忍者ブログ
小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
[36]  [31]  [30]  [28]  [26]  [25]  [24]  [23]  [20]  [19]  [16
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 貴方の事を愛しています。
 誰よりも。

 そう思った人間が、自分の前にどれ位いるのだろう。





 打ち上げは盛大に行われた。二ヶ月間八十一公演。終わってしまえばあっと言う間だったような気もするが、決して簡単な事ではない。
 今日まで頑張れたのは、ひとえに座長である光一が弱音一つ吐かずにカンパニーを引っ張ったからだろう。それぞれがそれぞれに頑張っていた。光一一人が舞台に立っている訳じゃないのに、彼ばかりを誉め讃えるのは可笑しいと外部の人間は言うだろう。
 けれど、カンパニーの人間はきちんと分かっていた。彼を持ち上げるのでも自分達を貶めるのでもなく、この八十一回の道程を支えたのは、黙々と働く背中だったのだと。
 だから、皆光一に優しい。誰よりも自身に厳しい人を、皆愛していた。
 打ち上げは、朝まで行われる予定だ。広い会場を貸し切って、スタッフも出演者も入り乱れて騒いでいた。酒が回れば笑い、カラオケで歌えば踊り、学生並みの食欲で食べては今日までの日々を互いに讃え合う。
 この二ヶ月の間、全ての出演者が千秋楽まで舞台に立ち続ける事を目標にして来た。途中何人も故障者は出たものの、最後は皆一緒に迎えられて本当に良かったと思う。スタッフも寝ずに過ごした夜が何度もある筈なのに、文句一つ言わず事故のないよう数えるのも嫌になる位の調整を行ってくれた。誰が欠けても出来ない舞台。此処にいられて良かった。皆が抱いた感想だろう。
「とぉまー、歌わへんのー?」
 ソファに座って、しみじみとこの二ヶ月間を振り返っていると、いきなり右側に衝撃が来た。何、と振り返るより先に舌足らずな声が誰なのかを教えてくれる。
「光一君?」
 綺麗に酔っ払った座長は、斗真の右腕に両手を絡めてふにゃりと崩れた。会場に入った時からおかしなテンションだったと思う。思う、と言うのは確信を持つより先にMAがフォローに回ったせいだ。彼らは、本気で座長の騎士を務めていた。
 上手い具合の距離を保っているグループなのに、こと光一に関しては密接な連係プレーでもってその周囲を固める。しかも、守られるのが嫌いな性格をきちんと把握した上で、絶対に嫌がらない一線と言うのを弁えていた。自分の事で一杯一杯になるのが普通なのに、あいつらは使命なのか趣味なのかいまいち分からない位置に立っている。
 だから、MAの手を離れた光一と言うものには慣れていなかった。この二ヶ月間、近いようで遠い場所にいたのだと実感する。彼らはこんな酔っぱらいを放って何処に行ってしまったのか。会場を見回すより先に、光一が動いた。
「なーあ、斗真ぁ。歌ってーカラオケ、やらへんの?」
 名前を呼んだまま動かずにいた斗真の視界を塞ぐように、顔を近付ける。目が悪いせいなのか、光一は他人との距離に鈍感なところがあった。男性でも女性でも、それは仕事仲間の距離じゃない、と言う位置まで平気で縮めて来る。下心があるのならまだしも、彼に限っては絶対になかった。なのに、皆その至近距離でやられてしまうのだ。
「いや、俺も歌ってますけど。今ちょっと、休憩中で……」
「休憩なんていらんやん。俺、斗真の歌聞きたいー。座長命令やー」
 完璧な絡み酒だった。何度か公演中も酒を飲みに行ったけれど、こんな光一は初めて見る。ぎゅっと抱き着かれた腕は、引く事も抱き寄せる事も出来ず為すがままだった。オンとオフの使い分けがきっちりしていて、しかも一旦箍が外れるとちょっと手に負えない人になるのも知っている。でも、こんなのは。
「光一君が歌って来たら良いじゃないですか」
「嫌や。俺歌下手やもん」
「ギネス記録持ってる人が、何言ってるんですか……」
「あれは、俺のやないもーん」
 唇を尖らせる様は、まるで子供だ。帝国劇場の神聖な舞台の上で、堂々と歌っていた人と同一人物とは思えなかった。間近に迫る顔にどきりとする。真っ直ぐに見詰められているから、迂闊に逸らす事も出来なかった。誰も助けてくれないと言う事は、皆それぞれ興じているのだろう。この状況を自分でどうにかしなければならないのか。
「とぉまー」
「はい?」
「とぉま」
「はい、何ですか?」
「お前、ええ子やなあ」
