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昔、にのに聞いたことがある。



『にのの一番大切なものってなに?』
『・・・さぁ?何でそんな事聞くの?』
『取材でさ、よく聞かれるでしょ?でもさ、おれ分かんないんだよね。自分にとって一番大切なものが、なんなのか』
『・・・そんなの、分かる人のが少ないんじゃない?』
『そうなの?』

『だって、今自分がそれを大切だと思っても、それ以上に大切なものだってあるかもしれないでしょ?それに、そばにあるときには案外分からないんじゃないかな?』
『・・・・よく分かんない』

『本当に大切なものは、きっと失くして初めて気づくんだよ』
『えー・・・そんなの寂しいじゃん!!』
『んふふ・・・そうだね。でも、失くしてみなきゃ分からないこともあるんだよ』



そう言ってにのは笑った。





一番大切なものって、失った時に初めて気づくんだ。



*****


「にぃの!今日、暇?ちょっとさ、付き合ってもらいたいところがあるんだけど!」


相葉は、楽屋のソファーでゲームに夢中な二宮に、後ろから抱きついて声をかける。
二宮は一瞬だけ、相葉をチラリと見るとすぐに画面に視線を戻した。



「えー・・・めんどくさい。帰りたい」


今日中に終わらせたいんだよ、これとゲーム機を掲げてみせる。


「もう!なんだよぉ、ゲームはいつだって出来るだろぉ。おれに付き合ってよ!ね?おねがい!!」
「えー・・・あんたに付き合うとろくな事ねぇもん」

なおも渋る二宮の前に回りこみ、相葉はゲーム機を取り上げた。

「あっ、ちょっと!!何すんの!」


返せよ酷いなと、相葉を睨む。


「ひどいのはお前だろ!なんだよ、ろくなことねぇって!!」
「だってホントの事だもん、しょうがないでしょ?あんたがお願いしてきて俺が得することなんてねぇじゃん、いつも」
「そ、そんなことねぇだろ!おまえ、薄情なヤツだな。友達が困ってんのに助けてくんねぇの?親友だろ、おれたち」

「・・・・・」


相葉の言葉に二宮は急に黙りこみ、相葉を見据えた。


「な、なに?」


急に真剣な表情に変わった二宮に相葉は戸惑う。


「・・・・べつに。で?何処に付き合えば良いの?」


しばらく相葉を見つめていた二宮だが、ひとつため息を吐くと相葉から視線を外し、承諾した。


「良いの?」
「・・・・しょうがないですからね。これ以上喚かれても迷惑だから。だから、返せよ」


そう言って相葉の手に取られていた「モノ質」を要求した。


「あ、うん。はい・・・って、おまえ、何気にひどいこと言ったろ!だから返しません!!」
「は?ふざけんなよ、返せって」

「やだ。おれもコレやりたい」
「ダメだよ、俺がやってんだから!」
「いいじゃん!にの、いつもやってんだから貸してよ」

「あんたこそ、人のもんばっかに頼らねぇで買えよ!」
「にのが持ってんのに、買ったらもったいないじゃん!」

「はぁ?意味分かんないんですけど」
「にののモノはおれのモノでしょ?」
「お前はジャイアンかよ!」

「それが友達だろ!」
「友達の基準がおかしいだろ!」
「なにがだよ?ジャイアンとスネ夫は友達じゃねぇか!」
「俺はスネ夫か!?」

「のび太がいいのかよ?」
「誰がそんなこと言ったよ!話がズレてんだよ」




「お前ら、うるせぇ!!いい加減にしねぇと追い出すぞっ!!」




ぎゃあぎゃあと喚き出した2人についに松本がキレた。
一瞬にして静かになった2人だが、すぐに騒ぎ出す。



「ほらぁ!にのがわがまま言うから、松潤に怒られたじゃん」



相葉が二宮の背中を押した。



「人のせいにすんなよ!あんたが意味不明なことばっか言うからだろうが!!」



二宮が相葉の頭を叩く。



「なにすんだよぉ、ばかにの!」
「うるせぇ、また怒られんだろうが。喚くな馬鹿」
「あ、ばかって言った方が、ばかなんだもんね!!」
「だったらお前が馬鹿だろ?先に行ったのお前だからな!」
「あーっ!うるさい、うるさい、うるさーい!!」
「お前が一番うるせぇよ!」




