良いですよね?」


肩に手を置かれたかと思うとそのまま押されて、視界が反転した。
気付いた時にはソファーの柔らかい感触が背中にあって、視界には天井、そしてすぐに二宮のどアップ。


「えっ!?ちょ、待ってよ・・・に、にの!」
「・・・・相葉さん、俺を見て?俺が好きでしょう?」


「なっ・・・」



おれが、にのを・・・好き?



「この数日、あなたの視線はいつも俺にあったって、確信してるんですけど、違いますか?」
「ちが・・・・」



二宮に言われて、相葉は驚愕した。


二宮に告白されて、二宮のことを知ってから、確かに二宮を気にはしていた。
でもそれは、「猛アタックをかける」という二宮が、自分の周りに良く出没するようになったからだと思っていた。



だが、考えてみると二宮と目が合うことはなかったように思う。


それは、自分の方が二宮を見ていた証拠。
その事実に驚いたのだ。


「ちが・・・わない・・・のかな?」


いつの間にか。


見ていたのは二宮ではなく、おれの方。
気にしていたのは・・・おれの方。


姿を見ると安心した。
見ない日は心が揺れた。


彼と会って話すとドキドキする。
彼が誰かと話しているとズキズキした。


これが意味するものは・・・・?


「・・・す、き?」


相葉が小さな声で呟く。


「そう・・・。違う?」


二宮は相葉を見下ろし、優しく微笑む。
そんな二宮を不安そうに見上げる。


「わかんない・・・でも、ちがわない気がする」
「じゃあ・・・、確かめてみませんか?」
「確かめるって・・・どうやって?」
「こうやって・・・」


そういうと、二宮は相葉の唇に噛み付くようなキスをした。


「んっ!はっ・・・ん、んっあ・・・」


抵抗しようにも手に力が入らない。
かろうじて出来たのは、二宮の制服の袖を掴むことだった。


「は、ん・・・んあっ」


入り込んできた二宮の舌が、相葉の口腔内を犯す。
飲み込み切れなかった唾液が相葉の口の端から流れ落ちた。
息苦しさに相葉が二宮の袖をクイクイと引っ張ると、ようやく唇が離される。
相葉は空気を求めて浅い呼吸を繰り返す。


「あはっ・・・はぁ、は・・・」

それでも二宮は相葉を解放しない。
自分の手を下へと滑らせシャツの裾から手を差し入れると、胸の突起を指先で刺激する。


「あっ!ちょ・・んっ、や、だ・・・」


突然のしびれるような感覚に相葉が身を捩る。
二宮はシャツを胸の上までたくし上げると、今度はそこに口づけた。
唇や舌で刺激しながら、相葉の様子をうかがう。

「はっ、あぁ・・・ん。にぃ・・・のぉ、んっ・・」


愛撫に戸惑いながらも、涙を溜めて感じている相葉を見て満足気に微笑む。
胸の突起を刺激しながら、更に下へと手を伸ばしていく。


二宮の手が相葉の反応し始めているソコに触れると、ビクンと身体が跳ね上がる。


「あっ!ちょっ、に、にの!?やだ!離して!」
「こんなになってるのに・・・?」


やんわりと相葉の欲望を撫で上げた。
そして、そのままズボン越しに擦っていく。

「あっん!やっ・・・あっ、まっ・・・てぇ、んっ」


止めてと言いながらも布越しの刺激がもどかしくて、無意識に腰が揺れた。


「んふふ、もっと気持ちよく・・・なりたいですか?」
「え・・・?あっ!にの!!やだって・・・・あぁっ!!」


快感に思考回路が麻痺しかかっていた相葉だが、二宮にズボンと下着を脱がされたことで我に返る。

しかし、抵抗する間もなく、二宮の手が直接相葉を握りこんだ。
そのまま、上下に動かす。

「んふっ・・・ん、んっ・・・あ、に、のぉ・・・はなしてぇ・・・だめ・・・」
「・・・いいよ、イって?」

相葉の声が一際高く上ずったことで限界が近いと知り、耳元で囁くと、二宮は絶頂へと導くように手の動きを早めた。


「あっあ、だめぇ・・・でちゃ・・・ああっ!!」


相葉が絶頂をむかえ、二宮の手に欲望を吐き出した。
相葉の胸が激しく上下する様子を見ながら、二宮は相葉の上から降りる。


強すぎた刺激の余韻で、相葉はボーっと天井を見つめていた。


「相葉さん、大丈夫ですか?」
「・・・・」


「・・・・嫌・・・でしたか?」


二宮の言葉に、相葉の視線が二宮へと移る。
快感に潤んだ瞳でじっと見つめてくる相葉に、二宮は困ったように笑った。


「そんな目で見られると、困りますね・・・貴方が、嫌だったならもう、これ以上はしません。でも、嫌じゃなかったなら・・・」


そこまで言うと、二宮は相葉の頭を優しく撫でる。
その手の心地よさに目を瞑った。


この優しい手は大好き・・・心が温かくなる。
ずっとこうしていたいと思う。


誰の手よりも、すき。


でも、この手がおれを・・・・。
顔が一気に赤くなる。


「あいば・・・さん?」



「・・・・・の」
「え?」
「いや・・・・じゃなかったから、困ってんの!」


恥ずかしくて止めて欲しいと思ったけど、嫌ではなかった。


「本当ですか?」
「・・・嘘言ってどうすんの・・・?」
「そうですね。嬉しいです」


そう言って笑った二宮はとてもカッコ良くて、相葉の顔が更に赤くなる。
それをごまかすように頭を撫でる二宮の手に自分の手を重ねた。


ホントにおれ、どうしちゃったのかな?


二宮に触れているところから、熱が広がる。
その感覚がくすぐったくて、再び目を閉じた。


そんな相葉を優しく微笑んで見つめながら、二宮が口を開く。


「相葉さん・・・好きです」
「うん・・・」


「続き・・・しても良いですか?」
「うん・・・え?つづき・・・?」
「俺・・・相葉さんの中に入りたい・・・」
「入るって・・・えぇっ!?」


二宮の申し入れに相葉が驚いた声をあげた。


「んふふ・・・別に今すぐじゃなくてもいいです。あなたに俺を受け入れる決心がついた時に・・・俺にあなたを下さい」


「く、くださいって・・・・」
「俺とこういうことするの嫌じゃないんですよね?」
「え・・・うん・・・んっ」


返事と同時に再び唇を重ねた。
今度は相葉も二宮についていく。


制服をぎゅっと握って必死でついてくる相葉に、心まで鷲掴みにされたような感覚に陥り、二宮は苦笑する。


やっぱり離したくないな・・・この人を。


「あふっ・・・・はぁ、にのぉ?」


「ふふっ、相葉さん、可愛い・・・」
「なっ・・・、せんぱいに向かって言う言葉じゃないだろぉ・・・」
「んふふ・・・そうですね、すいません」
「べ、べつにいいけどさ・・・」



「早く・・・・」
「え?」
「早く、俺の物になって下さいね?」
「うっ・・・か、考えとく・・・」


真っ赤な顔でそっぽを向いた相葉の頬にキスをした。




*****



「あーいばちゃんっ!学食行かね?」


昼休みに珍しく授業を起きて受けていた大野から声をかける。


「あ、ごめーん、大野君。今日おれ、にのんとこ行かなきゃなんだ」
「相葉ちゃん!?」


ごめんねと、顔の前で手を合わせて荷物を取ると、教室を出て行く。
そんな後ろ姿を見送った大野と松本。


「なぁ、大野君。最近相葉ちゃん、付き合い悪くね?」
「うーん・・・、確かに。最近はよくニノんとこ行ってるなぁ」


そういうと、2人は顔を見合わせた。


「まさかねぇ・・・」


相葉ちゃんに限って、そんなことはないよな・・・。


そう言いながら、嫌な予感の拭えない2人だった。



*****



昼休みの生徒会室。


「ねぇ、にの!ここは?ここはどうしたらクリアできんの?」


昼食を食べ終えた相葉は早速ゲームに夢中だ。
二宮は生徒会の仕事をしつつ、相葉の相手をしている。


「んー・・・ちょっと待っててもらっていいですか?後ちょっと、終わらせちゃいたいんで」
「えー・・・早くしてよ?」
「もう、わがままですね。あと3分時間下さい」
「はーい」


返事をして、ソファーから二宮が仕事する姿を眺めた。


真剣に書類に目を通す姿は凛々しくてカッコいい。
出会ったときのように、その顔に見蕩れていた。


あの出来事があった日から二宮は相葉に迫るようなことを、ぱたりと言わなくなった。
それこそ、あの時の事なんてなかったことのように。

それが相葉の心を言いようのない気持ちにさせる。
もしかして・・・っていうか、おれはからかわれたんだろうか?


