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「ふあ~・・・眠い・・・」


大きなあくびをしながら相葉は学校への道を歩く。


何でこんなに眠いのか。
休みの日はすっごくすっきりと目が覚めるのに、学校行くとなるとダメだ。
別に嫌いなわけじゃないのになぁと、あくびで涙がたまった瞳を擦る。


「ふあ~・・・あ!」


前方に俺より眠そうな男を発見!!
フラフラと歩いていて、今にも側溝にはまりそうだ。

そんな彼に苦笑しながら近づく。



「大野君!おはよぉ」
「・・・おう、相葉ちゃん」
「大野君、寝ながら歩かないでよ、危なっかしい。そのうち溝に落ちるよ?昨日、寝てないの?」
「・・・んあ?寝たよ。たっぷり10時間。でも眠い・・・」
「寝すぎで眠いんじゃないの?」
「そうかも・・・」


この、のんびりした男は大野智。
相葉のクラスメイトで親友。
人見知りの激しい相葉が、高校に入学して唯一最初から心を許せた人物だ。
このふんわりとした雰囲気と、彼の周りに流れる空気が相葉を安心させたのだろう。
以後、2年生になる現在まで、学校でのほとんどの時間一緒にいる。

その、のんびりとした見た目とは裏腹に、運動神経が抜群で、よく色々な部に助っ人を頼まれている。

実際、試合に出ている大野は別人のように機敏でカッコいい。
男子生徒のみならず、女子生徒の注目の的にもなっている。
そのため、学校ではかなりの有名人だ。


今までにも、数々の部が彼を正式部員にしたいと誘ってきている。
本人は全くその気がないので、断ってしまうのだが。

助っ人を頼むのもひと苦労らしい。
彼をやる気にするのは大変なのだ。
それでよく運動部の連中が相葉に泣きついてくる。

大野は相葉が頼めばたいてい助っ人を引き受けてくれるから。
それを知っている連中は大野ではなく、最初から相葉にお願いに来るくらいだ。


だが大野とて、ただボーっとしているわけではない。



「そうだ、大野君。今日もいつもの時間に行けばいいの?美術室」
「ん?ああ、そうだね」
「俺苦手なんだよぉ、じっとしてんの・・・」
「だから、動いてもいいって言ってんじゃん。相葉ちゃんが勝手に止まってんだもん」


苦笑いして相葉を見る。


「だって!モデルっつったら、普通ポーズ決めて立ってんじゃん!そういうイメージじゃん!」


そう、実は大野は美術部の部長なのだ。
大野の描く絵は本当に綺麗で、感動的だ。
本来、大野は風景画が専門だという。
それが何故だか突然、相葉をモデルにしたいと言い出した。
大野と相葉が親しくなったのも、大野が相葉をモデルにしたいと声をかけたのがきっかけだった。

初めは断っていた相葉だったが、大野の絵を見た瞬間に快諾した。
それほどに人を惹きつける。


「まぁ、相葉ちゃんらしいけど。別に何してくれててもいいよ。勝手に描くから」
「ふーん・・・そういうもん?」
「そういうもん・・・・にしても、眠いなぁ・・・」
「もう、さっきからそれしか言ってないじゃん」
「そうだったか?」
「そうだよ」
「すまん」
「まぁ、いいけどさ。ねぇ、今日の1限って何だっけ?」
「知らね」
「もう!大野君はいつもそうなんだから!」
「何だよぉ、相葉ちゃんだって人の事言えねぇじゃん」




そんな2人に不機嫌そうな声がかかる。


「朝から何をぎゃぁぎゃぁ言ってんだよ、うるせぇな」

「あ、松潤だ。おはよぉ」


声をかけてきたのは、もう1人のクラスメイトで友人の松本潤。
綺麗な顔立ちと、優雅な身のこなし、クールな態度が女子生徒にはたまらないらしく、人気は絶大だ。
何やら雑誌モデルの仕事をしているらしく、ただの高校の制服であるブレザーが、彼が着ると一瞬にして高級ジャケットに早替わりするから不思議だ。
こちらも学校で1・2位を争う有名人。



しかし寝起きの悪い彼は、朝はいつも機嫌が良くない。
それを知っている人は朝の彼には話しかけないくらいだ。
以前、それを知らずにうるさく付きまとっていた女子生徒の胸ぐらを掴み、地を這うような低い声で「失せろ」と言ったのは有名な話。


だが、この2人は別だった。


「相変わらず濃い顔だね、松潤は。ね、大野君」
「おう、朝はまた格別濃いな」
「・・・お前らな・・・」

「ひゃあ、大野君。松潤が怒るよ。怖いよ。うひゃひゃ!」
「松潤、怒ったら駄目だぞ。怒ると更に顔が濃くなるからな」
「あ、大野君今いいこと言った!」
「おう!今日イチの名言だな!」
「名言でもねぇし、いいことじゃねぇ!お前ら俺で遊びやがって・・・後から分かってんだろうなぁ?」


「うひゃひゃっ!松潤怖いよー。でも、おもしれぇ!」

更にヒートアップして笑う2人に松本は顔をしかめつつ、ため息を吐く。
それでもこの2人にキレたりはしない。
それだけ信頼できる間柄なのだ。


いつも通りの3人の、いつも通りの風景がそこにはあった。



*****


「ふあ~・・・」


授業中のあくびをごまかすように、相葉は窓の外へ顔を向ける。


「おれも大野君のこと言えないな・・・あ・・・」


グラウンドに翔ちゃん発見!!


「くふふ・・・運動オンチの癖に張り切っちゃって」


グラウンドでは、相葉の友人である櫻井 翔が体育の授業中。
彼もこの学校の有名人の1人。



頭脳明晰、眉目秀麗。
彼のためにあるような言葉。

その吸い込まれそうに大きな瞳と、柔らかい物腰に腰砕ける女生徒は数知れず。
真面目で、何事にも一生懸命で、時には馬鹿にもなって盛り上がれる彼は、男子生徒からも大人気だった。


それが、彼を生徒会長という地位まで押し上げたのだろう。
相葉の自慢の友達だ。


ちょっと、運動オンチのヘタレだけどね。
これは内緒にしておこう。


おれの友達は、みんな自慢できる人たち。
彼らみたいに凄く特殊な、選ばれた人たちがどうして自分なんかと一緒にいてくれるのか。
相葉はそれが不思議だった。
本人たちに聞くと、みんな驚いた顔をして、「何言ってんの、人のこと言えないじゃん」って言うんだ。


