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小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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 まったくもって、ついてない。
 タクシーを飛ばしながら、相葉はもう何度目になるのか、時計を見ては髪を掻き毟る。漸く見えて来た目的地、直前の信号で引っ掛かり、ここでいいですと多めの額を突き出して釣りも貰わずに走り出した。
 煌々と灯りが点き、陽気なテーマソングが流れる店内で目当ての物を片っ端から手に持った籠に突っ込んで行く。レジに並ぶ間もそわそわと時計を確認し、買った物を全部袋に詰め込むと駆け足で店内を飛び出した。
 ここから家までは歩いて10分、走って5分。飛べたら1分なのになどと思いながら、全速力で夜道を走っていた。疲れ果てた身体にははっきり言って辛い。だけど、そんな事は言っていられない。恐らく二宮が帰って来るまでに残された時間は約2時間。あと、たった2時間しかないのだ。
 二宮の部屋に入るなり、ジャケットを脱ぎ捨てる。相葉にとって、最早1分1秒がこの上なく貴重だった。エプロンを着ける暇もなく、早速準備に取り掛かる。タクシーの中で必死でシミュレーションしていた。残された時間で出来る精一杯の事。とりあえず何をおいてもケーキだけは作らなければならない。
 眠気も完全に吹っ飛んでいた。忙しなく動きながら、時々時計を確認する。あと1時間、あと30分。残された時間が少なくなるのに反比例して、部屋の中には甘い香りが充満していた。
 白く泡立てた生クリームをデコレーションしながら、同時にちゃんとした食事の下拵えを進める。出来上がったケーキを冷蔵庫に入れて、食事も後は温めるだけ、時計を見ると残り1分。
 安堵の息を吐きながらソファに身体を投げ出した相葉は、一気に押し寄せた睡魔に負けて、目を閉じた。

 リビングに続く扉を開けると、ソファに突っ伏した形で相葉が寝ていた。少し驚きながら足を踏み入れた瞬間、漂う甘い匂いに鼻をひくつかせる。
 テーブルの上に並べられた皿、鍋の中のスープ、それだけではない匂いに冷蔵庫を開けると、後は焼くだけの状態のハンバーグと、白い生クリームのケーキ。透明のガラス製の蓋で覆われているそれは、きっと相葉の手作り。
 冷蔵庫を閉めて、ソファで死んだ様に眠っている相葉を覗き込んだ。ぱかりと開いた口から涎が垂れていて、その間抜けな顔に少し笑う。
少し逡巡して、二宮は相葉の顔が見える位置で、座り込んだ。
 相葉に会うのは久しぶりだ。と言っても、たかだか1週間位。一緒にいる時間が長過ぎて、1週間も離れていると酷く久しく会っていない様な感覚に陥る。
 時計を見れば、あと2分で0時になる。つまり、17日。この年になればちっともめでたいとも思わなくなった誕生日の為に、そこまでして。
「ばーか」
 小さく呟いて、頬を軽く突いた。目を覚まさないままにもごもごと口を動かして緩慢な動作で頬を擦る仕草に笑みが零れる。反応が面白くて、今度は鼻を摘んでみた。ふが、と間の抜けた声が漏れて、きゅっと眉間に皺が寄せられたかと思うと、ゆるりと目が開く。
 起きてしまったら、面白くない。少し残念に思いながら手を離すと、まだ眠そうな瞳がふらりと彷徨って。
 次の瞬間、相葉はがばりと勢い良く身体を起こした。
「い、いまっ!なんじっ?!」
「0時……3分くらいかな?」
 ちらりと時計を見て答えると、うわあ、と相葉は情けない声を上げた。それから狼狽え切った顔で二宮に向き直る。
「お、起こしてよぉっ!いつ帰ってたのっ!」
「5分位前?」
「あ~!その時だったら間に合ったのに~……」