「なんだこれ・・・」


変なの。
胸の辺りがモヤモヤ、チクチクする。
なんでこんな気持ちになるんだろう。



「・・・・さん?相葉さん?」
「ほぇ?あ、なに?」
「何って、ゲーム・・・・」
「あ、あー、ゲームね。あのねって・・・にの!」
「はい?」
「顔、近い!!」


気がつけば二宮は隣にぴったりと座っていた。


「んふふ、相葉さん。真っ赤なお顔、可愛い」
「んなっ・・・・なんだよ、それ!」
「相葉さん?」


「お、おれのこと・・・からかってんの!?おれが慌てるの見て楽しんでんの?」
「ちょ、どうしたんですか?」


急に爆発した相葉に二宮は目を見開いた。


「おれが・・・おれがこの数日、どんな想いでいたと思ってんの・・・・」


俯いて話す相葉の声が震える。


「・・・どんな想いだったんですか?」


二宮はそっと相葉の頭を撫でた。
二宮の手が触れるのもあの時以来だ。



その手の温かさはやはり変わらなくて。
相葉は、心が解けていくような感覚に陥る。
先ほどまでのモヤモヤも、チクチクもなくなり、やけに落ち着いた気分。


そして思い知る。


ああ・・・自分はこんなにもこの手が欲しかったんだ。


「あれから、ずっと考えてた。おれの気持ち。だけど・・・考えようとするとね、にのの顔が浮かんできて、なんにも考えられなくなっちゃうの。
なのに、にのってば、全くなんにもなかったみたいな顔してさ・・・おれだけ気にしててばかみたい・・・」


「あいばさん・・・それってもしかして・・・」


「うん・・・。おれ、やっぱりにののことが・・・す、きっ!」


言い終わらないうちにおもいっきり抱きしめられた。


「にのっ!?」
「・・・ごめん。我慢の限界」
「え?」


「俺だって我慢、してましたよ。あなたに1度触れてしまったんだ。想像以上にきつかったよ・・・」


相葉の肩に顔を埋めるようにして呟く。


相葉の気持ちが自分に向いている事に、二宮は確信めいたものを感じていた。
きっと、自分が押していけばもっと簡単だったのかもしれない。

でも、そうじゃなく・・・気付いて欲しかった。
相葉自身で考えてもらいたかった。
だから、二宮は押すことを止めたのだ。


しかし、1度相葉に触れてしまった手は、彼を欲して已まなかった。
何度この腕に抱きしめようと思ったか。


「でも・・・我慢した甲斐がありました。あなたからその言葉が聞けたんですから」
「にの・・・」


恐る恐る二宮の背中に手を回す。


「にの、すき・・・」


認めてしまえば、こんなにも心が安らぐ。
口に出したら、こんなにも愛おしくなる。


「俺も、好きです」


見つめ合い、お互いの顔が近づく。
もう少しで触れ合うというところで・・・。



「ニノ、相葉ちゃん来てるって・・・・ああ―――っ!!」


ドアを開けたのは櫻井。
目の前の2人の姿に大声をあげた。


「どうしたんだよ!翔君!?って、「ああ―――っ!!!」」


その後ろから松本と大野が続いて入ってきて、目の前の光景に櫻井と同じリアクション。



「な、なにっ!?」


相葉は突然の事に対応できずに固まった。
二宮は3人の登場に舌打ちする。


「いい所なのに・・・出歯亀ですか。あんたら、いい度胸ですね」
「え?でばがめ?にの、でばがめって、なに?」
「相葉さんは気にしなくていいんです」
「うん?」


「ちょっと!!何2人の世界作ってんだよ!?相葉ちゃん、どういうこと?2人は付き合ってんの!?つーか、まずは離れろっ!!」


「しょ、翔ちゃん、どうしたの?」


櫻井の取り乱しっぷりに相葉は動揺する。


「うるさいなぁ、落ち着いて下さいよ。相葉さんが怯えてますよ、会長」
「あ・・・ああ、すまん」


「で、2人は付き合ってるわけ?」


落ち着いたところで松本が再度問う。


「えっと・・・。付き合ってる、の?」


相葉は二宮を窺いながら答える。


「何で俺に確認するんです?あなたの気持ちが分かったなら、答えは簡単でしょう?」


二宮が穏やかに微笑んで相葉の肩を抱いた。


「うん。あのね、翔ちゃん、松潤、大野君。おれ・・・にののこと、すき・・・なんだ」
「相葉ちゃん・・・」


「あのね!別にみんなに内緒にしてたわけじゃなくて、おれもね、さっき気付いたっていうか・・・その、そういうことなんだ!」


顔を赤らめて言う相葉に、3人はショックの色を隠せなかった。
今まで、どれだけの輩から守り通してきたのか。


怪しいやつは、ことごとく遠ざけて、大事に大事にしてきたのに。
こんなにもあっさりと、相葉の心を持って行くやつがいたとは。


恨めしく、相葉の肩を抱いている人物を見る。
その視線に気付いた二宮は不適な笑みを浮かべた。


「先輩方には感謝してます。今まで相葉さんに悪い虫をつけないようにしてくれて」
「お、お前のためにしてたわけじゃねぇよ!」
「ええ、知ってます。でも、あなたたちは一歩が踏み出せなかった。それが、敗因でしょう?」


「「「・・・・」」」


図星をつかれ、言葉が出ない。

いつも天真爛漫な相葉の笑顔を壊すのが怖くて、一歩を踏み出すことが出来なかったのは事実。


しかし、実際に誰かのものになった相葉はその笑顔を壊すどころか、さらに綺麗に笑っていた。
あんなに幸せな顔するんなら、しょうがないか・・・悔しいけど。


そう3人が思い始めたとき。


「相葉さん・・・。今日は邪魔が入っちゃいましたけど、今度あの約束、果たさせてくださいね」


相葉の耳元で二宮が囁いた。


「約束?」
「ええ、相葉さんの中に入りたいって・・・・」
「あ・・・。う、うん・・・また、今度ね?」


なんて会話に3人の怒りが爆発した。


「許さーん!お母さんは絶対許しませんからね!!」
「おい、ニノっ!お前ふざけんじゃねぇぞ!絶対させねぇからな!」
「相葉ちゃん、帰ろ?ここにいちゃダメだ」


「え、え?なに?みんな、どうしちゃったの?あっ、大野君!そんな引っ張んないでよ」


大野に引っ張られて、立たされる。
その背中を松本が押す。


「ほら、相葉ちゃん授業!!」
「え・・・うん。にの、またね?」


「はい、また」


余裕で手を振る二宮。

生徒会室に残った櫻井が二宮を恨めしく見つめる。



「・・・いつからだよ?」
「秘密です」
「そんな素振り、見せたこともなかったよな?」
「・・・顔に出ないだけですよ」


飄々と答える二宮に、櫻井は苦い顔をした。


「お前・・・まさかとは思うけど、あの女・・・けしかけたのも、作戦か?」
「・・・さぁね?ご想像にお任せします」


口元だけを吊り上げて笑う二宮に櫻井は確信した。


「・・・・たいしたヤツだよ」
「まぁ、俺の名前を覚えてもらうには好都合でしたね。相葉さんが殴られるのは予想外でしたけど」
「ホント、信じらんねぇ」


何で相葉はこんなヤツに・・・。


「でもね、例え俺が仕組んだ事だとしても・・・・相葉さんの心まで仕組めるわけじゃありませんから」


そこは運任せだったんですよ。
二宮が嬉しそうに微笑む。
その表情に櫻井が目を見開く。
今までに見たことがない穏やかな二宮の表情。


「・・・・泣かせんなよ?」


納得したくはないし、認めたくはないけど、相葉にはいつも笑っていて欲しいから。
相葉が彼を好きだというなら、見守っていきたい。
それに、相葉を想い微笑んだ二宮は、今まで知る中で一番人間らしいから。


