小説の再編集とか、資料とか、必要な諸々を置いておくブログ
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なあ、剛。俺、思うんよ。
毎日仕事して、帰ってご飯食べて眠って、時々お酒を飲んで。永遠に続きそうな日々の積み重ねをたった一人で繰り返して行く事はとても簡単なのに。どうして、その毎日に剛が必要なんだろうって。
勿論仕事をする上で、「相方」として単純に必要だとは思う。けれど、呼吸をする為に生き続ける為に、自分には剛が必要だった。その意味を、お前は知っているだろうか。
+++++
日付が十日に変わった深夜、光一はこっそり恋人の家に忍び込んだ。侵入者に気付いたケンシロウが近付いて来たけれど、心得ているとばかりに鳴く事はない。足元に擦り寄って来る柔らかい毛並を撫でると、真っ直ぐ寝室に向かった。
連絡はしていない。きっと来る事は分かっているだろうし、せっかくの誕生日に気を遣わせたくなかった。
静かに扉を開けて寝室に滑り込む。家で風呂には入って来たし現場で夕食も摂ったから、後はもう寝るだけだった。
いつでも少しだけ空いているスペースに(剛は右側を、自分は左側を空けて眠るらしい。全く厄介なものだ)潜り込む。剛の体温で温まった布団の中は心地良かった。冷えてしまった身体を擦り寄せる。
闇に慣れた目で剛の寝顔を見詰めた。子供の様に無心なその表情は幸せな、とまではいかないが安心して眠れている様だ。
顔に掛かった前髪を冷たい指先で掬い上げた。剛が此処に在る奇跡に感謝する儀式。誕生日の夜にひっそり行う様は、さながら敬虔なクリスチャンだ。
彼がその生に感謝出来ないと言うのなら、自分がその分もその何倍も喜んでやろうと思った。堂本剛と言う存在がこの世に生を受け、今日まで自分の隣で生きて来たこの事実。離れずに離さずに縋り付いて来た自分の我執は胸の奥に仕舞い込んで。
二十六歳になった彼は、昨日と何も変わらない。二十五歳の最後に交わした言葉はいつも通り「お疲れ」だった。日付を境に何かが変わるなんて期待するのは、寧ろ剛の方だ。
それでも一つ年を重ねた恋人が、もっとずっと愛しいと思う。彼への思いは、日々を生きる中で呼吸をする事と同義だった。
この思いがなければ生きて行けない。否、生きては行けるだろうけど、それは文字通り「生きる」だけだった。
剛を愛し続ける事。虚構だらけのこの世界で、たった一つの真実だった。彼が好きだと思う。凄く。
目を閉じて、祈る。その生が自分と共に在る様に。剛が早く、自分の生を愛せる様に。
大好きだと、簡単には告げられない自分だけど。いつもいつも、心から思っていた。
愛してる。愛してる。愛してる。
心拍の度に、呼吸の度に、ずっと。唯ひたすら。俺にはそれしか出来ないから。剛を彼自身の闇から救い出す術は今でも分からなかった。
いつの間にか彼の中に巣食っていた黒い塊に、自分の事ばかりで精一杯だった俺は気付かなかった。知った時にはもう、手遅れで。それは既に彼の一部と化してしまったのだ。十代の剛は、ずっと闇の中で生きていた。
俺が泣いても叫んでも必死で腕を伸ばしても届かない。深い心の底は、見通せなかった。剛の声は返って来ない。
あれから幾度の春秋を経て、いつの間にか彼は自分の隣に帰って来ていた。本当に、ひょっこりと。何でもない顔で「ごめんな」なんて笑いながら。
二十歳を過ぎてから少しの間は、平穏な日々が続いた。剛は良く笑ったし、手を伸ばせばしっかりと握り返してくれる。ささやかで幸福な日常が自分のものだと錯覚しかけた頃。
剛の闇は呆気なく彼を連れ戻してしまった。どちらかと言えば、心の奥底に押し込んでいた塊が再浮上してしまった素振りで。まるで躁鬱の様に、彼は喜怒哀楽が激しくなった。十代の頃の後悔を繰り返さない為に、それはもう必死になって剛を引き留めた。
抜け出せない心地良い闇と、目の眩む一条の光と。今も剛は両極の世界を彷徨っている。
眠る彼の表情は穏やかだ。せめて今日位、光の中で生きて欲しかった。ささやかで我儘な願いが叶えられると良い。
瞼にキスをして、最後の祈りを捧げた。
剛が、好きです。だから神様、どうか。剛の隣を俺に下さい。彼が欲しいだなんて、もう言いません。
その心を狂った様に欲した自分も未だ心の深い所にいるのだけれど。剛の幸せを願いながら、身勝手な祈りを捧げる自分は誰よりも罪深い。
死んだ後、地獄に行ったって構わないから、だから。せめて、この地上では共に生かして下さい。
心拍の度に、呼吸の度に、瞬きの瞬間にすら、愛を囁いて。こんなにも剛を必要としている人間は、この世で唯一人自分だけだと思う。
なあ、剛。朝目覚めたら誰よりも先に俺をその瞳に映して。世界中で一番初めに俺を見詰めて。俺に気付いて。
そうしたら「おめでとう」って笑うから。何の事か分からないなんて表情を見せる貴方にキスをして。祝う意味を知って。
二十四時間祝い続ける事なんて自分には出来ないから、朝の一時だけ貴方の為に祈らせて欲しい。そしたらもう、次の瞬間にはいつも通り「おはよう」って言うよ。
いつか剛が気付くまで、ずっと。その生を祝福し続けるよ。
剛を取り巻く全てに。
おめでとう。