いつまでも続く言い合いに再び松本がキレて、2人が追い出されたのは言うまでもない。


*****


「もう疲れた。帰りたいんだけど」
「だめだよ、付き合ってくれるって言ったじゃん!」


騒ぎすぎて楽屋を追い出された後、遅れてやってきた櫻井に助けを求めて何とか楽屋に入れてもらい、仕事をこなした。


仕事よりも、松本の説教に二宮は疲れていた。
同じように怒られていた相葉はいたって元気に二宮の隣を歩いている。
そんな相葉を恨めしげに見ながら、二宮は先ほどからの疑問をぶつけた。



「で、何処に行くんです?まだ聞いてないんだけど」
「え?あ、うん・・・食事?」
「何で疑問系?」


急にしどろもどろになる相葉に、二宮は明らかな不審を覚える。
嫌な予感。


「まぁさ!着いてのお楽しみってことで・・・ね?」
「お楽しみねぇ・・・」


言葉を濁す相葉にますますの不審を募らせながら二宮は後をついて行く。


「あ、ここだ!」


相葉が入ろうとしたお店は、オシャレな感じのイタリアレストラン。
相葉が知っていたとは到底思えないようなところだ。


「何?ここ」
「なにって、レストラン」
「分かってるよ!何でこんなところに?」

「いいから、入ろうぜ!!」


そう言って相葉は、半ば強引に二宮を店へと引っ張りこんだ。



「・・・・・」


目の前にある光景に二宮は言葉すら出てこなかった。
テーブル越しに圧迫感にも似た視線が二宮へと向けられている。



店内に入った二宮を待っていたのは数名の女性陣。
見たことのある人物もチラホラいた。


相葉は何の躊躇もなくその群れの中に混じる。
お前は女かよ!と心の中で突っ込んだ。


このシチュエーションはまさしく・・・・。


合コン?