意味分かんない。


ふと櫻井が校舎の方を見上げて、相葉と目が合う。
にっこり笑って相葉に大きく手を振る櫻井に苦笑しながらも手を振り返す。


「翔ちゃん、授業に集中しろよ・・・・」


もちろん相葉も人のことは言えないのだが。
相葉は再びあくびをかみ殺した。



*****


「っしゃ!昼だ!大野くん、松潤、学食行こうぜ!!」


チャイムと同時に立ち上がり、大野の席まで来ると授業中ずっと寝ていた大野を揺り起こす。



「んあ?授業は・・・?」
「もう、終わったよ!!ずっと寝てんだもん。早くいこうぜ!松潤も!!」
「・・・ああ」


大野、松本と並んで学食へと向かう。
昼時は廊下も生徒でごった返していて、騒がしい。
その中でも相葉たち3人は目立つ存在のようだ。
学校の有名人2人と歩いているのだから当然で、すれ違う生徒が皆、相葉たちを振り返る。
それもいつもの事と、3人とも気にはしていなかった。


そんな中、生徒たちでごった返している廊下の向こうから1人の女子生徒が相葉たちの前まで歩み寄ってきた。

3人を見渡した女子生徒は相葉の前で立ち止まると、何も言わずに相葉を上から下まで品定めをするかのように見た後、睨み付ける。


その大きな目はメイクにより、更に大きく強調されていた。
小柄ながらも、スタイルの良いのが分かる制服の着こなし。
俗に言う美人の部類に入るだろう。

どこかで見たことあるような・・・。
そんなことをぼんやりと考えていると、彼女が口を開いた。


「・・・あんたが、相葉 雅紀?」
「へ?あ・・・はい。そうですけどっ・・・」



パンッ!



相葉の返答を聞かないうちに廊下内に乾いた音が響いた。
一瞬で、騒がしかった廊下が静まり返った。
相葉の頬に痛みが走る。





「「相葉ちゃんっ!!」」


隣にいた大野と松本が大声を上げる。
その声でようやく自分が彼女に殴られたんだと知る。


「あ、あんた!何してんだよっ!!」


相葉と女子生徒の間に入り、松本が声を荒げた。
大野も相葉を庇うように前へ出る。


「おおのくん・・・いいよ、大丈夫だから・・・松潤も・・・ね?」
「あいばちゃん・・・」


大野と松本を制し、相葉は彼女へ向き直る。


ああ・・・この子、この間まで、よく翔ちゃんと一緒にいた子だ。
生徒会の役員の1人。


ウチのクラスの男子もよく話題にしてたっけ。
可愛くて、スタイルも良くて、付き合いたい女子生徒の5本の指に入るとか。
そういえば、翔ちゃんと付き合ってるとか何とか噂になってたっけ。

翔ちゃんは違うって言ってたけど。


でも、結構前の話だよなぁ・・・。


黙っている相葉に痺れを切らした彼女が再び口を開いた。


「何で・・・何であんたなの!?」
「あの・・・おれ、なんかしました?」
「何よ、とぼけるの?」
「とぼけるもなにも・・・」


本当に心当たりがない。


相葉のその態度が更に彼女をイラつかせたようで。


「ふざけるのも、いい加減にしてよ!どうして?何でいつもあんたなのよ!?」


今にも泣きそうな彼女が再び手をふり上げる。


また叩かれる!


そう思ってぎゅっと目を瞑った相葉だったが、乾いた音はしたのに先ほどのような衝撃はない。

そっと眼を開けると、自分の前にいた大野の頬が赤くなっていた。


「お、大野君!?だ、大丈夫?」
「結構、効いたなぁ・・・相葉ちゃん、痛かったでしょ?」
「おれの事より・・・大野君は?」


そんなやり取りを見ていたその女子生徒は、大野と相葉の間に入り、更に相葉へと詰め寄ろうとした。

それを止めたのは松本。


「あんたいい加減にしなよ。何があったか知んねぇけど、ちょっとひどいんじゃない?」


松本に腕を掴まれ、迫力ある顔で言われて女子生徒は少し怯んだようだが、相葉を睨み付けるのは止めなかった。


「何でよ・・・、大野君も、松本君も何でこの人を庇うの!?櫻井君も・・・・二宮君だって!!どうしていつもこの人なのよ!」


そう叫んで走り去った彼女は泣いていた。




*****



「相葉ちゃん・・・大丈夫?」
「え?う、うん」


呆然と立ち尽くしていた相葉だったが、大野と松本の声で我に返る。


「あ、大野くん、大丈夫?ごめんね?よく分かんないけど・・・おれのせいで・・・」
「おいらは平気だよ。それより、相葉ちゃんこそ大丈夫?可愛い顔が赤くなっちゃって・・・」

痛かったねと、相葉の頬を撫でる。


「ううん、大丈夫。松潤もありがとぉ」
「ああ・・・にしても、何だよあいつ・・・」


相葉の頭に手を置いて微笑んだ後、顔をしかめる。

 
「あの子さ・・・さっきの女の子、泣いてたね。おれがなんかしたのかなぁ?」


ぶたれた頬に手を当てながら相葉が呟いた。


「お前さぁ、どこまでお人よしだよ?いきなり来て、こっちのわけが分からないまま殴られてんだ。怒るとこだろ?」
「そうだけど・・・」


相葉は先ほどの彼女が最後に言っていた言葉を思い出す。


「ねぇ・・・大野君、松潤・・・にのみやって、だれ?」


「あ?ああ、そういえば言ってたな。二宮・・・って、あいつか?」
「知ってるの?」

「・・・思い当たるヤツは1人・・・1つ下のヤツで翔君と生徒会の役員やってる・・・」
「ああ、ニノのことか?」

「大野君、知ってるの!?その・・・にのみやって子」
「おお。時々授業サボりに美術室に来るぞ?なかなか面白いヤツだな」


「・・・おれ、その子・・・二宮君?のこと知らないんだけど、さっきの彼女が言ってたよね?確か・・・大野君も、松本君も櫻井君も、二宮君もって・・・」


あれって、どういう意味なのかな?


相葉の質問に大野と松本が顔を見合わせた。
二宮はともかく、自分たちや櫻井には彼女の言うことに心当たりがあった。


「あー!!分かんねぇ!もういいや。学食行こ!!」


しばらく考え込んでいた相葉だったが、本来考える事が苦手な彼は、答えが出ないと、それ自体を投げ出した。


考えたって仕方ない。
生徒会の子って言ってたし、後で翔ちゃんに聞いてみよ!!