 声が甘く響いて泣きそうになる。酔っ払いの戯言なんか、適当に聞き流してしまえば良かった。出来ないのは、彼が普段から言葉の少ない事を知っているせいだ。唇から零れ落ちるものをきちんと掬ってやりたくなる。
「斗真」
「はいはい」
「歌って」
「だから、」
 その先の言葉を飲み込んでしまった。自分が歌わなくても、カラオケ設備はダンサーが占領している。会場内に響く音が聞こえていない訳じゃないだろうに。身体の右側が徐々に熱を持つ。べったりと懐いている人は、自覚なんてなかった。
 舞台の上で近付くのとは訳が違う。メイクを落とした素の顔が、何故こんなにも綺麗なのか。疲れて痩せてしまった顔を晒しているのに、繕った表情よりもずっと柔らかく見えた。洗い立ての髪は女性陣が羨む程さらさらで、重力に従って光一の輪郭を縁取っている。公演前よりも大分伸びてしまった髪は、彼の表情をより幼く見せた。香る石鹸の香りも、清潔なのにうっかり欲情してしまいそうになる。
 アルコールで火照った頬があどけなかった。色気よりも幼さが勝ってしまう不思議は、より彼を魅力的に見せる。とろりと水の膜を張ったような瞳に見詰められると、身じろぐ事さえ出来なかった。男だと分かっていても、惹かれてしまう。
「光ちゃん」
 見詰め合ったままの二人の間に入った声は、落ち着いていた。条件反射の動作で、光一が声の方を振り返る。その薄い肩に置かれた手が優しかった。彼らの距離は、こんなにも親密なのか。当たり前に受け止めなければならない事実に凹みそうになる自分に苦笑した。苦痛も苛立ちも共有して来たのだ。自分より長い時を過ごしてやっと得た信頼は、時間が掛かった分簡単には壊れなかった。
「よねはな?どぉしたん」
「どうしたもこうしたもないですよ。そんなに絡まれたら斗真も困るでしょ」
「絡んでへんもん」
「酔っ払ってるんですよ、自覚あります?」
「分かってる。でも、そんなに酔うてへん」
「光ちゃん」
 普段「光一君」ときちんと呼ぶ癖に、叱る素振りの声音は隠し切れない甘さが滲んでいる。可愛くて愛しくて仕方ないと、全身で訴えていた。自分が知っている米花は、こんな男じゃなかった筈だ。恋愛でも相手を大切にする誠実さはあるものの、いつでも冷静に状況を見る奴だった。こんな、全てを許して甘やかすような蕩けた目は見た事がない。
 上目遣いで怒られている光一は、それでも腕を解かずにしがみ付いたままだった。あの真っ直ぐな視線が離れてしまった事を少し寂しく思う。彼の黒い瞳に自分の顔が映っているのを確認すると、まるで世界中に二人しかいないような、光一には自分しかいないのだと勘違いしてしまいそうな危うさを持っていた。
「……全く、どれだけ飲んだんですか」
「まだ飲んでへんもん。これからもっと飲むんやもん」
「まあ、マネージャーさんの許可も降りてるから良いですけどね。もう少し飲み方ってもんがあると思いますよ」
「……飲み方?」
 首をことりと傾げて、悩んでいる仕草を見せる。実際ぐずぐずに溶けてしまった思考がその答えを見付けられるとは思わないけれど。身体を起こして、回していた腕が離れて行った。主導権は既に米花にある。追い掛けようがない右腕は、行き場をなくしてソファの上を彷徨った。
 明日も朝から仕事があると言うのは聞いている。ハメを外せない事は分かっていた。けれど、スケジュールを考えていたらこの人はハメを外せる瞬間がなくなってしまう。多分、ずっとそうして張り詰めた糸を身の内に抱えたまま大人になったのだろう。次の時間を考えて、常に輪の外にいるような人だった。
 今のマネージャーは聡い人なのかも知れない。全てを分かっていて、煩く注意しなかった。遠くで他のマネージャー達と飲んでいる彼は、決して光一から目を離す事はないけれど、口を出さない。どちらかと言えば、口煩いのはMAだった。
「……まあ、言っても分かんねえか」
「なん?」
「いや、こっちの話。辰巳が光一君と一緒に歌いたいんですって」
「そぉなん?」
「はい。何かキンキの曲一緒に歌ってくれますか?」
「んー、ええよ。辰巳の歌いたいやつ入れたってー」
「了解です。じゃ、行きましょ」
「ん」
 素直に頷いて、今度は米花の腕に縋って立ち上がる。そんなに身長は変わらない筈なのに、光一の華奢な印象は米花の態度と相俟って、完璧にお姫様の図だった。酔っ払いから救ってくれたのだと思うけれど、単純に他の人間に触れて欲しくなかっただけだったのだろう。振り返った笑顔が清々しい程で、正直過ぎた。
