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小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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リアルちゃいるどまいんだー嵐の幸福なる日常



桜上 水





エピソードⅠ. 「この男に不可能はない!」



 最近少し調子がおかしいなとは思っていた。自分の身体なのに、自分の身体じゃないような、そんな違和感。
 大野は、いつも通りソファに寝そべりながら何気なく自分のお腹をさする。うーん、と唸って早い内に病院に行くべきかな、と考えた。
 風邪でも引いていたら、皆に移しかねないし。家を出る前に測ったら、高熱とまでは行かないが熱も出ていた。仕事が終わった後、マネージャーに病院に連れて行ってもらおうと決める。
 いつもなら、周囲に強く言われるまで行きたがらない大野が自発的に行こうと思っている時点で異常だった。けれどまだ、その異常性に気付く者はいない。

 「先生! 何て言いましたっ?」

 仕事が終わってから開いている所は少ない。事務所掛かり付けの病院に連れて来てくれたのは、マネージャーではなく櫻井だった。
 いつもの過保護ぶりで「今日車だから良いよ」と申し出たのだ。唯の風邪なら処方箋をもらっておしまいだった。
 なのに何故か、良く分からないまま全身を検診されて、神妙な顔で「既婚されていますか?」と訊かれる。残念ながら恋人はいるけれど、結婚は出来なかった。相手が櫻井じゃなくても大野の所属する事務所であれば既婚者が少ない事位医師は分かっている筈なのに。
 「いません」と答えれば、医師は何て事のない顔で「最近セックスをしたのはいつですか?」と訊いて来る。普段物怖じしない大野でもさすがに驚いた。
 正直に答える事も出来ず黙っていれば、医師はゆっくりと口を開く。言いにくそうに、眉間に皺を寄せて。その言葉と、待ちくたびれた櫻井が掛かり付けの病院であると言う気安さで、診察室の扉を声を掛けながら開けたのは同時だった。
 そして、前述の櫻井の叫びへと繋がる。
「あの、申し訳ありませんが、部外者の方は待っていて頂けませんか」
「部外者じゃありません!」
「いえ、幾らメンバーとは言いましてもご家族以外の方にはお話出来ませんので……」
「智君を孕ませたのは、俺以外あり得ません!」
「……っ!」
「あ、た、多分。ですけど。……智君? 俺以外としてないよね?」
「……しょーくん、今不安になるのはそこじゃないと思う」
「あ、そっか」
「で、ではお座り下さい。大野さんは、妊娠七週目です」
「ええと、確認したいんですけど、男も妊娠するんですか?」
「いえ、私はそう言った症例は聞いた事がありません。唯、妊娠しているのは間違いのない事です」
「智君は、ホントに何でも出来る人なんだなあ……」
「だから、翔君。話が違うと思う」
「勿論、産んでくれるよね?」
「……いや、だから」
 何で自分が、櫻井に常識的な話をしようとしているんだろう。いつも大野を諭すのは櫻井だった。
 先刻の叫びなんか無に帰して、既に嬉しそうな顔で笑っている。こいつ、やっぱり常識人の仮面を被った異端児だった。
 はあ、と溜息を吐くと大野は一瞬で覚悟を決める。迷っていても仕方なかった。これから生まれる諸問題は櫻井に丸投げしてやれ。
「僕が産む事は、可能なんですか?」
「宿っている以上、不可能ではないかと思います」
「じゃあ、産みます。……ウチの事務所に産休制度なんてねえよな」
「良いじゃん。智君が作っちゃえば! 嵐はパイオニアだしね!」
「……翔君、お前が父親になるんだから、事務所への説得とかファンの子への説明とか、全部任せたかんな」
「うん、任しといてよ! 俺達の子が産まれるのかー。すげえなー」
「あ、メンバーには一緒に話すから」
「勿論! あいつら喜んでくれるかな」
「……いや、そんなに簡単には行かないと思う」
 完璧に舞い上がっている櫻井にげんなりしながらも、自分のお腹を撫でる。産めるのかどうか分からないけれど、ここに命が宿っているのなら産むしかなかった。
 下ろすと言う選択肢が頭を掠めた事は誰にも言わないでおこう。
 医師と話すのは事務所の人間を連れて来てから、と決まった。何度も同じ話をするよりは、必要な人間を集めて一度で話してもらった方が早い。
 子供が産まれる事よりも、大野と櫻井が付き合っていた事の方が問題なんじゃないだろうか。思いつつも、嬉しそうな横顔を見て何も言えなくなってしまった。



