小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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ドラマの撮影も終わり慌しい日々から解放された二宮は、久々に仲間と会う機会が出来た。
けっしてオシャレとは言えない居酒屋。
そんな場所が二宮や仲間にとっては、たまらなくお気に入りの盛り上がれる場所だった。
楽しくて、つい酒も進む。
「旬君さぁ、さっきからそればっかじゃん!!」
鬱陶しそうに、でも何処か嬉しそうに二宮は隣に座る男の肩を押す。
そんなところにも、久々に集まった喜びが表れていた。
二宮の隣にはかつてドラマで一緒になり、親しくなった小栗旬の姿があった。
「だってさ、ニノ絶対言わないじゃん。俺、ずっと前から聞いてんのに」
小栗はグラスを片手に肘で二宮を押し返す。
二宮は得意の含み笑いで小栗の言葉を聞き流そうとする。
「あー、お前またごまかすつもりだろ?今日こそは絶対聞き出してやるからな!お前の彼女の事!!」
「だーから!彼女なんていないって、前から言ってんじゃん。旬君しつこいよ」
言い切る小栗の勢いに苦笑しながら、二宮はなおも否定を繰り返す。
「だいたいさ、俺、彼女がいるなんてひと言も言った事ないでしょ?」
「いや!まぁ・・・聞いた事はないけど、いるだろ?だって俺、何回か聞いてるし。お前が電話で話してるのとか」
「・・・電話なんて誰でもするでしょ?」
「そうだけど、明らかに俺たちと話す感じと違った!何ていうか・・・こう、ニノの顔も声も穏やかで優しくてさ・・・愛が溢れてるっていう感じ?
あの感じからして、絶対彼女だろ?しかも1年・2年の付き合いじゃないな・・・もう5年以上は付き合ってるって感じだな」
「何それ・・・」
呆れ顔でそう言いながらも、内心、鋭いねと感心する。
小栗は仲良くなった当初から、とにかく二宮の彼女のことを聞きたがっていた。
小栗自体、恋愛を隠すことなく堂々と振舞っていたし、色々な話も聞いている。
付き合ってる彼女がどうだとか、何処が好きとか。
話の後には必ず「で、ニノはどうなんだよ?」って言われていたけど。
その度に、「彼女はいない」と言い返してきたが、小栗はその言葉を信じてはいないようだった。
オトコの勘らしい。
もちろん、彼女などいないのだから嘘は言っていない。
恋人はいるけどね。
まぁ、そんなに人に言うことでもないし、言って恋人を傷つけてしまうのは本意ではないから。
小栗を信じていないわけではないけど・・・・二宮としては色々と思うところがあるのだ。
この世で一番大切な彼を思い浮かべて、一人微笑む。
「あー!その顔!!今、絶対彼女のこと考えてただろ!」
意外と鋭い小栗に、肩を竦めてみせる。
「とにかく!!今日こそはお前の彼女の正体を掴んでやる!」
「正体って・・・まぁ、頑張ってね」
呆れて言う二宮に、小栗は少しだけ拗ねたように口を尖らせた。
「お前なぁ・・・何だよ、俺には紹介できないような相手なわけ?あ、もしかして不倫とか!?」
「あのね・・・んなわけないでしょう」
「じゃあ・・・、すっげぇ不細工なんだ!!そっかぁ、ニノの彼女って不細工なんだぁ」
「・・・・不細工じゃねぇよ!」
「あ、認めた!彼女がいるって認めたな!」
「・・・・」
久しぶりの楽しさに、飲みすぎたようで。
あっさり小栗の誘導に引っかかってしまった。
嬉しそうにガッツポーズをする小栗を尻目に、大きくため息を漏らしてグラスの中身を飲み干した。
「で、どんな子なの?ニノの彼女って。可愛い?」
「どんなって・・・、まぁ・・・可愛いですよ。俺にとってはね、世界一ですから」
興味津々で聞いてくる小栗に、呆れながらも二宮は正直に答えた。
今まで、メンバー以外には口に出来なかった恋人の事を、名前は出せないにしろ話せることが嬉しくて、二宮も自然と饒舌になっていていたのかもしれない。
その答えに小栗は意外そうに目を見開いた。
「へぇ。ニノがそんなこと言うなんて、何か意外」
「聞いといて何ですか、それ。俺だってね、好きな子には甘いんですよ。何て言ってもあの人は俺のね、お姫様ですから」
「お姫様ねぇ・・・それは言い過ぎじゃね?でも、ちょっとお目にかかりたいな」
二宮にそこまで言わせるお姫様に。
「ダメ。もったいないから」
「ははっ、何だよそれ」
小栗が二宮の言葉を笑い飛ばす。
本気なのに、と二宮は再び肩を竦めてグラスを傾けた。
そんな調子で楽しい時間を過ごしていた二宮に、盛り上がってきた仲間たちは、更なる盛り上がりをと、他にも仲間を呼びたいと言い出す。
すると、小栗が悪戯っ子のような顔で二宮を見遣ってから、楽しそうに切り出した。
「実はさ・・・俺、他に約束があってさ。ついでだからこっちに来てもらっちゃおうと思うんだけど、良い?」
「約束?いいですけど・・・」
何とも含みのある言い方が気にはなったが、皆も楽しそうにしているし特に何も言わずに頷いた。
そして、合流したのは・・・。
「あれ、潤君!!」
「ニノ!?旬君の友達ってニノだったのか・・・」
びっくりしたと松本が眉を上げて言う。
「こっちもびっくりですよ。まさか旬君の約束相手が潤君だったなんて。旬君、誰って言わないからさ」
だから、あんな顔をしていたのかと、二宮は恨めしそうに小栗を見た。
「ははっ。びっくりするかと思ってさ」
悪びれる様子もなく笑う小栗。
その隣で、何故だか気まずそうな顔をしている松本に気付き、二宮は首を傾げた。
「潤君、どうしたんですか?何か気になることでも?」
「えっ?いや・・・まぁ・・・」
歯切れの悪い返答の松本。
それはすなわち・・・。
「何か・・・隠してます?」
「・・・隠してるって言うか・・・まさか、ニノがいるとは思わなかったからさ・・・」
言葉を濁す松本に、二宮の眉間にしわが寄る。
「何なの、潤君?」
「潤君、もう1人・・・呼んでんだよね?・・・・」
2人の会話を聞いていた小栗が言う。
「もう1人?」
小栗の言葉に、誰を呼んだのかと松本に顔を向けた時、聞きなれたダミ声が耳に届いた。
「あー、いた!おーい、まつじゅーん!」
この声は間違いなく。
「あっ、あいばさんっ!?」
「へ?あれぇ、にのだぁ!にのがいる!!どうして?」
二宮の姿を見て嬉しそうに走り寄って来る。
「どうしてって・・・聞きたいのはこっちですよ!何で相葉さんがいるの!?」
「おれはね、松潤に呼ばれたの!小栗君と飲むから、来ないかって。あー、ホンモノ!!花沢類っ!!」
ニノの質問に答えた後、二宮の隣に座る小栗を指差して興奮気味に言った。
あまりの勢いに引き気味の小栗。
「相葉さん、声でかいよ!周りに迷惑。旬君にも失礼でしょ?挨拶もなしに指ささない!」
二宮が相葉を諌めた。
「あ、ごめんなさい。はじめまして、相葉雅紀です」
二宮に怒られた相葉は、途端にしゅんとして、神妙な面持ちで挨拶をする。
その姿に小栗は小さく吹き出した。
「はじめまして、小栗です。相葉君って面白いね」
「へ?何かおれ、変?面白い?」
首を傾げて、小栗を見つめる相葉に、今度は大きく笑った。
「小栗くん?」
そんな2人の様子に、二宮は苛立ちを隠せない。
当たり所はもちろん。
「潤君・・・どういうことですかね?」
幾分声も低くなる。
「いや・・・・前から相葉ちゃんが、花沢類に会いたいって言ってたから・・・・」
ニノも知ってるだろ?
「・・・知ってますよ。俺だって何回もせがまれたからね」
その度に、何となくはぐらかしてきたのに。
相葉にそんなつもりはないにしても、他の男に会いたがる恋人を見て、いい気はしない。
「その事をさ、旬君に話したら・・・連れておいでよってことになって・・・電話したら、来るって言って、今に至る訳だけど・・・・。
まさかニノまでいるとは思ってなくて・・・悪い。どうする?」
連れて帰る?
「・・・・今更帰れとは言えないでしょ?あんなにはしゃいでるのに。俺がいる時でかえって良かったよ」
そう言って松本を睨み付けた。
別に自分の仲間を信じてない訳じゃない。
ただ、相葉が影響を受けやすい事は充分すぎるほど知っていたし、ドラマの中とは言え、花沢類を気に入っていた事も、認めたくないが知っている。
恋人として面白くないのも、警戒するのも悪い事じゃないでしょ?