そう決めて、学食へと向かった。



*****


先ほどから、櫻井は自分を睨み付けるようにしている人物を目の前にして困り果てていた。


「あのー・・・雅紀さん?」
「・・・・」


授業の終わりと同時に生徒会室に乗り込んできた相葉は、ひと言「どういうこと!?」と言ったっきり今の状態だ。
櫻井には何が何だか分からなかった。


そんな相葉の様子を見て、櫻井はあることに気付く。


「お、おい相葉!これ・・・どうした?」


相葉の頬が赤く腫れているのにようやく気付いた櫻井が聞く。



「・・・叩かれた」
「だ、誰に!?」
「・・・翔ちゃんと付き合ってた子・・・」


「はぁ!?」


「って・・・噂になってた子」

「何で!?ってか、付き合ってねぇし!」
「うん・・・。でも、その子が言ってたの。どうしていつもあんたなのって・・・」
「いつも?」
「大野君も、松潤も翔ちゃんも・・・・どうしていつもこの人なの!って・・・」

「・・・・・」


「おれ、意味が分かんなくてさ・・・知らないうちに誰かを傷つけてたのかなって」
「いや・・・それはないだろ・・・」
「じゃあ、なんであの子はあんなに怒ってたの?おれのせいでしょ?」
「いや、その・・・むしろ俺たちのせいかな・・・」
「え?」
「あ、その・・・なんでもない・・・悪かったな、痛かっただろ?」


櫻井は言葉を濁し、ごまかすように相葉の頬を撫でた。


「・・・もう、いいよ。別に気にしてないから。それに翔ちゃんのせいとも限らないでしょ?」
「ああ・・・」


櫻井は曖昧に返事を返す。


「あ、そうだ。ねぇ、翔ちゃん。二宮君ってどんな子?」
「え・・・ニノ?どうして?」
「彼女がね、二宮君もって・・・言ってたから。だけど、おれ知らないんだよね、その子」
「ニノも・・・って、ええっ?」
「な、なに?」


急に大きな声を出した櫻井に相葉はたじろいだ。


「え?あ・・・何でもねぇよ」
「変なの・・・。まぁ、いいや。あ!おれ大野君トコ行かなきゃ!お邪魔しましたぁ。翔ちゃん、またね?」
「おう・・・」


出て行った後ろ姿を見送り、櫻井はため息を吐く。



今更あの女が相葉に突っかかるなんて思ってもみなかった・・・。
二宮の名前が出たってことは・・・アイツ、今度は二宮狙いか。


相葉を殴ったという、その女。
以前、櫻井にかなりのご執心だったようで、本人もうんざりしていた。
同じ生徒会というのもあって、それなりに接していたのがまずかったのか、勘違いされて。
いつでもどこでも、べったりだった。
それでも波風立てないようにと当たり障りなくかわしていた。
挙句、勝手に付き合ってると噂を流されて。


「諦めさせんの・・・大変だったんだよなぁ」


好きなヤツがいると彼女に告げたとき、相手が誰かを知るまで納得してくれなかった。
もちろん言ってないけど。
ただ、好きな相手は同性だと言った。
プライドの高い女だから、男に負けたなんて絶対口に出来ないだろうと踏んでの事。
案の定、彼女はひと言も洩らさなかった。


だから安心していたのに。
どこから、相葉の事がバレたのか・・・。

大野、松本、櫻井に共通する事。
3人とも相葉に想いを寄せているということ。

おそらく、彼女はそれを知ったんだろう。
だからこそ、相葉に矛先が向いたんだ。


それにしても・・・・。


「大野君と松潤はともかく・・・ニノまでライバルかよ・・・」



二宮は確かに頭が切れるし、生徒会でも櫻井の補佐となる人物ではある。
ただ、いつも飄々としていて、掴みどころがない。
なんに対しても冷静で、人当たりはいいが何処か一線を引いている感じが否めない。
常にポーカーフェイスで、見たことのある表情といえば、不敵に笑う顔だけ。


そんな彼が相葉を好きだなんて・・・。



櫻井は1つ下の、不敵に笑う彼の笑顔を思い出していた。



*****



放課後の美術室は、教室全体が夕暮れ色に染まり、何ともいえない独特の空気を作っている。


相葉は椅子に座って、大野が来るのを待っていた。
先ほど、大野は美術部の顧問に呼ばれて出て行ったのだ。
特にすることもなくボーっと待っている相葉に、朝からの眠気が再び襲い掛かる。


「ふぁ~・・・おおのくん・・・まだ、かなぁ・・・」


待ちくたびれた相葉はついに机に突っ伏すと、目を閉じた。




夕暮れの美術室。
静寂な時の中で・・・。



相葉は不思議な感覚に陥っていた。



なんだろう・・・・。
気持ちいいなぁ。


ああ・・・、だれかが頭、撫でてくれてんだ・・・。


温かい手。


だれ?


大野君?
違う気がする。


松潤でも、翔ちゃんでもない・・・。
誰ともちがう・・・手。


だれだろう?


でも、すごく安心できる手。
温かくて、優しい。
ずっとこうしていて欲しいような・・・。



その手は顔へと降ろされ、叩かれた頬を何度も撫でる。
それすらも気持ちよくて、痛みなんて飛んでった。

誰かが近づいてくる気配の後に・・・・頬と唇に柔らかい感触。
ふわふわして、気持ちいいなぁ・・・。


自然に頬が弛む。
何だか・・・このままずっと・・・。



夕日が落ちて、日がなくなると少し肌寒くなってくるこの季節。
相葉は冷たい風にぶるっと身を震わせた。


意識が浮上する。


「ん・・・・」


机から顔を上げると、辺りは薄暗くなっていた。


「ゆ・・・め?」


にしては、やけにリアルな感覚。
頭と、頬、唇には先ほどの温かさが残っているようで、相葉はそっと唇を撫でた。
しばらくボーっとしていた相葉だが、はたと気付く。


「・・・あれぇ?おおのくん・・・」


いまだ眠そうな目を擦り、辺りを見回す。


「大野先輩なら、帰りましたよ」


急に降りかかった声に驚きながらそちらに振り返ると、美術室の一番後ろの椅子に座って携帯ゲームをしている少年が1人。


「あの・・・」


ゲームの画面から目を離すことなく答える少年。


「大野先輩なら一度来て、先生の用事で一緒に美術館に行かなきゃいけないとかで、出て行きました」
「そ、そうですか・・・起こしてくれれば良いのに・・・大野君」


「起こしてましたよ?でも、あなたが起きなかったんです」
「え?あ・・・そっか・・・って、君は?」


先ほどから、疑問に思っていたことを口にする。
美術部員・・・にはいなかった気がするし、同じ学年でもないようだ・・・大野先輩って言ってたし。


「俺ですか?俺は校内の見回りです。今日は俺が当番なんで。でも、あなたが起きてくれないから、俺も帰れなくて」
「ああっ、そっか!ごめんなさい」


相葉は言われて慌てて謝った。
この学校では生徒会の役員と、風紀委員たちが交代で校舎内の見回りを行っている。
全員が帰ったことを報告し、彼らは帰ることが出来るのだ。
よく櫻井が愚痴っていたから。
隠れて残っている生徒(主にカップルらしい)がいて困ると。
早く帰りたいのにと、顔をしかめているのを思い出す。