それにしては人数が偏っている。
男は二宮と相葉だけだった。
最早、相葉は彼女たちに同化していて男は二宮1人だけのようなものだったが。


「にのっってば!聞いてる?」
「は?ああ、何?」


あからさまに不機嫌な声が出た。
もちろんそれを隠すこともしない。
それを聞いた相葉が焦りの表情を浮かべたが気にしない。


自分の考えが正しければコレは明らかに・・・・。





「・・・・トイレ行ってくる・・・」
「え?ちょっ、にの?」


立ち上がった二宮は、相葉に目で合図する。


「あ・・・。お、おれもいく!」


相葉が慌てて立ち上がって彼女たちに断りを入れ、二宮に続いた。



相葉がトイレに入ると、壁にもたれて腕組みをしている二宮。
その表情はやはり怒っているようだ。



「・・・・どういうこと?」
「えっと・・・ですね。紹介して欲しいってせがまれて・・・・」



二宮の顔をチラチラ窺いながら小さい声で答える。



「・・・・・」



何も答えず相葉を睨み付ける二宮に、相葉は言葉を詰まらせながら説明を続けた。



「どうしても一度会ってみたいって言われてさ・・・・あの子、左から3番目の」


見たことない?可愛い子だったでしょ?
相葉の言葉にそこにいた彼女を思い出す。



確かに可愛らしい感じの子だった。
相葉が出ている番組で何回か見たことはある。



「・・・・はあ。俺がこういうの嫌いなの知ってんだろ?興味ねぇよ」
「で、でもさ、にの彼女いないだろ?」
「いないけど」
「好きな子・・・いるの?」

「・・・・・」

「あの子の話聞いてるとさ、すごいにののこと好きだって伝わってくるし・・・」



何も答えない二宮に相葉はなおも彼女の話をかぶせる。
相葉の言葉に、二宮の苛立ちは増すばかりだった。



「俺の・・・俺の何を知ってて、好きだって言うの?何にも知らねぇじゃん・・・」
「にの?」



二宮の呟きは小さく、相葉には届いていなかった。
二宮は深く息を吐き、相葉を見る。



「相葉さんはさ・・・・、あんたは俺にあの子と・・・どうなって欲しいわけ?」
「え?」


「付き合えば良いとか・・・思ってんの?」



二宮の真剣な顔に、相葉は何故だか恐怖にも似た感情を覚えた。



「に、の・・・?」
「・・・・まぁ、そんな事かなって思ってたけどさ。だから、あんたに付き合うとろくな事がないんだ・・・」



壁に凭れたまま天井を見上げ、自嘲気味に笑う二宮は、今までに見たことのない人のようで。
相葉はどう言って良いのか分からなくなる。


「にの・・・怒ってるの?」
「・・・別に。怒ってるわけじゃねぇよ・・・。ただ、ちょっと思い知らされた気分なだけ・・・。戻ろうか」



そう言って二宮は店内へと戻っていく。
その後ろ姿に、相葉は妙な不安を感じていた。



*****


「ちょっと、リーダー!それ俺の弁当だよ!何であんたが食ってんだよっ!!」
「お、そうかぁ?ここにあったから食って良いのかと思った」
「もう、良いよ!もう一個もらってくっから!」



楽屋には、相変わらずきゃいきゃいと、騒ぐ大野と二宮の姿。
相葉は、それをぼんやりと眺めていた。






あの日、トイレから戻った二宮は人が変わったように明るく話し始めた。
紹介した彼女とも、他のみんなとも。


相葉はその変貌ぶりに驚いたが、安心もした。


二宮が怒っていないことに。
彼女が嬉しそうなことにも、二宮が楽しそうにしていたことにも。
2人がいい感じになっていたことにも。



ただ、それを見て胸がチクリとした。
ザワザワと身体を妙な感覚が駆け巡る。


2人の仲良さそうな雰囲気を見るたびにそれはひどくなった。
気のせいだとやり過ごし、盛り上げ役に徹したが。



無事に食事会も終わり、二宮と帰っている時に相葉はお礼の言葉を述べた。



「別に。友達として、あんたの顔を潰すのも悪いから」



それだけ言うと相葉から視線を外してしまい、その後はひと言も話さなかった。
どこか棘のある言い方に、相葉もそれ以上話しかけることが出来なかった。




あの日から、二宮は特に変わらない。


変わらないんだけれど・・・。



相葉には違和感があった。
二宮の自分に対する態度だけが違うような気がする。
別に無視されているわけでもなく、いつもどおりに接してくれるが何かが違うのだ。


どこがって言われると言葉では上手く説明できないが、何となく線を引かれているような感じがしてならない。


「ほら、リーダー!!あんたも来いよっ。あんたが俺の弁当食ったんだから、あんたがもらいに行くのが筋だろ!」


そう言いながら、二宮はめんどくさがる大野を連れて楽屋を出て行った。


その様子を見ていた相葉は、2人が出て行ったドアに向かって大きなため息を吐いた。


「・・・飲み物でも買ってこようかな」



気分転換に飲み物でもと立ち上がった時、相葉の携帯にメールが届いた。
何気なく読んだその内容に相葉は愕然とする。



「・・・どういうこと?」



*****



二宮は大野の背中に凭れかかり、文句を連ねる。



「あんたのせいで、ハンバーグ弁当なくなっちゃったじゃん」
「ニノ重い、離れろよ」
「ヤダよ、罰としておぶってけ」


「・・・・・」


背中に張り付く二宮に、大野は無言だ。


「何?急に黙って」
「・・・・ニノさぁ、相葉ちゃんと何かあった?」
「・・・・何でですか?」
「んー・・・何となく。ニノの甘え方がおかしい」
「あんた、以外と鋭いね」
「おう、リーダーだからな!ケンカでもした?」