でも、やっぱり許せないのも本心で。

男心は複雑なんだよ。


「俺を誰だと思ってるんです?ありえないでしょう」


櫻井の忠告を軽く一蹴する。


「俺はね、皆さんが想っているよりも・・・あの人のことを想ってる自信がありますから」


これだけはね、絶対に負けません。


「たいした自信だね・・・。ま、お手並み拝見させてもらいますか」


俺だって、まだ諦めたわけじゃねぇしと、櫻井も二宮に向かって不適に笑う。


「いい度胸ですね。望むところです」


二宮は更に口元を吊り上げた。




*****



そんな衝撃の日から数日。


「もう!何で付いてくんの!?」


今日は二宮とデートの日。
なのに、相葉の後ろにはいつもの3人。


「2人きりなんて危ないよ、相葉ちゃん」
「大野君、何にも危ない事なんてないから」

「いや、わかんねぇよ。相手はあのニノだぜ?あいつは危険だ」
「松潤・・・にのは優しいし、大事にしてくれるよ?」


「いいや!それは絶対作戦だな。雅紀が油断したら、すぐに襲い掛かってくるぞ」
「翔ちゃんまで・・・・」


相葉は3人の言いように、呆れてため息を吐く。


みんな、にのを誤解してるんだ。
あんなに、優しくて可愛くて、カッコいいのに・・・。


「あのね、みんな。おれだって、にののことはよく分かってるつもりだから・・・」
「いいや、分かってねぇよ!アイツはさ・・・・」
「俺が、何です?」


「あ、にの!また3人付いてきた・・・・」
「・・・ホント、暇な人たちですね」

「なっ!暇じゃねぇよ!お前が相葉ちゃんに手ぇ出さないように見張ってんだよ!」


喰ってかかる櫻井に二宮が冷たく返す。

「・・・それが暇人のする事だって言ってんですよ。でも、とんだ無駄足ですね」
「何がだよ?」


二宮は相葉に何やら耳打ちした。

「相葉さん・・・・」
「・・・・うん」
「だったらさ・・・・・」
「え?それで?2人きりになれる?」
「ええ、絶対」
「わかった!」


相葉は3人に向きなおると、こう言い放った。


「もう・・・・これ以上付いてきたら、嫌いになるからね!!」


相葉の衝撃的なひと言に3人が固まる。


「あ、あれ?みんな?大野くん、松潤、翔ちゃーん?にのぉ、みんな動かない」


動揺する相葉を尻目に二宮は笑いを堪えるのがやっとだった。


「くくっ、効果覿面ですね。ホント外さない人たちですよ。さ、相葉さん彼らは大丈夫ですから行きましょうか?2人きりですよ」

「う、うん・・・みんな嫌いになんてならないからね?ごめんね」


呟くと、二宮と共に歩き出した。
心配といっても、恋人との時間には変えられないのだ。






二宮が相葉と出逢ったのは偶然だった。

二宮と相葉が知り合ったのは、二宮の作戦だったかもしれない。

ただ、二宮と相葉が恋に落ちたのは偶然でも、作戦でもなく・・・・。



それは必然。



例え、どんな過程を経て2人が恋人になったとしても、2人が幸せならそれは関係のないこと。



そして後日、2人のその後について攻め立てる3人が、二宮による助言で放った相葉のひと言で、撃沈したのは言うまでもない。






おわり
ドラマの撮影も終わり慌しい日々から解放された二宮は、久々に仲間と会う機会が出来た。


けっしてオシャレとは言えない居酒屋。
そんな場所が二宮や仲間にとっては、たまらなくお気に入りの盛り上がれる場所だった。
楽しくて、つい酒も進む。


「旬君さぁ、さっきからそればっかじゃん!!」


鬱陶しそうに、でも何処か嬉しそうに二宮は隣に座る男の肩を押す。
そんなところにも、久々に集まった喜びが表れていた。

二宮の隣にはかつてドラマで一緒になり、親しくなった小栗旬の姿があった。


「だってさ、ニノ絶対言わないじゃん。俺、ずっと前から聞いてんのに」


小栗はグラスを片手に肘で二宮を押し返す。
二宮は得意の含み笑いで小栗の言葉を聞き流そうとする。


「あー、お前またごまかすつもりだろ?今日こそは絶対聞き出してやるからな!お前の彼女の事!!」
「だーから!彼女なんていないって、前から言ってんじゃん。旬君しつこいよ」


言い切る小栗の勢いに苦笑しながら、二宮はなおも否定を繰り返す。


「だいたいさ、俺、彼女がいるなんてひと言も言った事ないでしょ?」
「いや!まぁ・・・聞いた事はないけど、いるだろ?だって俺、何回か聞いてるし。お前が電話で話してるのとか」


「・・・電話なんて誰でもするでしょ?」
「そうだけど、明らかに俺たちと話す感じと違った!何ていうか・・・こう、ニノの顔も声も穏やかで優しくてさ・・・愛が溢れてるっていう感じ?
あの感じからして、絶対彼女だろ?しかも1年・2年の付き合いじゃないな・・・もう5年以上は付き合ってるって感じだな」
「何それ・・・」


呆れ顔でそう言いながらも、内心、鋭いねと感心する。


小栗は仲良くなった当初から、とにかく二宮の彼女のことを聞きたがっていた。
小栗自体、恋愛を隠すことなく堂々と振舞っていたし、色々な話も聞いている。
付き合ってる彼女がどうだとか、何処が好きとか。

話の後には必ず「で、ニノはどうなんだよ?」って言われていたけど。


その度に、「彼女はいない」と言い返してきたが、小栗はその言葉を信じてはいないようだった。
オトコの勘らしい。


もちろん、彼女などいないのだから嘘は言っていない。



恋人はいるけどね。


まぁ、そんなに人に言うことでもないし、言って恋人を傷つけてしまうのは本意ではないから。

小栗を信じていないわけではないけど・・・・二宮としては色々と思うところがあるのだ。


この世で一番大切な彼を思い浮かべて、一人微笑む。



「あー!その顔!!今、絶対彼女のこと考えてただろ!」


意外と鋭い小栗に、肩を竦めてみせる。


「とにかく!!今日こそはお前の彼女の正体を掴んでやる!」
「正体って・・・まぁ、頑張ってね」


呆れて言う二宮に、小栗は少しだけ拗ねたように口を尖らせた。


「お前なぁ・・・何だよ、俺には紹介できないような相手なわけ?あ、もしかして不倫とか!?」
「あのね・・・んなわけないでしょう」
「じゃあ・・・、すっげぇ不細工なんだ!!そっかぁ、ニノの彼女って不細工なんだぁ」
「・・・・不細工じゃねぇよ!」
「あ、認めた!彼女がいるって認めたな!」
「・・・・」



久しぶりの楽しさに、飲みすぎたようで。
あっさり小栗の誘導に引っかかってしまった。
嬉しそうにガッツポーズをする小栗を尻目に、大きくため息を漏らしてグラスの中身を飲み干した。