 今にも泣きそうな顔をする相葉に、ふん、と鼻で笑ってみせる。数分の違いが何だって言うんだ。重要なのは、そんな事ではないと思うのに。
「あ、えと、でも、お誕生日おめでと!にの!」
 二宮の機嫌を損ねたと思ったのか、相葉は少し顔色を窺う様にして小さな声で呟いた。しかし二宮は別に怒っていた訳ではないので、ありがと、と返した。
 どうやら、相葉はそれで二宮の機嫌が悪い訳ではないと気付いたらしい。
「去年は仕事で会えなかったから、今年は、ちゃんと会って言えて、よかった」
 そう言って、相葉はふにゃっと笑った。
「あの、でもごめんねっ!お誕生日なのに、プレゼントを買う時間なくって」
 相葉は慌てて言葉を続けた。
「明日仕事ないよね?おれも休みだから、一緒に買いに行こ?何か欲しい物ある?」
 にこにこと笑顔で言われた言葉。二宮は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「お前」
「…………………は?」
 二宮の言葉に、相葉は1オクターブ高い声を上げた。ええと、と狼狽える様子が可笑しくて、二宮は笑う。
「お前が欲しい、って言った」
 視線を合わせながらはっきりと言うと、相葉は途端に頬を真っ赤に染め上げた。いや、でも、と訳の分からない事を言う口に人差し指を押し当てて、ずいと顔を近付ける。
「いや?」
 相葉が嫌と言うはずが無いのを承知で問い掛ける。案の定、相葉はぶんぶんと勢い良く首を横に振った。にやりと口元を歪めてみせて、決まりだね、と囁く。
「でも、にの、ご飯………」
「後は温めるだけなんだろ?後でいい」
 立ち上がって、未だに顔を赤くしている相葉を見下ろす。くい、と顎で寝室を指し示して、相葉の返事を待たずに寝室に足を向けた。

「…………っ、に、の………っ、も……っ」
 切羽詰った声で二宮の名を呼ぶ相葉に、銜えていたものから口を離す。息を荒げて二宮を見上げる相葉は涙目だ。こういう所が可愛いと思う自分も、相当この男にやられてると思った。
「………何か、おれもプレゼント貰っちゃった気分」
 身体を投げ出した二宮に、ぐったり荒い息のまま相葉が小さく呟いた。
枕に顔を半分埋めたまま横目で見遣って、あんないい声聞かせてもらっちゃったからいいんだよ、と返せば、途端に顔を真っ赤にさせる。
 疲れた身体に鞭打って、二宮の誕生日の為に奮闘した相葉。誕生日を迎える事自体に感慨はないけれど、これだけ想われているという事が、二宮の心を満たした。
 べたべたに甘やかすのも甘やかされるのも嫌いじゃない、だけどあまり一方的なのも好きじゃない。
「分かってないな、お前は」
 にやりと口元に笑みを浮かべると、相葉はきょとんとした顔をしていた。その中途半端に開かれた唇に自分のそれを押し当て、驚く相葉を尻目にベッドを下りる。
 思った事を正直に口にする相葉と、なかなか恥ずかしくてそれが上手くいかない二宮。それでも相葉に与えられる分、それ相当の対価を与えてやりたいと思う。
 分量の問題じゃない。恐らく、自分の性格だとかそんな物を考慮に入れれば、これでフィフティ・フィフティだ。
 依存だけの関係なんて、時間の無駄。互いに与え合って、ずっと対等な関係でいられればいい。相葉は寧ろ自分が与えられていると思っている様だが、それはそれでいいと思った。いつか気付いた時に、きっと凄く嬉しそうに笑うから。
 そんな事を言えば調子に乗るだろうから、言わないけれど。
「え?なにが?なにが?」
「腹減った。ケーキ食っちゃおうかな」
「え、だめだめ!先にご飯っ!」
 慌てた様にベッドから下りた相葉がわたわたと服を着るのをちらりと見遣って、キッチンに向かう。後を追いかけて来る相葉の気配を感じながら、二宮はひっそりと幸せそうな笑みを浮かべた。
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