大野の背中から離れた二宮に先ほどまでのふざけた雰囲気がない事に、大野は事の重大さを感じていた。



「ケンカ・・・の方が、まだましかな?」
「ケンカじゃねぇんだ。ま、2人がケンカするところなんて見たことねぇしな。お前ら、ホントに仲良しだもんなぁ。大親友って感じで」


「・・・大親友ね」
「ニノ?」



大野の言葉に二宮が鼻で笑った。



「俺はさ、思ったことないんですよ・・・・」
「え?」


「相葉さんのこと、親友なんて思ったことねぇっつってんの」
「ニノ・・・・」
「そろそろさ・・・・限界なんだよね・・・友達でいるの」


「お前・・・・あっ・・・」



大野が何か言いかけたが、二宮の後ろを見て、まずいという顔をした。
二宮が振り返ったそこには。




「・・・あいばさん」



*****


何か、とんでもない事を聞いた気がする。


頭がついて行かない。



二宮は今、何と言った?



思い出すなと、頭が警鐘を鳴らす。



あれ、おれ・・・なんでここに来たんだっけ?



ああ、そうだ。
飲み物を買いに行こうとしたら、メールが来て。
その内容を読んで、二宮を探していたんだった。



で、二宮と大野を見つけて話しかけようとしたら・・・・。




ああ・・・思い出しちゃった。




『俺は・・・・相葉さんを親友なんて思ったことねぇっつってんの』



「なんだよそれ・・・・」



上手く声が出せない。
身体が震える。


二宮は相葉を真っ直ぐに見つめていた。
大野は隣で心配そうに2人を見比べている。



「リーダー・・・・先に楽屋、戻っててもらえます?」
「・・・おう。大丈夫か?」


「ええ・・・。相葉さん場所変え
ましょうか?」



二宮が相葉を促し歩き出す。



*****


誰も来ないだろう倉庫に身を滑り込ませ、対峙する2人。


しばらくの沈黙を破ったのは相葉だった。


「あ、あのさ・・・にの」
「・・・何ですか?」
「あの子と・・・会ってんだって?」
「・・・・・」


先ほど相葉に来たメールは、例の彼女からだった。
所謂、お礼のメール。


あれから何度か二宮と会っているという内容だった。
相葉は二宮から何も聞かされていなかった。

ショックだった。
それと同時に湧いてきたのは、怒りよりも悲しみに近かい感情。
それから、あの時と同じ妙な感じ。


胸がチクリとして、体中をザワザワとした感覚がして落ち着かない。
それを振り払うように相葉は笑った。



「何で言ってくんねぇの?水臭いじゃん!」
「別に、言うことでもないかと思って」



相葉に視線を合わせることなく答える二宮。
そんな二宮に、相葉は努めて明るく話しかける。


先ほどの言葉を否定して欲しかった。
聞き間違いだと思いたかった。



「な、なんでだよぉ・・・照れてんの?俺たち親友だろ?」
「・・・・って言ってんだろ」
「え・・・?」


「さっきの話聞いてたんだろ?俺は・・・・お前のこと親友なんて思ったことねぇよ」


二宮のはっきりとした言葉が聞えた。



「な・・・なんだよ、冗談でも、きついよそれ・・・やめてよ」



震える声で何とか返す相葉に、二宮は決定的な言葉を繰り返す。



「冗談じゃないよ。本当のことですから。俺は・・・・一度だってあんたに友情を感じたことなんてないですから・・・・」



相葉が目を見開く。



「相葉さんの期待を裏切って悪いですけど、コレが俺の真実なんです。もう限界なんだ。これ以上、友情ごっこには付き合えません。
彼女のことはすいません、言わなくて。ただ、別に付き合ってるわけじゃないですから」



