小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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「」
桜上 水
あの、始まりの日の事を良く覚えている。
文字通り、僕の人生が始まった日。
ずっとずっと、僕の世界はモノクロで彩られていた。白と黒。味気ない場所で、唯消費され行く時間を見送っていたのだ。
どこにも行けなかった。世界の果ては、自分の知らない場所にあるらしい。
辿り着く為の努力さえせずに、朽ちて行く身体を待つばかり。
そんな自分の前に現れた人。
奇跡が起きたのだと思った。モノクロの世界は、極彩色に染め変えられる。
世界が開かれた。
何の面白みもない、音も色もない場所だったのに。
彼と出会った瞬間に全てが変わった。世界が色づいて、彼の存在を祝福している。
何度も目を擦った。何度も確かめた。
生まれ落ちた日から今日まで、色のなかった世界は鮮やかに輪郭を明確なものとする。
奇跡の瞬間だった。
出会ったあの日から、十年以上の月日が流れている。今も変わらず僕の傍にいてくれる人。
何度も離れようと思った。何度も近付こうと思った。
けれど、どこにも行けないまま二人は生温い距離で関係を保っている。
彼の優しさは変わらなかった。自分の愛情さえ、あの日から少しも褪せる事なく続いている。
愛しい人。
自分の世界を変えた人。
どこにも行かずに、自分の隣で笑ってくれる人。
彼が、欲しかった。彼だけに飢えている。
なあ、どこにも行かないで。
ここにいて。傍にいて。ずっとずっと。
自分の我儘は聞き入れられた。
世界を一瞬にして変えた彼の背中には、羽根が生えている。
自分の傍から飛び立つ為の。
+++++
嵐の楽屋は、いつどんな時でも穏やかな空気が流れている。これこそが、長い時間を掛けて得た信頼と絆の賜物だと、松本は思っていた。
「はよーございまーす」
「あ、まつもっさん。おはよう」
「おはよ。何、リーダー。また黒くなってない?」
「あー……うん。昨日も行ってきちった」
「程々にしとけよ」
「はーい」
大野は、日焼けをし過ぎると松本が怒るのを知っているから、ソファにずるずると滑り落ちながら釣り雑誌で顔を隠した。
ビジュアルを維持するのも、大切な仕事の一部だと思っている。嵐は見た目を気にしない人間が多過ぎた。
大野は言わずもがな、顔なんかよりも自分の趣味が大切な人だ。二宮は自分の容姿に無頓着だし、相葉はファッションセンスがあってスタイルも良い癖に日焼けも大好きだった。
やっぱり、常識人は櫻井だけらしい。彼は、自身に求められているビジュアルと言うものをきちんと認識している。
何だかんだと賢い人だった。時々、その賢さを覆す程馬鹿な事もするけれど。
ソファに沈んだ大野の頭を撫でてから、化粧台の前に自分の荷物を置いた。帽子も取ると、今日の流れを確認するべく構成表を取り出す。
五人一緒だと言う安心感は勿論あるけれど、仕事は仕事だった。一日の流れを把握しておかないと怖い。
まあ、自分は心配性なだけで、全員が全員共に緊張感は持っていた。そうしなければ、きちんとした仕事は出来ない。
構成表と資料を持って、時間を確認した。まだ準備するには早いだろう。大野の座っているのとは別のソファに腰を下ろした。
櫻井はイヤフォンを嵌めて音楽を聴きながら、PCに向かい何か調べものをしている。大野は釣り雑誌を抱えたまま眠ってしまったようだ。
二宮はまだ来ていなかった。入り時間にはまだ早いから良いだろう。
「まーつじゅん」
そして、畳の上で大人しく本を読んでいた相葉は、松本の存在に気付いて近寄って来た。元々、楽屋では静かな人だ。
放っておこうかと思ったけれど、何か話したい事があるのか松本の隣に座った。彼は自分とだけ、距離を置く。
