小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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「生まれ変わったら、また出会えるとええね」
剛の夢見がちな台詞を怖がらなくなったのは、いつからだろう。その瞳に俺が映っていない気がして、もっときらきらした何かを見詰めている気がして、いつも怖かった。
そのきらきらはきっと、剛が描いた『堂本光一』の理想像だろうから。
今は怖がらずに、うっとりと細められた瞳を見詰め返す事が出来る。ベッドで腕枕をされたまま、間近にある彼の肌に触れた。
男の身体だった。それに抱かれて安心する自分を、否定する事すらもうしない。けれど、出来る事ならばと思う自分もいた。
「そーやなあ。また会ってもええけど、そん時はどっちかが女やとええね。そしたら幸せやんなあ」
どうせ、何度巡り会っても恋に落ちる運命なのだ。それならば、今度生まれ変わる時は、幸せになりたい。彼を、幸せにしてやりたい。どちらかが女だったら、この恋は正しい物だったのに。
胸に当てた掌から体温が伝わる。彼の温度すら正確に記憶しているこの恋を、否定される事は辛かった。
少しだけ黙り込んだ剛が、困った顔をして手を伸ばす。柔らかい仕草で髪を撫でられた。甘える様に、身体を剛に近付ける。
そうすれば、当たり前みたいに抱き締められた。素肌が触れ合う感触すら馴染んだ物だ。安堵の溜息を零す。
「光ちゃんは、幸せになりたかった?」
腕の中から見上げれば、甘い声の響きとは裏腹な寂しい瞳。深く淀んだ沈黙の黒。彼を悲しませてしまったのかと、反射的に後悔する。
剛の胸に額を寄せて、目を閉じた。自分の何処が痛んでも構わないけれど、彼が悲しいのは嫌だ。
「ちゃうけど、でも……」
「でも?」
言葉の続きを促そうとする指先が、俯いた俺の項を辿る。そのまま素肌を覆う様に、シーツで優しく包まれた。あやす仕草。甘やかす指先。
そっと耳朶に口付けられて、仕方なく口を開いた。掠れた声は、小さく震えている。心の奥にある、怯えた自分だった。
「俺かお前が女やったら、お前は苦しい気持ち抱えんで済んだ」
「……そうやね」
剛は否定しない。苦しんだ彼が過ごした十代を、お互い知り過ぎていた。呼吸を止めそうな位傷付いて泣いて、それでもやめなかった恋。
過ちなのも間違いなのも分かっていて、今もまだ一緒にいる。何もかも自分達が選んだ生き方だった。
「もう後悔なんてしてへんし、今更離れたいなんて言わん。でも、今度があるんなら……」
包まれた腕に縋る。俺達は、何度でも恋をする。輪廻も運命も、本当は信じていないけれど、此処に在る気持ちは本物だ。
否定して逃げ回って、そうして諦めた。この恋は、理性や意志なんかでは消せない。
宿命だった。
「ホントは、お前を幸せにしてやりたい。楽に生きて欲しい」
元々ストレスを抱えやすい繊細な人だった。秘めた恋を心臓で飼うには弱過ぎる。どれ程強く抱き締めても、彼の痛みは変わらなかった。泣き濡れた顔を今でも鮮明に覚えている。
もっと、簡単に生きる方法は幾らでもあった。出会わなければ、剛はこんな崩れそうな笑い方をしなかったと思う。
鼓動の音。彼が生きている証。こうして、傍にいて確かめられる時しか安心出来なかった。別の場所で生きている時、もうこの体温はないのではないかと不安になる。二度と抱き締められないのではないかと、心臓の片隅がいつも凍えていた。
縋った腕を優しく解かれて、そっと指先を絡められる。穏やかな動作だった。
「……俺は、生まれ変わっても男でええよ。幸せやなくても、上手く息出来んくても、お前に会えるならええ。堂本光一が、また一緒に歩いてくれるんなら、俺は良い」
深く笑みを刻んだ気配。その心臓は規則正しいリズムだった。真っ直ぐな言葉が、胸を灼く。
「幸せやなくても良いって、……そんなん」
「あかんか?」
「剛には、幸せになって欲しい」
「俺は、光一を幸せにする気なんてあらへんよ」
それでもええの?問うた声は、暗く淀んでいた。彼の中にある光の届かない暗い場所からの言葉。
未だ一緒に堕ちる事の出来ない、不可侵領域だった。
「俺は、お前が一生罪悪感抱えたまんまやったらええのに、って思う。幸せなんかやなくて、ずっとずっと俺ん事で苦しんでて欲しい。……こんな俺を幸せにしたいなんて、言うな。俺は出来ん」
きつく掻き抱かれて、息が詰まった。乱れた呼吸は、彼の心そのままだ。雁字搦めに縛り付けて、死ぬまで離さないなんて、呪縛の言葉じゃない。
それは、愛の告白だ。
「生まれ変わっても、俺が男でも、また好きになってくれるん?」
「ぉん。何度やって、好きになる」
「……なら、俺らは何度でも一緒になってええんやね?」
「そうや」
力強い肯定と、深い口付けを与えられた。祈りのキスは優しくない。感情の深さを示す乱暴な行為だった。
俺らは、幸福な星の元には生かされていないらしい。何度でも傷付いて、それでも離れる事は出来ないんだろう。
「……つよし」
「ん?」
「好き、や」
「俺らの行く先が何処でも、絶対手放さん」
「死ぬまで、一緒?」
「死んでも一緒や」
嗚呼、やはり彼を幸福にしてやりたい。何処に行けば、俺達はこの痛みを無くす事が出来るのだろう。