そうなったらちゃんと報告しますよ。



「ね、ねぇ・・・じゃあさ、おれたちの関係って・・・なに?」
「・・・さぁ、同僚?」
「どうりょう・・・」



「・・・・何も変わらないですよ、今までと。少なくとも俺にとっては、今までもこれからも・・・・あんたが俺を親友だと思ってる限りは・・・」




何も変わらない。




二宮が何かを話しているが、相葉にはもう分からなかった。


視界が歪む。
目が熱い。



「・・・・もう、戻りましょうか。みんなが待ってますよ」
「・・・ごめん、さ、先に戻ってくれる・・・?」



「そうですか・・・じゃ、先に行きます」



二宮は今にも泣きそうな相葉をその場に残し、出て行った。



それと同時に相葉の頬を大粒の涙が流れた。



壁に背を預け、ズルズルと崩れ落ちる。



「うっ・・・・く、ふっ・・・・え・・・」



止めたいのに、止まらなかった。
涙ってどうやって止めるんだったっけ?




おれは嫌われてたんだ・・・・にのに。


いつから?
最初からか。


だって、友達と思ったことないって。
俺はただの同僚だって。



「うぇ・・・くっ、に・・・のぉ」



いつも泣きたい時には、にのがいた。
必ず隣にいて、いつも言ってくれた。




『泣きたきゃ泣けば良いんだよ。泣いた分だけ、その後に良いことがあるんだから』

『あんたはホント泣き虫だね。でも、俺が泣かない分あんたが泣いてくれれば良いんだよ』

『それ以上泣くと、不細工だぞ。不細工は嫌われるよ?』





次々に溢れ出てくる涙と、二宮の言葉。
どれにも励まされ、慰められた。




なのに、今は全部が痛い。
二宮のくれた言葉の、どれも自分を慰め、励ましてはくれなかった。



「ぶさいくじゃなくても・・・嫌われてるじゃん・・・・」



いくら二宮の言葉を思い出しても、二宮がいないんじゃ意味がない。
二宮の存在が自分をいつも支えてくれたのだから。
言葉じゃなくて、二宮自身が。




おれには、こんなにもにのが必要なのに。


にのは違うの?



おれは・・・こんなにもにのが好きなのに・・・・。



自分の考えに愕然とした。



すき?