ここに座っているのが大野や櫻井なら多分彼はべったりと寄り掛かって甘えるだろう。
寂しいと言う訳ではないけれど、彼の中で自分は甘える対象ではないらしい。勿論、それが嫌われていると言う訳ではなかった。
松本が年下のせいか、相葉の中には少しの遠慮がある。普段、何も考えずに甘えているように見える人だけれど、その実とても気を張って生きていた。
彼のルールに口を出すつもりはない。一つだけ不満があるとすれば、同い年の二宮にはべったりな癖に、自分にだけ距離を置くその不公平さにだろうか。
「おはよ、相葉ちゃん。何の本、読んでたの?」
十五センチの距離を置いて、相葉が見上げて来る。甘えられなくとも、彼からの信頼は絶大だった。
その気持ちを裏切らないでいたい、と言うのは松本の素直な感情だ。彼の信頼や愛情をいつでも受け止めたかった。
「うん、動物園のスタッフさんに勧めてもらったやつ。南極の話」
「そうなんだ。面白い?」
「……難しい」
「はは。そっか」
子供みたいな顔でむくれる。彼は周囲が思っている程馬鹿ではなかった。彼を知らない人間は、こうして本を読む事すら信じられないだろう。
損な人だな、と思うけれどこれ以上愛されても困るから、あえて進んで言いふらしたくはなかった。
相葉の相葉らしさは、嵐のメンバーが把握していれば良い。
「松潤」
「ん?」
「今、忙しい?」
「……どうした? 大丈夫だけど」
「それ、大丈夫?」
「大丈夫だって。時間あるから読んどこうと思っただけだし」
「ホントに?」
「うん。それに、こうやって中途半端に話終わられると、気になっちゃうから余計駄目。話して?」
「うん」
少しだけ納得のいかない顔で、相葉は頷く。話したい事があるのに、彼は自分よりも相手を優先した。
もう少し身勝手に生きれば良いのに、といつも思う。
「どうしたの? 何かあった?」
「うん、あのね。ニノと」
「うん。ニノと?」
「あー、と……」
「ん? 喧嘩でもした?」
「違う」
歯切れの悪い相葉の顔を覗き込む。言いにくい事なのだろう。いつもは真っ直ぐに見詰めて来る瞳を、相葉はわざと逸らした。
面倒臭いから、距離を縮めて彼の肩を抱く。自分にだけ話したいと言うのなら、潜めた声の方が良いだろう。
大野は寝ていた。櫻井はイヤフォンをしている。スタッフもまだ入る時間ではないし、とりあえず今この楽屋で相葉の話を聞いているのは自分だけだった。
「相葉ちゃん?」
「あのね、」
「うん」
「ニノと、一緒に住む事にした」
「……同棲?」
「ううん。同居」
「お前とニノだったら、同棲だろ」
「違うってば」
「まあ、良いけどね。いつから?」
「先週」
「ふうん。マンション?」
「うん。ニノが選んでくれた」
「あのものぐさは、ホントにお前の事だけマメだね」
「ものぐさじゃないもん」
「だから、お前にだけね」
膨れた顔をする相葉の頭を叩く。二宮の彼に対する態度は徹底していた。
何事も涼しい顔でこなし、逆風すら平気な顔で躱すのが二宮と言う男だ。
もしかしたらこいつに不可能はないんじゃないか、と思わせるような飄々とした態度で世の中を渡っているのに。
二宮の相葉にだけ見せる執着。
それは多分、出会った時から変わっていない。昔からずっと、二宮の世界の中心には相葉がいた。
一見、どこも合わないように見える二人。理知的で狡猾とさえ思えるような二宮の、柔らかい部分を支えているのが相葉の存在だった。
相葉がいなければ、二宮はとっくに自身の中にある繊細な優しさや弱さを失っていただろう。
時々、本人でさえ苦しそうな顔を見せるその執着。昔は、理解出来なかった。
相葉を唯一無二の存在にする、その価値観が分からないと思っていたけれど。
今はもう、彼の存在の貴重さを理解していた。二宮が二宮で在る為に、嵐が嵐で在る為に必要不可欠な人。