優しく眠れる夜なんて、何処にもなかった。
剛の夢見がちな台詞を怖がらなくなったのは、いつからだろう。その瞳に俺が映っていない気がして、もっときらきらした何かを見詰めている気がして、いつも怖かった。
そのきらきらはきっと、剛が描いた『堂本光一』の理想像だろうから。
今は怖がらずに、うっとりと細められた瞳を見詰め返す事が出来る。ベッドで腕枕をされたまま、間近にある彼の肌に触れた。
男の身体だった。それに抱かれて安心する自分を、否定する事すらもうしない。けれど、出来る事ならばと思う自分もいた。
「そーやなあ。また会ってもええけど、そん時はどっちかが女やとええね。そしたら幸せやんなあ」
どうせ、何度巡り会っても恋に落ちる運命なのだ。それならば、今度生まれ変わる時は、幸せになりたい。彼を、幸せにしてやりたい。どちらかが女だったら、この恋は正しい物だったのに。
胸に当てた掌から体温が伝わる。彼の温度すら正確に記憶しているこの恋を、否定される事は辛かった。
少しだけ黙り込んだ剛が、困った顔をして手を伸ばす。柔らかい仕草で髪を撫でられた。甘える様に、身体を剛に近付ける。
そうすれば、当たり前みたいに抱き締められた。素肌が触れ合う感触すら馴染んだ物だ。安堵の溜息を零す。
「光ちゃんは、幸せになりたかった?」
腕の中から見上げれば、甘い声の響きとは裏腹な寂しい瞳。深く淀んだ沈黙の黒。彼を悲しませてしまったのかと、反射的に後悔する。
剛の胸に額を寄せて、目を閉じた。自分の何処が痛んでも構わないけれど、彼が悲しいのは嫌だ。
「ちゃうけど、でも……」
「でも?」
言葉の続きを促そうとする指先が、俯いた俺の項を辿る。そのまま素肌を覆う様に、シーツで優しく包まれた。あやす仕草。甘やかす指先。
そっと耳朶に口付けられて、仕方なく口を開いた。掠れた声は、小さく震えている。心の奥にある、怯えた自分だった。
「俺かお前が女やったら、お前は苦しい気持ち抱えんで済んだ」
「……そうやね」
剛は否定しない。苦しんだ彼が過ごした十代を、お互い知り過ぎていた。呼吸を止めそうな位傷付いて泣いて、それでもやめなかった恋。
過ちなのも間違いなのも分かっていて、今もまだ一緒にいる。何もかも自分達が選んだ生き方だった。
「もう後悔なんてしてへんし、今更離れたいなんて言わん。でも、今度があるんなら……」
包まれた腕に縋る。俺達は、何度でも恋をする。輪廻も運命も、本当は信じていないけれど、此処に在る気持ちは本物だ。
否定して逃げ回って、そうして諦めた。この恋は、理性や意志なんかでは消せない。
宿命だった。
「ホントは、お前を幸せにしてやりたい。楽に生きて欲しい」
元々ストレスを抱えやすい繊細な人だった。秘めた恋を心臓で飼うには弱過ぎる。どれ程強く抱き締めても、彼の痛みは変わらなかった。泣き濡れた顔を今でも鮮明に覚えている。
もっと、簡単に生きる方法は幾らでもあった。出会わなければ、剛はこんな崩れそうな笑い方をしなかったと思う。
鼓動の音。彼が生きている証。こうして、傍にいて確かめられる時しか安心出来なかった。別の場所で生きている時、もうこの体温はないのではないかと不安になる。二度と抱き締められないのではないかと、心臓の片隅がいつも凍えていた。
縋った腕を優しく解かれて、そっと指先を絡められる。穏やかな動作だった。
「……俺は、生まれ変わっても男でええよ。幸せやなくても、上手く息出来んくても、お前に会えるならええ。堂本光一が、また一緒に歩いてくれるんなら、俺は良い」
深く笑みを刻んだ気配。その心臓は規則正しいリズムだった。真っ直ぐな言葉が、胸を灼く。
「幸せやなくても良いって、……そんなん」
「あかんか?」
「剛には、幸せになって欲しい」
「俺は、光一を幸せにする気なんてあらへんよ」
それでもええの?問うた声は、暗く淀んでいた。彼の中にある光の届かない暗い場所からの言葉。
未だ一緒に堕ちる事の出来ない、不可侵領域だった。
「俺は、お前が一生罪悪感抱えたまんまやったらええのに、って思う。幸せなんかやなくて、ずっとずっと俺ん事で苦しんでて欲しい。……こんな俺を幸せにしたいなんて、言うな。俺は出来ん」
きつく掻き抱かれて、息が詰まった。乱れた呼吸は、彼の心そのままだ。雁字搦めに縛り付けて、死ぬまで離さないなんて、呪縛の言葉じゃない。
それは、愛の告白だ。
「生まれ変わっても、俺が男でも、また好きになってくれるん?」
「ぉん。何度やって、好きになる」
「……なら、俺らは何度でも一緒になってええんやね?」
「そうや」
力強い肯定と、深い口付けを与えられた。祈りのキスは優しくない。感情の深さを示す乱暴な行為だった。
俺らは、幸福な星の元には生かされていないらしい。何度でも傷付いて、それでも離れる事は出来ないんだろう。
「……つよし」
「ん?」
「好き、や」
「俺らの行く先が何処でも、絶対手放さん」
「死ぬまで、一緒?」
「死んでも一緒や」
嗚呼、やはり彼を幸福にしてやりたい。何処に行けば、俺達はこの痛みを無くす事が出来るのだろう。
優しく眠れる夜なんて、何処にもなかった。
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