忍者ブログ
小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
[56]  [55]  [54]  [53]  [52]  [51]  [50]  [49]  [44]  [40]  [39
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 自分に残された最後の選択だと思った。

正しい道を選ばなければならない。間違った感情を抱えて生きているのだから、それ以外は全て真っ当なものを選びたかった。
 どうにもならない恋を抱いて生きる。一生付き合う覚悟すら出来ていた。捨てられない。忘れる事すら出来ない。心臓にある醜い欲求は、いつまでも己を蝕んで腐って行った。
 こんな忌々しい感情を向けているのは、唯一のパートナー。仕事をして行く上で必要不可欠な人だった。禁忌の恋だと知っている。
 俺は、幼い頃からずっと剛だけが好きだった。相方である彼に恋をした醜悪な自分。生きて行く上での優先順位は、決まっている。
 剛の幸福こそが自分の幸福だった。それは、忌むべき恋情を向けている彼へのせめてもの罪滅ぼしだ。
 この恋を消す事は出来ない。でも、こんな心を向けられている剛に申し訳ないと言う気持ちも強かった。
 だから、彼が幸福になれるだろう道をいつでも選択して来たつもりだ。勿論、彼の事だけが全てではなかったけれど、優先されるべき理由である事は間違いなかった。
 十周年を前にして、自分の為すべき事は唯一つ。剛を解放する事だった。
 事務所にその事を切り出したのは、半年以上前の去年の暮れの事だ。二人のソロライブが終わるのと前後してだった。切り出すタイミングをずっと窺っていたのだ。
 ソロ活動は何の問題もなく成功し、数字の意味でも事務所には満足の行くものだった。切り出すのに最適の時期だったと思う。
 もう長い事一人でいる事に慣らされていた。二人でいると、周囲の人間に「何かあるの」と聞かれる始末。キンキキッズと言うグループがあるのに、一人でいる事が当たり前だった。
 二人でいる意味はあるのだろうか。キンキキッズである意味は何なのだろう。剛がその事で悩んでいるのも知っていた。
 アイドルである事、二人で在る事、活動もしていないのにグループ名が一人の活動にも付いて回る事。自分には負担にならない事でも、剛の音楽活動には支障を来す程。
 単純に可哀相だと思った。必要のないものを抱えて行くのは、苦痛でしかない。
 事務所の決断は早かった。自分が提示したのは、二つの要望だ。一つ目の「解散」についてはすぐに返答があった。もう一つの自分に関する要望は、保留と言われ結論が出るのに時間が掛かった。これについては、ほんの一ヶ月前に許可されたのだ。
 剛は、二十五枚目のシングルが出た今もまだ知らない。早くに知らせる必要はなかった。
 事務所が出したシナリオは、年が明けて十周年の終わりと共に解散をすると言うものだ。なるべくこの一年も二人の活動を抑え、十周年についても静かに過ごして準備をして行く。
 年末のコンサートに解散と銘打って、自分の誕生日を最終公演にする予定だった。来年の一月一日を以て、キンキキッズは解散する。
 剛を解放しようと決めた。次の彼の誕生日を祝ってやる事は出来ない。
 考え込みやすい性格を考慮して、事務所は十周年に当たる七月を越えてから打ち明ける事を決めていた。それで良いと思う。シナリオは用意された。剛が知っていても知らなくても、歯車は動き出したのだ。
 彼が怖がらなければ良いと思った。臆病な人だから、一人になって新しい環境にすぐに適応出来るかどうか不安だった。
 そう思ってすぐ、もう平気なのだと僅かな奢りを否定する。今は信頼出来るバンドメンバーがいるのだから安心だった。自分がいる必要性は何処にもない。
 昔はあんなに傍にいたのに。どうにもならない感傷は、心臓を浸食してゆっくりと腐らせて行った。
 今は、剛の事を何も知らない。好きで好きで死にそうになる位の恋を抱えていても、彼に関するデータは少なくなる一方だった。手を伸ばせば届く所にいた人が、こんなにも遠い。