「ニノ、喜んだ?」
「……多分」
「喜んでるよ、絶対。相葉ちゃんと一緒にいる以上の幸せなんかないでしょ、あの人」
「そぉかなあ」
「そうだよ。相葉ちゃんは?」
「何?」
「嬉しい?」
「うん。嬉しい。帰ってね、ニノと一緒にいれなくてもニノが寝てたりすると凄く安心する」
「そっか、良かったね」
相葉の頭を撫でる。それに嬉しそうに笑った彼の表情は柔らかかった。
「あ」
「ん? なぁに?」
ふわふわと綴る相葉の言葉の響きが可愛い。いつの間にか、自分の中にも二宮の愛情が伝播しているらしかった。
相葉を可愛いと思う。愛しいと思う。
これが、メンバーとしての愛情の範疇なのかどうかはもう分からなかった。けれどとりあえずは、二宮や櫻井程の深さではないから良いだろう。
「俺、聞かなかった振りの方が良い?」
「え、何それ」
「だって、誰にも話してないだろ?」
「あ、そーゆー意味か」
疑問符を浮かべていた相葉が、にこりと笑う。たまに、綺麗な顔をしているんだなと感心する事があった。
内面の滲み出た穏やかな表情に絆される。
「大丈夫。ニノにも言ってあるし。松潤には言うよ、って」
「何で、俺?」
「だって、ずっと見ててくれてるじゃん。翔ちゃんとリーダーは、心配掛けちゃうから言いたくないし」
「あー、確かにね。翔君とかめちゃめちゃ反対しそうだもんなあ。苦労するぞーって」
「うん。俺もそう思う」
「リーダーも何だかんだで気にする人だからなあ」
「ね。リーダーに余計なもの、背負わせたくないの」
「それは、俺も賛成」
「だから、松潤にだけ。ごめんね」
「謝んなくて良いよ。てゆーか、報告してくれて嬉しい」
「ありがと。いっつも」
二宮と相葉の事は、付き合い始めた頃から知っている。もっと言えば、彼らがお互いを意識し始めた頃から、ずっと見て来た。
同じような愛情を抱いた事はないけれど、どちらの感情も尊いものだ。
「松潤は、いっつも何も言わないね」
「え」
「気、遣わせてる?」
「何が?」
「だって、俺ら男同士だよ? アイドルだよ? 同じグループだよ? 松潤だったら、絶対反対しそうじゃない?」
「まあなあ。その言葉の羅列だけだと、反対したいねえ。グループ内に余計なもの持ち込んで欲しくないし」
「ほらー」
「でもね、」
相葉は馬鹿なようで賢くて、そしてやっぱり馬鹿だった。とびきり気遣いの出来る、馬鹿。
「ニノと、相葉ちゃんでしょ」
「……え」
「俺がずっと見守って来たのは、あんた達なの。ニノがずっと苦しんでた事も、相葉ちゃんがずっと悩んでたのも知ってる。それでお互い距離が空いたり自暴自棄になったりした時期も見てる。ねえ、俺、ずっと見て来たんだよ? 分かる?」
二宮と相葉の異質な愛を、傍らでずっと見詰めて来た。それこそ、櫻井や大野と一緒になるよりも前から。
今更偏見を持つ事は難しかった。自分には、二宮と相葉の間にある恋でしかない。
「松潤は、優しいね」
「優しくねえよ。ウチのメンバーは特別なんだって。俺、今でもホモとか嫌いだもん」
「この間も、どっかのプロデューサーさんに誘われてたね」
「ホントだよ。どこをどう勘違いするんだか知らねえけど、俺はノーマルなの」
「うん、松潤はちゃんと常識人だもんねえ」
感心するように言われて苦笑する。もしかしたら、相葉は常識をきちんと分かっているんじゃないかなと思った。
彼の天真爛漫さは、生きて行く為の手段だ。そして、二宮を安心させる為の。
「まあでも、翔君程じゃないけどね」
「翔ちゃんは、がっちがちだかんなあ。時々常識なのか分かんない時あるもん」
「いやいや、それは常識の範囲内だと思うよ」
「えー、俺何で怒られてんのか分かんない時あるよ?」