「うわぁ!小栗君て背高いんだね・・・すげぇ、カッコいい!!」
・・・・ほらね、面白くない。
「にのぉ、なにしてんの?ちょっとつめて!」
相葉が二宮に近寄り、手でもっと寄ってと示す。
「にのの隣!!うへへ・・・」
そう言って二宮の隣に座り、笑顔を向けた。
その仕草に少なからず、二宮の機嫌は良くなる。
所詮、二宮も恋する男なのだ。
本当は嫌だけど、愛しい人が喜ぶのなら仕方がない。
しばらくは我慢するとしよう。
俺って心が広いなぁと、自画自賛。
それからは特に何事もなく、皆で飲んで話して楽しく過ごしていた。
相葉も楽しそうに皆と話していたし、二宮も久々の仲間たちとの語らいに、しばし集中していた。
先ほどから相葉が小栗にべったりなのは気に入らないが。
二宮は他の仲間と話しながら、相葉へと目を移す。
「うひゃひゃっ。小栗君てぇ、面白いねぇ・・・くふふっ。おれね、ドラマのイメージしかなかったでしょ?だからもっとクールなのかと思ってたの」
「イメージダウンした?」
「ううん!話しやすくて安心した」
「ふふっ、良かった。相葉君こそ、面白いよ。それに・・・ホント、可愛い。男にしとくのもったいないね」
「え?」
小栗の言葉に相葉は不思議そうな顔で、首を傾げて小栗を見つめた。
そんな相葉に、小栗は苦笑する。
「そんなに見つめられると困るな・・・それ、癖?さっきもそうしてた」
「なにが?」
「そうやって、人の顔をじっと見るのは癖なの?」
「へ?おれそんなに見てた?気付かなかったな・・・」
「いや、うん・・・相葉君の目って潤んでて・・・その目で見つめられると・・・何かさ、変な気分になるっていうか・・・それに、人の話聞くときにそうやって唇撫でるのも癖なの?」
「唇さわってた?これはね、癖みたい。前にね、にのにも・・・・え?お、おぐりくん?」
「何か・・・誘ってる?」
そう言って、小栗は目を細めて相葉に顔を近づける。
「え・・・な、なに?」
瞬間、相葉は首根っこを掴まれて、強引に小栗から離された。
「うわっ!!」
驚いてその相手を見ると、物凄く不機嫌な顔の二宮と目が合った。
「・・・に、にの?」
「・・・・帰るよ」
「え?だって・・・まだ」
「・・・・俺が帰るって言ってんだろ!!」
二宮の聞いた事のないような荒げられた声に、周りの動きが止まる。
そんなことも気にせず、二宮は帰り支度を始めて席を立った。
慌てて相葉も立ち上がる。
「ま、まって!にのが帰るなら、おれも帰る。松潤、小栗君ごめんね。みんなも、またね」
「え・・・ちょっと、ニノ?相葉君?」
小栗は何が起こったのか理解できずに名前を呼ぶことしか出来ない。
皆が2人の出て行ったドアをぽかんと見つめる中、ただ一人、こんなことには慣れっこの松本が大きなため息を漏らした。
「やっぱ、失敗だったな・・・・」
「え?」
「・・・ニノがいるって知ってたら、相葉ちゃん連れてこなかったのに」
後のフォローが大変なんだよと眉間にシワを寄せた。
そして、わざとらしいほど明るく皆を先導して盛り上げる。
「あいつらさ、ちょっとケンカしてたんだよね。まぁ、大人だから大丈夫っしょ!!すいません雰囲気悪くして。さ、飲み直そうぜ!!」
最初は戸惑っていた皆も、お酒が入っているのもあってか、松潤の説明を疑問もなく受け入れたようで次第に盛り上がり始めた。
その様子に松本は安堵の息を吐いた。
しかし納得していない人物が1人。
「潤君・・・どういうこと?」
最初に会った時の二宮と相葉は、どう見てもケンカしているようには見えなかった。
戸惑いを隠せない様子の小栗が聞こうとした時、小栗の携帯にメールが届いた。
『ごめん。楽しかったけど、今日は帰るわ。あんまり言いたくないけど・・・・今度あんなことしたら、旬君でも許さないから。意味が知りたきゃ潤君に聞いて』
二宮からだ。
内容を読み、松本に見せる。
「潤君・・・。メール、ニノからなんだけどさ・・・」
メールを読んだ松本は、更に顔を歪ませた。
「潤君に聞いて」って・・・俺を巻き込むなよ、全くさ。
まぁ、俺が相葉ちゃんを連れてきたんだからしょうがないか。
自業自得ってのは、このことだ。
こんなことならやっぱり呼ぶんじゃなかったな。
「なんか・・・俺が原因みたいだね。アイツがキレたの」
「・・・だろうね・・・」
「分かってたの?」
「まぁ・・・」
「あんなことって・・・何?」
検討もつかない小栗は、メールを見つめたまま眉根を寄せて考え込む。
「・・・旬君さぁ、相葉ちゃんと会ってどう思った?」
「ど、どうって?」
「・・・第一印象っていうかさ、話してみて・・・何か感じた?」
松本の質問の意図するところがイマイチ理解できなかったが、小栗はとりあえず相葉と話した時のことを思い出す。
「うーん・・・。そうだな、すっごい可愛いらしい人だよね。朗らかで、ほわんってしててさ。一緒にいて凄く安らぐ感じがする」
「・・・それだけ?」
「え?それって、どういう意味?」
「他に・・・何か思ったことない?相葉ちゃんにさっき・・・何か言ったでしょ?」
「あ・・・うん」
言葉を濁した小栗。
確かに相葉と話していると、変な気持ちになった。
黒目がちで潤んだ瞳。
じっと見つめられると吸い込まれそうで、思わず顔が近づいた。
「ちょっとね、男なのが残念だなって・・・」
「はぁ・・・それだよ」
「え?」
「・・・旬君さ、ニノから聞いてる?ニノの付き合ってるヤツのこと」
「ああ、今日初めて聞いたよ。彼女がいるってのは。可愛くて、お姫様なんだって?」
「彼女ねぇ・・・。ニノが言ったの?彼女って?」
「いや・・・俺が聞き出したんだけど・・・ニノは彼女はいないって言い張ってたけど」
「・・・ニノに彼女はいないよ」
「え?だって、付き合ってるヤツいるんだろ?世界一のお姫様って・・・」
「まぁ、ニノにとってはお姫様かな・・・アイツは」
「アイツって、潤君は会ったことあるんだ?」
「・・・あるよ。っていうか、ほぼ毎日」
「ま、毎日!?」
「・・・ニノが不機嫌になったのは、いつからだと思う?」
「えっと・・・潤君が来た時はまだ機嫌は良かったし・・・その後相葉君が来て、話が盛り上がって・・・あれ?」
小栗の思考が止まる。
まさかね・・・・そんなことは・・・・。
相葉と自分の話が盛り上がったとき、彼を見ていて思わず口にした言葉。
その時じゃなかったか?
二宮がキレたのは。
「何か・・・気付いた?」
「潤君・・・間違ってたら笑ってよ?」
「・・・ああ」
「ニノに彼女はいないって・・・それは相手が女の子じゃないって、こと?」
「・・・・」
「笑ってよ・・・」
「間違ってたら笑えっつったじゃん。さっきから言ってんだろ?ニノに「彼女」はいないって」
ということは、間違っていないということだ。
「「彼女」はいない・・・けど、付き合ってるヤツはいる・・・ってこと?」
「ああ」
「その相手が・・・相葉くん・・・?」
「ご名答」
「そうなんだ・・・・。何か・・・そっかぁ・・・」
言葉にならないようだ。
「何?ショック?」
「え?うん・・・いや、何ていうのか・・・衝撃的だなって」
「まぁ、そうだろうね。でも、あいつら見てるとさ、そんなこと関係ねぇなって思えるよ?
男とか女とか、そんなのとっくに超えてる2人だから。で、それ聞いて・・・お前はどうする?」
友達、やめるか?
「・・・別に、ニノはニノだし何も変わんねぇけど、そっかぁ・・・相葉君可愛いし、何となく分かる気がしないでもないかな・・・」
相葉の潤んだ瞳と、無意識に唇を撫でる仕草を思い出し、顔を崩した。
不覚にも触れたいと思った。
また、会いたいと思わせる不思議な魅力を感じたのは確かで。
会ったばかりの自分ですらそう思うんだから、長い間一緒にいる二宮がそう思ったっておかしくはないだろう。
「はぁ・・・たぶん、旬君はしばらくは相葉ちゃんには会えないよ。ニノは旬君の気持ちに気付いたからね」
「マジ?」
「ああ。メンバーの俺たちですら、凄い牽制されてんだから。まぁ、それでニノの旬君に対する態度が変わることはないと思うけどね。
お前がこれ以上相葉ちゃんにちょっかい出したりしなければ」
「相葉君が絡まなきゃ、今まで通りってこと?」
「そういうこと。だから、変な気起こすなよ?」
松本は小栗の胸の辺りを指先で押して忠告する。
「ははっ。せっかく仲良くなれそうなのに残念だなぁ。メールとかもダメ?」
「・・・お勧めできないね。痛い目見たきゃ、止めないよ。でも、相当の覚悟して絡めよ?」
アイツの相葉ちゃんへの執着は凄いから。
「へぇ、あのニノがね・・・もっと淡白なヤツだと思ってた」
ホント、意外。
今度会った時には思いっきりからかってやろうと、小栗はグラスの氷を揺らして微笑んだ。
*****
「ねぇ・・・にの?にのってばっ!!」
居酒屋から出てきた二宮は無言で街を歩く。
足早に歩くその背中を相葉は懸命に追いかけた。
背が高い分、自分の方が歩幅は広いはずなのに何故か追いつくのがやっとだ。
必死で後を追い、離れていきそうな二宮の服を掴む。
「にの!」
「何ですか?」
振り返った二宮の表情はひどく冷たく、相葉は言葉に詰まる。
「うっ・・・・なに怒ってんだよぉ。訳わかんないよ。
しかも、良かったの?あんな風に出てきちゃって・・・後で気まずくなら・・・「うるせぇよ!あんたさっ、自分が何やってんのか解ってんの!?」」
「え・・・?」
意味が解っていない相葉は、戸惑いの表情で二宮を見つめた。
「どうせ・・・俺が何で怒ってんのかも解ってねぇんだろ?」
「にの・・・」
申し訳なさそうに俯く相葉に、二宮は大きくため息を吐いた。
それを聞いた相葉はビクッと肩を震わせる。
「・・・いつも、いつもいつも!何であんたは・・・・」
俺の感情を揺さぶるんだ。
「・・・ごめんなさい」
「謝る理由は?」
「・・・わかんない」
「じゃあ、謝んなよ」
「だって・・・・にのが怒るから・・・」
「・・・もういいよ。っていうか、俺が勝手に怒ってるだけで、多分あんたは悪くないから」
そう言って二宮は踵を返した。
「に、にの!」
置いて行かれると思ったのか、相葉が悲痛な声を出して、二宮の服を強く握り直す。
「・・・・何?」
「なんで怒ってるの?おれ・・・ばかだから、言ってくれなきゃ分かんないよ・・・」
今にも泣きそうな彼に、二宮は憤りを覚える。
相葉にではなく、相葉を泣かせてしまう自分自身に。
「・・・・だから、あんたは悪くない。俺の問題なんだ。あんたにもちょっとは怒ってるけど、でもそれよりも・・・」
二宮は相葉を見遣ると、自嘲気味に唇を吊り上げた。
「それよりも、あんたが俺以外と笑ってることが許せない・・・俺以外の人間に興味を持ってることが許せない・・・でも、そんな風にしか考えられない自分が一番許せない」
「にの・・・」
二宮は、服の端を握り締めている相葉の手を取り、自らの手で包み込む。
「・・・だから、あんたが旬君に会いたいって言っても会わせなかった。こうなることは分かってたからね」
包み込んだ手に力が篭る。
「ホント、心の狭い男ですよ。二宮和也は!」