「おれのせいで・・・えっと・・・?」
「・・・二宮です」
「ああ。二宮君も帰れ・・・にのみや?」


名前を聞いて、動きが止まる。
相葉は二宮を凝視した。


「二宮君・・・生徒会の?」
「ええ、そうです」


室内が暗く、二宮との距離も離れているため、いまいち二宮の顔が確認できない。
携帯ゲームの音だけが室内に響いている。


「あの・・・二宮君」
「はい?」
「俺は・・・2年の相葉雅紀って言うんだけど・・・」
「・・・知ってます。有名ですから」
「ゆ、有名!?おれが?」
「はい」


相葉は目を見開いた。
自分が有名人のわけない。
至って普通の高校生なのに。


「ああ、おれの友達がみんな有名人だからだね。いつも一緒にいるから目立ってるのかな?二宮君は翔ちゃんと同じ生徒会だもんね」


そうに違いないと、相葉は自らを納得させた。


「・・・・そうですね。あの、さっき何か言いかけませんでした?」
「あ・・・そうだ!あのさ・・・今日なんだけど」


昼間の出来事に彼が関係しているなら、何か知っているかもしれない。


「・・・ここ、閉めなきゃいけないんで、話しあるんなら生徒会室に移動しますか?」


あそこなら、遅くまでいても大丈夫ですから。


「あ、うん」


二宮について生徒会室へと移動する。



生徒会室は大きなソファーに冷蔵庫、シャワールームまで完備されていて、居心地の良い空間だ。
生徒の自主性を重んじるこの学校では、校内の全てを生徒会が仕切っている。
生徒会役員たちは泊まりで執務を行なうこともあるという。
そのための施設も兼ねているため、こんなにも立派なのだ。

相葉も櫻井が当番の時にはよくお邪魔していたのだが、二宮には一度も会ったことがなかった。

生徒会室に入ると電気をつけ、ソファーに座るよう促される。


「コーヒーでいいですか?」
「うん・・・あ・・・」


その時初めて二宮の顔をしっかりと見ることができた。
端整な顔立ちに相葉は思わず見蕩れてしまっていた。


「相葉先輩?」
「あ、うん・・・ごめん。なんだっけ?」
「あなたの方が話があるんじゃないんですか?」
「あ・・・そうだった!」
「ふふ、面白い人ですね」


やけに落ち着いた物腰と話し方が印象的だったが、そう言って笑った顔はとても幼くて可愛らしい。


相葉は何故か頬に熱を感じたが、それをごまかすように話し始めた。


「あ、あの!あのね、今日なんだけど・・・おれね、女の子に叩かれたの」
「・・・・」
「でね、その子がね、二宮君の名前言ってて・・・・二宮君、なにか知ってるかな・・・って」

話しながら二宮の表情をうかがう。


「ええ、まぁ・・・というか、あなたが叩かれたのは確実に俺のせいだと思います。申し訳ありません」


二宮が頭を下げるのを見て相葉は慌てる。


「いや、そんなの分かんないよ?おれが悪いのかもしれないし!ただ、あの子の話の中に君の名前が出てきたから、なにか知ってるかなって、思っただけで・・・」


頭、上げて?


「いえ。確実に俺のせいです。俺があの女にあなたの事を言ったんですから」
「おれのことって・・・なに?」


しばらく黙りこんでいた二宮は一度目を伏せると、相葉を見据えた。


「あなたが好きです」



「・・・・・は?」


あまりに突然すぎて間抜けな声を出してしまった。


「い、今なんて?」

「あなたの事が好きだって言ったんです」
「す、すきって・・・」
「もちろん、言葉通りです」


開いた口がふさがらない、とはこのことか・・・。
相葉は言葉が出なかった。
二宮はそんな相葉を気にも留めずに話しを続ける。


「あの女がしつこいから、俺には好きな人がいるって言ったんです。そしたら、誰だって聞いてくるんで・・・・あなたの名前を出しました」


なんだって!?


「え・・・?え?じゃあおれが殴られたのって・・・」
「とばっちり・・・ですね」



「なんだよ、それぇ・・・」


我ながら情けない声が出た。
おれ、なんも悪くないじゃん!


「あなたに矛先が向くことくらい、想定できたはずなのに・・・ちょっと、自分でも軽すぎる言動だったと反省してます。本当にすいませんでした」


再び二宮が頭を深々と下げる。


「に、のみやくん・・・あ、あのね、おれ別に怒ってるわけじゃないよ?ただ・・・理由を知りたかったっていうか・・・」


そんな二宮を相葉は必死でフォローする。
相葉がお人よしと言われる所以だ。


二宮はソファーから立ち上がり、相葉の傍らまで寄ると、身を屈めた。
2人の顔が近づく。


「な、なに?」

「綺麗な顔がこんなになって・・・痛かったでしょう?」


そう言って、相葉の頬を撫で上げた。


あ・・・この感触・・・・。
さっき夢の中で感じたものと一緒だ。
気持ちよくて、とても安心する・・・・。

あれって、二宮君だったんだ・・・。


「ゆめ・・・じゃなかったんだ」
「夢?ああ・・・起きてたんですか?」
「え?」


二宮は相葉の言葉に微笑むと、そっと顔を寄せていく。
その流れるような動きをただじっと見つめていた相葉。
気付いた時には、唇に柔らかくて暖かな感触。


しばらくして、それが二宮の唇だと気付いた相葉は慌てて二宮を突き放した。


「なっ・・・なにっ!?」


唇を手で覆い隠し、顔を真っ赤にした相葉が叫ぶ。

キ、キスされた・・・。
キスされちゃったよ、おれ・・・。


「なんでぇ・・・」
泣きそうな声で相葉が二宮をなじった。


「さっきも言ったでしょう?あなたが好きだからですよ」


だからキスしたんです。


「好きって・・・どうして?」
「好きになるのに理由が要りますか?」
「だって・・・」


なぜ二宮が自分を好きだというのか、全く分からない。
相葉が俯いて黙り込んでいると、二宮が話し始めた。




「あなたを初めて見たのは、大野先輩の絵でした」
「・・・・大野君の?」

「授業をね・・・時々サボってたんです。美術室って校舎の端だし、授業がない限り先生が来る事もないですし」


生徒会に入ったのも、特権で授業を抜けられるから。
サボってもバレないでしょ?と、悪戯っぽく笑った。


「美術室に入った時、先輩の描いた貴方と出会ったんです。綺麗な絵だなぁって、時間も忘れて見入ってた・・・」


当時を思い出してか、微笑みながら話す二宮。


「それからは、その絵見たさに美術室に通いつめるほどでした。それで大野先輩と仲良くなったんです。ただ、先輩の描いた他の絵を見たとき・・・気付いたんです。
俺は、先輩の絵・・・・もちろん絵も好きですけど、そうじゃなくて、描かれている人物に惹かれていたんだって」
「二宮君・・・」