 米花も気を遣ってはいるものの、既にアルコールが回っているのだろう。飲めない彼の事だから、ほんの一口二口の話。乾杯の時に小さなグラスにビールを注いでいたのを見ている。自分の欲望に忠実なのは、少しだけその理性が崩れて来ている証拠だった。
「ま、良いけどね」
 テーブルの上に置いたままのグラスに口を付けて、一つ息を吐く。ステージの上では、辰巳が視線すら上げられずに光一と歌っていた。自分より若い彼に免疫がある筈もなく、迫られる至近距離に耐えられないようだ。彼らの冬の新曲は、甘い光一の声に良く似合うラヴソングだった。
 サビを聞いて当たり前だけど、キンキの歌なんだなあと思う。剛の声と光一の声が溶け合って、初めて完成された楽曲になるのだ。全然違う人が歌っていれば唯のカラオケ大会なのに、光一の声が入ってしまうから違和感を感じざるを得ない。辰巳が悪い訳ではなく、誰が歌っても同じだった。
 一人で生きる事を覚えて、一人のステージで歌う事も出来るのに、光一の声は静かな主張をする。剛以外の誰も混ざり合う事なく生きて行くのだと。相方以外の誰も必要としていない甘い声。君に会いたい、と小さく叫ぶ悲しい声。
 彼らの事をきちんと知っている訳ではない。勿論、本人達は何も言わなかったし周囲の人間もわざわざ口に出したりはしなかった。けれど、大体の事情は察する事が出来ていると思う。何よりも光一の表情が雄弁だった。メディアは不仲だ解散だと騒ぐけれど、二人の何を見ているのだろう。あんなにも、一途な瞳をするのに。
 ずきん、と心臓が痛んだ。ああ、駄目だなと思う。彼らを見ていて、他人事のように大変そうだと言えれば良かった。男だらけの事務所だからと言って、皆が皆同性を好きになる訳ではない。沢山の偏見は、事務所内にもある筈だった。アイドルと言う職業柄、決して公言出来ない事実。苦しい事の方が多いだろうに、それでも諦めないのはとてもシンプルな理論だ。光一の、彼を呼ぶ時の声。それに応える優しい眼差し。
 昔、帝劇の楽屋に遊びに来ているのを見た事があった。自分の職場でもないのに躊躇なく相方の部屋に入って、僅かな言葉を掛けて帰ってしまう。何なのだろうと思ったけれど。あれが労る事なのだと気付いたのは、いつだったか。そして、それに痛みを覚える心臓はいつ生まれたのか。
 ふと顔を上げると、ステージの上に光一の姿はなかった。またダンサーが賑やかに歌い始めている。会場を見渡して、小さな頭を探した。何処も彼処も楽しそうだ。充足感と達成感と、僅かの寂しさ。その姿を見付けるより先に、女性陣に捕まってステージの上に上げられてしまった。何でも良いから歌え、と言う横暴な要望に応じて適当にキンキの曲を入れてもらう。此処にいる人間は、多分大体知っている曲だった。他の面々も上がって来て、歌いたいんだか踊りたいんだか階下のフロアが気になるような騒がしさになる。
 歌いながら光一を探した。出演者はほとんどステージの上だ。酒を飲んでいるのは、スタッフの人間が多かった。改めて、こんなにもこの舞台に携わる人間がいたのかと思わされる。その全てを背負って立った人。右腕の熱が蘇る。幼い表情を知っている人は、この会場内にどれ位いるのだろう。舞台への情熱と裏腹な脆い表情。いたいけな黒い瞳は、補食される寸前の草食動物と同じ色だった。茶色の小さな頭を探す。
 いた。会場の片隅、照明の落とされた窓際のカーテンに隠れるように背中を丸めている。その手には携帯があった。右耳に押し当てて、少し俯きながら通話している。誰、と思う暇もなかった。ダウンライトの中でも表情は鮮明に見える。今自分のいる場所の喧噪と切り離された穏やかな微笑。思わず見蕩れた。先刻の邪気のない笑顔は可愛かったけれど、そんなのとは全然違う。酔っ払っているのに、あんなに危うい顔を見せたのに。
 胸が痛かった。キンキの曲を歌いながら、何て馬鹿なんだろうと思う。今更思いを自覚したって、どうにもならないのに。明日からあの劇場には行かなくなって、彼とも会う事はない。もしかしたら事務所やスタジオで会える機会があるかも知れないけれど、多忙な彼の事を考えると可能性は低かった。馬鹿だ、俺。
 電話の先は、考えなくても分かる。今日は仙台にいるのだと、MAの誰かが話していた。離れていても、離れる事のない人達だ。遠くで見ている限り、彼と一緒にいて幸福だとは思えなかった。なのに、光一は幸せそうに笑っている。携帯の向こうにいる人が大切だとその表情は明白に語っていた。
 悔しくて、視線を逸らす。俺はもう、明日から彼の世界からなくなってしまうのに。翼や亮と同じように、久しぶりに会えば他人行儀な顔をされるのだ。一瞬下を向いて、それからカラオケの画面に向き直った。歌って騒げば、痛くない。誰もこんな感傷には気付かない。ステージの上でテンションのおかしくなっている仲間に混ざって、馬鹿な自分を忘れようとした。