ああ、おれ・・・にのが好きだったんだ。




本当は何となく分かってた。


にのが他の人と楽しくしてると胸が痛い。
身体の奥から変な感情が湧き上がる。


無性に不安になった。
にのを盗られるんじゃないかって。



でも、そんなのおかしいって分かってた。


にのはおれのものじゃない。
友達だって・・・・。
いつも心の中で思ってた。



間違えるな。
間違えるな。



にのはおれのものじゃない。



にのは友達。



そう思い込もうと必死になって。




彼女の頼みも引き受けた。
本当は嫌だったのに。
おれはにのが好きだったから。




やっと気付いたのに。
にのに嫌われて、気付くなんてあんまりだね。





「うぇ・・・・く、ふっ・・・・なくなっ・・・」




いたい、いたい。
胸が痛いよ。




何故だか急に、昔のことを思い出した。
昔にのが言ってた言葉。
ほんとだね。




次から次へと溢れ出る涙を相葉は止めることは出来なかった。






一番大切なものって、失った時に初めて気づくんだ。


*****




二宮は倉庫から出ると廊下に座り込み、天井を仰いだ。



「あーあ・・・」



やっちゃったな。




ずっと、ずっと相葉のことが好きだった。

出逢った時から何一つ変わらない自分の気持ち。

純粋に自分を慕ってくれる相葉に、いつも抑えきれない欲を抱え込んできた。



彼の無邪気な言葉はいつも胸に突き刺さる。




『にのは一番の親友だよ』
『おれたち、ずっと友達でいようね?』



その度に思い知らされた。
自分のこの気持ちは、届くことはないと。


それでも彼を傷つけたくないと、気持ちを押し殺してきた。
隣で彼が笑ってくれていることが、本当に嬉しかったから。
なろうと思った。



彼の理想の親友とやらに。



しかし、時が経つにつれ膨らんでいく感情はすでに押さえの効かないところまで来ていて。
そこに、あの出来事だ。



『紹介して欲しいって・・・』



頭を殴られたような衝撃。
自分の全てを否定されたようだった。



そして、俺は一番してはいけないことをしてしまった。
彼を傷つけた。



そうでもしないと、俺はもう立っていられなかったんだ。




彼の理想に、俺はなれなかった・・・・。



*****



数日後、相変わらず二宮の態度は変わらなかった。
あの時の事などなかったかのように、相葉とも接していた。
それこそ、あれは夢だったのではないかと思うくらいに。



その態度がまた、相葉を悲しくさせた。
少しでも気まずい雰囲気があれば、相手が意識していると分かるのに。
二宮の態度には、それすらも感じなかった。



自分の事など全く関心がないと言われているようで、胸が押しつぶされそうだった。





楽屋で大野と二宮のじゃれあいを見ているだけで、涙が出そうになる。
ついこの間まで、自分がいた場所。
もし自分が今、後ろから抱きついたら・・・彼はやっぱり以前と同じように接してくれるだろうか?


でも、今ではそれをする勇気すらない。


自分は嫌われているから。



思考が重くなっていくと同時に、目頭が熱くなる。


最近は、涙ばかりがよく出る。
気付かれないよう、そっと楽屋を出た。



*****



「ちょっと・・・・リーダー、何してんですか。ゲーム出来ないでしょ?」



ひとしきり大野とじゃれ合った後、ゲームをしようとした二宮だが、大野に止められ、二宮は眉根を寄せる。


大野はしばらく無言で二宮の様子を見た後、切り出した。



「・・・俺は、お前と相葉ちゃんが・・・どんな関係であろうと今までとは変わらないけど、ニノはそれで良いの?」



先ほど楽屋から相葉が出て行ったのは知っている。
いつだって、彼の行動は把握できるんだ。



大野はきっといろんな事に気付いているのだろう。
普段から何も言わないけど、敏感な人だから。



「俺にはこれ以上無理なんですよ・・・。相葉さんお願いできますか?」



きっと泣いてる。



「・・・それは俺の役目じゃねぇだろ?」
「・・・あんたも意地悪ですね。俺に行けって?」



今、彼を泣かせているのは俺なのに。


「泣き止ませられるのもお前だろ?俺が行っても何も変わらねぇもん。」
「・・・・酷なこと言うね。俺にまた彼のお守りをしろって?もう、限界なんだよ!」



二宮は声を荒げて、大野を睨み付けた。
そんな二宮を、大野は穏やかな表情のまま諭すように言う。



「別に、今のニノで良いんじゃねぇ?今のお前のままで、相葉ちゃんと話して来い」
「は?あんた言ってる意味分かってんの?俺が言ってること理解してんだろ?」

「分かってるよ。相葉ちゃんが好きだから、友達でいるのが辛いんだろ?」
「・・・・なら、俺が行ったらどうなるか分かるだろ?」



嵐崩壊の危機だぜ?



「・・・嵐はそんなことじゃ崩壊しねぇよ」
「すごい自信ですね・・・」
「おう!リーダーだからな!!」
「説得力ないですけど」
「うるせぇ!早く行けよ。リーダー命令。相葉ちゃん連れて帰って来い。それが出来なきゃ帰ってくるな!!」
「無茶言いますね・・・」




「ニノ。相葉ちゃんはお前の気持ち聞いて、引くような子か?そんな事お前が一番知ってるだろ?それに、このままじゃお前の心が可哀相だ」


「何ですか、それ・・・」
「そのままの意味だ。大丈夫!相葉ちゃんもお前も幸せになれるよ。
俺が保障してやる!お前の気持ちを言って来い!!そんで、相葉ちゃん連れてこい!!」



