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小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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 この世界に入って、もう随分と長い時間が経つ。
 沢山の人と出会って、幾つもの恋をして、様々な交友関係を広げ、色々な別れがあった。
 多分こんな仕事をしているから、他の仕事をしているよりは人に会う機会と言うのは多かったように思う。
 そんな中で、ずっと離れずにいたのはたった一人だった。
 恋人でも友人でも替えは利くけれど、相方の代わりは誰も出来ない。
 堂本光一と言う人間だけが、自分の相方だった。
 その不在を埋める存在はなくて、このまま一生彼の隣を独占するのだろう。
 それを辛いと思う時期もあった。
 離れたいと何度も願って、でも何も言わないまま傍にいてくれた存在にいつも救われて生きて来たのだ。
 光一を愛しいと思う心。
 誰よりも理解していたいと願う独占欲。
 手放したくない、と言う思いだけが今の自分の中にある。
「なあ、光一」
「……ぁ」
「起きてます?」
「起きてる」
 畳の上で大人しく胡坐をかいて雑誌を読んでいる光一は、いつ見ても綺麗だと思った。
 こんなに長く一緒にいるのに、何度も美しいと感じる。
 もう病気なのかも知れなかった。
 恋をしている時に患うのが恋の病なら、治りそうもない相方へのこの病は何と表現すれば良いのだろう。
「なあ」
「何やねん」
「今、ええ人おらんの?」
「ええ人?」
「そ、結婚とか」
「けっ……!!」
「ああ、分かった。了解」
「なっ何を勝手に納得しとんねん!」
「いやあ、その反応はいないって事でしょ。良かったあ」
「何が良かったや」
「やって、先に嫁がれたくないもん」
「嫁ぐんやない!貰うの!!」
「似たようなもんやん」
 笑いながら光一に近付く。
 警戒したみたいに身体を丸めて後ずさった。
 かわええなあ。
 簡単に光一の足を掴んで引き寄せた。
 抵抗を見せる身体は強い筈なのに、自分が触れるだけで簡単に駄目になってしまう。
 あれかな。
 最近彼女が出来ないのってこいつで満足しちゃってるからかな。
 孤独に不自由がないのだ。
「こーおーちゃん」
「何やねん!足掴むな!引っ張るな!わー!」
「往生際悪いなあ」
 あっと言う間に光一の身体を仰向けに倒して、その腰に馬乗りになる。
 遊びの延長のスキンシップ。
 まだ時間はあるし、端の方にいるスタイリストももうすぐいなくなるだろう。
 暇潰し、と言うにはちょっと熱心な遊び。
「涙目になってるで、光ちゃん」
「お前が!いきなりこんなんするからやろ!」
「やって、遊びたくなってんもん」
「お前は子供か」
「うん。お子様やからねえ」
「そんな髭面じゃ説得力あらへん」
「んー、じゃあ正直に言うわ。光一さんを押し倒したくなったの」
「……まだ、子供の方がええ。普通、相方にそんな事せえへん」
 うんざりしたように呟く光一へ笑って見せて、ゆっくりと上半身を屈ませる。
 顔を近付ければ、逃げるみたいに目を瞑った。
 それでも本当には逃げないのが、光一の自分へ向けられた愛情だと知っている。
 触れるだけの幼いキスをすれば、馬乗りになった身体がびくりと揺れた。
 かわええ。
 これが、三十前の男の反応とは思えん。
「……も、良い?」
「嫌」
「つよ」
「光ちゃんやって、俺とキスすんの好きやろ?」
「う……うー。髪セットしてもらったのに、ぐしゃぐしゃになる」
「それなら、寝てなきゃええねんな」
「剛!それ屁理屈!」
「素直じゃない光一さんが悪いんですー」
 光一の上から身体をどかして、今度は反対に自分の膝の上に抱き抱える。
 大人しく腕の中に納まる彼の真意は、もう長い事分からなかった。
 キスを始めたのなんて、昔の事過ぎて今更きっかけも思い出せない。
 唯、恐らくは十年以上こんな過剰なスキンシップが続いていた。
