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小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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「まちぼうけ」





おれの恋人は有名人。


ハリウッド映画にも出てる大スター。


一方のおれは、ただの料理人。


小さい頃から一緒に育ってきた俺たちだけど、いつからかおれたちの間には大きな越えられない壁が出来てしまったような気がする。


それでも、おれには彼が必要だったし、彼もおれを必要だと言ってくれた。


彼が煌びやかで、夢のような世界にいるとき、おれは厨房の片隅でひとり皿を洗っている。


彼が多くのファンに囲まれて笑顔を見せているとき、おれは沢山のジャガイモの山に囲まれていた。


こんなにも世界が違う。


そのことは考えないようにしていても、おれのこころにいつも引っかかっていた。


閉店まで働いて、身体はヘトヘト。


今すぐにでも眠れそうだ。


着ていた服を脱ぎ捨て、下着だけでベッドにダイブした。


あー、おふろ・・・・明日でいいや。

もう少しで眠りにつけるというところで、強制的に眠りを妨げられた。

携帯がけたたましく音を立てていた。


誰だよ、もう!


「もしもし」


『あ、相葉さん?』


その声に眠気はぶっ飛ぶ。


「えっ、にの?どうしたの?」


『うん、今からそっち、行っていい?』


「えっ!?今から?来れるの?」


『もうすぐ仕事終わりそうなんだ。また明日から映画の撮影で外国だから、どうしても会いたい』


遠出の前に相葉さんを補給しないとね?


「・・・・うん、おれも会いたいよ」


『んふふ、あっ、はい、すぐ行きます。相葉さん、あとちょっとで終わるから、1時間後くらいにそっちに行くよ、じゃあね』


「うん、待ってる」


電話を切って、考える。


にの、おなか空いてるかな?


何か用意したほうがいいかな?


冷蔵庫に何があったっけ?


こんな格好じゃ会えないよな。


ありのままで良いなんて、にのは言うけど。


やっぱり気になるのです。


いつも輝いているあなた。


おれはそれに見合う奴なんだろうか。


せめて見た目だけでも、彼が可愛いと言ってくれるように。


ちゃんとお風呂に入って洋服に着替えて、唯一の特技の料理の下ごしらえをした。


彼が食べたいと言ったら、すぐに用意できるように。


でも・・・・


「遅いな、にの」


1時間後くらいだって言ったじゃん。


おれに会いたいって・・・言ったじゃん。


明日からまた外国だって・・・・もう明日になっちゃったよ・・・。


全く鳴る気配もない携帯。


「来れないんだったら、最初から電話してくんなよ、ばーか・・・」


期待させないでよ。


ばかみたいじゃん、おれ。


みたいじゃなくて、そうなのか。


でも、おれにはこれしかないんだ。


おれに出来ること。


彼を信じて、ただ待つだけ。


はやくこい。


「ばーか・・・」


その言葉は、彼になのか、自分になのか。


もう、自分でもわからなかった。


「・・・ばか・・」




おわり



「自分が自分に戻る時」




仕事が終わると同時に、ホテルを後にした二宮は急ぎ足で自分のために用意されたハイヤーに乗り込んだ。


運転手に行き先を告げると、窓の外に目を向けイライラと爪を噛む。


もっと早めに切り上げるつもりだったのに、思ったよりてこずってしまった。


今日はホテルで、自分が主演したドラマの打ち上げがあった。


とりあえず顔だけ出して、挨拶回りして、適当なところで「明日から海外なんで」と理由をつけて出てくるつもりだった。


なのに、あのクソ女優!