 離れる事を望んだのは自分だった。いつ、自分のこの汚い気持ちがばれてしまうか不安で。彼の眼は残酷な程真実を見抜いてしまうから。
 怖かった。あの黒い瞳に侮蔑の色が浮かぶ様を想像して、泣きそうになる。気付かれたくなかった。
 彼から別離を言い渡されたら、きっと生きて行けない。
 自分の本音が何処にあるのか分からなかった。結局はエゴなのかも知れない。剛の為と言いながら、自分の弱い心を守る為の。
 そう考えると悲しくなった。彼の為の選択なのだと、自信を持って言いたい。きちんとしなければ、これから起こるだろう様々な対応に自分は耐えられなくなってしまう。
 解散を剛のせいにするつもりはなかった。それに付随して起こる世間やマスコミの言葉は、自分が全て受けると決めている。相方を傷付けさせる気はなかった。





+++++





 彼らが何を言っているのかが分からない、と言うのが剛の本音だった。話が見えない。突飛過ぎる。
 解散?何を言っているのだろう。十周年をやっと迎えたところで、年末のコンサートはそれを軸に構成して行くのではないだろうか。
 思っても、声は出せなかった。事務所の人間が話しているのは、決定事項だ。自分が何かを言う隙はなかった。
 つい先日、デビュー十周年のお祝いをしたばかりなのに。あの時、光一はいつも通りだったように思う。思考が追い付かなかった。彼らは、何を言っているのだ。
 事務所の会議室で話されると、何もかも無機質な事に思えて嫌だった。普段は表情豊かなマネージャーさえ、無機物に思える。
 剛は困惑した。もう全てが動き出している。自分の事なのに、止める術はなかった。
 何で、急に。本来前向きに動いて行くこの時期に、何故。大体、自分達のスケジュールと言うのは、一年先まで決まっているのだ。急追決められる事ではなかった。
 だとすれば、いつから動き出していた?
「光一は、もう知ってるんですか」
「そうだね」
 チーフマネージャーは、抑揚なく答える。彼が知っていて自分が知らない事は、今までも多かった。けれど、今回の話に関しては平等に開示されるべきだ。
「なら、何でもっと前に!」
 此処で怒ろうが喚こうが事態が変わらない事など分かっていた。分かっていて、剛は叫ぶ。
 もう手遅れだった。プロジェクトとして始まったものを止める力はない。手渡された資料には、「解散」までのスケジュールが記されていた。決められた人生のシナリオ。
 自分の生き方すら決められないこの仕事が嫌いだった。思うように生きられない。事務所に生かされている気さえした。
 淡々と今後のスケジュールが説明される。年が明けて、光一の誕生日と共に解散。それ以降はソロとして活動をして行く。音楽の仕事を中心に、と言うのは配慮なのかどうかすら分からなかった。
 確かに、自分は音楽だけで生きて行きたい。けれど。
「どうせ分かる事だから、先に話しておく」
「はい」
「光一は、独立するよ」
「え、どう言う……」
「まあ、完璧に個人の事務所を構える訳じゃない。あいつに経営のハウツーはないし、社長も手放したくはないからね。事務所の全面バックアップの形でなら、って事で話はついてる」
 光一が要望したもう一つの案件だ。剛の動きやすさを考えると、一緒の事務所にいる事は出来ないと判断した。どうしようかと考えて、結局社長の手に決断を委ねていたのだ。
 手放さないでいてもらえるのはありがたいと、光一は思っていた。まだ商品価値があると言う事だ。剛の知り得ない話だった。
 チーフマネージャーを始め、キンキに付いていたスタッフが何名か移動する事になる。剛に付く人間が手薄にならないようにするからと、マネージャーは言った。独立する事で掛かるリスクはなるべく少なくしたい、と。
 剛は、ますます分からなくなった。解散だけでも自分の許容範囲を超えているのに、相方が独立するなんて。考えもつかない事だ。あの、事務所の申し子のような人間が、どうして。
「何で、其処まで……」
「全部、光一の意志だよ」
「光一の?」
「そう。解散も独立も、あいつが望んで事務所が動いたんだ」