二宮の背中を押した。



「・・・・言っても、良いんですか?」



自分の気持ちを。



「おう!」
「・・・どうなっても知りませんよ?」
「おう!」
「何ともならなかった時は、責任取ってくれますか?」
「無理!!」



気持ちよく言い切った大野に、思わず笑ってしまった。
反面、気持ちがスッキリしている自分がいた。



「・・・・ははっ!あんたらしいや・・・・。何か、踏ん切りついた」
「そうか!じゃあ行け!!あ、翔君と松潤が来る頃にはちゃんと相葉ちゃん連れてこいよ?あと、帰ってきたときに相葉ちゃんが泣いてたら、楽屋に入れないからな!!」
「さっきから無茶ばっかですね・・・まぁ、行ってくるよ」
「おう!骨は拾ってやる!!」
「あんたね・・・でもサンキュ。やっぱあんたはリーダーだ」



そう言って笑って楽屋を出て行った二宮に、大野は満足気に頷いた。



*****



「うっう・・・・・くっ、はぁ・・・」


楽屋を出て、人が来ない部屋へとやって来た相葉は思う存分に涙を流す。


どれくらい時間が経ったのか、そろそろ戻らないとまずいだろうとは分かっているのに、相葉はその場から動けずにいた。



早く戻らないと・・・後から来る2人が到着したら、収録始まっちゃうよ。
みんな心配しちゃうよね。


みんなか・・・にのも心配してくれるのかな?
そんなわけないか・・・。



そう思ったら涙が止まらない。




「うぇ・・・にっ、のぉ・・・」
「何ですか?」


呟いた言葉に返事が返ってきた事に驚いて、声のした方を見上げた。



「に、にの・・・!?」
「はい」
「な、なんで・・・?」



ここにいるの?