ベタベタとくっついてきたかと思えば、そのまま隣に居座りやがって。


おかげで、いらぬ誤解を受けて雑誌記者たちの餌食だ。


誤解させたままでも良かったが、それで傷つく人がいると思えば、それも出来ない。


女優を軽くあしらって、記者たちの誤解を解いて、ようやく出てきたのだ。


窓の外から腕時計に目を移した。


彼に連絡してから、もう随分と経つ。


その間、携帯を見ることもままならず、彼に「遅れる」と連絡も出来なかった。


携帯には彼からの数回の着信とメール。


『にの。まだ仕事?終わったら連絡してね』


『にの。今日ホントに来れるの?大丈夫?』


『にの。忙しいんだね。もう遅いし、おれなら平気だから無理しないでね。』


チッ。


思わず舌打ちする。


「すいません、急いでもらえますか?」


運転手に一言告げて、再び外に目を向け、愛しい名前を呟いた。


「まさき・・・」



アパートの部屋の前でベルを鳴らしても反応がない。


「寝てるか・・・」


鞄から鍵を取り出すと、部屋へと入る。


二人で借りた部屋。


今では自分がここに帰ってくることはほとんどない。


でも、一番安心し落ち着ける場所。


何よりも自分の大切な人が居る場所。


けっして広くはないが、俺の全てはここにある。


言ってしまえば、ここ以外の俺は、俺であって本当の俺ではないのだ。


ここに居るとき、彼と居るときだけが、俺が俺でいられる唯一のとき。


寝室で寝てるだろうと思っていたら・・・。


愛しの人はダイニングテーブルに突っ伏して寝ていた。


「ったく。こんなトコで寝たら、風邪ひくだろうが。」


口ではそういいながらも、自分を待ってくれていた事が安易に分かるその寝方に、愛おしさがこみ上げる。


疲れているだろうに、どうやら食事の用意もしてくれたようだ。


自然と笑みがこぼれた。


先ほどまでの作ったものではなく、心からの笑みだ。


「んふふ、まぁさき。こんなトコで寝ると風邪ひくよ?」


相葉の髪を撫でると、くすぐったそうに身を捩じらせ、目を覚ました。


「ん・・・にの?来てくれたの?」


相葉は、眠たい目をこすりながらも、二宮の姿を確認すると、嬉しそうにはにかんだ。


「ただいま。遅くなってごめん。でも会えて良かった」


そう言って相葉のホッペにキスをした。


はにかんだ笑顔は一瞬驚いた顔になり、そして破顔した。

しかし、すぐに顔を曇らせる。


「今日は・・・どれくらい居られるの?」


この言葉を言わせてしまう自分が、本当に憎いと二宮はいつも思う。


相葉とゆっくり会うのは1ヶ月ぶりだった。


その間何度か食事に行ったりはしたが、いつも時間に追われていた。


相葉はそんな二宮に泣き言も言わず、いつも「頑張ってね!」と笑うのだ。


その顔を見るのが二宮は一番つらかった。


無理してるのがバレバレだから。


しかし、それには気付かない振りで微笑む。


「んふふ。実はね、出発を明日にしてもらっちゃった」


相葉の目の前でVサインをしてみせた。


「ホント!?朝まで一緒にいられるの?明日って事は、昨日の時点での明日が今日だから、今日の時点からの明日って事だよね?」


くりくりの目に期待を込めて二宮を見つめる。


「そういうこと。ずっと我慢してたんだもん、少し位の我侭は聞いてもらわないとね」


言いながら相葉の頭を撫でると、極上の笑みが返ってきた。


「うれしいっ!!あ!ねぇ、にの。お腹すいてない?おれね、ありものなんだけど、用意したから!ちょっと待ってて!!」


慌てて立ち上がろうとする相葉の腕を掴み、自分の方に引き寄せる。


「うわっ!に、にの?」


「相変わらず忙しい人ですね。せっかく会えたんだから、まずは熱い抱擁でしょ?」


そう言って相葉を抱きしめる。



「に・・・の」


「それに!今は誰もいないんだから、『にの』じゃないでしょ?」


「あ・・・、か・・ず?」


「んふふ、正解!ごめんね、寂しかった?」


「・・・・うん。あっ、ううん!だいじょうぶ!!おれもね、けっこう忙しくって、それでね・・・」


「嘘だ。寂しかった、会いたかったって顔に書いてあるもん。隠したってむーだ!」


「えっ、うそ!書いてないでしょ?」


二宮から身体を離し、一生懸命顔をこすっている姿に思わず吹き出した。


「ふははっ。もう、やっぱり雅紀は雅紀だね。」


「なに、それぇ」


ぷくっと頬を膨らませる。


「褒め言葉!大好きだなぁって事だよ」


「もう!あ、それでご飯どうする?食べてきた?」


「ちょっとだけ。きっと雅紀が用意してくれてると思ったから、あんまり食べてこなかった。だって、雅紀の料理が一番美味いもん」


「うへへ。すぐ支度するね!!あ、その間にお風呂入る?」


「雅紀と一緒に入るからいい」


「もう!!和のばか。向こうで待ってて!!」


顔を真っ赤にして叫ぶ相葉に爆笑すると、鍋つかみが飛んできた。


これからの甘い時間の後に訪れる苦い別れは考えず、今は2人の時を過ごそう。


愛しい愛しい君。


君のために今の僕があるなんて、君は全く知らないだろう?