 大野の妊娠が発覚してから三週間後。打ち合わせの名目で、事務所の会議室を借りた。これから三人に話をする。
 病院から事務所に戻ってからが大変だった。まずは「何でお前達が付き合っているんだ!」と言うところから始まり、「せめて避妊をする位の知恵はなかったのか」と怒られ(これについては余りにも理不尽だと思う)、下ろして欲しいと懇願される。
 まあ、当然の流れだなと思っていたら、櫻井が得意の理論武装ではなく情に訴えると言う方法で、切々と子供への思いを説いた。
 最終的に、ファンには伝えない事、産休の時期は次回個展への準備とし、本当にその時期が来るまでに作品を作り溜めておく事、嵐として活動をし続ける事を条件付けられて許可を得た。
 本当に産めるのか、と言う不安は尽きないけれど医師が手を尽くすと言ってくれたから何も考えないようにする。自分の胎内に子供がいる事が、怖くもあり嬉しくもあった。
 櫻井は、今までだって十分優しかったのに更に優しく守ってくれる。こいつの子じゃなかったら、もっと迷っていたかも知れない。思う度、自分の愛を自覚した。
 メンバーには自分達の口から説明したい、と事務所の人間にはしつこく言って、今日の場を作ったのだ。櫻井と大野が並んで座っていると、程なくして三人が入って来た。
「おはよー!」
「……あら、二人とも一緒だったんですか」
「最近ずっと一緒だよな」
「うん、まあな。座って」
「何? 今日は翔君仕切り?」
「うん。実は、報告したい事があって」
 大野の前から、相葉・二宮・松本と並んで座る。対面になると、しなくても良いのに櫻井は緊張した。
その表情の変化に、松本は眉を顰める。
「何か、良くない話?」
「いや、違う。俺としてはすっげー嬉しい話。でも、嵐にとっては面倒臭い話になる」
「どう言う事?」
「あーうん、その……」
 櫻井が困ったように言い淀んだ。体面を重んじる人だ。仕方ないと笑って、大野は口を開いた。
「おいら、妊娠してるんだ」