「それを確信したのはあなた本人を目の前で見たときでした。本当に綺麗で、躍動的で。俺の全てがあなたに持っていかれた」


相葉の手を取り、自分の手で包み込む。
相葉は一瞬手をビクッとさせるが、抵抗せずに二宮に委ねた。
二宮の目に偽りを感じなかったから。


「いつも、どうやってあなたに近づこうかって考えてました。あなたと話したい。あなたに触れたいって・・・」



二宮の手に力が入る。


「あなたは有名人だから・・・。それにいつも、がっちりガードされてましたしね」
「あのさ、おれは有名人なんかじゃないよ?有名なのはおれの友達!!松潤に、翔ちゃんに、大野君ね!!」


「・・・本当に気付いてないんですね。先輩の言うとおりだ。まぁ、それならそれで、好都合ですけど」


「なんか言った?」



「いいえ、別に。今日こうしてあなたと話して、知り合えた。俺の気持ちも伝えたし、もうなんの遠慮も要らない」


相葉の手を引き、顔を寄せる。


「うわっ!に、にのみや・・・くん?」


今にも顔がくっつきそうな距離に、思わず顔が赤くなる。


「これからは猛アタックかけますから、覚悟して下さいね」


上目遣いに相葉を見て、不敵に笑う。
その顔に相葉の心臓が破裂しそうに跳ね上がった。




*****



そんな出来事があってから、数日。


相葉を殴ったあの女生徒は、どうやら生徒会を止めたらしい。
いろんな噂が飛び交っていたけど、本当の理由は誰も知らない。

時々廊下や教室で見かけるのだが、相葉の姿を見ると怯えたように去っていくのだ。

櫻井と一緒にいた時に、彼女を見て、彼がひと言「ご愁傷様」と呟いていたので、理由を聞いたが、「俺の口からはとても・・・」と、首を横に振ったきり、話してくれなかった。


二宮も、その話題に関しては無言で微笑むだけで。
ただ、最初に二宮と知り合うきっかけとなったあの出来事があった日、彼は別れ際にひと言呟いたのだ。

「見過ごすわけには行きませんね」と。

その直後らしい。
彼女が生徒会を止めたのは。


二宮が関係しているのかとも思ったが、まぁ、そんなにたいした問題でもないかと相葉も気にしてはいなかった。




そして二宮はというと、毎日のように相葉の前に現われるようになった。
別に付きまとっているわけではなく、ただ廊下ですれ違うとか、生徒会室や美術室で会うという感じだが、確実に以前よりは視界に入ることが多くなった。


「知らないなら知ればいい」


告白されて、二宮のことを知らないと言った相葉に、二宮はしれっと言い放った。
それからというもの、2人で話す機会が増えたのだ。



相葉は本来、人見知りするタイプだが、二宮には違った。
何故かは分からなかったが、おそらくあの手だろう。


自分に触れた手が、優しくて温かかった。
話していても、いつも自分を包んでくれているような雰囲気がとても心地良くて。
一緒にいたいと思う。



実際、二宮は物知りで、頭の回転も良く、話していてとても楽しい。
自分の知らない世界、空間が相葉の前に広がる。

その二宮との刺激的な時間は、相葉を夢中にさせた。

この数日の間に一緒に出かけたり、お互いの家に遊びに行ったりと、2人は確実に親しくなっていた。



しかし、いまだに慣れないことが1つ。




夕暮れの生徒会室に二宮と相葉の2人。


二宮が見回り当番のため、相葉は遊びに来ていた。
と言っても、目的は二宮の持っているゲームを生徒会室の大きなテレビでやるためだが。


二宮とゲームをしている最中のこと。


「相葉さん・・・俺とえっちしませんか?」



これだ・・・。


「しないって、言ってんじゃん!」


「どうしてよ?」


コントローラーを置いて相葉に向き直る。
あれから、二宮は宣言どおりに相葉にアタックをかけていた。
と、言っても普段は本当にただの友達といった感じだ。
馬鹿なことを言っては大笑いしたり、ふざけ合ったりしているだけで、特に変わったこともない。
しかし、ふとした瞬間に先ほどのような事を言ってくる。
何でもないことのようにさらっと。


二宮曰く。

「時々、言わないとなかった事にするでしょ?」だそうだ。


二宮と親しくなって、楽しいことや刺激のあることもたくさんあるが、これだけはどうしていいのか分からなかった。


「どうしてって・・・そういうことはさ・・・、好きな人同士ですることでしょ?」


口ごもる相葉に二宮は突っ込みを入れる。



「好きな人って・・・俺は言ったじゃないですか。貴方の事が好きだって」
「そ、そうだけど・・・」


「俺の事嫌いですか?」
「そ、そんなこと言ってない・・・」
「じゃあ、好きですか?」
「・・・・」


「・・・好きか嫌いかで言ったら?」
「・・・すき」


「じゃあ、いいじゃない」


二宮が相葉の手を取って、甲に口付けた。


「え?ちょ、ちょっと待ってよ!なんか違わない?それ」


手を引っ込めようにもがっちりと掴まれる。


「好き同士、何の問題もないでしょ?」


顔を更に近づけていく。


「で、でもさ!ほら、やっぱりさ、順序とか・・・あるじゃん」


しどろもどろになりつつ、何とか乗り切ろうとする相葉をお見通しの二宮は更に相葉を追い詰める。


「順序って何よ?」
「あの・・・だからね、その・・・・やっぱりさ、最初に告白があって・・・」
「告ったじゃないですか」

「うっ・・・。そ、それから返事して・・・」
「さっき、相葉さんも好きって言いましたよね?」

「・・・・それから!で、デートとかしてさ・・・」
「デートなんて何回もしてるじゃないですか。昨日も一緒に出かけたし」


追い詰められて、声がだんだんと弱々しくなっていく。



「う・・・・それで・・・き、キスとかして・・・・」



ちゅっ。



「それから?」


人の隙をついてキスしやがった。


「・・・・・」
「おしまい?じゃあ、良いですよね?」


肩に手を置かれたかと思うとそのまま押されて、視界が反転した。
気付いた時にはソファーの柔らかい感触が背中にあって、視界には天井、そしてすぐに二宮のどアップ。


「えっ!?ちょ、待ってよ・・・に、にの!」
「・・・・相葉さん、俺を見て?俺が好きでしょう?」


「なっ・・・」



おれが、にのを・・・好き?