おわり


「出会い」




おれと和が出会ったのは、おれが8才、和が7才の時だった。


おれが預けられる事になった施設に、和はいた。


おれにも、和にも両親がいない。


正確に言うと、おれにはいた。


おれが8才の時、両親は事故で呆気なくいなくなってしまったが。


両親以外に身寄りのなかったおれの行く先は施設以外にはなかったのだ。


そして、そこで和と出会った。


和は両親の顔を知らない。


生まれた時に、施設の玄関に置き去りにされていたと聞いた。


それを話す本人はいたって淡々としていて、まるで他人の事を話しているようだった。


和は大人びた子供で、しっかりしていて何でも出来る子だったけど、そんな和に、おれはすごく違和感があった。



和は甘える事を知らない子供だったんだ。


いつも周りの状況を見て、今自分が何をするべきかを考えていて
周りの子供が先生やボランティアの人たちに甘えている時も、それを冷ややかに見ていたのを覚えてる。


おれはというと、人見知りが激しくて施設に預けられた頃は誰とも話すことが出来なかった。


いつも部屋の片隅で、みんなが遊んでいるのを見ていた。


だから余計に彼の異質な感じが分かったし、気になったのかもしれない。




和とは歳が近い事もあって、2人部屋で一緒だったんだけど、ずっと話すことができずにいた。


最初に話したのは施設に来て1ヶ月くらい経った頃だ。


おれはまだ誰とも馴染めずに毎晩泣いていた。


誰にも見られないようにベランダに出て、両親に想いを馳せて。


「うぇ・・・・・ひっ・・・く」


ある時、いつものように泣いていると、後ろで物音がした。


驚いて振り返ると、そこには和がいて。


「開けっ放しだと寒いでしょ。ちゃんと閉めて外出て下さい」


「あ・・・ごめんなさ・・・・」



慌てて涙を拭って窓へと近づいたおれを、和がじっと見ていた。


「・・・・・なに?」


「・・・・毎日そんなに泣いて、よく涙涸れないなぁと思って。あ、あと外に出る時はもう少し着込んだ方が良いよ。
いっつもそんな格好で外出て、そのうち風邪ひきますよ」


「え・・・?」


はじめて気付いた。


和はずっと見てたんだ、おれが泣いてるところを。


「あ、ねぇ。おれね、あいばまさきって言うの」



「・・・知ってますよ。同じ部屋でしょ?」


「あ、そっか・・・・。えっとね、あのね・・・」



何か言いたいことがあったわけじゃない。


でも、何か言わなければと思っていた。


「あの・・・・おやすみなさい」


結局言えたのはそれだけ。


「・・・おやすみなさい」


和はそう言うと部屋へ戻ってしまった。


遅れて部屋に戻ると、和はもう寝ていた。


和を意識して、なかなか眠りにつけなかったのを覚えている。



そしてその翌日、おれは見事に風邪を引いたのだ。


その日は年に一度の施設の人たちみんなで旅行に出かける日だった。


おれはどうしても体調が悪いと言い出せなくて。


みんな楽しみにしてるのに、その雰囲気を壊せないし、第一言い出す勇気もなかった。


バスだし、寝てれば何とかなるだろうと思っていたんだ。


本当は立っているのも辛かったのだけれど。


いざ出発という時。


「すいません、僕体調がすぐれないんで留守番してても良いですか?」


和だった。