 何ものにも定義出来ない接触は「相方」の距離として消化されている。
 自分達は、友人でも仲間でも恋人でもなかった。
 「相方」として生きて行く為に必要な行為の全ては、身近に例がないから自分達でルールを作るしかないのだ。
「何なの、今日は。甘えたいん?」
「んー、友達が結婚してくん見てるとなあ。寂しくもなるんよ」
「やから、結婚って言うたんか」
 自分達には、とても遠い世界の出来事のようだった。
 「結婚」を決める年齢にはなって来ていると思う。
 現に自分の周りでは結婚をする友人や子供の産まれた家庭があった。
 それでも、遠い現実だ。
 自分には彼女もいないし、年々結婚願望自体が減って来ていた。
「光ちゃんは結婚したい?」
「結婚言うてもなあ。何かあんま想像出来ん」
「彼女は?」
「おらん」
「そっか」
「嬉しそうな顔すんな、阿呆」
 抱き締めた光一を至近距離で見詰めると、嫌そうに視線を逸らされる。
 彼女がいない事を馬鹿にされたのだと思ったのだろう。
 その感情の流れが可愛くて、触れるだけのキスを与えた。
「独り身でええやん」
「剛は?けっこ……っううん。何でもない!」
 言い掛けて飲み込んだ言葉の先を知っている。
 言えなかった理由も、ちゃんと分かっていた。
 言葉を失った光一は、肩口に顔を埋めてぎゅっと抱き着いて来る。
「こぉちゃん。もう、時効やで」
「ええの。剛がいつ結婚してもええ。ちゃんと祝えるから」
「光一」
 随分昔、まだ彼女がいた頃。
 どうしてもこの世界に馴染めなくて荒んでいた時期だった。
 自分と、そして彼女の事を心配して声を掛けた光一を酷くなじった事がある。
 それ以来、光一は決して自分の恋愛に口を挟まなくなった。
「……ごめ」
「俺が結婚しようなんてちょっとでも思ったら、絶対に一番に報告するから」
「いらん」
「何で」
「……嫌、やから」
 抱き着いた光一から零される言葉は、まるで子供だった。
 自分達は相方としての距離をきっと間違えているから、何が正しいのか分からない。
 嫌だと言う光一を愛しいと思う感情すら正しくないものだと思うのに。
「光一」
「いや」
「顔、上げて」
「いや」
「光ちゃん。怖い事、せえへんよ」
 ゆっくりと離れた光一の瞳の焦点が合うのを待った。
 彼が怖がらないようにゆっくりと笑ってみせる。
 背中をしっかりと抱いて、もう一度馴染んだ唇を合わせた。
 このキスは、決して深くならない。
 唯優しさがあるばかりだった。
 何度も啄ばめば、安心したように身体の力を抜く。
「お前は、怖いもんばっかやなあ」
「……つよし」
「悪い事じゃないよ。俺の前で素直なのはええ事や」
「俺、」
「うん、ええよ。お前は強くないんやから。……でも、俺とのキスは怖がらへんな」
「……何で?怖くないよ?」
「ふふ、こーちゃん素直やなあ。怖い事してみたくなるわ」
「?剛やったら、何も怖い事ない」
 きょとんとした顔で零される言葉に、絆されそうになる。
 うっかり手を出すってこんな感じなのかな。
 まあ、光一の事は物凄く大事だから迂闊に過ちを犯す気など勿論ないのだけれど。
「ほんまに?俺やったら何でもええの?」
「うん。……え、違うん?俺おかしい?」
「おかしくないよ。嬉しいなあって思っただけ」
 距離感を間違えたと自覚があるのは、自分だけらしい。
 光一は、今でも真っ直ぐに自分を愛してくれていた。
 何も迷わずに、怖がりな彼が手を伸ばして守ろうとする。
「光ちゃん」
「ん?」
「大好きやよ」
「うん」
 綺麗に笑った光一の表情をきちんと見詰めて、また飽きる事のない口付けをした。
 彼の存在は「相方」としてしか表現出来ないけど、もしかしたら「相方」が今の自分の全てなのかも知れないとひっそり思う。
 乾いた唇が自分の口付けで潤むのを感じて、キスの合間に笑った。
 人並みの幸福なんてもう得られないのかも知れないけれど、自分には光一と言う宝物がある。
 それって、人並み以上に幸せなんじゃないかと彼を抱き締めながら感じた。
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