「……俺が、好き勝手やってるから?」
「違う。……いや、ある意味そうなのかも知れない。少なくとも、僕達は光一の考えを聞いてそれが互いの為になると思った」
 此処最近の光一の姿を辿っても、何処にも変化は見られなかった。「解散」と言う重い計画を隠している素振りは一切見えなかったのだ。
 お前にとって、キンキキッズは一体何やったんや。こんな簡単に、俺の隣にいても平静を保てる程のものでしかなかったのか。
 彼が壊す事だけはないと思っていた。いつかキンキがなくなる時が来たら、それは絶対に自分が原因だと。
 俯いて、唇を噛んだ。悔しい。何も気付かなかった。一緒にいる時間が少ないからではない。
 俺が、光一を見ていないせいだった。あいつを見る事は、随分前にやめてしまったのだ。自分とは違う彼の生き方を見ていると苦しくなる。
 相容れない存在だった。だから、隣に立つ人を遠ざけて生きる事を覚えたのだ。そのツケが回って来たのだろうか。
「剛。お前、ずっと動きにくかっただろ。これで楽になるな」
 マネージャーが優しく笑う。彼の言っている事は正しかった。動きやすくなる。しがらみがなくなって、自分の事だけで生きて行けば良いのだ。
 光一と生きる事は義務だった。其処から解放される。だからと言って、単純に喜べる事ではなかった。
 彼は何を思ったのだろう。何を考えて何を見据えて、「解散」に辿り着いたのか。
 知りたいと思った。ずっと隣にいるのが当たり前で見向きもしなかった相方を、こんな時になって思うだなんて。





「光一と話したい」
 事務所を出て車に乗り込んでから、すぐにマネージャーに言った。バックミラー越しに困った瞳を向けられる。
「言うと思ったよ。……でも、今更何を?」
「今更なのは、そっちやろ。俺は今更なんかやない」
「そうだったな。ごめん」
「ええんや。事務所の動きに気付かんかった俺も悪い」
「それはしょうがないよ。剛に気付かれないように動いていたんだから」
 マネージャーの言葉に眉を顰めた。彼らが何を考えているのか、ますます分からない。
「意味分からん。俺の事やんか」
「光一の希望だったんだよ。全て用意出来てから話す事。あんまり早くに話すと、きっと悩むだろうからって」
 先刻から気に入らない。何でもかんでも主語に「光一」と付いていた。彼の意思で事務所が動き過ぎている気がする。
 タレントの言い分なんて聞いてくれない事が多いのに。マネージャーも事務所の人間も光一の意に沿う形で話を進めていた。
「俺も二人で話す事は、必要だと思う。でも、剛自身が正義感の為だけに何かを言おうとするなら、やめておいた方が良い」
「正義感なんて、そんなんやない」
「じゃあ、剛は何を思って光一と話す?光一に何を話したい?」
「分からん。でも、このまんまじゃあかん」
「そう言うのを正義感って言うんだよ」
 マネージャーは、時々子供に向けるような笑顔を向ける。諭し方を考えている、親みたいな表情だった。そんなものを向けられる程、自分は幼くない。
 どちらかと言えば、光一にこそ相応しい表情だった。彼は時々、不安になる位成長していない部分がある。
「剛の中に何もないのに、とりあえずで話し合いをするのは良くないと思う。剛にとっても、光一にとっても」
「ん。それは、分かる」
「場を設けるんなら、いつでも調整するから。今は、その書類読んでこれからの事考えて。もし出来るなら、二人の事も考えてみて。その時に光一と話したい事がちゃんと見えたら、俺達に言って欲しい」
「分かった」
「話し合いは必要だよ。でも、必要なものにする為には、良く考えた方が良い。まだ、話を聞いただけなんだから」
 解散したいのかしたくないのか。怒りたいのか泣きたいのか。分からなかった。
 今は唯、「解散」の事実を受け止めるのに精一杯だ。自分の心を正確に見極める力はなかった。
 今此処にあるこの感情が、自分の全てだとは思いたくない。
 言い渡された時、確かに自分の心には安堵があった。一人になれる。開放される。張り詰めていた糸が緩んだ感触。
 もう、光一と二人で生きなくて良い。