「この数日、あなたの視線はいつも俺にあったって、確信してるんですけど、違いますか?」
「ちが・・・・」



二宮に言われて、相葉は驚愕した。


二宮に告白されて、二宮のことを知ってから、確かに二宮を気にはしていた。
でもそれは、「猛アタックをかける」という二宮が、自分の周りに良く出没するようになったからだと思っていた。



だが、考えてみると二宮と目が合うことはなかったように思う。


それは、自分の方が二宮を見ていた証拠。
その事実に驚いたのだ。


「ちが・・・わない・・・のかな?」


いつの間にか。


見ていたのは二宮ではなく、おれの方。
気にしていたのは・・・おれの方。


姿を見ると安心した。
見ない日は心が揺れた。


彼と会って話すとドキドキする。
彼が誰かと話しているとズキズキした。


これが意味するものは・・・・?


「・・・す、き?」


相葉が小さな声で呟く。


「そう・・・。違う?」


二宮は相葉を見下ろし、優しく微笑む。
そんな二宮を不安そうに見上げる。


「わかんない・・・でも、ちがわない気がする」
「じゃあ・・・、確かめてみませんか?」
「確かめるって・・・どうやって?」
「こうやって・・・」


そういうと、二宮は相葉の唇に噛み付くようなキスをした。


「んっ!はっ・・・ん、んっあ・・・」


抵抗しようにも手に力が入らない。
かろうじて出来たのは、二宮の制服の袖を掴むことだった。


「は、ん・・・んあっ」


入り込んできた二宮の舌が、相葉の口腔内を犯す。
飲み込み切れなかった唾液が相葉の口の端から流れ落ちた。
息苦しさに相葉が二宮の袖をクイクイと引っ張ると、ようやく唇が離される。
相葉は空気を求めて浅い呼吸を繰り返す。


「あはっ・・・はぁ、は・・・」

それでも二宮は相葉を解放しない。
自分の手を下へと滑らせシャツの裾から手を差し入れると、胸の突起を指先で刺激する。


「あっ!ちょ・・んっ、や、だ・・・」


突然のしびれるような感覚に相葉が身を捩る。
二宮はシャツを胸の上までたくし上げると、今度はそこに口づけた。
唇や舌で刺激しながら、相葉の様子をうかがう。

「はっ、あぁ・・・ん。にぃ・・・のぉ、んっ・・」


愛撫に戸惑いながらも、涙を溜めて感じている相葉を見て満足気に微笑む。
胸の突起を刺激しながら、更に下へと手を伸ばしていく。


二宮の手が相葉の反応し始めているソコに触れると、ビクンと身体が跳ね上がる。


「あっ!ちょっ、に、にの!?やだ!離して!」
「こんなになってるのに・・・?」


やんわりと相葉の欲望を撫で上げた。
そして、そのままズボン越しに擦っていく。

「あっん!やっ・・・あっ、まっ・・・てぇ、んっ」


止めてと言いながらも布越しの刺激がもどかしくて、無意識に腰が揺れた。


「んふふ、もっと気持ちよく・・・なりたいですか?」
「え・・・?あっ!にの!!やだって・・・・あぁっ!!」


快感に思考回路が麻痺しかかっていた相葉だが、二宮にズボンと下着を脱がされたことで我に返る。

しかし、抵抗する間もなく、二宮の手が直接相葉を握りこんだ。
そのまま、上下に動かす。

「んふっ・・・ん、んっ・・・あ、に、のぉ・・・はなしてぇ・・・だめ・・・」
「・・・いいよ、イって?」

相葉の声が一際高く上ずったことで限界が近いと知り、耳元で囁くと、二宮は絶頂へと導くように手の動きを早めた。


「あっあ、だめぇ・・・でちゃ・・・ああっ!!」


相葉が絶頂をむかえ、二宮の手に欲望を吐き出した。
相葉の胸が激しく上下する様子を見ながら、二宮は相葉の上から降りる。


強すぎた刺激の余韻で、相葉はボーっと天井を見つめていた。


「相葉さん、大丈夫ですか?」
「・・・・」


「・・・・嫌・・・でしたか?」


二宮の言葉に、相葉の視線が二宮へと移る。
快感に潤んだ瞳でじっと見つめてくる相葉に、二宮は困ったように笑った。


「そんな目で見られると、困りますね・・・貴方が、嫌だったならもう、これ以上はしません。でも、嫌じゃなかったなら・・・」


そこまで言うと、二宮は相葉の頭を優しく撫でる。
その手の心地よさに目を瞑った。


この優しい手は大好き・・・心が温かくなる。
ずっとこうしていたいと思う。


誰の手よりも、すき。


でも、この手がおれを・・・・。
顔が一気に赤くなる。


「あいば・・・さん?」



「・・・・・の」
「え?」
「いや・・・・じゃなかったから、困ってんの!」


恥ずかしくて止めて欲しいと思ったけど、嫌ではなかった。


「本当ですか?」
「・・・嘘言ってどうすんの・・・?」
「そうですね。嬉しいです」


そう言って笑った二宮はとてもカッコ良くて、相葉の顔が更に赤くなる。
それをごまかすように頭を撫でる二宮の手に自分の手を重ねた。


ホントにおれ、どうしちゃったのかな?


二宮に触れているところから、熱が広がる。
その感覚がくすぐったくて、再び目を閉じた。


そんな相葉を優しく微笑んで見つめながら、二宮が口を開く。


「相葉さん・・・好きです」
「うん・・・」


「続き・・・しても良いですか?」
「うん・・・え?つづき・・・?」
「俺・・・相葉さんの中に入りたい・・・」
「入るって・・・えぇっ!?」


二宮の申し入れに相葉が驚いた声をあげた。


「んふふ・・・別に今すぐじゃなくてもいいです。あなたに俺を受け入れる決心がついた時に・・・俺にあなたを下さい」


「く、くださいって・・・・」
「俺とこういうことするの嫌じゃないんですよね?」
「え・・・うん・・・んっ」


返事と同時に再び唇を重ねた。
今度は相葉も二宮についていく。


制服をぎゅっと握って必死でついてくる相葉に、心まで鷲掴みにされたような感覚に陥り、二宮は苦笑する。


やっぱり離したくないな・・・この人を。


「あふっ・・・・はぁ、にのぉ?」


「ふふっ、相葉さん、可愛い・・・」
「なっ・・・、せんぱいに向かって言う言葉じゃないだろぉ・・・」
「んふふ・・・そうですね、すいません」
「べ、べつにいいけどさ・・・」