「にの・・・・ごめんね?」
「・・・謝る理由は?」
「にのに、嫌な思いさせたから・・・。おれ、ホントに何にも考えてなくて。それでいつもにのに迷惑かけて、嫌な気持ちにさせて・・・ホント、ばかでごめんなさい」
相葉が二宮の手を握り返す。
「でもね、おれだって・・・思ってたんだよ?にの、小栗君のことよく話してたし、ニッキにだってよく出てくるし・・・。この間だって!!あ、あいしてるって・・・・」
この間とは、番宣で生番組に出た時のことか。
確かに小栗からのコメントはあったし、そのような発言もあったが。
「あれは、冗談でしょ?」
「そうだけど、やっぱり嫌だったの!!」
だからこそ、本人に会って確かめてみたかった。
彼がどういう人なのか。
自分から二宮を奪ったりしないのか。
不安で不安でたまらなかった。
「おれだって、心が狭い男だよ。にのに触る人はみんな嫌いって思っちゃう・・・嫌なやつだよ・・・」
「相葉さん・・・ごめん。あんたを不安にさせて。それから理不尽に怒ったりして」
「うん・・・」
「お互い様だね」
「うん」
手を取り合って微笑む2人。
周りの人間はそれを怪訝そうに見ては通り過ぎていく。
そんな周りの目を盗むようにして二宮は相葉の唇を奪った。
驚いて目を見開いた相葉だが、すぐに破顔する。
「仲直りのちゅう?」
「んふふ、まあね。」
「くふふっ、にのとちゅうしちゃった!!ひゃはっ」
「ふふっ。さ、帰ろうか、俺もっと仲直りしたい」
「もっと仲直り?」
首を傾げる相葉の耳元で妖しく囁いた。
「ちゅうだけじゃなくて・・・仲直りのえっちがしたい」
「なっ!なに言って・・・」
「駄目?」
「だめじゃないけど・・・」
「じゃ、帰ろ?」
「うん・・・」
手を繋いで歩き出す。
2人の間に平和な空気が戻った。
と同時に、相葉の携帯にメールの着信が入る。
「あ・・・・」
携帯を確認した相葉が気まずそうに二宮を見た。
それに二宮は敏感に反応する。
「何?誰から?」
「あっと・・・小栗君?」
「・・・あんたいつの間にアドレス教えたの?」
二宮の声が低くなる
その様子に相葉は恐縮した。
「話し始めて、ちょっとしてから・・・赤外線で・・・」
「まったく・・・。貸して?」
呆れた様子で息を吐いた後、二宮は相葉から携帯を受け取り、内容を確認する。
『今日はありがとう、楽しかったです。
また、会いたいな。今度は2人でゆっくりねv』
「・・・・」
あんの野郎・・・潤君から事情を聞いただろうに。
やってくれんじゃん。
「にの?ねぇ、なんて書いてあんの?」
相葉が覗き込もうとすると、すかさず二宮はメールを消去した。
「あーっ!!にの!?メール!」
「・・・・」
二宮の手から携帯を取り返すとメールを確認するが、すでに消されているため、もちろん読むことは出来ない。
「もう、にのぉ・・・なんで消すの?小栗君何て?」
「何?あんた、旬君が気になるわけ?」
「そうじゃないけど・・・失礼じゃない。メールくれたら返さなきゃ」
文句を言いながら、小栗に連絡しようと番号を探す。
「あれ?番号・・・」
アドレス帳に登録したはずの小栗の番号が見当たらない。
というよりも、小栗の名前自体がアドレス帳にはなかった。
「まさか、にの!?」
「旬君のデーターは消去しました」
「なんで!?っていうか、いつの間に!?」
「・・・いらないでしょう?」
「だって、せっかく友達に・・・「いらないでしょ?」」
相葉の言葉にかぶせるように二宮は笑顔で言い放つ。
その静かに怒る雰囲気に、相葉が逆らえるわけはなく。
「連絡、しないよね?」
「う、うん。しない・・・」
相葉は何も言えずに、ただ頷く。
それを見て二宮は満足気に笑った。
その後、小栗の携帯に送られてきた二宮からのメールで、小栗は二宮の執念を知ることとなる。
『今度、相葉さんにあんなメール送ったら殺すよ?あと、相葉さんの携帯、旬君のアドレスと番号は全部着信拒否にしてあっから送っても無駄だから。
相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!!!』
おわり?
―――数日後、某テレビ局にて
小栗は近く公開となる映画と、公演間近となった舞台の宣伝のため、いくつかの番組を梯子していた。
生番組の出演からコメント撮りまでを無難にこなしてきたが、さすがに朝から休憩もろくにしておらず、疲労が溜まっていた。
朝早かったこともあり、小栗は先ほどから大きなあくびを繰り返している。
「ふぁー・・・。あー、疲れた。眠みー・・・ん?」
ようやく休憩時間となり、テレビ局の廊下を楽屋へ向かうため歩いていると、前から見覚えのある細身の男が歩いて来た。
相手も小栗に気付いたようで、大きな瞳を更に大きくして立ち止まった。
「あ、相葉く・・・・えっ!?ちょ、ちょっと!相葉君!?」
小栗が声を掛けようとした瞬間、相葉は踵を返し、一目散に逃げ出した。
「な、何で?」
その勢いに呆気に取られ、しばし呆然としていた小栗だが、すぐにその原因に気付く。
「ニノか・・・」
この間、初めて相葉に会った時に松本から聞いた話を思い出す。
相葉が走り去った廊下の先を見つめて苦笑した。
*****
少しの興味と好奇心。
ちょうど休憩時間。
ただ、それだけ。
何となく、相葉の後を追って来てしまった。
「あれ?こっちに来たと思ったんだけど・・・・って、相葉君?何やってんの?」
見失ったと思ったら、足元に見え隠れする背中を発見した。
相葉はロビーにある自販機と自販機の間に、後ろ向きに蹲っていた。
「・・・相葉君?」
「あ、あいばじゃありません!!ひとちがいです!!」
「は?」
声かけにそう答えて、蹲ったまま振り向くこともしない。
どうしたものかと考えあぐねて、相葉の後ろ姿を見つめていると、その背中はわずかに震えていて、しかも一生懸命頭を押さえている。
本人的には隠れているつもりなのだろう。
何か、小動物みてぇ・・・。
相葉の姿に、小栗は思わず吹き出した。
小栗が吹き出したのが分かったのか、少しだけ顔を上げて小栗の様子を窺う相葉。
しかし、目が合うとまた隠れてしまう。
「ねぇ、相葉君」
「だから!相葉じゃないですから・・・・」
「・・・・あ、ニノだ!どうしたんだよ?今日仕事・・・」
「え?にのっ!?」
相葉は小栗の言葉に思わず立ち上がった。
しかし、そこに二宮の姿はなく。
「あれ?いない・・・」
「くくっ。ほら、やっぱり相葉君だ。ごめん、ニノは嘘」
「え・・・?あっ!」
小栗の方を振り返って、しまったと言わんばかりに逃げ出そうとする相葉の腕を小栗が掴み捕まえた。
「は、離して・・・・」
「嫌だ」
「い、いやだって・・・・なんでぇ?」
「離すと逃げるでしょ?だから離さない。逃げないんだったら離すけど?」
「に、逃げないからっ!」
「ホント?」
「ほんとっ!!」
相葉の答えを聞いて満足そうに微笑むと、小栗は手を離した。
相葉は逃げないものの、小栗と目を合わせようとせずに俯く。
「久しぶりだね、元気だった?」
「う、うん・・・まぁ」
「・・・俺、あの日メール送ったんだけどな」
「えっ?あ・・・うん。あ、あのね?えーと・・・・」
もちろん、相葉がメールを送ってこない理由は分かっている。
しかし、見事なほどにうろたえている相葉に、悪戯心が湧き上がる。
「待ってたんだよ?相葉君からの返事・・・」
「ご、ごめんなさい!あのね、おれ・・・け、携帯換えて・・・」
「あれ、今持ってるのこの間と一緒の携帯じゃない?」
「あっ!いや、これは・・・あの、おれのじゃないっていうか、おれのだけど・・・・」
慌てて持っていた携帯を後ろに隠す。
「・・・何か誤魔化してるよね?相葉君、俺の事嫌いなの?」
「き、きらいじゃないよっ!!あの、あのね?えっとね、どうしよぉ・・・」
涙目で必死に言葉を探している相葉に、何だかイケナイ気持ちが起き上がって来そうになるのを、小栗は気のせいだとやり過ごし、笑って見せた。
「あははっ。ホント相葉君は可愛いね。ニノの気持ちが解る気がする」
「お、おぐりくん?」
急に笑い出した小栗を不思議そうに見上げる。
「ふふっ、ごめん。ちょっと意地悪だったかな?知ってるよ、ニノだろ?」
「え?」
「松潤から聞いたよ。付き合ってんだって?」
「えっ!あ・・・・、うん・・・」
「あの日、ニノが急に帰ったのも、俺と相葉君が仲良く話してたからニノが怒ったんだって、松潤が言ってた」
相葉は、俯き顔を赤らめた。
その恥らうような表情が何とも可愛らしく、思わず口元が弛む。
「・・・あの日さ、相葉君にメールした後、ニノからメールが来たんだ。俺からのメールと着信は拒否ってんだって?」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
「別に怒ってるわけじゃないよ。相葉君の意志じゃなくてニノがやらせたんだろ?」
「・・・・」
「違う?」
「ち、ちがうよ?着信拒否してるのはおれだし、登録消したのもおれだから・・・」
「登録まで消されてんの?ショックだな、それ」
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
「・・・それもニノが言ったの?」
「・・・・ちがう・・・・違わないけど、でも違うんだ・・・・」
困ったように小栗から目をそらす相葉に、小栗は先日の二宮からのメールを思い出す。
送られて来た時、あまりの内容にしばらく固まった。
二宮の子供のような独占欲と、そこに見え隠れする狂気にも似た執着心。
会ったばかりの自分と話すことにさえ、あんなにも嫉妬したのだから、その束縛は想像を超えるものなのだろう。
そして、その全ての感情を受けているのは、この相葉なのだ。
「ニノが・・・怖い?」
「・・・それは違うよ」
「じゃあ、何でニノの言うことをそんなにまでして守ろうとするの?」
「にのが怖いんじゃないよ・・・。おれはね、にのを傷つけるのが怖いんだ」
「・・・どういうこと?」
「・・・・」
相葉は小栗の問いに少し戸惑った後、観念したかのように話し始めた。
「おれね・・・。おれ、ばかだから・・・いつもにのを怒らせる。いつも傷つけちゃうの。
でもね、ばかだから・・・いつも原因が分からないの。おれのせいで傷ついてるのは分かるのに、なんでなのかが分からないのね。
だから・・・おれはにのを傷つけたくないから、にのがダメって言うことは、絶対にしないの。
にのが嫌がることはしないって・・・そう、決めてるの」
二宮を思い出しているのだろうか。
その表情はとても穏やかで、一途な想いに満ちていた。
「・・・・だから俺からの連絡は拒否しろっていうのに応じたの?アドレスから俺の名前を消したのも、さっき俺から逃げようとしたのも、ニノが怒って・・・傷つくと思ったから?」
「・・・うん。ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる相葉に、小栗は苦笑した。
正直、2人が付き合ってるって言うことは聞いていたし、今更驚くこともない。