 もう歌えねえ、と呟いてステージの上を降りた。八十一と言う公演数は、全ての人間に負担を掛けた筈なのに今この瞬間だけは別らしい。明日起きれない程疲れても、最後の時間を皆で過ごすのだ。一応自分の役目は果たしたと、新しいグラスを手に座る場所を探した。適当な輪に入って、今までの事でも振り返って語ろう。ぐるりと見渡して、一人苦笑した。
 自分の目は、悲しい位正直にたった一人を探している。どうせ、明日には消える魔法だ。今だけは、一緒にいたかった。
 目的の人はすぐに見付かる。秋山の隣にいた。小さな頭を預けて、すやすやと眠っている。肩を貸した秋山は、気にする風でもなく黙ってサンドウィッチを食べていた。ことごとく酒の飲めない連中だと、もう一度笑う。
「おう、斗真。お疲れさん」
「もう歌い過ぎたよ。喉いてえ」
「いやいや、まだ行けるでしょ」
 適当な会話をしながら、光一の隣に座った。秋山が苦笑している。人一倍気遣いな彼の事だ。自分の感情の揺れなんてとっくにばれているのだろう。規則正しい寝息を立てて、全身を預けていた。けれど、その手には携帯が大事に握られている。普段、電源が切れていようがマナーモードになっていようが、全然気にしない人なのに。先刻の微笑を思い出す。
「駄目だよ」
「え」
「そんなに見詰めてたら」
 秋山は優しく笑った。この人も大概大物だ。感情に揺れがない分、底が知れないと言うか、心を許しているようできちんと冷静に観察出来る人だった。でも、根源的に優しいから嫌味じゃない。全幅の信頼を置かれているMAが羨ましくもあるけれど、こんなに預けられて動じないのは尊敬に値した。
「MAって凄いよね……」
 光一を見詰めて呟いただけの言葉を、正確に理解される。彼らだって自分と同じように、否一緒にいる時間が長い分それ以上に今胸の裡にあるのと同じ感情を抱えて苦しい思いをしているだろうに。米花の目線も優しかった。彼らは自分の感情を抑えて、誰よりも気高く孤高な王子様を守ろうとしている。
「うーん、凄い訳でもないんだよ」
「ずっと一緒だろ?俺だったら絶対おかしくなる」
「まあ、その論理で言ったらね。とっくに全員おかしくなってるんじゃないかな」
 暢気に笑う秋山は、己の熱情を決して表に出さなかった。どうしてだろうと思う。こんなに信頼されていて、すぐにでも傾いで来そうな距離にいるのに。
「おかしくなるまで我慢しなくたって良いんじゃね?奪っちゃえば良いのに」
「出来ないよ」
 即答される。間にいる光一は、微動だにしなかった。深い眠りに落ちているのだろう。アルコールに助けられて、押さえ込んだ疲労に抗えなくなってしまったのかも知れない。
「何で?」
「俺はむしろ、斗真にそう聞きたい位だけどね」
「へ?」
「だってさ、絶対好きになるタイプじゃないでしょ」
「まあ、そうだけど……。でも、」
「傍にいれば、ね」
「分かってんじゃん」
 そうだ。決して好きになるような人間じゃない。馬鹿がつく位真面目で、頑固な癖に不器用。人の顔色を伺っているかと思えば気分屋。大体、男は射程圏外だった。どうしてだろうと思う。どうしてこんなに好きなんだろう。
 普通に女の子が好きで、それはMAも変わらない訳で。けれど、ダンサーのミニスカートから覗く太腿より光一のうなじにどきりとする。抗いがたい欲だった。この人を手に入れてしまいたい。誰にも触らせたくなかった。もう、他人のものである彼を閉じ込めたいと願うなんて滑稽だ。
「不毛な恋だよなあ。絶対報われないのにさあ」
「まあね」
「でも、俺はともかく秋山だったら行けるんじゃねえの?こんなに大事にされてるんだからさ」
「うーん、今の斗真なら分かると思うけど。光一君が好きだなあと気付くでしょ。で、戸惑って俺ホモだったのかどうしようってなって。それが光一君限定なら仕方ないかって諦められるようになって、今度は大事にしよう見詰めていようって思うの。そしたら、すぐに分かったでしょ?」
「何が」
「その視線の先に誰がいるか」
 手の中にある携帯は、光一を此処から奪い去る力を持っていた。いつもいつも、彼が一番最初に選ぶのは彼で、最後に選ぶのもまた彼一人だ。悔しいとは思わないのだろうか。光一の一番近くにいる人間なのに。
「視線の、先」
「そう。斗真も光一君が気になり出してからだろ。剛君に気付いたの」
「まあ、そうだけど」