 運命を分けた相手だった筈なのに、いつの間にこんな気持ちが芽生えていたのだろう。デビューして十年、二人でと言う意味でなら十五年以上一緒にいる人だった。家族の縁を切るような痛みがある。
 安堵だけではなかった。ちゃんと痛む心臓が此処にあって、離れる事に疑問を抱く自分がいる。
 光一は、「解散」を見据えていた。俺の隣で、俺と離れる事を考えて一緒にいたのだ。自分にとっては裏切りですらあった。
 彼が結論を出したのは、一体いつのことなのか。その変化を見抜けなかった事が悔しい。





+++++





 仕事で会う時に、と思ってもなかなか一緒になる事はなかった。もしかしたら、解散を控えて調節されているのかも知れない。
 今思えば、十周年と言う区切りの時期だったのに二人でいる事は少なかった。キンキと平行してずっとソロ活動も続けていたのだ。
 二人の番組は一つだけになっていて、新曲の時期でなければ月に一、二回顔を合わせる程度で済んでいた。会わなくても仕事が出来ると言う事実に今更ながら胸が痛む。
 二人きりのグループなのに、一緒にいる事が特別になっていた。いつの間にこんなに一人で生きるようになっていたのか。
 マネージャーに事前に話して、収録の後近くのホテルを用意してもらった。時間に追われずに話したら良いと、チーフマネージャーは言ってくれる。
 彼と言葉を交わせるのは、後どれ位だろう。終わりを見始めている自分に愕然として、それでも話し合おうと思った。
 二人の事なのだから、例え現実が変わらないとしてもちゃんと向き合いたい。彼の口から真実が聞きたかった。
 事実ばかりが耳に入って、肝心の彼の心は何も分からないままだ。お前は何を考えて、解散に踏み込んだ?
 スタジオに入る前に、背後から呼び止められる。振り返ると長年お世話になっている大先輩、吉田健がいた。
 この番組は解散と共に終わる。残りの収録も簡単に数えられるまでになった。終わりは近い。風が冷たくなって行く度に、「解散」を意識した。
 季節は、秋の終わりだ。来年の自分がどうなっているかなんて、少しも分からなかった。
「お疲れ様です」
「お疲れ。元気か」
「はい」
「大丈夫そうだな。安心したよ」
 吉田の瞳は、どんな時も真っ直ぐ向けられる。音楽だけで生きて来たせいだろうか。言葉よりも他の感触に敏感な人だった。彼には嘘を吐いてもすぐばれてしまう。
「二人のコンサートに参加出来るのも、今回が最後なんだな」
「……急な事ですいません」
「いや、急でもないだろ。一年、までは行かなくても去年の終わり位だもんな、決まったの」
「……え」
 落ち着いた吉田の言葉は、剛にとって衝撃だった。去年の終わり?自分が話を聞いたのは、ほんの二、三週間前の話だ。
「光一が珍しく一緒に飲みたいって言うから、何かあるんだろうとは思ったんだけどさ。行ったら解散の話だもんなあ」
 解散は、全て光一の手で用意されたものだ。彼が切り出して、そのレールの上を俺は歩いている。では、いつから用意されていたレールなのだろう。
 事務所の人間ではない吉田に話せると言う事は、年末には決まっていたのだ。十周年なんて、解散の為でしかない。
 光一は、解散を決めながら「十年一緒にいられて良かった」と笑っていたと言う事だ。何を求めているのか分からない。あんな風に笑う人が、どうして。
 嘘吐き、と罵ってやりたかった。
「剛は、音楽を続けるのか」
「……はい。そのつもりです。最近はもう、音楽しかやりたくなかったから」
「そうか」
 吉田は悲しそうに目を細める。労わる表情だった。
「光一がお前の為に棄てるものだ。大事にしろよ」
「どう言う、意味ですか」
「……やっぱり、聞いてないのか」
「はい」
「解散してからの条件の一つだよ。光一は音楽の仕事をしない。二人の接点を少しでもなくす為だって」
 解散に付随する細かな事は書類で渡されていたけれど、きちんと目を通していない。その後を考えられる程、現状を受け止められていないせいだった。
 何処までの取り決めがなされているのか。事務所を出る光一の方が条件が多いのは分かる。
商品価値の高い人だから、相当揉めたんだろう。事務所の人間は、今でも彼を引き留めようとした。