毎日仕事して、帰ってご飯食べて眠って、時々お酒を飲んで。永遠に続きそうな日々の積み重ねをたった一人で繰り返して行く事はとても簡単なのに。どうして、その毎日に剛が必要なんだろうって。
勿論仕事をする上で、「相方」として単純に必要だとは思う。けれど、呼吸をする為に生き続ける為に、自分には剛が必要だった。その意味を、お前は知っているだろうか。
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日付が十日に変わった深夜、光一はこっそり恋人の家に忍び込んだ。侵入者に気付いたケンシロウが近付いて来たけれど、心得ているとばかりに鳴く事はない。足元に擦り寄って来る柔らかい毛並を撫でると、真っ直ぐ寝室に向かった。
連絡はしていない。きっと来る事は分かっているだろうし、せっかくの誕生日に気を遣わせたくなかった。
静かに扉を開けて寝室に滑り込む。家で風呂には入って来たし現場で夕食も摂ったから、後はもう寝るだけだった。
いつでも少しだけ空いているスペースに(剛は右側を、自分は左側を空けて眠るらしい。全く厄介なものだ)潜り込む。剛の体温で温まった布団の中は心地良かった。冷えてしまった身体を擦り寄せる。
闇に慣れた目で剛の寝顔を見詰めた。子供の様に無心なその表情は幸せな、とまではいかないが安心して眠れている様だ。
顔に掛かった前髪を冷たい指先で掬い上げた。剛が此処に在る奇跡に感謝する儀式。誕生日の夜にひっそり行う様は、さながら敬虔なクリスチャンだ。
彼がその生に感謝出来ないと言うのなら、自分がその分もその何倍も喜んでやろうと思った。堂本剛と言う存在がこの世に生を受け、今日まで自分の隣で生きて来たこの事実。離れずに離さずに縋り付いて来た自分の我執は胸の奥に仕舞い込んで。
二十六歳になった彼は、昨日と何も変わらない。二十五歳の最後に交わした言葉はいつも通り「お疲れ」だった。日付を境に何かが変わるなんて期待するのは、寧ろ剛の方だ。
それでも一つ年を重ねた恋人が、もっとずっと愛しいと思う。彼への思いは、日々を生きる中で呼吸をする事と同義だった。
この思いがなければ生きて行けない。否、生きては行けるだろうけど、それは文字通り「生きる」だけだった。
剛を愛し続ける事。虚構だらけのこの世界で、たった一つの真実だった。彼が好きだと思う。凄く。
目を閉じて、祈る。その生が自分と共に在る様に。剛が早く、自分の生を愛せる様に。
大好きだと、簡単には告げられない自分だけど。いつもいつも、心から思っていた。
愛してる。愛してる。愛してる。
心拍の度に、呼吸の度に、ずっと。唯ひたすら。俺にはそれしか出来ないから。剛を彼自身の闇から救い出す術は今でも分からなかった。
いつの間にか彼の中に巣食っていた黒い塊に、自分の事ばかりで精一杯だった俺は気付かなかった。知った時にはもう、手遅れで。それは既に彼の一部と化してしまったのだ。十代の剛は、ずっと闇の中で生きていた。
俺が泣いても叫んでも必死で腕を伸ばしても届かない。深い心の底は、見通せなかった。剛の声は返って来ない。
あれから幾度の春秋を経て、いつの間にか彼は自分の隣に帰って来ていた。本当に、ひょっこりと。何でもない顔で「ごめんな」なんて笑いながら。
二十歳を過ぎてから少しの間は、平穏な日々が続いた。剛は良く笑ったし、手を伸ばせばしっかりと握り返してくれる。ささやかで幸福な日常が自分のものだと錯覚しかけた頃。
剛の闇は呆気なく彼を連れ戻してしまった。どちらかと言えば、心の奥底に押し込んでいた塊が再浮上してしまった素振りで。まるで躁鬱の様に、彼は喜怒哀楽が激しくなった。十代の頃の後悔を繰り返さない為に、それはもう必死になって剛を引き留めた。
抜け出せない心地良い闇と、目の眩む一条の光と。今も剛は両極の世界を彷徨っている。
眠る彼の表情は穏やかだ。せめて今日位、光の中で生きて欲しかった。ささやかで我儘な願いが叶えられると良い。
瞼にキスをして、最後の祈りを捧げた。
剛が、好きです。だから神様、どうか。剛の隣を俺に下さい。彼が欲しいだなんて、もう言いません。
その心を狂った様に欲した自分も未だ心の深い所にいるのだけれど。剛の幸せを願いながら、身勝手な祈りを捧げる自分は誰よりも罪深い。
死んだ後、地獄に行ったって構わないから、だから。せめて、この地上では共に生かして下さい。
心拍の度に、呼吸の度に、瞬きの瞬間にすら、愛を囁いて。こんなにも剛を必要としている人間は、この世で唯一人自分だけだと思う。
なあ、剛。朝目覚めたら誰よりも先に俺をその瞳に映して。世界中で一番初めに俺を見詰めて。俺に気付いて。
そうしたら「おめでとう」って笑うから。何の事か分からないなんて表情を見せる貴方にキスをして。祝う意味を知って。
二十四時間祝い続ける事なんて自分には出来ないから、朝の一時だけ貴方の為に祈らせて欲しい。そしたらもう、次の瞬間にはいつも通り「おはよう」って言うよ。
いつか剛が気付くまで、ずっと。その生を祝福し続けるよ。
剛を取り巻く全てに。
おめでとう。
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