 秋山の言葉は他意なく零されるから居たたまれない。確かにその通りだった。光一を好きになって、その先に気付いたのだ。知らなければ、強引に奪い去る事も出来た。
「俺達は、ソロの仕事に付かせてもらう事が多いけど、キンキのバックにも付くからさ。そうすると、ああ俺達じゃ駄目なんだなあって思うよ」
「……光一君が剛君の事好きなのは分かる。でも、俺、光一君が幸せだとは思えない」
「うーん、そうかもね。光一君にだけ付いてたら分かんないかも」
 困ったように秋山は笑う。分からない事は悔しかった。明確な差がある。MAには簡単に分かる事でも、自分には全然分からなかった。だって、あの人は自分の好きな事追求して光一を置いていつか違う所に行ってしまう。一人になっても何も言わずに笑う人だとは知っているけれど。
「剛君は、周りが思ってるよりずっと、大事にしてるよ。それこそ壊れ物みたいに。触るのが怖いって感じ」
「そんなの」
 知らない。いつも身勝手な振る舞いをして、光一がフォローに回っているイメージしかなかった。事務所の枠の中に納まるのが嫌で、でも今の地位を捨てる事も出来ない臆病者。自分の目から見た堂本剛は卑怯な大人だった。そりゃ、ちょっと危険な感じでカッコ良いなと思ったことは何度もあるけれど。
「光一君には剛君しかいなくて、剛君にも光一君しかいないんだよ。普通に考えたら不幸な事だけど、二人はちゃんと幸せだから。何か一緒にいるの見ちゃうとさ、何処にも入る隙間ないの。完璧に閉じられた空間作られるんだよ」
 嬉しそうに話す秋山が強いのか、そう思わせるのが彼らの魅力なのか。光一は欲求の少ない人だった。与えられた仕事はきっちり期待以上のものを仕上げるけれど、能動的には動かない。そんな人が、この世界で唯一求めた存在。
「俺には分かんねーな」
「うん、分かんなくて良いと思うよ。てゆーか、そこまで見えてれば充分重傷の域だけどね」
「何で、今更なんだろ」
 気持ち良さそうに、と言うよりは全ての色を失って眠っている頬は白い。手を出す事は出来ずに、じっと見守った。男とか女とか、そんな次元を超えて皆堂本光一が好きなのだ。何度も共演しているのに、どうして此処まで来て気付いてしまったのか。どうせならずっと、こんな恋は気付かなければ良かった。
「今更じゃなくて、やっと光一君が見えるようになったんだよ」
「やっと?」
「そう、やっと。前はさ、うーん。あ、ほらさっきの辰巳みたいだったんだよ。きらきらしてて眩しくて、真っ直ぐになんて見れなかった。それが斗真も大人になって、この人の強がりとか脆さとか、そういうの見えるようになったんじゃない?」
 例えば、先刻冬の新曲を一緒に歌った時の光一の寂しそうな眼とか。気付いてしまう自分がいる。その分だけ距離が縮んだと言うのなら、何て残酷な事だろう。君に会いたい、なんて。こんなに賑やかな場所の中心にいるべき人が、此処にはいない人に思い馳せる悔しさをきっと光一は知らない。
 大人になんてなりたくなかった。永遠に光の中、手の届かない存在であった方が救われる。叶わない恋を心臓の奥にしまって、彼らはこの人の傍にいるのだ。
「あ、電話だ。ちょっとごめんね」
 光一に肩を貸しているから迂闊に動く事も出来ず、秋山はその場で電話に出る。ぼんやりと寝顔を見詰めながら、その声を聞いた。相手が彼女だったらからかってやろうと思ったのだが、どうやら違うらしい。先輩、かな。でも敬語と混ざり合った親しげな笑いが、電話の向こうを分からなくさせた。
「はい、そうです。今、打ち上げで……え、ああ。寝てます」
 一瞬視線を肩で眠る人に移して、その仕草で相手が誰なのかを悟る。堂本剛だった。秋山は、どちらもフォローをしているのだろう。器用な人だとは知っているけれど、気苦労が耐えないだろうと思った。望んで苦労を背負っている節のある性格だから、同情なんてしてやらない。
「だから、携帯持ってたんですね。珍しいなあって思ったから。はい、大丈夫です。剛君明日もライヴですよね?頑張って下さい。……じゃあ、お疲れ様でした。お休みなさい」
 速やかに会話は終わった。携帯を閉じて、秋山は優しく笑ってみせる。
「剛君」
「うん、分かるけど」
「何かね、メールの途中で返事がなくなったから心配になったんだって」
「ふーん」
「斗真、分かりやす過ぎ」
 大事にされている瞬間を目の当たりにして、平気でいられる人間がいるのなら教えて欲しい。あ、今目の前にいたか。こいつらはもう、常識の範囲を外れている。大事な人間を簡単に連れ去られても何も言わなかった。唯、穏やかに笑う。光一の幸いの為に。自分には出来ないけれど、もしかしたら一番正しい愛情の注ぎ方なのかも知れない。