「で、どんな子なの?ニノの彼女って。可愛い?」
「どんなって・・・、まぁ・・・可愛いですよ。俺にとってはね、世界一ですから」


興味津々で聞いてくる小栗に、呆れながらも二宮は正直に答えた。
今まで、メンバー以外には口に出来なかった恋人の事を、名前は出せないにしろ話せることが嬉しくて、二宮も自然と饒舌になっていていたのかもしれない。


その答えに小栗は意外そうに目を見開いた。


「へぇ。ニノがそんなこと言うなんて、何か意外」
「聞いといて何ですか、それ。俺だってね、好きな子には甘いんですよ。何て言ってもあの人は俺のね、お姫様ですから」
「お姫様ねぇ・・・それは言い過ぎじゃね?でも、ちょっとお目にかかりたいな」


二宮にそこまで言わせるお姫様に。


「ダメ。もったいないから」
「ははっ、何だよそれ」


小栗が二宮の言葉を笑い飛ばす。
本気なのに、と二宮は再び肩を竦めてグラスを傾けた。



そんな調子で楽しい時間を過ごしていた二宮に、盛り上がってきた仲間たちは、更なる盛り上がりをと、他にも仲間を呼びたいと言い出す。


すると、小栗が悪戯っ子のような顔で二宮を見遣ってから、楽しそうに切り出した。


「実はさ・・・俺、他に約束があってさ。ついでだからこっちに来てもらっちゃおうと思うんだけど、良い?」

「約束?いいですけど・・・」

何とも含みのある言い方が気にはなったが、皆も楽しそうにしているし特に何も言わずに頷いた。



そして、合流したのは・・・。




「あれ、潤君!!」
「ニノ!?旬君の友達ってニノだったのか・・・」


びっくりしたと松本が眉を上げて言う。


「こっちもびっくりですよ。まさか旬君の約束相手が潤君だったなんて。旬君、誰って言わないからさ」


だから、あんな顔をしていたのかと、二宮は恨めしそうに小栗を見た。


「ははっ。びっくりするかと思ってさ」


悪びれる様子もなく笑う小栗。
その隣で、何故だか気まずそうな顔をしている松本に気付き、二宮は首を傾げた。


「潤君、どうしたんですか?何か気になることでも?」
「えっ?いや・・・まぁ・・・」


歯切れの悪い返答の松本。
それはすなわち・・・。


「何か・・・隠してます?」
「・・・隠してるって言うか・・・まさか、ニノがいるとは思わなかったからさ・・・」


言葉を濁す松本に、二宮の眉間にしわが寄る。


「何なの、潤君?」
「潤君、もう1人・・・呼んでんだよね?・・・・」


2人の会話を聞いていた小栗が言う。


「もう1人?」


小栗の言葉に、誰を呼んだのかと松本に顔を向けた時、聞きなれたダミ声が耳に届いた。



「あー、いた!おーい、まつじゅーん!」


この声は間違いなく。



「あっ、あいばさんっ!?」
「へ?あれぇ、にのだぁ!にのがいる!!どうして?」


二宮の姿を見て嬉しそうに走り寄って来る。


「どうしてって・・・聞きたいのはこっちですよ!何で相葉さんがいるの!?」
「おれはね、松潤に呼ばれたの!小栗君と飲むから、来ないかって。あー、ホンモノ!!花沢類っ!!」



ニノの質問に答えた後、二宮の隣に座る小栗を指差して興奮気味に言った。
あまりの勢いに引き気味の小栗。


「相葉さん、声でかいよ!周りに迷惑。旬君にも失礼でしょ?挨拶もなしに指ささない!」



二宮が相葉を諌めた。


「あ、ごめんなさい。はじめまして、相葉雅紀です」


二宮に怒られた相葉は、途端にしゅんとして、神妙な面持ちで挨拶をする。
その姿に小栗は小さく吹き出した。


「はじめまして、小栗です。相葉君って面白いね」
「へ?何かおれ、変?面白い?」


首を傾げて、小栗を見つめる相葉に、今度は大きく笑った。


「小栗くん?」



そんな2人の様子に、二宮は苛立ちを隠せない。
当たり所はもちろん。


「潤君・・・どういうことですかね?」


幾分声も低くなる。


「いや・・・・前から相葉ちゃんが、花沢類に会いたいって言ってたから・・・・」


ニノも知ってるだろ?


「・・・知ってますよ。俺だって何回もせがまれたからね」


その度に、何となくはぐらかしてきたのに。
相葉にそんなつもりはないにしても、他の男に会いたがる恋人を見て、いい気はしない。


「その事をさ、旬君に話したら・・・連れておいでよってことになって・・・電話したら、来るって言って、今に至る訳だけど・・・・。
まさかニノまでいるとは思ってなくて・・・悪い。どうする?」


連れて帰る?


「・・・・今更帰れとは言えないでしょ?あんなにはしゃいでるのに。俺がいる時でかえって良かったよ」


そう言って松本を睨み付けた。

別に自分の仲間を信じてない訳じゃない。


ただ、相葉が影響を受けやすい事は充分すぎるほど知っていたし、ドラマの中とは言え、花沢類を気に入っていた事も、認めたくないが知っている。

恋人として面白くないのも、警戒するのも悪い事じゃないでしょ?


「うわぁ!小栗君て背高いんだね・・・すげぇ、カッコいい!!」


・・・・ほらね、面白くない。


「にのぉ、なにしてんの?ちょっとつめて!」


相葉が二宮に近寄り、手でもっと寄ってと示す。


「にのの隣!!うへへ・・・」


そう言って二宮の隣に座り、笑顔を向けた。
その仕草に少なからず、二宮の機嫌は良くなる。


所詮、二宮も恋する男なのだ。


本当は嫌だけど、愛しい人が喜ぶのなら仕方がない。
しばらくは我慢するとしよう。


俺って心が広いなぁと、自画自賛。






それからは特に何事もなく、皆で飲んで話して楽しく過ごしていた。
相葉も楽しそうに皆と話していたし、二宮も久々の仲間たちとの語らいに、しばし集中していた。



先ほどから相葉が小栗にべったりなのは気に入らないが。




二宮は他の仲間と話しながら、相葉へと目を移す。


「うひゃひゃっ。小栗君てぇ、面白いねぇ・・・くふふっ。おれね、ドラマのイメージしかなかったでしょ?だからもっとクールなのかと思ってたの」
「イメージダウンした?」
「ううん!話しやすくて安心した」


「ふふっ、良かった。相葉君こそ、面白いよ。それに・・・ホント、可愛い。男にしとくのもったいないね」

「え?」


小栗の言葉に相葉は不思議そうな顔で、首を傾げて小栗を見つめた。
そんな相葉に、小栗は苦笑する。


「そんなに見つめられると困るな・・・それ、癖?さっきもそうしてた」
「なにが?」



「そうやって、人の顔をじっと見るのは癖なの?」
「へ?おれそんなに見てた?気付かなかったな・・・」
「いや、うん・・・相葉君の目って潤んでて・・・その目で見つめられると・・・何かさ、変な気分になるっていうか・・・それに、人の話聞くときにそうやって唇撫でるのも癖なの?」

「唇さわってた?これはね、癖みたい。前にね、にのにも・・・・え?お、おぐりくん?」
「何か・・・誘ってる?」


そう言って、小栗は目を細めて相葉に顔を近づける。


「え・・・な、なに?」



瞬間、相葉は首根っこを掴まれて、強引に小栗から離された。


「うわっ!!」


驚いてその相手を見ると、物凄く不機嫌な顔の二宮と目が合った。




「・・・に、にの?」
「・・・・帰るよ」
「え?だって・・・まだ」
「・・・・俺が帰るって言ってんだろ!!」


二宮の聞いた事のないような荒げられた声に、周りの動きが止まる。
そんなことも気にせず、二宮は帰り支度を始めて席を立った。
慌てて相葉も立ち上がる。


「ま、まって!にのが帰るなら、おれも帰る。松潤、小栗君ごめんね。みんなも、またね」
「え・・・ちょっと、ニノ?相葉君?」




小栗は何が起こったのか理解できずに名前を呼ぶことしか出来ない。
皆が2人の出て行ったドアをぽかんと見つめる中、ただ一人、こんなことには慣れっこの松本が大きなため息を漏らした。