ただ、自分の知っている二宮はいつも冷静で、淡白な男だった。
だから二宮がこんなに人に執着するとは思ってなかったし、あんな子供みたいなことを言うのも意外だった。
『相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!』
しかし、それは決して一方的なものではなく。
今目の前にいるこの人はそれら全てを解った上で、二宮を受け入れているようだ。
2人の想いを、繋がりの強さを見せられた気がした。
こりゃ、また随分と相思相愛な2人だな。
「相葉君は・・・ニノが本当に好きなんだね?」
「え?うん・・・」
再び顔を赤らめて恥ずかしそうに頷く相葉を見て、少し逡巡した後、小栗は深く息を吐いた。
そして相葉に気付かれないようにニヤリと笑う。
「相葉君と友達になりたかったのに残念だなぁ」
「え・・・、友達だよ?こうやって話してるし・・・」
「連絡取れないのに?」
「うっ・・・・でも、会ったら話せるし・・・」
「2人で会えないのに?」
「2人は無理だけど・・・でも・・・・でもさっ」
悲しそうに言う小栗に、再び焦り始めた相葉が可愛くて、思わず吹き出した。
「くははっ。ごめん、苛めすぎたかな?」
「おぐりくん?」
「冗談だよ。怒ってないし、こうやって会った時には話してくれるんだろ?今はそれで充分だよ。相葉君の反応が可愛いから思わずね?」
意地悪い笑みを浮かべる小栗をポカンと見つめた後、相葉は自分がからかわれてのだと気付き、頬を膨らませた。
「小栗君は、やっぱりにのの友達だね!意地悪なところはそっくりだもん!」
「ははっ。じゃあ、俺の事を好きになってくれる可能性があるって事?」
「もう、そういうトコほんとに似てる・・・」
恨めしそうに小栗を睨む相葉に、小栗は大きく笑った。
本当に可愛らしい人だな。
そう思いながら相葉を見ると、黒目がちな潤んだ瞳がじっと小栗を見つめていた。
「ん?何?」
「あ・・・うん。ね、小栗君て背高いよね。身長いくつ?」
「え?ああ、183くらいかな?」
「へー・・・おれが175だから・・・・そっかぁ。こんな感じなんだね!」
「?」
全く意味が分からなかったけれど、そう言って嬉しそうに笑った相葉は本当に綺麗で。
見惚れていた小栗は何も言えずにいた。
そんな小栗に更に近づくと、じっと見つめる。
「あ、あいばくん?ちょっと、近くない?」
あまりにもじっと見つめられて、小栗はうろたえた。
「ねぇ、ちょっとだけ良いかな?」
「な、何?うわっ!!」
突然相葉が抱きついてきたため小栗はバランスを崩しそうになるが、何とか受け止める。
「ちょ、どうしたの!?」
小栗の問いに答えず、首に回した手に力を込めた。
「くふふっ」
「相葉くん?」
しばらくそうした後、相葉は嬉しそうに笑いながら小栗から離れた。
「ふふっ・・・こんな感じ!くふっ」
「何なんだよ、一体。」
さっきまであんなにも警戒していたとは思えない行動に、唖然とするしかない小栗。
「なぁんでもない。あ、にのには秘密ね?」
そんな小栗を上目遣いに見つめながら、唇の前で人差し指を立て、悪戯っぽく微笑む。
相葉の仕草に小栗は眩暈にも似た感覚に陥る。
「意味分かんねぇ・・・」
「ふふっ。あっ、おれもう行かなきゃ!じゃあ、またね!」
「またがあんの?俺たち」
「もう!いじわる!」
「ははっ。あ、そうだ。俺、もうすぐ舞台なんだ。良かったら観に来てよ。ニノと一緒に」
「・・・・ありがと!じゃあね・・・あ!」
戻ろうとした相葉が、思い出したように立ち止まると小栗の元に戻ってきた。
「何?」
「あ、あのね?・・・・・・・」
相葉は、少し頬を赤くしながら小栗の耳元で小さく何事かを囁いた。
その言葉に小栗は絶句する。
「な、何言ってんの!?あるわけねぇよ!!」
「ほんと?」
「神に誓って!!」
「良かった!!じゃあね!」
小栗の答えに、相葉は心底嬉しそうに笑って手を振りながら去っていく。
その後ろ姿を見つめながら、小栗は笑みを漏らした。
本当に可愛くて楽しい人だな、彼は。
もっと話したいと思わせるし、話すともっと知りたいと思わせる。
困らせてみたくなるし、怒らせてみたくなる。
いろんな彼を見たくなる。
不思議なほど、人を魅了する。
彼と親しくなりたいと思う。
友達として付き合えるかは、俺次第って事だろ?
何か、楽しくなってきた。
先ほどまでの眠気も、疲れもぶっ飛んだ。
相葉君のおかげだな。
小栗は、相葉に感謝しつつ楽屋へと歩き出した。
*****
楽屋のドアの前に立ち、そのドアに掲げられている、中にいるだろう人物の名前を睨み付ける男が1人。
「・・・・」
しばらくそれを睨み付けていた男は、1つ息を吐くとドアをノックする。
返事を確認すると、無言で中へと入る。
「おっ!来たんだ、お疲れ!」
「・・・・どうも」
楽屋にいた小栗の元を訪れたのは、かなり不機嫌そうな二宮だった。
小栗の出演する舞台に招待され、楽屋を訪れたところだ。
「あれ、相葉君は?一緒じゃねぇの?」
「・・・・一緒のわけないでしょう。あの人も舞台中ですよ・・・。しかも今日が楽日なんだよ」
こんな日に招待とはやってくれんじゃん・・・と小栗を睨む。
「ははっ。わざとじゃねぇよ?」
「・・・わざとだったら、ただじゃおきませんよ」
「ご機嫌斜めだねぇ。相葉君が舞台で相手してくんないからかぁ?」
からかうように言う小栗を、冷たい空気で突き放す。
「余計なお世話です。俺の機嫌が悪いとしたら、それは相葉さんのせいじゃなくてお前のせいだよ」
「俺?何でだよ?」
「・・・この間、会ったんですって?相葉さんと」
「ああ、偶然ね。相葉君が言ったの?」
「・・・あの人隠すの下手ですから。何かあったらすぐに分かります。それに隠すことが得策でないことも分かってますから」
「ホント、相思相愛だねぇ。羨ましい限りだよ」
「・・・全くお前は。俺の忠告無視するなんて良い度胸だよ。でも、今度やったら本気で殺すよ?」
「お前、励ましに来たのかよ、それとも脅しに来たのか?」
そう言って笑う小栗に、あからさまなため息を吐いてみせた。
「分かってるよ。だから、ニノとおいでって誘ったんだろ?でもあんま縛ると、そのうち逃げ出すぜ?」
「・・・相葉さんは俺から逃げたりしねぇよ」
「すげぇ自信」
「・・・自信じゃねぇよ。確信だよ」
「はぁ・・・お前らって、すげぇな。何つーか、カタチは違えど想いは1つって感じ?」
「当たり前です」
しれっと答える二宮に、小栗は面白くないと口を尖らせた。
しかし、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべ二宮を見る。
「何ですか、その不気味な顔」
「失礼だな、お前。ふふ・・・実はさ・・・俺、この間さ、相葉君に抱きつかれちゃった」
「・・・・は?」
「『にのには秘密ね?』って可愛くお願いされちゃったよ」
「・・・・どういうことだよ?」
明らかに不快な表情を浮かべた二宮に、満足気な表情の小栗。
「事と次第によっちゃあ・・・お前、舞台降板だよ?」
穏やかではない声で、穏やかでない発言をする二宮に、小栗は肩を竦めた。
「まぁまぁ、んな怒んなって。俺にも何が何だかさっぱりなんだよ。急にさ、俺をじっと見つめてきて、身長いくつって聞いてきてさ」
「身長?」
「ああ。んで、答えたら『こんな感じなんだね』って嬉しそうにしてさ。そしたら急に抱きついてきたんだよ」
せっかくだから、抱きしめ返しといたと言う小栗を、絶対零度の視線で黙らせる。
「『こんな感じ』・・・・。旬君身長いくつ?」
「あ?183だけど・・・」
「・・・・はぁ、そういうことか。んふふ、相変わらずバカなんだから・・・」
「何だよ、何笑ってんの?」
「んふふ、相葉さんはやっぱり俺のものって事だよ」
いきなり上機嫌の二宮に、小栗はついていけずに眉をひそめた。
「どういうことだよ?」
「ふふ、さぁね?お前に教える義理はねぇよ。でもまぁ、相葉さんに触ったことは許してやる。言っとくけど、今度はないからね」
そう言った二宮が、今までに見たことない位に嬉しそうに笑うので、小栗はそれ以上問わなかった。
「あ、そういえば相葉君が言ってたんだけど。俺とお前は似てんだって、意地悪なところが」
「・・・心外ですね。俺はそんなに根性悪くないつもりですけど?」
「だろ?俺も、お前ほど性格歪んでねぇつもりだよ」
しばらくの沈黙の後、どちらからともなく笑いが漏れる。
「相変わらずだな、ニノは」
「旬君もね。そろそろ行くわ。ま、頑張って」
「おう!あ、そうだ。終わったら飯行こうぜ!どうせ相葉君も打ち上げだろ?」
「・・・まぁね。でも、お前の奢りだかんな!」
「何でだよ!俺が頑張ってんのに!!」
「俺の相葉さんに触ったんだから、それ相応の代償はいただかないとね。許すとは言ったけど、ただでとは言ってねぇし」
「・・・ホント、たいした男だよ。お前はさ」
呆れ顔でそう言った小栗に不敵な笑みを残して、二宮は楽屋を出ていった。
その姿を見送った小栗は1つため息を吐く。
「あー・・・全く、羨ましいね」
悔しいから二宮には言ってやらない。
あの日、別れ際に相葉が小栗の耳元で囁いた言葉。
「想いは1つか・・・・」
それを思い出し、小栗は楽しそうに笑った。
『あのね、おれから・・・にの、盗らないでね?』
*****
客席へ向かう廊下を歩きながら二宮は呟く。
「全く、あいつは・・・・」
可愛いこと、してくれんじゃん。
小栗と相葉の身長差。
相葉と二宮の身長差。
相葉が考えそうなこと。
全ては自分への想いがさせたことだ。
悪気はないだろう。
でも・・・・。
「帰ったら、お仕置きだな・・・」
口の端を持ち上げて、客席への扉をくぐった。
おわり
けっしてオシャレとは言えない居酒屋。
そんな場所が二宮や仲間にとっては、たまらなくお気に入りの盛り上がれる場所だった。
楽しくて、つい酒も進む。
「旬君さぁ、さっきからそればっかじゃん!!」
鬱陶しそうに、でも何処か嬉しそうに二宮は隣に座る男の肩を押す。
そんなところにも、久々に集まった喜びが表れていた。
二宮の隣にはかつてドラマで一緒になり、親しくなった小栗旬の姿があった。
「だってさ、ニノ絶対言わないじゃん。俺、ずっと前から聞いてんのに」
小栗はグラスを片手に肘で二宮を押し返す。
二宮は得意の含み笑いで小栗の言葉を聞き流そうとする。
「あー、お前またごまかすつもりだろ?今日こそは絶対聞き出してやるからな!お前の彼女の事!!」
「だーから!彼女なんていないって、前から言ってんじゃん。旬君しつこいよ」
言い切る小栗の勢いに苦笑しながら、二宮はなおも否定を繰り返す。
「だいたいさ、俺、彼女がいるなんてひと言も言った事ないでしょ?」
「いや!まぁ・・・聞いた事はないけど、いるだろ?だって俺、何回か聞いてるし。お前が電話で話してるのとか」
「・・・電話なんて誰でもするでしょ?」
「そうだけど、明らかに俺たちと話す感じと違った!何ていうか・・・こう、ニノの顔も声も穏やかで優しくてさ・・・愛が溢れてるっていう感じ?