「さて、俺も歌ってこよーかなあ」
「えっ」
「俺だって打ち上げだよ。光ちゃんのお守りに来た訳じゃないからね。後は、任した」
「あ、え!」
 手慣れた仕草で光一の首の後ろと腰に手を回して、その身体を離す。眠ったままの王子様は、目覚める気配すらなかった。そのまま斗真の膝の上に頭を乗せる。余りの出来事に、為す術がなかった。
「秋山!」
「あ、動かしたら駄目だよー。大事な座長の貴重な睡眠、邪魔したくないでしょ」
「邪魔、したくないですけど」
「うん。あ、それとこの人身体預けるの得意だからねー」
「は?」
 それは暗に、先刻の絡み酒の事を言っているのだろうか。助けに来なかった癖に、何処から見られていたのだろう。秋山の表情に嫉妬は見えない。
「野良猫ってさ、撫でてやると擦り寄って来て可愛いでしょ。でも、抱き上げようとしたら引っ掛かれた、なんて経験ない?きっとあんな感じだよ」
「光一君が野良猫って事?」
「せっかく例え話にしたんだから、その突っ込みは頂けないな」
「……何考えて」
「ま、役得役得。分かりやすい斗真君にゆっくり自問自答してもらおうと思って。町田に後でブランケット持って来てもらうから」
 何でそこで町田?マネージャーに頼めば良いだけの気がするんですけど。文句を言いたくても、膝の上の重みが身体を自由にさせてくれない。
 秋山は、人が良く見えるから騙されがちだけど狡猾な面を持っている人だった。しっかり牽制した癖に、その笑顔は狡い。頭の良い男だった。ひらりと手を振って、ステージの方へ行ってしまう。途中できちんと町田に声を掛けているのが見えた。そう言う問題ではないと言ってやりたい。
 膝の上に光一の頭がある状況と言うのは、どう考えても精神衛生上良くなかった。茶色い頭は、力が抜けている筈なのに余り重くない。脳味噌詰まってんのかな、と失礼な発想が頭を過ぎった。恐る恐る右手を伸ばす。
 触れた前髪がさらりと零れた。何度も触れた髪に今更動揺する事はない。舞台の上で倒れた光一を八十一回、抱き締めているのだから。
「……ん」
 光一の唇から吐息に近い声が漏れた。一瞬手を離して、それからゆっくりと自分の身体とは反対を向いた彼の顔を覗き込む。本当に綺麗な顔をしていた。表情を失うと、その美しさばかりが際立つ。笑顔を見せている時は、あどけないとすら思うのに、眠りに落ちている今は指先が凍る程だった。
 この感情は、明日になったら消えるのだろうか。魔法が解けたシンデレラのように、跡形もなく消えてしまえば良い。少しの恋情も心臓に残さないで欲しかった。
「光一」
 誰にも聞こえない音量で、愛しい人の名前を紡ぐ。その手にはまだしっかりと、携帯が握られていた。
「もう、剛君から連絡来ちゃいましたよ」
 手の中にある限り、彼らの間にある糸が見えている気がした。そっと手の甲に触れる。浮き出た筋を辿って、ひんやりした手を包み込んだ。
 舞台の上で手を握る時は、冷えた設定であってもさすがにその手は熱い。今は、元の温度を取り戻していた。トウマの熱が心臓に蘇る。あれは、架空のものだった。けれど、同じ名前で呼ばれている以上全てが虚構である筈はない。きっとこの気丈な人は、「あんなん俺やない」と笑うだろうけど。
 冷えた手に竦んで、それでも握り直したトウマの思いが此処にある。あの時、コウイチが幻影でも本物でも構わなかった。体温のない手をまだ握る事が出来るのなら。
「光一」
 トウマは、手の届かない場所に行って初めて自分の思いを自覚したのだ。何と罪深い恋だろう。握り締めた手。決して離さないと誓っても、すぐに消えて行く人。コウイチは笑っていた。運命も罪も全て飲み込んで、桜の下鮮やかに笑む。
 手に入れたかっただけの、幼い妄執だった。コウイチなら構わない。自分の感情が、愛でも憎悪でも大差なかった。いなくなるまで気付かない単純な執着は、生涯彼を苦しめる。あのストーリーの先にある残された彼らの人生は一体どんなものだろう。手を血に染めたトウマの罪は一生消える事もなく、贖う術もない。
 指先を辿った。桜色の爪を撫で、何処にも行かないでと願った。明日には、彼に触れる事すら出来ない。この恋は何処に捨てれば良いのだろう。
 稽古に入る前、繰り返し見た映像を思い出した。ツバサとリョウの舞台を研究して今回の役作りをしたのだ。彼らは、どんな感情を抱いてこの場所を去ったのか。次の年に同じ舞台に上がれないと言う事は、永遠のお別れと同じだった。桜の木の下にコウイチを置いて。