心配して、残るという先生たちに和はひと言


「先生が1人でも残っちゃうとそちらが大変でしょ?相葉君に残ってもらいます。
さっき頼んだんです。同じ部屋だし、看病してもらうように。ね、相葉君?」


「え・・・・?」


状況が飲み込めていないおれは答えることが出来なかった。


先生たちは和の体調と、幼いおれ達だけを残すことを渋っていたが、和が上手く説得をして(丸め込んだのが正しいのかな?)
なんとか納得し、出かけていった。


今思うと、子供だけを残していくなんてありえない事だ。


それが通ってしまうほど、和は大人のような子供だった。


玄関先でみんなを見送ったあと、おれはその場に座り込んでしまった。


かなりのところまで熱が上がっていて。


「無理するからだよ。大丈夫?」


和が話しかけてきた。


「か、和也君こそ・・・・だいじょうぶなのぉ?体調悪いんでしょ?寝てたほうが良いよぉ・・・」



ボーっとする頭で、和の心配をするおれを呆れたように見た。


「・・・・寝たほうが良いのはあなたのほうだと思うよ?ほら、立てる?」


部屋に行こうと、手を引っ張られた。


「え?だって、体調悪いって・・・?」


「・・・・あなたが言い出せそうになかったから・・・・」


「もしかして、おれのために・・・?」


嘘ついて、残れるようにしてくれたの?


「・・・・寝てて。薬探してくる」


おれの質問には答えずに、おれを布団に寝かし、和は出て行った。


これがおれと和が始めて2人きりで過ごした最初の時間。



和が俳優を目指すようになるよりも、おれが料理人を目指すようになるよりも、前のはなし。




おわり


2人の記念日




今日は、施設の月に1度の誕生日会の日。


その月に生まれた子供たちを一斉にお祝いするのだ。


食堂中を飾り付けして、大きな垂れ幕に「お誕生日おめでとう」の文字。


誰もがウキウキした表情で作業を楽しんでいる。


お祭りごとの大好きな雅紀も、当然張り切っていた。


その中で和也は1人冷静に作業をしていたけれど。



「くふふ、楽しいね。おれも早く誕生日になんないかなぁ?」



和也の隣で終始ご機嫌に折り紙の輪を繋げていた雅紀が、その輪を眺めながら楽しそうに言う。


雅紀が施設に来て半年が経ち、周りとも随分と打ち解けていた。


和也とは、雅紀が熱を出し、2人で留守番をする事になったあの日以来、日に日に仲良くなり、今ではいつでも一緒にいるほどだった。


和也は、雅紀と一緒にいるようになって、周りの人間が驚くほど、子供っぽい一面を見せるようになっていた。


おやつを取り合って追いかけっこをしたり(いつも一方的に雅紀が取るのだが)、2人でゲームをして盛り上がりすぎて、先生たちに怒られたり。


ここまでの著しい変化は、やはり雅紀の影響だろう。


他の人間には相変わらずだが。


折り紙の輪を掲げて嬉しそうにしている雅紀に和也は微笑んだ。


自分の誕生日の事でも考えているのだろう。


「・・・・いつなんですか?誕生日」



そういえば、出会って半年近く経つのに、和也は雅紀の誕生日を聞いたことがなかった。


今まで、人の誕生日なんて興味もなかったし、どうでも良かったから、聞くなんて事自体が頭の中になかったのだ。


でも、雅紀の誕生日は知りたいと思う。


何故なんだろうか?