あの感じからして、絶対彼女だろ?しかも1年・2年の付き合いじゃないな・・・もう5年以上は付き合ってるって感じだな」
「何それ・・・」
呆れ顔でそう言いながらも、内心、鋭いねと感心する。
小栗は仲良くなった当初から、とにかく二宮の彼女のことを聞きたがっていた。
小栗自体、恋愛を隠すことなく堂々と振舞っていたし、色々な話も聞いている。
付き合ってる彼女がどうだとか、何処が好きとか。
話の後には必ず「で、ニノはどうなんだよ?」って言われていたけど。
その度に、「彼女はいない」と言い返してきたが、小栗はその言葉を信じてはいないようだった。
オトコの勘らしい。
もちろん、彼女などいないのだから嘘は言っていない。
恋人はいるけどね。
まぁ、そんなに人に言うことでもないし、言って恋人を傷つけてしまうのは本意ではないから。
小栗を信じていないわけではないけど・・・・二宮としては色々と思うところがあるのだ。
この世で一番大切な彼を思い浮かべて、一人微笑む。
「あー!その顔!!今、絶対彼女のこと考えてただろ!」
意外と鋭い小栗に、肩を竦めてみせる。
「とにかく!!今日こそはお前の彼女の正体を掴んでやる!」
「正体って・・・まぁ、頑張ってね」
呆れて言う二宮に、小栗は少しだけ拗ねたように口を尖らせた。
「お前なぁ・・・何だよ、俺には紹介できないような相手なわけ?あ、もしかして不倫とか!?」
「あのね・・・んなわけないでしょう」
「じゃあ・・・、すっげぇ不細工なんだ!!そっかぁ、ニノの彼女って不細工なんだぁ」
「・・・・不細工じゃねぇよ!」
「あ、認めた!彼女がいるって認めたな!」
「・・・・」
久しぶりの楽しさに、飲みすぎたようで。
あっさり小栗の誘導に引っかかってしまった。
嬉しそうにガッツポーズをする小栗を尻目に、大きくため息を漏らしてグラスの中身を飲み干した。
「で、どんな子なの?ニノの彼女って。可愛い?」
「どんなって・・・、まぁ・・・可愛いですよ。俺にとってはね、世界一ですから」
興味津々で聞いてくる小栗に、呆れながらも二宮は正直に答えた。
今まで、メンバー以外には口に出来なかった恋人の事を、名前は出せないにしろ話せることが嬉しくて、二宮も自然と饒舌になっていていたのかもしれない。
その答えに小栗は意外そうに目を見開いた。
「へぇ。ニノがそんなこと言うなんて、何か意外」
「聞いといて何ですか、それ。俺だってね、好きな子には甘いんですよ。何て言ってもあの人は俺のね、お姫様ですから」
「お姫様ねぇ・・・それは言い過ぎじゃね?でも、ちょっとお目にかかりたいな」
二宮にそこまで言わせるお姫様に。
「ダメ。もったいないから」
「ははっ、何だよそれ」
小栗が二宮の言葉を笑い飛ばす。
本気なのに、と二宮は再び肩を竦めてグラスを傾けた。
そんな調子で楽しい時間を過ごしていた二宮に、盛り上がってきた仲間たちは、更なる盛り上がりをと、他にも仲間を呼びたいと言い出す。
すると、小栗が悪戯っ子のような顔で二宮を見遣ってから、楽しそうに切り出した。
「実はさ・・・俺、他に約束があってさ。ついでだからこっちに来てもらっちゃおうと思うんだけど、良い?」
「約束?いいですけど・・・」
何とも含みのある言い方が気にはなったが、皆も楽しそうにしているし特に何も言わずに頷いた。
そして、合流したのは・・・。
「あれ、潤君!!」
「ニノ!?旬君の友達ってニノだったのか・・・」
びっくりしたと松本が眉を上げて言う。
「こっちもびっくりですよ。まさか旬君の約束相手が潤君だったなんて。旬君、誰って言わないからさ」
だから、あんな顔をしていたのかと、二宮は恨めしそうに小栗を見た。
「ははっ。びっくりするかと思ってさ」
悪びれる様子もなく笑う小栗。
その隣で、何故だか気まずそうな顔をしている松本に気付き、二宮は首を傾げた。
「潤君、どうしたんですか?何か気になることでも?」
「えっ?いや・・・まぁ・・・」
歯切れの悪い返答の松本。
それはすなわち・・・。
「何か・・・隠してます?」
「・・・隠してるって言うか・・・まさか、ニノがいるとは思わなかったからさ・・・」
言葉を濁す松本に、二宮の眉間にしわが寄る。
「何なの、潤君?」
「潤君、もう1人・・・呼んでんだよね?・・・・」
2人の会話を聞いていた小栗が言う。
「もう1人?」
小栗の言葉に、誰を呼んだのかと松本に顔を向けた時、聞きなれたダミ声が耳に届いた。
「あー、いた!おーい、まつじゅーん!」
この声は間違いなく。
「あっ、あいばさんっ!?」
「へ?あれぇ、にのだぁ!にのがいる!!どうして?」
二宮の姿を見て嬉しそうに走り寄って来る。
「どうしてって・・・聞きたいのはこっちですよ!何で相葉さんがいるの!?」
「おれはね、松潤に呼ばれたの!小栗君と飲むから、来ないかって。あー、ホンモノ!!花沢類っ!!」
ニノの質問に答えた後、二宮の隣に座る小栗を指差して興奮気味に言った。
あまりの勢いに引き気味の小栗。
「相葉さん、声でかいよ!周りに迷惑。旬君にも失礼でしょ?挨拶もなしに指ささない!」
二宮が相葉を諌めた。
「あ、ごめんなさい。はじめまして、相葉雅紀です」
二宮に怒られた相葉は、途端にしゅんとして、神妙な面持ちで挨拶をする。
その姿に小栗は小さく吹き出した。
「はじめまして、小栗です。相葉君って面白いね」
「へ?何かおれ、変?面白い?」
首を傾げて、小栗を見つめる相葉に、今度は大きく笑った。
「小栗くん?」
そんな2人の様子に、二宮は苛立ちを隠せない。
当たり所はもちろん。
「潤君・・・どういうことですかね?」
幾分声も低くなる。
「いや・・・・前から相葉ちゃんが、花沢類に会いたいって言ってたから・・・・」
ニノも知ってるだろ?
「・・・知ってますよ。俺だって何回もせがまれたからね」
その度に、何となくはぐらかしてきたのに。
相葉にそんなつもりはないにしても、他の男に会いたがる恋人を見て、いい気はしない。
「その事をさ、旬君に話したら・・・連れておいでよってことになって・・・電話したら、来るって言って、今に至る訳だけど・・・・。
まさかニノまでいるとは思ってなくて・・・悪い。どうする?」
連れて帰る?
「・・・・今更帰れとは言えないでしょ?あんなにはしゃいでるのに。俺がいる時でかえって良かったよ」
そう言って松本を睨み付けた。
別に自分の仲間を信じてない訳じゃない。
ただ、相葉が影響を受けやすい事は充分すぎるほど知っていたし、ドラマの中とは言え、花沢類を気に入っていた事も、認めたくないが知っている。
恋人として面白くないのも、警戒するのも悪い事じゃないでしょ?