「ああ、そっちね。違う違う。相葉ちゃんを怒るのって、相葉ちゃんが可愛いからだけだよ。大事な大事な相葉ちゃんに変な事して欲しくないだけでしょ、翔君は」
「良く分かんないよねえ、翔ちゃんって」
「お前にだけは言われたくないと思うぞ」
PCに向かっている表情は真剣そのものだ。彼の価値観は常識に拠っているものが多かった。
けれど、その中で納まらないものも多い。櫻井の天秤は、常識よりも愛情を重んじた。
「でもさ、翔ちゃんだってさ」
「……ああ。あの常識人があんな片思いに陥るとはねえ」
「ねー。モテモテなのに」
「まあ、よりどりみどりだと逆に大事なものが分かるんじゃないの?」
「お。松潤。今良い事言った!」
相葉が楽しそうに笑う。近くのソファで眠った大野は目覚めなかった。本当に寝ているのかどうか、分からない時もあるけれど。
聞いてはいけない話だと分かっていたら、本当に聞かない。信用出来る人だった。だから多分、本当に眠っているだろう。
「気持ち良さそうに寝ちゃって」
「ホント。こーゆーの人の気も知らないで、って言うんだよね」
相変わらず覚えたての言葉を使いたがる。子供と同じだ。
櫻井は気付かずに没頭していた。きっとまた、取材用の勉強なのだろう。
あんなに賢くてあんなに人当たりが良くて、勿論その分モテる人だった。彼にそっちのケがあると言う話は聞いた事がないから、やっぱり特別なのだろう。
グループ内には火種ばかりだ。
面倒臭い筈のそれに、けれど松本は緩く笑った。彼らの愛情はとても優しい。苦しんでも悩んでも、自分の愛情から逃げる事はしなかった。
「翔ちゃん、上手く行くと良いねー」
「俺は、翔君が動くとは思えないけど?」
「うーん。勿体ないなあ」
「相葉ちゃん」
「ん?」
「人の事は良いから、自分の事しっかりやんなさい」
「はーい。大丈夫。ニノと一緒なんだもん」
「それが、心配なんだろ。何か困った事あったら、まず俺に言えよ」
「うん。ありがと。松潤大好き!」
「はいはい。俺はニノに睨まれるから言わないよー」
「えー。何でー。ニノ、そんなに心狭くないって」
狭いだろ、十分。と言う言葉は辛うじて飲み込んだ。相葉の自覚がないのは、相変わらず凄いなと思う。
どこまで無自覚なのかは分からないけれど、二宮の束縛に耐えられるだけでも尊敬に値した。
「今日は、一緒にご飯食べる日なの」
「そっか。あんま実験的なもん作んなよ」
「へーき。ホットプレートで焼肉だから」
嬉しそうに楽しそうに相葉は笑った。幸せでいてくれれば、それで十分だ。
二宮も相葉も一緒にいて救われるのなら、それが一番だった。互いの不在は互いでしか補えない。
相葉は同居だと言い張るけれど、精神状態の安定を図る為に住むのであれば、やはり同棲と表現するのが相応しいだろう。
いつか、遊びに行ける位までになれば良い。一緒に生きる事で安定するのなら。
けれど、現実はなかなか上手く行かなかった。愛情故に傷付けてしまう。その傷で更に自身を傷付けてしまう。
松本は唯、見守るだけだ。
彼らの恋の成就を、いつまでも。
+++++
二宮と相葉が同居を始めて、一ヶ月か経った。大体は上手く行っていると思う。
余り意識して一緒にいないのが良いのかも知れない。二宮はマジックの営業に出掛けていたし、相葉も後輩や先輩、地元の友達と良く遊んでいた。
ゴミ出しと選択は当番制。食事は気が向いたら作る程度だ。相葉が創作料理を作っても、必ず二宮は全部食べてくれた。
その優しさが嬉しいと、相葉は思う。言葉にしない部分で、凄く優しい人だった。
他人には伝わりづらいけれど、こんなにも優しく甘やかしてくれる存在を他に知らない。
今日も、相葉は料理の真っ最中だった。仕事が詰まり始めている二宮の為に、冒険はせずにきっちりハンバーグを作る。
ただし、ハンバーグとキャベツの千切り、ご飯以外はないシンプルな食卓だった。松本だったら、栄養が偏ると怒るかも知れない。