「早く・・・・」
「え?」
「早く、俺の物になって下さいね?」
「うっ・・・か、考えとく・・・」


真っ赤な顔でそっぽを向いた相葉の頬にキスをした。




*****



「あーいばちゃんっ!学食行かね?」


昼休みに珍しく授業を起きて受けていた大野から声をかける。


「あ、ごめーん、大野君。今日おれ、にのんとこ行かなきゃなんだ」
「相葉ちゃん!?」


ごめんねと、顔の前で手を合わせて荷物を取ると、教室を出て行く。
そんな後ろ姿を見送った大野と松本。


「なぁ、大野君。最近相葉ちゃん、付き合い悪くね?」
「うーん・・・、確かに。最近はよくニノんとこ行ってるなぁ」


そういうと、2人は顔を見合わせた。


「まさかねぇ・・・」


相葉ちゃんに限って、そんなことはないよな・・・。


そう言いながら、嫌な予感の拭えない2人だった。



*****



昼休みの生徒会室。


「ねぇ、にの!ここは?ここはどうしたらクリアできんの?」


昼食を食べ終えた相葉は早速ゲームに夢中だ。
二宮は生徒会の仕事をしつつ、相葉の相手をしている。


「んー・・・ちょっと待っててもらっていいですか?後ちょっと、終わらせちゃいたいんで」
「えー・・・早くしてよ?」
「もう、わがままですね。あと3分時間下さい」
「はーい」


返事をして、ソファーから二宮が仕事する姿を眺めた。


真剣に書類に目を通す姿は凛々しくてカッコいい。
出会ったときのように、その顔に見蕩れていた。


あの出来事があった日から二宮は相葉に迫るようなことを、ぱたりと言わなくなった。
それこそ、あの時の事なんてなかったことのように。

それが相葉の心を言いようのない気持ちにさせる。
もしかして・・・っていうか、おれはからかわれたんだろうか?


「なんだこれ・・・」


変なの。
胸の辺りがモヤモヤ、チクチクする。
なんでこんな気持ちになるんだろう。



「・・・・さん?相葉さん?」
「ほぇ?あ、なに?」
「何って、ゲーム・・・・」
「あ、あー、ゲームね。あのねって・・・にの!」
「はい?」
「顔、近い!!」


気がつけば二宮は隣にぴったりと座っていた。


「んふふ、相葉さん。真っ赤なお顔、可愛い」
「んなっ・・・・なんだよ、それ!」
「相葉さん?」


「お、おれのこと・・・からかってんの!?おれが慌てるの見て楽しんでんの?」
「ちょ、どうしたんですか?」


急に爆発した相葉に二宮は目を見開いた。


「おれが・・・おれがこの数日、どんな想いでいたと思ってんの・・・・」


俯いて話す相葉の声が震える。


「・・・どんな想いだったんですか?」


二宮はそっと相葉の頭を撫でた。
二宮の手が触れるのもあの時以来だ。



その手の温かさはやはり変わらなくて。
相葉は、心が解けていくような感覚に陥る。
先ほどまでのモヤモヤも、チクチクもなくなり、やけに落ち着いた気分。


そして思い知る。


ああ・・・自分はこんなにもこの手が欲しかったんだ。


「あれから、ずっと考えてた。おれの気持ち。だけど・・・考えようとするとね、にのの顔が浮かんできて、なんにも考えられなくなっちゃうの。
なのに、にのってば、全くなんにもなかったみたいな顔してさ・・・おれだけ気にしててばかみたい・・・」


「あいばさん・・・それってもしかして・・・」


「うん・・・。おれ、やっぱりにののことが・・・す、きっ!」


言い終わらないうちにおもいっきり抱きしめられた。


「にのっ!?」
「・・・ごめん。我慢の限界」
「え?」


「俺だって我慢、してましたよ。あなたに1度触れてしまったんだ。想像以上にきつかったよ・・・」


相葉の肩に顔を埋めるようにして呟く。


相葉の気持ちが自分に向いている事に、二宮は確信めいたものを感じていた。
きっと、自分が押していけばもっと簡単だったのかもしれない。

でも、そうじゃなく・・・気付いて欲しかった。
相葉自身で考えてもらいたかった。
だから、二宮は押すことを止めたのだ。


しかし、1度相葉に触れてしまった手は、彼を欲して已まなかった。
何度この腕に抱きしめようと思ったか。


「でも・・・我慢した甲斐がありました。あなたからその言葉が聞けたんですから」
「にの・・・」


恐る恐る二宮の背中に手を回す。


「にの、すき・・・」


認めてしまえば、こんなにも心が安らぐ。
口に出したら、こんなにも愛おしくなる。


「俺も、好きです」


見つめ合い、お互いの顔が近づく。
もう少しで触れ合うというところで・・・。



「ニノ、相葉ちゃん来てるって・・・・ああ―――っ!!」


ドアを開けたのは櫻井。
目の前の2人の姿に大声をあげた。


「どうしたんだよ!翔君!?って、「ああ―――っ!!!」」


その後ろから松本と大野が続いて入ってきて、目の前の光景に櫻井と同じリアクション。



「な、なにっ!?」


相葉は突然の事に対応できずに固まった。
二宮は3人の登場に舌打ちする。


「いい所なのに・・・出歯亀ですか。あんたら、いい度胸ですね」
「え?でばがめ?にの、でばがめって、なに?」
「相葉さんは気にしなくていいんです」
「うん?」


「ちょっと!!何2人の世界作ってんだよ!?相葉ちゃん、どういうこと?2人は付き合ってんの!?つーか、まずは離れろっ!!」


「しょ、翔ちゃん、どうしたの?」


櫻井の取り乱しっぷりに相葉は動揺する。


「うるさいなぁ、落ち着いて下さいよ。相葉さんが怯えてますよ、会長」
「あ・・・ああ、すまん」


「で、2人は付き合ってるわけ?」


落ち着いたところで松本が再度問う。


「えっと・・・。付き合ってる、の?」


相葉は二宮を窺いながら答える。


「何で俺に確認するんです?あなたの気持ちが分かったなら、答えは簡単でしょう?」


二宮が穏やかに微笑んで相葉の肩を抱いた。


「うん。あのね、翔ちゃん、松潤、大野君。おれ・・・にののこと、すき・・・なんだ」
「相葉ちゃん・・・」


「あのね!別にみんなに内緒にしてたわけじゃなくて、おれもね、さっき気付いたっていうか・・・その、そういうことなんだ!」


顔を赤らめて言う相葉に、3人はショックの色を隠せなかった。
今まで、どれだけの輩から守り通してきたのか。


怪しいやつは、ことごとく遠ざけて、大事に大事にしてきたのに。
こんなにもあっさりと、相葉の心を持って行くやつがいたとは。


恨めしく、相葉の肩を抱いている人物を見る。
その視線に気付いた二宮は不適な笑みを浮かべた。


「先輩方には感謝してます。今まで相葉さんに悪い虫をつけないようにしてくれて」
「お、お前のためにしてたわけじゃねぇよ!」
「ええ、知ってます。でも、あなたたちは一歩が踏み出せなかった。それが、敗因でしょう?」