自分でも分からないけれど。


自分の事が分からないなんて、今までなかったのに。


雅紀と出会ってからの自分は、自分じゃないみたいで、戸惑ってばかりだ。


その戸惑いを気付かれないよう、目線を手元のティッシュで作った花に向けた。



「んーとね、12月24日!クリスマスイヴなの!!だからね、すぐにみんなに忘れられちゃうんだよぉ・・・」



そう言って頬を膨らませた雅紀に和也は苦笑した。



「じゃあ・・・これからは俺がしっかり覚えて、毎年祝ってあげる」



「ほんと!?くふふっ、うれしい!ありがとぉ」



嬉しそうに笑う雅紀に、和也も何故だか嬉しくなった。


この頃かもしれない。


この笑顔を絶対に守りたいと思うようになったのは。


「あ!じゃあ、和の誕生日はおれが祝うからね!和の誕生日はいつ?」



無邪気に聞いてくる雅紀に、和也は困った顔をした。



「・・・・ありません」



「え?」



「俺、生まれてすぐにココの門の前に置き去りにされてるから、正確な生まれた日は分からないんです。だから、誕生日はないんです。」


和也は数えで歳を重ねてきたのだ。



「あ・・・ごめん」



まずい事を聞いたと、雅紀の表情が曇る。



「別に。気にしてないから。」



実際、先生たちも気を使ってくれて、誕生日会自体を止めようなんて案まで出たけど、和也は一向に気にしてなかった。


自分が誕生した事を祝ってくれる人なんていなかったし、欲しいとも思わなかった。



「そうだ!ねぇ。誕生日つくろう!!」



「は?」



あまりの唐突な発言に、和也の動きが止まった。



「だからね、和の誕生日つくろ?」



「作るって・・・・そんなこと・・・」



考えた事もなかった。


誕生日なんて生まれたときに与えられるもので、作るものなんて思ってなかったから。


「だって、おれの誕生日は毎年和が祝ってくれるんでしょ?おれだってお返ししたい。和の誕生日、祝いたい」



まっすぐに雅紀に見つめられて、和也は困惑する。


嫌なわけじゃない。


むしろ嬉しすぎて、どう表現してよいのか分からなかっただけで。



「・・・作っていいのかな?」



「いいに決まってるよぉ!だって、特別な日だよ?和が生まれたことに感謝する日なの!だから、おれたちで作って、お祝いするの!」



「俺が生まれたことに感謝・・・?」



「そう!おれね・・・お父さんとお母さんが死んじゃって、悲しくて悲しくて毎晩泣いてたでしょ?でもね、今は和がいてくれて寂しくないの。
和がいなかったら、おれは今でもずっと泣いてるかもしれない。だから、もしかしたら神様が、2人の代わりに和をおれにくれたんじゃないかって、思うんだ。
和は嫌かもしれないけど、おれはそう思ってるの」



「・・まさき」



「だから、感謝したいの!和がこの世に・・・生まれてきてくれたこと。感謝して、一緒に祝いたい。その記念日だもん、作っていいの!!」



そう言って、雅紀は和也の手を握り締めた。


手に持っていた、和也のティッシュの花も、雅紀の輪っかもぐしゃぐしゃだったけれど。



「じゃあ・・・作って下さい。雅紀が俺の誕生日を。そして、これからもずっと祝って下さい」



「うんっ!!ずっとね。約束だからね?」


満面の笑みで雅紀が小指を差し出した。


和也がそれに自分の小指を絡め、揺らす。



「そうと決まれば、いつにしよう?」



雅紀はキラキラした目で考え始めた。



「んふふ。いつでもいいよ。雅紀が決めて?」



「うーん・・・・。あっ!じゃあさ、今日にしよう?」



「今日?またえらく唐突だね・・・」



「だって!和がおれの誕生日を祝ってくれるって約束してくれたのが今日。おれが和の誕生日を祝いたいって思ったのも今日。
・・・・和が誕生日を作りたいって思ったのも今日。特別な日だもん。今日がいい!!」



「特別な日・・・」



「そう!2人で決めた特別な日。それが和の誕生日!!」



「・・・まさき・・・ありがとう」


和也は、得体の知れない何かが胸にこみ上げてくるのを感じていた。



「ちょっ!かずっ!?どうしたの?どっか痛いの?気分悪いの?」


雅紀が突然慌てだした。



「え?」



「だって・・・泣いてる・・・・先生呼んでこようか?」



そう言って、立ち上がろうとする雅紀の腕を掴んだ。



「いいよ、大丈夫・・・大丈夫だからここに居てよ」



「かず?」



「だって・・・誕生日祝ってくれるんでしょ?」



「・・・うん」



「だったら、ここに居てよ・・・」



これが和也の初めての涙だった。


自分が捨てられたと知った時も、他のみんなが施設を去っていくときも、寂しいなんて思った事もなかったし、泣いた事もない。


悲しくも寂しくもなかったし、嬉しいとも幸せとも思った事はない。


それが和也だった。


なのに・・・・。


雅紀のひと言がこんなにも嬉しい。


雅紀が自分から離れようとする事がこんなにも寂しい。


そう思うと涙が溢れた。


久々に両親に会って、泣きじゃくっていたあの子達はこんな気持ちだったのだろうか?


ただひたすらに、思った。


自分のそばにいて欲しいと。


和也の中で、雅紀の存在がどんどん大きくなっていく。


どうしようもないくらいに膨れ上がる得体の知れないものの正体。


和也はそれに気付き始めていた。



雅紀が涙を流す和也の隣で再び微笑んだ。



「かず・・・お誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」



雅紀の手が和也の涙を拭った。



「まさき・・・」



和也はその手を取り、頬に当てた。


子供同士の戯言と言われるかもしれない。


でも、そんなことは関係ない。


2人の中では確実に大事な記念日なのだ。


君が生まれた事に感謝する日。



6月17日。



この日が和也の誕生日になった。





おわり
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