「やっぱ、失敗だったな・・・・」
「え?」

「・・・ニノがいるって知ってたら、相葉ちゃん連れてこなかったのに」



後のフォローが大変なんだよと眉間にシワを寄せた。
そして、わざとらしいほど明るく皆を先導して盛り上げる。




「あいつらさ、ちょっとケンカしてたんだよね。まぁ、大人だから大丈夫っしょ!!すいません雰囲気悪くして。さ、飲み直そうぜ!!」





最初は戸惑っていた皆も、お酒が入っているのもあってか、松潤の説明を疑問もなく受け入れたようで次第に盛り上がり始めた。




その様子に松本は安堵の息を吐いた。
しかし納得していない人物が1人。


「潤君・・・どういうこと?」


最初に会った時の二宮と相葉は、どう見てもケンカしているようには見えなかった。
戸惑いを隠せない様子の小栗が聞こうとした時、小栗の携帯にメールが届いた。



『ごめん。楽しかったけど、今日は帰るわ。あんまり言いたくないけど・・・・今度あんなことしたら、旬君でも許さないから。意味が知りたきゃ潤君に聞いて』


二宮からだ。
内容を読み、松本に見せる。

「潤君・・・。メール、ニノからなんだけどさ・・・」

メールを読んだ松本は、更に顔を歪ませた。


「潤君に聞いて」って・・・俺を巻き込むなよ、全くさ。
まぁ、俺が相葉ちゃんを連れてきたんだからしょうがないか。
自業自得ってのは、このことだ。
こんなことならやっぱり呼ぶんじゃなかったな。



「なんか・・・俺が原因みたいだね。アイツがキレたの」


「・・・だろうね・・・」
「分かってたの?」
「まぁ・・・」
「あんなことって・・・何?」



検討もつかない小栗は、メールを見つめたまま眉根を寄せて考え込む。



「・・・旬君さぁ、相葉ちゃんと会ってどう思った?」
「ど、どうって?」
「・・・第一印象っていうかさ、話してみて・・・何か感じた?」


松本の質問の意図するところがイマイチ理解できなかったが、小栗はとりあえず相葉と話した時のことを思い出す。


「うーん・・・。そうだな、すっごい可愛いらしい人だよね。朗らかで、ほわんってしててさ。一緒にいて凄く安らぐ感じがする」


「・・・それだけ?」
「え?それって、どういう意味?」
「他に・・・何か思ったことない?相葉ちゃんにさっき・・・何か言ったでしょ?」
「あ・・・うん」



言葉を濁した小栗。
確かに相葉と話していると、変な気持ちになった。
黒目がちで潤んだ瞳。
じっと見つめられると吸い込まれそうで、思わず顔が近づいた。



「ちょっとね、男なのが残念だなって・・・」
「はぁ・・・それだよ」
「え?」


「・・・旬君さ、ニノから聞いてる?ニノの付き合ってるヤツのこと」
「ああ、今日初めて聞いたよ。彼女がいるってのは。可愛くて、お姫様なんだって?」
「彼女ねぇ・・・。ニノが言ったの?彼女って?」
「いや・・・俺が聞き出したんだけど・・・ニノは彼女はいないって言い張ってたけど」



「・・・ニノに彼女はいないよ」
「え?だって、付き合ってるヤツいるんだろ?世界一のお姫様って・・・」
「まぁ、ニノにとってはお姫様かな・・・アイツは」


「アイツって、潤君は会ったことあるんだ?」
「・・・あるよ。っていうか、ほぼ毎日」
「ま、毎日!?」
「・・・ニノが不機嫌になったのは、いつからだと思う?」
「えっと・・・潤君が来た時はまだ機嫌は良かったし・・・その後相葉君が来て、話が盛り上がって・・・あれ?」




小栗の思考が止まる。
まさかね・・・・そんなことは・・・・。



相葉と自分の話が盛り上がったとき、彼を見ていて思わず口にした言葉。
その時じゃなかったか?
二宮がキレたのは。




「何か・・・気付いた?」
「潤君・・・間違ってたら笑ってよ?」
「・・・ああ」
「ニノに彼女はいないって・・・それは相手が女の子じゃないって、こと?」
「・・・・」
「笑ってよ・・・」
「間違ってたら笑えっつったじゃん。さっきから言ってんだろ?ニノに「彼女」はいないって」


ということは、間違っていないということだ。




「「彼女」はいない・・・けど、付き合ってるヤツはいる・・・ってこと?」
「ああ」
「その相手が・・・相葉くん・・・?」
「ご名答」
「そうなんだ・・・・。何か・・・そっかぁ・・・」




言葉にならないようだ。




「何?ショック?」
「え?うん・・・いや、何ていうのか・・・衝撃的だなって」
「まぁ、そうだろうね。でも、あいつら見てるとさ、そんなこと関係ねぇなって思えるよ?
男とか女とか、そんなのとっくに超えてる2人だから。で、それ聞いて・・・お前はどうする?」



友達、やめるか?



「・・・別に、ニノはニノだし何も変わんねぇけど、そっかぁ・・・相葉君可愛いし、何となく分かる気がしないでもないかな・・・」



相葉の潤んだ瞳と、無意識に唇を撫でる仕草を思い出し、顔を崩した。
不覚にも触れたいと思った。
また、会いたいと思わせる不思議な魅力を感じたのは確かで。

会ったばかりの自分ですらそう思うんだから、長い間一緒にいる二宮がそう思ったっておかしくはないだろう。




「はぁ・・・たぶん、旬君はしばらくは相葉ちゃんには会えないよ。ニノは旬君の気持ちに気付いたからね」



「マジ?」
「ああ。メンバーの俺たちですら、凄い牽制されてんだから。まぁ、それでニノの旬君に対する態度が変わることはないと思うけどね。
お前がこれ以上相葉ちゃんにちょっかい出したりしなければ」


「相葉君が絡まなきゃ、今まで通りってこと?」
「そういうこと。だから、変な気起こすなよ?」


松本は小栗の胸の辺りを指先で押して忠告する。



「ははっ。せっかく仲良くなれそうなのに残念だなぁ。メールとかもダメ?」
「・・・お勧めできないね。痛い目見たきゃ、止めないよ。でも、相当の覚悟して絡めよ?」


アイツの相葉ちゃんへの執着は凄いから。


「へぇ、あのニノがね・・・もっと淡白なヤツだと思ってた」



ホント、意外。
今度会った時には思いっきりからかってやろうと、小栗はグラスの氷を揺らして微笑んだ。


*****




「ねぇ・・・にの?にのってばっ!!」


居酒屋から出てきた二宮は無言で街を歩く。
足早に歩くその背中を相葉は懸命に追いかけた。
背が高い分、自分の方が歩幅は広いはずなのに何故か追いつくのがやっとだ。
必死で後を追い、離れていきそうな二宮の服を掴む。


「にの!」
「何ですか?」


振り返った二宮の表情はひどく冷たく、相葉は言葉に詰まる。


「うっ・・・・なに怒ってんだよぉ。訳わかんないよ。
しかも、良かったの?あんな風に出てきちゃって・・・後で気まずくなら・・・「うるせぇよ!あんたさっ、自分が何やってんのか解ってんの!?」」
「え・・・?」