 ああ、馬鹿げている。自分も相当酔っているのかも知れない。舞台と現実の境目が付かなくなって来ていた。右手で手を重ね、左手で細い髪を梳く。この人を、手放したくなかった。
 翼は、もしかしたらこんな苦痛は持っていなかったのではないか。彼の演じたツバサはもっと純粋で、コウイチに追い付きたい一身で起こしたれっきとした事故だった。彼のひたむきな演技は、丁寧に構築されている。自分の胸にある、ドロドロとした感情は最初からなかった。兄のようにコウイチを慕い、決して追い越せない場所にいる彼に憧れ続けたツバサの罪は、一生ステージに立つ事によって償う事が出来る。倒れたコウイチを抱き締めた時の表情は、その決意を示していた。
 リョウの方が、自分の感情に近い場所にいる。けれど、多分自分よりずっと計画的な気がした。彼は、ちゃんと自分の恋を自覚している。最初から、手に入れる事だけを望んでいた。舞台の上できちんと昇華された思い。亮の目は本気を示していた。リョウがコウイチを手に入れようとしたのではなく、亮が光一を手に入れたかったのだ。舞台の上で、彼は永遠に愛する人を自分のものにした。冬の恋は、今もその胸を苦しめているのだろうか。それとも、一瞬も思い出す事なく今自分に与えられた仕事をこなしているのだろうか。
 愛しくて憎くて、大切な人を壊した自分とは違う亮の恋は成就していた。だとしたら、自分だけが一人永久に救われない恋に溺れたという事になる。舞台の上で丸こい指先を握る度に自覚した。自身の痛みを堪えて笑う人は、日が進むにつれ舞台の上と現実との差がつかなくなる。
 今は、もう同じ人だった。コウイチも光一も同じように愛しい。労る仕草で爪先から手首へと指を滑らせた。低い体温は、自分の熱情を促すばかりだ。
「とーま!」
 いきなり大声で呼ばれて、びくりと顔を上げた。膝の上の眠り姫を起こさないかと緊張したが、幸い彼の疲労はそんな生半可なものではないらしい。視線を向ければ、鬼の形相で町田が立っていた。
「ま……まちだ、さん?」
「斗真!手!」
「て?」
「手!どかせ!やらしい!」
 半分切れているらしい。目が据わっていた。穏やかな彼が珍しいとは思ったけれど、理由は明快過ぎる。そうですよね、見てましたよね。
「やらしいって、それは心外なんだけど」
「放っといたら、ジャージん中まで手入れる気だっただろ!」
「……入れないって」
「信用出来ない」
 この人もアルコールが回っているのだろう。皆最後だからって、自分の欲望に忠実過ぎやしないだろうか。動けない自分をよそに、町田は抱えて来たブランケットを丁寧に光一の肩へ掛けた。淡いブルーのそれは、楽屋でも見た記憶がある。
「これ、もしかしなくても光一君用?」
「そうだよ。光一君は、人の毛布とか使えないから。専用」
 否、潔癖がどうのと言う話ではなく、これが何処から出て来たのかを知りたい。町田が持っていたとは、死んでも思いたくなかった。そんなMAは嫌過ぎる。視線を光一に向けたまま、固い声音で真剣に注意をされた。
「手、出したら、絶対駄目だからね」
「出さねーって。光一君男だろ」
「……男とか女とか関係ないでしょ、この人」
 同意しては自分が意識しているのを認める事になるし、かと言って否定が出来る訳でもなく。黙った俺を町田が睨む。答えにくい質問寄越したのはそっちだろう、と詰りたくなった。俺は悪くない。不可抗力だ。
「光一君が、今日一緒にいたいのが斗真だってのは分かってるから、文句なんか言わないけどさ。この人、最後の最後で流されちゃうから、絶対変な事しないでよ」
 拗ねた顔を見せて名残惜しそうにブランケットを直すと、諦めた素振りで離れて行った。光一君が俺と一緒にいたい?聞き間違いか町田の勘違いか。この人が俺と一緒の時間を求めるなんてあり得ない。結局楽屋も一回しか来てくれなくて、この二ヶ月間で二人の距離が縮んだかと言われれば、答えは否だった。皆で彼の家に押し掛けた時も、二人になる瞬間なんてなかったし、強いて言えば稽古の瞬間に何度かあっただけだ。
 人見知りで不器用で、先輩なのに横暴にはなり切れなくて。人と打ち解ける為に馬鹿みたいに時間の掛かる人だった。だから、町田の言葉は本当なのかも知れないと、恋に溺れた心臓は期待する。どんな思いであれ、自分に気を留めてくれた事が嬉しかった。この仕事をしていなければ、絶対に惹かれる事のない自分とは違う種類の人。彼の仕事に対する姿勢や真面目さは、相容れない人間ならば嫌うものだ。
 だけど、自分は此処にいる。彼を望んで、この舞台を終わらせようとしていた。膝の上で眠る光一。考えたら、一生に一度の出来事かも知れない。無防備に身体を預けるなんて、本当に役得だった。