「ここ、教えたの俺ですから。もう、こんなに泣いて可愛い顔が台無しだねって・・・・泣かせたのは俺ですね。すいません」



笑いながら、相葉の頬を流れる涙を拭った。


そう、この場所を教えてくれたのは二宮だった。
昔から泣き虫だった相葉が、人知れず泣ける場所として。



『ここだったら、誰も来ないから思いっきり泣けるよ。でも、泣きたい時はまず俺を呼ぶこと!』



そう言って二宮が教えてくれた。



「あっ・・・・」



しばらく二宮のなすがままだった相葉だが、突然二宮の腕を振り払って、逃げようとした。
二宮はそれを腕を掴んで制止する。



「逃げるなよ」
「は、離して・・・・おれ、やだっ!」



なおも逃げようとする相葉を、二宮は壁際に押し付けた。
動けなくなった相葉は抵抗をやめたが、二宮を見ようとはしない。
相葉は僅かに震えていた。



「相葉さん・・・」
「うぇっ・・・・、にのぉ・・・俺やだよぉ。にの・・・に嫌われたら・・・・」
「・・・相葉さん、聞いて?」



二宮が話そうとするが、相葉は耳をふさいで首を振る。



「お・・れを・・・きらいに、なら・・・ないでよぉ。に、の・・に嫌われたら・・・おれ・・・いきていけない・・・」
「相葉さん!」


「おれ、なんでもするよ・・・近づくなって、言うなら・・・ちかづかないし・・・話かけない・・・だから・・・だから・・・・」
「もう!黙れよっ!」



二宮の大声に相葉はビクッと肩を震わせ、黙り込んだ。
涙に濡れた瞳が揺れて、二宮を映す。


「・・・・ごめん。でも、違うんだ・・・違うんだよ相葉さん」
「に、の・・・?」



相葉が見た二宮は、とても辛そうな顔をしていた。
どうして二宮はこんなに辛そうなのか。

相葉は何も言えなくなる。



そんな相葉の頬を包み込み、愛おしそうに撫でた。



「相葉さん・・・ごめん。俺の身勝手で傷つけて。でも、違うんだ。俺はあんたの事、嫌いなわけじゃない・・・。」


相葉の頬を撫でる手を止め、目を合わせる。
ひとつ息を吐くと、自分の気持ちを口にした。


「俺は・・・・あなたが好きなんです」



相葉は大きく目を見開いた。
その瞳から一滴の涙が零れる。



「ごめん・・・・あんたが好きなんだ。ずっと一緒にいたかった。だから、頑張ったよ。あんたの親友になろうって・・・」



その雫をすくい取り、二宮は切なげに笑った。



「でも、やっぱり無理なんだ。友達になんてなれない・・・あんたに彼女を紹介されたとき、それを思い知らされたよ。もう限界だったんだ」



だから、あんなひどいことを言ってあんたを傷つけた。



好きで好きで、堪らないんだ。
ごめん。



謝り続けて俯いてしまった二宮の手に、相葉は自分の手を重ねた。




「にの・・・なんで、謝るの?」



重ねた手に力を込めた。



「あいばさん・・・?」
「なんで謝るの?おれ・・・こんなに嬉しいのに」



二宮の手に自分の頬を擦り付けた。


「うれし・・・い?」
「うん・・・だって、おれも・・・にのがすき・・・」


相葉の言葉に二宮が目を見開いた。



は?



「いま・・・何て?」


信じられない言葉に二宮は耳を疑った。
そんなはずがないと思っていた事。

しかし相葉は、はっきりと二宮を見つめて言った。



「おれも・・・にののことが、すき。友達じゃない、すきなんだ。今まで一生懸命友達だって思い込もうとしてたの。
でも、それでにのを傷つけちゃったんだね・・・ごめんなさい・・・」


「相葉さん・・・・ホントですか?それ・・・」


「うん・・・。おれ、やっぱりばかだね。だから、自分の気持ちにも気付かなかった。気付いたのはにののおかげ」


「俺の・・・?」



不思議そうな二宮にクスッと笑う。


「昔、にのが言ってたでしょ?一番大切なものって、失った時に初めて気づくんだ・・・って。おれはね、にのに友達じゃないって言われて・・・・嫌われたと思ったの。
そしたら、涙が止まらなくて。涙の止め方忘れちゃったみたいにさ。それで、いつも涙を止めてくれたのはにのだったなって。ああ、にのがいなきゃだめだって思った」



相葉は二宮の手を頬から離し、自分の胸へと持って行く。
自分の心臓の音を聞かせるように。



「にのが・・・必要だなって・・・すきだなって、気づいたの」



失って気づいた大切なひと。
相葉は二宮を見つめ、微笑んだ。



「相葉さん・・・俺は、あんたを抱きしめて・・・いいの?」


こんな醜い俺があんたに触れてもいい?
こんな俺を好きだって、言ってくれるの?



「うん・・・にの、だいすきだよ?」



言い終わらないうちに相葉は、二宮の腕に包まれた。
力強く抱きしめる腕に身を任せ、目を閉じる。




「くふふっ・・・」
「あいばさん?」



しばらく抱き合っていると、相葉が二宮の腕の中で笑い出した。
それを聞いた二宮が少し身体を離し、相葉の顔を覗き込む。



「ふふっ、なんか変な感じ。今までは感じなかったのに、なんか嬉しい」



心底嬉しそうな相葉に二宮も笑った。
そして、ふと真剣な表情に戻ると、相葉の顔を両手で包み込む。



「相葉さん・・・好きです。もう、あんたなしじゃいられない。一歩だって進めやしない。こんな俺と一緒にいてくれる?」


「にの・・・。うん、おれの方こそお願いだから・・・・もうおれから離れていかないで?もう・・・涙の止め方なんて考えたくないよ・・・大切なものはもう失いたくない」


「絶対に・・・離れません。俺にとって大切なものはいつだってあんただから・・・」



見つめ合い、自然に近づく2人の影。
神様じゃなくて、あなた自身に誓いのキスを。



やっと気づいた自分の気持ち。


やっと通じた2人の想い。



それを確かめるように何度も唇を重ね、強く強く抱き締めた。




そして2人で手を繋いで戻ってきた楽屋。
2人の顔を見た大野が、満足気に笑った。








おわり
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女性
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1982/05/16
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