意味が解っていない相葉は、戸惑いの表情で二宮を見つめた。


「どうせ・・・俺が何で怒ってんのかも解ってねぇんだろ?」
「にの・・・」


申し訳なさそうに俯く相葉に、二宮は大きくため息を吐いた。
それを聞いた相葉はビクッと肩を震わせる。


「・・・いつも、いつもいつも!何であんたは・・・・」


俺の感情を揺さぶるんだ。


「・・・ごめんなさい」
「謝る理由は?」
「・・・わかんない」
「じゃあ、謝んなよ」
「だって・・・・にのが怒るから・・・」
「・・・もういいよ。っていうか、俺が勝手に怒ってるだけで、多分あんたは悪くないから」


そう言って二宮は踵を返した。


「に、にの!」


置いて行かれると思ったのか、相葉が悲痛な声を出して、二宮の服を強く握り直す。


「・・・・何?」
「なんで怒ってるの?おれ・・・ばかだから、言ってくれなきゃ分かんないよ・・・」


今にも泣きそうな彼に、二宮は憤りを覚える。
相葉にではなく、相葉を泣かせてしまう自分自身に。


「・・・・だから、あんたは悪くない。俺の問題なんだ。あんたにもちょっとは怒ってるけど、でもそれよりも・・・」


二宮は相葉を見遣ると、自嘲気味に唇を吊り上げた。


「それよりも、あんたが俺以外と笑ってることが許せない・・・俺以外の人間に興味を持ってることが許せない・・・でも、そんな風にしか考えられない自分が一番許せない」
「にの・・・」


二宮は、服の端を握り締めている相葉の手を取り、自らの手で包み込む。


「・・・だから、あんたが旬君に会いたいって言っても会わせなかった。こうなることは分かってたからね」


包み込んだ手に力が篭る。


「ホント、心の狭い男ですよ。二宮和也は!」


「にの・・・・ごめんね?」


「・・・謝る理由は?」
「にのに、嫌な思いさせたから・・・。おれ、ホントに何にも考えてなくて。それでいつもにのに迷惑かけて、嫌な気持ちにさせて・・・ホント、ばかでごめんなさい」


相葉が二宮の手を握り返す。



「でもね、おれだって・・・思ってたんだよ?にの、小栗君のことよく話してたし、ニッキにだってよく出てくるし・・・。この間だって!!あ、あいしてるって・・・・」


この間とは、番宣で生番組に出た時のことか。
確かに小栗からのコメントはあったし、そのような発言もあったが。


「あれは、冗談でしょ?」
「そうだけど、やっぱり嫌だったの!!」


だからこそ、本人に会って確かめてみたかった。
彼がどういう人なのか。
自分から二宮を奪ったりしないのか。
不安で不安でたまらなかった。



「おれだって、心が狭い男だよ。にのに触る人はみんな嫌いって思っちゃう・・・嫌なやつだよ・・・」


「相葉さん・・・ごめん。あんたを不安にさせて。それから理不尽に怒ったりして」
「うん・・・」
「お互い様だね」
「うん」


手を取り合って微笑む2人。
周りの人間はそれを怪訝そうに見ては通り過ぎていく。


そんな周りの目を盗むようにして二宮は相葉の唇を奪った。
驚いて目を見開いた相葉だが、すぐに破顔する。


「仲直りのちゅう?」
「んふふ、まあね。」
「くふふっ、にのとちゅうしちゃった!!ひゃはっ」
「ふふっ。さ、帰ろうか、俺もっと仲直りしたい」
「もっと仲直り?」


首を傾げる相葉の耳元で妖しく囁いた。


「ちゅうだけじゃなくて・・・仲直りのえっちがしたい」
「なっ!なに言って・・・」
「駄目?」
「だめじゃないけど・・・」
「じゃ、帰ろ?」
「うん・・・」


手を繋いで歩き出す。
2人の間に平和な空気が戻った。
と同時に、相葉の携帯にメールの着信が入る。


「あ・・・・」


携帯を確認した相葉が気まずそうに二宮を見た。
それに二宮は敏感に反応する。


「何?誰から?」
「あっと・・・小栗君?」
「・・・あんたいつの間にアドレス教えたの?」


二宮の声が低くなる
その様子に相葉は恐縮した。


「話し始めて、ちょっとしてから・・・赤外線で・・・」
「まったく・・・。貸して?」


呆れた様子で息を吐いた後、二宮は相葉から携帯を受け取り、内容を確認する。


『今日はありがとう、楽しかったです。
また、会いたいな。今度は2人でゆっくりねv』


「・・・・」


あんの野郎・・・潤君から事情を聞いただろうに。
やってくれんじゃん。


「にの?ねぇ、なんて書いてあんの?」


相葉が覗き込もうとすると、すかさず二宮はメールを消去した。


「あーっ!!にの!?メール!」
「・・・・」


二宮の手から携帯を取り返すとメールを確認するが、すでに消されているため、もちろん読むことは出来ない。


「もう、にのぉ・・・なんで消すの?小栗君何て?」
「何?あんた、旬君が気になるわけ?」
「そうじゃないけど・・・失礼じゃない。メールくれたら返さなきゃ」


文句を言いながら、小栗に連絡しようと番号を探す。


「あれ?番号・・・」


アドレス帳に登録したはずの小栗の番号が見当たらない。
というよりも、小栗の名前自体がアドレス帳にはなかった。


「まさか、にの!?」
「旬君のデーターは消去しました」
「なんで!?っていうか、いつの間に!?」


「・・・いらないでしょう?」
「だって、せっかく友達に・・・「いらないでしょ?」」


相葉の言葉にかぶせるように二宮は笑顔で言い放つ。
その静かに怒る雰囲気に、相葉が逆らえるわけはなく。


「連絡、しないよね?」
「う、うん。しない・・・」


相葉は何も言えずに、ただ頷く。
それを見て二宮は満足気に笑った。




その後、小栗の携帯に送られてきた二宮からのメールで、小栗は二宮の執念を知ることとなる。




『今度、相葉さんにあんなメール送ったら殺すよ?あと、相葉さんの携帯、旬君のアドレスと番号は全部着信拒否にしてあっから送っても無駄だから。
相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!!!』







おわり?



―――数日後、某テレビ局にて



小栗は近く公開となる映画と、公演間近となった舞台の宣伝のため、いくつかの番組を梯子していた。

生番組の出演からコメント撮りまでを無難にこなしてきたが、さすがに朝から休憩もろくにしておらず、疲労が溜まっていた。


朝早かったこともあり、小栗は先ほどから大きなあくびを繰り返している。



「ふぁー・・・。あー、疲れた。眠みー・・・ん?」


ようやく休憩時間となり、テレビ局の廊下を楽屋へ向かうため歩いていると、前から見覚えのある細身の男が歩いて来た。


相手も小栗に気付いたようで、大きな瞳を更に大きくして立ち止まった。



「あ、相葉く・・・・えっ!?ちょ、ちょっと!相葉君!?」



小栗が声を掛けようとした瞬間、相葉は踵を返し、一目散に逃げ出した。



「な、何で?」



その勢いに呆気に取られ、しばし呆然としていた小栗だが、すぐにその原因に気付く。



「ニノか・・・」



この間、初めて相葉に会った時に松本から聞いた話を思い出す。
相葉が走り去った廊下の先を見つめて苦笑した。



*****



少しの興味と好奇心。
ちょうど休憩時間。


ただ、それだけ。


何となく、相葉の後を追って来てしまった。


「あれ?こっちに来たと思ったんだけど・・・・って、相葉君?何やってんの?」


見失ったと思ったら、足元に見え隠れする背中を発見した。
相葉はロビーにある自販機と自販機の間に、後ろ向きに蹲っていた。



「・・・相葉君?」
「あ、あいばじゃありません!!ひとちがいです!!」
「は?」


声かけにそう答えて、蹲ったまま振り向くこともしない。


どうしたものかと考えあぐねて、相葉の後ろ姿を見つめていると、その背中はわずかに震えていて、しかも一生懸命頭を押さえている。
本人的には隠れているつもりなのだろう。