「ただいまー」
「お帰り!」
「良い匂いする」
「うん、ハンバーグ作った!」
「何味?」
「しっつれーだな! ちゃんと普通のだよ」
「誰かに習った?」
「母ちゃん!」
「あ、じゃあ安心ですね」
「ニノの馬鹿!」
「ごめんごめん。嘘。凄く楽しみ。美味しそうだね」
毒を吐いたと思ったら、すぐに甘やかされる。この緩急自在な二宮の扱いに慣れてしまっている自分もいかがなものかと、相葉は思った。
思うだけで改善しようとは考えないけれど。
お互いの関係に居心地が良ければそれで良かった。二宮が傍にいる。安心した顔で笑う。
自分の人生の中でこれ以上の幸せはなかった。今までもこれからも、二宮の笑顔に適うものはない。
「ほら、先風呂入ってきちゃいなよ!」
「うん。相葉さんは?」
「俺は先に入った。ニノが入ってる間に、準備しとく」
「なぁんだ、残念。一緒に入りたかったな」
「ふふ。また今度ね」
相葉の背中にべったりと甘える二宮の頭を撫でると入っておいでと促した。
疲労なんて弱味は絶対に見せたがらないけれど、二宮は疲れているとこうして甘えたがる。可愛いな、と思って相葉は料理の仕上げに掛かった。
いつもは小食な二宮は、相葉の作ったハンバーグをぺろりと食べてしまう。少し焦げ過ぎていたから、抜群に上手いとは言えなかったけれど。
二宮は満足げに笑って、美味しかったよと言ってくれた。
「あ、洗い物手伝うよ」
「良いってば! ゆっくりしてなよ」
「何言ってるんですか。全然平気だよ?」
「駄目。あっち行ってて」
「良いじゃん。手伝いたいんだもん」
「むー。じゃあ、拭いてくれる?」
キッチンに並んで立つと、洗い上げた皿を二宮に渡して行く。こんな単純な作業でさえ楽しかった。
一緒に暮らして良かったなと思うのは、こんな時だ。一人きりでは寂しい時間があった。
一緒に同じ事をしていなくても構わない。唯、同じ部屋に二宮の気配があるだけで安心した。
洗い物を終えると、ソファに座ってテレビを見る。寝室は別々だった。一緒にいられるのは、このリビングだけだ。
相葉が同居と言い切るのは、ここに理由があった。昔は身体を重ねた事もあったけれど、今はもう二人の間にそう言う関係はない。
身体を繋げなくても、お互いを縛る方法を覚えた。相手を自分のものだと確認する為のセックスは、必要がない。
元々、負担の大き過ぎる行為だ。相葉の弱い身体では、何度も耐える事が出来なかった。
役割を交代しようか、と二宮が言ってくれた事もある。一番最初にした時のままだけど、別にどっちでも良いんだよ? と。
けれど、相葉には出来なかった。自分より小さな二宮に酷い事は出来ない。勿論、苦しいだけの行為ではなかったけれど。
十代の頃の苦しい気持ちを、互いの身体で補った。今は、その時期を過ぎている。
戯れにキスをする位だった。
多分、これからも一緒に暮らしていくだろう。二宮は自分のものだったし、自分は二宮のものだった。
でも、この家で暮らしながら、きっと他の人間を好きになるだろう。恋と言う意味で、自分じゃない人間を好きになる。
相葉は、そう信じていた。
「あ、ニノのCM」
「ああ、ホントですねえ」
「これ可愛くて好き」
ソファの背もたれではなく、お互いに体重を預けながら、うだうだとテレビを見る。何を放送しているのかも分からない。
隣の体温が心地良かった。緩く腕を絡めて、離れないようにと引き留める。
眠るまでの僅かな時間。手の届く範囲に、文庫本もトランプもあった。
一人の時間を手許に置きながら、二人きりの時間を楽しむ。安心する場所だった。
「相葉さん?」
「んー」
「寝るんなら、ベッド」
「やだ」
「ほとんど寝てるじゃない」
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