 それからたっぷり三十秒。会議室の空気は固まった。ぽかん、という表情がぴったりの三人を順番に眺めながら大野は小さく笑う。
「……おじさん、それはマジな話? 俺はあんたの分かりづらい冗談も大好きなんだけど」
「マジ。笑えねえだろ。俺が妊婦とかって」
「いや、あんただったらやりかねない、と思わせてくれる辺りがさすが大野智って言うか」
「リーダー。産むの、決めてるの?」
「うん。出来るかどうか分かんないけど。やってみる」
「あんたの身体に負担は?」
「分かんない。良く言うよね。陣痛の痛みは男には耐えれないって。とりあえず、お医者さんも頑張ってくれるみたいだし」
「今は? 体調悪かったりしない?」
「大丈夫。ありがとな」
 二宮と松本のそれぞれの反応に、大野は笑みを深くする。優しい人達だった。反対されないとは思っていたけれど、こうして全部包み込もうとする強さと優しさを持っている人達だった。
 櫻井もほっとしたように息を吐く。しょうがないヘタレの旦那様だ。
「ちょ! 相葉さん! 何泣いてんの!」
「……だ、ってぇー。リーダーと翔ちゃんに子供、出来たんだよー。うー、嬉しい、じゃんかー」
「相葉ちゃん」
「リーーーダーーー!おめでとーーーーー!」
 テーブル越しに腕を伸ばして抱き締められた。素直な素直な相葉。彼の愛情の深さを疑った事なんて一度もない。
 ぐしぐしと泣きながら、涙声でおめでとうを繰り返していた。その愛らしさに大野も嬉しくなる。喜び合っている二人を置いて、二宮と松本は櫻井に真剣な目を向けた。
「結婚、っつっても出来ないもんね。どうすんの?」
「ああ、養子縁組して俺が智君の子になろうかとも思ったんだけど」
「大野翔じゃ、何かカッコ悪いでしょ?」
 横から大野が口を挟む。確かに、「おーのしょー」ではインパクトに欠けるかも知れない。と言っても、発表しないのだから活動して行く上で問題はなかった。
「どうなったの?」
「俺の親父の養子に智君が入る事になった。だから、戸籍上では智君がシングルファザーになっちゃうんだよね。残念ながら」
「リーダーの両親は、それでも良いの? 一応、あんたの方が年上でしょ?」
「うん。全然平気。何かさー、翔君の母ちゃんが張り切ってくれて、家もリフォームするとか言い出してんの。何年か前にリフォームしたばっかなのになあ」
「そうだよね。智君はウチの子になるんだから、とか言っちゃってさ。でも智君の母ちゃんもノリノリだったよ」
「そうだなー。嬉しそうだったもん、母ちゃん」
「え、ちょっと待って。実家に住むの?」
「うん。だって、子育て二人じゃ出来ないもん」
「ウチも共働きだからずっとは面倒見れないだろうけど、手伝うって言ってくれるし。甘えとこうかなあって」
「あんたら、二人でマンション借りてるでしょうが」
「うん。産まれるまではそっちに住むけど、産まれたら引っ越す」
 二宮は突っ込むのにも疲れて、櫻井を見る。隣に座る松本もげんなりと言った表情だった。
 大野の現実離れした部分は致し方ないとしても、櫻井が完璧に浮かれている事が納得出来ない。諸々の不安は、当事者ではない二人でも容易に思い付いた。
 幸せなのは良い事だけれど、先が思い遣られる。こうして話してくれたのだから、今後は一緒に自分達も口出しすべきだろう。
「でさー、翔ちゃん」
 感激屋の相葉は泣き止んだようで、大野から離れるとわくわくと言った表情で問い掛けた。
「リーダーのパパに殴られたりした?」
「何だそれ……」
「松潤! 引かないでよ! だって、デキちゃった婚だよ? ウチの大事な息子を傷物にしやがって!とか怒られてもおかしくないじゃん」
「あら、そういえば」
「ニノ!」
 不適な笑みを浮かべながら、二宮は櫻井へ手を伸ばした。唇の脇、僅かだったけれど赤くなっている。
「殴られたよ……」
「でも、おいらんちじゃなくて、翔君の父ちゃんに」
「何それー!」
「大事な嵐のリーダー孕ませるとは何事だ!つって。超キレてたよ」
「うわー修羅場じゃん」
「見てみたかったですねえ」
「つーか、翔君のお父さんも論点違うだろ」
 怖そうな外見とは裏腹に、嵐の事を好きでいてくれる父親だった。全員面識があるから、その時の様子が明確に思い描けてしまう。
「リーダーの両親は? どうだった?」
「うーん、ウチはー。まず、母ちゃんが喜んだ。んで、父ちゃんも喜んだ。姉ちゃんも喜んだ」
「さすが大野家」
「でも、翔君と住むって言ったら、寂しいって言われたから、何かあったらすぐ『実家に帰ります』って言おうと思って」
「良いなー、リーダー。俺もそんな事言ってみたーい」
「あんたが言う日は来ませんよ」
「何で?」
「俺の傍離れて、どこ行くって言うのよ」
 櫻井と大野だけでも手一杯なのに、うっかり頬を赤く染めている相葉と優しく目を細める二宮まで加わって、ウザい事この上ない。部屋の中が物凄くピンク色だった。
 松本は、これから先が思い遣られる、と頭を抱えながら、それでも幸せだなあなんて思う。ウザいし鬱陶しいけど、愛すべき人達である事に変わりはなかった。
「なあ、リーダー」
「ん?」
「本当の本当に、出産してもリーダーの身体は大丈夫なんだな」
「うん。大丈夫。……な気がしてる」
「俺は、子供が生まれてリーダーがいなくなるなんて、絶対嫌だからな。リーダーがいなくなる可能性があるなら、祝福出来ない」
「まつもっさん……」
 前例のない事に平気で臨もうとする大野が嫌だった。何よりも誰よりもまず、自分の身体を大切にして欲しい。
「大丈夫。一人じゃないし」
「……そう、だよな。翔君いるしな」
「ううん、違う。皆がいるだろ。まつもっさんも相葉ちゃんもニノも。だから、おいらは大丈夫。まだお前らと一緒にいたいもん」
 誰よりも自分が一番不安な筈なのに、大野は綺麗に笑う。命を宿したせいだろうか。元々柔らかい表情が、もっと柔いものに変化した気がする。
「おいらね、我儘かも知んないけど。この子は翔君とおいらの子で、でも嵐の子にしたいって思ってんの。……迷惑?」
「そんな事、ある訳ないじゃん! 俺も一緒にお父さんやる!」
「俺も相葉さんに賛成です。ま、この人に父親は無理だけどね」
「――松潤は?」
「当たり前だろ。翔君だけじゃ、ロクな大人にならねえよ」
「おい! どーゆー意味だよ、それ!」
 結局、いつも通りの楽屋風景になってしまった。不安は絶えず大野の心臓にある。本当に命を育めるのか。出産に耐えられるのか。嵐を続けながら子育ては出来るのか。数え上げたらキリがなかった。
 でも。
 松本がいて相葉がいて二宮がいる。勿論、いつでも櫻井は傍にいるだろう。きっと大丈夫。何の根拠もなく、大野は思った。
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