「うわぁ!小栗君て背高いんだね・・・すげぇ、カッコいい!!」
・・・・ほらね、面白くない。
「にのぉ、なにしてんの?ちょっとつめて!」
相葉が二宮に近寄り、手でもっと寄ってと示す。
「にのの隣!!うへへ・・・」
そう言って二宮の隣に座り、笑顔を向けた。
その仕草に少なからず、二宮の機嫌は良くなる。
所詮、二宮も恋する男なのだ。
本当は嫌だけど、愛しい人が喜ぶのなら仕方がない。
しばらくは我慢するとしよう。
俺って心が広いなぁと、自画自賛。
それからは特に何事もなく、皆で飲んで話して楽しく過ごしていた。
相葉も楽しそうに皆と話していたし、二宮も久々の仲間たちとの語らいに、しばし集中していた。
先ほどから相葉が小栗にべったりなのは気に入らないが。
二宮は他の仲間と話しながら、相葉へと目を移す。
「うひゃひゃっ。小栗君てぇ、面白いねぇ・・・くふふっ。おれね、ドラマのイメージしかなかったでしょ?だからもっとクールなのかと思ってたの」
「イメージダウンした?」
「ううん!話しやすくて安心した」
「ふふっ、良かった。相葉君こそ、面白いよ。それに・・・ホント、可愛い。男にしとくのもったいないね」
「え?」
小栗の言葉に相葉は不思議そうな顔で、首を傾げて小栗を見つめた。
そんな相葉に、小栗は苦笑する。
「そんなに見つめられると困るな・・・それ、癖?さっきもそうしてた」
「なにが?」
「そうやって、人の顔をじっと見るのは癖なの?」
「へ?おれそんなに見てた?気付かなかったな・・・」
「いや、うん・・・相葉君の目って潤んでて・・・その目で見つめられると・・・何かさ、変な気分になるっていうか・・・それに、人の話聞くときにそうやって唇撫でるのも癖なの?」
「唇さわってた?これはね、癖みたい。前にね、にのにも・・・・え?お、おぐりくん?」
「何か・・・誘ってる?」
そう言って、小栗は目を細めて相葉に顔を近づける。
「え・・・な、なに?」
瞬間、相葉は首根っこを掴まれて、強引に小栗から離された。
「うわっ!!」
驚いてその相手を見ると、物凄く不機嫌な顔の二宮と目が合った。
「・・・に、にの?」
「・・・・帰るよ」
「え?だって・・・まだ」
「・・・・俺が帰るって言ってんだろ!!」
二宮の聞いた事のないような荒げられた声に、周りの動きが止まる。
そんなことも気にせず、二宮は帰り支度を始めて席を立った。
慌てて相葉も立ち上がる。
「ま、まって!にのが帰るなら、おれも帰る。松潤、小栗君ごめんね。みんなも、またね」
「え・・・ちょっと、ニノ?相葉君?」
小栗は何が起こったのか理解できずに名前を呼ぶことしか出来ない。
皆が2人の出て行ったドアをぽかんと見つめる中、ただ一人、こんなことには慣れっこの松本が大きなため息を漏らした。
「やっぱ、失敗だったな・・・・」
「え?」
「・・・ニノがいるって知ってたら、相葉ちゃん連れてこなかったのに」
後のフォローが大変なんだよと眉間にシワを寄せた。
そして、わざとらしいほど明るく皆を先導して盛り上げる。
「あいつらさ、ちょっとケンカしてたんだよね。まぁ、大人だから大丈夫っしょ!!すいません雰囲気悪くして。さ、飲み直そうぜ!!」
最初は戸惑っていた皆も、お酒が入っているのもあってか、松潤の説明を疑問もなく受け入れたようで次第に盛り上がり始めた。
その様子に松本は安堵の息を吐いた。
しかし納得していない人物が1人。
「潤君・・・どういうこと?」
最初に会った時の二宮と相葉は、どう見てもケンカしているようには見えなかった。
戸惑いを隠せない様子の小栗が聞こうとした時、小栗の携帯にメールが届いた。
『ごめん。楽しかったけど、今日は帰るわ。あんまり言いたくないけど・・・・今度あんなことしたら、旬君でも許さないから。意味が知りたきゃ潤君に聞いて』
二宮からだ。
内容を読み、松本に見せる。
「潤君・・・。メール、ニノからなんだけどさ・・・」
メールを読んだ松本は、更に顔を歪ませた。
「潤君に聞いて」って・・・俺を巻き込むなよ、全くさ。
まぁ、俺が相葉ちゃんを連れてきたんだからしょうがないか。
自業自得ってのは、このことだ。
こんなことならやっぱり呼ぶんじゃなかったな。
「なんか・・・俺が原因みたいだね。アイツがキレたの」
「・・・だろうね・・・」
「分かってたの?」
「まぁ・・・」
「あんなことって・・・何?」
検討もつかない小栗は、メールを見つめたまま眉根を寄せて考え込む。
「・・・旬君さぁ、相葉ちゃんと会ってどう思った?」
「ど、どうって?」
「・・・第一印象っていうかさ、話してみて・・・何か感じた?」
松本の質問の意図するところがイマイチ理解できなかったが、小栗はとりあえず相葉と話した時のことを思い出す。
「うーん・・・。そうだな、すっごい可愛いらしい人だよね。朗らかで、ほわんってしててさ。一緒にいて凄く安らぐ感じがする」
「・・・それだけ?」
「え?それって、どういう意味?」
「他に・・・何か思ったことない?相葉ちゃんにさっき・・・何か言ったでしょ?」
「あ・・・うん」
言葉を濁した小栗。
確かに相葉と話していると、変な気持ちになった。
黒目がちで潤んだ瞳。
じっと見つめられると吸い込まれそうで、思わず顔が近づいた。
「ちょっとね、男なのが残念だなって・・・」
「はぁ・・・それだよ」
「え?」
「・・・旬君さ、ニノから聞いてる?ニノの付き合ってるヤツのこと」
「ああ、今日初めて聞いたよ。彼女がいるってのは。可愛くて、お姫様なんだって?」
「彼女ねぇ・・・。ニノが言ったの?彼女って?」
「いや・・・俺が聞き出したんだけど・・・ニノは彼女はいないって言い張ってたけど」
「・・・ニノに彼女はいないよ」
「え?だって、付き合ってるヤツいるんだろ?世界一のお姫様って・・・」
「まぁ、ニノにとってはお姫様かな・・・アイツは」
「アイツって、潤君は会ったことあるんだ?」
「・・・あるよ。っていうか、ほぼ毎日」
「ま、毎日!?」
「・・・ニノが不機嫌になったのは、いつからだと思う?」
「えっと・・・潤君が来た時はまだ機嫌は良かったし・・・その後相葉君が来て、話が盛り上がって・・・あれ?」
小栗の思考が止まる。
まさかね・・・・そんなことは・・・・。
相葉と自分の話が盛り上がったとき、彼を見ていて思わず口にした言葉。
その時じゃなかったか?
二宮がキレたのは。
「何か・・・気付いた?」
「潤君・・・間違ってたら笑ってよ?」
「・・・ああ」
「ニノに彼女はいないって・・・それは相手が女の子じゃないって、こと?」
「・・・・」
「笑ってよ・・・」
「間違ってたら笑えっつったじゃん。さっきから言ってんだろ?ニノに「彼女」はいないって」
ということは、間違っていないということだ。
「「彼女」はいない・・・けど、付き合ってるヤツはいる・・・ってこと?」
「ああ」
「その相手が・・・相葉くん・・・?」
「ご名答」
「そうなんだ・・・・。何か・・・そっかぁ・・・」
言葉にならないようだ。
「何?ショック?」
「え?うん・・・いや、何ていうのか・・・衝撃的だなって」
「まぁ、そうだろうね。でも、あいつら見てるとさ、そんなこと関係ねぇなって思えるよ?
男とか女とか、そんなのとっくに超えてる2人だから。で、それ聞いて・・・お前はどうする?」
友達、やめるか?
「・・・別に、ニノはニノだし何も変わんねぇけど、そっかぁ・・・相葉君可愛いし、何となく分かる気がしないでもないかな・・・」
相葉の潤んだ瞳と、無意識に唇を撫でる仕草を思い出し、顔を崩した。
不覚にも触れたいと思った。
また、会いたいと思わせる不思議な魅力を感じたのは確かで。
会ったばかりの自分ですらそう思うんだから、長い間一緒にいる二宮がそう思ったっておかしくはないだろう。
「はぁ・・・たぶん、旬君はしばらくは相葉ちゃんには会えないよ。ニノは旬君の気持ちに気付いたからね」
「マジ?」
「ああ。メンバーの俺たちですら、凄い牽制されてんだから。まぁ、それでニノの旬君に対する態度が変わることはないと思うけどね。
お前がこれ以上相葉ちゃんにちょっかい出したりしなければ」
「相葉君が絡まなきゃ、今まで通りってこと?」
「そういうこと。だから、変な気起こすなよ?」
松本は小栗の胸の辺りを指先で押して忠告する。
「ははっ。せっかく仲良くなれそうなのに残念だなぁ。メールとかもダメ?」
「・・・お勧めできないね。痛い目見たきゃ、止めないよ。でも、相当の覚悟して絡めよ?」
アイツの相葉ちゃんへの執着は凄いから。
「へぇ、あのニノがね・・・もっと淡白なヤツだと思ってた」
ホント、意外。
今度会った時には思いっきりからかってやろうと、小栗はグラスの氷を揺らして微笑んだ。
*****
「ねぇ・・・にの?にのってばっ!!」
居酒屋から出てきた二宮は無言で街を歩く。
足早に歩くその背中を相葉は懸命に追いかけた。
背が高い分、自分の方が歩幅は広いはずなのに何故か追いつくのがやっとだ。
必死で後を追い、離れていきそうな二宮の服を掴む。
「にの!」
「何ですか?」
振り返った二宮の表情はひどく冷たく、相葉は言葉に詰まる。
「うっ・・・・なに怒ってんだよぉ。訳わかんないよ。
しかも、良かったの?あんな風に出てきちゃって・・・後で気まずくなら・・・「うるせぇよ!あんたさっ、自分が何やってんのか解ってんの!?」」
「え・・・?」
意味が解っていない相葉は、戸惑いの表情で二宮を見つめた。
「どうせ・・・俺が何で怒ってんのかも解ってねぇんだろ?」
「にの・・・」
申し訳なさそうに俯く相葉に、二宮は大きくため息を吐いた。
それを聞いた相葉はビクッと肩を震わせる。
「・・・いつも、いつもいつも!何であんたは・・・・」
俺の感情を揺さぶるんだ。
「・・・ごめんなさい」
「謝る理由は?」
「・・・わかんない」
「じゃあ、謝んなよ」
「だって・・・・にのが怒るから・・・」
「・・・もういいよ。っていうか、俺が勝手に怒ってるだけで、多分あんたは悪くないから」
そう言って二宮は踵を返した。
「に、にの!」
置いて行かれると思ったのか、相葉が悲痛な声を出して、二宮の服を強く握り直す。
「・・・・何?」
「なんで怒ってるの?おれ・・・ばかだから、言ってくれなきゃ分かんないよ・・・」
今にも泣きそうな彼に、二宮は憤りを覚える。
相葉にではなく、相葉を泣かせてしまう自分自身に。
「・・・・だから、あんたは悪くない。俺の問題なんだ。あんたにもちょっとは怒ってるけど、でもそれよりも・・・」
二宮は相葉を見遣ると、自嘲気味に唇を吊り上げた。