「「「・・・・」」」


図星をつかれ、言葉が出ない。

いつも天真爛漫な相葉の笑顔を壊すのが怖くて、一歩を踏み出すことが出来なかったのは事実。


しかし、実際に誰かのものになった相葉はその笑顔を壊すどころか、さらに綺麗に笑っていた。
あんなに幸せな顔するんなら、しょうがないか・・・悔しいけど。


そう3人が思い始めたとき。


「相葉さん・・・。今日は邪魔が入っちゃいましたけど、今度あの約束、果たさせてくださいね」


相葉の耳元で二宮が囁いた。


「約束?」
「ええ、相葉さんの中に入りたいって・・・・」
「あ・・・。う、うん・・・また、今度ね?」


なんて会話に3人の怒りが爆発した。


「許さーん!お母さんは絶対許しませんからね!!」
「おい、ニノっ!お前ふざけんじゃねぇぞ!絶対させねぇからな!」
「相葉ちゃん、帰ろ?ここにいちゃダメだ」


「え、え?なに?みんな、どうしちゃったの?あっ、大野君!そんな引っ張んないでよ」


大野に引っ張られて、立たされる。
その背中を松本が押す。


「ほら、相葉ちゃん授業!!」
「え・・・うん。にの、またね?」


「はい、また」


余裕で手を振る二宮。

生徒会室に残った櫻井が二宮を恨めしく見つめる。



「・・・いつからだよ?」
「秘密です」
「そんな素振り、見せたこともなかったよな?」
「・・・顔に出ないだけですよ」


飄々と答える二宮に、櫻井は苦い顔をした。


「お前・・・まさかとは思うけど、あの女・・・けしかけたのも、作戦か?」
「・・・さぁね?ご想像にお任せします」


口元だけを吊り上げて笑う二宮に櫻井は確信した。


「・・・・たいしたヤツだよ」
「まぁ、俺の名前を覚えてもらうには好都合でしたね。相葉さんが殴られるのは予想外でしたけど」
「ホント、信じらんねぇ」


何で相葉はこんなヤツに・・・。


「でもね、例え俺が仕組んだ事だとしても・・・・相葉さんの心まで仕組めるわけじゃありませんから」


そこは運任せだったんですよ。
二宮が嬉しそうに微笑む。
その表情に櫻井が目を見開く。
今までに見たことがない穏やかな二宮の表情。


「・・・・泣かせんなよ?」


納得したくはないし、認めたくはないけど、相葉にはいつも笑っていて欲しいから。
相葉が彼を好きだというなら、見守っていきたい。
それに、相葉を想い微笑んだ二宮は、今まで知る中で一番人間らしいから。


でも、やっぱり許せないのも本心で。

男心は複雑なんだよ。


「俺を誰だと思ってるんです?ありえないでしょう」


櫻井の忠告を軽く一蹴する。


「俺はね、皆さんが想っているよりも・・・あの人のことを想ってる自信がありますから」


これだけはね、絶対に負けません。


「たいした自信だね・・・。ま、お手並み拝見させてもらいますか」


俺だって、まだ諦めたわけじゃねぇしと、櫻井も二宮に向かって不適に笑う。


「いい度胸ですね。望むところです」


二宮は更に口元を吊り上げた。




*****



そんな衝撃の日から数日。


「もう!何で付いてくんの!?」


今日は二宮とデートの日。
なのに、相葉の後ろにはいつもの3人。


「2人きりなんて危ないよ、相葉ちゃん」
「大野君、何にも危ない事なんてないから」

「いや、わかんねぇよ。相手はあのニノだぜ?あいつは危険だ」
「松潤・・・にのは優しいし、大事にしてくれるよ?」


「いいや!それは絶対作戦だな。雅紀が油断したら、すぐに襲い掛かってくるぞ」
「翔ちゃんまで・・・・」


相葉は3人の言いように、呆れてため息を吐く。


みんな、にのを誤解してるんだ。
あんなに、優しくて可愛くて、カッコいいのに・・・。


「あのね、みんな。おれだって、にののことはよく分かってるつもりだから・・・」
「いいや、分かってねぇよ!アイツはさ・・・・」
「俺が、何です?」


「あ、にの!また3人付いてきた・・・・」
「・・・ホント、暇な人たちですね」

「なっ!暇じゃねぇよ!お前が相葉ちゃんに手ぇ出さないように見張ってんだよ!」


喰ってかかる櫻井に二宮が冷たく返す。

「・・・それが暇人のする事だって言ってんですよ。でも、とんだ無駄足ですね」
「何がだよ?」


二宮は相葉に何やら耳打ちした。

「相葉さん・・・・」
「・・・・うん」
「だったらさ・・・・・」
「え?それで?2人きりになれる?」
「ええ、絶対」
「わかった!」


相葉は3人に向きなおると、こう言い放った。


「もう・・・・これ以上付いてきたら、嫌いになるからね!!」


相葉の衝撃的なひと言に3人が固まる。


「あ、あれ?みんな?大野くん、松潤、翔ちゃーん?にのぉ、みんな動かない」


動揺する相葉を尻目に二宮は笑いを堪えるのがやっとだった。


「くくっ、効果覿面ですね。ホント外さない人たちですよ。さ、相葉さん彼らは大丈夫ですから行きましょうか?2人きりですよ」

「う、うん・・・みんな嫌いになんてならないからね?ごめんね」


呟くと、二宮と共に歩き出した。
心配といっても、恋人との時間には変えられないのだ。






二宮が相葉と出逢ったのは偶然だった。

二宮と相葉が知り合ったのは、二宮の作戦だったかもしれない。

ただ、二宮と相葉が恋に落ちたのは偶然でも、作戦でもなく・・・・。



それは必然。



例え、どんな過程を経て2人が恋人になったとしても、2人が幸せならそれは関係のないこと。



そして後日、2人のその後について攻め立てる3人が、二宮による助言で放った相葉のひと言で、撃沈したのは言うまでもない。






おわり
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