何か、小動物みてぇ・・・。




相葉の姿に、小栗は思わず吹き出した。


小栗が吹き出したのが分かったのか、少しだけ顔を上げて小栗の様子を窺う相葉。
しかし、目が合うとまた隠れてしまう。



「ねぇ、相葉君」
「だから!相葉じゃないですから・・・・」
「・・・・あ、ニノだ!どうしたんだよ?今日仕事・・・」
「え?にのっ!?」


相葉は小栗の言葉に思わず立ち上がった。
しかし、そこに二宮の姿はなく。


「あれ?いない・・・」
「くくっ。ほら、やっぱり相葉君だ。ごめん、ニノは嘘」
「え・・・?あっ!」


小栗の方を振り返って、しまったと言わんばかりに逃げ出そうとする相葉の腕を小栗が掴み捕まえた。


「は、離して・・・・」
「嫌だ」
「い、いやだって・・・・なんでぇ?」
「離すと逃げるでしょ?だから離さない。逃げないんだったら離すけど?」
「に、逃げないからっ!」
「ホント?」
「ほんとっ!!」



相葉の答えを聞いて満足そうに微笑むと、小栗は手を離した。
相葉は逃げないものの、小栗と目を合わせようとせずに俯く。



「久しぶりだね、元気だった?」
「う、うん・・・まぁ」


「・・・俺、あの日メール送ったんだけどな」
「えっ?あ・・・うん。あ、あのね?えーと・・・・」


もちろん、相葉がメールを送ってこない理由は分かっている。
しかし、見事なほどにうろたえている相葉に、悪戯心が湧き上がる。



「待ってたんだよ?相葉君からの返事・・・」
「ご、ごめんなさい!あのね、おれ・・・け、携帯換えて・・・」
「あれ、今持ってるのこの間と一緒の携帯じゃない?」
「あっ!いや、これは・・・あの、おれのじゃないっていうか、おれのだけど・・・・」


慌てて持っていた携帯を後ろに隠す。


「・・・何か誤魔化してるよね?相葉君、俺の事嫌いなの?」
「き、きらいじゃないよっ!!あの、あのね?えっとね、どうしよぉ・・・」


涙目で必死に言葉を探している相葉に、何だかイケナイ気持ちが起き上がって来そうになるのを、小栗は気のせいだとやり過ごし、笑って見せた。


「あははっ。ホント相葉君は可愛いね。ニノの気持ちが解る気がする」

「お、おぐりくん?」


急に笑い出した小栗を不思議そうに見上げる。


「ふふっ、ごめん。ちょっと意地悪だったかな?知ってるよ、ニノだろ?」
「え?」
「松潤から聞いたよ。付き合ってんだって?」
「えっ!あ・・・・、うん・・・」
「あの日、ニノが急に帰ったのも、俺と相葉君が仲良く話してたからニノが怒ったんだって、松潤が言ってた」


相葉は、俯き顔を赤らめた。
その恥らうような表情が何とも可愛らしく、思わず口元が弛む。




「・・・あの日さ、相葉君にメールした後、ニノからメールが来たんだ。俺からのメールと着信は拒否ってんだって?」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
「別に怒ってるわけじゃないよ。相葉君の意志じゃなくてニノがやらせたんだろ?」
「・・・・」

「違う?」
「ち、ちがうよ?着信拒否してるのはおれだし、登録消したのもおれだから・・・」
「登録まで消されてんの?ショックだな、それ」
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
「・・・それもニノが言ったの?」
「・・・・ちがう・・・・違わないけど、でも違うんだ・・・・」


困ったように小栗から目をそらす相葉に、小栗は先日の二宮からのメールを思い出す。



送られて来た時、あまりの内容にしばらく固まった。
二宮の子供のような独占欲と、そこに見え隠れする狂気にも似た執着心。


会ったばかりの自分と話すことにさえ、あんなにも嫉妬したのだから、その束縛は想像を超えるものなのだろう。


そして、その全ての感情を受けているのは、この相葉なのだ。



「ニノが・・・怖い?」
「・・・それは違うよ」
「じゃあ、何でニノの言うことをそんなにまでして守ろうとするの?」


「にのが怖いんじゃないよ・・・。おれはね、にのを傷つけるのが怖いんだ」
「・・・どういうこと?」
「・・・・」


相葉は小栗の問いに少し戸惑った後、観念したかのように話し始めた。



「おれね・・・。おれ、ばかだから・・・いつもにのを怒らせる。いつも傷つけちゃうの。
でもね、ばかだから・・・いつも原因が分からないの。おれのせいで傷ついてるのは分かるのに、なんでなのかが分からないのね。
だから・・・おれはにのを傷つけたくないから、にのがダメって言うことは、絶対にしないの。
にのが嫌がることはしないって・・・そう、決めてるの」



二宮を思い出しているのだろうか。
その表情はとても穏やかで、一途な想いに満ちていた。


「・・・・だから俺からの連絡は拒否しろっていうのに応じたの?アドレスから俺の名前を消したのも、さっき俺から逃げようとしたのも、ニノが怒って・・・傷つくと思ったから?」
「・・・うん。ごめんなさい」



申し訳なさそうに頭を下げる相葉に、小栗は苦笑した。



正直、2人が付き合ってるって言うことは聞いていたし、今更驚くこともない。
ただ、自分の知っている二宮はいつも冷静で、淡白な男だった。
だから二宮がこんなに人に執着するとは思ってなかったし、あんな子供みたいなことを言うのも意外だった。




『相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!』




しかし、それは決して一方的なものではなく。



今目の前にいるこの人はそれら全てを解った上で、二宮を受け入れているようだ。



2人の想いを、繋がりの強さを見せられた気がした。



こりゃ、また随分と相思相愛な2人だな。



「相葉君は・・・ニノが本当に好きなんだね?」
「え?うん・・・」


再び顔を赤らめて恥ずかしそうに頷く相葉を見て、少し逡巡した後、小栗は深く息を吐いた。
そして相葉に気付かれないようにニヤリと笑う。




「相葉君と友達になりたかったのに残念だなぁ」
「え・・・、友達だよ?こうやって話してるし・・・」
「連絡取れないのに?」
「うっ・・・・でも、会ったら話せるし・・・」
「2人で会えないのに?」
「2人は無理だけど・・・でも・・・・でもさっ」



悲しそうに言う小栗に、再び焦り始めた相葉が可愛くて、思わず吹き出した。



「くははっ。ごめん、苛めすぎたかな?」
「おぐりくん?」
「冗談だよ。怒ってないし、こうやって会った時には話してくれるんだろ?今はそれで充分だよ。相葉君の反応が可愛いから思わずね?」


意地悪い笑みを浮かべる小栗をポカンと見つめた後、相葉は自分がからかわれてのだと気付き、頬を膨らませた。


「小栗君は、やっぱりにのの友達だね!意地悪なところはそっくりだもん!」
「ははっ。じゃあ、俺の事を好きになってくれる可能性があるって事?」
「もう、そういうトコほんとに似てる・・・」



恨めしそうに小栗を睨む相葉に、小栗は大きく笑った。



本当に可愛らしい人だな。



そう思いながら相葉を見ると、黒目がちな潤んだ瞳がじっと小栗を見つめていた。



「ん?何?」
「あ・・・うん。ね、小栗君て背高いよね。身長いくつ?」
「え?ああ、183くらいかな?」
「へー・・・おれが175だから・・・・そっかぁ。こんな感じなんだね!」
「?」