 けれど、それではまるで。
 全て自分の為に用意されたシナリオではないか。





 日付を越える手前で、やっと収録が終わった。疲れていない訳ではないけれど、必要な話し合いだ。少なくとも、自分にとっては。
 光一が見えない。傍にいる時間は少なくなっても、長い年月を一緒に過ごして来たから、全てを分かっているつもりだった。
 「解散」なんて言葉を聞いて、初めて二人の距離を思い知るなんて。俺はもうずっと、隣に立つ人を見ていない。
 支度を済ませて楽屋で一人待っていると、隣が騒がしくなった。一緒だった楽屋は、解散の話を聞いてから別々にされている。一人になる為の準備だった。
 隣は光一の楽屋だ。気になって、扉からそっと覗いた。中には自分の所とは違い、何人もの人間がいる。その中心に座るのは光一だった。
 息を詰めて、彼らのやり取りを聞く。周囲にいるのはチーフマネーシャーを始め、事務所の人間ばかりだった。光一が首を横に振る。
「嫌や。剛と話す事なんか、何もない。行かない」
「今日時間を作るって話した時は、平気だっただろ。何で」
 椅子に座った光一の真正面に跪くと、彼のマネージャーは顔を覗き込んでその手を握る。駄々を捏ねているだけなのに、他の人間も心配そうに見守っていた。
「無理。駄目や。俺を剛と二人にさせないで」
 涙を見せない光一が、泣きそうに顔を歪めて小さく叫ぶ。剛は、その光景を身動き一つせずに見ていた。誰も扉の外に立つ存在には気付かない。
「一度は向き合わなきゃいけない事、分かってただろ」
「……今更、何もない。無駄な時間や」
「じゃあ、直接そうやって言いなさい。剛の為に決めたなんて言って、お前が本人を一番混乱させてる」
 チーフマネージャーが、厳しい声で諭す。言葉を紡げなかった光一は、目許を右手で覆った。
唇を噛み締めて耐える姿は見慣れたものなのに。その対象が自分自身だと知るのは辛かった。
「仕事だと思って、きちんと説明して来い。光一の気持ちは、此処に置いて行けば良い。僕達が持っている。だから、何も怖がらずに行っておいで」
 厳しい口調の中に、抑え切れない優しさがある。彼の周りには、いつも柔らかい感情が溢れていた。それが羨ましくて、自分は自分だけの優しい環境を築こうと思ったのだ。
 良い意味でも悪い意味でも比較されやすい二人だった。他人に比べられるのが嫌で、けれどいつの間にか自分自身が光一との差異を気にしている。
 音を立てないよう楽屋に戻って、マネージャーに呼ばれるのを待った。彼もまた、隣の部屋にいる。
 あんなに取り乱した光一を見るのは久しぶりだった。冷静でいるのが当たり前になって、自分の後ろに隠れていた幼い頃の面影は既にない。
怜悧な瞳は、いつでも真っ直ぐ現実を捉えていた。濁らないあの視線は、弱い自分にとって凶器だ。
 十周年も解散も淡々とこなして行くんだと思っていた。
 健さんもマネージャーも当然のように言う。剛の為、だと。そんな筈はない。二人の為になるからこそ、光一は決断した。キンキと言うしがらみから自由になる為に。
 違うのだろうか。彼らが口にする言葉の意味が見えて来なかった。それは、光一と向き合っていないせいだと思う。
 拒絶を見せた相方に傷付く心が確かにあった。あんな風に嫌がられるなんて思いもしない。どうして。
 此処で思い悩むよりも口にすべきだった。時間は少ない。乗せられたレールが、完璧に彼と離れる前に。
 話をしなければならない。気にする事すら少なくなった光一をちゃんと見詰めてやりたかった。
PR
<<< 夢見る魚2 HOME ごあいさつ >>>
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
最新記事
最新TB
プロフィール
HN:
年齢:
42
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/05/16
職業:
派遣社員
趣味:
剛光
バーコード
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.