「それよりも、あんたが俺以外と笑ってることが許せない・・・俺以外の人間に興味を持ってることが許せない・・・でも、そんな風にしか考えられない自分が一番許せない」
「にの・・・」
二宮は、服の端を握り締めている相葉の手を取り、自らの手で包み込む。
「・・・だから、あんたが旬君に会いたいって言っても会わせなかった。こうなることは分かってたからね」
包み込んだ手に力が篭る。
「ホント、心の狭い男ですよ。二宮和也は!」
「にの・・・・ごめんね?」
「・・・謝る理由は?」
「にのに、嫌な思いさせたから・・・。おれ、ホントに何にも考えてなくて。それでいつもにのに迷惑かけて、嫌な気持ちにさせて・・・ホント、ばかでごめんなさい」
相葉が二宮の手を握り返す。
「でもね、おれだって・・・思ってたんだよ?にの、小栗君のことよく話してたし、ニッキにだってよく出てくるし・・・。この間だって!!あ、あいしてるって・・・・」
この間とは、番宣で生番組に出た時のことか。
確かに小栗からのコメントはあったし、そのような発言もあったが。
「あれは、冗談でしょ?」
「そうだけど、やっぱり嫌だったの!!」
だからこそ、本人に会って確かめてみたかった。
彼がどういう人なのか。
自分から二宮を奪ったりしないのか。
不安で不安でたまらなかった。
「おれだって、心が狭い男だよ。にのに触る人はみんな嫌いって思っちゃう・・・嫌なやつだよ・・・」
「相葉さん・・・ごめん。あんたを不安にさせて。それから理不尽に怒ったりして」
「うん・・・」
「お互い様だね」
「うん」
手を取り合って微笑む2人。
周りの人間はそれを怪訝そうに見ては通り過ぎていく。
そんな周りの目を盗むようにして二宮は相葉の唇を奪った。
驚いて目を見開いた相葉だが、すぐに破顔する。
「仲直りのちゅう?」
「んふふ、まあね。」
「くふふっ、にのとちゅうしちゃった!!ひゃはっ」
「ふふっ。さ、帰ろうか、俺もっと仲直りしたい」
「もっと仲直り?」
首を傾げる相葉の耳元で妖しく囁いた。
「ちゅうだけじゃなくて・・・仲直りのえっちがしたい」
「なっ!なに言って・・・」
「駄目?」
「だめじゃないけど・・・」
「じゃ、帰ろ?」
「うん・・・」
手を繋いで歩き出す。
2人の間に平和な空気が戻った。
と同時に、相葉の携帯にメールの着信が入る。
「あ・・・・」
携帯を確認した相葉が気まずそうに二宮を見た。
それに二宮は敏感に反応する。
「何?誰から?」
「あっと・・・小栗君?」
「・・・あんたいつの間にアドレス教えたの?」
二宮の声が低くなる
その様子に相葉は恐縮した。
「話し始めて、ちょっとしてから・・・赤外線で・・・」
「まったく・・・。貸して?」
呆れた様子で息を吐いた後、二宮は相葉から携帯を受け取り、内容を確認する。
『今日はありがとう、楽しかったです。
また、会いたいな。今度は2人でゆっくりねv』
「・・・・」
あんの野郎・・・潤君から事情を聞いただろうに。
やってくれんじゃん。
「にの?ねぇ、なんて書いてあんの?」
相葉が覗き込もうとすると、すかさず二宮はメールを消去した。
「あーっ!!にの!?メール!」
「・・・・」
二宮の手から携帯を取り返すとメールを確認するが、すでに消されているため、もちろん読むことは出来ない。
「もう、にのぉ・・・なんで消すの?小栗君何て?」
「何?あんた、旬君が気になるわけ?」
「そうじゃないけど・・・失礼じゃない。メールくれたら返さなきゃ」
文句を言いながら、小栗に連絡しようと番号を探す。
「あれ?番号・・・」
アドレス帳に登録したはずの小栗の番号が見当たらない。
というよりも、小栗の名前自体がアドレス帳にはなかった。
「まさか、にの!?」
「旬君のデーターは消去しました」
「なんで!?っていうか、いつの間に!?」
「・・・いらないでしょう?」
「だって、せっかく友達に・・・「いらないでしょ?」」
相葉の言葉にかぶせるように二宮は笑顔で言い放つ。
その静かに怒る雰囲気に、相葉が逆らえるわけはなく。
「連絡、しないよね?」
「う、うん。しない・・・」
相葉は何も言えずに、ただ頷く。
それを見て二宮は満足気に笑った。
その後、小栗の携帯に送られてきた二宮からのメールで、小栗は二宮の執念を知ることとなる。
『今度、相葉さんにあんなメール送ったら殺すよ?あと、相葉さんの携帯、旬君のアドレスと番号は全部着信拒否にしてあっから送っても無駄だから。
相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!!!』
おわり?
―――数日後、某テレビ局にて
小栗は近く公開となる映画と、公演間近となった舞台の宣伝のため、いくつかの番組を梯子していた。
生番組の出演からコメント撮りまでを無難にこなしてきたが、さすがに朝から休憩もろくにしておらず、疲労が溜まっていた。
朝早かったこともあり、小栗は先ほどから大きなあくびを繰り返している。
「ふぁー・・・。あー、疲れた。眠みー・・・ん?」
ようやく休憩時間となり、テレビ局の廊下を楽屋へ向かうため歩いていると、前から見覚えのある細身の男が歩いて来た。
相手も小栗に気付いたようで、大きな瞳を更に大きくして立ち止まった。
「あ、相葉く・・・・えっ!?ちょ、ちょっと!相葉君!?」
小栗が声を掛けようとした瞬間、相葉は踵を返し、一目散に逃げ出した。
「な、何で?」
その勢いに呆気に取られ、しばし呆然としていた小栗だが、すぐにその原因に気付く。
「ニノか・・・」
この間、初めて相葉に会った時に松本から聞いた話を思い出す。
相葉が走り去った廊下の先を見つめて苦笑した。
*****
少しの興味と好奇心。
ちょうど休憩時間。
ただ、それだけ。
何となく、相葉の後を追って来てしまった。
「あれ?こっちに来たと思ったんだけど・・・・って、相葉君?何やってんの?」
見失ったと思ったら、足元に見え隠れする背中を発見した。
相葉はロビーにある自販機と自販機の間に、後ろ向きに蹲っていた。
「・・・相葉君?」
「あ、あいばじゃありません!!ひとちがいです!!」
「は?」
声かけにそう答えて、蹲ったまま振り向くこともしない。
どうしたものかと考えあぐねて、相葉の後ろ姿を見つめていると、その背中はわずかに震えていて、しかも一生懸命頭を押さえている。
本人的には隠れているつもりなのだろう。
何か、小動物みてぇ・・・。
相葉の姿に、小栗は思わず吹き出した。
小栗が吹き出したのが分かったのか、少しだけ顔を上げて小栗の様子を窺う相葉。
しかし、目が合うとまた隠れてしまう。
「ねぇ、相葉君」
「だから!相葉じゃないですから・・・・」
「・・・・あ、ニノだ!どうしたんだよ?今日仕事・・・」
「え?にのっ!?」
相葉は小栗の言葉に思わず立ち上がった。
しかし、そこに二宮の姿はなく。
「あれ?いない・・・」
「くくっ。ほら、やっぱり相葉君だ。ごめん、ニノは嘘」
「え・・・?あっ!」
小栗の方を振り返って、しまったと言わんばかりに逃げ出そうとする相葉の腕を小栗が掴み捕まえた。
「は、離して・・・・」
「嫌だ」
「い、いやだって・・・・なんでぇ?」
「離すと逃げるでしょ?だから離さない。逃げないんだったら離すけど?」
「に、逃げないからっ!」
「ホント?」
「ほんとっ!!」
相葉の答えを聞いて満足そうに微笑むと、小栗は手を離した。
相葉は逃げないものの、小栗と目を合わせようとせずに俯く。
「久しぶりだね、元気だった?」
「う、うん・・・まぁ」
「・・・俺、あの日メール送ったんだけどな」
「えっ?あ・・・うん。あ、あのね?えーと・・・・」
もちろん、相葉がメールを送ってこない理由は分かっている。
しかし、見事なほどにうろたえている相葉に、悪戯心が湧き上がる。
「待ってたんだよ?相葉君からの返事・・・」
「ご、ごめんなさい!あのね、おれ・・・け、携帯換えて・・・」
「あれ、今持ってるのこの間と一緒の携帯じゃない?」
「あっ!いや、これは・・・あの、おれのじゃないっていうか、おれのだけど・・・・」
慌てて持っていた携帯を後ろに隠す。
「・・・何か誤魔化してるよね?相葉君、俺の事嫌いなの?」
「き、きらいじゃないよっ!!あの、あのね?えっとね、どうしよぉ・・・」
涙目で必死に言葉を探している相葉に、何だかイケナイ気持ちが起き上がって来そうになるのを、小栗は気のせいだとやり過ごし、笑って見せた。
「あははっ。ホント相葉君は可愛いね。ニノの気持ちが解る気がする」
「お、おぐりくん?」
急に笑い出した小栗を不思議そうに見上げる。
「ふふっ、ごめん。ちょっと意地悪だったかな?知ってるよ、ニノだろ?」
「え?」
「松潤から聞いたよ。付き合ってんだって?」
「えっ!あ・・・・、うん・・・」
「あの日、ニノが急に帰ったのも、俺と相葉君が仲良く話してたからニノが怒ったんだって、松潤が言ってた」
相葉は、俯き顔を赤らめた。
その恥らうような表情が何とも可愛らしく、思わず口元が弛む。
「・・・あの日さ、相葉君にメールした後、ニノからメールが来たんだ。俺からのメールと着信は拒否ってんだって?」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
「別に怒ってるわけじゃないよ。相葉君の意志じゃなくてニノがやらせたんだろ?」
「・・・・」
「違う?」
「ち、ちがうよ?着信拒否してるのはおれだし、登録消したのもおれだから・・・」
「登録まで消されてんの?ショックだな、それ」
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
「・・・それもニノが言ったの?」
「・・・・ちがう・・・・違わないけど、でも違うんだ・・・・」
困ったように小栗から目をそらす相葉に、小栗は先日の二宮からのメールを思い出す。
送られて来た時、あまりの内容にしばらく固まった。
二宮の子供のような独占欲と、そこに見え隠れする狂気にも似た執着心。
会ったばかりの自分と話すことにさえ、あんなにも嫉妬したのだから、その束縛は想像を超えるものなのだろう。
そして、その全ての感情を受けているのは、この相葉なのだ。
「ニノが・・・怖い?」
「・・・それは違うよ」
「じゃあ、何でニノの言うことをそんなにまでして守ろうとするの?」
「にのが怖いんじゃないよ・・・。おれはね、にのを傷つけるのが怖いんだ」
「・・・どういうこと?」
「・・・・」
相葉は小栗の問いに少し戸惑った後、観念したかのように話し始めた。
「おれね・・・。おれ、ばかだから・・・いつもにのを怒らせる。いつも傷つけちゃうの。