全く意味が分からなかったけれど、そう言って嬉しそうに笑った相葉は本当に綺麗で。
見惚れていた小栗は何も言えずにいた。

そんな小栗に更に近づくと、じっと見つめる。



「あ、あいばくん?ちょっと、近くない?」



あまりにもじっと見つめられて、小栗はうろたえた。



「ねぇ、ちょっとだけ良いかな?」

「な、何?うわっ!!」



突然相葉が抱きついてきたため小栗はバランスを崩しそうになるが、何とか受け止める。


「ちょ、どうしたの!?」


小栗の問いに答えず、首に回した手に力を込めた。


「くふふっ」
「相葉くん?」


しばらくそうした後、相葉は嬉しそうに笑いながら小栗から離れた。


「ふふっ・・・こんな感じ!くふっ」
「何なんだよ、一体。」



さっきまであんなにも警戒していたとは思えない行動に、唖然とするしかない小栗。



「なぁんでもない。あ、にのには秘密ね?」


そんな小栗を上目遣いに見つめながら、唇の前で人差し指を立て、悪戯っぽく微笑む。

相葉の仕草に小栗は眩暈にも似た感覚に陥る。



「意味分かんねぇ・・・」


「ふふっ。あっ、おれもう行かなきゃ!じゃあ、またね!」
「またがあんの?俺たち」
「もう!いじわる!」
「ははっ。あ、そうだ。俺、もうすぐ舞台なんだ。良かったら観に来てよ。ニノと一緒に」
「・・・・ありがと!じゃあね・・・あ!」



戻ろうとした相葉が、思い出したように立ち止まると小栗の元に戻ってきた。


「何?」
「あ、あのね?・・・・・・・」


相葉は、少し頬を赤くしながら小栗の耳元で小さく何事かを囁いた。
その言葉に小栗は絶句する。


「な、何言ってんの!?あるわけねぇよ!!」
「ほんと?」
「神に誓って!!」
「良かった!!じゃあね!」


小栗の答えに、相葉は心底嬉しそうに笑って手を振りながら去っていく。
その後ろ姿を見つめながら、小栗は笑みを漏らした。



本当に可愛くて楽しい人だな、彼は。


もっと話したいと思わせるし、話すともっと知りたいと思わせる。
困らせてみたくなるし、怒らせてみたくなる。
いろんな彼を見たくなる。


不思議なほど、人を魅了する。
彼と親しくなりたいと思う。


友達として付き合えるかは、俺次第って事だろ?



何か、楽しくなってきた。
先ほどまでの眠気も、疲れもぶっ飛んだ。
相葉君のおかげだな。




小栗は、相葉に感謝しつつ楽屋へと歩き出した。


*****


楽屋のドアの前に立ち、そのドアに掲げられている、中にいるだろう人物の名前を睨み付ける男が1人。


「・・・・」


しばらくそれを睨み付けていた男は、1つ息を吐くとドアをノックする。
返事を確認すると、無言で中へと入る。


「おっ!来たんだ、お疲れ!」
「・・・・どうも」


楽屋にいた小栗の元を訪れたのは、かなり不機嫌そうな二宮だった。
小栗の出演する舞台に招待され、楽屋を訪れたところだ。


「あれ、相葉君は?一緒じゃねぇの?」
「・・・・一緒のわけないでしょう。あの人も舞台中ですよ・・・。しかも今日が楽日なんだよ」


こんな日に招待とはやってくれんじゃん・・・と小栗を睨む。


「ははっ。わざとじゃねぇよ?」
「・・・わざとだったら、ただじゃおきませんよ」
「ご機嫌斜めだねぇ。相葉君が舞台で相手してくんないからかぁ?」


からかうように言う小栗を、冷たい空気で突き放す。


「余計なお世話です。俺の機嫌が悪いとしたら、それは相葉さんのせいじゃなくてお前のせいだよ」
「俺?何でだよ?」


「・・・この間、会ったんですって?相葉さんと」
「ああ、偶然ね。相葉君が言ったの?」
「・・・あの人隠すの下手ですから。何かあったらすぐに分かります。それに隠すことが得策でないことも分かってますから」


「ホント、相思相愛だねぇ。羨ましい限りだよ」
「・・・全くお前は。俺の忠告無視するなんて良い度胸だよ。でも、今度やったら本気で殺すよ?」

「お前、励ましに来たのかよ、それとも脅しに来たのか?」


そう言って笑う小栗に、あからさまなため息を吐いてみせた。


「分かってるよ。だから、ニノとおいでって誘ったんだろ?でもあんま縛ると、そのうち逃げ出すぜ?」
「・・・相葉さんは俺から逃げたりしねぇよ」
「すげぇ自信」
「・・・自信じゃねぇよ。確信だよ」
「はぁ・・・お前らって、すげぇな。何つーか、カタチは違えど想いは1つって感じ?」
「当たり前です」


しれっと答える二宮に、小栗は面白くないと口を尖らせた。
しかし、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべ二宮を見る。


「何ですか、その不気味な顔」
「失礼だな、お前。ふふ・・・実はさ・・・俺、この間さ、相葉君に抱きつかれちゃった」
「・・・・は?」
「『にのには秘密ね?』って可愛くお願いされちゃったよ」
「・・・・どういうことだよ?」


明らかに不快な表情を浮かべた二宮に、満足気な表情の小栗。


「事と次第によっちゃあ・・・お前、舞台降板だよ?」


穏やかではない声で、穏やかでない発言をする二宮に、小栗は肩を竦めた。


「まぁまぁ、んな怒んなって。俺にも何が何だかさっぱりなんだよ。急にさ、俺をじっと見つめてきて、身長いくつって聞いてきてさ」


「身長?」
「ああ。んで、答えたら『こんな感じなんだね』って嬉しそうにしてさ。そしたら急に抱きついてきたんだよ」


せっかくだから、抱きしめ返しといたと言う小栗を、絶対零度の視線で黙らせる。


「『こんな感じ』・・・・。旬君身長いくつ?」
「あ?183だけど・・・」

「・・・・はぁ、そういうことか。んふふ、相変わらずバカなんだから・・・」
「何だよ、何笑ってんの?」
「んふふ、相葉さんはやっぱり俺のものって事だよ」


いきなり上機嫌の二宮に、小栗はついていけずに眉をひそめた。


「どういうことだよ?」
「ふふ、さぁね?お前に教える義理はねぇよ。でもまぁ、相葉さんに触ったことは許してやる。言っとくけど、今度はないからね」


そう言った二宮が、今までに見たことない位に嬉しそうに笑うので、小栗はそれ以上問わなかった。



「あ、そういえば相葉君が言ってたんだけど。俺とお前は似てんだって、意地悪なところが」
「・・・心外ですね。俺はそんなに根性悪くないつもりですけど?」
「だろ?俺も、お前ほど性格歪んでねぇつもりだよ」


しばらくの沈黙の後、どちらからともなく笑いが漏れる。


「相変わらずだな、ニノは」
「旬君もね。そろそろ行くわ。ま、頑張って」
「おう!あ、そうだ。終わったら飯行こうぜ!どうせ相葉君も打ち上げだろ?」
「・・・まぁね。でも、お前の奢りだかんな!」

「何でだよ!俺が頑張ってんのに!!」
「俺の相葉さんに触ったんだから、それ相応の代償はいただかないとね。許すとは言ったけど、ただでとは言ってねぇし」

「・・・ホント、たいした男だよ。お前はさ」


呆れ顔でそう言った小栗に不敵な笑みを残して、二宮は楽屋を出ていった。



その姿を見送った小栗は1つため息を吐く。



「あー・・・全く、羨ましいね」



悔しいから二宮には言ってやらない。
あの日、別れ際に相葉が小栗の耳元で囁いた言葉。


「想いは1つか・・・・」


それを思い出し、小栗は楽しそうに笑った。



『あのね、おれから・・・にの、盗らないでね?』



*****



客席へ向かう廊下を歩きながら二宮は呟く。


「全く、あいつは・・・・」



可愛いこと、してくれんじゃん。



小栗と相葉の身長差。
相葉と二宮の身長差。




相葉が考えそうなこと。



全ては自分への想いがさせたことだ。
悪気はないだろう。



でも・・・・。



「帰ったら、お仕置きだな・・・」



口の端を持ち上げて、客席への扉をくぐった。






おわり
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