「光一君、一緒にいたいんだったら、ちゃんと言ってくれなくちゃ」
 夢の中にいる彼に届くよう耳元で囁く。吐息ごと吹き込んだ。夜が明けるまで、この人は自分の元にいる。太陽が昇って、二度とこの腕の中に戻って来なくても今この瞬間は、彼が望んで此処にいた。
 トウマは、永遠に苦しみ続けるだろう。今更の恋を抱えて、懺悔と後悔の狭間で舞台に立ち続ける。けれど、自分は。この夜に悲しみを捨てて行く。
 そっと、唇を柔らかな頬に触れさせた。体温がじんわりと染み渡る。彼は生き続けるのだ。悲しい事は何処にもなかった。大丈夫。償いも永遠も手に入れられないけれど。光の中の世界と現実を混同しては駄目だ。
 光一君が好きです。コウイチを愛していました。ゆっくりと桜色の唇に自身のそれを近付ける。
「さっき、町田さんに注意されてなかった?」
 まさに恋と決別をしようとした瞬間、新たな邪魔が入った。お前らは、俺が道を踏み外しても良いって言うのかよ!いまいち説得力に欠ける事を思いながら顔を上げると、目の前に立つのは多分正気の屋良だ。他の三人は酔っ払っていたけれど、こいつの目は冷静だった。素面で注意して来る辺りが、怖いところではある。
「何でMAは全員でこうなんだよ……」
「責任持ってやってるからね」
「ノーギャラだろ」
「仕事の内」
 きっぱり言い切る屋良は、昔こんな奴ではなかった。もっと向こう見ずで自己顕示欲が強くて、眠る光一を見詰めて満ち足りた微笑を作るような、社会に従順な性格ではない。MAと光一を見ていると、世話をしてるのはMAなのに目覚ましい成長を遂げているのはいつもMAだった。光一はずっと変わらない。何処にいても誰といても。
「別に、町田が注意したような事するつもりないし」
「今キスしようとしてた奴の弁解とは思えないね」
「弁解じゃねーよ」
「ま、光一君も頓着ない人だから、キス位平気だと思うけど。平気じゃない奴多いから、ウチのグループ」
 てゆーか、全員だろ!と言いたいのを堪える。最後の接触で、自覚した恋を断ち切るつもりだった。悪い芽は早めに摘んだ方が良いんだろ?此処で一回キスさせた方が、絶対後々面倒臭くならない。既に何処へ向けた言い訳なのか分からなくなってしまった言葉は、唯の悪態に過ぎなかった。
「じゃあ、俺の傍から離せば良いじゃん」
「光一君の意見は最大限尊重するのが、俺らのやり方」
「ほんっとに、すげーな。感心するわ……」
 半分は嫌味で半分は本心だ。打ち上げの席で自分本位に楽しまない奴らの気が知れなかった。けれど、それだけの信頼関係が相互で築かれているのだから、文句は言えない。
「斗真の邪魔する訳じゃねえけど、手なんか出しても泣くだけだしやめといた方が良いよ」
「……分かってる」
 叶えようだなんてしていない。お別れの為に、それだけを考えて触れたかった。もう二度と触れられないかも知れないのだから。
「今日は打ち上げなんだから、それ忘れんなよ」
「ああ」
「後で、また歌おうな」
 それだけを告げて、町田と同じ仕草で離れて行った。彼らには、まだこれからがある。決別を意識する必要はなかった。この二ヶ月の記憶が濃密な程、離れがたいのだと思い知る。唇が触れた頬を掌で包み込んだ。さらりとした感触。汗のない光一は、どこもかしこもするりとした印象を与える。
 俺は、この場所を離れて忘れられるのかな。もしかしたら、捨てる事も認める事も出来ず、ずっと心臓に棲んでいるのかも知れない。息を一つ吐いて、それでも良いかと思った。初恋の思いがいつまでも記憶にあるように、この二ヶ月が育んだ思いを留めて生きて行く事も出来る気がした。
 無理を無理とせず、出来ると言い張る無鉄砲な座長のように。叶う事のない恋を疲労と共に身体に染み込ませてしまえば良い。小さく笑った。会場の喧噪は、隔離された二人を包み込む。



 光一は、終わらない夢だった。
 幕が閉じても尚、夢を見せてくれる。

 誰が見ていようと構わず口付けた。桜色の唇は、甘い恋の味。
PR
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
最新記事
最新TB
プロフィール
HN:
年齢:
42
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/05/16
職業:
派遣社員
趣味:
剛光
バーコード
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.