でもね、ばかだから・・・いつも原因が分からないの。おれのせいで傷ついてるのは分かるのに、なんでなのかが分からないのね。
だから・・・おれはにのを傷つけたくないから、にのがダメって言うことは、絶対にしないの。
にのが嫌がることはしないって・・・そう、決めてるの」
二宮を思い出しているのだろうか。
その表情はとても穏やかで、一途な想いに満ちていた。
「・・・・だから俺からの連絡は拒否しろっていうのに応じたの?アドレスから俺の名前を消したのも、さっき俺から逃げようとしたのも、ニノが怒って・・・傷つくと思ったから?」
「・・・うん。ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる相葉に、小栗は苦笑した。
正直、2人が付き合ってるって言うことは聞いていたし、今更驚くこともない。
ただ、自分の知っている二宮はいつも冷静で、淡白な男だった。
だから二宮がこんなに人に執着するとは思ってなかったし、あんな子供みたいなことを言うのも意外だった。
『相葉さんは俺以外好きにはなんねぇんだよ、バ~~~カ!!!!!』
しかし、それは決して一方的なものではなく。
今目の前にいるこの人はそれら全てを解った上で、二宮を受け入れているようだ。
2人の想いを、繋がりの強さを見せられた気がした。
こりゃ、また随分と相思相愛な2人だな。
「相葉君は・・・ニノが本当に好きなんだね?」
「え?うん・・・」
再び顔を赤らめて恥ずかしそうに頷く相葉を見て、少し逡巡した後、小栗は深く息を吐いた。
そして相葉に気付かれないようにニヤリと笑う。
「相葉君と友達になりたかったのに残念だなぁ」
「え・・・、友達だよ?こうやって話してるし・・・」
「連絡取れないのに?」
「うっ・・・・でも、会ったら話せるし・・・」
「2人で会えないのに?」
「2人は無理だけど・・・でも・・・・でもさっ」
悲しそうに言う小栗に、再び焦り始めた相葉が可愛くて、思わず吹き出した。
「くははっ。ごめん、苛めすぎたかな?」
「おぐりくん?」
「冗談だよ。怒ってないし、こうやって会った時には話してくれるんだろ?今はそれで充分だよ。相葉君の反応が可愛いから思わずね?」
意地悪い笑みを浮かべる小栗をポカンと見つめた後、相葉は自分がからかわれてのだと気付き、頬を膨らませた。
「小栗君は、やっぱりにのの友達だね!意地悪なところはそっくりだもん!」
「ははっ。じゃあ、俺の事を好きになってくれる可能性があるって事?」
「もう、そういうトコほんとに似てる・・・」
恨めしそうに小栗を睨む相葉に、小栗は大きく笑った。
本当に可愛らしい人だな。
そう思いながら相葉を見ると、黒目がちな潤んだ瞳がじっと小栗を見つめていた。
「ん?何?」
「あ・・・うん。ね、小栗君て背高いよね。身長いくつ?」
「え?ああ、183くらいかな?」
「へー・・・おれが175だから・・・・そっかぁ。こんな感じなんだね!」
「?」
全く意味が分からなかったけれど、そう言って嬉しそうに笑った相葉は本当に綺麗で。
見惚れていた小栗は何も言えずにいた。
そんな小栗に更に近づくと、じっと見つめる。
「あ、あいばくん?ちょっと、近くない?」
あまりにもじっと見つめられて、小栗はうろたえた。
「ねぇ、ちょっとだけ良いかな?」
「な、何?うわっ!!」
突然相葉が抱きついてきたため小栗はバランスを崩しそうになるが、何とか受け止める。
「ちょ、どうしたの!?」
小栗の問いに答えず、首に回した手に力を込めた。
「くふふっ」
「相葉くん?」
しばらくそうした後、相葉は嬉しそうに笑いながら小栗から離れた。
「ふふっ・・・こんな感じ!くふっ」
「何なんだよ、一体。」
さっきまであんなにも警戒していたとは思えない行動に、唖然とするしかない小栗。
「なぁんでもない。あ、にのには秘密ね?」
そんな小栗を上目遣いに見つめながら、唇の前で人差し指を立て、悪戯っぽく微笑む。
相葉の仕草に小栗は眩暈にも似た感覚に陥る。
「意味分かんねぇ・・・」
「ふふっ。あっ、おれもう行かなきゃ!じゃあ、またね!」
「またがあんの?俺たち」
「もう!いじわる!」
「ははっ。あ、そうだ。俺、もうすぐ舞台なんだ。良かったら観に来てよ。ニノと一緒に」
「・・・・ありがと!じゃあね・・・あ!」
戻ろうとした相葉が、思い出したように立ち止まると小栗の元に戻ってきた。
「何?」
「あ、あのね?・・・・・・・」
相葉は、少し頬を赤くしながら小栗の耳元で小さく何事かを囁いた。
その言葉に小栗は絶句する。
「な、何言ってんの!?あるわけねぇよ!!」
「ほんと?」
「神に誓って!!」
「良かった!!じゃあね!」
小栗の答えに、相葉は心底嬉しそうに笑って手を振りながら去っていく。
その後ろ姿を見つめながら、小栗は笑みを漏らした。
本当に可愛くて楽しい人だな、彼は。
もっと話したいと思わせるし、話すともっと知りたいと思わせる。
困らせてみたくなるし、怒らせてみたくなる。
いろんな彼を見たくなる。
不思議なほど、人を魅了する。
彼と親しくなりたいと思う。
友達として付き合えるかは、俺次第って事だろ?
何か、楽しくなってきた。
先ほどまでの眠気も、疲れもぶっ飛んだ。
相葉君のおかげだな。
小栗は、相葉に感謝しつつ楽屋へと歩き出した。
*****
楽屋のドアの前に立ち、そのドアに掲げられている、中にいるだろう人物の名前を睨み付ける男が1人。
「・・・・」
しばらくそれを睨み付けていた男は、1つ息を吐くとドアをノックする。
返事を確認すると、無言で中へと入る。
「おっ!来たんだ、お疲れ!」
「・・・・どうも」
楽屋にいた小栗の元を訪れたのは、かなり不機嫌そうな二宮だった。
小栗の出演する舞台に招待され、楽屋を訪れたところだ。
「あれ、相葉君は?一緒じゃねぇの?」
「・・・・一緒のわけないでしょう。あの人も舞台中ですよ・・・。しかも今日が楽日なんだよ」
こんな日に招待とはやってくれんじゃん・・・と小栗を睨む。
「ははっ。わざとじゃねぇよ?」
「・・・わざとだったら、ただじゃおきませんよ」
「ご機嫌斜めだねぇ。相葉君が舞台で相手してくんないからかぁ?」
からかうように言う小栗を、冷たい空気で突き放す。
「余計なお世話です。俺の機嫌が悪いとしたら、それは相葉さんのせいじゃなくてお前のせいだよ」
「俺?何でだよ?」
「・・・この間、会ったんですって?相葉さんと」
「ああ、偶然ね。相葉君が言ったの?」
「・・・あの人隠すの下手ですから。何かあったらすぐに分かります。それに隠すことが得策でないことも分かってますから」
「ホント、相思相愛だねぇ。羨ましい限りだよ」
「・・・全くお前は。俺の忠告無視するなんて良い度胸だよ。でも、今度やったら本気で殺すよ?」
「お前、励ましに来たのかよ、それとも脅しに来たのか?」
そう言って笑う小栗に、あからさまなため息を吐いてみせた。
「分かってるよ。だから、ニノとおいでって誘ったんだろ?でもあんま縛ると、そのうち逃げ出すぜ?」
「・・・相葉さんは俺から逃げたりしねぇよ」
「すげぇ自信」
「・・・自信じゃねぇよ。確信だよ」
「はぁ・・・お前らって、すげぇな。何つーか、カタチは違えど想いは1つって感じ?」
「当たり前です」
しれっと答える二宮に、小栗は面白くないと口を尖らせた。
しかし、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべ二宮を見る。
「何ですか、その不気味な顔」
「失礼だな、お前。ふふ・・・実はさ・・・俺、この間さ、相葉君に抱きつかれちゃった」
「・・・・は?」
「『にのには秘密ね?』って可愛くお願いされちゃったよ」
「・・・・どういうことだよ?」
明らかに不快な表情を浮かべた二宮に、満足気な表情の小栗。
「事と次第によっちゃあ・・・お前、舞台降板だよ?」
穏やかではない声で、穏やかでない発言をする二宮に、小栗は肩を竦めた。
「まぁまぁ、んな怒んなって。俺にも何が何だかさっぱりなんだよ。急にさ、俺をじっと見つめてきて、身長いくつって聞いてきてさ」
「身長?」
「ああ。んで、答えたら『こんな感じなんだね』って嬉しそうにしてさ。そしたら急に抱きついてきたんだよ」
せっかくだから、抱きしめ返しといたと言う小栗を、絶対零度の視線で黙らせる。
「『こんな感じ』・・・・。旬君身長いくつ?」
「あ?183だけど・・・」
「・・・・はぁ、そういうことか。んふふ、相変わらずバカなんだから・・・」
「何だよ、何笑ってんの?」
「んふふ、相葉さんはやっぱり俺のものって事だよ」
いきなり上機嫌の二宮に、小栗はついていけずに眉をひそめた。
「どういうことだよ?」
「ふふ、さぁね?お前に教える義理はねぇよ。でもまぁ、相葉さんに触ったことは許してやる。言っとくけど、今度はないからね」
そう言った二宮が、今までに見たことない位に嬉しそうに笑うので、小栗はそれ以上問わなかった。
「あ、そういえば相葉君が言ってたんだけど。俺とお前は似てんだって、意地悪なところが」
「・・・心外ですね。俺はそんなに根性悪くないつもりですけど?」
「だろ?俺も、お前ほど性格歪んでねぇつもりだよ」
しばらくの沈黙の後、どちらからともなく笑いが漏れる。
「相変わらずだな、ニノは」
「旬君もね。そろそろ行くわ。ま、頑張って」
「おう!あ、そうだ。終わったら飯行こうぜ!どうせ相葉君も打ち上げだろ?」
「・・・まぁね。でも、お前の奢りだかんな!」
「何でだよ!俺が頑張ってんのに!!」
「俺の相葉さんに触ったんだから、それ相応の代償はいただかないとね。許すとは言ったけど、ただでとは言ってねぇし」
「・・・ホント、たいした男だよ。お前はさ」
呆れ顔でそう言った小栗に不敵な笑みを残して、二宮は楽屋を出ていった。
その姿を見送った小栗は1つため息を吐く。
「あー・・・全く、羨ましいね」
悔しいから二宮には言ってやらない。
あの日、別れ際に相葉が小栗の耳元で囁いた言葉。
「想いは1つか・・・・」
それを思い出し、小栗は楽しそうに笑った。
『あのね、おれから・・・にの、盗らないでね?』
*****
客席へ向かう廊下を歩きながら二宮は呟く。
「全く、あいつは・・・・」
可愛いこと、してくれんじゃん。
小栗と相葉の身長差。
相葉と二宮の身長差。
相葉が考えそうなこと。
全ては自分への想いがさせたことだ。
悪気はないだろう。
でも・・・・。
「帰ったら、お仕置きだな・・・」
口の端を持ち上げて、客席への扉をくぐった。
おわり
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